このまま私を連れ去って。 どこか遠くに行きましょう。 目が覚めると、隣にヒースさんがいて私を見ていました。 天幕の中はまだ暗く、夜が明けていないことがわかります。 彼はどうしたの、と尋ねてきました。 そのまま彼は、優しく髪を梳いてくれました。 幼い頃、母がそうしてくれたように。何度も。 目を閉じて、頭皮に触れる硬い指の感触をかみしめながら、 この夜が永遠に続けばいいのに、と思いました。 いつまでそうしていたでしょうか。 ふいにヒースさんの指が離れました。 私は目を開けて彼を見ました。 ヒースさんは泣いていました。 どうして泣いているのですか、と私が問うと 彼は流れる涙を拭こうともせず、私の目をじっと見て このままあなたを連れ去ってしまえたらどんなにいいだろう、と言いました。 ならば連れて行って、と言えたら。 彼は私を連れ去ってくれるでしょうか。 段々と外が明るくなってきました。 もうすぐ夜が明けます。 このまま私を連れ去って。 どこか遠くに行きましょう。 そこに小さな家を建てて、二人で暮らしましょう。 私が貴族でなかったら、 あなたがベルンの逃亡兵でなかったら、 こんな未来が待っていたのかしら。