万葉集 巻第7

#[番号]07/1068
#[題詞]雜歌 / 詠天
#[原文]天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見
#[訓読]天の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ
#[仮名],あめのうみに,くものなみたち,つきのふね,ほしのはやしに,こぎかくるみゆ
#[左注]右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体
#[訓異]
#[大意]天の海に雲の波が立ち月の舟が星の林に漕ぎ隠れるのが見える
#{語釈]
#[説明]
懐風藻 天武天皇 五言 詠月

#[関連論文]


#[番号]07/1069
#[題詞]詠月
#[原文]常者曽 不念物乎 此月之 過匿巻 惜夕香裳
#[訓読]常はさね思はぬものをこの月の過ぎ隠らまく惜しき宵かも
#[仮名],つねはさね,おもはぬものを,このつきの,すぎかくらまく,をしきよひかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]いつもは少しも恋い思わないものなのに、この月が夜空を過ぎて隠れることが惜しい今宵であることだ
#{語釈]
さね 全然 少しも

#[説明]
宴席でのお開きの歌か

#[関連論文]


#[番号]07/1070
#[題詞](詠月)
#[原文]大夫之 弓上振起 <猟>高之 野邊副清 照月夜可聞
#[訓読]大夫の弓末振り起し狩高の野辺さへ清く照る月夜かも
#[仮名],ますらをの,ゆずゑふりおこし,かりたかの,のへさへきよく,てるつくよかも
#[左注]
#[校異]借 -> 猟 [類]
#[鄣W],雑歌,高円山,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]大夫が弓末を振り起こして猟をするその狩高の野辺までも清らかに照らして照る月夜であることだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1071
#[題詞](詠月)
#[原文]山末尓 不知夜歴月乎 将出香登 待乍居尓 夜曽降家類
#[訓読]山の端にいさよふ月を出でむかと待ちつつ居るに夜ぞ更けにける
#[仮名],やまのはに,いさよふつきを,いでむかと,まちつつをるに,よぞふけにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]山の端にたゆとうている月を出るだろうかと待ち続けているうちに夜が更けてしまったことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1072
#[題詞](詠月)
#[原文]明日之夕 将照月夜者 片因尓 今夜尓因而 夜長有
#[訓読]明日の宵照らむ月夜は片寄りに今夜に寄りて夜長くあらなむ
#[仮名],あすのよひ,てらむつくよは,かたよりに,こよひによりて,よながくあらなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]明日の宵に照るであろう月は片方に今夜は寄って長く照っていて欲しい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1073
#[題詞](詠月)
#[原文]玉垂之 小簾之間通 獨居而 見驗無 暮月夜鴨
#[訓読]玉垂の小簾の間通しひとり居て見る験なき夕月夜かも
#[仮名],たまだれの,をすのまとほし,ひとりゐて,みるしるしなき,ゆふつくよかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]玉が垂れるその簾の間を通って一人でいて見ても何の甲斐もない夕月夜であることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1074
#[題詞](詠月)
#[原文]春日山 押而照有 此月者 妹之庭母 清有家里
#[訓読]春日山おして照らせるこの月は妹が庭にもさやけくありけり
#[仮名],かすがやま,おしててらせる,このつきは,いもがにはにも,さやけくありけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,春日山,奈良,慕情,地名
#[訓異]
#[大意]春日山に一面に照らしているこの月は妹の庭にも清らかに照らしているだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1075
#[題詞](詠月)
#[原文]海原之 道遠鴨 月讀 明少 夜者更下乍
#[訓読]海原の道遠みかも月読の光少き夜は更けにつつ
#[仮名],うなはらの,みちとほみかも,つくよみの,ひかりすくなき,よはふけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]海原の道が遠いからなのか。月読の光が少ないことだ。夜は更けつつあるのに
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1076
#[題詞](詠月)
#[原文]百師木之 大宮人之 退出而 遊今夜之 月清左
#[訓読]ももしきの大宮人の罷り出て遊ぶ今夜の月のさやけさ
#[仮名],ももしきの,おほみやひとの,まかりでて,あそぶこよひの,つきのさやけさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ももしきの大宮人が宮中から退出して遊ぶ今夜の月の清けさよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1077
#[題詞](詠月)
#[原文]夜干玉之 夜渡月乎 将留尓 西山邊尓 <塞>毛有粳毛
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月を留めむに西の山辺に関もあらぬかも
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきを,とどめむに,にしのやまへに,せきもあらぬかも
#[左注]
#[校異]塞 [西(上書訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜渡る月を引き留めようから西の山辺に関所でもないだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1078
#[題詞](詠月)
#[原文]此月之 此間来者 且今跡香毛 妹之出立 待乍将有
#[訓読]この月のここに来たれば今とかも妹が出で立ち待ちつつあるらむ
#[仮名],このつきの,ここにきたれば,いまとかも,いもがいでたち,まちつつあるらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]この月がこの位置までやってくると今かと妹が門に出て待ち続けているだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1079
#[題詞](詠月)
#[原文]真十鏡 可照月乎 白妙乃 雲香隠流 天津霧鴨
#[訓読]まそ鏡照るべき月を白栲の雲か隠せる天つ霧かも
#[仮名],まそかがみ,てるべきつきを,しろたへの,くもかかくせる,あまつきりかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]まそ鏡照っているはずの月を白妙の雲が隠している。天の霧だろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1080
#[題詞](詠月)
#[原文]久方乃 天照月者 神代尓加 出反等六 年者經去乍
#[訓読]ひさかたの天照る月は神代にか出で反るらむ年は経につつ
#[仮名],ひさかたの,あまてるつきは,かむよにか,いでかへるらむ,としはへにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ひさかたの天に照る月は神代の昔に返っているのだろうか。年はずいぶんと経っているのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1081
#[題詞](詠月)
#[原文]烏玉之 夜渡月乎 𪫧怜 吾居袖尓 露曽置尓鷄類
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月をおもしろみ我が居る袖に露ぞ置きにける
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきを,おもしろみ,わがをるそでに,つゆぞおきにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜渡っていく月が趣があるので自分が座っている袖に露が置いたことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1082
#[題詞](詠月)
#[原文]水底之 玉障清 可見裳 照月夜鴨 夜之深去者
#[訓読]水底の玉さへさやに見つべくも照る月夜かも夜の更けゆけば
#[仮名],みなそこの,たまさへさやに,みつべくも,てるつくよかも,よのふけゆけば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]水底の玉までもはっきりと見てしまうほど照る月であるよ。夜が更けていくと。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1083
#[題詞](詠月)
#[原文]霜雲入 為登尓可将有 久堅之 夜<渡>月乃 不見念者
#[訓読]霜曇りすとにかあるらむ久方の夜渡る月の見えなく思へば
#[仮名],しもぐもり,すとにかあるらむ,ひさかたの,よわたるつきの,みえなくおもへば
#[左注]
#[校異]度 -> 渡 [類][紀][温]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]霜曇りをするというのであろうか。久方の夜渡る月が見えないことを思うと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1084
#[題詞](詠月)
#[原文]山末尓 不知夜經月乎 何時母 吾待将座 夜者深去乍
#[訓読]山の端にいさよふ月をいつとかも我は待ち居らむ夜は更けにつつ
#[仮名],やまのはに,いさよふつきを,いつとかも,わはまちをらむ,よはふけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,恋情
#[訓異]
#[大意]山の端にたゆとうている月をいつ出るとして自分は待っているのだろうか。夜は更けていくのに

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1085
#[題詞](詠月)
#[原文]妹之當 吾袖将振 木間従 出来月尓 雲莫棚引
#[訓読]妹があたり我が袖振らむ木の間より出で来る月に雲なたなびき
#[仮名],いもがあたり,わはそでふらむ,このまより,いでくるつきに,くもなたなびき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,恋情
#[訓異]
#[大意]妹のあたりに自分は袖を振ろう。木の間より出てくる月に雲よたなびくなよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1086
#[題詞](詠月)
#[原文]靱懸流 伴雄廣伎 大伴尓 國将榮常 月者照良思
#[訓読]靫懸くる伴の男広き大伴に国栄えむと月は照るらし
#[仮名],ゆきかくる,とものをひろき,おほともに,くにさかえむと,つきはてるらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,寿歌
#[訓異]
#[大意]靫を懸ける伴の男たちが広くいる大伴の地に国は栄えるとして月は照るらしい
#{語釈]
広き  広く散らばっている 範囲の広い
大伴  難波の大伴
#[説明]
大伴と関係する氏族の宴か。

#[関連論文]


#[番号]07/1087
#[題詞]詠雲
#[原文]痛足河 々浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志
#[訓読]穴師川川波立ちぬ巻向の弓月が岳に雲居立てるらし
#[仮名],あなしがは,かはなみたちぬ,まきむくの,ゆつきがたけに,くもゐたてるらし
#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]立有 [細](塙) 立 / 志 [類][紀][温] 思
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,龍王山,奈良,非略体,地名
#[訓異]
#[大意]穴師川に川浪が立っている。巻向の弓月が岳に雲が立っているらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1088
#[題詞](詠雲)
#[原文]足引之 山河之瀬之 響苗尓 弓月高 雲立渡
#[訓読]あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ちわたる
#[仮名],あしひきの,やまがはのせの,なるなへに,ゆつきがたけに,くもたちわたる
#[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,龍王山,奈良,非略体,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]あしひきの山川の瀬の鳴るごとに弓月が岳に雲が立ち渡る
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1089
#[題詞](詠雲)
#[原文]大海尓 嶋毛不在尓 海原 絶塔浪尓 立有白雲
#[訓読]大海に島もあらなくに海原のたゆたふ波に立てる白雲
#[仮名],おほうみに,しまもあらなくに,うなはらの,たゆたふなみに,たてるしらくも
#[左注]右一首伊勢従駕作
#[校異]
#[鄣W],雑歌,伊勢,三重県,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]大海に島もないのに海原の揺らめいている波に立っている白雲よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1090
#[題詞]詠雨
#[原文]吾妹子之 赤裳裙之 将染埿 今日之W霂尓 吾共所沾<名>
#[訓読]我妹子が赤裳の裾のひづちなむ今日の小雨に我れさへ濡れな
#[仮名],わぎもこが,あかものすその,ひづちなむ,けふのこさめに,われさへぬれな
#[左注]
#[校異]者 -> 名 [元][類][紀][温]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]我妹子の赤裳の裾もぐっしょり濡れているだろう今日の小雨に自分までも濡れたいものだ。
我妹子の赤裳の裾も今頃は濡れているだろうな。今日の小雨に自分も濡れて行こう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1091
#[題詞](詠雨)
#[原文]可融 雨者莫零 吾妹子之 形見之服 吾下尓著有
#[訓読]通るべく雨はな降りそ我妹子が形見の衣我れ下に着り
#[仮名],とほるべく,あめはなふりそ,わぎもこが,かたみのころも,あれしたにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]下着まで通るほどに雨は降るなよ。我妹子の形見の衣を自分は下に着ているのだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1092
#[題詞]詠山
#[原文]動神之 音耳聞 巻向之 桧原山乎 今日見鶴鴨
#[訓読]鳴る神の音のみ聞きし巻向の桧原の山を今日見つるかも
#[仮名],なるかみの,おとのみききし,まきむくの,ひはらのやまを,けふみつるかも
#[左注](右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]鳴る神の音にばかり聞いていた巻向の桧原の山を今日見たことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1093
#[題詞](詠山)
#[原文]三毛侶之 其山奈美尓 兒等手乎 巻向山者 継之宜霜
#[訓読]三諸のその山なみに子らが手を巻向山は継ぎしよろしも
#[仮名],みもろの,そのやまなみに,こらがてを,まきむくやまは,つぎしよろしも
#[左注](右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]三諸のその山の姿にあの子の手を枕とする巻向山は続いているのがよいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1094
#[題詞](詠山)
#[原文]我衣 色<取>染 味酒 三室山 黄葉為在
#[訓読]我が衣色取り染めむ味酒三室の山は黄葉しにけり
#[仮名],あがころも,いろどりそめむ,うまさけ,みむろのやまは,もみちしにけり
#[左注]右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]服 -> 取 (塙) / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,三輪山,奈良,略体,地名,枕詞,季節
#[訓異]
#[大意]我が衣を彩って染めよう。味酒三室の山は紅葉したことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1095
#[題詞](詠山)
#[原文]三諸就 三輪山見者 隠口乃 始瀬之桧原 所念鴨
#[訓読]三諸つく三輪山見れば隠口の泊瀬の桧原思ほゆるかも
#[仮名],みもろつく,みわやまみれば,こもりくの,はつせのひはら,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,三輪山,奈良,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]三諸が降臨する三輪山を見ると隠口の泊瀬の桧原を思わずにはいられないことだ
#{語釈]
#[説明]
泊瀬の桧原を知っている人を念頭に置いての宴歌
三輪山から初瀬にかけて桧林が広がっていたと見るべきか

#[関連論文]


#[番号]07/1096
#[題詞](詠山)
#[原文]昔者之 事波不知乎 我見而毛 久成奴 天之香具山
#[訓読]いにしへのことは知らぬを我れ見ても久しくなりぬ天の香具山
#[仮名],いにしへの,ことはしらぬを,われみても,ひさしくなりぬ,あめのかぐやま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,香具山,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]昔のことは知らないが自分が見てからも時が経った天の香具山よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1097
#[題詞](詠山)
#[原文]吾勢子乎 乞許世山登 人者雖云 君毛不来益 山之名尓有之
#[訓読]我が背子をこち巨勢山と人は言へど君も来まさず山の名にあらし
#[仮名],わがせこを,こちこせやまと,ひとはいへど,きみもきまさず,やまのなにあらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]我が背子をこちらへ来させるという巨勢の山だと人は言うけれども、君もいらっしゃらない。ただ山の名前だけのようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1098
#[題詞](詠山)
#[原文]木道尓社 妹山在云 <玉>櫛上 二上山母 妹許曽有来
#[訓読]紀道にこそ妹山ありといへ玉櫛笥二上山も妹こそありけれ
#[仮名],きぢにこそ,いもやまありといへ,たまくしげ,ふたかみやまも,いもこそありけれ
#[左注]
#[校異]<> -> 玉 [万葉考]
#[鄣W],雑歌,二上山,地名,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]紀州時にこそ妹山はあるというが、玉櫛笥二上山も妹こそあるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1099
#[題詞]詠岳
#[原文]片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将<化>疑
#[訓読]片岡のこの向つ峰に椎蒔かば今年の夏の蔭にならむか
#[仮名],かたをかの,このむかつをに,しひまかば,ことしのなつの,かげにならむか
#[左注]
#[校異]比 -> 化 [万葉集古義]
#[鄣W],雑歌,王寺町,香芝町,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]片岡のこの向かい側の峰に椎を蒔くと、今年の夏の木陰になるだろうか
#{語釈]
#[説明]
寓意があると見られるが、不明。
「この」という臨場表現があるので、宴席の時に今からあの女性に声を掛けたら夏ぐらいに恋が成就するだろうかという戯れた歌か
#[関連論文]


#[番号]07/1100
#[題詞]詠河
#[原文]巻向之 病足之川由 徃水之 絶事無 又反将見
#[訓読]巻向の穴師の川ゆ行く水の絶ゆることなくまたかへり見む
#[仮名],まきむくの,あなしのかはゆ,ゆくみづの,たゆることなく,またかへりみむ
#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]病 [類][古][紀] 痛
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]巻向の穴師の川を通って流れていく水が途絶えないように途絶えることなくまた返り見よう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1101
#[題詞](詠河)
#[原文]黒玉之 夜去来者 巻向之 川音高之母 荒足鴨疾
#[訓読]ぬばたまの夜さり来れば巻向の川音高しもあらしかも疾き
#[仮名],ぬばたまの,よるさりくれば,まきむくの,かはとたかしも,あらしかもとき
#[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜がやってくると巻向の川音が高い。嵐が激しいのであろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1102
#[題詞](詠河)
#[原文]大王之 御笠山之 帶尓為流 細谷川之 音乃清也
#[訓読]大君の御笠の山の帯にせる細谷川の音のさやけさ
#[仮名],おほきみの,みかさのやまの,おびにせる,ほそたにがはの,おとのさやけさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,三笠山,奈良,地名,枕詞,叙景,土地讃美
#[訓異]
#[大意]大君の三笠の山の帯にしている細谷川の音のさやかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1103
#[題詞](詠河)
#[原文]今敷者 見目屋跡念之 三芳野之 大川余杼乎 今日見鶴鴨
#[訓読]今しくは見めやと思ひしみ吉野の大川淀を今日見つるかも
#[仮名],いましくは,みめやとおもひし,みよしのの,おほかはよどを,けふみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]今しばらくは見ることがあるだろうかと思っていたみ吉野の大川の淀を今日見たことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1104
#[題詞](詠河)
#[原文]馬並而 三芳野河乎 欲見 打越来而曽 瀧尓遊鶴
#[訓読]馬並めてみ吉野川を見まく欲りうち越え来てぞ瀧に遊びつる
#[仮名],うまなめて,みよしのがはを,みまくほり,うちこえきてぞ,たきにあそびつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]馬を並べてみ吉野川を見たいと思い山を越えて来て急流に遊んでいることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1105
#[題詞](詠河)
#[原文]音聞 目者末見 吉野川 六田之与杼乎 今日見鶴鴨
#[訓読]音に聞き目にはいまだ見ぬ吉野川六田の淀を今日見つるかも
#[仮名],おとにきき,めにはいまだみぬ,よしのがは,むつたのよどを,けふみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]うわさに聞いてばかりいて目にはまだ見ていない吉野川よ。六田の淀を今日見たことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1106
#[題詞](詠河)
#[原文]河豆鳴 清川原乎 今日見而者 何時可越来而 見乍偲食
#[訓読]かはづ鳴く清き川原を今日見てはいつか越え来て見つつ偲はむ
#[仮名],かはづなく,きよきかはらを,けふみては,いつかこえきて,みつつしのはむ
#[左注]
#[校異]河 [類][紀](塙) 川
#[鄣W],雑歌,動物
#[訓異]
#[大意]かわづが鳴く清らかな川原を今日見てはまたいつの日か越えて来て見ては賞美しよう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1107
#[題詞](詠河)
#[原文]泊瀬川 白木綿花尓 堕多藝都 瀬清跡 見尓来之吾乎
#[訓読]泊瀬川白木綿花に落ちたぎつ瀬をさやけみと見に来し我れを
#[仮名],はつせがは,しらゆふはなに,おちたぎつ,せをさやけみと,みにこしわれを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,初瀬,奈良,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]初瀬川白木綿花のように落ち流れる早瀬がさやかだとして見に来た自分なのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1108
#[題詞](詠河)
#[原文]泊瀬川 流水尾之 湍乎早 井提越浪之 音之清久
#[訓読]泊瀬川流るる水脈の瀬を早みゐで越す波の音の清けく
#[仮名],はつせがは,ながるるみをの,せをはやみ,ゐでこすなみの,おとのきよけく
#[左注]
#[校異]提 [西(貼紙訂正)] 堤
#[鄣W],雑歌,初瀬,奈良,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]初瀬川流れる水脈の瀬が速いので堰を越える波の音の清らかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1109
#[題詞](詠河)
#[原文]佐桧乃熊 桧隅川之 瀬乎早 君之手取者 将縁言毳
#[訓読]さ桧の隈桧隈川の瀬を早み君が手取らば言寄せむかも
#[仮名],さひのくま,ひのくまがはの,せをはやみ,きみがてとらば,ことよせむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,飛鳥,恋愛,地名
#[訓異]
#[大意]さ桧の隈の桧隈川の瀬が速いのであなたの手を取ったらいろいろと世間では噂をするでしょうか
#{語釈]
言寄せむかも  言葉を寄せる うわさをする

