万葉集 巻第4

#[番号]04/0484
#[題詞]相聞 / 難波天皇妹奉上在山跡皇兄御歌一首
#[原文]一日社 人母待<吉> 長氣乎 如此<耳>待者 有不得勝
#[訓読]一日こそ人も待ちよき長き日をかくのみ待たば有りかつましじ
#[仮名],ひとひこそ,ひともまちよき,ながきけを,かくのみまたば,ありかつましじ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 告 -> 吉 [元][紀][細] / 所 -> 耳 [玉の小琴]
#[鄣W],相聞,作者:難波天皇妹,仁徳,孝徳,間人皇女,中大兄,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]一日ぐらいならば人を待つのもよい(待つことも出来る)。しかし長居日をこのように待つのならば生きてはいられないほどだ
#{語釈]
難波天皇妹、山跡に在(いま)す皇兄に奉上(たてま)つる御歌一首
難波天皇妹 仁徳天皇の妹  八田皇女

#[説明]
孝徳天皇という見方もあるが、仁徳天皇に仮託された伝承歌

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#[番号]04/0485
#[題詞]<崗>本天皇御製一首[并短歌]
#[原文]神代従 生継来者 人多 國尓波満而 味村乃 去来者行跡 吾戀流 君尓之不有者 晝波 日乃久流留麻弖 夜者 夜之明流寸食 念乍 寐宿難尓登 阿可思通良久茂 長此夜乎
#[訓読]神代より 生れ継ぎ来れば 人さはに 国には満ちて あぢ群の 通ひは行けど 我が恋ふる 君にしあらねば 昼は 日の暮るるまで 夜は 夜の明くる極み 思ひつつ 寐も寝かてにと 明かしつらくも 長きこの夜を
#[仮名],かむよより,あれつぎくれば,ひとさはに,くににはみちて,あぢむらの,かよひはゆけど,あがこふる,きみにしあらねば,ひるは,ひのくるるまで,よるは,よのあくるきはみ,おもひつつ,いもねかてにと,あかしつらくも,ながきこのよを
#[左注](右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 岳 -> 崗 [元][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,女歌,挽歌発想,枕詞
#[訓異]
#[大意]神代の昔から代々生まれ継いで来たので、人は国に大勢いて、あじ鴨の群れのように行き通いしているが、自分が恋い思うあなたではないので、昼は日の暮れるまで、夜は夜の明けるまで恋い思い続けて安眠も出来ないで明かしてしまっていることだ。長いこの夜を

#{語釈]
崗本天皇  舒明天皇を指す

#[説明]
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#[番号]04/0486
#[題詞](<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌
#[原文]山羽尓 味村驂 去奈礼騰 吾者左夫思恵 君二四不<在>者
#[訓読]山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば
#[仮名],やまのはに,あぢむらさわき,ゆくなれど,われはさぶしゑ,きみにしあらねば
#[左注](右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 存 -> 在 [西(右書)][元][類]
#[鄣W],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,挽歌発想
#[訓異]
#[大意]山の峰にあじ鴨の群れが騒いで行くようであるが、自分はさびしいことだ。あなたではないので
#{語釈]
ぶしゑ  間投助詞 詠嘆

#[説明]
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#[番号]04/0487
#[題詞]((<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌)
#[原文]淡海路乃 鳥篭之山有 不知哉川 氣乃己呂其侶波 戀乍裳将有
#[訓読]近江道の鳥篭の山なる不知哉川日のころごろは恋ひつつもあらむ
#[仮名],あふみちの,とこのやまなる,いさやかは,けのころごろは,こひつつもあらむ
#[左注]右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指
#[校異]岳 -> 崗 [元][古][紀] / 岳 -> 崗 [西(右書)][元][類][古][紀] / 岳 -> 崗 [西(右書)][元][類][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]近江道の鳥篭の山にある不知哉川ではないが、先のことはいざ知らず、とにかく恋い続けていながらいよう
#{語釈]
鳥篭の山   滋賀県彦根市正法寺町  11.2710
不知哉川  滋賀県犬上郡 大堀川 (芹川 ) 11.2710

#[説明]
左注  舒明天皇か斉明天皇か定かではない。男女どちらの歌とも取れる
伊藤博 推古女帝葬送後に慕った舒明天皇の歌が伝承されたものか。

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#[番号]04/0488
#[題詞]額田王思近江天皇作歌一首
#[原文]君待登 吾戀居者 我屋戸之 簾動之 秋風吹
#[訓読]君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く
#[仮名],きみまつと,あがこひをれば,わがやどの,すだれうごかし,あきのかぜふく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:額田王,天智,恋情,待つ,漢詩
#[訓異]
#[大意]あなたを待つとして私が恋い思っていると我が家の簾を動かして秋の風が吹いて来る
#{語釈]
#[説明]
玉台新詠 張華「情詩」五首  文選巻29

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#[番号]04/0489
#[題詞]鏡王女作歌一首
#[原文]風乎太尓 戀流波乏之 風小谷 将来登時待者 何香将嘆
#[訓読]風をだに恋ふるは羨し風をだに来むとし待たば何か嘆かむ
#[仮名],かぜをだに,こふるはともし,かぜをだに,こむとしまたば,なにかなげかむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:鏡王女,額田王,天智,待つ
#[訓異]
#[大意]風だけでも恋い思うのはうらやましい。風だけでも来るのを待つならば何を嘆くことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]04/0490
#[題詞]吹芡刀自歌二首
#[原文]真野之浦乃 与騰<乃>継橋 情由毛 思哉妹之 伊目尓之所見
#[訓読]真野の浦の淀の継橋心ゆも思へや妹が夢にし見ゆる
#[仮名],まののうらの,よどのつぎはし,こころゆも,おもへやいもが,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 乃 [西(右書)][元][類][金]
#[鄣W],相聞,作者:吹芡刀自,恋情,夢,皮肉,誤伝,伝承,序詞
#[訓異]
#[大意]真野の浦の淀みにかかる継梯のように継いで継いで絶えず思ってくれるからであろうか妹が夢に見えることだ
#{語釈]
真野の浦  兵庫県長田区東尻池町 滋賀県大津市真野 11.2771
継橋   八つ橋のようなもの

#[説明]
男の歌 混じったか

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#[番号]04/0491
#[題詞](吹芡刀自歌二首)
#[原文]河上乃 伊都藻之花乃 何時<々々> 来益我背子 時自異目八方
#[訓読]川上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも
#[仮名],かはかみの,いつものはなの,いつもいつも,きませわがせこ,ときじけめやも
#[左注]
#[校異]<> -> 々々 [西(右書)][類][紀][細]
#[鄣W],相聞,作者:吹芡刀自,勧誘,序詞
#[訓異]
#[大意]川のほとりの神聖な藻の花ではないが、いつでもいらっしゃい。我が脊子よ。その時はないということがありましょうか。
#{語釈]
いつ藻の花 花の咲く川藻 不明。
      いつは、齋つであり神聖なこと。藻の繁殖する力を神聖視している

#[説明]
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#[番号]04/0492
#[題詞]田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首
#[原文]衣手尓 取等騰己保里 哭兒尓毛 益有吾乎 置而如何将為 [舎人吉年]
#[訓読]衣手に取りとどこほり泣く子にもまされる我れを置きていかにせむ [舎人吉年]
#[仮名],ころもでに,とりとどこほり,なくこにも,まされるわれを,おきていかにせむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太 -> 大 [桂][元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官
#[訓異]
#[大意]衣の袖に取り付いて泣く子にもまさって別れを悲しんでいる自分なのに、置いて行って自分はどのようにすればいいのか
#{語釈]
田部忌寸櫟子(いちひ) 伝未詳。近江朝の人か
            田部は、応神朝の帰化人。阿智王(漢高祖の子孫)の末裔
            和名抄 櫟子 いちひ
舎人吉年  天智天皇挽歌 女官。恋人か、恋人を演じているのか

#[説明]

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#[番号]04/0493
#[題詞](田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
#[原文]置而行者 妹将戀可聞 敷細乃 黒髪布而 長此夜乎 <[田部忌寸櫟子]>
#[訓読]置きていなば妹恋ひむかも敷栲の黒髪敷きて長きこの夜を <[田部忌寸櫟子]>
#[仮名],おきていなば,いもこひむかも,しきたへの,くろかみしきて,ながきこのよを
#[左注]
#[校異]<> -> 田部忌寸櫟子 [元][細]
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官,呪術,枕詞
#[訓異]
#[大意]後に置いていったならば妹は恋い思うだろうか。敷妙の黒髪を敷いて長居この夜を
#{語釈]
敷栲の   黒髪の枕詞。妙(繊維)を敷くという意味で、髪を敷くことが布を敷くように見えることからくるか。
黒髪敷きて 来訪する男を待って寝る呪的行為

#[説明]
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#[番号]04/0494
#[題詞](田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
#[原文]吾妹兒乎 相令知 人乎許曽 戀之益者 恨三念
#[訓読]我妹子を相知らしめし人をこそ恋のまされば恨めしみ思へ
#[仮名],わぎもこを,あひしらしめし,ひとをこそ,こひのまされば,うらめしみおもへ
#[左注]
#[校異]乎 [元][紀][金](塙) 矣
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官
#[訓異]
#[大意]我妹子を紹介した人を恋いがまさるので恨めしく思うことだ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]04/0495
#[題詞](田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
#[原文]朝日影 尓保敝流山尓 照月乃 不猒君乎 山越尓置手
#[訓読]朝日影にほへる山に照る月の飽かざる君を山越しに置きて
#[仮名],あさひかげ,にほへるやまに,てるつきの,あかざるきみを,やまごしにおきて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官
#[訓異]
#[大意]朝日の光に照り輝く山に照る月のようにいつまでも見たいと思おうあたなを山の向こうに置いて(行ってしまうのは心苦しいことだ)
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]04/0496
#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌四首
#[原文]三熊野之 浦乃濱木綿 百重成 心者雖念 直不相鴨
#[訓読]み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも
#[仮名],みくまのの,うらのはまゆふ,ももへなす,こころはもへど,ただにあはぬかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,挽歌発想,贈答,紀州,和歌山,羈旅,序詞,地名,植物#[訓異]
#[大意]み熊野の浦の浜木綿のように幾重にも心に恋い思うが直接会わないことだ

#{語釈]
#[説明]
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#[番号]04/0497
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌四首)
#[原文]古尓 有兼人毛 如吾歟 妹尓戀乍 宿不勝家牟
#[訓読]いにしへにありけむ人も我がごとか妹に恋ひつつ寐ねかてずけむ
#[仮名],いにしへに,ありけむひとも,あがごとか,いもにこひつつ,いねかてずけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,羈旅,和歌山,挽歌発想,昔
#[訓異]
#[大意]昔いたという人も自分のように妹に恋い続けて寝ることが出来なかっただろうか
#{語釈]
#[説明]1118と同想
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#[番号]04/0498
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌四首)
#[原文]今耳之 行事庭不有 古 人曽益而 哭左倍鳴四
#[訓読]今のみのわざにはあらずいにしへの人ぞまさりて音にさへ泣きし
#[仮名],いまのみの,わざにはあらず,いにしへの,ひとぞまさりて,ねにさへなきし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,羈旅,和歌山,挽歌発想
#[訓異]
#[大意]今だけのことではない。昔の人にまさって大声を上げて泣いたことである

#{語釈]
#[説明]
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#[番号]04/0499
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌四首)
#[原文]百重二物 来及毳常 念鴨 公之使乃 雖見不飽有<武>
#[訓読]百重にも来及かぬかもと思へかも君が使の見れど飽かずあらむ
#[仮名],ももへにも,きしかぬかもと,おもへかも,きみがつかひの,みれどあかずあらむ
#[左注]
#[校異]哉 -> 武 [桂][元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,使者
#[訓異]
#[大意]何度も何度もひっきりなしに来て欲しいと思うからだろうか。あなたの使いを見ても満足することはないよ
#{語釈]
来及かぬかも  来て及ぶ  ひっきりなしに来る

#[説明]
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#[番号]04/0500
#[題詞]碁檀越徃伊勢國時留妻作歌一首
#[原文]神風之 伊勢乃濱荻 折伏 客宿也将為 荒濱邊尓
#[訓読]神風の伊勢の浜荻折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺に
#[仮名],かむかぜの,いせのはまをぎ,をりふせて,たびねやすらむ,あらきはまへに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:碁檀越妻,伊勢,三重,羈旅,留守,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]神風の伊勢の浜荻を折り伏せて旅寝をすることだろうか。荒々しい浜辺で。
#{語釈]
碁檀越 伝未詳 檀越は施主の称号。旦那など

#[説明]
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#[番号]04/0501
#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌三首
#[原文]未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者
#[訓読]娘子らが袖布留山の瑞垣の久しき時ゆ思ひき我れは
#[仮名],をとめらが,そでふるやまの,みづかきの,ひさしきときゆ,おもひきわれは
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,歌垣,枕詞,序詞
#[訓異]
#[大意]
あの娘が袖を振るそのふゆ布留の山の瑞垣が古くからあるようにそのように長い間恋い思って来たのだ。自分は。
#{語釈]
瑞垣  神域を示す垣根。石組みか

#[説明]
類歌 11/2415 人麻呂歌集

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#[番号]04/0502
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌三首)
#[原文]夏野去 小<壮>鹿之角乃 束間毛 妹之心乎 忘而念哉
#[訓読]夏野行く牡鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思へや
#[仮名],なつのゆく,をしかのつのの,つかのまも,いもがこころを,わすれておもへや
#[左注]
#[校異]牡 -> 壯 [金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]夏の野を行く雄鹿の角が生えたてで短いように、そのようにほんのわづかな時間でも妹のことを忘れて思おうか。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0503
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌三首)
#[原文]珠衣乃 狭藍左謂沈 家妹尓 物不語来而 思金津裳
#[訓読]玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも
#[仮名],たまきぬの,さゐさゐしづみ,いへのいもに,ものいはずきにて,おもひかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,別離,悲別,出発,羈旅
#[訓異]
#[大意]美しい衣の衣擦れではないが、ざわざわと騒々しかった出立の騒ぎが落ち着いてみると家の妻に十分に話しをしてこなかったことが心残りだ
#{語釈]
さゐさゐしづみ 衣の衣擦れと出発の騒がしさ

#[説明]
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#[番号]04/0504
#[題詞]柿本朝臣人麻呂妻歌一首
#[原文]君家尓 吾住坂乃 家道乎毛 吾者不忘 命不死者
#[訓読]君が家に我が住坂の家道をも我れは忘れじ命死なずは
#[仮名],きみがいへに,わがすみさかの,いへぢをも,われはわすれじ,いのちしなずは
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂妻,宇陀,恋情,難解,地名
#[訓異]
#[大意]あなたの家に自分が住むその墨坂の家へ帰る道を自分は忘れることはない。生きている限りは
#{語釈]
住坂 墨坂神社がある 榛原町萩原の西外れ 伊勢街道沿い

#[説明]
人麻呂が通過する場所を思いやって安全を祈る歌

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#[番号]04/0505
#[題詞]安倍女郎歌二首
#[原文]今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎
#[訓読]今さらに何をか思はむうち靡き心は君に寄りにしものを
#[仮名],いまさらに,なにをかおもはむ,うちなびき,こころはきみに,よりにしものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:安倍女郎,恋情
#[訓異]
#[大意]今更何を物思いしようか。すっかり靡き寄って心はあなたに寄っているものなのに
#{語釈]
安倍女郎  伝未詳

#[説明]
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#[番号]04/0506
#[題詞](安倍女郎歌二首)
#[原文]吾背子波 物莫念 事之有者 火尓毛水尓<母> 吾莫七國
#[訓読]我が背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にも我れなけなくに
#[仮名],わがせこは,ものなおもひそ,ことしあらば,ひにもみづにも,われなけなくに
#[左注]
#[校異]毛 -> 母 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:安倍女郎,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたは物思いなどなさいますな。事があるなら火にも水にも自分はいないというわけではありません。(どこにでもいますから)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0507
#[題詞]駿河婇女歌一首
#[原文]敷細乃 枕従久<々>流 涙二曽 浮宿乎思家類 戀乃繁尓
#[訓読]敷栲の枕ゆくくる涙にぞ浮寝をしける恋の繁きに
#[仮名],しきたへの,まくらゆくくる,なみたにぞ,うきねをしける,こひのしげきに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 久 -> 々 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:駿河婇女,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]敷妙の枕から漏れ落ちる涙で不安定な寝方をしました。恋いが激しい中で
#{語釈]
駿河采女 伝未詳。駿河出身の采女。08/1420
枕ゆくくる 枕から漏れ落ちる  くくるは、潜る
浮寝  船の上で揺られながらねること。不安定で落ち着かない様子で寝る
    相手の真意が確かめられないままに寝ること

#[説明]
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#[番号]04/0508
#[題詞]三方沙弥歌一首
#[原文]衣手乃 別今夜従 妹毛吾母 甚戀名 相因乎奈美
#[訓読]衣手の別かる今夜ゆ妹も我れもいたく恋ひむな逢ふよしをなみ
#[仮名],ころもでの,わかるこよひゆ,いももあれも,いたくこひむな,あふよしをなみ
#[左注]
#[校異]母 [金][紀][細] 毛
#[鄣W],相聞,作者:三方沙弥,恋情,別離,羈旅,枕詞
#[訓異]
#[大意]衣手のように別れる今夜は妹も自分もひどく恋い思うだろうな。会う手だてもないので
#{語釈]
三方沙弥 02/123~5

#[説明]
旅に出る時の歌か

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#[番号]04/0509
#[題詞]丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首[并短歌]
#[原文]臣女乃 匣尓乗有 鏡成 見津乃濱邊尓 狭丹頬相 紐解不離 吾妹兒尓 戀乍居者 明晩乃 旦霧隠 鳴多頭乃 哭耳之所哭 吾戀流 干重乃一隔母 名草漏 情毛有哉跡 家當 吾立見者 青旗乃 葛木山尓 多奈引流 白雲隠 天佐我留 夷乃國邊尓 直向 淡路乎過 粟嶋乎 背尓見管 朝名寸二 水手之音喚 暮名寸二 梶之聲為乍 浪上乎 五十行左具久美 磐間乎 射徃廻 稲日都麻 浦箕乎過而 鳥自物 魚津左比去者 家乃嶋 荒礒之宇倍尓 打靡 四時二生有 莫告我 奈騰可聞妹尓 不告来二計謀
#[訓読]臣の女の 櫛笥に乗れる 鏡なす 御津の浜辺に さ丹つらふ 紐解き放けず 我妹子に 恋ひつつ居れば 明け暮れの 朝霧隠り 鳴く鶴の 音のみし泣かゆ 我が恋ふる 千重の一重も 慰もる 心もありやと 家のあたり 我が立ち見れば 青旗の 葛城山に たなびける 白雲隠る 天さがる 鄙の国辺に 直向ふ 淡路を過ぎ 粟島を そがひに見つつ 朝なぎに 水手の声呼び 夕なぎに 楫の音しつつ 波の上を い行きさぐくみ 岩の間を い行き廻り 稲日都麻 浦廻を過ぎて 鳥じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯の上に うち靡き 繁に生ひたる なのりそが などかも妹に 告らず来にけむ
#[仮名],おみのめの,くしげにのれる,かがみなす,みつのはまべに,さにつらふ,ひもときさけず,わぎもこに,こひつつをれば,あけくれの,あさぎりごもり,なくたづの,ねのみしなかゆ,あがこふる,ちへのひとへも,なぐさもる,こころもありやと,いへのあたり,わがたちみれば,あをはたの,かづらきやまに,たなびける,しらくもがくる,あまさがる,ひなのくにべに,ただむかふ,あはぢをすぎ,あはしまを,そがひにみつつ,あさなぎに,かこのこゑよび,ゆふなぎに,かぢのおとしつつ,なみのうへを,いゆきさぐくみ,いはのまを,いゆきもとほり,いなびつま,うらみをすぎて,とりじもの,なづさひゆけば,いへのしま,ありそのうへに,うちなびき,しじにおひたる,なのりそが,などかもいもに,のらずきにけむ
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],相聞,作者:丹比笠麻呂,羈旅,恋情,別離,望郷,枕詞,地名,植物,大阪,兵庫,道行き
#[訓異]
#[大意]
女官の持っている櫛笥の中に入っている鏡のように波もなく海の平らな御津の浜に赤味がかった紐も解き放たず我が妹に恋い続けていると、夜明けの朝霧に隠れて鳴く鶴のように声を上げて泣くばかりである。自分が恋い思う千分の一も慰められる気持ちがあるだろうかと家の方向を自分が立って眺めてみると、青い幡のような葛城山にたなびいている白雲に隠れて見えない。天遠く下がった田舎の国に直接面している淡路を過ぎて粟島を背後に見ながら朝なぎに水夫の声を呼び、夕なぎに楫の音がしながら、波を押し分けて行き、岩礁の間を難渋して廻り、印南妻の浦のめぐりを過ぎて、鳥のように難渋していくと、家の島の荒磯の上に靡いて多く生えている名告り藻ではないが、どうして妹と十分に言葉を交わさずに来たのだろうか
#{語釈]
丹比真人笠麻呂 伝未詳
臣の女 臣下の女 官女  女官が持っている櫛笥
鏡なす御津  鏡を見るので御津(みつ)にかかる。
       御津の海は鏡のように穏やかなのでかかる。
明け暮れ 夜明けのまだ薄暗い時
粟島 所在未詳。阿波の国とも家島あたりの島ともいう。
あはしま 兵庫県淡路島 香川県屋島 阿波島 徳島県 四国 阿波国 03.0358 04.0509 07.1207
あはしま 未詳 12.3167
あはしま 山口県熊毛郡平生湾 阿多田島 山口県大島郡屋代島 15.3631 1633(m)
い行きさぐくみ 波を押し分けて行く
家の島  いへしま 兵庫県飾磨郡家島町 15.3627 3718d 3718

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0510
#[題詞](丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]白<細>乃 袖解更而 還来武 月日乎數而 徃而来猿尾
#[訓読]白栲の袖解き交へて帰り来む月日を数みて行きて来ましを
#[仮名],しろたへの,そでときかへて,かへりこむ,つきひをよみて,ゆきてこましを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 妙 -> 細 [元][紀][類][古]
#[鄣W],相聞,作者:丹比笠麻呂,羈旅,別離,枕詞
#[訓異]
#[大意]白妙の袖を解き交えて帰ってまたここへ来たいものだ。月日を数えて可能ならばこの築紫へ行く船に追いつけるうちに都に行って帰って来るのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0511
#[題詞]幸伊勢國時當麻麻呂大夫妻作歌一首
#[原文]吾背子者 何處将行 己津物 隠之山乎 今日歟超良<武>
#[訓読]我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ
#[仮名],わがせこは,いづくゆくらむ,おきつもの,なばりのやまを,けふかこゆらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 哉 -> 武 [西(訂正)][元][金][類]
#[鄣W],相聞,作者:當麻麻呂妻,行幸,伊勢,留守,重出,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]我が夫はどのあたりを行っているのだろう。沖の藻の名張の山を今日あたり越えているのだろうか
#{語釈]
沖つ藻の 海底の藻は隠れているように、隠れる(なばる)で名張にかかる。

#[説明]
01/0043 異伝

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#[番号]04/0512
#[題詞]草嬢歌一首
#[原文]秋田之 穂田乃苅婆加 香縁相者 彼所毛加人之 吾乎事将成
#[訓読]秋の田の穂田の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我を言成さむ
#[仮名],あきのたの,ほたのかりばか,かよりあはば,そこもかひとの,わをことなさむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:草嬢,恋情,うわさ,序詞
#[訓異]
#[大意]秋の田の稲穂の田を苅る場で二人がこんなにも寄り合ったならば、そのことで人々を自分たちのことを好き放題に言いふらすでしょう。

#{語釈]
草嬢 伝未詳
刈りばか 刈り取る分担範囲  16/3887

#[説明]
稲刈りの時の労働歌か。

#[関連論文]


#[番号]04/0513
#[題詞]志貴皇子御歌一首
#[原文]大原之 此市柴乃 何時鹿跡 吾念妹尓 今夜相有香裳
#[訓読]大原のこのいち柴のいつしかと我が思ふ妹に今夜逢へるかも
#[仮名],おほはらの,このいちしばの,いつしかと,あがおもふいもに,こよひあへるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:志貴皇子,恋情,逢会,植物,序詞
#[訓異]
#[大意]大原のこの勢いの盛んな柴ではないが、いつ会えるのかと自分が思っていた彼女に今夜会えることだ
#{語釈]
大原 明日香村小原 藤原夫人の里
いち柴 成長の著しい柴。背丈の低い木。いつ藻と同じく成長の早いものは神霊が宿る神聖なものという考え

#[説明]
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#[番号]04/0514
#[題詞]阿倍女郎歌一首
#[原文]吾背子之 盖世流衣之 針目不落 入尓家良之 我情副
#[訓読]我が背子が着せる衣の針目おちず入りにけらしも我が心さへ
#[仮名],わがせこが,けせるころもの,はりめおちず,いりにけらしも,あがこころさへ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 入 [紀] 入来
#[鄣W],相聞,作者:阿倍女郎,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたの着ている衣の針目ごとに糸が縫ってあるでしょう。私の心までも縫われているのです
#{語釈]
#[説明]
衣を作って贈った時に添えた歌か。
私の心がこもっているということを訴える。

