この夜が終われば世界に平和が戻る。

でも…全て終わってしまえば俺は君を………

 

“マタアイマショウ”

 


「ヒースさん…長かったですね」
「ああ」
「エルバート様の行方を探す旅から古の竜なんて、
 兄様を探しに出た時には想像も出来ませんでした。」
「ああ…俺もそうだったよ」
「…それだけでなく、大賢者のアトス様や
 御親友でありながら間違った道に行ってしまった方や、
 黒い牙の方々との戦いや人ならぬもの・モルフ
 …何もかもウソのようでとても信じられないことばかりでしたね」

 これが夢と言ってもおかしくないですね、と言葉を
必死にやわらかく伝えようとする姿を俺は目に焼き付ける。
今日の君はいつもと同じのように見えながらどこか饒舌だった。

 誰からか全てを知ったヘクトル様の計らいから俺達は背中合わせに戦い続けた、それすら遠い昔のように思えた。

 ふと上を見上げると空がうっすらと明るくなっていく。
「夜が…明けるな」
 言わなければ、伝えなければ、朝日が昇るその時までに。

 でも、俺は………言いたくない。

「なぁ、プリシラさん………」
はい、といつもよりも小さく感じる声。

俺は君の側に居たい。

そう言えればいいのに。

どの小さな手を掴んで連れ去ってしまえるぐらい我が儘になれたらいいのに。

情けない俺が言えることはただひとつ。

「そろそろ…行かないと」
顔を見たら言えなくなるから遠い故郷を見ながら言った。
腹が立つほど美しい朝焼けを見ながら。

 返事の無い言葉が俺を苦しくする。どんな言葉でも苦しいの変わらないのに。重く苦しい空気を断ち切るように立ち上がった時だった。

「ヒースさんっ…いや、いやです………」


 声を振り絞るように耐えながらも零れ落ちる涙する姿を見て俺は何も考えずに君の手を握る。

「今だけは、許してくれ」

 誰に言ったのかと聞かれればきっと見えない“隔たり”へ。これが今の俺に出来る精一杯のこと。
 きっと忘れられないだろう、年を取っても君が俺を忘れても君のこと………ずっと。
 願わくば生まれ変わったら…いや、この生命が尽きた時にこの魂が君と君の笑顔を守れるように。

「また…会おう、プリシラさん………迎えに行くよ」
 それは果たせないと決めてしまった約束。

 これは、俺なりの別れの言葉。「また会おう」なんて言いながら皆、約束を果たさず俺を置いて散って行った。
 でも、この言葉を口にした皆…どんな最期を迎えてもその気持ちに嘘偽りは無かったことは分かっているから。
 ただ一人だけ生かされたと思ってた。騎士にも戻れず傭兵にもなれない中途半端な自分にどうしたらいいか分からなかった時、君に出会った。
「また…会いましょう………ヒースさん………」
 君は泣き腫らしながらまっすぐな瞳で呟く。

 ハイペリオンに乗り、目指すは追われた故郷ベルン。

 地上が遠くなる。

 共に戦った仲間達の姿が幾つか…そして中には彼女の姿も。

「プリシラ!」

 叫んだこの声すら朝焼けの空に溶けていく。


 ハイペリオンが鳴く、俺の叫びのような
 真っ直ぐな鳴き声が朝焼けの世界に響いた………




シューターが体を貫く。

血が舞い散ると同時にハイペリオンが呻くような声を上げて
地面に落ちようとした時、あの日のような空が視界に浮かぶ。

プリシラさん……

どうか、この魂だけでも君の元へ……

そして、彼女を護り給え……。


“fin”


あとがき

これが最初で最後です、ヒープリ悲恋&死亡オチは。
このイメージは曲名から取ってSEAMO(シーモ)の「マタアイマショウ」です。
一度聞いてみてください。