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1110
#[題詞](詠河)
#[原文]湯種蒔 荒木之小田矣 求跡 足結出所沾 此水之湍尓
#[訓読]ゆ種蒔くあらきの小田を求めむと足結ひ出で濡れぬこの川の瀬に
#[仮名],ゆだねまく,あらきのをだを,もとめむと,あゆひいでぬれぬ,このかはのせに
#[左注]
#[校異]出 [万葉集略解] 出 / 河 [類][紀](塙) 川
#[鄣W],雑歌,比喩,恋愛
#[訓異]
#[大意]神聖な種を蒔く新しく開墾した田を探そうとして足結をして出かけたが濡れてしまった。この川の早瀬に
#{語釈]
この川の瀬に 歌の並びからして「この川」は桧隈川か

#[説明]何かの譬喩か。女を捜しに行って邪魔が入った。
全注 齋種とあるので、新田開発で川の水量が豊富なことを誉めた歌

#[関連論文]


#[番号]07/1111
#[題詞](詠河)
#[原文]古毛 如此聞乍哉 偲兼 此古河之 清瀬之音矣
#[訓読]いにしへもかく聞きつつか偲ひけむこの布留川の清き瀬の音を
#[仮名],いにしへも,かくききつつか,しのひけむ,このふるがはの,きよきせのとを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,天理,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]その昔もこのように聞きながら誉め称えたのだろう。この布留川の清らかな瀬の音を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1112
#[題詞](詠河)
#[原文]波祢蘰 今為妹乎 浦若三 去来率去河之 音之清左
#[訓読]はねかづら今する妹をうら若みいざ率川の音のさやけさ
#[仮名],はねかづら,いまするいもを,うらわかみ,いざいさかはの,おとのさやけさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,奈良,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]はねかづらを今している妹がうら若いのでいざ誘う率川の音のさやかなことだ
#{語釈]
はねかづら  04/0405

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1113
#[題詞](詠河)
#[原文]此小川 白氣結 瀧至 八信井上尓 事上不為友
#[訓読]この小川霧ぞ結べるたぎちゆく走井の上に言挙げせねども
#[仮名],このをがは,きりぞむすべる,たぎちたる,はしりゐのへに,ことあげせねども
#[左注]
#[校異]瀧 [元][類][古] 流
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]この小川に霧が立ち込めている。激しく流れていく流れの中の水くみ場に言挙げはしないけれども
#{語釈]
霧   神の出現で二人の将来の約束を予言すると見た物
走り井  勢いよく吹き出る泉。ここは川の激しい流れで水が上がっている堰のことか
言挙げ  二人の将来の誓い

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1114
#[題詞](詠河)
#[原文]吾紐乎 妹手以而 結八川 又還見 万代左右荷
#[訓読]我が紐を妹が手もちて結八川またかへり見む万代までに
#[仮名],わがひもを,いもがてもちて,ゆふやがは,またかへりみむ,よろづよまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,序詞,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]自分の服の紐を妹の手で以て結ぶという結八川よ。また戻ってきてみよう。いつまでも
#{語釈]
結八川 所在未詳。次の歌から吉野川のことか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1115
#[題詞](詠河)
#[原文]妹之紐 結八<河>内乎 古之 并人見等 此乎誰知
#[訓読]妹が紐結八河内をいにしへのみな人見きとここを誰れ知る
#[仮名],いもがひも,ゆふやかふちを,いにしへの,みなひとみきと,ここをたれしる
#[左注]
#[校異]川 -> 河 [元][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,序詞,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]妹の紐を結ぶ結八川の河内を昔の人がみんな見たとここを誰が知ろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1116
#[題詞]詠露
#[原文]烏玉之 吾黒髪尓 落名積 天之露霜 取者消乍
#[訓読]ぬばたまの我が黒髪に降りなづむ天の露霜取れば消につつ
#[仮名],ぬばたまの,わがくろかみに,ふりなづむ,あめのつゆしも,とればけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの我が黒髪に降りかかっている天の露霜を手で振り払うと消えるが
#{語釈]
降りなづむ 地上に降るのに途中で自分の髪に引っかかる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1117
#[題詞]詠花
#[原文]嶋廻為等 礒尓見之花 風吹而 波者雖縁 不取不止
#[訓読]島廻すと磯に見し花風吹きて波は寄すとも採らずはやまじ
#[仮名],しまみすと,いそにみしはな,かぜふきて,なみはよすとも,とらずはやまじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]島をめぐるとして磯に咲く花を風が吹い波は寄せるといても採らないではすまされないよて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1118
#[題詞]詠葉
#[原文]古尓 有險人母 如吾等架 弥和乃桧原尓 挿頭折兼
#[訓読]いにしへにありけむ人も我がごとか三輪の桧原にかざし折りけむ
#[仮名],いにしへに,ありけむひとも,わがごとか,みわのひはらに,かざしをりけむ
#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,三輪山,奈良,非略体,地名,悲嘆
#[訓異]
#[大意]昔いた人も自分のように三輪の桧原で頭にかざして折ったのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1119
#[題詞](詠葉)
#[原文]徃川之 過去人之 手不折者 裏觸立 三和之桧原者
#[訓読]行く川の過ぎにし人の手折らねばうらぶれ立てり三輪の桧原は
#[仮名],ゆくかはの,すぎにしひとの,たをらねば,うらぶれたてり,みわのひはらは
#[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,三輪山,奈良,非略体,地名,悲嘆
#[訓異]
#[大意]流れ行く川のように亡くなってしまった人が手折らないのでしょんぼりとして立っていることだ。三輪の桧原は。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1120
#[題詞]詠蘿
#[原文]三芳野之 青根我峯之 蘿席 誰将織 經緯無二
#[訓読]み吉野の青根が岳の蘿むしろ誰れか織りけむ経緯なしに
#[仮名],みよしのの,あをねがたけの,こけむしろ,たれかおりけむ,たてぬきなしに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]み吉野の青根が岳の苔の蓆は誰が織ったのだろうか。縦糸も横糸もなくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1121
#[題詞]詠草
#[原文]妹<等所> 我通路 細竹為酢寸 我通 靡細竹原
#[訓読]妹らがり我が通ひ道の小竹すすき我れし通はば靡け小竹原
#[仮名],いもらがり,わがかよひぢの,しのすすき,われしかよはば,なびけしのはら
#[左注]
#[校異]所等 -> 等所
#[鄣W],雑歌,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]妹のもとへ自分が通う道の篠竹や薄よ。自分が通っている時は靡けよ。篠原よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1122
#[題詞]詠鳥
#[原文]山際尓 渡秋沙乃 <行>将居 其河瀬尓 浪立勿湯目
#[訓読]山の際に渡るあきさの行きて居むその川の瀬に波立つなゆめ
#[仮名],やまのまに,わたるあきさの,ゆきてゐむ,そのかはのせに,なみたつなゆめ
#[左注]
#[校異]徃 -> 行 [類][紀]
#[鄣W],雑歌,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]山の間際に渡るあきさが飛んでいって留まるであろうその川の早瀬に波は立つなよ決して。
#{語釈]
あきさ 鴨に似ていて少し小さい水鳥。万葉集中この一例

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1123
#[題詞](詠鳥)
#[原文]佐保河之 清河原尓 鳴<知>鳥 河津跡二 忘金都毛
#[訓読]佐保川の清き川原に鳴く千鳥かはづと二つ忘れかねつも
#[仮名],さほがはの,きよきかはらに,なくちどり,かはづとふたつ,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]智 -> 知 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,奈良,地名,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]佐保川の清らかな河原で鳴く千鳥よ。蛙と二つは忘れることは出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1124
#[題詞](詠鳥)
#[原文]佐保<川>尓 小驟千鳥 夜三更而 尓音聞者 宿不難尓
#[訓読]佐保川に騒ける千鳥さ夜更けて汝が声聞けば寐ねかてなくに
#[仮名],さほがはに,さわけるちどり,さよふけて,ながこゑきけば,いねかてなくに
#[左注]
#[校異]河 -> 川 [類][紀][温]
#[鄣W],雑歌,奈良,動物,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]佐保川に鳴き騒いでいる千鳥よ。夜更けにお前の声を聞くと寝ることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1125
#[題詞]思故郷
#[原文]清湍尓 千鳥妻喚 山際尓 霞立良武 甘南備乃里
#[訓読]清き瀬に千鳥妻呼び山の際に霞立つらむ神なびの里
#[仮名],きよきせに,ちどりつまよび,やまのまに,かすみたつらむ,かむなびのさと
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,飛鳥,地名,動物
#[訓異]
#[大意]清らかな瀬に千鳥が妻を呼び、山の間際には霞が立っているであろう神南備の里よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1126
#[題詞](思故郷)
#[原文]年月毛 末經尓 明日香<川> 湍瀬由渡之 石走無
#[訓読]年月もいまだ経なくに明日香川瀬々ゆ渡しし石橋もなし
#[仮名],としつきも,いまだへなくに,あすかがは,せぜゆわたしし,いしはしもなし
#[左注]
#[校異]河 -> 川 [類][紀][古][紀]
#[鄣W],雑歌,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]都が遷ってから年月もそれほど経っていないのに明日香川の早瀬毎に渡してあった石橋もなくなっていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1127
#[題詞]詠井
#[原文]隕田寸津 走井水之 清有者 <癈>者吾者 去不勝可聞
#[訓読]落ちたぎつ走井水の清くあれば置きては我れは行きかてぬかも
#[仮名],おちたぎつ,はしりゐみづの,きよくあれば,おきてはわれは,ゆきかてぬかも
#[左注]
#[校異]度 -> 癈 [元][類][古]
#[鄣W],雑歌,地名
#[訓異]
#[大意]落ちて激しく泡を立てている水が走っている流れている井戸の水が清らかであるので自分は後にして過ぎ去ることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
旅先で井戸の清らかさを讃美したもの

#[関連論文]


#[番号]07/1128
#[題詞](詠井)
#[原文]安志妣成 榮之君之 穿之井之 石井之水者 雖飲不飽鴨
#[訓読]馬酔木なす栄えし君が掘りし井の石井の水は飲めど飽かぬかも
#[仮名],あしびなす,さかえしきみが,ほりしゐの,いしゐのみづは,のめどあかぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,地名
#[訓異]
#[大意]馬酔木のように元気だったあなたが掘った井戸の石で囲まれた井戸は飲んでも飽きないことだ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1129
#[題詞]詠<倭>琴
#[原文]琴取者 嘆先立 盖毛 琴之下樋尓 嬬哉匿有
#[訓読]琴取れば嘆き先立つけだしくも琴の下樋に妻や隠れる
#[仮名],こととれば,なげきさきだつ,けだしくも,ことのしたびに,つまやこもれる
#[左注]
#[校異]和 -> 倭 [元][類][紀][温]
#[鄣W],雑歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]琴を手に取ると嘆きが先立つ。もしかしたら琴の底の樋に妻がこもっているのか
#{語釈]
#[説明]
琴は神の降臨の道具。神が隠るものとされていたので、その考えが背景にある。

#[関連論文]


#[番号]07/1130
#[題詞]芳野作
#[原文]神左振 磐根己凝敷 三芳野之 水分山乎 見者悲毛
#[訓読]神さぶる岩根こごしきみ吉野の水分山を見れば悲しも
#[仮名],かむさぶる,いはねこごしき,みよしのの,みくまりやまを,みればかなしも
#[左注]
#[校異]凝 [類][古][紀] 疑
#[鄣W],雑歌,吉野,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]神々しい磐根がごつごつしているみ吉野の水分山を見ると何とも言えない気持ちになる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1131
#[題詞](芳野作)
#[原文]皆人之 戀三<芳>野 今日見者 諾母戀来 山川清見
#[訓読]皆人の恋ふるみ吉野今日見ればうべも恋ひけり山川清み
#[仮名],みなひとの,こふるみよしの,けふみれば,うべもこひけり,やまかはきよみ
#[左注]
#[校異]吉 -> 芳 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,吉野,羈旅,地名,恋情,土地讃美
#[訓異]
#[大意]みんな人が恋い思うみ吉野よ。今日見るとなるほど恋い思うのももっともだ。山川が清らかなので

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1132
#[題詞](芳野作)
#[原文]夢乃和太 事西在来 寤毛 見而来物乎 念四念者
#[訓読]夢のわだ言にしありけりうつつにも見て来るものを思ひし思へば
#[仮名],いめのわだ,ことにしありけり,うつつにも,みてけるものを,おもひしおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]夢のわだは名前だけであったよ。実際に見たのだから。ずっと思い続けてきたものだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1133
#[題詞](芳野作)
#[原文]皇祖神之 神宮人 冬薯蕷葛 弥常敷尓 吾反将見
#[訓読]すめろきの神の宮人ところづらいやとこしくに我れかへり見む
#[仮名],すめろきの,かみのみやひと,ところづら,いやとこしくに,われかへりみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]皇祖の神の代からの宮人が、ところ葛のようにいつまでもやってくるように自分も何度もやってきて見よう
#{語釈]
ところづら 山芋の一種。蔓性のものなのでいつまでもなどにかかる枕詞。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1134
#[題詞](芳野作)
#[原文]能野川 石迹柏等 時齒成 吾者通 万世左右二
#[訓読]吉野川巌と栢と常磐なす我れは通はむ万代までに
#[仮名],よしのがは,いはとかしはと,ときはなす,われはかよはむ,よろづよまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]吉野川の岩と柏の木が永遠に変わらないであるように自分は変わらずに通おう。万代までも

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1135
#[題詞]山背作
#[原文]氏河齒 与杼湍無之 阿自呂人 舟召音 越乞所聞
#[訓読]宇治川は淀瀬なからし網代人舟呼ばふ声をちこち聞こゆ
#[仮名],うぢがはは,よどせなからし,あじろひと,ふねよばふこゑ,をちこちきこゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]宇治川は淀も早瀬もないらしい。網代を作る人が舟を呼び合う声があちらこちらで聞こえる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1136
#[題詞](山背作)
#[原文]氏河尓 生菅藻乎 河早 不取来尓家里 褁為益緒
#[訓読]宇治川に生ふる菅藻を川早み採らず来にけりつとにせましを
#[仮名],うぢがはに,おふるすがもを,かははやみ,とらずきにけり,つとにせましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]宇治川に生える菅藻を川が早いので採らないで来たことだ。みやげにしようと思っていたのに
#{語釈]
菅藻  未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1137
#[題詞](山背作)
#[原文]氏人之 譬乃足白 吾在者 今齒<与>良増 木積不来友
#[訓読]宇治人の譬への網代我れならば今は寄らまし木屑来ずとも
#[仮名],うぢひとの,たとへのあじろ,われならば,いまはよらまし,こつみこずとも
#[左注]
#[校異]王 -> 与 [万葉集略解] (塙[古義による]) 生
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]宇治の人を喩える網代に自分だったならば今は寄るのに。木屑が来なくとも
#{語釈]
#[説明]
何かの譬喩か

#[関連論文]


#[番号]07/1138
#[題詞](山背作)
#[原文]氏河乎 船令渡呼跡 雖喚 不所聞有之 楫音毛不為
#[訓読]宇治川を舟渡せをと呼ばへども聞こえざるらし楫の音もせず
#[仮名],うぢがはを,ふねわたせをと,よばへども,きこえざるらし,かぢのともせず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]宇治川を舟を渡してくれと呼び合うが聞こえないらしい。楫の音もしない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1139
#[題詞](山背作)
#[原文]千早人 氏川浪乎 清可毛 旅去人之 立難為
#[訓読]ちはや人宇治川波を清みかも旅行く人の立ちかてにする
#[仮名],ちはやひと,うぢがはなみを,きよみかも,たびゆくひとの,たちかてにする
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]勇猛な人のような宇治川の川浪が清らかであるからだろうか。旅に行く人が立ちづらそうにする
#{語釈]
ちはや人 勇猛な行動力のある人。宇治川の川の流れに喩えた枕詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1140
#[題詞]攝津作
#[原文]志長鳥 居名野乎来者 有間山 夕霧立 宿者無<而> [一本云 猪名乃浦廻乎 榜来者]
#[訓読]しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿りはなくて [一本云 猪名の浦みを漕ぎ来れば]
#[仮名],しながどり,ゐなのをくれば,ありまやま,ゆふぎりたちぬ,やどりはなくて,[ゐなのうらみを,こぎくれば]
#[左注]
#[校異]為 -> 而 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,兵庫,大阪,羈旅,動物,地名
#[訓異]
#[大意]しなが鳥の猪名野を来ると有間山に夕霧が立っている。泊まる所はないのに
#{語釈]
しなが鳥 かいつぶり におとり 雄雌でいることから率るの「い」にかかる枕詞
猪名野  兵庫県伊丹市 猪名川両岸
有間山 兵庫県神戸市兵庫区有馬町有馬温泉
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1141
#[題詞](攝津作)
#[原文]武庫河 水尾急<> 赤駒 足何久激 沾祁流鴨
#[訓読]武庫川の水脈を早みと赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも
#[仮名],むこがはの,みををはやみと,あかごまの,あがくたぎちに,ぬれにけるかも
#[左注]
#[校異]嘉 -> <> [元][類]
#[鄣W],雑歌,兵庫,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]武庫川の流れが早いので赤馬の足掻く泡に濡れてしまったことだ
#{語釈]
兵庫県武庫川   尼崎市 西宮市

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1142
#[題詞](攝津作)
#[原文]命 幸久吉 石流 垂水々乎 結飲都
#[訓読]命をし幸くよけむと石走る垂水の水をむすびて飲みつ
#[仮名],いのちをし,さきくよけむと,いはばしる,たるみのみづを,むすびてのみつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]命が無事であってくれと石の上を走るように流れる瀧の水を手ですくって飲んだことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1143
#[題詞](攝津作)
#[原文]作夜深而 穿江水手鳴 松浦船 梶音高之 水尾早見鴨
#[訓読]さ夜更けて堀江漕ぐなる松浦舟楫の音高し水脈早みかも
#[仮名],さよふけて,ほりえこぐなる,まつらぶね,かぢのおとたかし,みをはやみかも
#[左注]
#[校異]船 [類][古][温] 舟
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]夜が更けて堀江を漕いでいる松浦舟の楫の音が高く聞こえる。流れが速いからだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1144
#[題詞](攝津作)
#[原文]悔毛 満奴流塩鹿 墨江之 岸乃浦廻従 行益物乎
#[訓読]悔しくも満ちぬる潮か住吉の岸の浦廻ゆ行かましものを
#[仮名],くやしくも,みちぬるしほか,すみのえの,きしのうらみゆ,ゆかましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]悔しいことに満ちてくる潮か。住吉の岸の浦をめぐって行こうものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1145
#[題詞](攝津作)
#[原文]為妹 貝乎拾等 陳奴乃海尓 所沾之袖者 雖涼常不干
#[訓読]妹がため貝を拾ふと茅渟の海に濡れにし袖は干せど乾かず
#[仮名],いもがため,かひをひりふと,ちぬのうみに,ぬれにしそでは,ほせどかわかず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]妹のために貝を拾うとして茅渟の海に濡れた袖は干しても乾かない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1146
#[題詞](攝津作)
#[原文]目頬敷 人乎吾家尓 住吉之 岸乃黄土 将見因毛欲得
#[訓読]めづらしき人を我家に住吉の岸の埴生を見むよしもがも
#[仮名],めづらしき,ひとをわぎへに,すみのえの,きしのはにふを,みむよしもがも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]いとしい人を我が家に住まわせるその住吉の岸の埴生を見る手だてもあればなあ
#{語釈]
めづらしき人  誉め称えるべき人、通ってくるいとしい男