#[関連論文]


#[番号]04/0515
#[題詞]中臣朝臣東人贈阿倍女郎歌一首
#[原文]獨宿而 絶西紐緒 忌見跡 世武為便不知 哭耳之曽泣
#[訓読]ひとり寝て絶えにし紐をゆゆしみと為むすべ知らに音のみしぞ泣く
#[仮名],ひとりねて,たえにしひもを,ゆゆしみと,せむすべしらに,ねのみしぞなく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:中臣東人,阿倍女郎,恋情,不安,不吉,贈答
#[訓異]
#[大意]独りで寝ていて切れた衣の紐が不吉であるのでと、どうしようもなく大声を上げて泣くばかりである
#{語釈]
中臣朝臣東人 中臣意美麻呂の子、宅守の父。母は鎌足娘斗売娘。和銅4年従五位下。刑部卿従四位下。

#[説明]
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#[番号]04/0516
#[題詞]阿倍女郎答歌一首
#[原文]吾以在 三相二搓流 絲用而 附手益物 今曽悔寸
#[訓読]我が持てる三相に搓れる糸もちて付けてましもの今ぞ悔しき
#[仮名],わがもてる,みつあひによれる,いともちて,つけてましもの,いまぞくやしき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:阿倍女郎,中臣東人,贈答
#[訓異]
#[大意]自分が持っている三つ搓に搓った糸を用いた紐を衣に付けておけばよかったおに。今となっては悔しいことだ
#{語釈]
#[説明]
前の歌への返事か。切れない糸を紐にすればよかったと答えたもの。

#[関連論文]


#[番号]04/0517
#[題詞]大納言兼大将軍大伴卿歌一首
#[原文]神樹尓毛 手者觸云乎 打細丹 人妻跡云者 不觸物可聞
#[訓読]神木にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも
#[仮名],かむきにも,てはふるといふを,うつたへに,ひとづまといへば,ふれぬものかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴安麻呂,人妻
#[訓異]
#[大意]神木にも手は触れるというのに、めったに人妻と言うと触れないものだろうか
#{語釈]
大納言兼大将軍大伴卿 大伴安麻呂  旅人の父
うつたへに めったに あながちに

#[説明]
神木に触れる罪  0712
相手が他の男とつきあいがあったか。

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#[番号]04/0518
#[題詞]石川郎女歌一首 [即佐保大伴大家也]
#[原文]春日野之 山邊道乎 与曽理無 通之君我 不所見許呂香聞
#[訓読]春日野の山辺の道をよそりなく通ひし君が見えぬころかも
#[仮名],かすがのの,やまへのみちを,よそりなく,かよひしきみが,みえぬころかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 与 [西(貼紙)][元] 於
#[鄣W],相聞,作者:石川郎女(邑婆),大伴安麻呂,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]春日野の山辺の道を恐れることなく通ったあなたが見えないこの頃である
#[説明]
よそりなく  元により「於」 恐れなく  春日野の神を恐れることなく
       註釈 ひたすら  余所に寄ることなく

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#[番号]04/0519
#[題詞]大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也]
#[原文]雨障 常為公者 久堅乃 昨夜雨尓 将懲鴨
#[訓読]雨障み常する君はひさかたの昨夜の夜の雨に懲りにけむかも
#[仮名],あまつつみ,つねするきみは,ひさかたの,きぞのよのあめに,こりにけむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴女郎,勧誘
#[訓異]
#[大意]いつも前に阻まれて家におられるあなたは、昨夜の前に懲りてしまったのでしょうか
#{語釈]
大伴女郎 伝未詳。旅との妻とすると、今城王の父に嫁し、後に旅人の正妻となる。
         大伴坂上郎女とする とすると穂積王との間に今城王を生む。
今城王  伝未詳。大原真人今城。天平宝字元年従五位下  家持と親交が深い。

#[説明]
たまたま私の所に来た時は大雨だったが、もう懲りて来ないのかとからかい半分でいったもの。

#[関連論文]


#[番号]04/0520
#[題詞](大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也])後人追同歌一首
#[原文]久堅乃 雨毛落<粳> 雨乍見 於君副而 此日令晩
#[訓読]ひさかたの雨も降らぬか雨障み君にたぐひてこの日暮らさむ
#[仮名],ひさかたの,あめもふらぬか,あまつつみ,きみにたぐひて,このひくらさむ
#[左注]
#[校異]糠 -> 粳 [元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴女郎,追同,枕詞
#[訓異]
#[大意]久方の雨も降らないものか。雨に降りこめられてあなたに寄り添ってこの日を暮らそう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0521
#[題詞]藤原宇合大夫遷任上京時常陸娘子贈歌一首
#[原文]庭立 麻手苅干 布<暴> 東女乎 忘賜名
#[訓読]庭に立つ麻手刈り干し布曝す東女を忘れたまふな
#[仮名],にはにたつ,あさでかりほし,ぬのさらす,あづまをみなを,わすれたまふな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 慕 -> 暴 [元]
#[鄣W],相聞,作者:常陸娘子,藤原宇合,餞別,植物
#[訓異]
#[大意]庭に植えて茂り立っている麻を刈って乾して布にして曝す作業をする東女をお忘れにならないで
#{語釈]
藤原宇合大夫 養老3年(719)常陸守、養老5年帰京 正五位上
常陸娘子 現地の女性。遊行女婦か。

#[説明]
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#[番号]04/0522
#[題詞]京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也]
#[原文]𡢳嬬等之 珠篋有 玉櫛乃 神家武毛 妹尓阿波受有者
#[訓読]娘子らが玉櫛笥なる玉櫛の神さびけむも妹に逢はずあれば
#[仮名],をとめらが,たまくしげなる,たまくしの,かむさびけむも,いもにあはずあれば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:藤原麻呂,坂上郎女,枕詞,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]娘子の持つ美しい櫛笥にある櫛ではないが、神々しくなっているだろうか。妹に会わないでいると
#{語釈]
京職藤原大夫 養老5年6月(721)京職。

#[説明]
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#[番号]04/0523
#[題詞](京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])
#[原文]好渡 人者年母 有云乎 何時間曽毛 吾戀尓来
#[訓読]よく渡る人は年にもありといふをいつの間にぞも我が恋ひにける
#[仮名],よくわたる,ひとはとしにも,ありといふを,いつのまにぞも,あがこひにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:藤原麻呂,坂上郎女,贈答
#[訓異]
#[大意]よく出来た人は一年でも会わないですむというが、いつの間に自分は恋い思うようになったのだろう
#{語釈]
よく渡る よくガマンして日々を送る
年にもあり 一年でもその状態でいる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0524
#[題詞](京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])
#[原文]蒸被 奈胡也我下丹 雖臥 与妹不宿者 肌之寒霜
#[訓読]むし衾なごやが下に伏せれども妹とし寝ねば肌し寒しも
#[仮名],むしふすま,なごやがしたに,ふせれども,いもとしねねば,はだしさむしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:藤原麻呂,坂上郎女,孤独,贈答
#[訓異]
#[大意]むし布団の柔らかい中で寝ているが、妹と寝ていないので肌が寒いことだ
#{語釈]
蒸被  日虫の羽で作った軽い布団
    からむし、などのように繊維を取る植物(苧)でつくった布団
    蚕の繊維(生糸、真綿)で作った布団
    蒸したように暖かい布団
なごや 柔らかい、なごやか

#[説明]
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#[番号]04/0525
#[題詞](京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首
#[原文]狭穂河乃 小石踐渡 夜干玉之 黒馬之来夜者 年尓母有粳
#[訓読]佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか
#[仮名],さほがはの,こいしふみわたり,ぬばたまの,くろまくるよは,としにもあらぬか
#[左注](右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,恋情,贈答,地名,奈良,動物,枕詞
#[訓異]
#[大意]佐保川の小石を踏み渡りぬばたまの黒馬の来る夜はせめて一年に一度でもないものか
#{語釈]
佐保川 坂上の里 油阪あたり。麻呂は菅原あたりに邸宅があるので、二条大路を東に行く
    或いは、佐保邸にいるか。
小石踏み渡り  目立つ大路を行くのではなく、橋のない小路を行くか。
黒馬  闇夜に目立たないようにする意味
年にもあらぬか  一年に一度でもないことか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0526
#[題詞]((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
#[原文]千鳥鳴 佐保乃河瀬之 小浪 止時毛無 吾戀者
#[訓読]千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我が恋ふらくは
#[仮名],ちどりなく,さほのかはせの,さざれなみ,やむときもなし,あがこふらくは
#[左注](右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,恋情,贈答,枕詞,動物,枕詞,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]千鳥鳴く佐保の川瀨のさざれ浪よ。その波のように止む時がない。自分が恋い思うことは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0527
#[題詞]((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
#[原文]将来云毛 不来時有乎 不来云乎 将来常者不待 不来云物乎
#[訓読]来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを
#[仮名],こむといふも,こぬときあるを,こじといふを,こむとはまたじ,こじといふものを
#[左注](右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,贈答
#[訓異]
#[大意]来ようと言いながらも来ない時があるのに来ないというのを来ようというので待ちませんよ。来ないというものであるから。
#{語釈]
#[説明]
来ないと言っているので、急に来ても待っていませんと強がりを言ったもの

#[関連論文]


#[番号]04/0528
#[題詞]((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
#[原文]千鳥鳴 佐保乃河門乃 瀬乎廣弥 打橋渡須 奈我来跡念者
#[訓読]千鳥鳴く佐保の川門の瀬を広み打橋渡す汝が来と思へば
#[仮名],ちどりなく,さほのかはとの,せをひろみ,うちはしわたす,ながくとおもへば
#[左注]右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,川渡り,贈答,動物,枕詞,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]千鳥鳴く佐保の川岸の流れが速いので打橋を渡す。あなたが来ると思うと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0529
#[題詞]又大伴坂上郎女歌一首
#[原文]佐保河乃 涯之官能 <少>歴木莫苅焉 在乍毛 張之来者 立隠金
#[訓読]佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来たらば立ち隠るがね
#[仮名],さほがはの,きしのつかさの,しばなかりそね,ありつつも,はるしきたらば,たちかくるがね
#[左注]
#[校異]小 -> 少 [桂][元][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,野遊び,奈良,地名,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]佐保川の岸の土手の柴草を刈るなよ。そのままにしておいて春がやって来たら立ち隠れることが出来るように
#{語釈]
つかさ 土手の小高くなっている所

#[説明]
07/1274H01住吉の出見の浜の柴な刈りそね娘子らが赤裳の裾の濡れて行かむ見む
歌垣風に詠んだか。

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#[番号]04/0530
#[題詞]天皇賜海上女王御歌一首 [寧樂宮即位天皇也]
#[原文]赤駒之 越馬柵乃 緘結師 妹情者 疑毛奈思
#[訓読]赤駒の越ゆる馬柵の標結ひし妹が心は疑ひもなし
#[仮名],あかごまの,こゆるうませの,しめゆひし,いもがこころは,うたがひもなし
#[左注]右今案 此歌擬古之作也 但以時當便賜斯歌歟
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:聖武天皇,海上女王,動物,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]元気な馬を飛び越える馬柵をしっかりと紐で結ぶように契りを結んだ妹の心は疑うこともない
#{語釈]
天皇  聖武天皇
海上女王  志貴皇子の子。養老7年従四位下。神亀元年従三位
赤駒  元気な馬
07/1141H01武庫川の水脈を早みか赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも
11/2510H01赤駒が足掻速けば雲居にも隠り行かむぞ袖まけ我妹
12/3069H01赤駒のい行きはばかる真葛原何の伝て言直にしよけむ
14/3540H01左和多里の手児にい行き逢ひ赤駒が足掻きを速み言問はず来ぬ
19/4260H01大君は神にしませば赤駒の腹這ふ田居を都と成しつ
20/4417H01赤駒を山野にはがし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ

右今案 此歌擬古之作也 但以時當便賜斯歌歟
何の古歌かはわからない。天皇の御製にしては馬柵などがあるので左注者はそのように思ったのか。

#[説明]
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#[番号]04/0531
#[題詞](天皇賜海上女王御歌一首 [寧樂宮即位天皇也])海上<王>奉和歌一首 [志貴皇子之女也]
#[原文]梓弓 爪引夜音之 遠音尓毛 君之御幸乎 聞之好毛
#[訓読]梓弓爪引く夜音の遠音にも君が御幸を聞かくしよしも
#[仮名],あづさゆみ,つまびくよおとの,とほとにも,きみがみゆきを,きかくしよしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 女王 -> 王 [桂][元][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:聖武天皇,海上女王,贈答
#[訓異]
#[大意]梓弓を爪引く夜のその遠い音のように、遠いうわさでも大君のいらっしゃるということを聞くのはうれしいことです

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0532
#[題詞]大伴宿奈麻呂宿祢歌二首 [佐保大納言<卿>之第三子也]
#[原文]打日指 宮尓行兒乎 真悲見 留者苦 聴去者為便無
#[訓読]うちひさす宮に行く子をま悲しみ留むれば苦し遣ればすべなし
#[仮名],うちひさす,みやにゆくこを,まかなしみ,とむればくるし,やればすべなし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 卿 [西(右書)][桂] / <> -> 之 [桂][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴宿奈麻呂,枕詞
#[訓異]
#[大意]うちひさす宮に行くあなたがほんとうに愛しいが、止めると心苦しい。だからといって参らせるとどうしようもない気持ちになる
#{語釈]
大伴宿奈麻呂  坂上郎女との間に大嬢と二嬢をもうける。神亀五年没。
うちひさす 日がさすで宮の枕詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0533
#[題詞](大伴宿奈麻呂宿祢歌二首 [佐保大納言<卿>之第三子也])
#[原文]難波方 塩干之名凝 飽左右二 人之見兒乎 吾四乏毛
#[訓読]難波潟潮干のなごり飽くまでに人の見る子を我れし羨しも
#[仮名],なにはがた,しほひのなごり,あくまでに,ひとのみるこを,われしともしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴宿奈麻呂,大阪,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]難波潟の潮干の名残は満足するまで難波の人は見ることが出来るが、自分は十分見ることが出来ずにうらやましいことだ
#{語釈]
#[説明]
神亀六年ぐらいの時、難波宮造営に関わって難波にいたか。
相手は、坂上郎女か。


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#[番号]04/0534
#[題詞]安貴王歌一首[并短歌]
#[原文]遠嬬 此間不在者 玉桙之 道乎多遠見 思空 安莫國 嘆虚 不安物乎 水空徃 雲尓毛欲成 高飛 鳥尓毛欲成 明日去而 於妹言問 為吾 妹毛事無 為妹 吾毛事無久 今裳見如 副而毛欲得
#[訓読]遠妻の ここにしあらねば 玉桙の 道をた遠み 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 苦しきものを み空行く 雲にもがも 高飛ぶ 鳥にもがも 明日行きて 妹に言どひ 我がために 妹も事なく 妹がため 我れも事なく 今も見るごと たぐひてもがも
#[仮名],とほづまの,ここにしあらねば,たまほこの,みちをたどほみ,おもふそら,やすけなくに,なげくそら,くるしきものを,みそらゆく,くもにもがも,たかとぶ,とりにもがも,あすゆきて,いもにことどひ,あがために,いももことなく,いもがため,あれもことなく,いまもみるごと,たぐひてもがも
#[左注](右安貴王娶因幡八上釆女 係念極甚愛情尤盛 於時勅断不敬之罪退却本郷焉 于是王意悼怛聊作此歌也)
#[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],相聞,作者:安貴王,因幡八上釆女,恋情,離別,枕詞,悲別
#[訓異]
#[大意]今は遠く離れてしまった妻はここにはいないので、玉梓の道が遠いので、思うにつけても心安らかでなく、嘆くにつけても苦しいものであるのに、空を行く雲でもありたいものだ。空高く飛ぶ鳥でありたいものだ。それならば明日にも行って妹を訪ね、自分にとって妹も何事もなく、妹の為にも自分も何事もなく、今も会っているように一緒に連れ添っていたいものだ
#{語釈]
安貴王 志貴王の子、春日王の子か。紀郎女と別離する
"04/0643"紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也]"

右安貴王、因幡八上釆女を娶る。係念極めて甚しく愛情尤も盛んなり。時に不敬の罪に断罪せられ、本郷に退去せしめらる。是に王の意、悼(いた)び怛(かな)しびて、聊か此の歌を作る。

神亀年中に起きた事件か。

#[説明]
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#[番号]04/0535
#[題詞](安貴王歌一首[并短歌])反歌
#[原文]敷細乃 手枕不纒 間置而 年曽經来 不相念者
#[訓読]敷栲の手枕まかず間置きて年ぞ経にける逢はなく思へば
#[仮名],しきたへの,たまくらまかず,あひだおきて,としぞへにける,あはなくおもへば
#[左注]右安貴王娶因幡八上釆女 係念極甚愛情尤盛 於時勅断不敬之罪退却本郷焉 于是王意悼怛聊作此歌也
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:安貴王,因幡八上釆女,離別,恋情,枕詞,悲別
#[訓異]
#[大意]敷栲の手枕を枕としないうちに長い時が過ぎて、年が経ってしまった。会わないことを思うと。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0536
#[題詞]門部王戀歌一首
#[原文]飫宇能海之 塩干乃<鹵>之 片念尓 思哉将去 道之永手呼
#[訓読]意宇の海の潮干の潟の片思に思ひや行かむ道の長手を
#[仮名],おうのうみの,しほひのかたの,かたもひに,おもひやゆかむ,みちのながてを
#[左注]右門部王任出雲守時娶部内娘子也 未有幾時 既絶徃来 累月之後更起愛心 仍作此歌贈致娘子
#[校異]歌 [西] 謌 / 滷 -> 鹵 [桂][元] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:門部王,恋情,島根,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]意宇の海の潮干の干潟のカタではないが、片思いで物思いをして行くことだろうか。長い道のりを
#{語釈]
門部  長皇子の孫。和銅三年従五位下、天平一二年臣籍降下姓大原真人氏。一七年大蔵卿従四位上で卒。風流侍従の一人。
03/0310
03/0371題詞]出雲守門部王思京歌一首 [後賜大原真人氏也]"
意宇の海の河原の千鳥汝が鳴けば我が佐保川の思ほゆらくに"

意宇の海 中海

#[説明]
都に帰任するときに、現地の女性を恋い思うという趣きの歌。
送別会の場か。

#[関連論文]


#[番号]04/0537
#[題詞]高田女王贈今城王歌六首
#[原文]事清 甚毛莫言 一日太尓 君伊之哭者 痛寸<敢>物
#[訓読]言清くいたもな言ひそ一日だに君いしなくはあへかたきかも
#[仮名],こときよく,いともないひそ,ひとひだに,きみいしなくは,あへかたきかも
#[左注]
#[校異]取 -> 敢 [古義][新考][菊沢季生]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]来られないことのきれい言をそんなにもひどくは言わないでください。一日でもあなたに会わないのならばがまんできません
#{語釈]
高田女王 門部王の兄の高安王の娘
今城王 519題詞 伝未詳。大原真人今城。天平宝字元年従五位下 家持と親交が深い。
君い  いは強意の副助詞
03/0237H01いなと言へど語れ語れと宣らせこそ志斐いは申せ強ひ語りと詔る

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0538
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]他辞乎 繁言痛 不相有寸 心在如 莫思吾背<子>
#[訓読]人言を繁み言痛み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背子
#[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,あはずありき,こころあるごと,なおもひわがせこ
#[左注]
#[校異]<> -> 子 [西(追補)][桂][紀]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]人のうわさが激しくてひどいので会わないでいたのですよ。浮気な気持ちがあるようには思わないでください。我が背子よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0539
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]吾背子師 遂常云者 人事者 繁有登毛 出而相麻志<乎>
#[訓読]我が背子し遂げむと言はば人言は繁くありとも出でて逢はましを
#[仮名],わがせこし,とげむといはば,ひとごとは,しげくありとも,いでてあはましを
#[左注]
#[校異]呼 -> 乎 [桂][元][紀][温]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]我が背子が添い遂げようとおっしゃるならば、人のうわさがひどくあったとしても家から出て逢おうものなのに
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0540
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]吾背子尓 復者不相香常 思墓 今朝別之 為便無有都流
#[訓読]我が背子にまたは逢はじかと思へばか今朝の別れのすべなかりつる
#[仮名],わがせこに,またはあはじか,とおもへばか,けさのわかれの,すべなかりつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,恋情,別れ,贈答
#[訓異]
#[大意]我が背子に再び逢えるだろうかと思うからなんだろうか。今朝の別れはどうしようもない気持ちになる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0541
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]現世尓波 人事繁 来生尓毛 将相吾背子 今不有十方
#[訓読]この世には人言繁し来む世にも逢はむ我が背子今ならずとも
#[仮名],このよには,ひとごとしげし,こむよにも,あはむわがせこ,いまならずとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]この世は人のうわさがひどい。来世でも逢おうよ。我が背子よ。今でなくとも
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0542
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]常不止 通之君我 使不来 今者不相跡 絶多比奴良思
#[訓読]常やまず通ひし君が使ひ来ず今は逢はじとたゆたひぬらし
#[仮名],つねやまず,かよひしきみが,つかひこず,いまはあはじと,たゆたひぬらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,贈答
#[訓異]
#[大意]いつも頻繁にやって来ていたあなたの使いは来ない。今は逢わないよと滞っているらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0543
#[題詞]神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>
#[原文]天皇之 行幸乃随意 物部乃 八十伴雄与 出去之 愛夫者 天翔哉 軽路従 玉田次 畝火乎見管 麻裳吉 木道尓入立 真土山 越良武公者 黄葉乃 散飛見乍 親 吾者不念 草枕 客乎便宜常 思乍 公将有跡 安蘇々二破 且者雖知 之加須我仁 黙然得不在者 吾背子之 徃乃萬々 将追跡者 千遍雖念 手<弱>女 吾身之有者 道守之 将問答乎 言将遣 為便乎不知跡 立而爪衝
#[訓読]大君の 行幸のまにま もののふの 八十伴の男と 出で行きし 愛し夫は 天飛ぶや 軽の路より 玉たすき 畝傍を見つつ あさもよし 紀路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし 我れは思はず 草枕 旅をよろしと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに 黙もえあらねば 我が背子が 行きのまにまに 追はむとは 千たび思へど 手弱女の 我が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと 立ちてつまづく
#[仮名],おほきみの,みゆきのまにま,もののふの,やそとものをと,いでゆきし,うるはしづまは,あまとぶや,かるのみちより,たまたすき,うねびをみつつ,あさもよし,きぢにいりたち,まつちやま,こゆらむきみは,もみちばの,ちりとぶみつつ,にきびにし,われはおもはず,くさまくら,たびをよろしと,おもひつつ,きみはあらむと,あそそには,かつはしれども,しかすがに,もだもえあらねば,わがせこが,ゆきのまにまに,おはむとは,ちたびおもへど,たわやめの,わがみにしあれば,みちもりの,とはむこたへを,いひやらむ,すべをしらにと,たちてつまづく
#[左注]
#[校異]笠朝臣金村作歌 -> 作歌 [桂][元] / <> -> 笠朝臣金村 [桂][元] / 嫋 -> 弱 [桂][元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,代作,行幸,紀伊,妻,都,羈旅,枕詞,地名,神亀1年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]大君の行幸に従ってもののふの大勢の伴人として出立していった愛しい夫は、空を飛ぶ雁ではないが、軽の道から玉たすきを項にかける畝傍山を見ながら、よい麻裳を作る紀州路に入り立って、真土山を今頃越えておられるであろうあなたは、黄葉の散り飛ぶのをみながら、慣れ親しんだ自分を思い出すこともなく草枕旅が楽しいと思いながらあなたはいるだろうと、うすうすは一方ではわかるが、そうではあるが黙っているわけにもいられないので、我が夫が行ったのに従って追いかけていこうとは何度も思うが、手弱女の我が身であるので、関所の番人が尋ねる答えを言う方法も知らないで立ちすくんでつまずいていることだ。

#{語釈]
神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時 続日本紀 聖武天皇10月5日~23日 紀州行幸
      八十島祭の行事か。
為贈従駕人所誂娘子  従駕する人に贈る為に娘子に誂らえて 従駕する人のために都に残った娘に頼まれて作った
あそそには  未詳  うすうすとの意か

#[説明]
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#[番号]04/0544
#[題詞](神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌
#[原文]後居而 戀乍不有者 木國乃 妹背乃山尓 有益物乎
#[訓読]後れ居て恋ひつつあらずは紀の国の妹背の山にあらましものを
#[仮名],おくれゐて,こひつつあらずは,きのくにの,いもせのやまに,あらましものを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,代作,行幸,紀伊,和歌山,妻,羈旅,地名,神亀1年10月,年紀#[訓異]
#[大意]後に残って恋い続けてはいずに紀の国の妹背の山であればよかったのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0545
#[題詞]((神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌)
#[原文]吾背子之 跡履求 追去者 木乃關守伊 将留鴨
#[訓読]我が背子が跡踏み求め追ひ行かば紀の関守い留めてむかも
#[仮名],わがせこが,あとふみもとめ,おひゆかば,きのせきもりい,とどめてむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,代作,行幸,紀伊,和歌山,妻,羈旅,地名,神亀1年10月,年紀#[訓異]
#[大意]我が夫の後を追いかけて行くならば、紀の関守が止めてしまうだろうか
#{語釈]
紀の関守  軍防令 軍防令 54 置関条 凡置関応守固者。並置配兵士分番上下。其三関者。設鼓吹軍器国司分当守固。所配兵士之数。依別式
紀州で具体的には不明。三関以外では、越中で砺波関

