| TUREZURE 96 (視界0の世界)
世の中にはそれを仕事にしている人がいる。ただし、スキューバダイビングの インストラクターとか水中専門のカメラマンとか、ではない。 とある法治国家のとある治安組織のとある隊にはそういう人たちがいる。 なにをする人たちか?例えばあなたのご家族が(おばあちゃんとかね)行方不明に なったとする。あなたは、治安組織に捜索依頼を出す。昨日の夜からどこを探しても いないんです、と。すると、治安組織はおばあちゃんを探してくれるだろう。 人から恨まれるようなおばあちゃんではない。 失礼ながらあなたの家は、誘拐犯がターゲットにする家でもない。 該当するような身元不明の被害者がいる事件もない。おばあちゃんはどこだ? 治安組織は神社の森を探す。近くの溝や河原も探す。そして小さな溜池を見つけた時 その隊の人たちが動き出す。ひょっとしたら沈んでいるかもしれないおばあちゃんを 潜って探すために。 彼らはプロである。公務には絶対、である。たとえ真冬でも、彼らは溜池に潜って くれることだろう。おばあちゃんを探してくれることだろう。 そんな彼らとの会話。
「視界が悪いところで潜るのってたいへんでしょう?」 隊員(以下 た ) 「そりゃそうだよ。でも、見えないから潜れって言われるんだよぉ。見えたら潜る必要が ないもん。」 (あ)「そうかぁ。見えないから潜るんだよね、うんうん。冬なんて寒いでしょ」 (た)「寒いなんてもんじゃないよっ。最近はウェットスーツが良くなったからマシだけど。」 「少ししか潜っていられなかった、昔はね。それでも、探さないといけないんだ。」 (あ)「恐くないですか?視界0な訳でしょ。手探りで探すの?」 (た)「うん、手探り。足も使うけど。(笑い)」 「不思議なことに足がなにかに当たってもそんなにびっくりしないんだけど、さ、 手になにかが当たると、びくっとしちゃうんだよなぁ。体が引いちゃうんだよぉ。」 「俺さ、一回ボラに死ぬほど驚いたことがある。ボラってさ、ちょうど人の腕の太さ なんだよね。知ってる?ボラ。てっきり腕を見つけたと思って掴んだら、動いた。 そん時の恐さっちゅうか、驚きはすごかった。俺、心臓止まるかと思ったもん。 腕だと思って掴んだらさ、ぶわーっとボラが俺の顔のほうに向かって来たんだ。 視界0だから顔のまん前までなんだか分からないのよ。あれ、本当に恐かった。」 (あ)「うひっひっひっ びびったんだ。おかし〜〜〜い!」 (た)「笑い事じゃねぇよ。ナイフ持ってる犯人の方がよっぽどマシだよ、ボラより。」 (た)「そうそう、この間は俺も笑った。AとSと一緒に潜ってたんだ。うん、沼。 そうしたら、Aの奴が顔色変えて上がってきた。今、なにか触りましたっ!って。 すぐSも上がってきて言うんだ。俺の手に人の手が当たりましたっ!って。 AとSはさぁ、お互いの手に触りあって、びびって上がってきたんだよ。ひひっ。」 (あ)「当事者じゃないと笑うんだ。冷たいねぇ。」 (た)「当たり前だよ。二人とも相当びびってんだもん。新人だから、さ、二人は。 ワナワナ体を震わせて報告しているんだけど、二人がおんなじこと言ってんの。」 (あ)「でも、分かるよね、なんか、その恐さ。なんてたって視界0なんだもん。そいで 多分死体があると思って潜ってんだもん。手に触ったら、死体だと思うよね。」 (た)「うん、思う。冷たい水の中で、なんにも見えなくて、死体探しているんだもんなぁ。」 (あ)「結構大変な仕事だよねぇ。ちょっと見直しちゃった。偉いねぇ、仕事だとはいえ。 で、本当に死体に当たったらどうすんの?」 (た)「あ、俺さ、どういう訳か一度も当たったことない。非番の時とか、違う所に応援に 行ってる時に限って、出てる。俺、運が良いのかな?」 (あ)「どうだろ?仕事的には運が悪いと思うよ。やっぱさぁ、探す以上当たった方が 良いんじゃないの。うん。」 (た)「そっかなぁ。死体なんだけどなぁ。当たった方が運が良いのかなぁ。ボラだけじゃ まずいかなぁ?」 *******************************************************************
いろんな話を聞けるこの商売も悪くないと思った一夜であった。
話を聞いた彼は一度も綺麗な海や湖に潜ったことはないって。これがすごい、と思う。 |