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1147
#[題詞](攝津作)
#[原文]暇有者 拾尓将徃 住吉之 岸因云 戀忘貝
#[訓読]暇あらば拾ひに行かむ住吉の岸に寄るといふ恋忘れ貝
#[仮名],いとまあらば,ひりひにゆかむ,すみのえの,きしによるといふ,こひわすれがひ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,動物
#[訓異]
#[大意]時間があったら拾いに行こう住吉の岸に寄るという恋いを忘れた貝を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1148
#[題詞](攝津作)
#[原文]馬雙而 今日吾見鶴 住吉之 岸之黄土 於万世見
#[訓読]馬並めて今日我が見つる住吉の岸の埴生を万代に見む
#[仮名],うまなめて,けふわがみつる,すみのえの,きしのはにふを,よろづよにみむ
#[左注]
#[校異]馬 [元][類](塙) 駒
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]馬を連ねて今日自分が見る住吉の岸の埴生をいつまでも見よう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1149
#[題詞](攝津作)
#[原文]住吉尓 徃云道尓 昨日見之 戀忘貝 事二四有家里
#[訓読]住吉に行くといふ道に昨日見し恋忘れ貝言にしありけり
#[仮名],すみのえに,ゆくといふみちに,きのふみし,こひわすれがひ,ことにしありけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,望郷,地名,動物
#[訓異]
#[大意]住吉に行くという道に昨日みた恋い忘れ貝は言葉だけであったよ
#{語釈]
言にしありけり 恋を忘れたいという気持ち、住吉を恋い思う気持ちを述べて讃めたもの 郷愁を述べる望郷歌

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1150
#[題詞](攝津作)
#[原文]墨吉之 岸尓家欲得 奥尓邊尓 縁白浪 見乍将思
#[訓読]住吉の岸に家もが沖に辺に寄する白波見つつ偲はむ
#[仮名],すみのえの,きしにいへもが,おきにへに,よするしらなみ,みつつしのはむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]住吉の岸に家もあればいいのに。沖や岸辺に寄せる白波を見ては誉め称えようのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1151
#[題詞](攝津作)
#[原文]大伴之 三津之濱邊乎 打曝 因来浪之 逝方不知毛
#[訓読]大伴の御津の浜辺をうちさらし寄せ来る波のゆくへ知らずも
#[仮名],おほともの,みつのはまへを,うちさらし,よせくるなみの,ゆくへしらずも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,不安
#[訓異]
#[大意]大伴の御津の浜辺を洗い出し寄せてくる波が帰っていく行き先がわからないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1152
#[題詞](攝津作)
#[原文]梶之音曽 髣髴為鳴 海末通女 奥藻苅尓 舟出為等思母 [一云 暮去者 梶之音為奈利]
#[訓読]楫の音ぞほのかにすなる海人娘子沖つ藻刈りに舟出すらしも [一云 夕されば楫の音すなり]
#[仮名],かぢのおとぞ,ほのかにすなる,あまをとめ,おきつもかりに,ふなですらしも,[ゆふされば,かぢのおとすなり]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]楫の音がかすかに聞こえる。海人娘子が沖の藻を苅りに船出をするらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1153
#[題詞](攝津作)
#[原文]住吉之 名兒之濱邊尓 馬立而 玉拾之久 常不所忘
#[訓読]住吉の名児の浜辺に馬立てて玉拾ひしく常忘らえず
#[仮名],すみのえの,なごのはまへに,うまたてて,たまひりひしく,つねわすらえず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]住吉の名児の浜辺に馬を立ち駐まらせて玉を拾ったことがいつも忘れられない
#{語釈]
名児の浜辺  住吉の海岸であろうが所在未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1154
#[題詞](攝津作)
#[原文]雨者零 借廬者作 何暇尓 吾兒之塩干尓 玉者将拾
#[訓読]雨は降る刈廬は作るいつの間に吾児の潮干に玉は拾はむ
#[仮名],あめはふる,かりいほはつくる,いつのまに,あごのしほひに,たまはひりはむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]雨は降る。仮庵は作る。何時の時間をぬって名児の潮が引いている間に玉を拾おうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1155
#[題詞](攝津作)
#[原文]奈呉乃海之 朝開之奈凝 今日毛鴨 礒之浦廻尓 乱而将有
#[訓読]名児の海の朝明のなごり今日もかも磯の浦廻に乱れてあるらむ
#[仮名],なごのうみの,あさけのなごり,けふもかも,いそのうらみに,みだれてあるらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]名児の海の夜明けの潮だまりは今日も磯の浦のめぐりのあちらこちらに残っているだろうか
#{語釈]
なごり  潮だまり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1156
#[題詞](攝津作)
#[原文]住吉之 遠里小野之 真榛以 須礼流衣乃 盛過去
#[訓読]住吉の遠里小野の真榛もち摺れる衣の盛り過ぎゆく
#[仮名],すみのえの,とほさとをのの,まはりもち,すれるころもの,さかりすぎゆく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]住吉の遠里小野の榛の葉でもって染めた衣の色が次第に褪せていくことだ
#{語釈]
遠里小野 大阪市住吉区遠里小野町  6.3791

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1157
#[題詞](攝津作)
#[原文]時風 吹麻久不知 阿胡乃海之 朝明之塩尓 玉藻苅奈
#[訓読]時つ風吹かまく知らず吾児の海の朝明の潮に玉藻刈りてな
#[仮名],ときつかぜ,ふかまくしらず,あごのうみの,あさけのしほに,たまもかりてな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]時の風が吹くこともかまわずに吾児の海の夜明けの潮で玉藻を苅ろうよ
#{語釈]
時つ風 時を定めて吹く風。海風
吾児の海  住吉の海岸の中 未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1158
#[題詞](攝津作)
#[原文]住吉之 奥津白浪 風吹者 来依留濱乎 見者浄霜
#[訓読]住吉の沖つ白波風吹けば来寄する浜を見れば清しも
#[仮名],すみのえの,おきつしらなみ,かぜふけば,きよするはまを,みればきよしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]住吉の沖の白波よ。風が吹くと寄せてくる浜を見ると清らかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1159
#[題詞](攝津作)
#[原文]住吉之 岸之松根 打曝 縁来浪之 音之清羅
#[訓読]住吉の岸の松が根うちさらし寄せ来る波の音のさやけさ
#[仮名],すみのえの,きしのまつがね,うちさらし,よせくるなみの,おとのさやけさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]住吉の岸の松の根を洗い出して寄せて来る波の音のさやかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1160
#[題詞](攝津作)
#[原文]難波方 塩干丹立而 見渡者 淡路嶋尓 多豆渡所見
#[訓読]難波潟潮干に立ちて見わたせば淡路の島に鶴渡る見ゆ
#[仮名],なにはがた,しほひにたちて,みわたせば,あはぢのしまに,たづわたるみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,叙景,動物
#[訓異]
#[大意]難波潟の潮干に立って見渡すと淡路の島に鶴が鳴いて渡るのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1161
#[題詞]覊旅作
#[原文]離家 旅西在者 秋風 寒暮丹 鴈喧<度>
#[訓読]家離り旅にしあれば秋風の寒き夕に雁鳴き渡る
#[仮名],いへざかり,たびにしあれば,あきかぜの,さむきゆふへに,かりなきわたる
#[左注]
#[校異]渡 -> 度 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,羈旅,羈旅,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]家を離れて旅の中にあるので秋風が寒い夕べに雁が鳴いて渡っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1162
#[題詞](覊旅作)
#[原文]圓方之 湊之渚鳥 浪立也 妻唱立而 邊近著毛
#[訓読]円方の港の洲鳥波立てや妻呼びたてて辺に近づくも
#[仮名],まとかたの,みなとのすどり,なみたてや,つまよびたてて,へにちかづくも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,三重県,松坂,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]円方の港の州浜にいる鳥は波が立ったのだろうか。妻を呼び立てて岸辺に近づいている
#{語釈]
円方の港 兵庫県姫路市的形町

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1163
#[題詞](覊旅作)
#[原文]年魚市方 塩干家良思 知多乃浦尓 朝榜舟毛 奥尓依所見
#[訓読]年魚市潟潮干にけらし知多の浦に朝漕ぐ舟も沖に寄る見ゆ
#[仮名],あゆちがた,しほひにけらし,したのうらに,あさこぐふねも,おきによるみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,名古屋,愛知,羈旅,叙景,地名
#[訓異]
#[大意]年魚市潟が潮が干いたらしい。知多の浦に朝漕ぐ船も沖の方に寄るのが見える
#{語釈]
年魚市潟 愛知県名古屋市熱田区 03.0271

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1164
#[題詞](覊旅作)
#[原文]塩干者 共滷尓出 鳴鶴之 音遠放 礒廻為等霜
#[訓読]潮干ればともに潟に出で鳴く鶴の声遠ざかる磯廻すらしも
#[仮名],しほふれば,ともにかたにいで,なくたづの,こゑとほざかる,いそみすらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]潮が干くとともに干潟に出て鳴いていた鶴の声が遠ざかっていく。磯のめぐりにいったらしい

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1165
#[題詞](覊旅作)
#[原文]暮名寸尓 求食為鶴 塩満者 奥浪高三 己妻喚
#[訓読]夕なぎにあさりする鶴潮満てば沖波高み己妻呼ばふ
#[仮名],ゆふなぎに,あさりするたづ,しほみてば,おきなみたかみ,おのづまよばふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]夕なぎに餌を取る鶴は潮が満ちてくると沖の波が高いので自分の妻を呼び合っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1166
#[題詞](覊旅作)
#[原文]古尓 有監人之 覓乍 衣丹揩牟 真野之榛原
#[訓読]いにしへにありけむ人の求めつつ衣に摺りけむ真野の榛原
#[仮名],いにしへに,ありけむひとの,もとめつつ,きぬにすりけむ,まののはりはら
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,神戸,兵庫,地名,植物
#[訓異]
#[大意]昔いたという人が探しながら衣に擦りつけたという真野の榛原よ
#{語釈]
真野の榛原  兵庫県長田区東尻池町 滋賀県大津市真野
03/0280H01いざ子ども大和へ早く白菅の真野の榛原手折りて行かむ
03/0281H01白菅の真野の榛原行くさ来さ君こそ見らめ真野の榛原
07/1354H01白菅の真野の榛原心ゆも思はぬ我れし衣に摺りつ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1167
#[題詞](覊旅作)
#[原文]朝入為等 礒尓吾見之 莫告藻乎 誰嶋之 白水郎可将苅
#[訓読]あさりすと礒に我が見しなのりそをいづれの島の海人か刈りけむ
#[仮名],あさりすと,いそにわがみし,なのりそを,いづれのしまの,あまかかりけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,植物,比喩
#[訓異]
#[大意]食物を取るとして磯に自分が見た名告り藻をどこの島の海人が苅ったのだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1168
#[題詞](覊旅作)
#[原文]今日毛可母 奥津玉藻者 白浪之 八重折之於丹 乱而将有
#[訓読]今日もかも沖つ玉藻は白波の八重をるが上に乱れてあるらむ
#[仮名],けふもかも,おきつたまもは,しらなみの,やへをるがうへに,みだれてあるらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,植物
#[訓異]
#[大意]今日も沖の美しい藻は白波の幾重にも重なっている上に乱れているのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1169
#[題詞](覊旅作)
#[原文]近江之海 湖者八十 何尓加 <公>之舟泊 草結兼
#[訓読]近江の海港は八十ちいづくにか君が舟泊て草結びけむ
#[仮名],あふみのうみ,みなとはやそち,いづくにか,きみがふねはて,くさむすびけむ
#[左注]
#[校異]君 -> 公 [類][古][紀][温]
#[鄣W],雑歌,羈旅,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]近江の海の港は数多くある。どこにあなたの舟は泊まって草庵を営んたのだろう
#{語釈]
八十ち ちは物を数える助数詞
草結びけむ 草庵を営む、草を結んで行く末を占う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1170
#[題詞](覊旅作)
#[原文]佐左浪乃 連庫山尓 雲居者 雨會零智否 反来吾背
#[訓読]楽浪の連庫山に雲居れば雨ぞ降るちふ帰り来我が背
#[仮名],ささなみの,なみくらやまに,くもゐれば,あめぞふるちふ,かへりこわがせ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,滋賀,羈旅,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]楽浪の連庫山に雲がかかると雨が降ってくる。帰って来なさいよ。我が背よ
#{語釈]
連庫山  滋賀県西南部 未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1171
#[題詞](覊旅作)
#[原文]大御舟 竟而佐守布 高嶋之 三尾勝野之 奈伎左思所念
#[訓読]大御船泊ててさもらふ高島の三尾の勝野の渚し思ほゆ
#[仮名],おほみふね,はててさもらふ,たかしまの,みをのかつのの,なぎさしおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]大御船が停泊して待っていた高島の三尾の勝野の渚が思われてならない。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1172
#[題詞](覊旅作)
#[原文]何處可 舟乗為家牟 高嶋之 香取乃浦従 己藝出来船
#[訓読]いづくにか舟乗りしけむ高島の香取の浦ゆ漕ぎ出来る舟
#[仮名],いづくにか,ふなのりしけむ,たかしまの,かとりのうらゆ,こぎでくるふね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]そこから舟に乗ったのだろう。高島の香取の浦からこぎ出してくる舟は
#{語釈]
香取の浦  所在未詳 高島のどこか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1173
#[題詞](覊旅作)
#[原文]斐太人之 真木流云 尓布乃河 事者雖通 船會不通
#[訓読]飛騨人の真木流すといふ丹生の川言は通へど舟ぞ通はぬ
#[仮名],ひだひとの,まきながすといふ,にふのかは,ことはかよへど,ふねぞかよはぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,岐阜県,小八賀川,謡物,地名
#[訓異]
#[大意]飛騨の人たちが木を流すという丹生の川。言葉は通うけれども舟は通わない
#{語釈]
飛騨  岐阜県髙山地方
丹生の川  岐阜県大野郡丹生川村小八賀川のことか
言は通へど 音信は通じるが実際には会えないの意味

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1174
#[題詞](覊旅作)
#[原文]霰零 鹿嶋之埼乎 浪高 過而夜将行 戀敷物乎
#[訓読]霰降り鹿島の崎を波高み過ぎてや行かむ恋しきものを
#[仮名],あられふり,かしまのさきを,なみたかみ,すぎてやゆかむ,こほしきものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,茨城,土地讃美,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]霰が降りかしましい鹿島の崎を波が高いので近寄ることが出来ないで通り過ぎていくことだろうか。恋しいものであるのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1175
#[題詞](覊旅作)
#[原文]足柄乃 筥根飛超 行鶴乃 乏見者 日本之所念
#[訓読]足柄の箱根飛び越え行く鶴の羨しき見れば大和し思ほゆ
#[仮名],あしがらの,はこねとびこえ,ゆくたづの,ともしきみれば,やまとしおもほゆ
#[左注]
#[校異]1176と順序入れ替え [元][紀]
#[鄣W],雑歌,羈旅,神奈川,望郷,動物,地名
#[訓異]
#[大意]足柄の箱根を飛び越えて行く鶴の羨ましいのを見れば大和のことが思われてならない
#{語釈]
羨しき  自分は難渋して足柄を超えているのに、空を難なく越えていく鶴が羨ましい

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1176
#[題詞](覊旅作)
#[原文]夏麻引 海上滷乃 <奥>洲尓 鳥<者>簀竹跡 君者音文不為
#[訓読]夏麻引く海上潟の沖つ洲に鳥はすだけど君は音もせず
#[仮名],なつそびく,うなかみがたの,おきつすに,とりはすだけど,きみはおともせず
#[左注]
#[校異]奥津 -> 奥 [元][類][紀] / <> -> 者 [西(右書)][元][類][紀] / 君者 [類][古][紀] 君
#[鄣W],雑歌,羈旅,千葉,地名,動物
#[訓異]
#[大意]夏の麻を引き抜く畝ではないが海上潟の沖の方の州浜に鳥は集まって騒いでいるけれどもあなたは音沙汰すらない
#{語釈]
夏麻引く 夏に麻を引き抜く畑の畝の意味で、「う」に掛かる枕詞
海上潟 千葉県銚子、海上郡の海
すだけど  集まって騒ぐ 11/2833

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1177
#[題詞](覊旅作)
#[原文]若狭在 三方之海之 濱清美 伊徃變良比 見跡不飽可聞
#[訓読]若狭なる三方の海の浜清みい行き帰らひ見れど飽かぬかも
#[仮名],わかさなる,みかたのうみの,はまきよみ,いゆきかへらひ,みれどあかぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,福井,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]若狭にある三方の海の浜が清らかなので行ったり帰ったりして見ても見飽きることはない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1178
#[題詞](覊旅作)
#[原文]印南野者 徃過奴良之 天傳 日笠浦 波立見 [一云 思賀麻江者 許藝須疑奴良思]
#[訓読]印南野は行き過ぎぬらし天伝ふ日笠の浦に波立てり見ゆ [一云 飾磨江は漕ぎ過ぎぬらし]
#[仮名],いなみのは,ゆきすぎぬらし,あまづたふ,ひかさのうらに,なみたてりみゆ,[しかまえは,こぎすぎぬらし]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,兵庫,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]印南野は通り過ぎたらしい。空を通る日、その日笠の浦に波が立っているのが見える[一云う 飾磨江は漕ぎ過ぎたらしい]
#{語釈]
日笠の浦 明石川河口あたり 推古紀 檜笠の岡
飾磨江 姫路市を流れる飾磨側河口あたり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1179
#[題詞](覊旅作)
#[原文]家尓之弖 吾者将戀名 印南野乃 淺茅之上尓 照之月夜乎
#[訓読]家にして我れは恋ひむな印南野の浅茅が上に照りし月夜を
#[仮名],いへにして,あれはこひむな,いなみのの,あさぢがうへに,てりしつくよを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,兵庫,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]家に戻って自分は懐かしく来い思うだろうな。印南野の浅茅が原に照っていた月夜を

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1180
#[題詞](覊旅作)
#[原文]荒礒超 浪乎恐見 淡路嶋 不見哉将過<去> 幾許近乎
#[訓読]荒磯越す波を畏み淡路島見ずか過ぎなむここだ近きを
#[仮名],ありそこす,なみをかしこみ,あはぢしま,みずかすぎなむ,ここだちかきを
#[左注]
#[校異]<> -> 去 [元][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,羈旅,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]荒磯を越す波が恐ろしいので淡路島を見ないで通り過ぎてしまうことであろうか。こんなにも近いのみ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1181
#[題詞](覊旅作)
#[原文]朝霞 不止軽引 龍田山 船出将為日者 吾将戀香聞
#[訓読]朝霞止まずたなびく龍田山舟出せむ日は我れ恋ひむかも
#[仮名],あさかすみ,やまずたなびく,たつたやま,ふなでしなむひ,あれこひむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,龍田,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]朝霞みがいつもたなびく龍田山よ。船出をする日になれば自分は恋い思うことであろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1182
#[題詞](覊旅作)
#[原文]海人小船 帆毳張流登 見左右荷 鞆之浦廻二 浪立有所見
#[訓読]海人小舟帆かも張れると見るまでに鞆の浦廻に波立てり見ゆ
#[仮名],あまをぶね,ほかもはれると,みるまでに,とものうらみに,なみたてりみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,広島,鞆の浦,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]海人の小舟に帆が張っていると見紛うほどに鞆の浦のめぐりに波が立っているのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1183
#[題詞](覊旅作)
#[原文]好去而 亦還見六 大夫乃 手二巻持在 鞆之浦廻乎
#[訓読]ま幸くてまたかへり見む大夫の手に巻き持てる鞆の浦廻を
#[仮名],まさきくて,またかへりみむ,ますらをの,てにまきもてる,とものうらみを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,広島,鞆の浦,地名
#[訓異]
#[大意]無事であってまた帰ってきて見よう。大夫の手に巻いて持っている鞆ではいが、その鞆の浦のめぐりを
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1184
#[題詞](覊旅作)
#[原文]鳥自物 海二浮居而 <奥>浪 驂乎聞者 數悲哭
#[訓読]鳥じもの海に浮き居て沖つ波騒くを聞けばあまた悲しも
#[仮名],とりじもの,うみにうきゐて,おきつなみ,さわくをきけば,あまたかなしも
#[左注]
#[校異]奥津 -> 奥 [元][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,羈旅
#[訓異]
#[大意]鳥のように海に浮かんでいて沖の波が騒ぐのを聞いているとたいそうしみじみとした思いになる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1185
#[題詞](覊旅作)
#[原文]朝菜寸二 真梶榜出而 見乍来之 三津乃松原 浪越似所見
#[訓読]朝なぎに真楫漕ぎ出て見つつ来し御津の松原波越しに見ゆ
#[仮名],あさなぎに,まかぢこぎでて,みつつこし,みつのまつばら,なみごしにみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,難波,大阪,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]朝凪の中両舷に楫をつけて漕ぎだして見続けてきた御津の松原が波越しに見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1186
#[題詞](覊旅作)
#[原文]朝入為流 海未通女等之 袖通 沾西衣 雖干跡不乾
#[訓読]あさりする海人娘子らが袖通り濡れにし衣干せど乾かず
#[仮名],あさりする,あまをとめらが,そでとほり,ぬれにしころも,ほせどかわかず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅
#[訓異]
#[大意]漁をしている海人娘子たちの袖までも通して濡れた衣は干しても乾かない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1187
#[題詞](覊旅作)
#[原文]網引為 海子哉見 飽浦 清荒礒 見来吾
#[訓読]網引する海人とか見らむ飽の浦の清き荒磯を見に来し我れを
#[仮名],あびきする,あまとかみらむ,あくのうらの,きよきありそを,みにこしわれを
#[左注]右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,羈旅,和歌山,略体,地名
#[訓異]
#[大意]網を引く海人と見られるだろうか。飽の浦の清らかな荒磯を見に来た自分なのに
#{語釈]
飽の浦 和歌山市西北、加太町の南の海 飽の岬 11/2795