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0546
#[題詞]二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>
#[原文]三香<乃>原 客之屋取尓 珠桙乃 道能去相尓 天雲之 外耳見管 言将問 縁乃無者 情耳 咽乍有尓 天地 神祇辞因而 敷細乃 衣手易而 自妻跡 憑有今夜 秋夜之 百夜乃長 有与宿鴨
#[訓読]三香の原 旅の宿りに 玉桙の 道の行き逢ひに 天雲の 外のみ見つつ 言問はむ よしのなければ 心のみ 咽せつつあるに 天地の 神言寄せて 敷栲の 衣手交へて 己妻と 頼める今夜 秋の夜の 百夜の長さ ありこせぬかも
#[仮名],みかのはら,たびのやどりに,たまほこの,みちのゆきあひに,あまくもの,よそのみみつつ,こととはむ,よしのなければ,こころのみ,むせつつあるに,あめつちの,かみことよせて,しきたへの,ころもでかへて,おのづまと,たのめるこよひ,あきのよの,ももよのながさ,ありこせぬかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 笠朝臣金村作歌 -> 作歌 [桂][元][紀] / <> -> 笠朝臣金村 [桂][元][紀] / 之 -> 乃 [桂][元]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,行幸,久邇京,京都,地名,枕詞,神亀2年3月,年紀
#[訓異]
#[大意]三香の原、旅の仮泊に玉鉾の道に行き会い、天雲のように余所ながらばかり見続けて言葉を交わす手だてがないので、気持ちばかり鬱屈していた所、天地の神が仲を取り持って敷妙の衣手を取り交わして我が妻と頼みにする今夜、秋の夜の百の夜ほどもある長い夜があってはくれないものか。
#{語釈]
二年乙丑春三月 続日本紀 行幸記事なし。聖武天皇時代。元明上皇の意向によるか。
三香原離宮  後の恭仁宮  甕(野)原とも表記される。
神言寄 神が言葉を寄せて  仲を取り持って

#[説明]
行幸時の都の妻から離れて孤独になっている男の希望を歌ったもの。

#[関連論文]


#[番号]04/0547
#[題詞](二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌
#[原文]天雲之 外従見 吾妹兒尓 心毛身副 縁西鬼尾
#[訓読]天雲の外に見しより我妹子に心も身さへ寄りにしものを
#[仮名],あまくもの,よそにみしより,わぎもこに,こころもみさへ,よりにしものを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,行幸,久邇京,京都,枕詞,地名,神亀2年3月
#[訓異]
#[大意]天の雲のように余所ながら見ていた我が妹子に心ばかりでなく体までも寄り添ってしまったものだ
#{語釈]
を 感動の余韻を残す終助詞

#[説明]
官能的に詠んでいる

#[関連論文]


#[番号]04/0548
#[題詞]((二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌)
#[原文]今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎 願鶴鴨
#[訓読]今夜の早く明けなばすべをなみ秋の百夜を願ひつるかも
#[仮名],こよひの,はやくあけなば,すべをなみ,あきのももよを,ねがひつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,行幸,久邇京,京都,地名,神亀2年3月
#[訓異]
#[大意]今夜が早く明けてしまったならばどうしようもないので、秋の長い夜が百もあって欲しいと願っていることだ

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0549
#[題詞]五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首
#[原文]天地之 神毛助与 草枕 羈行君之 至家左右
#[訓読]天地の神も助けよ草枕旅行く君が家にいたるまで
#[仮名],あめつちの,かみもたすけよ,くさまくら,たびゆくきみが,いへにいたるまで
#[左注](右三首作者未詳)
#[校異]歌 [西] 謌 / 太 -> 大 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,石川足人,餞別,羈旅,枕詞,福岡,地名,神亀5年,年紀
#[訓異]
#[大意]天地の神も助けてくれ。草枕旅に行くあなたが都の家に至り着くまで
#{語釈]
五年戊辰 神亀五年  この秋頃に大伴旅人が太宰帥任官
<大>宰少貳石川足人朝臣 和銅5年 従五位下、神亀元年従五位上 6.955 太宰府に任官
蘆城驛家 福岡県筑紫野市 田川道の最初の駅家

#[説明]
餞別の歌

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#[番号]04/0550
#[題詞](五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首)
#[原文]大船之 念憑師 君之去者 吾者将戀名 直相左右二
#[訓読]大船の思ひ頼みし君が去なば我れは恋ひむな直に逢ふまでに
#[仮名],おほぶねの,おもひたのみし,きみがいなば,あれはこひむな,ただにあふまでに
#[左注](右三首作者未詳)
#[校異]
#[鄣W],相聞,石川足人,餞別,羈旅,恋情,福岡,地名,神亀5年,年紀
#[訓異]
#[大意]大船のように頼みに思っていたあなたが去ってしまったならば自分は恋い思うだろうよ。また直接会うまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0551
#[題詞](五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首)
#[原文]山跡道之 嶋乃浦廻尓 縁浪 間無牟 吾戀巻者
#[訓読]大和道の島の浦廻に寄する波間もなけむ我が恋ひまくは
#[仮名],やまとぢの,しまのうらみに,よするなみ,あひだもなけむ,あがこひまくは
#[左注]右三首作者未詳
#[校異]
#[鄣W],相聞,石川足人,餞別,羈旅,序詞,恋情,福岡,地名,神亀5年
#[訓異]
#[大意]大和への道の島の浦のめぐりに寄せる波ではないが、間断もないことだろう。自分が恋い思うことは

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0552
#[題詞]大伴宿祢三依歌一首
#[原文]吾君者 和氣乎波死常 念可毛 相夜不相<夜> 二走良武
#[訓読]我が君はわけをば死ねと思へかも逢ふ夜逢はぬ夜二走るらむ
#[仮名],あがきみは,わけをばしねと,おもへかも,あふよあはぬよ,ふたはしるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 夜 [西(右書)][桂][元]
#[鄣W],相聞,作者:大伴三依,怨恨,恋情
#[訓異]
#[大意]
我が君は自分を死ねとでも思っているのか、逢う夜と逢わない夜が両方平行して続いている
#{語釈]
大伴宿祢三依  大伴御行の子ども 天平20年40歳あまりで従五位下
        宝亀五年散位従四位下で卒

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0553
#[題詞]丹生女王贈<大>宰帥大伴卿歌二首
#[原文]天雲乃 遠隔乃極 遠鷄跡裳 情志行者 戀流物可聞
#[訓読]天雲のそくへの極み遠けども心し行けば恋ふるものかも
#[仮名],あまくもの,そくへのきはみ,とほけども,こころしゆけば,こふるものかも
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:丹生女王,大伴旅人,羈旅,贈答,恋情
#[訓異]
#[大意]天雲の遠くへだった極みのように遠いけれども思いが通じると恋い思うことです
#{語釈]
丹生女王 天平十一年従四位上  天平勝宝三年正四位上
そくへ  退く辺  遠くへだった所
心し行けば   思いが通じる  何者にもさえぎられずに行く

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0554
#[題詞](丹生女王贈<大>宰帥大伴卿歌二首)
#[原文]古人乃 令食有 吉備能酒 <病>者為便無 貫簀賜牟
#[訓読]古人のたまへしめたる吉備の酒病めばすべなし貫簀賜らむ
#[仮名],ふるひとの,たまへしめたる,きびのさけ,やめばすべなし,ぬきすたばらむ
#[左注]
#[校異]痛 -> 病 [元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:丹生女王,大伴旅人,贈答
#[訓異]
#[大意]昔なじみの人が下さった吉備の酒。飲んでも効果がないのならばどうしようもない。どうせならば貫簀をいただきたい
#{語釈]
古人  昔なじみの人 年老いた人  大伴旅人を指す
吉備の酒 備後が酒の産地として有名  吉備産の酒  
     薬酒を送ったか 甘い芳醇な味醂に似たものか
病めばすべなし せっかく薬用酒をもらったのに、治らなかったらしかたがない
        飲み過ぎて嘔吐したらどうしようもない(少し品がない。近い仲だからといってふざけ過ぎ))

貫簀  手や顔を洗う時に、洗い桶の上に懸けて水が飛び散らないようにした簀の子
吉備産が有名であったか

#[説明]
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#[番号]04/0555
#[題詞]<大>宰帥大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿歌一首
#[原文]為君 醸之待酒 安野尓 獨哉将飲 友無二思手
#[訓読]君がため醸みし待酒安の野にひとりや飲まむ友なしにして
#[仮名],きみがため,かみしまちざけ,やすののに,ひとりやのまむ,ともなしにして
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴旅人,丹比縣守,餞別,送別,太宰府,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]あなたのために作った待酒を安の野で独りで飲むことなのであろうか。友人もいなくて
#{語釈]
丹比縣守 左大臣嶋の子。和銅四年従五位上  天平九年生三位中納言で薨去。
安の野  549 蘆城驛家周辺の野
待酒   友人と飲むために作った酒。出来上がる前に友人は都へと行く

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0556
#[題詞]賀茂女王贈大伴宿祢三依歌一首 [故左大臣長屋王之女也]
#[原文]筑紫船 未毛不来者 豫 荒振公乎 見之悲左
#[訓読]筑紫船いまだも来ねばあらかじめ荒ぶる君を見るが悲しさ
#[仮名],つくしふね,いまだもこねば,あらかじめ,あらぶるきみを,みるがかなしさ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:賀茂女王,大伴三依,恨み,離別,贈答
#[訓異]
#[大意]築紫へ行く船がまだ来てもいないのに、よそよそしくするあなたを見るのは悲しいことです
#{語釈]
賀茂女王  08/1613 母阿倍朝臣
荒ぶる  荒々しくする  よそよそしくする

#[説明]
築紫へ赴任する直前か

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#[番号]04/0557
#[題詞]土師宿祢水<道>従筑紫上京海路作歌二首
#[原文]大船乎 榜乃進尓 磐尓觸 覆者覆 妹尓因而者
#[訓読]大船を漕ぎの進みに岩に触れ覆らば覆れ妹によりては
#[仮名],おほぶねを,こぎのすすみに,いはにふれ,かへらばかへれ,いもによりては
#[左注]
#[校異]通 -> 道 [桂][元] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:土師水道,羈旅,送別,餞別,太宰府,福岡
#[訓異]大船を漕いで進んで岩に触れて転覆するならば転覆してもよい。帰ることが出来て妹に寄り添えるのならば
#[大意]
#{語釈]
土師宿祢水<道> 伝未詳 05/0843

#[説明]
船が座礁を恐れてゆっくりと進むことからのいらだちか

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#[番号]04/0558
#[題詞](土師宿祢水<道>従筑紫上京海路作歌二首)
#[原文]千磐破 神之社尓 我<挂>師 幣者将賜 妹尓不相國
#[訓読]ちはやぶる神の社に我が懸けし幣は賜らむ妹に逢はなくに
#[仮名],ちはやぶる,かみのやしろに,わがかけし,ぬさはたばらむ,いもにあはなくに
#[左注]
#[校異]掛 -> 挂 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:土師水道,送別,太宰府,福岡,餞別,枕詞
#[訓異]
#[大意]霊威ある神の社に自分が懸けた幣を返して欲しい。妹に会わないのに
#{語釈]
幣は賜らむ  海が荒れていてうまく旅が進まないことから、安全を祈ったのに約束が実現されていないという気持ちを述べる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0559
#[題詞]<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首
#[原文]事毛無 生来之物乎 老奈美尓 如是戀<乎>毛 吾者遇流香聞
#[訓読]事もなく生き来しものを老いなみにかかる恋にも我れは逢へるかも
#[仮名],こともなく,いきこしものを,おいなみに,かかるこひにも,われはあへるかも
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 于 -> 乎 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,老齢,恋情
#[訓異]
#[大意]何事もなく生きて来たものなのに。年をとってながらこんな恋に自分は会ったことだ
#{語釈]
<大>宰大監 太宰府の三等官
大伴宿祢百代 05/0823 大伴氏の系譜未詳
       天平二年頃太宰大監 天平十九年正五位下

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0560
#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
#[原文]孤悲死牟 後者何為牟 生日之 為社妹乎 欲見為礼
#[訓読]恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ妹を見まく欲りすれ
#[仮名],こひしなむ,のちはなにせむ,いけるひの,ためこそいもを,みまくほりすれ
#[左注]
#[校異]後 [元][桂][紀] 時
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い死にしてしまったらどうしようか。生きている今日のためにこそ妹を見たいと思うのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0561
#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
#[原文]不念乎 思常云者 大野有 三笠社之 神思知三
#[訓読]思はぬを思ふと言はば大野なる御笠の杜の神し知らさむ
#[仮名],おもはぬを,おもふといはば,おほのなる,みかさのもりの,かみししらさむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,福岡,太宰府,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い思わないのを思うとウソをつくのは大野にある御笠の杜の神がお知りになって罰が下るでしょう。(だから私は本心を言っているのです)
#{語釈]
大野なる御笠の杜 福岡県大野城市山田にあった社 南福岡駅の東北の森が跡

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0562
#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
#[原文]無暇 人之眉根乎 徒 令掻乍 不相妹可聞
#[訓読]暇なく人の眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ妹かも
#[仮名],いとまなく,ひとのまよねを,いたづらに,かかしめつつも,あはぬいもかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,怨恨,恋情
#[訓異]
#[大意]間断なく他人の眉を掻かせ続けるわりには会わない妹であることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0563
#[題詞]大伴坂上郎女歌二首
#[原文]黒髪二 白髪交 至耆 如是有戀庭 未相尓
#[訓読]黒髪に白髪交り老ゆるまでかかる恋にはいまだ逢はなくに
#[仮名],くろかみに,しろかみまじり,おゆるまで,かかるこひには,いまだあはなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,老齢,恋情
#[訓異]
#[大意]黒髪に白髪が交じって年をとった今までこんな激しい恋にはまだ会ったことがない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0564
#[題詞](大伴坂上郎女歌二首)
#[原文]山菅<之> 實不成事乎 吾尓所依 言礼師君者 与孰可宿良牟
#[訓読]山菅の実ならぬことを我れに寄せ言はれし君は誰れとか寝らむ
#[仮名],やますげの,みならぬことを,われによせ,いはれしきみは,たれとかぬらむ
#[左注]
#[校異]乃 -> 之 [桂][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,戯笑,怨恨,植物,恋愛
#[訓異]
#[大意]山菅の実がならないように、所詮成就しないことであるので、自分との間をうわさで取りざたされたあなたは今頃誰と寝ているのでしょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0565
#[題詞]賀茂女王歌一首
#[原文]大伴乃 見津跡者不云 赤根指 照有月夜尓 直相在登聞
#[訓読]大伴の見つとは言はじあかねさし照れる月夜に直に逢へりとも
#[仮名],おほともの,みつとはいはじ,あかねさし,てれるつくよに,ただにあへりとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:賀茂女王,うわさ,枕詞,掛詞,地名,大阪,恋愛
#[訓異]
#[大意]大伴の御津ではないが、会ったとは言いません。赤みがかって照っている月夜に
直接会っているとはしても
#{語釈]
賀茂女王 0555 08/1613 母阿倍朝臣

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0566
#[題詞]<大>宰大監大伴宿祢百代等贈驛使歌二首
#[原文]草枕 羈行君乎 愛見 副而曽来四 鹿乃濱邊乎
#[訓読]草枕旅行く君を愛しみたぐひてぞ来し志賀の浜辺を
#[仮名],くさまくら,たびゆくきみを,うるはしみ,たぐひてぞこし,しかのはまべを
#[左注]右一首大監大伴宿祢百代 / (以前天平二年庚午夏六月 帥大伴卿忽生瘡脚疾苦枕席 因此馳驛上奏 望請庶弟稲公姪胡麻呂欲語遺言者 勅右兵庫助大伴宿祢稲公治部少<丞>大伴宿祢胡麻呂兩人 給驛發遣令省卿病 而逕數<旬>幸得平復 于時稲公等以病既療 發府上京 於是大監大伴宿祢百代少典山口忌寸若麻呂及卿男家持等相送驛使 共到夷守驛家 聊飲悲別乃作此歌)
#[校異]太 -> 大 [桂][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,送別,羈旅,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]草枕、旅に行くあなたたちが慕わしく離れがたいので、一緒に来たことだ。志賀の浜辺まで

#{語釈]
以前、天平二年庚午夏六月、帥大伴卿忽ち生瘡(もがさ)を脚に生(な)し、枕席(しんせき)に疾(や)み苦しぶ。此れに因りて馳驛(ちやく)して上奏し、庶弟稲公、姪胡麻呂に遺言を語らまく欲りすと望み請ふ。右兵庫助大伴宿祢稲公、治部少<丞>大伴宿祢胡麻呂の兩人に勅して、驛(はゆま)を賜ひて發遣(つかは)し、卿の病を省(み)しめたまふ。しかるに數<旬>を逕て、幸く平復することを得。時に稲公等、病の既に療(い)えたるを以て、府を發(た)ちて京に上る。是に大監大伴宿祢百代、少典山口忌寸若麻呂及び卿の男(こ)家持等、驛使を相送りて 共に夷守(ひなもり)の驛家に到り、聊かに飲みて別れを悲び乃ち作る此歌

馳驛(ちやく)して上奏し  巻五・旅と歌 延喜式に太宰府行程上二十七日、下り十四日、海道三十日
夷守の驛家 所在未詳。粕屋郡粕屋町付近か。海の中道に行く付け根あたりか。

#[説明]
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#[番号]04/0567
#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代等贈驛使歌二首)
#[原文]周防在 磐國山乎 将超日者 手向好為与 荒其<道>
#[訓読]周防なる磐国山を越えむ日は手向けよくせよ荒しその道
#[仮名],すはなる,いはくにやまを,こえむひは,たむけよくせよ,あらしそのみち
#[左注]右一首少典山口忌寸若麻呂 / 以前天平二年庚午夏六月 帥大伴卿忽生瘡脚疾苦枕席 因此馳驛上奏 望請 庶弟稲公姪胡麻呂欲語遺言者 勅右兵庫助大伴宿祢稲公治部少<丞>大伴宿祢 胡麻呂兩人 給驛發遣令省卿病 而逕數<旬>幸得平復于時稲公等以病既療 發府上京 於是大監大伴宿祢百代少典山口忌寸若麻呂及卿男家持等相送驛使 共到夷守驛家 聊飲悲別乃作此歌
#[校異]庭 -> 道 [西(貼紙)][桂][元] / 蒸 -> 丞 [桂] / 看 -> 省 [桂][元][紀] / 句 -> 旬 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,送別,羈旅,安全,山口,地名
#[訓異]
#[大意]周防にある岩国山を越える日は手向けをよくしなさい。荒々しいですよ。その道は。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0568
#[題詞]<大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首
#[原文]三埼廻之 荒礒尓縁 五百重浪 立毛居毛 我念流吉美
#[訓読]み崎廻の荒磯に寄する五百重波立ちても居ても我が思へる君
#[仮名],みさきみの,ありそによする,いほへなみ,たちてもゐても,あがもへるきみ
#[左注]右一首筑前掾門部連石足
#[校異]太 -> 大 [桂][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:門部石足,大伴旅人,餞宴,送別,恋情,序詞,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]御崎の廻りの荒磯に寄せる幾重もの浪ではないが、そのように何度も立っても座っても自分は思い続けるあなたであるよ
#{語釈]
門部連石足  伝未詳 梅花宴に参加


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0569
#[題詞](<大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首)
#[原文]辛人之 衣染云 紫之 情尓染而 所念鴨
#[訓読]韓人の衣染むといふ紫の心に染みて思ほゆるかも
#[仮名],からひとの,ころもそむといふ,むらさきの,こころにしみて,おもほゆるかも
#[左注](右二首大典麻田連陽春)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:麻田陽春,大伴旅人,餞宴,恋情,送別,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]唐の人が衣に染めるという紫が衣に染み付くように、紫の衣を着られるあなたが心に染みついて恋しく思われてならない
#{語釈]
麻田陽春 百済系渡来人 神亀元年 正八位上答本(たほ)陽春に朝田連姓
     天平十一年 外従五位下
     懐風藻 享年五十六歳

衣に染みて 紫の衣 三位大納言の位色

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0570
#[題詞](<大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首)
#[原文]山跡邊 君之立日乃 近付者 野立鹿毛 動而曽鳴
#[訓読]大和へに君が発つ日の近づけば野に立つ鹿も響めてぞ鳴く
#[仮名],やまとへに,きみがたつひの,ちかづけば,のにたつしかも,とよめてぞなく
#[左注]右二首大典麻田連陽春
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:麻田陽春,大伴旅人,餞宴,恋情,送別,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]大和の方にあなたが出発する日が近づくので野に立つ鹿も声を響かせて鳴くことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0571
#[題詞](<大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首)
#[原文]月夜吉 河音清之 率此間 行毛不去毛 遊而将歸
#[訓読]月夜よし川の音清しいざここに行くも行かぬも遊びて行かむ
#[仮名],つくよよし,かはのおときよし,いざここに,ゆくもゆかぬも,あそびてゆかむ
#[左注]右一首防人佑大伴四綱
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴四綱,大伴旅人,餞宴,送別,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]月夜もよい。川の音も清い。ちょっとの間も行くのも行かないのも遊んで行こう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0572
#[題詞]<大>宰帥大伴卿上京之後沙弥満誓贈卿歌二首
#[原文]真十鏡 見不飽君尓 所贈哉 旦夕尓 左備乍将居
#[訓読]まそ鏡見飽かぬ君に後れてや朝夕にさびつつ居らむ
#[仮名],まそかがみ,みあかぬきみに,おくれてや,あしたゆふへに,さびつつをらむ
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:沙弥満誓,大伴旅人,恋情,送別,枕詞,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]真澄の鏡ではないが、見ても見飽きないあなたに、後に残って朝夕にさびしく思っているだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0573
#[題詞](<大>宰帥大伴卿上京之後沙弥満誓贈卿歌二首)
#[原文]野干玉之 黒髪變 白髪手裳 痛戀庭 相時有来
#[訓読]ぬばたまの黒髪変り白けても痛き恋には逢ふ時ありけり
#[仮名],ぬばたまの,くろかみかはり,しらけても,いたきこひには,あふときありけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:沙弥満誓,大伴旅人,恋情,送別,年齢,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの黒髪が変わって白髪になってもひどい恋に会う時はあるものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0574
#[題詞]大納言大伴卿和歌二首
#[原文]此間在而 筑紫也何處 白雲乃 棚引山之 方西有良思
#[訓読]ここにありて筑紫やいづち白雲のたなびく山の方にしあるらし
#[仮名],ここにありて,つくしやいづち,しらくもの,たなびくやまの,かたにしあるらし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:大伴旅人,和歌,羈旅,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]ここにあって築紫はどこだ。白雲のたなびく山の方にあるらしい
#{語釈]
#[説明]
出発後の歌

#[関連論文]


#[番号]04/0575
#[題詞](大納言大伴卿和歌二首)
#[原文]草香江之 入江二求食 蘆鶴乃 痛多豆多頭思 友無二指天
#[訓読]草香江の入江にあさる葦鶴のあなたづたづし友なしにして
#[仮名],くさかえの,いりえにあさる,あしたづの,あなたづたづし,ともなしにして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴旅人,和歌,孤独,羈旅,大阪,地名,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]草香江の入り江でえさを取っている葦鶴ではないが、ああ心細いことだ。友もいなくて
#{語釈]
草香江  東大阪市あたりの入り江

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0576
#[題詞]<大>宰帥大伴卿上京之後筑後守葛井連大成悲嘆作歌一首
#[原文]従今者 城山道者 不樂牟 吾将通常 念之物乎
#[訓読]今よりは城の山道は寂しけむ我が通はむと思ひしものを
#[仮名],いまよりは,きのやまみちは,さぶしけむ,わがかよはむと,おもひしものを
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:葛井大成,大伴旅人,愛慕,福岡,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]今からは城の山道はさびしいだろう。自分が通おうと思っていたのに

#{語釈]
後筑後守葛井連大成  神亀6年外従五位下 06/1003
城の山道 太宰府西南  基山

#[説明]
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#[番号]04/0577
#[題詞]大納言大伴卿新袍贈攝津大夫高安王歌一首
#[原文]吾衣 人莫著曽 網引為 難波壮士乃 手尓者雖觸
#[訓読]我が衣人にな着せそ網引する難波壮士の手には触るとも
#[仮名],あがころも,ひとになきせそ,あびきする,なにはをとこの,てにはふるとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴旅人,高安王,大阪,地名,贈答
#[訓異]
#[大意]自分の衣を他人には着せるなよ。網を引く難波男の手には触れるとしても
#{語釈]
攝津大夫高安王 長皇子の孫。537、844 高田女王の父。天平11年大原真人高安

#[説明]
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#[番号]04/0578
#[題詞]大伴宿祢三依悲別歌一首
#[原文]天地与 共久 住波牟等 念而有師 家之庭羽裳
#[訓読]天地とともに久しく住まはむと思ひてありし家の庭はも
#[仮名],あめつちと,ともにひさしく,すまはむと,おもひてありし,いへのにははも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴三依,大伴旅人,挽歌発想
#[訓異]
#[大意]天地とともにいつまでも住もうと思っていた家の庭はなあ
#{語釈]
悲別  旅人の薨去 天平3年 67歳。
家の庭 佐保邸の庭

#[説明]
類想  02/0171、176

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#[番号]04/0579
#[題詞]<余>明軍與大伴宿祢家持歌二首 [明軍者大納言卿之資人也]
#[原文]奉見而 未時太尓 不更者 如年月 所念君
#[訓読]見まつりていまだ時だに変らねば年月のごと思ほゆる君
#[仮名],みまつりて,いまだときだに,かはらねば,としつきのごと,おもほゆるきみ
#[左注]
#[校異]金 -> 余 [桂][元][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:余明軍,大伴家持
#[訓異]
#[大意]お会い申し上げてまだそれほど経っていないのに、長い年月ともに過ごしたと思われるあなたである
#{語釈]
見まつりて お世話申し上げて
資人  五位以上、中納言以上の官職に応じて朝廷から支給される共人。
    旅人は従二位 80人 大納言 100人  1年の喪に服して解任。
<余>明軍  百済王族系の渡来人 西本願寺本「金」古、金による  394題詞
      旅人の資人 03/0394 454~9

#[説明]
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#[番号]04/0580
#[題詞](<余>明軍與大伴宿祢家持歌二首 [明軍者大納言卿之資人也])
#[原文]足引乃 山尓生有 菅根乃 懃見巻 欲君可聞
#[訓読]あしひきの山に生ひたる菅の根のねもころ見まく欲しき君かも
#[仮名],あしひきの,やまにおひたる,すがのねの,ねもころみまく,ほしききみかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:余明軍,大伴家持,植物,序詞
#[訓異]
#[大意]あしひきお山に生えている管の根ではないが、懇ろにいつまでも会いたいと思っていたあなたであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0581
#[題詞]大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首
#[原文]生而有者 見巻毛不知 何如毛 将死与妹常 夢所見鶴
#[訓読]生きてあらば見まくも知らず何しかも死なむよ妹と夢に見えつる
#[仮名],いきてあらば,みまくもしらず,なにしかも,しなむよいもと,いめにみえつる
#[左注]
#[校異]賜 -> 贈 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,夢,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]生きている限り会うこともあるかも知れません。それなのにどうして死ぬだろう妹よとあなたは夢に見えたのですか。
#{語釈]
#[説明]
前後の歌の配列から天平4年頃。家持14歳。大嬢 10歳頃か。

#[関連論文]


#[番号]04/0582
#[題詞](大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)
#[原文]大夫毛 如此戀家流乎 幼婦之 戀情尓 比有目八方
#[訓読]ますらをもかく恋ひけるをたわやめの恋ふる心にたぐひあらめやも
#[仮名],ますらをも,かくこひけるを,たわやめの,こふるこころに,たぐひあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,贈答
#[訓異]
#[大意]男であるますらをもこれほど恋い思っていたと言いますが、手弱女である私の恋い思う気持ちに比類がありましょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0583
#[題詞](大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)
#[原文]月草之 徙安久 念可母 我念人之 事毛告不来
#[訓読]月草のうつろひやすく思へかも我が思ふ人の言も告げ来ぬ
#[仮名],つきくさの,うつろひやすく,おもへかも,わがおもふひとの,こともつげこぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,植物,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]月草のように心変わりしやすいと思うでしょうか。自分が恋い思う人の便りもない
#{語釈]
月草  露草 染めた時に褪色しやすい

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0584
#[題詞](大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)
#[原文]春日山 朝立雲之 不居日無 見巻之欲寸 君毛有鴨
#[訓読]春日山朝立つ雲の居ぬ日なく見まくの欲しき君にもあるかも
#[仮名],かすがやま,あさたつくもの,ゐぬひなく,みまくのほしき,きみにもあるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,恋情,奈良,地名,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]春日山に朝立ち上る雲のない日がないように、いつもお会いしたいあなたであるよ
#{語釈]
春日山朝立つ雲の居ぬ日なく  朝いつも春日山には雲がかかっている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0585
#[題詞]大伴坂上郎女歌一首
#[原文]出而将去 時之波将有乎 故 妻戀為乍 立而可去哉
#[訓読]出でていなむ時しはあらむをことさらに妻恋しつつ立ちていぬべしや
#[仮名],いでていなむ,ときしはあらむを,ことさらに,つまごひしつつ,たちていぬべしや
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋愛
#[訓異]
#[大意]出て帰る時はいつでもあるのに、ことさら妻を恋しがって立って帰るということがありましょうか。
#{語釈]
#[説明]
帰ろうとする客に対してからかって言ったもの

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#[番号]04/0586
#[題詞]大伴宿祢稲公贈田村大嬢歌一首 [大伴<宿>奈麻呂卿<之>女也]
#[原文]不相見者 不戀有益乎 妹乎見而 本名如此耳 戀者奈何将為
#[訓読]相見ずは恋ひずあらましを妹を見てもとなかくのみ恋ひばいかにせむ
#[仮名],あひみずは,こひずあらましを,いもをみて,もとなかくのみ,こひばいかにせむ
#[左注]右一首姉坂上郎女作
#[校異]宿祢 -> 宿 [西(訂正)][温][矢] / <> -> 之 [元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴稲公,坂上郎女,田村大嬢,代作,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]共に会わなかったならば恋い思うことはなかったものなのに。妹と会ってむやみにこのように恋い思うとどのようにしようか
#{語釈]
大伴宿祢稲公 安麻呂の子、旅人の兄。
田村大嬢 旅人兄、宿奈麻呂の娘  田村 759左注 

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0587
#[題詞]笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首
#[原文]吾形見 々管之努波世 荒珠 年之緒長 吾毛将思
#[訓読]我が形見見つつ偲はせあらたまの年の緒長く我れも偲はむ
#[仮名],わがかたみ,みつつしのはせ,あらたまの,としのをながく,われもしのはむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答,枕詞
#[訓異]
#[大意]自分の形見を見ながら偲んでください。あらたまの年月長く自分も恋い思いましょう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0588
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]白鳥能 飛羽山松之 待乍曽 吾戀度 此月比乎
#[訓読]白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ我が恋ひわたるこの月ごろを
#[仮名],しらとりの,とばやままつの,まちつつぞ,あがこひわたる,このつきごろを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答,枕詞,奈良,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]白鳥の飛ぶ鳥羽山の松ではないが、あなたを待って自分は恋い続けていることだ。この月頃を
#{語釈]
白鳥の飛羽山松 所在未詳 若草山の北に続く山か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0589
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]衣手乎 打廻乃里尓 有吾乎 不知曽人者 待跡不来家留
#[訓読]衣手を打廻の里にある我れを知らにぞ人は待てど来ずける
#[仮名],ころもでを,うちみのさとに,あるわれを,しらにぞひとは,まてどこずける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,待つ,恋情,枕詞,奈良,地名,贈答
#[訓異]
#[大意]衣手を打つ打廻の里にいる自分であるのに知らないでとしてあなたは待っても来ない
#{語釈]
打廻の里 所在未詳。佐保に近い所か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0590
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]荒玉 年之經去者 今師波登 勤与吾背子 吾<名>告為莫
#[訓読]あらたまの年の経ぬれば今しはとゆめよ我が背子我が名告らすな
#[仮名],あらたまの,としのへぬれば,いましはと,ゆめよわがせこ,わがなのらすな
#[左注]
#[校異]<> -> 名 [西(右書)][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,名,うわさ,贈答,枕詞
#[訓異]
#[大意]あらたまの年が経ったからといって今はもういいとして決して自分の名前はおっしゃるな
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0591
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]吾念乎 人尓令知哉 玉匣 開阿氣津跡 夢西所見
#[訓読]我が思ひを人に知るれか玉櫛笥開きあけつと夢にし見ゆる
#[仮名],わがおもひを,ひとにしるれか,たまくしげ,ひらきあけつと,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,うわさ,贈答,枕詞
#[訓異]
#[大意]自分の恋い心を他人に知られたのだろうか。玉櫛笥を開き明けたと夢に見えたことだ
#{語釈]
知るれ  下二段已然形

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0592
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]闇夜尓 鳴奈流鶴之 外耳 聞乍可将有 相跡羽奈之尓
#[訓読]闇の夜に鳴くなる鶴の外のみに聞きつつかあらむ逢ふとはなしに
#[仮名],やみのよに,なくなるたづの,よそのみに,ききつつかあらむ,あふとはなしに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恨み,贈答,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]闇の夜に鳴き声だけが聞こえる鶴のように、他人事のように聞いているのだろうか。会うということはないままに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0593
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]君尓戀 痛毛為便無見 楢山之 小松之下尓 立嘆鴨
#[訓読]君に恋ひいたもすべなみ奈良山の小松が下に立ち嘆くかも
#[仮名],きみにこひ,いたもすべなみ,ならやまの,こまつがしたに,たちなげくかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,待つ,奈良,地名,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]あなたに恋い思ってどうしようもないので平城山の小松の下で立ち嘆くことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0594
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]吾屋戸之 暮陰草乃 白露之 消蟹本名 所念鴨
#[訓読]我がやどの夕蔭草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも
#[仮名],わがやどの,ゆふかげくさの,しらつゆの,けぬがにもとな,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,植物,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]自分の家の夕蔭にひっそりと生える雑草に置く白露。それがいつの間にか消えてしまうように消えてしまいそうにむやたらと思われてならない
#{語釈]
#[説明]
消ぬがに がには、終止形を受けて程度を著す副詞句を造る

#[関連論文]


#[番号]04/0595
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]吾命之 将全<牟>限 忘目八 弥日異者 念益十方
#[訓読]我が命の全けむ限り忘れめやいや日に異には思ひ増すとも
#[仮名],わがいのちの,またけむかぎり,わすれめや,いやひにけには,おもひますとも
#[左注]
#[校異]幸 -> 牟 [元]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]自分の命が大丈夫なうちはあなたを忘れることがありましょうか。ますます日に日に思いがつのることはあろうとも
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0596
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]八百日徃 濱之沙毛 吾戀二 豈不益歟 奥嶋守
#[訓読]八百日行く浜の真砂も我が恋にあにまさらじか沖つ島守
#[仮名],やほかゆく,はまのまなごも,あがこひに,あにまさらじか,おきつしまもり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答,掛詞
#[訓異]
#[大意]八百日も行く長い浜の砂の数も自分の恋いには勝らないでしょうよ。沖の島守よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0597
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]宇都蝉之 人目乎繁見 石走 間近<君>尓 戀度可聞
#[訓読]うつせみの人目を繁み石橋の間近き君に恋ひわたるかも
#[仮名],うつせみの,ひとめをしげみ,いしはしの,まちかききみに,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]<> -> 君 [西(左書)][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]現実の世の人の目が多いので石橋のように短い間隔のようにすぐの所にいるあなたなのに恋い続けることです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0598
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]戀尓毛曽 人者死為 水<無>瀬河 下従吾痩 月日異
#[訓読]恋にもぞ人は死にする水無瀬川下ゆ我れ痩す月に日に異に
#[仮名],こひにもぞ,ひとはしにする,みなせがは,したゆわれやす,つきにひにけに
#[左注]
#[校異]<> -> 無 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋病,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]恋であっても人は死ぬものだ。水無川の下水ではないが、人知れずやせ細るばかりだ。日を追うごとに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0599
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]朝霧之 欝相見之 人故尓 命可死 戀渡鴨
#[訓読]朝霧のおほに相見し人故に命死ぬべく恋ひわたるかも
#[仮名],あさぎりの,おほにあひみし,ひとゆゑに,いのちしぬべく,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]朝霧のようにぼんやりと会った人だから命が死ぬほど恋い続けることである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0600
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]伊勢海之 礒毛動尓 因流波 恐人尓 戀渡鴨
#[訓読]伊勢の海の礒もとどろに寄する波畏き人に恋ひわたるかも
#[仮名],いせのうみの,いそもとどろに,よするなみ,かしこきひとに,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,三重,地名,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]伊勢の海の磯に響いて寄せてくる波ではないが、恐ろしい、恐れ多い人に恋続けることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0601
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]従情毛 吾者不念寸 山河毛 隔莫國 如是戀常羽
#[訓読]心ゆも我は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは
#[仮名],こころゆも,わはおもはずき,やまかはも,へだたらなくに,かくこひむとは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]心からも思っていなかった。山川も隔たっていないのにこのように恋い思うとは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0602
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]暮去者 物念益 見之人乃 言問為形 面景尓而
#[訓読]夕されば物思ひまさる見し人の言とふ姿面影にして
#[仮名],ゆふされば,ものもひまさる,みしひとの,こととふすがた,おもかげにして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]夕方になると物思いが強くなる。会った人の言葉を問いかけてくる姿が面影に立って
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0603
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]念西 死為物尓 有麻世波 千遍曽吾者 死變益
#[訓読]思ふにし死にするものにあらませば千たびぞ我れは死にかへらまし
#[仮名],おもひにし,しにするものに,あらませば,ちたびぞわれは,しにかへらまし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]恋い思うだけで死ぬものであるならば、千回も自分は死に返るでえしょう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0604
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]劔大刀 身尓取副常 夢見津 何如之恠曽毛 君尓相為
#[訓読]剣大刀身に取り添ふと夢に見つ何のさがぞも君に逢はむため
#[仮名],つるぎたち,みにとりそふと,いめにみつ,なにのさがぞも,きみにあはむため
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,夢,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]剣太刀を身に取り添えると夢に見た。何の兆候だろうか。あなたに会うということなのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0605
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]天地之 神理 無者社 吾念君尓 不相死為目
#[訓読]天地の神の理なくはこそ我が思ふ君に逢はず死にせめ
#[仮名],あめつちの,かみのことわり,なくはこそ,あがおもふきみに,あはずしにせめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]天地の神の道理がなかったならば自分が恋い思う人に会わないで死ぬだろう(しかし道理はあるので、生きて逢いますよ)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0606
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]吾毛念 人毛莫忘 多奈和丹 浦吹風之 止時無有
#[訓読]我れも思ふ人もな忘れおほなわに浦吹く風のやむ時もなし
#[仮名],われもおもふ,ひともなわすれ,おほなわに,うらふくかぜの,やむときもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]自分も恋い思う。あなたもも忘れるな。おほなわに浦に吹き付ける風の止むときがないように(やむことなく思い続けて欲しい)
#{語釈]
人 他では君。一般的には脊子。かなり高飛車な言い方
おほなわに  語義未詳  しきりにの意味か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0607
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]皆人乎 宿与殿金者 打礼杼 君乎之念者 寐不勝鴨
#[訓読]皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思へば寐ねかてぬかも
#[仮名],みなひとを,ねよとのかねは,うつなれど,きみをしおもへば,いねかてぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]みんな人は寝なさいという鐘は打っているようであるが、あなたを思うと寝ることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0608
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]不相念 人乎思者 大寺之 餓鬼之後尓 額衝如
#[訓読]相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方に額つくごとし
#[仮名],あひおもはぬ,ひとをおもふは,おほてらの,がきのしりへに,ぬかつくごとし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恨み,贈答
#[訓異]
#[大意]お互いを恋い思わない人を思うのは大きな寺の餓鬼の尻の方で額をつけて拝むようなものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0609
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]従情毛 我者不念寸 又更 吾故郷尓 将還来者
#[訓読]心ゆも我は思はずきまたさらに我が故郷に帰り来むとは
#[仮名],こころゆも,わはおもはずき,またさらに,わがふるさとに,かへりこむとは
#[左注](右二首相別後更来贈)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恨み,贈答
#[訓異]
#[大意]心から自分は思ってもみあなかった。また再び我が故郷に帰ってくるとは
#{語釈]
故郷 笠氏の本拠地か、藤原、飛鳥。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0610
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
#[原文]近有者 雖不見在乎 弥遠 君之伊座者 有不勝<自>
#[訓読]近くあれば見ねどもあるをいや遠く君がいまさば有りかつましじ
#[仮名],ちかくあれば,みねどもあるを,いやとほく,きみがいまさば,ありかつましじ
#[左注]右二首相別後更来贈
#[校異]目 -> 自 [西(訂正)][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]近くにいた時でも逢わないでいたが、ますます遠くあなたがいらしゃるとどうしようもないことだ(生きてはいられない)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0611
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)大伴宿祢家持和<歌>二首
#[原文]今更 妹尓将相八跡 念可聞 幾許吾胸 欝悒将有
#[訓読]今さらに妹に逢はめやと思へかもここだ我が胸いぶせくあるらむ
#[仮名],いまさらに,いもにあはめやと,おもへかも,ここだあがむね,いぶせくあるらむ
#[左注]
#[校異]<> -> 歌 [西(右書)][元][金]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,笠女郎,贈答
#[訓異]
#[大意]今更に妹に会わないと思うからだろうか。こんなにもひどく自分の胸は鬱陶しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0612
#[題詞]((笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)大伴宿祢家持和<歌>二首)
#[原文]中々者 黙毛有益<乎> 何為跡香 相見始兼 不遂尓
#[訓読]なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに
#[仮名],なかなかに,もだもあらましを,なにすとか,あひみそめけむ,とげざらまくに
#[左注]
#[校異]呼 -> 乎 [金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,笠女郎,悔恨,恨み,贈答
#[訓異]
#[大意]かえって黙っていればよかった。どうして共に逢い始めたのだろう。成就しないことなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0613
#[題詞]山口女王贈大伴宿祢家持歌五首
#[原文]物念跡 人尓不<所>見常 奈麻強<尓> 常念弊利 在曽金津流
#[訓読]もの思ふと人に見えじとなまじひに常に思へりありぞかねつる
#[仮名],ものもふと,ひとにみえじと,なまじひに,つねにおもへり,ありぞかねつる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 所 [元][金][紀] / <> -> 尓 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:山口女王,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]もの思いをしていると他人には見えないようにしようと強いて常に思っている。しかしほんとうは生きることが出来ないほど辛いのです。
#{語釈]
山口女王 伝未詳 1617

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0614
#[題詞](山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]不相念 人乎也本名 白細之 袖漬左右二 哭耳四泣裳
#[訓読]相思はぬ人をやもとな白栲の袖漬つまでに音のみし泣くも
#[仮名],あひおもはぬ,ひとをやもとな,しろたへの,そでひつまでに,ねのみしなくも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:山口女王,大伴家持,贈答,怨恨
#[訓異]
#[大意]共に恋い思わない人なのにむやみに白妙の袖がびしょびしょに濡れるまで声を上げて泣くことです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0615
#[題詞](山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]吾背子者 不相念跡裳 敷細乃 君之枕者 夢<所>見乞
#[訓読]我が背子は相思はずとも敷栲の君が枕は夢に見えこそ
#[仮名],わがせこは,あひおもはずとも,しきたへの,きみがまくらは,いめにみえこそ
#[左注]
#[校異]尓 -> 所 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:山口女王,大伴家持,恋情,贈答,枕詞,夢
#[訓異]
#[大意]我が背子は自分のことを恋い思わなくとも敷妙のあなたの枕は夢に見えて欲しい
#{語釈]
#[説明]
自分の夢に出てきて欲しいと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]04/0616
#[題詞](山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]劔大刀 名惜雲 吾者無 君尓不相而 年之經去礼者
#[訓読]剣太刀名の惜しけくも我れはなし君に逢はずて年の経ぬれば
#[仮名],つるぎたち,なのをしけくも,われはなし,きみにあはずて,としのへぬれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:山口女王,大伴家持,うわさ,名,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]剣太刀の名が惜しいことは今はない。あなたに逢わないで年が経ったので
#{語釈]
剣太刀 刃(な)から、名にかかる枕詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0617
#[題詞](山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]従蘆邊 満来塩乃 弥益荷 念歟君之 忘金鶴
#[訓読]葦辺より満ち来る潮のいや増しに思へか君が忘れかねつる
#[仮名],あしへより,みちくるしほの,いやましに,おもへかきみが,わすれかねつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:山口女王,大伴家持,恋情,贈答,序詞
#[訓異]
#[大意]葦の浜辺より満ちてくる潮ではないがますます増して恋い思うからだろうか忘れることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0618
#[題詞]大神女郎贈大伴宿祢家持歌一首
#[原文]狭夜中尓 友喚千鳥 物念跡 和備居時二 鳴乍本名
#[訓読]さ夜中に友呼ぶ千鳥物思ふとわびをる時に鳴きつつもとな
#[仮名],さよなかに,ともよぶちとり,ものもふと,わびをるときに,なきつつもとな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:大神女郎,大伴家持,恋情,動物,贈答
#[訓異]
#[大意]さ夜中に友を呼ぶ千鳥よ。物思いをしているとして心がめいっている時にむやみに鳴いたりして
#{語釈]
大神女郎 伝未詳 08/1505  三輪氏の女性
わぶ  わびしく思う  心がめいっている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0619
#[題詞]大伴坂上郎女怨恨歌一首[并短歌]
#[原文]押照 難波乃菅之 根毛許呂尓 君之聞四<手> 年深 長四云者 真十鏡 磨師情乎 縦手師 其日之極 浪之共 靡珠藻乃 云々 意者不持 大船乃 憑有時丹 千磐破 神哉将離 空蝉乃 人歟禁良武 通為 君毛不来座 玉梓之 使母不所見 成奴礼婆 痛毛為便無三 夜干玉乃 夜者須我良尓 赤羅引 日母至闇 雖嘆 知師乎無三 雖念 田付乎白二 幼婦常 言雲知久 手小童之 哭耳泣管 俳徊 君之使乎 待八兼手六
#[訓読]おしてる 難波の菅の ねもころに 君が聞こして 年深く 長くし言へば まそ鏡 磨ぎし心を ゆるしてし その日の極み 波の共 靡く玉藻の かにかくに 心は持たず 大船の 頼める時に ちはやぶる 神か離くらむ うつせみの 人か障ふらむ 通はしし 君も来まさず 玉梓の 使も見えず なりぬれば いたもすべなみ ぬばたまの 夜はすがらに 赤らひく 日も暮るるまで 嘆けども 験をなみ 思へども たづきを知らに たわや女と 言はくもしるく たわらはの 音のみ泣きつつ た廻り 君が使を 待ちやかねてむ
#[仮名],おしてる,なにはのすげの,ねもころに,きみがきこして,としふかく,ながくしいへば,まそかがみ,とぎしこころを,ゆるしてし,そのひのきはみ,なみのむた,なびくたまもの,かにかくに,こころはもたず,おほぶねの,たのめるときに,ちはやぶる,かみかさくらむ,うつせみの,ひとかさふらむ,かよはしし,きみもきまさず,たまづさの,つかひもみえず,なりぬれば,いたもすべなみ,ぬばたまの,よるはすがらに,あからひく,ひもくるるまで,なげけども,しるしをなみ,おもへども,たづきをしらに,たわやめと,いはくもしるく,たわらはの,ねのみなきつつ,たもとほり,きみがつかひを,まちやかねてむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] / 乎 -> 手 [金]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,怨恨,恋情,挽歌的手法,枕詞
#[訓異]
#[大意]押し照る難波の菅の根ではないが、懇ろにあなたがお聞きになって長い年月、末永く大切にするとあなたが言うので、真澄の鏡のように研ぎ澄ました純粋な心をあなたに許したその日を最後として、浪とともに靡く玉藻のようにあれこれという気持ちもなく、大船のように頼みとしていた時に、霊威ある神が仲を裂いたのだろうか、この世の人が障害となったのだろうか、お通いになっていたあなたも来られない。玉梓の使いも見えなくなったので、何ともどうしようもなく、ぬばたまの夜は夜中、赤みがかった太陽も暮れるまで嘆くけれども、何の甲斐もなく恋い思うけれども方法もわからないで、手弱女のかよわい女と言うのももっともで少女のように声を上げて泣き続け、うろうろとしてあなたの使いを待ちかねていることか

#{語釈]
難波の菅  三島菅 
11/2836H01三島菅いまだ苗なり時待たば着ずやなりなむ三島菅笠
年深く 長い年月の間 03/0378 06/1042
しるく 道理で もっとものこと

#[説明]
藤原麻呂、駿河麻呂、宿奈麻呂への恨みを述べたものかという詮索は当たらない。
「怨恨」という主題の創作であり、自分のこれまでの経験を全て文学化したもの
中国の玉台新詠などにある怨恨詩を模範としたもの

#[関連論文]


#[番号]04/0620
#[題詞](大伴坂上郎女怨恨歌一首[并短歌])反歌
#[原文]従元 長謂管 不<令>恃者 如是念二 相益物歟
#[訓読]初めより長く言ひつつ頼めずはかかる思ひに逢はましものか
#[仮名],はじめより,ながくいひつつ,たのめずは,かかるおもひに,あはましものか
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 念 -> 令 [紀]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,悔恨,怨恨
#[訓異]
#[大意]あなたが初めから末永くといいながら頼みにさせなかったならば、こんな思いに逢うことはなかっただろうのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0621
#[題詞]西海道節度使判官佐伯宿祢東人妻贈夫君歌一首
#[原文]無間 戀尓可有牟 草枕 客有公之 夢尓之所見
#[訓読]間なく恋ふれにかあらむ草枕旅なる君が夢にし見ゆる
#[仮名],あひだなく,こふれにかあらむ,くさまくら,たびなるきみが,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:佐伯東人妻,羈旅,恋情,別離,贈答,枕詞
#[訓異]
#[大意]絶えず恋い思っているからなのだろうか。草枕旅に行くあなたが夢に見えることだ
#{語釈]
西海道   九州北部から西部
節度使  軍備や治安維持のために設けられた地方監査官
判官     三等官
佐伯宿祢東人 経歴未詳  天平四年外従五位下