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1188
#[題詞](覊旅作)
#[原文]山超而 遠津之濱之 石管自 迄吾来 含而有待
#[訓読]山越えて遠津の浜の岩つつじ我が来るまでにふふみてあり待て
#[仮名],やまこえて,とほつのはまの,いはつつじ,わがくるまでに,ふふみてありまて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,摂津,大阪,別離,地名
#[訓異]
#[大意]山を越えて遠くに行くその遠津の浜の岩つつじよ。自分が来るまではつぼみのままであって待っていろよ
#{語釈]
山越えて 遠くに行く で遠の枕詞
遠津の浜 所在未詳 遠津の大浦 11/2729

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1189
#[題詞](覊旅作)
#[原文]大海尓 荒莫吹 四長鳥 居名之湖尓 舟泊左右手
#[訓読]大海にあらしな吹きそしなが鳥猪名の港に舟泊つるまで
#[仮名],おほうみに,あらしなふきそ,しながどり,ゐなのみなとに,ふねはつるまで
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,兵庫,動物,地名
#[訓異]
#[大意]大海に嵐は吹くなよ。しなが鳥猪名の港に舟が着くまでは
#{語釈]
猪名の港  猪名川河口あたり。現在の尼崎市長洲付近

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1190
#[題詞](覊旅作)
#[原文]舟盡 可志振立而 廬利為 名子江乃濱邊 過不勝鳧
#[訓読]舟泊ててかし振り立てて廬りせむ名児江の浜辺過ぎかてぬかも
#[仮名],ふねはてて,かしふりたてて,いほりせむ,なごえのはまへ,すぎかてぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,大阪,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]舟が到着してかしを振り立てて停めて仮の宿りをしよう。心残りで名児江の浜辺を粋すぎることが出来ないことだ
#{語釈]
かし  15/3632H01大船にかし振り立てて浜清き麻里布の浦に宿りかせまし
名児江 所在未詳 1153 住吉の名児と同じか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1191
#[題詞](覊旅作)
#[原文]妹門 出入乃河之 瀬速見 吾馬爪衝 家思良下
#[訓読]妹が門出入の川の瀬を早み我が馬つまづく家思ふらしも
#[仮名],いもがかど,いでいりのかはの,せをはやみ,あがうまつまづく,いへもふらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,望郷,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]恋人の家の門を出入りする出入りの川の流れが速いので馬が躓く。家のことを恋い思っているのだろうか
#{語釈]
出入の川 所在未詳。配列から紀州に入るまでの紀ノ川支流か。
つまづく  03/0365H01塩津山打ち越え行けば我が乗れる馬ぞつまづく家恋ふらしも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1192
#[題詞](覊旅作)
#[原文]白栲尓 丹保布信土之 山川尓 吾馬難 家戀良下
#[訓読]白栲ににほふ真土の山川に我が馬なづむ家恋ふらしも
#[仮名],しろたへに,にほふまつちの,やまがはに,あがうまなづむ,いへこふらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,望郷,紀州,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]白く輝く真土の山川に我が馬がつまづく。家のことを来い思っているらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1193
#[題詞](覊旅作)
#[原文]勢能山尓 直向 妹之山 事聴屋毛 打橋渡
#[訓読]背の山に直に向へる妹の山事許せやも打橋渡す
#[仮名],せのやまに,ただにむかへる,いものやま,ことゆるせやも,うちはしわたす
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]背の山に直接向かっている妹の山。妻問いの言葉を赦したからだろうか。打ち橋を渡している
#{語釈]
事許せやも 背の山からの求婚の言葉を妹の山は赦したからか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1194
#[題詞](覊旅作)
#[原文]木國之 狭日鹿乃浦尓 出見者 海人之燎火 浪間従所見
#[訓読]紀の国の雑賀の浦に出で見れば海人の燈火波の間ゆ見ゆ
#[仮名],きのくにの,さひかのうらに,いでみれば,あまのともしび,なみのまゆみゆ
#[左注](右七首者藤原卿作 未審年月)
#[校異]以下、1207までは1222の後 [元][西][細] [寛]、国歌大観の順序に従う
#[鄣W],雑歌,作者:藤原房前,藤原麻呂,羈旅,和歌山,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]紀の国の雑賀の浦に出て見ると海人の漁り火が波の間に見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1195
#[題詞](覊旅作)
#[原文]麻衣 著者夏樫 木國之 妹背之山二 麻蒔吾妹
#[訓読]麻衣着ればなつかし紀の国の妹背の山に麻蒔く我妹
#[仮名],あさごろも,きればなつかし,きのくにの,いもせのやまに,あさまくわぎも
#[左注]右七首者藤原卿作 未審年月
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:藤原房前,藤原麻呂,羈旅,和歌山,地名,植物
#[訓異]
#[大意]麻衣を着ると心引かれる。紀の国の妹背の山に麻を蒔く我が妹に
#{語釈]
麻衣 紀州が麻の名産
01/0055H01あさもよし紀人羨しも真土山行き来と見らむ紀人羨しも
藤原卿  藤原麻呂、房前、不比等等不明。大宝元年の行幸時か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1196
#[題詞](覊旅作)
#[原文]欲得褁登 乞者令取 貝拾 吾乎沾莫 奥津白浪
#[訓読]つともがと乞はば取らせむ貝拾ふ我れを濡らすな沖つ白波
#[仮名],つともがと,こはばとらせむ,かひひりふ,われをぬらすな,おきつしらなみ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]みやげが欲しいと求められれば与えよう。貝を拾う自分を濡らすなよ。沖の白波よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1197
#[題詞](覊旅作)
#[原文]手取之 柄二忘跡 礒人之曰師 戀忘貝 言二師有来
#[訓読]手に取るがからに忘ると海人の言ひし恋忘れ貝言にしありけり
#[仮名],てにとるが,からにわすると,あまのいひし,こひわすれがひ,ことにしありけり
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,望郷,動物
#[訓異]
#[大意]手に穫るとすぐに忘れると海人が言った恋忘れ貝はただの言葉だけであるよ
#{語釈]
手に取るがからに すぐに
06/1038H01故郷は遠くもあらず一重山越ゆるがからに思ひぞ我がせし

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1198
#[題詞](覊旅作)
#[原文]求食為跡 礒二住鶴 暁去者 濱風寒弥 自妻喚毛
#[訓読]あさりすと礒に棲む鶴明けされば浜風寒み己妻呼ぶも
#[仮名],あさりすと,いそにすむたづ,あけされば,はまかぜさむみ,おのづまよぶも
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,望郷,動物
#[訓異]
#[大意]餌を求めるとして磯に住む鶴は夜が明けてくると浜風が寒いので自分の妻を呼ぶことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1199
#[題詞](覊旅作)
#[原文]藻苅舟 奥榜来良之 妹之嶋 形見之浦尓 鶴翔所見
#[訓読]藻刈り舟沖漕ぎ来らし妹が島形見の浦に鶴翔る見ゆ
#[仮名],もかりふね,おきこぎくらし,いもがしま,かたみのうらに,たづかけるみゆ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,叙景,植物
#[訓異]
#[大意]藻を苅る舟が沖に漕いで来たらしい。妹の形見の形見の浦に鶴が飛び回っているのが見える
#{語釈]
形見の浦 所在未詳。加太の浦か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1200
#[題詞](覊旅作)
#[原文]吾舟者 従奥莫離 向舟 片待香光 従浦榜将會
#[訓読]我が舟は沖ゆな離り迎へ舟方待ちがてり浦ゆ漕ぎ逢はむ
#[仮名],わがふねは,おきゆなさかり,むかへぶね,かたまちがてり,うらゆこぎあはむ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]自分の乗っている舟は沖へは離れるなよ。迎え舟を一方では待って浦から漕ぎ会おう
#{語釈]
迎へ舟 作者たちを歓迎する舟

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1201
#[題詞](覊旅作)
#[原文]大海之 水底豊三 立浪之 将依思有 礒之清左
#[訓読]大海の水底響み立つ波の寄らむと思へる礒のさやけさ
#[仮名],おほうみの,みなそことよみ,たつなみの,よせむとおもへる,いそのさやけさ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,土地讃美
#[訓異]
#[大意]大海の水底が響いて立つ波が寄せるだろうと思う磯のさやかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1202
#[題詞](覊旅作)
#[原文]自荒礒毛 益而思哉 玉之<裏> 離小嶋 夢<所>見
#[訓読]荒礒ゆもまして思へや玉の浦離れ小島の夢にし見ゆる
#[仮名],ありそゆも,ましておもへや,たまのうら,はなれこしまの,いめにしみゆる
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]浦 -> 裏 [元][類][古] / 石 -> 所 [類]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,和歌山,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]荒磯よりもましてすばらしいと思っているからか、玉之浦の離れ小嶋が夢に見えることだ
#{語釈]
玉の浦 玉津島神社、東牟婁郡那智勝浦町粉白付近か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1203
#[題詞](覊旅作)
#[原文]礒上尓 爪木折焼 為汝等 吾潜来之 奥津白玉
#[訓読]礒の上に爪木折り焚き汝がためと我が潜き来し沖つ白玉
#[仮名],いそのうへに,つまきをりたき,ながためと,わがかづきこし,おきつしらたま
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]磯のほとりで小枝を折って焚いてあなたのために自分が潜って取ってきた海底の白玉であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1204
#[題詞](覊旅作)
#[原文]濱清美 礒尓吾居者 見者 白水郎可将見 釣不為尓
#[訓読]浜清み礒に我が居れば見む人は海人とか見らむ釣りもせなくに
#[仮名],はまきよみ,いそにわがをれば,みむひとは,あまとかみらむ,つりもせなくに
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]濱が清らかなので磯に自分がいると自分を見る人は海人と見るだろうか。釣もしていないのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1205
#[題詞](覊旅作)
#[原文]奥津梶 漸々志夫乎 欲見 吾為里乃 隠久惜毛
#[訓読]沖つ楫やくやくしぶを見まく欲り我がする里の隠らく惜しも
#[仮名],おきつかぢ,やくやくしぶを,みまくほり,わがするさとの,かくらくをしも
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]沖の方へ漕いでいる楫がだんだんとゆっくりとなるのに、見たいと思っている里が波間に隠れていくのが心残りなことだ
#{語釈]
しぶ 未詳  渋滞するの意味でゆっくりとなるの意味か
見まく欲り我がする  我が見まく欲りする

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1206
#[題詞](覊旅作)
#[原文]奥津波 部都藻纒持 依来十方 君尓益有 玉将縁八方 [一云 沖津浪 邊<浪>布敷 縁来登母]
#[訓読]沖つ波辺つ藻巻き持ち寄せ来とも君にまされる玉寄せめやも [一云 沖つ波辺波しくしく寄せ来とも]
#[仮名],おきつなみ,へつもまきもち,よせくとも,きみにまされる,たまよせめやも,[おきつなみ,へなみしくしく,よせくとも]
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]波 -> 浪 [元][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,比喩
#[訓異]
#[大意]沖の波は岸辺の海草を巻き込んで打ち寄せて来ようともあなたにまさる玉を寄せてくることがありましょうか[一云 沖の波や岸辺の波が重ね重ね寄せて来ようとも]
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1207
#[題詞](覊旅作)
#[原文]粟嶋尓 許枳将渡等 思鞆 赤石門浪 未佐和来
#[訓読]粟島に漕ぎ渡らむと思へども明石の門波いまだ騒けり
#[仮名],あはしまに,こぎわたらむと,おもへども,あかしのとなみ,いまださわけり
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]粟島に漕ぎ渡ろうと思うが、明石海峡の波はまだ高く騒いでいる
#{語釈]
粟島 未詳  阿波国か
03/0358H01武庫の浦を漕ぎ廻る小舟粟島をそがひに見つつ羨しき小舟
04/0509H06粟島を そがひに見つつ 朝なぎに 水手の声呼び 夕なぎに
07/1207H01粟島に漕ぎ渡らむと思へども明石の門波いまだ騒けり
12/3167H01波の間ゆ雲居に見ゆる粟島の逢はぬものゆゑ我に寄そる子ら
15/3631H01いつしかも見むと思ひし粟島を外にや恋ひむ行くよしをなみ
15/3633H01粟島の逢はじと思ふ妹にあれや安寐も寝ずて我が恋ひわたる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1208
#[題詞](覊旅作)
#[原文]妹尓戀 余越去者 勢能山之 妹尓不戀而 有之乏左
#[訓読]妹に恋ひ我が越え行けば背の山の妹に恋ひずてあるが羨しさ
#[仮名],いもにこひ,わがこえゆけば,せのやまの,いもにこひずて,あるがともしさ
#[左注]
#[校異]1210の次に配列 [類][古][紀] 以下、錯簡により「古集」注の該当歌を変更する。[西][寛]国歌大観の配列に従う
#[鄣W],雑歌,羈旅,和歌山,地名,望郷,土地讃美,恋情
#[訓異]
#[大意]妹に自分が恋い思って越えて行くと、背の山が妹に恋い思わないでいる羨ましさよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1209
#[題詞](覊旅作)
#[原文]人在者 母之最愛子曽 麻毛吉 木川邊之 妹与<背>山
#[訓読]人ならば母が愛子ぞあさもよし紀の川の辺の妹と背の山
#[仮名],ひとならば,ははがまなごぞ,あさもよし,きのかはのへの,いもとせのやま
#[左注]
#[校異]背之 -> 背 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]人間であるならば母のいとしい子どもであるぞ。あさもよし紀の川のほとりの妹と背の山は
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1210
#[題詞](覊旅作)
#[原文]吾妹子尓 吾戀行者 乏雲 並居鴨 妹与勢能山
#[訓読]我妹子に我が恋ひ行けば羨しくも並び居るかも妹と背の山
#[仮名],わぎもこに,あがこひゆけば,ともしくも,ならびをるかも,いもとせのやま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,古集,羈旅,望郷,和歌山,地名,望郷,恋情,土地讃美
#[訓異]
#[大意]我が妹に自分が恋い思っていくと羨ましいことにも並んでいることだ妹と背の山よ
#{語釈]
#[説明]
1208を言い方を変えたもの

#[関連論文]


#[番号]07/1211
#[題詞](覊旅作)
#[原文]妹當 今曽吾行 目耳谷 吾耳見乞 事不問侶
#[訓読]妹があたり今ぞ我が行く目のみだに我れに見えこそ言問はずとも
#[仮名],いもがあたり,いまぞわがゆく,めのみだに,われにみえこそ,こととはずとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,望郷,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]妹の付近を今自分は越えて行く。せめて目だけでも自分に見えて欲しいものだ。言葉は交わさなくとも
#{語釈]
#[説明]
妹山の付近を通過する時の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1212
#[題詞](覊旅作)
#[原文]足代過而 絲鹿乃山之 櫻花 不散在南 還来万代
#[訓読]足代過ぎて糸鹿の山の桜花散らずもあらなむ帰り来るまで
#[仮名],あてすぎて,いとかのやまの,さくらばな,ちらずもあらなむ,かへりくるまで
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,悲別,和歌山,地名,植物
#[訓異]
#[大意]足代を過ぎて糸鹿の山の桜花よ。散らないでいて欲しい。帰って来るまでは。
#{語釈]
足代  和歌山県有田郡 郷名 有田川
糸鹿の山  和歌山県有田市糸我町

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1213
#[題詞](覊旅作)
#[原文]名草山 事西在来 吾戀 千重一重 名草目名國
#[訓読]名草山言にしありけり我が恋ふる千重の一重も慰めなくに
#[仮名],なぐさやま,ことにしありけり,あがこふる,ちへのひとへも,なぐさめなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,和歌山,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]名草山は言葉だけである。自分が恋い思う千分の一も慰めないのに
#{語釈]
名草山  和歌山県和歌山市紀三井寺名草山

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1214
#[題詞](覊旅作)
#[原文]安太部去 小為手乃山之 真木葉毛 久不見者 蘿生尓家里
#[訓読]安太へ行く小為手の山の真木の葉も久しく見ねば蘿生しにけり
#[仮名],あだへゆく,をすてのやまの,まきのはも,ひさしくみねば,こけむしにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,和歌山,地名,植物
#[訓異]
#[大意]安太へ行く小為手の山の立派な木の葉も長く見ないと苔が生えていることだ
#{語釈]
安太  和歌山県有田市宮原町付近 未詳
小為手の山  未詳 和歌山県有田郡清水町押手 和歌山県海草郡下津町小畑才坂

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1215
#[題詞](覊旅作)
#[原文]玉津嶋 能見而伊座 青丹吉 平城有人之 待問者如何
#[訓読]玉津島よく見ていませあをによし奈良なる人の待ち問はばいかに
#[仮名],たまつしま,よくみていませ,あをによし,ならなるひとの,まちとはばいかに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,和歌山,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]玉津島をよく見ていらっしゃい。あをによし奈良にいる人が待って尋ねられるとどのように(答えられますか)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1216
#[題詞](覊旅作)
#[原文]塩満者 如何将為跡香 方便海之 神我手渡 海部未通女等
#[訓読]潮満たばいかにせむとか海神の神が手渡る海人娘子ども
#[仮名],しほみたば,いかにせむとか,わたつみの,かみがてわたる,あまをとめども
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅
#[訓異]
#[大意]潮が満ちるとどのようにしようとして海神の危険な海道を渡る海人どもよ
#{語釈]
神が手  難所

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1217
#[題詞](覊旅作)
#[原文]玉津嶋 見之善雲 吾無 京徃而 戀幕思者
#[訓読]玉津島見てしよけくも我れはなし都に行きて恋ひまく思へば
#[仮名],たまつしま,みてしよけくも,われはなし,みやこにゆきて,こひまくおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,羈旅,和歌山,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]玉津島を見たがいいことは少しも自分はない。都に戻ってこの玉津島のことを恋い思うことを思うと
#{語釈]
#[説明]
土地讃美

#[関連論文]


#[番号]07/1218
#[題詞](覊旅作)
#[原文]黒牛乃海 紅丹穂經 百礒城乃 大宮人四 朝入為良霜
#[訓読]黒牛の海紅にほふももしきの大宮人しあさりすらしも
#[仮名],くろうしのうみ,くれなゐにほふ,ももしきの,おほみやひとし,あさりすらしも
#[左注](右七首者藤原卿作 未審年月)
#[校異]以下、錯簡により「藤原卿作」左注の該当歌を変更する
#[鄣W],雑歌,作者:藤原房前,藤原麻呂,羈旅,和歌山,地名,枕詞,叙景
#[訓異]
#[大意]黒牛の海は紅に照り輝いている。ももしきの大宮人が貝を採っているらしい
#{語釈]
黒牛の海  和歌山県海南市黒江

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1219
#[題詞](覊旅作)
#[原文]若浦尓 白浪立而 奥風 寒暮者 山跡之所念
#[訓読]若の浦に白波立ちて沖つ風寒き夕は大和し思ほゆ
#[仮名],わかのうらに,しらなみたちて,おきつかぜ,さむきゆふへは,やまとしおもほゆ
#[左注](右七首者藤原卿作 未審年月)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:藤原房前,藤原麻呂,羈旅,和歌山,地名,望郷
#[訓異]
#[大意]和歌の浦に白波が立って沖の風が寒い夕べは大和のことが思われることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1220
#[題詞](覊旅作)
#[原文]為妹 玉乎拾跡 木國之 湯等乃三埼二 此日鞍四通
#[訓読]妹がため玉を拾ふと紀伊の国の由良の岬にこの日暮らしつ
#[仮名],いもがため,たまをひりふと,きのくにの,ゆらのみさきに,このひくらしつ
#[左注](右七首者藤原卿作 未審年月)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:藤原房前,藤原麻呂,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]妹のために玉を拾うとして紀伊の国の由良の岬にこの一日を過ごしたことだ
#{語釈]
由良の岬  和歌山県日高郡由良町神谷崎

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1221
#[題詞](覊旅作)
#[原文]吾舟乃 梶者莫引 自山跡 戀来之心 未飽九二
#[訓読]我が舟の楫はな引きそ大和より恋ひ来し心いまだ飽かなくに
#[仮名],わがふねの,かぢはなひきそ,やまとより,こひこしこころ,いまだあかなくに
#[左注](右七首者藤原卿作 未審年月)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:藤原房前,藤原麻呂,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]我が船の楫は引くなよ。大和よりここを恋い思ってきた気持ちはまだ満たされていないのだから

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1222
#[題詞](覊旅作)
#[原文]玉津嶋 雖見不飽 何為而 褁持将去 不見人之為
#[訓読]玉津島見れども飽かずいかにして包み持ち行かむ見ぬ人のため
#[仮名],たまつしま,みれどもあかず,いかにして,つつみもちゆかむ,みぬひとのため
#[左注](右七首者藤原卿作 未審年月)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:藤原房前,藤原麻呂,羈旅,望郷,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]玉津島を見ても見飽きることがない。どのようにして包んで持って帰ろうか。睺だ見ていない人のために
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1223
#[題詞](覊旅作)
#[原文]綿之底 奥己具舟乎 於邊将因 風毛吹額 波不立而
#[訓読]海の底沖漕ぐ舟を辺に寄せむ風も吹かぬか波立てずして
#[仮名],わたのそこ,おきこぐふねを,へによせむ,かぜもふかぬか,なみたてずして
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]海の底の沖を漕ぐ船を岸辺に寄せようか。風も吹かないことであろうか。波を立てないで
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1224
#[題詞](覊旅作)
#[原文]大葉山 霞蒙 狭夜深而 吾船将泊 停不知文
#[訓読]大葉山霞たなびきさ夜更けて我が舟泊てむ泊り知らずも
#[仮名],おほばやま,かすみたなびき,さよふけて,わがふねはてむ,とまりしらずも
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,滋賀,地名,不安
#[訓異]
#[大意]大葉山に霞がたなびいて夜も更けて自分の船が停泊する港がわからないことだ
#{語釈]
大葉山 和歌山県和歌山市東方 和歌山県有田郡広川町
    伊藤博 琵琶湖西岸の山の名前
09.1732 大葉山霞たなびきさ夜更けて我が舟泊てむ泊り知らずも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1225
#[題詞](覊旅作)
#[原文]狭夜深而 夜中乃方尓 欝之苦 呼之舟人 泊兼鴨
#[訓読]さ夜更けて夜中の方におほほしく呼びし舟人泊てにけむかも
#[仮名],さよふけて,よなかのかたに,おほほしく,よびしふなびと,はてにけむかも
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]夜更けのさらに深くおぼろげにかけ声をかけていた舟の人はどこかよい所に泊まったであろうか
#{語釈]
夜中の方に
09/1691 旅なれば夜中をさして照る月の高島山に隠らく惜しも
高嶋地方の地名。夜中もかけるか。

夜の方に向かっての意味か


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1226
#[題詞](覊旅作)
#[原文]神前 荒石毛不所見 浪立奴 従何處将行 与奇道者無荷
#[訓読]三輪の崎荒磯も見えず波立ちぬいづくゆ行かむ避き道はなしに
#[仮名],みわのさき,ありそもみえず,なみたちぬ,いづくゆゆかむ,よきぢはなしに
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]三輪の崎の荒磯も見えないで波が立っている。どこを通って行こうか。避ける道もないのに
#{語釈]
三輪の崎 和歌山県新宮市三輪崎 大阪府貝塚市神崎

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1227
#[題詞](覊旅作)
#[原文]礒立 奥邊乎見者 海藻苅舟 海人榜出良之 鴨翔所見
#[訓読]礒に立ち沖辺を見れば藻刈り舟海人漕ぎ出らし鴨翔る見ゆ
#[仮名],いそにたち,おきへをみれば,めかりぶね,あまこぎづらし,かもかけるみゆ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,叙景
#[訓異]
#[大意]磯に立ち沖の方をみると藻を苅る舟を海人が漕ぎ出したらしい。鴨が飛び回っているのが見える
#{語釈]
鴨  鴎のことか

#[説明]
類想歌
07/1199H01藻刈り舟沖漕ぎ来らし妹が島形見の浦に鶴翔る見ゆ

#[関連論文]


#[番号]07/1228
#[題詞](覊旅作)
#[原文]風早之 三穂乃浦廻乎 榜舟之 船人動 浪立良下
#[訓読]風早の三穂の浦廻を漕ぐ舟の舟人騒く波立つらしも
#[仮名],かざはやの,みほのうらみを,こぐふねの,ふなびとさわく,なみたつらしも
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]風の早い三穂の浦のめぐりを漕ぐ船の水夫が叫んでいる。波が立っているらしい
#{語釈]
三穂の浦廻 和歌山県日高郡美浜町三尾 03/0307 0434

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1229
#[題詞](覊旅作)
#[原文]吾舟者 <明>石之<湖>尓 榜泊牟 奥方莫放 狭夜深去来
#[訓読]我が舟は明石の水門に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり
#[仮名],わがふねは,あかしのみとに,こぎはてむ,おきへなさかり,さよふけにけり
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]明且 -> 明 [元][古] / 潮 -> 湖 [古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]我が舟は明石の港に漕いで泊まろう。沖へは離れるなよ。夜も更けたことだ
#{語釈]
#[説明]
類想歌
03/0274H01我が舟は比良の港に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり

#[関連論文]


#[番号]07/1230
#[題詞](覊旅作)
#[原文]千磐破 金之三<埼>乎 過鞆 吾者不忘 <壮>鹿之須賣神
#[訓読]ちはやぶる鐘の岬を過ぎぬとも我れは忘れじ志賀の皇神
#[仮名],ちはやぶる,かねのみさきを,すぎぬとも,われはわすれじ,しかのすめかみ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]崎 -> 埼 [元][紀][温] / 牡 -> 壮 [紀]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,福岡,手向け,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]霊威ある金の岬を過ぎるとしても自分は忘れることはないであろう。志賀の皇神を
#{語釈]
鐘の岬 福岡県宗像郡玄海町鐘崎
志賀の皇神  志賀島神社 祭神 表津綿津見神、仲津綿津見神、底津綿津見神
    社格等  式内名神大社・旧官幣小社・別表神社
    創建  伝神功皇后朝
    祭神 [編集]  伊邪那岐命の禊祓によって出生した底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)、仲津綿津見神(なかつわたつみのかみ)、表津綿津見神(うはつわたつみのかみ)の綿津見三神を祀る。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1231
#[題詞](覊旅作)
#[原文]天霧相 日方吹羅之 水莖之 岡水門尓 波立渡
#[訓読]天霧らひひかた吹くらし水茎の岡の港に波立ちわたる
#[仮名],あまぎらひ,ひかたふくらし,みづくきの,をかのみなとに,なみたちわたる
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,福岡,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]空に霧がかかり東風が吹いているらしい。水茎の岡の船泊まりに波が一面に立ってる
#{語釈]
ひかた 日の方から吹く風。東風
水茎の 枕詞 係り方未詳
岡の港  福岡県遠賀郡芦屋町 遠賀川河口付近

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1232
#[題詞](覊旅作)
#[原文]大海之 波者畏 然有十方 神乎齊祀而 船出為者如何
#[訓読]大海の波は畏ししかれども神を斎ひて舟出せばいかに
#[仮名],おほうみの,なみはかしこし,しかれども,かみをいはひて,ふなでせばいかに
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]大海の波は恐ろしい。そうではあるが神を精進潔斎して祭って船出をすればどうであろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1233
#[題詞](覊旅作)
#[原文]未通女等之 織機上乎 真櫛用 掻上栲嶋 波間従所見
#[訓読]娘子らが織る機の上を真櫛もち掻上げ栲島波の間ゆ見ゆ
#[仮名],をとめらが,おるはたのうへを,まくしもち,かかげたくしま,なみのまゆみゆ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,島根,地名,序詞,叙景
#[訓異]
#[大意]娘子たちが織る機織機の上を櫛でたくし上げて整えるその栲島が波の間に見える
#{語釈]
栲島  所在未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1234
#[題詞](覊旅作)
#[原文]塩早三 礒廻荷居者 入潮為 海人鳥屋見濫 多比由久和礼乎
#[訓読]潮早み磯廻に居れば潜きする海人とや見らむ旅行く我れを
#[仮名],しほはやみ,いそみにをれば,かづきする,あまとやみらむ,たびゆくわれを
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]潮が速いので磯のめぐりで潮待ちをしていると海人と見るだろうか。旅に行く自分なのに
#{語釈]
#[説明]
15/3607H01白栲の藤江の浦に漁りする海人とや見らむ旅行く我れを

#[関連論文]


#[番号]07/1235
#[題詞](覊旅作)
#[原文]浪高之 奈何梶<執> 水鳥之 浮宿也應為 猶哉可榜
#[訓読]波高しいかに楫取り水鳥の浮寝やすべきなほや漕ぐべき
#[仮名],なみたかし,いかにかぢとり,みづとりの,うきねやすべき,なほやこぐべき
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]取 -> 執 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,動物
#[訓異]
#[大意]波が高い。どのように楫を取って水鳥のように海に浮いて寝たらよいだろうか。それともさらに漕ぐべきだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1236
#[題詞](覊旅作)
#[原文]夢耳 継而所見<乍> 竹嶋之 越礒波之 敷布所念
#[訓読]夢のみに継ぎて見えつつ高島の礒越す波のしくしく思ほゆ
#[仮名],いめのみに,つぎてみえつつ,たかしまの,いそこすなみの,しくしくおもほゆ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]小 -> 乍 [万葉集古義]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,滋賀,地名,序詞,望郷
#[訓異]
#[大意]夢ばかり毎日見え続けて高島の磯を越える波のように重ね重ね家郷のことが思われてならない
#{語釈]
高島 滋賀県高島郡 03.0275 07.1171 1172 1238 09.1690d 1690 1718 1734

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1237
#[題詞](覊旅作)
#[原文]静母 岸者波者 縁家留香 此屋通 聞乍居者
#[訓読]静けくも岸には波は寄せけるかこれの屋通し聞きつつ居れば
#[仮名],しづけくも,きしにはなみは,よせけるか,これのやとほし,ききつつをれば
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]静かに岸に波は寄せてくることか。この部屋を通して聞いていると
#{語釈]
これの屋 今いる部屋

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1238
#[題詞](覊旅作)
#[原文]竹嶋乃 阿戸白波者 動友 吾家思 五百入そ染
#[訓読]高島の安曇白波は騒けども我れは家思ふ廬り悲しみ
#[仮名],たかしまの,あどしらなみは,さわけども,われはいへおもふ,いほりかなしみ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,滋賀,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]高島の安曇川の白波は音を立てて流れているが自分は家のことを思う。仮の宿に気持ちが沈んでいるので
#{語釈]
高島の安曇 琵琶湖西北岸

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1239
#[題詞](覊旅作)
#[原文]大海之 礒本由須理 立波之 将依念有 濱之浄奚久
#[訓読]大海の礒もと揺り立つ波の寄せむと思へる浜の清けく
#[仮名],おほうみの,いそもとゆすり,たつなみの,よせむとおもへる,はまのきよけく
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]大海の磯も揺らして立つ波が寄せてくるだろうと思う浜辺の清らかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1240
#[題詞](覊旅作)
#[原文]珠匣 見諸戸山<矣> 行之鹿齒 面白四手 古昔所念
#[訓読]玉櫛笥みもろと山を行きしかばおもしろくしていにしへ思ほゆ
#[仮名],たまくしげ,みもろとやまを,ゆきしかば,おもしろくして,いにしへおもほゆ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]奚 -> 矣 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,三輪,奈良,懐旧,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]玉櫛笥を見る御諸山を行ったならば趣深くてその昔のことが思われてならない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1241
#[題詞](覊旅作)
#[原文]黒玉之 玄髪山乎 朝越而 山下露尓 沾来鴨
#[訓読]ぬばたまの黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも
#[仮名],ぬばたまの,くろかみやまを,あさこえて,やましたつゆに,ぬれにけるかも
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの黒髪山を朝越えて行くと山の木の下露に濡れたことであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1242
#[題詞](覊旅作)
#[原文]足引之 山行暮 宿借者 妹立待而 宿将借鴨
#[訓読]あしひきの山行き暮らし宿借らば妹立ち待ちてやど貸さむかも
#[仮名],あしひきの,やまゆきぐらし,やどからば,いもたちまちて,やどかさむかも
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,枕詞
#[訓異]
#[大意]あしひきの山を一日中行って日が暮れて宿を借りると妹が立って待って宿を貸すだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1243
#[題詞](覊旅作)
#[原文]視渡者 近里廻乎 田本欲 今衣吾来 礼巾振之野尓
#[訓読]見わたせば近き里廻をた廻り今ぞ我が来る領巾振りし野に
#[仮名],みわたせば,ちかきさとみを,たもとほり,いまぞわがくる,ひれふりしのに
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅
#[訓異]
#[大意]見渡すとすぐ近くにある里を迂回してやっと今自分は行く。旅立ちの時に別れを惜しんで領巾を振ってくれた野に
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1244
#[題詞](覊旅作)
#[原文]未通女等之 放髪乎 木綿山 雲莫蒙 家當将見
#[訓読]娘子らが放りの髪を由布の山雲なたなびき家のあたり見む
#[仮名],をとめらが,はなりのかみを,ゆふのやま,くもなたなびき,いへのあたりみむ
#[左注]?(右件歌者古集中出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,大分,望郷,序詞,地名
#[訓異]
#[大意]あの娘子のおかっぱ髪を結ぶという由布の山よ。雲よたなびくなよ。家のあたりを見たいから
#{語釈]
16/3823H01橘の照れる長屋に我が率ねし童女放髪に髪上げつらむか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1245
#[題詞](覊旅作)
#[原文]四可能白水郎乃 釣船之<た> 不堪 情念而 出而来家里
#[訓読]志賀の海人の釣舟の綱堪へずして心に思ひて出でて来にけり
#[仮名],しかのあまの,つりぶねのつな,あへなくも,こころにおもひて,いでてきにけり
#[左注](右件歌者古集中出)
#[校異]綱 -> た [元][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]志賀の海人の釣舟の綱が荒波に耐えられないように、耐えられなく心に思って出発してきたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1246
#[題詞](覊旅作)
#[原文]之加乃白水郎之 燒塩煙 風乎疾 立者不上 山尓軽引
#[訓読]志賀の海人の塩焼く煙風をいたみ立ちは上らず山にたなびく
#[仮名],しかのあまの,しほやくけぶり,かぜをいたみ,たちはのぼらず,やまにたなびく
#[左注]右件歌者古集中出
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:古集,羈旅,福岡,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]志賀の海人の塩を焼く煙は風がひどいので立ち上らずに山にたなびいている
#{語釈]
#[説明]
03/0354H01縄の浦に塩焼く煙夕されば行き過ぎかねて山にたなびく


#[関連論文]


#[番号]07/1247
#[題詞](覊旅作)
#[原文]大穴道 少御神 作 妹勢能山 見吉
#[訓読]大汝少御神の作らしし妹背の山を見らくしよしも
#[仮名],おほなむち,すくなみかみの,つくらしし,いもせのやまを,みらくしよしも
#[左注](右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,羈旅,和歌山,土地讃美,略体,地名
#[訓異]
#[大意]大汝少御神のお作りになった妹背の山を見るのはよいことだ
#{語釈]
#[説明]
03/0355H01大汝少彦名のいましけむ志都の石屋は幾代経にけむ
06/0963H01大汝 少彦名の 神こそば 名付けそめけめ 名のみを 名児山と負ひて

#[関連論文]


#[番号]07/1248
#[題詞](覊旅作)
#[原文]吾妹子 見偲 奥藻 花開在 我告与
#[訓読]我妹子と見つつ偲はむ沖つ藻の花咲きたらば我れに告げこそ
#[仮名],わぎもこと,みつつしのはむ,おきつもの,はなさきたらば,われにつげこそ
#[左注](右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,羈旅,略体,植物
#[訓異]
#[大意]我妹子と見て誉め称えよう。沖の藻の花が咲いたならば自分に知らせて欲しい
#{語釈]
#[説明]
歌の意味が二通り

我妹子と見て偲ぼう。

#[関連論文]


#[番号]07/1249
#[題詞](覊旅作)
#[原文]君為 浮沼池 菱採 我染袖 沾在哉
#[訓読]君がため浮沼の池の菱摘むと我が染めし袖濡れにけるかも
#[仮名],きみがため,うきぬのいけの,ひしつむと,わがそめしそで,ぬれにけるかも
#[左注](右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,羈旅,島根,略体,植物,地名
#[訓異]
#[大意]あなたのために浮沼の池の菱を摘むとして自分の染めた袖が濡れてしまったことだ
#{語釈]
浮沼の池 島根県太田市三瓶町 浮布の池 未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1250
#[題詞](覊旅作)
#[原文]妹為 菅實採 行吾 山路惑 此日暮
#[訓読]妹がため菅の実摘みに行きし我れ山道に惑ひこの日暮らしつ
#[仮名],いもがため,すがのみつみに,ゆきしわれ,やまぢにまとひ,このひくらしつ
#[左注]右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,羈旅,略体,植物
#[訓異]
#[大意]妹のために菅の実を摘みに行った自分であるが山道に迷ってこの日も暮らしてしまった
#{語釈]
菅の実  未詳。リュウノヒゲの実か。やぶらん。食用ではなく観賞用か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1251
#[題詞]問答
#[原文]佐保河尓 鳴成智鳥 何師鴨 川原乎思努比 益河上
#[訓読]佐保川に鳴くなる千鳥何しかも川原を偲ひいや川上る
#[仮名],さほがはに,なくなるちどり,なにしかも,かはらをしのひ,いやかはのぼる
#[左注](右二首詠鳥)(右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,問答,奈良,伝誦,寓意,地名,動物
#[訓異]
#[大意]佐保川に鳴いている千鳥よ。どうして川原をいとしんでますます川上りをするのか
#{語釈]
#[説明]
川原に千鳥が集まっている様子を歌ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1252
#[題詞](問答)
#[原文]人社者 意保尓毛言目 我幾許 師努布川原乎 標緒勿謹
#[訓読]人こそばおほにも言はめ我がここだ偲ふ川原を標結ふなゆめ
#[仮名],ひとこそば,おほにもいはめ,わがここだ,しのふかはらを,しめゆふなゆめ
#[左注]右二首詠鳥(右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,問答,伝誦,寓意
#[訓異]
#[大意]他人はいいかげんに言うだろう。自分がこんなにも思いを馳せる川原に標を立てて立ち入り禁止にはなさるなよ。決して。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1253
#[題詞](問答)
#[原文]神樂浪之 思我津乃白水郎者 吾無二 潜者莫為 浪雖不立
#[訓読]楽浪の志賀津の海人は我れなしに潜きはなせそ波立たずとも
#[仮名],ささなみの,しがつのあまは,あれなしに,かづきはなせそ,なみたたずとも
#[左注](右二首詠白水郎)(右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,問答,福岡,伝誦,寓意,地名
#[訓異]
#[大意]楽浪の志賀津の海人は自分がいない時に潜りはするなよ。浪が立っていなくとも
#{語釈]
楽浪の志賀津 琵琶湖