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0622
#[題詞](西海道節度使判官佐伯宿祢東人妻贈夫君歌一首)佐伯宿祢東人和歌一首
#[原文]草枕 客尓久 成宿者 汝乎社念 莫戀吾妹
#[訓読]草枕旅に久しくなりぬれば汝をこそ思へな恋ひそ我妹
#[仮名],くさまくら,たびにひさしく,なりぬれば,なをこそおもへ,なこひそわぎも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:佐伯東人,和歌,羈旅,別離,慰め,恋情,贈答,枕詞
#[訓異]
#[大意]草枕旅が長くなったので、お前を思うのだ。だから恋い思うな。我が妹よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0623
#[題詞]池邊王宴誦歌一首
#[原文]松之葉尓 月者由移去 黄葉乃 過哉君之 不相夜多焉
#[訓読]松の葉に月はゆつりぬ黄葉の過ぐれや君が逢はぬ夜ぞ多き
#[仮名],まつのはに,つきはゆつりぬ,もみちばの,すぐれやきみが,あはぬよぞおほき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:池邊王,伝誦,転用,怨恨,宴席,枕詞,植物,誦詠
#[訓異]
#[大意]松の葉に月は移っていった。黄葉のように亡くなってしまったというのだろうか。あなたが逢わない夜が多い
#{語釈]
池邊王 大友皇子の孫、葛野王の子、淡海三船の父。神亀4年 従五位下
松の葉 待つの端 待ったあげく を掛ける
ゆつりぬ  い移る いは接頭語

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0624
#[題詞]天皇思酒人女王御製歌一首 [女王者穂積皇子之孫女也]
#[原文]道相而 咲之柄尓 零雪乃 消者消香二 戀云君妹
#[訓読]道に逢ひて笑まししからに降る雪の消なば消ぬがに恋ふといふ我妹
#[仮名],みちにあひて,ゑまししからに,ふるゆきの,けなばけぬがに,こふといふわぎも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 咲 [元][金][紀] 嘆
#[鄣W],相聞,作者:聖武天皇,酒人女王,難解
#[訓異]
#[大意]路で出会って私がちょっとほほえんだだけなのに降る雪のように消えるならば消えそうに思うという我妹であるよ
#{語釈]
酒人女王 穂積皇子の娘という以外は伝未詳。
     穂積皇子 天武天皇第五皇子 02/0114 16/3816

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0625
#[題詞]高安王褁鮒贈娘子歌一首 [高安王者後賜姓大原真人氏]
#[原文]奥弊徃 邊去伊麻夜 為妹 吾漁有 藻臥束鮒
#[訓読]沖辺行き辺を行き今や妹がため我が漁れる藻臥束鮒
#[仮名],おきへゆき,へをゆきいまや,いもがため,わがすなどれる,もふしつかふな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 弊 [元][紀] 幣
#[鄣W],相聞,作者:高安王,贈り物,動物
#[訓異]
#[大意]沖に行き、岸辺に行ってやっと妹のために自分が穫ってきた
#{語釈]
高安王 0577 長皇子の孫。537、844 高田女王の父。天平11年大原真人高安
藻臥束鮒 藻の付いた鮒。藻で包んで送った 生の鮒だったか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0626
#[題詞]八代女王獻天皇歌一首
#[原文]君尓因 言之繁乎 古郷之 明日香乃河尓 潔身為尓去 [一尾云龍田超 三津之濱邊尓 潔身四二由久]
#[訓読]君により言の繁きを故郷の明日香の川にみそぎしに行く [一尾云龍田越え御津の浜辺にみそぎしに行く]
#[仮名],きみにより,ことのしげきを,ふるさとの,あすかのかはに,みそぎしにゆく,[たつたこえ,みつのはまべに,みそぎしにゆく]
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:八代女王,聖武天皇,うわさ,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]あなたのためにうわさがひどいので故郷飛鳥の川に禊ぎをしに行くことです
一云 竜田山を越えて御津の浜辺に禊ぎをしに行きます
#{語釈]
八代女王 系譜未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0627
#[題詞]娘子報贈佐伯宿祢赤麻呂歌一首
#[原文]吾手本 将巻跡念牟 大夫者 <變>水<(f)> 白髪生二有
#[訓読]我がたもとまかむと思はむ大夫は変若水求め白髪生ひにけり
#[仮名],わがたもと,まかむとおもはむ,ますらをは,をちみづもとめ,しらかおひにけり
#[左注]
#[校異]戀 -> 變 [元] / 定 -> (f) [岩波大系]
#[鄣W],相聞,作者:娘子,佐伯赤麻呂,諧謔,贈答,戯笑
#[訓異]
#[大意]私の袂を枕としようと思う殿御は若返る薬を探してきなさい。すっかり白髪が生えて老けているでしょう
#{語釈]
佐伯宿祢赤麻呂 伝未詳。幇間歌人とも言われる。今で言うお笑いタレント的なもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0628
#[題詞](娘子報贈佐伯宿祢赤麻呂歌一首)佐伯宿祢赤麻呂和歌一首
#[原文]白髪生流 事者不念 <變>水者 鹿煮藻闕二毛 求而将行
#[訓読]白髪生ふることは思はず変若水はかにもかくにも求めて行かむ
#[仮名],しらかおふる,ことはおもはず,をちみづは,かにもかくにも,もとめてゆかむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 戀 -> 變 [新訓]
#[鄣W],相聞,作者:佐伯赤麻呂,娘子,和歌
#[訓異]
#[大意]白髪が生えて年をとっているとは思わない。しかし若返る薬はどちらにしても探して来ましょう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0629
#[題詞]大伴四綱宴席歌一首
#[原文]奈何鹿 使之来流 君乎社 左右裳 待難為礼
#[訓読]何すとか使の来つる君をこそかにもかくにも待ちかてにすれ
#[仮名],なにすとか,つかひのきつる,きみをこそ,かにもかくにも,まちかてにすれ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴四綱,遅参,怨恨,宴席
#[訓異]
#[大意]どうして今更欠席するという使いが来るのだ。あたなをこそどうにもこうにも待ちがたく思っていたのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0630
#[題詞]佐伯宿祢赤麻呂歌一首
#[原文]初花之 可散物乎 人事乃 繁尓因而 止息比者鴨
#[訓読]初花の散るべきものを人言の繁きによりてよどむころかも
#[仮名],はつはなの,ちるべきものを,ひとごとの,しげきによりて,よどむころかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:佐伯赤麻呂,比喩,うわさ,恋愛
#[訓異]
#[大意]初花がすぐに散ってしまうように、あなたがすぐに人のものになりそうで心配であるが、人のうわさがひどいので、停滞しているこの頃です。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0631
#[題詞]湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也]
#[原文]宇波弊無 物可聞人者 然許 遠家路乎 令還念者
#[訓読]うはへなきものかも人はしかばかり遠き家路を帰さく思へば
#[仮名],うはへなき,ものかもひとは,しかばかり,とほきいへぢを,かへさくおもへば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,娘子,怨恨,贈答
#[訓異]
#[大意]愛想のない人なんだな。こんなにも遠い家路なのに帰すことを思うと
#{語釈]
うはへなき 語義未詳  上辺がないで、愛想がないの意味か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0632
#[題詞](湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也])
#[原文]目二破見而 手二破不所取 月内之 楓如 妹乎奈何責
#[訓読]目には見て手には取らえぬ月の内の楓のごとき妹をいかにせむ
#[仮名],めにはみて,てにはとらえぬ,つきのうちの,かつらのごとき,いもをいかにせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,娘子,贈答,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]目には見えるが手には捕まえられない月の中の桂の木のような妹をどのようにしようか
#{語釈]
楓 かつら科の落葉高木 和名抄 乎加豆良 女加都良   中国では木犀

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0633
#[題詞](湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也])娘子報贈歌二首
#[原文]幾許 思異目鴨 敷細之 枕片去 夢所見来之
#[訓読]ここだくも思ひけめかも敷栲の枕片さる夢に見え来し
#[仮名],ここだくも,おもひけめかも,しきたへの,まくらかたさる,いめにみえこし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,娘子,作者:湯原王,恋情,贈答,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]そんなにも深く私のことを思ってくださっていたのかしら。それで敷妙の枕が一つでも私の夢に見えてきたのかしら
#{語釈]
片さる  片方が離れていた  私だけの枕があるだけで、夜離れした

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0634
#[題詞]((湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也])娘子報贈歌二首)
#[原文]家二四手 雖見不飽乎 草枕 客毛妻与 有之乏左
#[訓読]家にして見れど飽かぬを草枕旅にも妻とあるが羨しさ
#[仮名],いへにして,みれどあかぬを,くさまくら,たびにもつまと,あるがともしさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:娘子,湯原王,揶揄,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]普段の家で会っていても満足行かないのに、草枕旅にも一緒に行かれる奥さんのうらやましいこと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0635
#[題詞]湯原王亦贈歌二首
#[原文]草枕 客者嬬者 雖率有 匣内之 珠社所念
#[訓読]草枕旅には妻は率たれども櫛笥のうちの玉をこそ思へ
#[仮名],くさまくら,たびにはつまは,ゐたれども,くしげのうちの,たまをこそおもへ
#[左注]
#[校異]念 [紀] 見
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,娘子,二重,曖昧,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]草枕旅には妻は連れて行くが、本当は櫛笥の中の玉であるあなたを思っているのです
#{語釈]
櫛笥のうちの玉  大切な櫛笥の箱の中にあるもっ笇も大切な玉といったもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0636
#[題詞](湯原王亦贈歌二首)
#[原文]余衣 形見尓奉 布細之 枕不離 巻而左宿座
#[訓読]我が衣形見に奉る敷栲の枕を放けずまきてさ寝ませ
#[仮名],あがころも,かたみにまつる,しきたへの,まくらをさけず,まきてさねませ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,娘子,形見,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]自分の衣を形見として差し上げよう。敷妙の枕から離さないで枕として寝てください
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0637
#[題詞]娘子復報贈歌一首
#[原文]吾背子之 形見之衣 嬬問尓 <余>身者不離 事不問友
#[訓読]我が背子が形見の衣妻どひに我が身は離けじ言とはずとも
#[仮名],わがせこが,かたみのころも,つまどひに,あがみはさけじ,こととはずとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 余 [西(右書)][元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:娘子,湯原王,形見,贈答
#[訓異]
#[大意]我が背子の形見の衣を妻問いに来られたあなたと思って我が身からは話しません。言葉を交わすことはなくとも
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0638
#[題詞]湯原王亦贈歌一首
#[原文]直一夜 隔之可良尓 荒玉乃 月歟經去跡 心遮
#[訓読]ただ一夜隔てしからにあらたまの月か経ぬると心惑ひぬ
#[仮名],ただひとよ,へだてしからに,あらたまの,つきかへぬると,こころまどひぬ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,娘子,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]たった一晩会えなかっただけなのに、新玉の月が経ったと気持ちが乱れてしまいます
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0639
#[題詞]娘子復報贈歌一首
#[原文]吾背子我 如是戀礼許曽 夜干玉能 夢所見管 寐不所宿家礼
#[訓読]我が背子がかく恋ふれこそぬばたまの夢に見えつつ寐ねらえずけれ
#[仮名],わがせこが,かくこふれこそ,ぬばたまの,いめにみえつつ,いねらえずけれ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:娘子,湯原王,夢,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]我が背子がこのように恋い思うからなのか。ぬばたまの夢に見え続けて寝られないでいるのです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0640
#[題詞]湯原王亦贈歌一首
#[原文]波之家也思 不遠里乎 雲<居>尓也 戀管将居 月毛不經國
#[訓読]はしけやし間近き里を雲居にや恋ひつつ居らむ月も経なくに
#[仮名],はしけやし,まちかきさとを,くもゐにや,こひつつをらむ,つきもへなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 井 -> 居 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,娘子,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]いとしいことだ。ほんの目と鼻の先の妹の里なのに、雲のいるはるかに恋い続けているのでしょうか。月もあまり経っていないのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0641
#[題詞]娘子復報贈<歌>一首
#[原文]絶常云者 和備染責跡 焼大刀乃 隔付經事者 幸也吾君
#[訓読]絶ゆと言はばわびしみせむと焼大刀のへつかふことは幸くや我が君
#[仮名],たゆといはば,わびしみせむと,やきたちの,へつかふことは,さきくやあがきみ
#[左注]
#[校異]和歌 -> 歌 [元][金][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:娘子,湯原王,怨恨,離別,枕詞
#[訓異]
#[大意]仲が途絶えるというと私ががっかりして寂しがるだろうと思って、あなたの立派な太刀ではないが、いつも私のそばにくっついているのですか。それであなたは何ともないのですか。
#{語釈]
わびしみ がっかりして気がめいる
焼き太刀 「へ」にかかる枕詞。何度も鍛えた立派な太刀。刃が辺だからか。
へつかふ  辺に仕える  くっついている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0642
#[題詞]湯原王歌一首
#[原文]吾妹兒尓 戀而乱<者> 久流部寸二 懸而縁与 余戀始
#[訓読]我妹子に恋ひて乱ればくるべきに懸けて寄せむと我が恋ひそめし
#[仮名],わぎもこに,こひてみだれば,くるべきに,かけてよせむと,あがこひそめし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 在 -> 者 [略解] / 懸 [金][元] 縣
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,娘子,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]我妹子に恋い思って心が乱れると糸巻きにかけて縒り直すとして自分は恋い始めたのです
#{語釈]
くるべき  糸をかけて繰る道具。糸巻き
寄せむ  縒り戻す もとの通りにする

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0643
#[題詞]紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也]
#[原文]世間之 女尓思有者 吾渡 痛背乃河乎 渡金目八
#[訓読]世の中の女にしあらば我が渡る痛背の川を渡りかねめや
#[仮名],よのなかの,をみなにしあらば,わがわたる,あなせのかはを,わたりかねめや
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:紀郎女,河渡り,怨恨
#[訓異]
#[大意]私は世の中の人間であるので、自分が渡る穴師の川を渡ることは出来ません
#{語釈]
怨恨  安貴王の妻。八上采女との浮気が原因か。03/0306 04/0534
鹿人 天平5年外従五位下
痛背の川  穴師川とあああなたという意味をかける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0644
#[題詞](紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也])
#[原文]今者吾羽 和備曽四二結類 氣乃緒尓 念師君乎 縦左<久>思者
#[訓読]今は我はわびぞしにける息の緒に思ひし君をゆるさく思へば
#[仮名],いまはわは,わびぞしにける,いきのをに,おもひしきみを,ゆるさくおもへば
#[左注]
#[校異]<> -> 久 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:紀郎女,怨恨,離別
#[訓異]
#[大意]今は自分はがっかりして気がめいっている。命のように大事に思っていたあなたを引き留める出来なかったことを思うと
#{語釈]
息の緒  息のように長く続いて命を保つもの
ゆるさく  緩むこと。あなたとの関係を緩めてしまったということ

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0645
#[題詞](紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也])
#[原文]白<細乃> 袖可別 日乎近見 心尓咽飯 哭耳四所泣
#[訓読]白栲の袖別るべき日を近み心にむせひ音のみし泣かゆ
#[仮名],しろたへの,そでわかるべき,ひをちかみ,こころにむせひ,ねのみしなかゆ
#[左注]
#[校異]妙之 -> 細乃 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:紀郎女,離別,枕詞
#[訓異]
#[大意]白妙の袖を分ける別れる日が近いので、心から悲しみの気持ちがあふれて大声を上げて泣かれるばかりだ
#{語釈]
むせび 悲しみがこみ上げてくる。心から気持ちがあふれること

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0646
#[題詞]大伴宿祢駿河麻呂歌一首
#[原文]大夫之 思和備乍 遍多 嘆久嘆乎 不負物可聞
#[訓読]ますらをの思ひわびつつたびまねく嘆く嘆きを負はぬものかも
#[仮名],ますらをの,おもひわびつつ,たびまねく,なげくなげきを,おはぬものかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴駿河麻呂,恋情
#[訓異]
#[大意]立派な男子が物思いで気がめいってい続けて何度も嘆く嘆きはあなたのせいだと思わないでいるのですか。
#{語釈]
わびつつ 気がめいる
おはぬ  背負わない、責任を取らない

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0647
#[題詞]大伴坂上郎女歌一首
#[原文]心者 忘日無久 雖念 人之事社 繁君尓阿礼
#[訓読]心には忘るる日なく思へども人の言こそ繁き君にあれ
#[仮名],こころには,わするるひなく,おもへども,ひとのことこそ,しげききみにあれ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,遊戯的,うわさ
#[訓異]
#[大意]心には忘れることは一日もなく恋い思うけれども、人のうわさの多いあなたでありますね
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0648
#[題詞]大伴宿祢駿河麻呂歌一首
#[原文]不相見而 氣長久成奴 比日者 奈何好去哉 言借吾妹
#[訓読]相見ずて日長くなりぬこの頃はいかに幸くやいふかし我妹
#[仮名],あひみずて,けながくなりぬ,このころは,いかにさきくや,いふかしわぎも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴駿河麻呂
#[訓異]
#[大意]会わなくなって日数が長くなった。この頃はお元気ですか。心配です。我が妹子よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0649
#[題詞]大伴坂上郎女歌一首
#[原文]夏葛之 不絶使乃 不通<有>者 言下有如 念鶴鴨
#[訓読]夏葛の絶えぬ使のよどめれば事しもあるごと思ひつるかも
#[仮名],なつくずの,たえぬつかひの,よどめれば,ことしもあるごと,おもひつるかも
#[左注]右坂上郎女者佐保大納言卿之女也 駿河麻呂此高市大卿之孫也 兩卿兄弟之家 女孫姑姪之族 是以題歌送答相問起居
#[校異]歌 [西] 謌 / <> -> 有 [元][金][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,停滞,使い,不安,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]夏の葛の茂っている蔓のように絶えなかった使いが来ないので何事があるように思っていたところですよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0650
#[題詞]大伴宿祢三依離復相歡歌一首
#[原文]吾妹兒者 常世國尓 住家<良>思 昔見従 變若益尓家利
#[訓読]我妹子は常世の国に住みけらし昔見しより変若ましにけり
#[仮名],わぎもこは,とこよのくにに,すみけらし,むかしみしより,をちましにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌 / 郎 -> 良 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴三依,恋愛
#[訓異]
#[大意]我が妹子は常世の国に住んでいるらしい。昔見た時よりも若返っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0651
#[題詞]大伴坂上郎女歌二首
#[原文]久堅乃 天露霜 置二家里 宅有人毛 待戀奴濫
#[訓読]ひさかたの天の露霜置きにけり家なる人も待ち恋ひぬらむ
#[仮名],ひさかたの,あめのつゆしも,おきにけり,いへなるひとも,まちこひぬらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,枕詞
#[訓異]
#[大意]久方の天の露霜が降り置く時間になってしまった。家にいる人も待ちこがれているでしょう。
#{語釈]
家なる人 太宰府時代の歌で、奈良の都にいる人
     次の歌と関連して、娘婿を待っている我が娘か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0652
#[題詞](大伴坂上郎女歌二首)
#[原文]玉主尓 珠者授而 勝且毛 枕与吾者 率二将宿
#[訓読]玉守に玉は授けてかつがつも枕と我れはいざふたり寝む
#[仮名],たまもりに,たまはさづけて,かつがつも,まくらとわれは,いざふたりねむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,比喩,諦念
#[訓異]
#[大意]玉守に玉は預けて、まあ枕と自分は二人で寝よう
#{語釈]
かつがつも やれやれ 不本意な行動

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0653
#[題詞]大伴宿祢駿河麻呂歌三首
#[原文]情者 不忘物乎 <儻> 不見日數多 月曽經去来
#[訓読]心には忘れぬものをたまさかに見ぬ日さまねく月ぞ経にける
#[仮名],こころには,わすれぬものを,たまさかに,みぬひさまねく,つきぞへにける
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 儻 [西(訂正)][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴駿河麻呂,弁解
#[訓異]
#[大意]心では忘れてはいないものの、たまたま会わない日が重なり月が経ってしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0654
#[題詞](大伴宿祢駿河麻呂歌三首)
#[原文]相見者 月毛不經尓 戀云者 乎曽呂登吾乎 於毛保寒毳
#[訓読]相見ては月も経なくに恋ふと言はばをそろと我れを思ほさむかも
#[仮名],あひみては,つきもへなくに,こふといはば,をそろとわれを,おもほさむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴駿河麻呂,恋愛
#[訓異]
#[大意]共に会ってそう月も経っていないのに恋い思うというとせっかちだと自分をお思いになるでしょうか
#{語釈]
をそろと 軽率、せっかち  おその風流男

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0655
#[題詞](大伴宿祢駿河麻呂歌三首)
#[原文]不念乎 思常云者 天地之 神祇毛知寒 邑礼左變
#[訓読]思はぬを思ふと言はば天地の神も知らさむ邑礼左変
#[仮名],おもはぬを,おもふといはば,あめつちの,かみもしらさむ,****
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴駿河麻呂,難訓,恋愛
#[訓異]
#[大意]恋い思ってもいないのに恋い思うと言うのは、天地の神もお見通しでしょう。****
#{語釈]
邑礼左変  難訓

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0656
#[題詞]大伴坂上郎女歌六首
#[原文]吾耳曽 君尓者戀流 吾背子之 戀云事波 言乃名具左曽
#[訓読]我れのみぞ君には恋ふる我が背子が恋ふといふことは言のなぐさぞ
#[仮名],あれのみぞ,きみにはこふる,わがせこが,こふといふことは,ことのなぐさぞ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]自分だけがあなたに恋い思っているのです。我が背子が自分に恋い思うというのは言葉の慰めです。
#{語釈]
なあぐさ 口だけの慰め言

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0657
#[題詞](大伴坂上郎女歌六首)
#[原文]不念常 日手師物乎 翼酢色之 變安寸 吾意可聞
#[訓読]思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我が心かも
#[仮名],おもはじと,いひてしものを,はねずいろの,うつろひやすき,あがこころかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,煩悶,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]恋い思うまいと言ったものなのに、はねず色のように変わりやすい我が心である
#{語釈]
はねず色 初夏の頃、赤い色の花をつける。現在の何かは未詳。
     染料にしてすぐに褪色するので言うか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0658
#[題詞](大伴坂上郎女歌六首)
#[原文]雖念 知僧裳無跡 知物乎 奈何幾許 吾戀渡
#[訓読]思へども験もなしと知るものを何かここだく我が恋ひわたる
#[仮名],おもへども,しるしもなしと,しるものを,なにかここだく,あがこひわたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い思っても何の甲斐もないと知ってはいるが、どうしてこんなにもひどく自分は恋い続けるのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0659
#[題詞](大伴坂上郎女歌六首)
#[原文]豫 人事繁 如是有者 四恵也吾背子 奥裳何如荒海藻
#[訓読]あらかじめ人言繁しかくしあらばしゑや我が背子奥もいかにあらめ
#[仮名],あらかじめ,ひとごとしげし,かくしあらば,しゑやわがせこ,おくもいかにあらめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,うわさ
#[訓異]
#[大意]まだそう深い仲でもないのに人のうわさがひどい。こんなのだったらええい我が背子よ。将来はどのようになるのでしょうか
#{語釈]
あらかじめ 最初なのにの意
しゑや  ええい。ままよ。
奥 将来。この先

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0660
#[題詞](大伴坂上郎女歌六首)
#[原文]汝乎与吾乎 人曽離奈流 乞吾君 人之中言 聞起名湯目
#[訓読]汝をと我を人ぞ離くなるいで我が君人の中言聞きこすなゆめ
#[仮名],なをとあを,ひとぞさくなる,いであがきみ,ひとのなかごと,ききこすなゆめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,うわさ
#[訓異]
#[大意]あなたと自分を他人が離そうとしているようだです。さあ我が君よ。他人の誹謗中傷を決してお聞きになりますな。
#{語釈]
中言  誹謗、中傷
04/0680H01けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0661
#[題詞](大伴坂上郎女歌六首)
#[原文]戀々而 相有時谷 愛寸 事盡手四 長常念者
#[訓読]恋ひ恋ひて逢へる時だにうるはしき言尽してよ長くと思はば
#[仮名],こひこひて,あへるときだに,うるはしき,ことつくしてよ,ながくとおもはば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]恋いに恋い思ってやっと会える時だけでもうれしい言葉を尽くしてくださいよ。長く関係を続けようとお思いならば
#{語釈]
うるはしき  気持ちのよい 聞きたいと思う 心引かれる

#[説明]
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#[番号]04/0662
#[題詞]市原王歌一首
#[原文]網兒之山 五百重隠有 佐堤乃埼 左手蝿師子之 夢二四所見
#[訓読]網児の山五百重隠せる佐堤の崎さで延へし子が夢にし見ゆる
#[仮名],あごのやま,いほへかくせる,さでのさき,さではへしこが,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:市原王,恋情,地名,三重県,夢
#[訓異]
#[大意]網児の山が何重にも隠している佐堤の崎よ。そこで網を投げ入れていた海人娘子が夢に見えることだ(そのように何重にも隠されている深窓の女性が夢に見えることだ)
#{語釈]
網児の山 三重県志摩市阿児町
佐堤の崎 所在未詳 阿児湾内か。
さで延へし子 さで(小さな網)を投げ入れていた 旅中で会った海人娘子をいう
       さで(人麻呂吉野離宮歌)
       ただ、、幾重にも隠れている女性の比喩的言い方とも言える