#[説明]
自分がいない時に勝手な行動はするなと言った物

#[関連論文]


#[番号]07/1254
#[題詞](問答)
#[原文]大船尓 梶之母有奈牟 君無尓 潜為八方 波雖不起
#[訓読]大船に楫しもあらなむ君なしに潜きせめやも波立たずとも
#[仮名],おほぶねに,かぢしもあらなむ,きみなしに,かづきせめやも,なみたたずとも
#[左注]右二首詠白水郎(右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,問答,伝誦,寓意
#[訓異]
#[大意]大船に楫があれば、沖へ出て普通の漁をしようものなのに、それがないから潜って貝や藻をとっているのです。だからあなたもいないのに潜りましょうか。たとえ浪が立っていなくとも

#{語釈]
#[説明]
しかたなく潜って漁をしているのに、あなたもいなくて漁などしましょうかと言ったもの。梶は他の男の喩え。他に男がいないからあなたと一緒にいるのです。だからあなたがいなくて誰と一緒にいましょうか。一緒にいられる機会があったとしても。の意味。

#[関連論文]


#[番号]07/1255
#[題詞]臨時
#[原文]月草尓 衣曽染流 君之為 綵色衣 将摺跡念而
#[訓読]月草に衣ぞ染むる君がため斑の衣摺らむと思ひて
#[仮名],つきくさに,ころもぞそむる,きみがため,まだらのころも,すらむとおもひて
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]綵 [元][類] 深
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,臨時,恋歌,植物,女歌
#[訓異]
#[大意]月草で衣を染める。あなたのために斑の衣を擦ろうと思って
#{語釈]
臨時  時に臨む。その時その時にあたって詠んだもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1256
#[題詞](臨時)
#[原文]春霞 井上<従>直尓 道者雖有 君尓将相登 他廻来毛
#[訓読]春霞井の上ゆ直に道はあれど君に逢はむとた廻り来も
#[仮名],はるかすみ,ゐのうへゆただに,みちはあれど,きみにあはむと,たもとほりくも
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]徒 -> 従 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,臨時,恋歌,女歌
#[訓異]
#[大意]春霞のいる井戸のほとりから直接来る道はあるが、あなたに会おうと思って迂回して来たことだ
#{語釈]
春霞  居るから井にかかる枕詞

#[説明]
類歌
14/3546H01青柳の張らろ川門に汝を待つと清水は汲まず立ち処平すも

#[関連論文]


#[番号]07/1257
#[題詞](臨時)
#[原文]道邊之 草深由利乃 花咲尓 咲之柄二 妻常可云也
#[訓読]道の辺の草深百合の花笑みに笑みしがからに妻と言ふべしや
#[仮名],みちのへの,くさふかゆりの,はなゑみに,ゑみしがからに,つまといふべしや
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,臨時
#[訓異]
#[大意]道のほとりの草深い中にある百合の花が笑うように咲いているようにちょっとニコっとしただけで妻と言えるだろうか

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1258
#[題詞](臨時)
#[原文]黙然不有跡 事之名種尓 云言乎 聞知良久波 少可者有来
#[訓読]黙あらじと言のなぐさに言ふことを聞き知れらくは悪しくはありけり
#[仮名],もだあらじと,ことのなぐさに,いふことを,ききしれらくは,あしくはありけり
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,臨時,伝誦
#[訓異]
#[大意]黙ってはいるまいと言葉のなぐさめにあなたが言うことをそうとは知りながら聞いているのは気持ちが悪いことだ
#{語釈]
#[説明]
なぐさめだと知っていても相手の言葉を聞いているのはしらじらしくて気持ちが悪いと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1259
#[題詞](臨時)
#[原文]佐伯山 于花以之 哀我 <手>鴛取而者 花散鞆
#[訓読]佐伯山卯の花持ちし愛しきが手をし取りてば花は散るとも
#[仮名],さへきやま,うのはなもちし,かなしきが,てをしとりてば,はなはちるとも
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]子 -> 手 [万葉集代匠記(初稿本)]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,臨時,広島,大阪,地名,植物
#[訓異]
#[大意]佐伯山の卯の花を持っていたあの愛しい児の手さえ取ったならば花は散ってもかまわない
#{語釈]
佐伯山  広島県佐伯郡 大阪府池田市五月山

#[説明]
佐伯山での野遊びで出会ったかわいい児の手をにぎりたいと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1260
#[題詞](臨時)
#[原文]不時 斑衣 服欲香 <嶋>針原 時二不有鞆
#[訓読]時ならぬ斑の衣着欲しきか島の榛原時にあらねども
#[仮名],ときならぬ,まだらのころも,きほしきか,しまのはりはら,ときにあらねども
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]衣服 -> 嶋 [古]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,臨時,飛鳥,植物,地名
#[訓異]
#[大意]その時ではないがまだらの衣を着たいものだ。島の榛の木はまだ実がならないで染める時ではないけれども
#{語釈]
島 明日香村島の庄あたり

#[説明]
まだ幼くて恋愛対象とする女ではないけれども恋人にしたいという気持ちを言ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1261
#[題詞](臨時)
#[原文]山守之 里邊通 山道曽 茂成来 忘来下
#[訓読]山守の里へ通ひし山道ぞ茂くなりける忘れけらしも
#[仮名],やまもりの,さとへかよひし,やまみちぞ,しげくなりける,わすれけらしも
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,譬喩,恋愛,怨恨
#[訓異]
#[大意]山守が里へと通っていた山道なのだが、草が生い茂ってしまったことだ。通うのを忘れてしまったらしい
#{語釈]
#[説明]
山守は、日頃通ってきた男。訪れが途絶えがちなのを歌ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1262
#[題詞](臨時)
#[原文]足病之 山海石榴開 八<峯>越 鹿待君之 伊波比嬬可聞
#[訓読]あしひきの山椿咲く八つ峰越え鹿待つ君が斎ひ妻かも
#[仮名],あしひきの,やまつばきさく,やつをこえ,ししまつきみが,いはひつまかも
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]岑 -> 峯 [類][古][紀] / [元][紀] 1263の次に配列
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,怨恨,恋愛,動物,枕詞,比喩
#[訓異]
#[大意]あしひきの山椿が咲く多くの峰々を越えて鹿を待つあなたの無事を齋き祭って待っている妻なのかなあ
#{語釈]
斎ひ妻 猟をする夫の無事を願って精進潔斎して待つ妻(おなり神)

#[説明]
なかなか訪れてこない男を待つ女の気持ち

#[関連論文]


#[番号]07/1263
#[題詞](臨時)
#[原文]暁跡 夜烏雖鳴 此山上之 木末之於者 未静之
#[訓読]暁と夜烏鳴けどこの岡の木末の上はいまだ静けし
#[仮名],あかときと,よがらすなけど,このをかの,こぬれのうへは,いまだしづけし
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,恋愛歌,動物
#[訓異]
#[大意]夜明けだと夜烏は鳴くけれどもこの丘の木枝のあたりはまだ靜かなことだ
#{語釈]
#[説明]
夜が明けて帰って行く男を引き留める気持ち
#[関連論文]


#[番号]07/1264
#[題詞](臨時)
#[原文]西市尓 但獨出而 眼不並 買師絹之 商自許里鴨
#[訓読]西の市にただ独り出でて目並べず買ひてし絹の商じこりかも
#[仮名],にしのいちに,ただひとりいでて,めならべず,かひてしきぬの,あきじこりかも
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,譬喩,歌垣,恋愛,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]西の市にただ独りで出かけて比べもせずに買って来た絹の失敗だったこと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1265
#[題詞](臨時)
#[原文]今年去 新嶋守之 麻衣 肩乃間乱者 <誰>取見
#[訓読]今年行く新防人が麻衣肩のまよひは誰れか取り見む
#[仮名],ことしゆく,にひさきもりが,あさごろも,かたのまよひは,たれかとりみむ
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]許誰 -> 誰 [元]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,防人,恋愛,妻,羈旅
#[訓異]
#[大意]今年行く新しい防人の麻の衣。肩のほつれは誰が世話をするのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1266
#[題詞](臨時)
#[原文]大舟乎 荒海尓榜出 八船多氣 吾見之兒等之 目見者知之母
#[訓読]大船を荒海に漕ぎ出でや船たけ我が見し子らがまみはしるしも
#[仮名],おほぶねを,あるみにこぎで,やふねたけ,わがみしこらが,まみはしるしも
#[左注](右十七首古歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,羈旅,防人,望郷,恋愛
#[訓異]
#[大意]大船を荒海に漕ぎだして、ますます船を漕いで、自分が見たあの児のまなざしははっきりと目に浮かんでくる
#{語釈]
や船たけ  やは程度の副詞 いや、ますます
      たけ  たく 手を動かす 
まみ まさざし

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1267
#[題詞]就所發思 [旋頭歌]
#[原文]百師木乃 大宮人之 踏跡所 奥浪 来不依有勢婆 不失有麻思乎
#[訓読]ももしきの大宮人の踏みし跡ところ沖つ波来寄らずありせば失せずあらましを
#[仮名],ももしきの,おほみやひとの,ふみしあとところ,おきつなみ,きよらずありせば,うせずあらましを
#[左注]右十七首古歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,旋頭歌,羈旅,枕詞
#[訓異]
#[大意]ももしきの大宮人がやって来て足を踏んだ跡の場所だ。沖の波がやって来なかったならば消えないでいたものなのに
#{語釈]
#[説明]
海辺の行幸場所を詠んだもの

#[関連論文]


#[番号]07/1268
#[題詞](就所發思)
#[原文]兒等手乎 巻向山者 常在常 過徃人尓 徃巻目八方
#[訓読]子らが手を巻向山は常にあれど過ぎにし人に行きまかめやも
#[仮名],こらがてを,まきむくやまは,つねにあれど,すぎにしひとに,ゆきまかめやも
#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂<之>歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,奈良,哀悼,挽歌,恋愛,非略体,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]あの子の手を枕とする巻向山はいつも変わらないでいるが、過ぎ去った人に行って枕と出来ようか
#{語釈]
#[説明]
人麻呂の亡妻か、忍壁皇子、弓削皇子らと共に来た時の思い出。

#[関連論文]


#[番号]07/1269
#[題詞](就所發思)
#[原文]巻向之 山邊響而 徃水之 三名沫如 世人吾等者
#[訓読]巻向の山辺響みて行く水の水沫のごとし世の人我れは
#[仮名],まきむくの,やまへとよみて,ゆくみづの,みなわのごとし,よのひとわれは
#[左注]右二首柿本朝臣人麻呂<之>歌集出
#[校異]<> -> 之 [元][紀][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,奈良,哀悼,無常,非略体,地名
#[訓異]
#[大意]巻向の山辺を響かせて流れていく水の泡のようなものだ。この世の人である自分は
#{語釈]
行く水の  論語子かん篇 子、川の上(ほとり)にありて曰わく、逝(ゆ)く者は斯(かく)の如きか。昼夜を舎(お)かず」
仏教的無常観か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1270
#[題詞]寄物發思
#[原文]隠口乃 泊瀬之山丹 照月者 盈(ち)為焉 人之常無
#[訓読]こもりくの泊瀬の山に照る月は満ち欠けしけり人の常なき
#[仮名],こもりくの,はつせのやまに,てるつきは,みちかけしけり,ひとのつねなき
#[左注]右一首古歌集出
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:古歌集,無常,奈良,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]隠口の初瀬の山に照る月は満ち欠けしている。そのように人も無常なのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1271
#[題詞]行路
#[原文]遠有而 雲居尓所見 妹家尓 早将至 歩黒駒
#[訓読]遠くありて雲居に見ゆる妹が家に早く至らむ歩め黒駒
#[仮名],とほくありて,くもゐにみゆる,いもがいへに,はやくいたらむ,あゆめくろこま
#[左注]右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,非略体,動物
#[訓異]
#[大意]遠くにあって雲居はるかに見える妹の家に早く行き着こう。歩め黒駒よ。
#{語釈]
#[説明]
14/3441H01ま遠くの雲居に見ゆる妹が家にいつか至らむ歩め我が駒
14/3441S01柿本朝臣人麻呂歌集曰
14/3441H02遠くして
14/3441S02又曰
14/3441H03歩め黒駒

#[関連論文]


#[番号]07/1272
#[題詞]旋頭歌
#[原文]劔<後> 鞘納野 葛引吾妹 真袖以 著點等鴨 夏草苅母
#[訓読]大刀の後鞘に入野に葛引く我妹真袖もち着せてむとかも夏草刈るも
#[仮名],たちのしり,さやにいりのに,くずひくわぎも,まそでもち,きせてむとかも,なつくさかるも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]従 -> 後 [古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,非略体,植物,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]太刀の尻の鞘に入れるその入野で葛を引く我が妹よ。自分の両袖の付いた着物を着せようというのだろうか。夏草を刈っているよ。
#{語釈]
入野 京都府京都市右京区大原野上羽町入野神社
   山深く入り込んだ谷間の野

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1273
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]住吉 波豆麻<公>之 馬乗衣 雜豆臈 漢女乎座而 縫衣叙
#[訓読]住吉の波豆麻の君が馬乗衣さひづらふ漢女を据ゑて縫へる衣ぞ
#[仮名],すみのえの,はづまのきみが,うまのりころも,さひづらふ,あやめをすゑて,ぬへるころもぞ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]君 -> 公 [元][古][紀][温]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,非略体,地名,大阪
#[訓異]
#[大意]住吉の波豆麻の君の馬に乗る衣よ。鳥の囀りにような言葉を話す渡来人に頼んで縫った衣であるぞ。
#{語釈]
波豆麻 未詳。地名か人名か。
さひづらふ  囀る。漢女の枕詞。外国語が鳥の囀りにように聞こえることから言う。
漢女  渡来人。中国か韓国か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1274
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]住吉 出見濱 柴莫苅曽尼 未通女等 赤裳下 閏将徃見
#[訓読]住吉の出見の浜の柴な刈りそね娘子らが赤裳の裾の濡れて行かむ見む
#[仮名],すみのえの,いでみのはまの,しばなかりそね,をとめらが,あかものすその,ぬれてゆかむみむ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,非略体,地名,大阪
#[訓異]
#[大意]住吉の出見の浜の柴を刈るなよ。娘子たちが赤裳の裾の濡れて行くのを見ようから。
#{語釈]
出見の浜 大阪市住吉区 住吉神社
赤裳
06/1001H01大夫は御狩に立たし娘子らは赤裳裾引く清き浜びを
07/1090H01我妹子が赤裳の裾のひづちなむ今日の小雨に我れさへ濡れな
07/1274H01住吉の出見の浜の柴な刈りそね娘子らが赤裳の裾の濡れて行かむ見む
09/1710H01我妹子が赤裳ひづちて植ゑし田を刈りて収めむ倉無の浜

#[説明]
04/0529D01又大伴坂上郎女歌一首
04/0529H01佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来たらば立ち隠るがね


#[関連論文]


#[番号]07/1275
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]住吉 小田苅為子 賎鴨無 奴雖在 妹御為 私田苅
#[訓読]住吉の小田を刈らす子奴かもなき奴あれど妹がみためと私田刈る
#[仮名],すみのえの,をだをからすこ,やつこかもなき,やつこあれど,いもがみためと,わたくしだかる
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,略体,唱和,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]住吉の田で稲刈りをされるあの子よ。奴がいないのか。奴はいるが恋人の御ために私田を苅っているよ。

#{語釈]
奴  奴卑。個人所有の賤民。
私田 個人所有の田。令集解「位田、賜田及び口分田、墾田等の類。是を私田と為す。自余は皆公田と為す。」

#[説明]
人を使わずに一人で稲刈りをしている男がひやかされたのに対して、恋人のためさと言い訳したもの。

#[関連論文]


#[番号]07/1276
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]池邊 小槻下 細竹苅嫌 其谷 <公>形見尓 監乍将偲
#[訓読]池の辺の小槻の下の小竹な刈りそねそれをだに君が形見に見つつ偲はむ
#[仮名],いけのへの,をつきのしたの,しのなかりそね,それをだに,きみがかたみに,みつつしのはむ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]君 -> 公 [元][古][紀][温]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,非略体
#[訓異]
#[大意]池のほとりの欅の下の篠竹を刈るなよ。それだけでも君の形見として見続けて思いを馳せましょう。
#{語釈]
#[説明]
歌垣で一夜を共にした場所をなつかしんでいる女の歌。歌垣の唱和歌か。

#[関連論文]


#[番号]07/1277
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]天在 日賣菅原 草<莫>苅嫌 弥<那>綿 香烏髪 飽田志付勿
#[訓読]天なる日売菅原の草な刈りそね蜷の腸か黒き髪にあくたし付くも
#[仮名],あめなる,ひめすがはらの,くさなかりそね,みなのわた,かぐろきかみに,あくたしつくも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]<> -> 莫 [西(右書)][紀][細][温] / <> -> 那 [西(右書)][元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,非略体
#[訓異]
#[大意]天にある日ではないが、日売菅原の草は苅るなよ。そこで共寝をする女の蜷の腸の真っ黒な髪にゴミが付いてしまうから。
#{語釈]
天なる 天上にある日の意味で日にかかる枕詞。
日売菅原 地名。所在未詳。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1278
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]夏影 房之下<邇> 衣裁吾妹 裏儲 吾為裁者 差大裁
#[訓読]夏蔭の妻屋の下に衣裁つ我妹うら設けて我がため裁たばやや大に裁て
#[仮名],なつかげの,つまやのしたに,きぬたつわぎも,うらまけて,あがためたたば,ややおほにたて
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]庭 -> 邇 [元][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,非略体
#[訓異]
#[大意]夏の日陰の妻屋の中で衣地を裁っている我が恋人よ。自分のために布を裁っているならば少し大きめに裁ってくれ
#{語釈]
#[説明]
愛情があるならばと言ったもの。

#[関連論文]


#[番号]07/1279
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]梓弓 引津邊在 莫謂花 及採 不相有目八方 勿謂花
#[訓読]梓弓引津の辺なるなのりその花摘むまでに逢はずあらめやもなのりその花
#[仮名],あづさゆみ,ひきつのへなる,なのりそのはな,つむまでに,あはずあらめやも,なのりそのはな
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,福岡,恋愛,非略体,枕詞,地名,植物,旋頭歌
#[訓異]
#[大意]梓弓を引く引津のあたりのなのりその花よ。それが摘まれるまでに会わないでおくものか。なのりその花よ。
#{語釈]
引津  福岡県糸島郡志摩町 引津浦
10/1930H01梓弓引津の辺なるなのりその花咲くまでに逢はぬ君かも
15/3674D01引津亭舶泊之作歌七首

なのりその花  ほんだわらの気泡を言ったもの。
摘む  他の男のものになる喩え。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1280
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]撃日刺 宮路行丹 吾裳破 玉緒 念<妄> 家在矣
#[訓読]うちひさす宮道を行くに我が裳は破れぬ玉の緒の思ひ乱れて家にあらましを
#[仮名],うちひさす,みやぢをゆくに,わがもはやれぬ,たまのをの,おもひみだれて,いへにあらましを
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]委 -> 妄 (塙)
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,非略体,枕詞
#[訓異]
#[大意]うち日指す都の道を行った所、自分の裳はすり切れてしまった。こんなことなら玉の緒のように思い乱れても家にいればよかった。
#{語釈]
玉の緒の  緒が切れて玉がバラバラになるの意味で、乱れるにかかる枕詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1281
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]<公>為 手力勞 織在衣服<叙> 春去 何<色> 揩者吉
#[訓読]君がため手力疲れ織れる衣ぞ春さらばいかなる色に摺りてばよけむ
#[仮名],きみがため,たぢからつかれ,おれるころもぞ,はるさらば,いかなるいろに,すりてばよけむ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]君 -> 公 [元][古][紀][温] / 斜 -> 叙 [万葉集全釈] / 々 -> 色 [万葉集略解]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,非略体
#[訓異]
#[大意]あなたのために手の力も疲れて織った衣だぞ。春になったらどのような色に染めたらいいだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1282
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]橋立 倉椅山 立白雲 見欲 我為苗 立白雲
#[訓読]はしたての倉橋山に立てる白雲見まく欲り我がするなへに立てる白雲
#[仮名],はしたての,くらはしやまに,たてるしらくも,みまくほり,わがするなへに,たてるしらくも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,奈良,非略体,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]橋立の倉橋山に立ち上っている白雲よ。会いたいと思うごとに立ち上る白雲よ
#{語釈]
はしたての 階を立てたように険しいの意味か。倉橋山の枕詞
倉橋山 奈良県桜井市倉橋音羽山
    古事記歌謡 隼別王と女鳥王の反乱
    歌垣の場か。
11/2453H01春柳葛城山に立つ雲の立ちても居ても妹をしぞ思ふ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1283
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]橋立 倉椅川 石走者裳 壮子時 我度為 石走者裳
#[訓読]はしたての倉橋川の石の橋はも男盛りに我が渡りてし石の橋はも
#[仮名],はしたての,くらはしがはの,いしのはしはも,をざかりに,わがわたりてし,いしのはしはも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,追憶,非略体,奈良,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]はしたての倉橋川の石の橋はなあ。男盛りの時に自分が渡ったことだ。石の橋はなあ
#{語釈]
石の橋  飛び石の橋

#[説明]
倉橋山の歌垣に参加した思い出のもの

#[関連論文]


#[番号]07/1284
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]橋立 倉椅川 河静菅 余苅 笠裳不編 川静菅
#[訓読]はしたての倉橋川の川の静菅我が刈りて笠にも編まぬ川の静菅
#[仮名],はしたての,くらはしがはの,かはのしづすげ,わがかりて,かさにもあまぬ,かはのしづすげ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,奈良,旋頭歌,譬喩,恋愛,非略体,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]はしたての倉橋川の川の靜菅よ。自分が苅り取って笠にも編まない川の靜菅よ
#{語釈]
靜菅 どのような菅か未詳。女性を喩えたもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1285
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]春日尚 田立羸 公哀 若草 つ無公 田立羸
#[訓読]春日すら田に立ち疲る君は悲しも若草の妻なき君が田に立ち疲る
#[仮名],はるひすら,たにたちつかる,きみはかなしも,わかくさの,つまなききみが,たにたちつかる
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,略体,からかい,枕詞
#[訓異]
#[大意]みんなが楽しく遊ぶ春の日ですら田仕事で立ち疲れるあなたはいとしいことだ。若草の妻のいないあなたが田の仕事で立ち疲れているよ。
#{語釈]
春日 村のみんなは春の行楽に出ている。山遊びか野遊び
若草の妻なき君
歌垣に行こうにも相手がいない孤独な男をからかったもの
女の歌で、自分が妻になりたいという希望を行ったもの
田仕事で人手が足りないので、行楽の日ですら仕事をしている男の孤独を言ったもの

#[説明]


#[関連論文]


#[番号]07/1286
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]開木代 来背社 草勿手折 己時 立雖榮 草勿手折
#[訓読]山背の久世の社の草な手折りそ我が時と立ち栄ゆとも草な手折りそ
#[仮名],やましろの,くせのやしろの,くさなたをりそ,わがときと,たちさかゆとも,くさなたをりそ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,譬喩,恋愛,略体,京都,地名
#[訓異]
#[大意]山城の久世の社の草は折り取るなよ。たとえ自分の盛んな時だとして精力いっぱいでも草を取り取るなよ
#{語釈]
久世の社 京都府城陽市久世 久世神社
草  女の喩え

#[説明]
歌垣の歌
神の所有である草(女)を男盛りに任せて自分のものにしようとすると罰が当たるぞと脅したもの

#[関連論文]


#[番号]07/1287
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]青角髪 依網原 人相鴨 石走 淡海縣 物語為
#[訓読]青みづら依網の原に人も逢はぬかも石走る近江県の物語りせむ
#[仮名],あをみづら,よさみのはらに,ひともあはぬかも,いはばしる,あふみあがたの,ものがたりせむ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,大阪,略体,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]青みづらを寄せる依網の原で人に会わないものか。石走る近江の国の物語をしようものなのに
#{語釈]
青みづら 未詳。依網の枕詞。みづらは男子の髪型であるので髪を左右に寄せるの意が含まれているか。
依網の原 大阪市住吉区庭井町あたり。摂津、河内にまたがる地
近江県 近江の国。
物語  内容不明。

#[説明]
近江を旅した人が聞いてきた物語を誰かに伝えたい気持ちを言ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1288
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]水門 葦末葉 誰手折 吾背子 振手見 我手折
#[訓読]港の葦の末葉を誰れか手折りし我が背子が振る手を見むと我れぞ手折りし
#[仮名],みなとの,あしのうらばを,たれかたをりし,わがせこが,ふるてをみむと,われぞたをりし
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,略体,植物
#[訓異]
#[大意]港の葦の葉の先を誰が折ったのか。我が脊子が振る手を見ようと思って自分が折ったのだ
#{語釈]
#[説明]
歌垣の歌か

#[関連論文]


#[番号]07/1289
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]垣越 犬召越 鳥猟為公 青山 <葉>茂山邊 馬安<公>
#[訓読]垣越しに犬呼び越して鳥猟する君青山の茂き山辺に馬休め君
#[仮名],かきごしに,いぬよびこして,とがりするきみ,あをやまの,しげきやまへに,うまやすめきみ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]等 -> 葉 [西(訂正右書)][元][古][紀] / 君 -> 公 [元][古][紀][温]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,誘い歌,略体,動物
#[訓異]
#[大意]垣根越しに犬を呼び返して鳥の狩りをするあなたよ。青山の木立の茂っている山辺に馬を休ませなさい。あたたよ

#{語釈]
#[説明]
馬を休ませなさいということで、人目に付かないところで会いたいと思っている女の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1290
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]海底 奥玉藻之 名乗曽花 妹与吾 此何有跡 莫語之花
#[訓読]海の底沖つ玉藻のなのりその花妹と我れとここにしありとなのりその花
#[仮名],わたのそこ,おきつたまもの,なのりそのはな,いもとあれと,ここにしありと,なのりそのはな
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,恋愛,非略体,植物
#[訓異]
#[大意]海の底の沖の玉藻のなのりその花よ。妹と自分とここにいると告げるなというなのりその花よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1291
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]此岡 <草>苅小子 <勿>然苅 有乍 <公>来座 御馬草為
#[訓読]この岡に草刈るわらはなしか刈りそねありつつも君が来まさば御馬草にせむ
#[仮名],このをかに,くさかるわらは,なしかかりそね,ありつつも,きみがきまさむ,みまくさにせむ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]莫 -> 草 [西(訂正右書)][元][古][紀] / <> -> 勿 [元][紀] / 君 -> 公 [元][温][矢][京]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,略体,恋愛
#[訓異]
#[大意]この岡に草を刈る童はそのように苅るなよ。そのままにしておいて彼がお来しになる時のみ馬草にしよう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1292
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]江林 次完也物 求吉 白栲 袖纒上 完待我背
#[訓読]江林に臥せる獣やも求むるによき白栲の袖巻き上げて獣待つ我が背
#[仮名],えはやしに,ふせるししやも,もとむるによき,しろたへの,そでまきあげて,ししまつわがせ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,非略体,歌垣,動物
#[訓異]
#[大意]入り江の林に潜んでいる獣は捕らえるのは簡単なのだろうか。そうでもないのに白妙の袖を巻き上げて獣を待つ我が背よ。

#{語釈]
#[説明]
男が女を漁ることを譬喩した歌

#[関連論文]


#[番号]07/1293
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]丸雪降 遠江 吾跡川楊 雖苅 亦生云 余跡川楊
#[訓読]霰降り遠つ淡海の吾跡川楊刈れどもまたも生ふといふ吾跡川楊
#[仮名],あられふり,とほつあふみの,あとかはやなぎ,かれども,またもおふといふ,あとかはやなぎ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,静岡,譬喩,略体,枕詞,植物,地名
#[訓異]
#[大意]霰降り遠江の吾跡川の柳よ。苅ってもまた生えるという吾跡川の柳よ
#{語釈]
霰降り 霰の音を「トホ」と聞こえたことから、「遠つ」にかかる枕詞
吾跡川 静岡県跡川 浜名湖の北を流れる川  近江の安曇川ではない

#[説明]
柳を恋心に喩えている

#[関連論文]


#[番号]07/1294
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]朝月 日向山 月立所見 遠妻 持在人 看乍偲
#[訓読]朝月の日向の山に月立てり見ゆ遠妻を待ちたる人し見つつ偲はむ
#[仮名],あさづきの,ひむかのやまに,つきたてりみゆ,とほづまを,もちたるひとし,みつつしのはむ
#[左注]右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,旋頭歌,略体,望郷,宮崎,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]朝月の日向の山に月が立っているのが見える。遠く離れた妻を持っている人は見続けて思いを馳せるであろう
#{語釈]
朝月の 日向の枕詞。
日向の山  所在未詳。南斜面の山

#[説明]
旅人の心境の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1295
#[題詞](旋頭歌)
#[原文]春日在 三笠乃山二 月船出 遊士之 飲酒坏尓 陰尓所見管
#[訓読]春日なる御笠の山に月の舟出づ風流士の飲む酒杯に影に見えつつ
#[仮名],かすがなる,みかさのやまに,つきのふねいづ,みやびをの,のむさかづきに,かげにみえつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,旋頭歌,奈良,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]春日にある三笠の山に月の舟が出た。風流士の飲む杯に姿が映りながら
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1296
#[題詞]譬喩歌 / 寄衣
#[原文]今造 斑衣服 面<影> 吾尓所念 末服友
#[訓読]今作る斑の衣面影に我れに思ほゆいまだ着ねども
#[仮名],いまつくる,まだらのころも,おもかげに,われにおもほゆ,いまだきねども
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]歌 [西] 謌 / 就 -> 影 (塙)
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,非略体
#[訓異]
#[大意]今作っている斑染めの衣は目の前にその出来映えが面影に見える。まだ着てはいないけれども
#{語釈]
斑の衣
07/1255H01月草に衣ぞ染むる君がため斑の衣摺らむと思ひて
07/1260H01時ならぬ斑の衣着欲しきか島の榛原時にあらねども

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1297
#[題詞](寄衣)
#[原文]紅 衣染 雖欲 著丹穗哉 人可知
#[訓読]紅に衣染めまく欲しけども着てにほはばか人の知るべき
#[仮名],くれなゐに,ころもそめまく,ほしけども,きてにほはばか,ひとのしるべき
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]紅に衣を染めたいと思うけれども、着て目立つだら、人が知ってしまうだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1298
#[題詞](寄衣)
#[原文]<干><各> 人雖云 織次 我廿物 白麻衣
#[訓読]かにかくに人は言ふとも織り継がむ我が機物の白麻衣
#[仮名],かにかくに,ひとはいふとも,おりつがむ,わがはたものの,しろあさごろも
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]千 -> 干 [万葉集古義] / 名 -> 各 [万葉集古義]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]あれやこれやと人は言うけれども自分は織り続けて行こう。自分の機織り物の白い麻衣を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1299
#[題詞]寄玉
#[原文]安治村 十依海 船浮 白玉採 人所知勿
#[訓読]あぢ群のとをよる海に舟浮けて白玉採ると人に知らゆな
#[仮名],あぢむらの,とをよるうみに,ふねうけて,しらたまとると,ひとにしらゆな
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体,動物
#[訓異]
#[大意]あじ鴨の群れが浮いている海に舟を浮かべて白玉を採ると人に知られるな。
#{語釈]
とをよる  ゆらゆらと揺れる  たうたふ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1300
#[題詞](寄玉)
#[原文]遠近 礒中在 白玉 人不知 見依鴨
#[訓読]をちこちの礒の中なる白玉を人に知らえず見むよしもがも
#[仮名],をちこちの,いそのなかなる,しらたまを,ひとにしらえず,みむよしもがも
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]あちらこちらの磯の中にある白玉を他人に知られないで見る手だてもないかなあ

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1301
#[題詞](寄玉)
#[原文]海神 手纒持在 玉故 石浦廻 潜為鴨
#[訓読]海神の手に巻き持てる玉故に礒の浦廻に潜きするかも
#[仮名],わたつみの,てにまきもてる,たまゆゑに,いそのうらみに,かづきするかも
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]海神の手に巻いて持っている玉ではあるが、磯の浦のめぐりで潜って採ることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1302
#[題詞](寄玉)
#[原文]海神 持在白玉 見欲 千遍告 潜為海子
#[訓読]海神の持てる白玉見まく欲り千たびぞ告りし潜きする海人
#[仮名],わたつみの,もてるしらたま,みまくほり,ちたびぞのりし,かづきするあま
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]海神の持っている白玉を見たいと思い、何度も呪文を唱えていたことだ。潜る海人は。
#{語釈]
告る  呪文を唱える  笛吹を言うか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1303
#[題詞](寄玉)
#[原文]潜為 海子雖告 海神 心不得 所見不云
#[訓読]潜きする海人は告れども海神の心し得ねば見ゆといはなくに
#[仮名],かづきする,あまはのれども,わたつみの,こころしえねば,みゆといはなくに
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]海に潜る海人は呪文を唱えるが海神の心をとらえられないので白玉が見られると言わないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1304
#[題詞]寄木
#[原文]天雲 棚引山 隠在 吾<下心> 木葉知
#[訓読]天雲のたなびく山の隠りたる我が下心木の葉知るらむ
#[仮名],あまくもの,たなびくやまの,こもりたる,あがしたごころ,このはしるらむ
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]忘 -> 下心 [万葉集略解]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]天雲のたなびく山に様々な物が隠っているように隠っている自分の下心は木の葉が知っているだろうかの
#{語釈]
#[説明]
他人には知られていないが、せめて木の葉だけでも知っていて欲しいという気持ちを示したもの

03/0291H01真木の葉のしなふ背の山偲はずて我が越え行けば木の葉知りけむ

#[関連論文]


#[番号]07/1305
#[題詞](寄木)
#[原文]雖見不飽 人國山 木葉 己心 名著念
#[訓読]見れど飽かぬ人国山の木の葉をし我が心からなつかしみ思ふ
#[仮名],みれどあかぬ,ひとくにやまの,このはをし,わがこころから,なつかしみおもふ
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,和歌山,恋愛,略体,地名
#[訓異]
#[大意]見ても見飽きることのない人国山の木の葉を自分の心ながら心引かれて思う
#{語釈]
人國山  未詳 和歌山県田辺市秋津町人国山 奈良県吉野郡 07.1305 1345
我が心から  自分の気持ちからではあるが

#[説明]
人国山の木の葉を異性に喩えたもの

#[関連論文]


#[番号]07/1306
#[題詞]寄花
#[原文]是山 黄葉下 花矣我 小端見 反戀
#[訓読]この山の黄葉が下の花を我れはつはつに見てなほ恋ひにけり
#[仮名],このやまの,もみちのしたの,はなをわれ,はつはつにみて,なほこひにけり
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]この山の黄葉の下に咲いている花をちらっと見て、かえって恋い思ってしまった
#{語釈]
はつはつに  ちょっとだけ、ちらっと

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1307
#[題詞]寄川
#[原文]従此川 船可行 雖在 渡瀬別 守人有
#[訓読]この川ゆ舟は行くべくありといへど渡り瀬ごとに守る人のありて
#[仮名],このかはゆ,ふねはゆくべく,ありといへど,わたりぜごとに,もるひとのありて
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,障害,略体
#[訓異]
#[大意]この川をとおって船は行けるようになっているというが、渡し場毎に番人がいて(なかなか簡単には通れない)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1308
#[題詞]寄海
#[原文]大海 候水門 事有 従何方君 吾率凌
#[訓読]大海をさもらふ港事しあらばいづへゆ君は我を率しのがむ
#[仮名],おほうみを,さもらふみなと,ことしあらば,いづへゆきみは,わをゐしのがむ
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]海 [元] 船
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]大海で風向きを伺って停泊している港だが、何事かあったらどの方向へあなたは自分を連れて行って難を逃れてくださいますか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1309
#[題詞](寄海)
#[原文]風吹 海荒 明日言 應久 <公>随
#[訓読]風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しくあるべし君がまにまに
#[仮名],かぜふきて,うみはあるとも,あすといはば,ひさしくあるべし,きみがまにまに
#[左注](右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]君 -> 公 [西(訂正右書)][元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]風が吹いて海は荒れているとも明日に出航と言うならばそれでも待ち遠しいことだろう。あなたの気持ちのままに従いますよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1310
#[題詞](寄海)
#[原文]雲隠 小嶋神之 恐者 目間 心間哉
#[訓読]雲隠る小島の神の畏けば目こそ隔てれ心隔てや
#[仮名],くもがくる,こしまのかみの,かしこけば,めこそへだてれ,こころへだてや
#[左注]右十五首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:柿本人麻呂歌集,恋愛,略体
#[訓異]
#[大意]雲に隠れているが小島の神が恐ろしいので目こそ隔てているが心まで離れいてるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1311
#[題詞]寄衣
#[原文]橡 衣人<皆> 事無跡 曰師時従 欲服所念
#[訓読]橡の衣は人皆事なしと言ひし時より着欲しく思ほゆ
#[仮名],つるはみの,きぬはひとみな,ことなしと,いひしときより,きほしくおもほゆ
#[左注]
#[校異]者 -> 皆 [元][類][古][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]橡の衣は人みんな何事もなく着こなすと言った時より着たいと思われてならない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1312
#[題詞](寄衣)
#[原文]凡尓 吾之念者 下服而 穢尓師衣乎 取而将著八方
#[訓読]おほろかに我れし思はば下に着てなれにし衣を取りて着めやも
#[仮名],おほろかに,われしおもはば,したにきて,なれにしきぬを,とりてきめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]いい加減に自分が思っているのならば下着にしてよれよれになった衣をわざわざ手に取って着るだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1313
#[題詞](寄衣)
#[原文]紅之 深染之衣 下著而 上取著者 事将成鴨
#[訓読]紅の深染めの衣下に着て上に取り着ば言なさむかも
#[仮名],くれなゐの,こそめのころも,したにきて,うへにとりきば,ことなさむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,うわさ
#[訓異]
#[大意]紅色を濃く染めた衣を下着に着ていて、上着に着るならばうわさをするだろうか。
#{語釈]
#[説明]
密かにしていたものを目立たせたら当然世間のうわさになるだるだろうかと言ってもの

#[関連論文]


#[番号]07/1314
#[題詞](寄衣)
#[原文]橡 解濯衣之 恠 殊欲服 此暮可聞
#[訓読]橡の解き洗ひ衣のあやしくもことに着欲しきこの夕かも
#[仮名],つるはみの,ときあらひきぬの,あやしくも,ことにきほしき,このゆふへかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]橡の衣のほどいて洗った衣を不思議にも妙に着たいと思うこの夕べであるなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1315
#[題詞](寄衣)
#[原文]橘之 嶋尓之居者 河遠 不曝縫之 吾下衣
#[訓読]橘の島にし居れば川遠みさらさず縫ひし我が下衣
#[仮名],たちばなの,しまにしをれば,かはとほみ,さらさずぬひし,あがしたごろも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,飛鳥,恋愛,後悔,地名
#[訓異]
#[大意]橘の島にいるので川が遠くて晒さずに縫った自分の下衣であることだ
#{語釈]
橘の島 地名 橘寺あたりの島の庄付近
さらさず縫ひし 身元をよく調べもせずに
下衣 妻のことを言うか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1316
#[題詞]寄絲
#[原文]河内女之 手染之絲乎 絡反 片絲尓雖有 将絶跡念也
#[訓読]河内女の手染めの糸を繰り返し片糸にあれど絶えむと思へや
#[仮名],かふちめの,てそめのいとを,くりかへし,かたいとにあれど,たえむとおもへや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]河内の女の手で染めた糸を何度もよじり合わせてあるので片糸ではあるが切れると思おうか
#{語釈]
河内女 河内の染色技術を持った女。渡来系の人たちの移住した場所で織物、染色技術を持った集団が多い
片糸 片思いの譬え