#[説明]
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#[番号]04/0663
#[題詞]安<都>宿祢年足歌一首
#[原文]佐穂度 吾家之上二 鳴鳥之 音夏可思吉 愛妻之兒
#[訓読]佐保渡り我家の上に鳴く鳥の声なつかしきはしき妻の子
#[仮名],さほわたり,わぎへのうへに,なくとりの,こゑなつかしき,はしきつまのこ
#[左注]
#[校異]部 -> 都 [元] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:安都年足,恋情,奈良,地名,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]佐保川を飛び渡って我が家のあたりで鳴く鳥の声に心が引かれるように心惹かれる愛しい我が妻であることだ
#{語釈]
安<都>宿祢年足 伝未詳

#[説明]
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#[番号]04/0664
#[題詞]大伴宿祢像見歌一首
#[原文]石上 零十方雨二 将關哉 妹似相武登 言義之鬼尾
#[訓読]石上降るとも雨につつまめや妹に逢はむと言ひてしものを
#[仮名],いそのかみ,ふるともあめに,つつまめや,いもにあはむと,いひてしものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴像見,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]石上の布留ではないが、降るとしても前に降り込められようか。妹に会おうと言ったものなのに
#{語釈]
大伴宿祢像見  系譜未詳。天平宝字8年従五位下、宝亀3年従五位上

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0665
#[題詞]安倍朝臣蟲麻呂歌一首
#[原文]向座而 雖見不飽 吾妹子二 立離徃六 田付不知毛
#[訓読]向ひ居て見れども飽かぬ我妹子に立ち別れ行かむたづき知らずも
#[仮名],むかひゐて,みれどもあかぬ,わぎもこに,たちわかれゆかむ,たづきしらずも
#[左注]
#[校異]倍 [元] 陪 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:安倍蟲麻呂
#[訓異]
#[大意]向かいあっていていくら見ても見飽きることのない我が妹子に立ち分かれ行く方法がわからないことだ
#{語釈]
安倍朝臣蟲麻呂  天平9年外従五位下 天平勝宝4年従四位下中務大輔で卒

#[説明]
いつも会って痛いのだから、分かれる方法など知らないと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]04/0666
#[題詞]大伴坂上郎女歌二首
#[原文]不相見者 幾久毛 不有國 幾許吾者 戀乍裳荒鹿
#[訓読]相見ぬは幾久さにもあらなくにここだく我れは恋ひつつもあるか
#[仮名],あひみぬは,いくひささにも,あらなくに,ここだくあれは,こひつつもあるか
#[左注](右大伴坂上郎女之母石川内命婦与安<陪>朝臣蟲満之母安曇外命婦同居姉妹 同氣之親焉 縁此郎女蟲満相見不踈相談既密 聊作戯歌以為問答也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]直接お会いしてからいくらも経っていないのにこんなにもひどく自分は恋い続けているのだろうか
#{語釈]
右、大伴坂上郎女之母石川内命婦と安<陪>朝臣蟲満之母、安曇外命婦とは同居の姉妹、同氣之親なり。此れに縁りて郎女と蟲満とは相見ること踈くあらず、相談(かた)らふこと既に密なり。聊かに戯歌を作りて以て問答を為す。

戯歌   恋歌めいた歌

#[説明]
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#[番号]04/0667
#[題詞](大伴坂上郎女歌二首)
#[原文]戀々而 相有物乎 月四有者 夜波隠良武 須臾羽蟻待
#[訓読]恋ひ恋ひて逢ひたるものを月しあれば夜は隠るらむしましはあり待て
#[仮名],こひこひて,あひたるものを,つきしあれば,よはこもるらむ,しましはありまて
#[左注]右大伴坂上郎女之母石川内命婦与安<陪>朝臣蟲満之母安曇外命婦同居姉妹 同氣之親焉 縁此郎女蟲満相見不踈相談既密 聊作戯歌以為問答也
#[校異]部 -> 陪 [元][類] 部 [紀][温][矢]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,引き留め
#[訓異]
#[大意]恋い思った末に会ったものであるので月さえあれば夜はあり続けるでしょう。しばらくの間はそこにいてね。
#{語釈]
夜は隠るらむ 夜がずっとあり続ける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0668
#[題詞]厚見王歌一首
#[原文]朝尓日尓 色付山乃 白雲之 可思過 君尓不有國
#[訓読]朝に日に色づく山の白雲の思ひ過ぐべき君にあらなくに
#[仮名],あさにけに,いろづくやまの,しらくもの,おもひすぐべき,きみにあらなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:厚見王,恋情
#[訓異]
#[大意]毎朝日を追うごとに色づく山にかかる白雲ではないが、思い過ごしてしまうようなあなたではないのに
#{語釈]厚見王  系譜未詳  天平感宝元年 無位より従五位下 天平宝字元年従五位上
思ひ過ぐべき  思いが過ぎて行く  忘れてしまう

#[説明]
厚見王


#[関連論文]


#[番号]04/0669
#[題詞]春日王歌一首 [志貴皇子之子母曰多紀皇女也]
#[原文]足引之 山橘乃 色丹出<与> 語言継而 相事毛将有
#[訓読]あしひきの山橘の色に出でよ語らひ継ぎて逢ふこともあらむ
#[仮名],あしひきの,やまたちばなの,いろにいでよ,かたらひつぎて,あふこともあらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 而 -> 与 [元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:春日王,植物,序詞,うわさ
#[訓異]
#[大意]あしひきの山橘のように色に出てうわさになれ。お互い手紙のやりとりも出来て会うこともあるだろうから
#{語釈]
春日王  安貴王の父か 養老7年従四位下 天平17年散位正四位下薨去
山橘 やぶこうじ
語らひ継ぎ手  消息が通じ合う 手紙での話が出来る

#[説明]
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#[番号]04/0670
#[題詞]湯原王歌一首
#[原文]月讀之 光二来益 足疾乃 山<寸>隔而 不遠國
#[訓読]月読の光りに来ませあしひきの山きへなりて遠からなくに
#[仮名],つくよみの,ひかりにきませ,あしひきの,やまきへなりて,とほからなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乎 -> 寸 [元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:湯原王,勧誘
#[訓異]
#[大意]月読みの光にいらっしゃいよ。あしひきの山に隔たって遠いというわけでもないのに

#{語釈]
湯原王  志貴皇子の子

#[説明]
女の立場で詠んでいる。友を誘っている歌

#[関連]


#[番号]04/0671
#[題詞](湯原王歌一首)和歌一首 [不審作者]
#[原文]月讀之 光者清 雖照有 惑情 不堪念
#[訓読]月読の光りは清く照らせれど惑へる心思ひあへなくに
#[仮名],つくよみの,ひかりはきよく,てらせれど,まとへるこころ,おもひあへなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 惑 [紀] 或
#[鄣W],相聞,湯原王
#[訓異]
#[大意]つくよみの光は清く照らしているが、迷っている気持ちで思いを定めかねていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0672
#[題詞]安倍朝臣蟲麻呂歌一首
#[原文]倭文手纒 數二毛不有 壽持 奈何幾許 吾戀渡
#[訓読]しつたまき数にもあらぬ命もて何かここだく我が恋ひわたる
#[仮名],しつたまき,かずにもあらぬ,いのちもて,なにかここだく,あがこひわたる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:安倍蟲麻呂,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]しづたまきではないが、ものの数にも入らない命であるのにどうしてこんなにひどく恋い続けることだろうか
#{語釈]
しつたまき 国産の倭文織物で作った環(うで飾り) 粗末なもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0673
#[題詞]大伴坂上郎女歌二首
#[原文]真十鏡 磨師心乎 縦者 後尓雖云 驗将在八方
#[訓読]まそ鏡磨ぎし心をゆるしてば後に言ふとも験あらめやも
#[仮名],まそかがみ,とぎしこころを,ゆるしてば,のちにいふとも,しるしあらめやも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,枕詞,後悔
#[訓異]
#[大意]真澄鏡ではないが研ぎ澄ました気持ちを緩めて許してしまったならば、後になってとやかく言ったとしても効果がありましょうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0674
#[題詞](大伴坂上郎女歌二首)
#[原文]真玉付 彼此兼手 言齒五十戸<常> 相而後社 悔二破有跡五十戸
#[訓読]真玉つくをちこち兼ねて言は言へど逢ひて後こそ悔にはありといへ
#[仮名],またまつく,をちこちかねて,ことはいへど,あひてのちこそ,くいにはありといへ
#[左注]
#[校異]當 -> 常 [桂][元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,後悔,枕詞
#[訓異]
#[大意]二個の玉を付ける緒ではないが、今も将来もともに兼ねてあなたは口先ではおっしゃるが、会った後に後悔は来るものです
#{語釈]
真玉つく 二個の玉を付ける緒の意味で、「を」にかかる。
をちこち兼ねて 二つの玉を結ぶあちらとこちらの意味で、あちらは将来。こちらは今の比喩。
      今も将来も両方とも
逢ひて後こそ悔にはありといへ 期待ばかりさせるが、後悔は先に立たず、会った後に来るものだ。だから信用しませんよ。の意

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0675
#[題詞]中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首
#[原文]娘子部四 咲澤二生流 花勝見 都毛不知 戀裳摺可聞
#[訓読]をみなへし佐紀沢に生ふる花かつみかつても知らぬ恋もするかも
#[仮名],をみなへし,さきさはにおふる,はなかつみ,かつてもしらぬ,こひもするかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 摺 [桂][類](塙) 揩 / 可 [元][類][紀] 香
#[鄣W],相聞,作者:中臣女郎,大伴家持,恋情,植物,奈良,地名,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]おみなえしが咲く佐紀沢に生える花かつみではないが、今までまったく知らなかった恋いもすることだ
#{語釈]
中臣女郎 伝未詳
佐紀沢  奈良市佐紀町。佐紀沢は、その周辺、水上池あたりの湿地帯
花かつみ 未詳。菖蒲の類か。中世以降は、真菰と考えられる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0676
#[題詞](中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]海底 奥乎深目手 吾念有 君二波将相 年者經十方
#[訓読]海の底奥を深めて我が思へる君には逢はむ年は経ぬとも
#[仮名],わたのそこ,おくをふかめて,あがおもへる,きみにはあはむ,としはへぬとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:中臣女郎,大伴家持,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]海の底の奥ではないが、心の奥深く自分が恋い思っているあなたとは必ず会いましょう。たとえ何年経ったとしても
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0677
#[題詞](中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]春日山 朝居雲乃 欝 不知人尓毛 戀物香聞
#[訓読]春日山朝居る雲のおほほしく知らぬ人にも恋ふるものかも
#[仮名],かすがやま,あさゐるくもの,おほほしく,しらぬひとにも,こふるものかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:中臣女郎,大伴家持,恨み,奈良,地名,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]春日山が朝漂っている雲ではっきり見えないように、鬱陶しく評判だけの人にも恋い思うものであろうか
#{語釈]
おぼほしく 春日山がはっきり見えない。雲がボーとしている。
      はっきりとせずうわさで知っているだけの人

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0678
#[題詞](中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]直相而 見而者耳社 霊剋 命向 吾戀止眼
#[訓読]直に逢ひて見てばのみこそたまきはる命に向ふ我が恋やまめ
#[仮名],ただにあひて,みてばのみこそ,たまきはる,いのちにむかふ,あがこひやまめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:中臣女郎,大伴家持,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]直接お会いして見た時こそたまきはる命をかけている我が恋いはおさまるでしょう。
#{語釈]
命に向ふ 命に向かっている。生死ぎりぎりの

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0679
#[題詞](中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
#[原文]不欲常云者 将強哉吾背 菅根之 念乱而 戀管母将有
#[訓読]いなと言はば強ひめや我が背菅の根の思ひ乱れて恋ひつつもあらむ
#[仮名],いなといはば,しひめやわがせ,すがのねの,おもひみだれて,こひつつもあらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:中臣女郎,大伴家持,恋情,枕詞,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]いやだとあなたがおっしゃるのばらば強いることがありましょうか。管の根のように思い乱れて恋い続けてもいましょう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0680
#[題詞]大伴宿祢家持与交遊別歌三首
#[原文]盖毛 人之中言 聞可毛 幾許雖待 君之不来益
#[訓読]けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ
#[仮名],けだしくも,ひとのなかごと,きかせかも,ここだくまてど,きみがきまさぬ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,交遊,怨恨,うわさ
#[訓異]
#[大意]もしかして他人のうわさをお聞きになったのか。こんなに待ってもあなたはいらっしゃらない
#{語釈]
#[説明]
宴の遅刻を皮肉ったものか

#[関連論文]



#[番号]04/0681
#[題詞](大伴宿祢家持与交遊別歌三首)
#[原文]中々尓 絶年云者 如此許 氣緒尓四而 吾将戀八方
#[訓読]なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我れ恋ひめやも
#[仮名],なかなかに,たゆとしいはば,かくばかり,いきのをにして,あれこひめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,交遊,恋情
#[訓異]
#[大意]なまじっか別れると言うのならばこのように命にかけて自分は恋いおもうということがありましょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0682
#[題詞](大伴宿祢家持与交遊別歌三首)
#[原文]将念 人尓有莫國 懃 情盡而 戀流吾毳
#[訓読]思ふらむ人にあらなくにねもころに心尽して恋ふる我れかも
#[仮名],おもふらむ,ひとにあらなくに,ねもころに,こころつくして,こふるあれかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,交遊,恋情
#[訓異]
#[大意]私を思っている人ではないのに。懇ろに心を尽くして恋い思う自分ではある
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0683
#[題詞]大伴坂上郎女歌七首
#[原文]謂言之 恐國曽 紅之 色莫出曽 念死友
#[訓読]言ふ言の畏き国ぞ紅の色にな出でそ思ひ死ぬとも
#[仮名],いふことの,かしこきくにぞ,くれなゐの,いろにないでそ,おもひしぬとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,うわさ,枕詞
#[訓異]
#[大意]人のうわさの恐ろしい国です。紅のような目立って表立たないでください。恋い思って死ぬとしても
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0684
#[題詞](大伴坂上郎女歌七首)
#[原文]今者吾波 将死与吾背 生十方 吾二可縁跡 言跡云莫苦荷
#[訓読]今は我は死なむよ我が背生けりとも我れに依るべしと言ふといはなくに
#[仮名],いまはわは,しなむよわがせ,いけりとも,われによるべし,といふといはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,怨恨
#[訓異]
#[大意]今は自分は死んでしまいますよ。我が背よ。生きていたとしても自分に寄り添うとはあなたは言うということはありませんから
#{語釈]
今は我は死なむよ我が背
12/2869H01今は我は死なむよ我妹逢はずして思ひわたれば安けくもなし
12/2936H01今は我は死なむよ我が背恋すれば一夜一日も安けくもなし

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0685
#[題詞](大伴坂上郎女歌七首)
#[原文]人事 繁哉君<之> 二鞘之 家乎隔而 戀乍将座
#[訓読]人言を繁みか君が二鞘の家を隔てて恋ひつつまさむ
#[仮名],ひとごとを,しげみかきみが,ふたさやの,いへをへだてて,こひつつまさむ
#[左注]
#[校異]乎 -> 之 [元]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさが激しいからか、あなたは刀子の二鞘ではないが、家を隔てて恋い続けていらっしゃるでしょうか
#{語釈]
二鞘の 隔てての枕詞 二合刀子から来る

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0686
#[題詞](大伴坂上郎女歌七首)
#[原文]比者 千歳八徃裳 過与 吾哉然念 欲見鴨
#[訓読]このころは千年や行きも過ぎぬると我れやしか思ふ見まく欲りかも
#[仮名],このころは,ちとせやゆきも,すぎぬると,われかしかおもふ,みまくほりかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]この頃は千年も行き過ぎると自分はそのように思う。会いたいと思うからだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0687
#[題詞](大伴坂上郎女歌七首)
#[原文]愛常 吾念情 速河之 雖塞々友 猶哉将崩
#[訓読]うるはしと我が思ふ心速川の塞きに塞くともなほや崩えなむ
#[仮名],うるはしと,あがもふこころ,はやかはの,せきにせくとも,なほやくえなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたを愛しいと自分が思う心は、流れの速い川の井関に阻まれるとしてもなお崩してしまうことでしょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0688
#[題詞](大伴坂上郎女歌七首)
#[原文]青山乎 横g雲之 灼然 吾共咲為而 人二所知名
#[訓読]青山を横ぎる雲のいちしろく我れと笑まして人に知らゆな
#[仮名],あをやまを,よこぎるくもの,いちしろく,われとゑまして,ひとにしらゆな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,うわさ,序詞
#[訓異]
#[大意]青い山を横切る雲ではないが、著しく自分とお笑いになって他人には知られてはなりませんよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0689
#[題詞](大伴坂上郎女歌七首)
#[原文]海山毛 隔莫國 奈何鴨 目言乎谷裳 幾許乏寸
#[訓読]海山も隔たらなくに何しかも目言をだにもここだ乏しき
#[仮名],うみやまも,へだたらなくに,なにしかも,めごとをだにも,ここだともしき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]海や山も隔たっていないのに、どうして会ったり言葉を交わしたりすることだけでもこんなにも少ないのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0690
#[題詞]大伴宿祢三依悲別歌一首
#[原文]照<月>乎 闇尓見成而 哭涙 衣<沾>津 干人無二
#[訓読]照る月を闇に見なして泣く涙衣濡らしつ干す人なしに
#[仮名],てるつきを,やみにみなして,なくなみだ,ころもぬらしつ,ほすひとなしに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 日 -> 月 [略解(宣長説)] / 沽 -> 沾 [紀][温][京]
#[鄣W],相聞,作者:大伴三依,離別,悲別
#[訓異]
#[大意]明るく照っている月を闇のように見なして泣く涙で衣を濡らしたことだ。干す火ともいないのに。
#{語釈]
大伴宿祢三依  大伴御行の子ども 天平20年40歳あまりで従五位下
        宝亀五年散位従四位下で卒
0552
悲別    何の別れか不明。
      地方官として赴任して、都の妻と別れているのか
      妻と死別したのか。

#[説明]
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#[番号]04/0691
#[題詞]大伴宿祢家持贈娘子歌二首
#[原文]百礒城之 大宮人者 雖多有 情尓乗而 所念妹
#[訓読]ももしきの大宮人は多かれど心に乗りて思ほゆる妹
#[仮名],ももしきの,おほみやひとは,おほかれど,こころにのりて,おもほゆるいも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]ももしきの大宮人は多いが心に乗って思われる妹であることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0692
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌二首)
#[原文]得羽重無 妹二毛有鴨 如此許 人情乎 令盡念者
#[訓読]うはへなき妹にもあるかもかくばかり人の心を尽さく思へば
#[仮名],うはへなき,いもにもあるかも,かくばかり,ひとのこころを,つくさくおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,怨恨,贈答
#[訓異]
#[大意]かわいげのない妹でもあるか。このように人の心を尽くさせることを思うと
#{語釈]
うはへなき 0631 語義未詳  上辺がないで、愛想がないの意味か。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0693
#[題詞]大伴宿祢千室歌一首 [未詳]
#[原文]如此耳 戀哉将度 秋津野尓 多奈引雲能 過跡者無二
#[訓読]かくのみし恋ひやわたらむ秋津野にたなびく雲の過ぐとはなしに
#[仮名],かくのみし,こひやわたらむ,あきづのに,たなびくくもの,すぐとはなしに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴千室,和歌山,吉野,地名,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]このようにばかりして恋い続けていることだろうか。秋津野にたなびく雲のように重いが通り過ぎてしまうということはなくて。
#{語釈]
大伴宿祢千室 伝未詳  20/4298
[未詳] 古歌か新作かがわからない。
秋津野  奈良県吉野郡吉野町宮滝付近
     和歌山県田辺市秋津町 07.1368 09.
過ぐ  思いが通り過ぎる。恋い思わなくなる

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0694
#[題詞]廣河女王歌二首 [穂積皇子之孫女上道王之女也]
#[原文]戀草呼 力車二 七車 積而戀良苦 吾心柄
#[訓読]恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から
#[仮名],こひくさを,ちからくるまに,ななくるま,つみてこふらく,わがこころから
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:廣河女王,恋情,比喩
#[訓異]
#[大意]しつこい草のような恋い草を荷車に7台積んで恋い思うことは結局は自分の心から来ていることだ
#{語釈]
廣河女王 天平宝字7年 従五位下
穂積皇子 天武天皇皇子
上道王  和銅5年 従四位下 神亀4年卒

#[説明]
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#[番号]04/0695
#[題詞](廣河女王歌二首 [穂積皇子之孫女上道王之女也])
#[原文]戀者今葉 不有常吾羽 念乎 何處戀其 附見繋有
#[訓読]恋は今はあらじと我れは思へるをいづくの恋ぞつかみかかれる
#[仮名],こひはいまは,あらじとわれは,おもへるを,いづくのこひぞ,つかみかかれる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:廣河女王,自嘲
#[訓異]
#[大意]恋いは今はないだろうと自分は思っていたのにどこの恋いがつかみかかったのだろう
#{語釈]
つかみかかれる 穂積皇子歌 3816

#[説明]
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#[番号]04/0696
#[題詞]石川朝臣廣成歌一首 [後賜<姓>高圓朝臣氏也]
#[原文]家人尓 戀過目八方 川津鳴 泉之里尓 年之歴去者
#[訓読]家人に恋過ぎめやもかはづ鳴く泉の里に年の経ぬれば
#[仮名],いへびとに,こひすぎめやも,かはづなく,いづみのさとに,としのへぬれば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 姓 [西(右書)][紀][古]
#[鄣W],相聞,作者:石川廣成,京都,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]家の人に恋い思う気持ちがなくなることがあろうか。蛙が鳴く泉の里で年月が経つと
#{語釈]
石川朝臣廣成 天平宝字2年 従五位下
       天平宝字4年2月11日 高円朝臣広世(ひろよ)と改名
泉の里  木津川の流れる久迩京のあたり 08/1600 広成

#[説明]
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#[番号]04/0697
#[題詞]大伴宿祢像見歌三首
#[原文]吾聞尓 繋莫言 苅薦之 乱而念 君之直香曽
#[訓読]我が聞きに懸けてな言ひそ刈り薦の乱れて思ふ君が直香ぞ
#[仮名],わがききに,かけてないひそ,かりこもの,みだれておもふ,きみがただかぞ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:大伴像見,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]自分が聞くのに関わらせて言ってはくださるな。刈り取った薦のように恋いに乱れて思うあなた自身なのですから。
#{語釈]
大伴宿祢像見  0664 系譜未詳。天平宝字8年従五位下、宝亀3年従五位上
我が聞きに懸けてな言ひそ  恋い思う相手の噂を耳にする

#[説明]
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#[番号]04/0698
#[題詞](大伴宿祢像見歌三首)
#[原文]春日野尓 朝居雲之 敷布二 吾者戀益 月二日二異二
#[訓読]春日野に朝居る雲のしくしくに我れは恋ひ増す月に日に異に
#[仮名],かすがのに,あさゐるくもの,しくしくに,あれはこひます,つきにひにけに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴像見,恋情,奈良,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]春日野に朝立ち上っている雲のように重ね重ね自分は恋い心がひどくなってうる。月日が経つごとに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]04/0699
#[題詞](大伴宿祢像見歌三首)
#[原文]一瀬二波 千遍障良比 逝水之 後毛将相 今尓不有十方
#[訓読]一瀬には千たび障らひ行く水の後にも逢はむ今にあらずとも
#[仮名],ひとせには,ちたびさはらひ,ゆくみづの,のちにもあはむ,いまにあらずとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴像見,序詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]一つの早瀬でも何度もぶつかっては流れていく水がやがては一つになるように、後日でお逢おう。今すぐでなくとも。
#{語釈]
一瀬には千たび障らひ行く水の  「這う葛の」と同じ意味

#[説明]
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#[番号]04/0700
#[題詞]大伴宿祢家持到娘子之門作歌一首
#[原文]如此為而哉 猶八将退 不近 道之間乎 煩参来而
#[訓読]かくしてやなほや罷らむ近からぬ道の間をなづみ参ゐ来て
#[仮名],かくしてや,なほやまからむ,ちかからぬ,みちのあひだを,なづみまゐきて
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,怨恨
#[訓異]
#[大意]このようにして再び帰ろうとうことがありましょうか。近くもない路の家からの間を苦労してやって来たのですから。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0701
#[題詞]河内百枝娘子贈大伴宿祢家持歌二首
#[原文]波都波都尓 人乎相見而 何将有 何日二箇 又外二将見
#[訓読]はつはつに人を相見ていかにあらむいづれの日にかまた外に見む
#[仮名],はつはつに,ひとをあひみて,いかにあらむ,いづれのひにか,またよそにみむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:河内百枝娘子,大伴家持,恋情
#[訓異]
#[大意]ほんのちょっとだけあなたとお会いして、またいつの日に尾所ながらでも見ることがありましょうか。もうあるとは思えないのでゆっくりと会ってください。
#{語釈]
はつはつに ほんのちょっと
07/1306H01この山の黄葉が下の花を我れはつはつに見てなほ恋ひにけり
11/2461H01山の端を追ふ三日月のはつはつに妹をぞ見つる恋ほしきまでに
14/3537H01くへ越しに麦食む小馬のはつはつに相見し子らしあやに愛しも
14/3537H02馬柵越し麦食む駒のはつはつに新肌触れし子ろし愛しも

#[説明]
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#[番号]04/0702
#[題詞](河内百枝娘子贈大伴宿祢家持歌二首)
#[原文]夜干玉之 其夜乃月夜 至于今日 吾者不忘 無間苦思念者
#[訓読]ぬばたまのその夜の月夜今日までに我れは忘れず間なくし思へば
#[仮名],ぬばたまの,そのよのつくよ,けふまでに,われはわすれず,まなくしおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:河内百枝娘子,大伴家持,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまのその寄るの月夜を今日までも自分は忘れてはいません。絶え間なく恋い思っているので
#{語釈]
間なくし思へば  絶え間なく恋い思っている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0703
#[題詞]巫部麻蘇娘子歌二首
#[原文]吾背子乎 相見之其日 至于今日 吾衣手者 乾時毛奈志
#[訓読]我が背子を相見しその日今日までに我が衣手は干る時もなし
#[仮名],わがせこを,あひみしそのひ,けふまでに,わがころもでは,ふるときもなし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:巫部麻蘇娘子,恋情,涙
#[訓異]
#[大意]我が背子に会ったその日から今日に至るまで我が衣手は涙で乾く間もありません
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0704
#[題詞](巫部麻蘇娘子歌二首)
#[原文]栲縄之 永命乎 欲苦波 不絶而人乎 欲見社
#[訓読]栲縄の長き命を欲りしくは絶えずて人を見まく欲りこそ
#[仮名],たくなはの,ながきいのちを,ほりしくは,たえずてひとを,みまくほりこそ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:巫部麻蘇娘子,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]楮の縄のような長い命を願っているのは途絶えないであなたに会いたいと思うからこそです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0705
#[題詞]大伴宿祢家持贈童女歌一首
#[原文]葉根蘰 今為妹乎 夢見而 情内二 戀<渡>鴨
#[訓読]はねかづら今する妹を夢に見て心のうちに恋ひわたるかも
#[仮名],はねかづら,いまするいもを,いめにみて,こころのうちに,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]度 -> 渡 [類][紀][京]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,童女,恋情,夢,贈答
#[訓異]
#[大意]葉根蘰を今する妹を夢に見て心の中で恋い続けることである
#{語釈]
葉根蘰 女が成年式で着けるものらしい
07/1112H01はねかづら今する妹をうら若みいざ率川の音のさやけさ
11/2627H01はねかづら今する妹がうら若み笑みみ怒りみ付けし紐解く

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0706
#[題詞]童女来報歌一首
#[原文]葉根蘰 今為妹者 無四呼 何妹其 幾許戀多類
#[訓読]はねかづら今する妹はなかりしをいづれの妹ぞここだ恋ひたる
#[仮名],はねかづら,いまするいもは,なかりしを,いづれのいもぞ,ここだこひたる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:童女,大伴家持,掛け合い,贈答
#[訓異]
#[大意]葉根蘰を今する妹はいないのに、どこの妹をこんなにも恋い思っているのですか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0707
#[題詞]粟田<女>娘子贈大伴宿祢家持歌二首
#[原文]思遣 為便乃不知者 片垸之 底曽吾者 戀成尓家類 <[注土垸之中]>
#[訓読]思ひ遣るすべの知らねば片もひの底にぞ我れは恋ひ成りにける <[注土垸之中]>
#[仮名],おもひやる,すべのしらねば,かたもひの,そこにぞあれは,こひなりにける
#[左注]
#[校異]<> -> 女 [元][紀][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 注土垸之中 [桂][元]
#[鄣W],相聞,作者:粟田女娘子,大伴家持,恋情,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]恋い心を晴らす手だてもわかないので片もいの底のように片思いのどん底に沈んで自分は恋いするようになりました
#{語釈]
#[説明]
思ひ遣る 思いを退ける 心を晴らす
片もひ 片口のついた 片方だけに水を注ぐ口のついたもの
    片思いを掛ける
注土垸之中  土垸の中に注す  土の片もひにこの歌を書き付けて送った

#[関連論文]


#[番号]04/0708
#[題詞](粟田<女>娘子贈大伴宿祢家持歌二首)
#[原文]復毛将相 因毛有奴可 白細之 我衣手二 齊留目六
#[訓読]またも逢はむよしもあらぬか白栲の我が衣手にいはひ留めむ
#[仮名],またもあはむ,よしもあらぬか,しろたへの,わがころもでに,いはひとどめむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:粟田女娘子,大伴家持,恋情,再会,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]またも会う手だてもないのでしょうか。お会いしたら白妙の我が衣手に大切につなぎとめておきましょう。
#{語釈]
いはい  精進潔斎をして祈る  大切にする

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0709
#[題詞]豊前國娘子大宅女の歌一首 [未審姓氏]
#[原文]夕闇者 路多豆<多>頭四 待月而 行吾背子 其間尓母将見
#[訓読]夕闇は道たづたづし月待ちて行ませ我が背子その間にも見む
#[仮名],ゆふやみは,みちたづたづし,つきまちて,いませわがせこ,そのまにもみむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 多 [西(右書)][元][紀][温]
#[鄣W],相聞,作者:豊前國娘子大宅女,後朝
#[訓異]
#[大意]夕闇は道が不安だ。月を待ってお帰りなさいませ。我が背子よ。その間でもお顔を見ていたいから。
#{語釈]
豊前國娘子大宅女 遊行女婦か。
たづたづし  頼りない。不安だ。心もとない

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0710
#[題詞]安都扉娘子歌一首
#[原文]三空去 月之光二 直一目 相三師人<之> 夢西所見
#[訓読]み空行く月の光にただ一目相見し人の夢にし見ゆる
#[仮名],みそらゆく,つきのひかりに,ただひとめ,あひみしひとの,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 之 [西(右書)][元][紀][温]
#[鄣W],相聞,作者:安都扉娘子,夢
#[訓異]
#[大意]空を行く月の光にたった一目見ただけの人なのに夢に出てきたことだ
#{語釈]
安都扉娘子  伝未詳

#[説明]
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#[番号]04/0711
#[題詞]丹波大女娘子歌三首
#[原文]鴨鳥之 遊此池尓 木葉落而 浮心 吾不念國
#[訓読]鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉落ちて浮きたる心我が思はなくに
#[仮名],かもどりの,あそぶこのいけに,このはおちて,うきたるこころ,わがおもはなくに#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:丹波大女娘子,動物,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]鴨鳥が遊ぶこの池に木の葉が落ちて浮かんでいるが、そのような浮いた軽い気持ちで自分は思っているわけではありませんよ。
#{語釈]
丹波大女娘子 伝未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0712
#[題詞](丹波大女娘子歌三首)
#[原文]味酒呼 三輪之祝我 忌杉 手觸之罪歟 君二遇難寸
#[訓読]味酒を三輪の祝がいはふ杉手触れし罪か君に逢ひかたき
#[仮名],うまさけを,みわのはふりが,いはふすぎ,てふれしつみか,きみにあひかたき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:丹波大女娘子,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]味酒を三輪の神官が神聖に祀っている杉に手が触れた祟りなのでしょうか。あなたになかなか会えないのは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0713
#[題詞](丹波大女娘子歌三首)
#[原文]垣穂成 人辞聞而 吾背子之 情多由多比 不合頃者
#[訓読]垣ほなす人言聞きて我が背子が心たゆたひ逢はぬこのころ
#[仮名],かきほなす,ひとごとききて,わがせこが,こころたゆたひ,あはぬこのころ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:丹波大女娘子,うわさ
#[訓異]
#[大意]高々と立ちはだかる垣根のように仲を隔てる人のうわさを聞いて我が背子が気持ちが滞って会わないこの頃だ
#{語釈]
垣ほ 背の高い垣根

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0714
#[題詞]大伴宿祢家持贈娘子歌七首
#[原文]情尓者 思渡跡 縁乎無三 外耳為而 嘆曽吾為
#[訓読]心には思ひわたれどよしをなみ外のみにして嘆きぞ我がする
#[仮名],こころには,おもひわたれど,よしをなみ,よそのみにして,なげきぞわがする
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,贈答
#[訓異]
#[大意]心では思い続けているがどうしようもないので、外からばかりで嘆きを自分はすることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0715
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
#[原文]千鳥鳴 佐保乃河門之 清瀬乎 馬打和多思 何時将通
#[訓読]千鳥鳴く佐保の川門の清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ
#[仮名],ちどりなく,さほのかはとの,きよきせを,うまうちわたし,いつかかよはむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,川渡り,奈良,地名,動物,贈答
#[訓異]
#[大意]千鳥なく佐保の川の狭まっている所の清らかな早瀬を馬を渡らせていつになったら通おうか
#{語釈]
#[説明]
04/0525H01佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか
13/3303H04ぬばたまの 黒馬に乗りて 川の瀬を 七瀬渡りて うらぶれて
13/3313H01川の瀬の石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は常にあらぬかも

#[関連論文]


#[番号]04/0716
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
#[原文]夜晝 云別不知 吾戀 情盖 夢所見寸八
#[訓読]夜昼とい別き知らず我が恋ふる心はけだし夢に見えきや
#[仮名],よるひると,いふわきしらず,あがこふる,こころはけだし,いめにみえきや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,恋情,夢,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]夜昼と言わないで自分が恋い思う気持ちはもしかしたらあなたの夢に見えたでしょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0717
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
#[原文]都礼毛無 将有人乎 獨念尓 吾念者 惑毛安流香
#[訓読]つれもなくあるらむ人を片思に我れは思へばわびしくもあるか
#[仮名],つれもなく,あるらむひとを,かたもひに,われはおもへば,わびしくもあるか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,恨み,贈答
#[訓異]
#[大意]無愛想な人を片思いに自分は恋い思っているとわびしことではある
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0718
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
#[原文]不念尓 妹之咲儛乎 夢見而 心中二 燎管曽呼留
#[訓読]思はぬに妹が笑ひを夢に見て心のうちに燃えつつぞ居る
#[仮名],おもはぬに,いもがゑまひを,いめにみて,こころのうちに,もえつつぞをる
#[左注]
#[校異]呼 [元] 乎
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,夢,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]思いがけず妹の笑顔を夢に見て心の中で燃え続けている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0719
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
#[原文]大夫跡 念流吾乎 如此許 三礼二見津礼 片<念>男責
#[訓読]ますらをと思へる我れをかくばかりみつれにみつれ片思をせむ
#[仮名],ますらをと,おもへるわれを,かくばかり,みつれにみつれ,かたもひをせむ
#[左注]
#[校異]思 -> 念 [元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,怨恨,贈答
#[訓異]
#[大意]立派な男だと思っている自分なのにこんなにもやつれにやつれて片恋をしようか
#{語釈]
みつれにみつれ  心もしおれるばかりにやせ細り乱れて

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0720
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
#[原文]村肝之 情揣而 如此許 余戀良<苦>乎 不知香安類良武
#[訓読]むらきもの心砕けてかくばかり我が恋ふらくを知らずかあるらむ
#[仮名],むらきもの,こころくだけて,かくばかり,あがこふらくを,しらずかあるらむ
#[左注]
#[校異]久 -> 苦 [元][紀][温]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,枕詞,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]群肝の心も砕けてこんなにも自分が恋い思うのをあなたは知らないでいるのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0721
#[題詞]獻天皇歌一首 [大伴坂上郎女在佐保宅作也]
#[原文]足引乃 山二四居者 風流無三 吾為類和射乎 害目賜名
#[訓読]あしひきの山にしをれば風流なみ我がするわざをとがめたまふな
#[仮名],あしひきの,やまにしをれば,みやびなみ,わがするわざを,とがめたまふな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,聖武天皇,佐保,枕詞,地名,贈答
#[訓異]
#[大意]あしひきの山にばかりいると風流がないので、自分が行うことをおとがめにはなりますな。
#{語釈]
風流  上品、作法をわきまえた  風流なみ  無粋だ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0722
#[題詞]大伴宿祢家持歌一首
#[原文]如是許 戀乍不有者 石木二毛 成益物乎 物不思四手
#[訓読]かくばかり恋ひつつあらずは石木にもならましものを物思はずして
#[仮名],かくばかり,こひつつあらずは,いはきにも,ならましものを,ものもはずして
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,恋情
#[訓異]
#[大意]こんなにも恋い思ってはいずに岩木にもなった方がいいだろうか。もの思いもなくなって
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0723
#[題詞]大伴坂上郎女従跡見庄<賜>留宅女子大嬢歌一首[并短歌]
#[原文]常呼二跡 吾行莫國 小金門尓 物悲良尓 念有之 吾兒乃刀自緒 野干玉之 夜晝跡不言 念二思 吾身者痩奴 嘆丹師 袖左倍<沾>奴 如是許 本名四戀者 古郷尓 此月期呂毛 有勝益土
#[訓読]常世にと 我が行かなくに 小金門に もの悲しらに 思へりし 我が子の刀自を ぬばたまの 夜昼といはず 思ふにし 我が身は痩せぬ 嘆くにし 袖さへ濡れぬ かくばかり もとなし恋ひば 故郷に この月ごろも 有りかつましじ
#[仮名],とこよにと,わがゆかなくに,をかなどに,ものかなしらに,おもへりし,あがこのとじを,ぬばたまの,よるひるといはず,おもふにし,あがみはやせぬ,なげくにし,そでさへぬれぬ,かくばかり,もとなしこひば,ふるさとに,このつきごろも,ありかつましじ
#[左注](右歌報賜大嬢進歌也)
#[校異]贈賜 -> 賜 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 沽 -> 沾 [紀]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,坂上大嬢,愛情,枕詞,桜井
#[訓異]
#[大意]あの世へと自分は行くわけでもないのに、戸口でもの悲しそうに思っていた我が子の娘をぬばたまの夜昼と言わず恋い思うにつけても我が身は痩せてきそうだ。嘆いては袖までも濡れることだ。こんなにもむやみに恋い思うのであれば、故郷の飛鳥にこの一月もいられそうにはない

#{語釈]
跡見庄  奈良県桜井市鳥見山東麓のあたりか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0724
#[題詞](大伴坂上郎女従跡見庄<賜>留宅女子大嬢歌一首[并短歌])反歌
#[原文]朝髪之 念乱而 如是許 名姉之戀曽 夢尓所見家留
#[訓読]朝髪の思ひ乱れてかくばかり汝姉が恋ふれぞ夢に見えける
#[仮名],あさかみの,おもひみだれて,かくばかり,なねがこふれぞ,いめにみえける
#[左注]右歌報賜大嬢進歌也
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 右歌 [西] 右謌 [西(訂正)] 右歌 / 進歌 [西] 進謌 [西(訂正)] 進歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,坂上大嬢,愛情,夢,枕詞,桜井
#[訓異]
#[大意]朝の寝起きの髪のように思い乱れてこんなにもあなたが自分を恋しがるから夢に見えたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0725
#[題詞]獻天皇歌二首 [大伴坂上郎女在春日里作也]
#[原文]二寶鳥乃 潜池水 情有者 君尓吾戀 情示左祢
#[訓読]にほ鳥の潜く池水心あらば君に我が恋ふる心示さね
#[仮名],にほどりの,かづくいけみづ,こころあらば,きみにあがこふる,こころしめさね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,聖武天皇,動物,恋情,奈良
#[訓異]
#[大意]にほ鳥が潜る池水よ。心があるならば大君に自分が恋い思う心を示してください
#{語釈]
にほ鳥  かいつぶり

#[説明]
池水に対して、自分の秘めた恋いを映し出せと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]04/0726
#[題詞](獻天皇歌二首 [大伴坂上郎女在春日里作也])
#[原文]外居而 戀乍不有者 君之家乃 池尓住云 鴨二有益雄
#[訓読]外に居て恋ひつつあらずは君が家の池に住むといふ鴨にあらましを
#[仮名],よそにゐて,こひつつあらずは,きみがいへの,いけにすむといふ,かもにあらましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,聖武天皇,動物,恋情,奈良
#[訓異]
#[大意]外にいて恋い思ってはいずに、大君の家の池に住むという鴨であればよかったのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0727
#[題詞]大伴宿祢家持贈坂上家大嬢歌二首 [<離>絶數年復會相聞徃来]
#[原文]萱草 吾下紐尓 著有跡 鬼乃志許草 事二思安利家理
#[訓読]忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり
#[仮名],わすれくさ,わがしたひもに,つけたれど,しこのしこくさ,ことにしありけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 雖 -> 離 [桂][元][紀] / 復 [元][類] 後
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,植物
#[訓異]
#[大意]忘れ草を自分の下紐に付けたけれども、この役立たずの草め。言葉だけだったよ
#{語釈]
忘れ草 かん草

#[説明]
11/2475H01我が宿の軒にしだ草生ひたれど恋忘れ草見れどいまだ生ひず
12/3060H01忘れ草我が紐に付く時となく思ひわたれば生けりともなし
12/3062H01忘れ草垣もしみみに植ゑたれど醜の醜草なほ恋ひにけり

#[関連論文]


#[番号]04/0728
#[題詞](大伴宿祢家持贈坂上家大嬢歌二首 [<離>絶數年復會相聞徃来])
#[原文]人毛無 國母有粳 吾妹子与 携行而 副而将座
#[訓読]人もなき国もあらぬか我妹子とたづさはり行きて副ひて居らむ
#[仮名],ひともなき,くにもあらぬか,わぎもこと,たづさはりゆきて,たぐひてをらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]人のいない国もないものだろうか。我が妹子と手を取り合って行ってくっついていよう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0729
#[題詞]大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持歌三首
#[原文]玉有者 手二母将巻乎 欝瞻乃 世人有者 手二巻難石
#[訓読]玉ならば手にも巻かむをうつせみの世の人なれば手に巻きかたし
#[仮名],たまならば,てにもまかむを,うつせみの,よのひとなれば,てにまきかたし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]玉であるならば手に巻こうものなのに。あなたはこの世の人間であるので手には巻けない
#{語釈]
#[説明]
03/0403H01朝に日に見まく欲りするその玉をいかにせばかも手ゆ離れずあらむ
を踏まえたもの

17/3990H01我が背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜し
17/4007H01我が背子は玉にもがもな霍公鳥声にあへ貫き手に巻きて行かむ

#[関連論文]


#[番号]04/0730
#[題詞](大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持歌三首)
#[原文]将相夜者 何時将有乎 何如為常香 彼夕相而 事之繁裳
#[訓読]逢はむ夜はいつもあらむを何すとかその宵逢ひて言の繁きも
#[仮名],あはむよは,いつもあらむを,なにすとか,そのよひあひて,ことのしげきも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]会える夜はいつでもあろうものなのに。何をしたというのであろうか。その夜会ってうわさがひどいのは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0731
#[題詞](大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持歌三首)
#[原文]吾名者毛 千名之五百名尓 雖立 君之名立者 惜社泣
#[訓読]我が名はも千名の五百名に立ちぬとも君が名立たば惜しみこそ泣け
#[仮名],わがなはも,ちなのいほなに,たちぬとも,きみがなたたば,をしみこそなけ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,うわさ,名前,贈答
#[訓異]
#[大意]私の名前は千も五百も立ってもかまいませんが、あなたの名前が立つと惜しいので泣くのです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0732
#[題詞]又大伴宿祢家持和歌三首
#[原文]今時者四 名之惜雲 吾者無 妹丹因者 千遍立十方
#[訓読]今しはし名の惜しけくも我れはなし妹によりては千たび立つとも
#[仮名],いましはし,なのをしけくも,われはなし,いもによりては,ちたびたつとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,和歌,名前,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]今は名前が惜しいことは自分はない。妹に関わって千回立つとしても
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0733
#[題詞](又大伴宿祢家持和歌三首)
#[原文]空蝉乃 代也毛二行 何為跡鹿 妹尓不相而 吾獨将宿
#[訓読]うつせみの世やも二行く何すとか妹に逢はずて我がひとり寝む
#[仮名],うつせみの,よやもふたゆく,なにすとか,いもにあはずて,わがひとりねむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,和歌,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]この世は夜が二つ行くとは思えません。なのにどうして妹に会わないで自分は独りで寝るのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0734
#[題詞](又大伴宿祢家持和歌三首)
#[原文]吾念 如此而不有者 玉二毛我 真毛妹之 手二所纒<乎>
#[訓読]我が思ひかくてあらずは玉にもがまことも妹が手に巻かれなむ
#[仮名],わがおもひ,かくてあらずは,たまにもが,まこともいもが,てにまかれなむ
#[左注]
#[校異]牟 -> 乎 [元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]自分の恋い思うのがこのようでなしに玉であればよいのに。本当に妹の手に巻かれたいものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0735
#[題詞]同坂上大嬢贈家持歌一首
#[原文]春日山 霞多奈引 情具久 照月夜尓 獨鴨念
#[訓読]春日山霞たなびき心ぐく照れる月夜にひとりかも寝む
#[仮名],かすがやま,かすみたなびき,こころぐく,てれるつくよに,ひとりかもねむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,奈良,地名,鬱屈,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]春日山に霞がたなびいて鬱陶しく照っている月夜に独りで寝ることでしょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0736
#[題詞]又家持和坂上大嬢歌一首
#[原文]月夜尓波 門尓出立 夕占問 足卜乎曽為之 行乎欲焉
#[訓読]月夜には門に出で立ち夕占問ひ足占をぞせし行かまくを欲り
#[仮名],つくよには,かどにいでたち,ゆふけとひ,あしうらをぞせし,ゆかまくをほり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,大伴坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]月夜には門に出て立って夕占をし、足占もしたことだ。行きたいと思って
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0737
#[題詞]同大嬢贈家持歌二首
#[原文]云々 人者雖云 若狭道乃 後瀬山之 後毛将<會>君
#[訓読]かにかくに人は言ふとも若狭道の後瀬の山の後も逢はむ君
#[仮名],かにかくに,ひとはいふとも,わかさぢの,のちせのやまの,のちもあはむきみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 念 -> 會 [万葉考]
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,福井,地名,歌枕,贈答
#[訓異]
#[大意]あれやこれやと人はうわさを立てると行っても、若狭へ行く道にある後瀬の山ではないがそのうち会いましょう。あなたよ。
#{語釈]
若狭道の後瀬の山 福井県小浜市南部  現在城山と呼ばれる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0738
#[題詞](同大嬢贈家持歌二首)
#[原文]世間之 苦物尓 有家良<之> 戀尓不勝而 可死念者
#[訓読]世の中の苦しきものにありけらし恋にあへずて死ぬべき思へば
#[仮名],よのなかの,くるしきものに,ありけらし,こひにあへずて,しぬべきおもへば
#[左注]
#[校異]久 -> 之 [元]
#[鄣W],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意](恋は)世の中の苦しいものであるらしい。恋に耐えられないで死にそうなことを思うと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0739
#[題詞]又家持和坂上大嬢歌二首
#[原文]後湍山 後毛将相常 念社 可死物乎 至今日<毛>生有
#[訓読]後瀬山後も逢はむと思へこそ死ぬべきものを今日までも生けれ
#[仮名],のちせやま,のちもあはむと,おもへこそ,しぬべきものを,けふまでもいけれ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 毛 [西(右書)][桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,和歌,枕詞,福井,地名,歌枕,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]後瀬山ではないが、後ででも会おうと思うからこそ死にそうなものを今日まで生きているのです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0740
#[題詞](又家持和坂上大嬢歌二首)
#[原文]事耳乎 後毛相跡 懃 吾乎令憑而 不相可聞
#[訓読]言のみを後も逢はむとねもころに我れを頼めて逢はざらむかも
#[仮名],ことのみを,のちもあはむと,ねもころに,われをたのめて,あはざらむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,怨恨,贈答
#[訓異]
#[大意]言葉でばかり後に逢おうと言って、自分を頼みにさせて会わないことですね
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0741
#[題詞]更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首
#[原文]夢之相者 苦有家里 覺而 掻探友 手二毛不所觸者
#[訓読]夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば
#[仮名],いめのあひは,くるしかりけり,おどろきて,かきさぐれども,てにもふれねば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,遊仙窟,夢,贈答
#[訓異]
#[大意]夢での逢会は苦しいことだ。眼が覚めて掻き探っても手にも触れないので
#{語釈]
夢の逢い 遊仙窟

#[説明]
類想歌
12/2914H01愛しと思ふ我妹を夢に見て起きて探るになきが寂しさ

#[関連論文]


#[番号]04/0742
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]一重耳 妹之将結 帶乎尚 三重可結 吾身者成
#[訓読]一重のみ妹が結ばむ帯をすら三重結ぶべく我が身はなりぬ
#[仮名],ひとへのみ,いもがむすばむ,おびをすら,みへむすぶべく,わがみはなりぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,遊仙窟,贈答
#[訓異]
#[大意]昔一重でのみ妹が結んでくれた帯ですら三重に結ぶように自分の身はなった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0743
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]吾戀者 千引乃石乎 七許 頚二将繋母 神之諸伏
#[訓読]我が恋は千引の石を七ばかり首に懸けむも神のまにまに
#[仮名],あがこひは,ちびきのいはを,ななばかり,くびにかけむも,かみのまにまに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,比喩,贈答
#[訓異]
#[大意]自分の恋は千人で引くような大岩を七つばかり首にかけたようなものだが、それも神の思し召しのままだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0744
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]暮去者 屋戸開設而 吾将待 夢尓相見二 将来云比登乎
#[訓読]夕さらば屋戸開け設けて我れ待たむ夢に相見に来むといふ人を
#[仮名],ゆふさらば,やとあけまけて,われまたむ,いめにあひみに,こむといふひとを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,遊仙窟,夢,贈答
#[訓異]
#[大意]夕方になったら家を開けて自分は待とう。夢に逢いに来るという人を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0745
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]朝夕二 将見時左倍也 吾妹之 雖見如不見 由戀四家武
#[訓読]朝夕に見む時さへや我妹子が見れど見ぬごとなほ恋しけむ
#[仮名],あさよひに,みむときさへや,わぎもこが,みれどみぬごと,なほこほしけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答,恋情
#[訓異]
#[大意]朝夕に見る時でさへ我妹子を見ても見ない時のようになお恋しいことだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0746
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]生有代尓 吾者未見 事絶而 如是𪫧怜 縫流嚢者
#[訓読]生ける世に我はいまだ見ず言絶えてかくおもしろく縫へる袋は
#[仮名],いけるよに,われはいまだみず,ことたえて,かくおもしろく,ぬへるふくろは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]生きている世に自分はまだ見たことがない。このように面白く縫った袋は
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0747
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]吾妹兒之 形見乃服 下著而 直相左右者 吾将脱八方
#[訓読]我妹子が形見の衣下に着て直に逢ふまでは我れ脱かめやも
#[仮名],わぎもこが,かたみのころも,したにきて,ただにあふまでは,われぬかめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]我妹子が形見の衣を下に着て直接会うまでは自分は脱ぐことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0748
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]戀死六 其毛同曽 奈何為二 人目他言 辞痛吾将為
#[訓読]恋ひ死なむそこも同じぞ何せむに人目人言言痛み我がせむ
#[仮名],こひしなむ,そこもおやじぞ,なにせむに,ひとめひとごと,こちたみわがせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]恋い死ぬことも同じだ。どうしようとして人の目やうわさがひどいこととして自分はしているのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0749
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]夢二谷 所見者社有 如此許 不所見有者 戀而死跡香
#[訓読]夢にだに見えばこそあらめかくばかり見えずしあるは恋ひて死ねとか
#[仮名],いめにだに,みえばこそあれ,かくばかり,みえずてあるは,こひてしねとか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,夢,贈答
#[訓異]
#[大意]夢だけでも見えたならば何とかしてもいようがこんなにも見えないでいるならば恋い思って死ねとでもいうのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0750
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]念絶 和備西物尾 中々<荷> 奈何辛苦 相見始兼
#[訓読]思ひ絶えわびにしものを中々に何か苦しく相見そめけむ
#[仮名],おもひたえ,わびにしものを,なかなかに,なにかくるしく,あひみそめけむ
#[左注]
#[校異]尓 -> 荷 [桂][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,怨恨,後悔,恋情
#[訓異]
#[大意]一時は思いが途絶えてわびしくしていたのに、かえってどうして苦しく再会したのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0751
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]相見而者 幾日毛不經乎 幾許久毛 <久>流比尓久流必 所念鴨
#[訓読]相見ては幾日も経ぬをここだくもくるひにくるひ思ほゆるかも
#[仮名],あひみては,いくかもへぬを,ここだくも,くるひにくるひ,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]<> -> 久 [西(右書)][桂][紀][温]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]逢ってから何日も経っていないのに、こんなにもひどく狂おしいばかりに恋い思われることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0752
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]如是許 面影耳 所念者 何如将為 人目繁而
#[訓読]かくばかり面影にのみ思ほえばいかにかもせむ人目繁くて
#[仮名],かくばかり,おもかげにのみ,おもほえば,いかにかもせむ,ひとめしげくて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]こんなにも面影にばかり思っているとどのようにしようか。人目が激しくてなかなか逢えないのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0753
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]相見者 須臾戀者 奈木六香登 雖念弥 戀益来
#[訓読]相見てはしましも恋はなぎむかと思へどいよよ恋ひまさりけり
#[仮名],あひみては,しましもこひは,なぎむかと,おもへどいよよ,こひまさりけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]逢ったならばしばらくは恋い心は和らぐだろうかと思ったがますます恋い思う気持ちが強くなったことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0754
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]夜之穂杼呂 吾出而来者 吾妹子之 念有四九四 面影二三湯
#[訓読]夜のほどろ我が出でて来れば我妹子が思へりしくし面影に見ゆ
#[仮名],よのほどろ,わがいでてくれば,わぎもこが,おもへりしくし,おもかげにみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答,恋情
#[訓異]
#[大意]夜明け頃に自分が出てくると我妹子が自分のことを恋い思っていたことが面影に見える
#{語釈]
夜のほどろ 夜が白み始める時間
思へりしくし 「き」のク語法  「し」は強意

#[説明]
後朝の別れの歌

#[関連論文]


#[番号]04/0755
#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
#[原文]夜之穂杼呂 出都追来良久 遍多數 成者吾胸 截焼如
#[訓読]夜のほどろ出でつつ来らくたび数多くなれば我が胸断ち焼くごとし
#[仮名],よのほどろ,いでつつくらく,たびまねく,なればあがむね,たちやくごとし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,遊仙窟,恋情
#[訓異]
#[大意]夜明けに帰ることがたびたびに多くなると名残惜しさに自分の胸は張り裂けそうです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0756
#[題詞]大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首
#[原文]外居而 戀者苦 吾妹子乎 次相見六 事計為与
#[訓読]外に居て恋ふれば苦し我妹子を継ぎて相見む事計りせよ
#[仮名],よそにゐて,こふればくるし,わぎもこを,つぎてあひみむ,ことはかりせよ
#[左注](右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴田村大嬢,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]離れていて恋い思っていると苦しい。我妹子をいつも見よう。計画してください。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0757
#[題詞](大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首)
#[原文]遠有者 和備而毛有乎 里近 有常聞乍 不見之為便奈沙
#[訓読]遠くあらばわびてもあらむを里近くありと聞きつつ見ぬがすべなさ
#[仮名],とほくあらば,わびてもあらむを,さとちかく,ありとききつつ,みぬがすべなさ
#[左注](右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴田村大嬢,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]遠くにいるのだったらわびしく思ってもいよう。里近くにいると聞いていて逢わないのがどうしようもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0758
#[題詞](大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首)
#[原文]白雲之 多奈引山之 高々二 吾念妹乎 将見因毛我母
#[訓読]白雲のたなびく山の高々に我が思ふ妹を見むよしもがも
#[仮名],しらくもの,たなびくやまの,たかだかに,あがおもふいもを,みむよしもがも
#[左注](右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴田村大嬢,坂上大嬢,贈答
#[訓異]
#[大意]白雲のたなびく山が高いように、つま先立ちする思いで自分が恋い思う妹を見るてだてもあればなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0759
#[題詞](大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首)
#[原文]何 時尓加妹乎 牟具良布能 穢屋戸尓 入将座
#[訓読]いかならむ時にか妹を葎生の汚なきやどに入りいませてむ
#[仮名],いかならむ,ときにかいもを,むぐらふの,きたなきやどに,いりいませてむ
#[左注]右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答
#[校異]<> -> 大 [西(右書)][桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:田村大嬢,大伴坂上大嬢,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]どのような時に妹を八重葎が生える汚い家にご招待しましょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0760
#[題詞]大伴坂上郎女従竹田庄<贈>女子大嬢歌二首
#[原文]打渡 竹田之原尓 鳴鶴之 間無時無 吾戀良久波
#[訓読]うち渡す武田の原に鳴く鶴の間なく時なし我が恋ふらくは
#[仮名],うちわたす,たけたのはらに,なくたづの,まなくときなし,あがこふらくは
#[左注]
#[校異]贈賜 -> 贈 [桂][元][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,大伴坂上大嬢,桜井,地名,動物,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]一面に広がった竹田の原に鳴く鶴のように間断なく時がない。自分が恋い思うことは
#{語釈]
竹田庄 奈良県橿原市東竹田町 耳成山東北

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0761
#[題詞](大伴坂上郎女従竹田庄<贈>女子大嬢歌二首)
#[原文]早河之 湍尓居鳥之 縁乎奈弥 念而有師 吾兒羽裳𪫧怜
#[訓読]早川の瀬に居る鳥のよしをなみ思ひてありし我が子はもあはれ
#[仮名],はやかはの,せにゐるとりの,よしをなみ,おもひてありし,あがこはもあはれ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,大伴坂上大嬢,序詞,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]流れの速い川の早瀬にいる鳥が頼りなげにしているように、不安そうに思っていた我が子は何ともなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0762
#[題詞]紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 [女郎名曰小鹿也]
#[原文]神左夫跡 不欲者不有 八<多也八多> 如是為而後二 佐夫之家牟可聞
#[訓読]神さぶといなにはあらずはたやはたかくして後に寂しけむかも
#[仮名],かむさぶと,いなにはあらず,はたやはた,かくしてのちに,さぶしけむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 也多八 -> 多也八多 [略解] 也八多 [西(右書)]
#[鄣W],相聞,作者:紀女郎,大伴家持,贈答,恋愛
#[訓異]
#[大意]年をとっているからだとしていやだというわけではありません。はたまたこのように逢って後にあきられるのが寂しいからです。
#{語釈]
はたやはた ともかくも それに反して

#[説明]
紀女郎との他の歌  08/1460など他15首


#[関連論文]


#[番号]04/0763
#[題詞](紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 [女郎名曰小鹿也])
#[原文]玉緒乎 沫緒二搓而 結有者 在手後二毛 不相在目八方
#[訓読]玉の緒を沫緒に搓りて結べらばありて後にも逢はざらめやも
#[仮名],たまのをを,あわをによりて,むすべらば,ありてのちにも,あはざらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:紀女郎,大伴家持,恋愛
#[訓異]
#[大意]玉の紐も沫緒に搓って結ぶのならば、逢った後にもまた逢わないということがありましょうか
#{語釈]
沫緒  未詳。伸び縮みするような糸のことか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0764
#[題詞](紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 [女郎名曰小鹿也])大伴宿祢家持和歌一首
#[原文]百年尓 老舌出而 与余牟友 吾者不猒 戀者益友
#[訓読]百年に老舌出でてよよむとも我れはいとはじ恋ひは増すとも
#[仮名],ももとせに,おいしたいでて,よよむとも,われはいとはじ,こひはますとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,紀女郎,作者:大伴家持,老,恋情
#[訓異]
#[大意]百歳になって老人の舌が出てよぼよぼになるとしても、自分はいやだとは思いません。恋いは増すとしても
#{語釈]
よよむ 腰が曲がってよろよろする

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0765
#[題詞]在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作歌一首
#[原文]一隔山 重成物乎 月夜好見 門尓出立 妹可将待
#[訓読]一重山へなれるものを月夜よみ門に出で立ち妹か待つらむ
#[仮名],ひとへやま,へなれるものを,つくよよみ,かどにいでたち,いもかまつらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,恋愛
#[訓異]
#[大意]山一つ隔たっているのに、月夜がよいので門に出て立って妹は待っているだろうか
#{語釈]
久邇京 天平12年12月~17年g月

#[説明]
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#[番号]04/0766
#[題詞](在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作歌一首)藤原郎女聞之即和歌一首
#[原文]路遠 不来常波知有 物可良尓 然曽将待 君之目乎保利
#[訓読]道遠み来じとは知れるものからにしかぞ待つらむ君が目を欲り
#[仮名],みちとほみ,こじとはしれる,ものからに,しかぞまつらむ,きみがめをほり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,大伴家持,坂上大嬢,久邇京,作者:藤原郎女
#[訓異]
#[大意]路が遠いので来るまいとは知っているものであるが、そのように待っているのでしょう。あなたに逢いたくて。
#{語釈]
藤原郎女 伝未詳。大嬢と親しかった人

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0767
#[題詞]大伴宿祢家持更贈大嬢歌二首
#[原文]都路乎 遠哉妹之 比来者 得飼飯而雖宿 夢尓不所見来
#[訓読]都路を遠みか妹がこのころはうけひて寝れど夢に見え来ぬ
#[仮名],みやこぢを,とほみかいもが,このころは,うけひてぬれど,いめにみえこぬ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,夢,贈答
#[訓異]
#[大意]この都への路が遠いからなのか、妹のことをこの頃は神に祈って寝ても夢に見えて来ない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0768
#[題詞](大伴宿祢家持更贈大嬢歌二首)
#[原文]今所知 久邇乃京尓 妹二不相 久成 行而早見奈
#[訓読]今知らす久迩の都に妹に逢はず久しくなりぬ行きて早見な
#[仮名],いましらす,くにのみやこに,いもにあはず,ひさしくなりぬ,ゆきてはやみな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,久邇京,地名,贈答
#[訓異]
#[大意]今お治めになっている久邇の都で妹に会わないで長くなった。奈良に戻って早く逢いたい物だ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0769
#[題詞]大伴宿祢家持報贈紀女郎歌一首
#[原文]久堅之 雨之落日乎 直獨 山邊尓居者 欝有来
#[訓読]ひさかたの雨の降る日をただ独り山辺に居ればいぶせかりけり
#[仮名],ひさかたの,あめのふるひを,ただひとり,やまへにをれば,いぶせかりけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,紀女郎,久邇京,鬱屈,贈答
#[訓異]
#[大意]久方の雨の降る日をただ独りで山辺にいるとうっというしいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0770
#[題詞]大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首
#[原文]人眼多見 不相耳曽 情左倍 妹乎忘而 吾念莫國
#[訓読]人目多み逢はなくのみぞ心さへ妹を忘れて我が思はなくに
#[仮名],ひとめおほみ,あはなくのみぞ,こころさへ,いもをわすれて,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,久邇京,贈答
#[訓異]
#[大意]人目が多いので逢わないだけです。心までも妹を忘れて自分は思っているわけではありあ睺せん。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0771
#[題詞](大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
#[原文]偽毛 似付而曽為流 打布裳 真吾妹兒 吾尓戀目八
#[訓読]偽りも似つきてぞするうつしくもまこと我妹子我れに恋ひめや
#[仮名],いつはりも,につきてぞする,うつしくも,まことわぎもこ,われにこひめや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,久邇京,怨恨,贈答
#[訓異]
#[大意]ウソももっともらしくするものです。実際本当に我妹子よ。自分に恋い思っているのですか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0772
#[題詞](大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
#[原文]夢尓谷 将所見常吾者 保杼毛友 不相志思<者> 諾不所見<有>武
#[訓読]夢にだに見えむと我れはほどけども相し思はねばうべ見えずあらむ
#[仮名],いめにだに,みえむとわれは,ほどけども,あひしおもはねば,うべみえずあらむ
#[左注]
#[校異]<> -> 者 [桂][元][紀] / <> -> 有 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,久邇京,夢,怨恨,贈答
#[訓異]
#[大意]せめて夢だけでも見ようと自分は下紐をほどくが、共に思ってくれないのでなるほど見えないでいるでしょう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0773
#[題詞](大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
#[原文]事不問 木尚味狭藍 諸<弟>等之 練乃村戸二 所詐来
#[訓読]言とはぬ木すらあじさゐ諸弟らが練りのむらとにあざむかえけり
#[仮名],こととはぬ,きすらあじさゐ,もろとらが,ねりのむらとに,あざむかえけり
#[左注]
#[校異]茅 -> 弟 [桂][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,久邇京,難解,植物,贈答,怨恨
#[訓異]
#[大意]言葉を話さない木ですらあじさいのように様々に色が変わり信用出来ないものがある。諸弟めの巧妙ないろいろな言葉にだまされていたことだ
#{語釈]
あじさゐ  様々に色が変わる
諸弟らが  使者の名前。「ら」はけなした言葉
練りのむらと 巧妙な様々な言葉  「と」は祝詞の「と」と同じ「言葉」の意味

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0774
#[題詞](大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
#[原文]百千遍 戀跡云友 諸<弟>等之 練乃言羽<者> 吾波不信
#[訓読]百千たび恋ふと言ふとも諸弟らが練りのことばは我れは頼まじ
#[仮名],ももちたび,こふといふとも,もろとらが,ねりのことばは,われはたのまじ
#[左注]
#[校異]茅 -> 弟 [桂] / 志 -> 者 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,久邇京,怨恨
#[訓異]
#[大意]何百何千回も恋い思うといっても諸弟めの巧妙な言葉を自分は信用しないよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0775
#[題詞]大伴宿祢家持贈紀女郎歌一首
#[原文]鶉鳴 故郷従 念友 何如裳妹尓 相縁毛無寸
#[訓読]鶉鳴く古りにし里ゆ思へども何ぞも妹に逢ふよしもなき
#[仮名],うづらなく,ふりにしさとゆ,おもへども,なにぞもいもに,あふよしもなき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,紀女郎,動物,枕詞,贈答
#[訓異]
#[大意]鶉の鳴く古びた里の時以来恋い思っているがどうして妹に会う手だてもないのだろうか
#{語釈]
古りにし里  平城旧都

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0776
#[題詞]紀女郎報贈家持歌一首
#[原文]事出之者 誰言尓有鹿 小山田之 苗代水乃 中与杼尓四手
#[訓読]言出しは誰が言にあるか小山田の苗代水の中淀にして
#[仮名],ことでしは,たがことにあるか,をやまだの,なはしろみづの,なかよどにして
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:紀女郎,大伴家持,贈答
#[訓異]
#[大意]言い出したのは誰の言葉ですか。小山田の苗代の水のように私たちの中は停滞していますのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0777
#[題詞]大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首
#[原文]吾妹子之 屋戸乃籬乎 見尓徃者 盖従門 将返却可聞
#[訓読]我妹子がやどの籬を見に行かばけだし門より帰してむかも
#[仮名],わぎもこが,やどのまがきを,みにゆかば,けだしかどより,かへしてむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,紀女郎,怨恨
#[訓異]
#[大意]我妹子の家の籬を見に行くならば、もしかしたら門前から帰してしまうでしょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0778
#[題詞](大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
#[原文]打妙尓 前垣乃酢堅 欲見 将行常云哉 君乎見尓許曽
#[訓読]うつたへに籬の姿見まく欲り行かむと言へや君を見にこそ
#[仮名],うつたへに,まがきのすがた,みまくほり,ゆかむといへや,きみをみにこそ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,紀女郎,恋情
#[訓異]
#[大意]あながちに籬の姿を見たいというので行こうと言ってるはずがないじゃないですか。あなたを見に行きたいのです。
#{語釈]
うつたへに あながちに 一方的に  「言へや」にかかる
見にこそ  願望の終助詞。「明らけくこそ」

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0779
#[題詞](大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
#[原文]板盖之 黒木乃屋根者 山近之 明日取而 持将参来
#[訓読]板葺の黒木の屋根は山近し明日の日取りて持ちて参ゐ来む
#[仮名],いたぶきの,くろきのやねは,やまちかし,あすのひとりて,もちてまゐこむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,紀女郎,恋愛
#[訓異]
#[大意]板葺きの黒木の屋根は、山が近いので明日にも取って持って参りましょう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0780
#[題詞](大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
#[原文]黒樹取 草毛苅乍 仕目利 勤<和>氣登 将譽十方不有 [一云仕登母]
#[訓読]黒木取り草も刈りつつ仕へめどいそしきわけとほめむともあらず [一云仕ふとも]
#[仮名],くろきとり,かやもかりつつ,つかへめど,いそしきわけと,ほめむともあらず,[つかふとも]
#[左注]
#[校異]知 -> 和 [万葉考] / 母 [元][類] 毛
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,紀女郎,恋愛,戯笑
#[訓異]
#[大意]材木を取り、草も苅ってあなたに仕えているけれど、勤勉な奴と褒めることもないですね。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0781
#[題詞](大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
#[原文]野干玉能 昨夜者令還 今夜左倍 吾乎還莫 路之長手<呼>
#[訓読]ぬばたまの昨夜は帰しつ今夜さへ我れを帰すな道の長手を
#[仮名],ぬばたまの,きぞはかへしつ,こよひさへ,われをかへすな,みちのながてを
#[左注]
#[校異]乎 -> 呼 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,紀女郎,枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]むばたまの昨夜は帰した。今夜までも自分を帰さないで欲しい。長い通い路なのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0782
#[題詞]紀女郎褁物贈友歌一首 [女郎名曰小鹿也]
#[原文]風高 邊者雖吹 為妹 袖左倍所<沾>而 苅流玉藻焉
#[訓読]風高く辺には吹けども妹がため袖さへ濡れて刈れる玉藻ぞ
#[仮名],かぜたかく,へにはふけども,いもがため,そでさへぬれて,かれるたまもぞ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 沽 -> 沾 [元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:紀女郎,贈り物,植物
#[訓異]
#[大意]風が強く吹き浪が高く岸辺には吹き寄せるが、妹のために袖までも濡れて刈った玉藻であるぞ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0783
#[題詞]大伴宿祢家持贈娘子歌三首
#[原文]前年之 先年従 至今年 戀跡奈何毛 妹尓相難
#[訓読]をととしの先つ年より今年まで恋ふれどなぞも妹に逢ひかたき
#[仮名],をととしの,さきつとしより,ことしまで,こふれどなぞも,いもにあひかたき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,贈答,恋情
#[訓異]
#[大意]一昨年のそれ以前より今年まで恋い思っていたが、どうして妹に会い難いのだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0784
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌三首)
#[原文]打乍二波 更毛不得言 夢谷 妹之<手>本乎 纒宿常思見者
#[訓読]うつつにはさらにもえ言はず夢にだに妹が手本を卷き寝とし見ば
#[仮名],うつつには,さらにもえいはず,いめにだに,いもがたもとを,まきぬとしみば
#[左注]
#[校異]牟 -> 手 [西(右書)][桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,夢,恋情
#[訓異]
#[大意]実際にはさらにまた言うことはありませんが、せめて夢にだけでも妹の袂を枕として寝ているこを見るならば(この上もない幸せです)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0785
#[題詞](大伴宿祢家持贈娘子歌三首)
#[原文]吾屋戸之 草上白久 置露乃 壽母不有惜 妹尓不相有者
#[訓読]我がやどの草の上白く置く露の身も惜しからず妹に逢はずあれば
#[仮名],わがやどの,くさのうへしろく,おくつゆの,みもをしくあらず,いもにあはずあれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,娘子,恋情
#[訓異]
#[大意]我が家の草の上白く置く露ははかないが、そのように我が身も惜しくはありません。妹に会わないでいるならば
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0786
#[題詞]大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首
#[原文]春之雨者 弥布落尓 梅花 未咲久 伊等若美可聞
#[訓読]春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも
#[仮名],はるのあめは,いやしきふるに,うめのはな,いまださかなく,いとわかみかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,藤原久須麻呂,比喩,求婚,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]春の雨はますますしきりに降るのに、梅の花はまだ咲かないことだ。たいそう若いからだろうか。
#{語釈]
藤原朝臣久須麻呂 藤原仲麻呂の第2子。
         天平宝字2年8月従五位下
         天平宝字8年9月仲麻呂の変で射殺。
    19/4216藤原二郎はこの人か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0787
#[題詞](大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首)
#[原文]如夢 所念鴨 愛八師 君之使乃 麻祢久通者
#[訓読]夢のごと思ほゆるかもはしきやし君が使の数多く通へば
#[仮名],いめのごと,おもほゆるかも,はしきやし,きみがつかひの,まねくかよへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,藤原久須麻呂,贈答
#[訓異]
#[大意]夢のように思われることだ。愛しいあなたの使いが何度も通うと。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0788
#[題詞](大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首)
#[原文]浦若見 花咲難寸 梅乎殖而 人之事重三 念曽吾為類
#[訓読]うら若み花咲きかたき梅を植ゑて人の言繁み思ひぞ我がする
#[仮名],うらわかみ,はなさきかたき,うめをうゑて,ひとのことしげみ,おもひぞわがする
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,藤原久須麻呂,比喩,うわさ,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]若いのでまだ花が咲くことのない梅を植えて、他人のうわさがひどいのでもの思いを自分はすることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]04/0789
#[題詞]又家持贈藤原朝臣久須麻呂歌二首
#[原文]情八十一 所念可聞 春霞 軽引時二 事之通者
#[訓読]心ぐく思ほゆるかも春霞たなびく時に言の通へば
#[仮名],こころぐく,おもほゆるかも,はるかすみ,たなびくときに,ことのかよへば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,藤原久須麻呂,贈答
#[訓異]
#[大意]鬱陶しく、心がふさがれて思われることだ。蓮霞がたなびく時にしきりとお便りをいだくものだから
#{語釈]
#[説明]
08/1450D01大伴宿祢坂上郎女歌一首
08/1450H01心ぐきものにぞありける春霞たなびく時に恋の繁きは

#[関連論文]


#[番号]04/0790
#[題詞](又家持贈藤原朝臣久須麻呂歌二首)
#[原文]春風之 聲尓四出名者 有去而 不有今友 君之随意
#[訓読]春風の音にし出なばありさりて今ならずとも君がまにまに
#[仮名],はるかぜの,おとにしいでなば,ありさりて,いまならずとも,きみがまにまに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴家持,藤原久須麻呂,贈答
#[訓異]
#[大意]春風がきちんと吹いてくるように、きちんとした申し込みをしていただいたならば、このままにして、何も今すぐでなくともあたなとお心のままです。
#{語釈]
ありさりて  ありありて、ありつつもと同じ。現状のままで

#[説明]
#[関連論文]