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1317
#[題詞]寄玉
#[原文]海底 沈白玉 風吹而 海者雖荒 不取者不止
#[訓読]海の底沈く白玉風吹きて海は荒るとも取らずはやまじ
#[仮名],わたのそこ,しづくしらたま,かぜふきて,うみはあるとも,とらずはやまじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]海の底に沈んでいる白玉よ。風が吹いて海は荒れているとしても取らないではすまないよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1318
#[題詞](寄玉)
#[原文]底清 沈有玉乎 欲見 千遍曽告之 潜為白水郎
#[訓読]底清み沈ける玉を見まく欲り千たびぞ告りし潜きする海人
#[仮名],そこきよみ,しづけるたまを,みまくほり,ちたびぞのりし,かづきするあま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]底が清らかなので沈んでいる玉を見たいと思い、何度も言ったことだ。潜っている海女よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1319
#[題詞](寄玉)
#[原文]大海之 水底照之 石著玉 齊而将採 風莫吹行年
#[訓読]大海の水底照らし沈く玉斎ひて採らむ風な吹きそね
#[仮名],おほうみの,みなそこてらし,しづくたま,いはひてとらむ,かぜなふきそね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]大海の水底を照らし沈んでいる玉を潔斎して採ろう。風よ吹くなよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1320
#[題詞](寄玉)
#[原文]水底尓 沈白玉 誰故 心盡而 吾不念尓
#[訓読]水底に沈く白玉誰が故に心尽して我が思はなくに
#[仮名],みなそこに,しづくしらたま,たがゆゑに,こころつくして,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]水底に沈んでいる白玉を誰だと言って心を尽くして自分が思わないことはないのに(他でもないあなた以外にいないのだ)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1321
#[題詞](寄玉)
#[原文]世間 常如是耳加 結大王 白玉之緒 絶樂思者
#[訓読]世間は常かくのみか結びてし白玉の緒の絶ゆらく思へば
#[仮名],よのなかは,つねかくのみか,むすびてし,しらたまのをの,たゆらくおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]世の中はいつもこのようなものなのだろうか。結んでいた白玉の緒が切れてしまうのを思うと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1322
#[題詞](寄玉)
#[原文]伊勢海之 白水郎之嶋津我 鰒玉 取而後毛可 戀之将繁
#[訓読]伊勢の海の海人の島津が鰒玉採りて後もか恋の繁けむ
#[仮名],いせのうみの,あまのしまつが,あはびたま,とりてのちもか,こひのしげけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,動物
#[訓異]
#[大意]伊勢の海の海人の島津の鮑玉よ。採った後も恋は激しいだろうか。
#{語釈]
島津 人名か。島人か。未詳。

#[説明]
伊勢行幸の折の都人の歌で、地元の女を言ったものか

#[関連論文]


#[番号]07/1323
#[題詞](寄玉)
#[原文]海之底 奥津白玉 縁乎無三 常如此耳也 戀度味試
#[訓読]海の底沖つ白玉よしをなみ常かくのみや恋ひわたりなむ
#[仮名],わたのそこ,おきつしらたま,よしをなみ,つねかくのみや,こひわたりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]海の底の沖の白玉を採る手だてがないので、いつもこのように恋い続けていることだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1324
#[題詞](寄玉)
#[原文]葦根之 懃念而 結義之 玉緒云者 人将解八方
#[訓読]葦の根のねもころ思ひて結びてし玉の緒といはば人解かめやも
#[仮名],あしのねの,ねもころおもひて,むすびてし,たまのをといはば,ひととかめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,枕詞
#[訓異]
#[大意]葦の根ではないが懇ろに思って結んだ玉の緒だというと他人が解くことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1325
#[題詞](寄玉)
#[原文]白玉乎 手者不纒尓 匣耳 置有之人曽 玉令<詠>流
#[訓読]白玉を手には巻かずに箱のみに置けりし人ぞ玉嘆かする
#[仮名],しらたまを,てにはまかずに,はこのみに,おけりしひとぞ,たまなげかする
#[左注]
#[校異]泳 -> 詠 [元][類][細]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]真珠を手に巻いて持たずに箱にばかり置いた人は真珠を嘆かせている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1326
#[題詞](寄玉)
#[原文]照左豆我 手尓纒古須 玉毛欲得 其緒者替而 吾玉尓将為
#[訓読]照左豆が手に巻き古す玉もがもその緒は替へて我が玉にせむ
#[仮名],てるさづが,てにまきふるす,たまもがも,そのをはかへて,わがたまにせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]照左豆が手に巻き古している真珠もあればなあ。その緒を新しくして自分の玉にしようのに
#{語釈]
照左豆 未詳。人名か。
#[説明]
人妻に恋いこがれている気持ち

#[関連論文]


#[番号]07/1327
#[題詞](寄玉)
#[原文]秋風者 継而莫吹 海底 奥在玉乎 手纒左右二
#[訓読]秋風は継ぎてな吹きそ海の底沖なる玉を手に巻くまでに
#[仮名],あきかぜは,つぎてなふきそ,わたのそこ,おきなるたまを,てにまくまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]秋風は続いては吹くなよ。海の底の沖にある玉を手に巻くまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1328
#[題詞]寄日本琴
#[原文]伏膝 玉之小琴之 事無者 甚幾許 吾将戀也毛
#[訓読]膝に伏す玉の小琴の事なくはいたくここだく我れ恋ひめやも
#[仮名],ひざにふす,たまのをごとの,ことなくは,いたくここだく,あれこひめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]膝に付せる玉の小琴が何事もなかったならば、ひどくこんなに自分が恋い思うということがあろうか
#{語釈]
事なくは  琴糸か切れたり、傷ついたりしなかったならば
#[説明]
膝に伏す玉の小琴 恋い思う女性の喩え。会うのに何か支障があった

#[関連論文]


#[番号]07/1329
#[題詞]寄弓
#[原文]陸奥之 吾田多良真弓 著<絃>而 引者香人之 吾乎事将成
#[訓読]陸奥の安達太良真弓弦はけて引かばか人の我を言なさむ
#[仮名],みちのくの,あだたらまゆみ,つらはけて,ひかばかひとの,わをことなさむ
#[左注]
#[校異]絲 -> 絃 [元][古]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,うわさ,植物
#[訓異]
#[大意]陸奥の安達太良産の真弓に弦をつけて引くと他人は自分のことをうわさするだろうか
#{語釈]
安達太良真弓  福島県二本松市の安達太良産あたりの檀で作った弓

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1330
#[題詞](寄弓)
#[原文]南淵之 細川山 立檀 弓束<纒及> 人二不所知
#[訓読]南淵の細川山に立つ檀弓束巻くまで人に知らえじ
#[仮名],みなぶちの,ほそかはやまに,たつまゆみ,ゆづかまくまで,ひとにしらえじ
#[左注]
#[校異]級 -> 纒及 [古]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,うわさ,飛鳥,地名,植物
#[訓異]
#[大意]南淵の細川山に立つ檀は弓束を巻くまで人に知られたくないものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1331
#[題詞]寄山
#[原文]磐疊 恐山常 知管毛 吾者戀香 同等不有尓
#[訓読]岩畳畏き山と知りつつも我れは恋ふるか並にあらなくに
#[仮名],いはたたみ,かしこきやまと,しりつつも,あれはこふるか,なみにあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]岩畳の重なる恐ろしい山だと知ってはいても自分は恋い思うことだ。普通ではなく
#{語釈]
磐疊  岩が重なり合う険しい山は遭難しやすいので恐ろしい
畏き  身分が高くて近づけない

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1332
#[題詞](寄山)
#[原文]石金之 <凝>敷山尓 入始而 山名付染 出不勝鴨
#[訓読]岩が根のこごしき山に入りそめて山なつかしみ出でかてぬかも
#[仮名],いはがねの,こごしきやまに,いりそめて,やまなつかしみ,いでかてぬかも
#[左注]
#[校異]凝木 -> 凝 [元]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]岩の根がごつごつした山に入り始めて、山に心が引かれて出ることが出来ないことだ
#{語釈]
岩が根のこごしき山  身分の違う女性

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1333
#[題詞](寄山)
#[原文]佐<穂>山乎 於凡尓見之鹿跡 今見者 山夏香思母 風吹莫勤
#[訓読]佐保山をおほに見しかど今見れば山なつかしも風吹くなゆめ
#[仮名],さほやまを,おほにみしかど,いまみれば,やまなつかしも,かぜふくなゆめ
#[左注]
#[校異]保 -> 穂 [元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]佐保山をいいかげんに見ていたが、今見ると山に心が引かれることだ。風よ吹くなよ決して。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1334
#[題詞](寄山)
#[原文]奥山之 於石蘿生 恐常 思情乎 何如裳勢武
#[訓読]奥山の岩に苔生し畏けど思ふ心をいかにかもせむ
#[仮名],おくやまの,いはにこけむし,かしこけど,おもふこころを,いかにかもせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]奥山の岩に苔が生えて恐ろしいけれども恋い思う気持ちをどのようにすればいいのだろうか
#{語釈]
奥山の岩に苔生し畏けど  高貴な女性で恐れ多い気持ち

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1335
#[題詞](寄山)
#[原文]思て 痛文為便無 玉手次 雲飛山仁 吾印結
#[訓読]思ひあまりいたもすべなみ玉たすき畝傍の山に我れ標結ひつ
#[仮名],おもひあまり,いたもすべなみ,たまたすき,うねびのやまに,われしめゆひつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,橿原,奈良,恋愛,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]思い余ってどうしようもなく玉たすき畝傍の山に自分は印をつけたことだ
#{語釈]
畝傍の山   相手の女性
我れ標結ひつ 結婚した

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1336
#[題詞]寄草
#[原文]冬隠 春乃大野乎 焼人者 焼不足香文 吾情熾
#[訓読]冬こもり春の大野を焼く人は焼き足らねかも我が心焼く
#[仮名],ふゆこもり,はるのおほのを,やくひとは,やきたらねかも,わがこころやく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,枕詞
#[訓異]
#[大意]冬隠り春の大野を焼く人は焼き足りないというのだろうか。自分の心を焼くことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1337
#[題詞](寄草)
#[原文]葛城乃 高間草野 早知而 標指益乎 今悔拭
#[訓読]葛城の高間の草野早知りて標刺さましを今ぞ悔しき
#[仮名],かづらきの,たかまのかやの,はやしりて,しめささましを,いまぞくやしき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,葛城,奈良,恋愛,後悔,地名
#[訓異]
#[大意]葛城の高天の萱野をもっと早く知って印を付けておいたらよかった。今となっては悔しいことだ
#{語釈]
葛城の高間 奈良県御所市高天

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1338
#[題詞](寄草)
#[原文]吾屋前尓 生土針 従心毛 不想人之 衣尓須良由奈
#[訓読]我がやどに生ふるつちはり心ゆも思はぬ人の衣に摺らゆな
#[仮名],わがやどに,おふるつちはり,こころゆも,おもはぬひとの,きぬにすらゆな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]我が家に生えているつちはりよ。心から思ってくれない人の衣に擦られるなよ。
#{語釈]
つちはり つくばね草、めはじき

#[説明]
母親の娘に対する気持ち

#[関連論文]


#[番号]07/1339
#[題詞](寄草)
#[原文]鴨頭草丹 服色取 揩目伴 移變色登 称之苦沙
#[訓読]月草に衣色どり摺らめどもうつろふ色と言ふが苦しさ
#[仮名],つきくさに,ころもいろどり,すらめども,うつろふいろと,いふがくるしさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]月草に衣を彩って擦ろうと思うがすぐに褪せていく色だと言う苦しさよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1340
#[題詞](寄草)
#[原文]紫 絲乎曽吾搓 足桧之 山橘乎 将貫跡念而
#[訓読]紫の糸をぞ我が搓るあしひきの山橘を貫かむと思ひて
#[仮名],むらさきの,いとをぞわがよる,あしひきの,やまたちばなを,ぬかむとおもひて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]紫の糸を自分は縒っている。あしひきの山橘の実を貫き通そうと思って
#{語釈]
紫の糸  得難い高価な色の糸
山橘を貫かむ  思う男と結婚する 山橘は藪柑子 秋に赤い実をつける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1341
#[題詞](寄草)
#[原文]真珠付 越能菅原 吾不苅 人之苅巻 惜菅原
#[訓読]真玉つく越智の菅原我れ刈らず人の刈らまく惜しき菅原
#[仮名],またまつく,をちのすがはら,われからず,ひとのからまく,をしきすがはら
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]真玉つく越智の菅原を自分が苅らないで他人が苅るのは心残りな菅原であるよ
#{語釈]
真玉つく 立派な玉を貫き通す緒の意味で「を」にかかる
越智の菅原 所在未詳  滋賀県坂田郡近江町かとも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1342
#[題詞](寄草)
#[原文]山高 夕日隠奴 淺茅原 後見多米尓 標結申尾
#[訓読]山高み夕日隠りぬ浅茅原後見むために標結はましを
#[仮名],やまたかみ,ゆふひかくりぬ,あさぢはら,のちみむために,しめゆはましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]山が高いので夕日が隠れた。浅茅原を後々見るために印をつけておけばよかったのに
#{語釈]
#[説明]
浅茅原(女)を尋ねていったが、世間の噂がひどい(山高み)のですぐにはことが成就しなかった。こんなことなら約束しておけばよかったの意味

#[関連論文]


#[番号]07/1343
#[題詞](寄草)
#[原文]事痛者 左右将為乎 石代之 野邊之下草 吾之苅而者 [一云 紅之 寫心哉 於妹不相将有]
#[訓読]言痛くはかもかもせむを岩代の野辺の下草我れし刈りてば [一云 紅の現し心や妹に逢はずあらむ]
#[仮名],こちたくは,かもかもせむを,いはしろの,のへのしたくさ,われしかりてば,[くれなゐの,うつしこころや,いもにあはずあらむ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,異伝,和歌山,うわさ,地名
#[訓異]
#[大意]うわさがひどいのはあれこれしようものを。岩代の野辺の下草を自分が苅りさえすれば
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1344
#[題詞](寄草)
#[原文]真鳥住 卯名手之神社之 菅根乎 衣尓書付 令服兒欲得
#[訓読]真鳥棲む雲梯の杜の菅の根を衣にかき付け着せむ子もがも
#[仮名],まとりすむ,うなてのもりの,すがのねを,きぬにかきつけ,きせむこもがも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,橿原,奈良,恋愛,地名,植物
#[訓異]
#[大意]鷲の棲む恐ろしい雲梯の杜の管の根を衣に書き付けて着せるかわいい子がいたらなあ
#{語釈]
真鳥棲む 鷲が棲む
雲梯の杜 奈良県橿原市雲梯神社 事代主神を祭る

#[説明]
神聖な管の根を衣にするので神罰も覚悟の真剣に思ってくれる女性を望む(窪田評釈)
菅の根は、長いに使われるので、恐ろしい神に誓って長く愛してくれる女の子の意味か。
菅の根は、ねんごろの枕詞に使われるので、恐ろしい神の霊威あるにもかかわらず(うわさや母などの仲を裂くものがいるにもかかわらず)、懇ろに親しくしてくれる女の子の意味か。

#[関連論文]


#[番号]07/1345
#[題詞](寄草)
#[原文]常不 人國山乃 秋津野乃 垣津幡鴛 夢見鴨
#[訓読]常ならぬ人国山の秋津野のかきつはたをし夢に見しかも
#[仮名],つねならぬ,ひとくにやまの,あきづのの,かきつはたをし,いめにみしかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,和歌山,恋愛,地名,植物
#[訓異]
#[大意]無常な人国山の秋津野のかきつばたを夢に見たことだ
#{語釈]
常ならぬ  無常な人の意味の枕詞
人国山の秋津野 1305 和歌山県田辺市秋津町

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1346
#[題詞](寄草)
#[原文]姫押 生澤邊之 真田葛原 何時鴨絡而 我衣将服
#[訓読]をみなへし佐紀沢の辺の真葛原いつかも繰りて我が衣に着む
#[仮名],をみなへし,さきさはのへの,まくずはら,いつかもくりて,わがきぬにきむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,奈良,恋愛,植物,地名
#[訓異]
#[大意]をみなへし佐紀沢のほとりの真葛の原よ。いつになったら糸に紡いで自分の衣に着ようか
#{語釈]
をみなへし 咲くから佐紀にかかる枕詞 4.675
佐紀沢  奈良市佐紀町佐紀池

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1347
#[題詞](寄草)
#[原文]於君似 草登見従 我標之 野山之淺茅 人莫苅根
#[訓読]君に似る草と見しより我が標めし野山の浅茅人な刈りそね
#[仮名],きみににる,くさとみしより,わがしめし,のやまのあさぢ,ひとなかりそね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]あなたに似ている草だと見た時から自分が印をつけておいた野山の浅茅を他人は苅るなよ
#{語釈]
君に似る草  浅茅を若々しい草としていとしい相手を連想する

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1348
#[題詞](寄草)
#[原文]三嶋江之 玉江之薦乎 従標之 己我跡曽念 雖未苅
#[訓読]三島江の玉江の薦を標めしより己がとぞ思ふいまだ刈らねど
#[仮名],みしまえの,たまえのこもを,しめしより,おのがとぞおもふ,いまだからねど
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,大阪,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]三島江の美しい入り江の薦に印をつけておいた時より自分のものだと思う。まだ刈り取ってはいないけれども
#{語釈]
三島江  摂津国三島郡 大阪市東淀川区、摂津市、高槻市
玉江 入り江を讃めたもの

11/2766H01三島江の入江の薦を刈りにこそ我れをば君は思ひたりけれ
11/2836H01三島菅いまだ苗なり時待たば着ずやなりなむ三島菅笠

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1349
#[題詞](寄草)
#[原文]如是為<而>也 尚哉将老 三雪零 大荒木野之 小竹尓不有九二
#[訓読]かくしてやなほや老いなむみ雪降る大荒木野の小竹にあらなくに
#[仮名],かくしてや,なほやおいなむ,みゆきふる,おほあらきのの,しのにあらなくに
#[左注]
#[校異]<> -> 而 [西(右書)][元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,奈良,恋愛,植物,地名
#[訓異]
#[大意]このようにして次第に年取って行くのだろうか。み雪が降る大荒木野の篠竹でもないのに
#{語釈]
大荒木野 奈良県五條市今井町荒木神社
小竹  男女関係に縁のない女の喩えか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1350
#[題詞](寄草)
#[原文]淡海之哉 八橋乃小竹乎 不造<笶>而 信有得哉 戀敷鬼<呼>
#[訓読]近江のや八橋の小竹を矢はがずてまことありえむや恋しきものを
#[仮名],あふみのや,やばせのしのを,やはがずて,まことありえむや,こほしきものを
#[左注]
#[校異]矢 -> 笶 [元][類][古][紀] / 乎 -> 呼 [元][紀]
#[鄣W],譬喩歌,滋賀県,恋愛,地名,植物
#[訓異]
#[大意]近江の八橋の篠竹を矢に作らないで本当にいられようか。恋しいものであるのに。
#{語釈]
八橋  滋賀県大津市八橋


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1351
#[題詞](寄草)
#[原文]月草尓 衣者将<揩> 朝露尓 所沾而後者 <徙>去友
#[訓読]月草に衣は摺らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも
#[仮名],つきくさに,ころもはすらむ,あさつゆに,ぬれてののちは,うつろひぬとも
#[左注]
#[校異]摺 -> 揩 [元] / 徒 -> 徙 [元][古][温]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,移ろい,植物
#[訓異]
#[大意]露草で衣を摺ろう。朝露に濡れての後は色があせたとしても。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1352
#[題詞](寄草)
#[原文]吾情 湯谷絶谷 浮蓴 邊毛奥毛 依<勝>益士
#[訓読]我が心ゆたにたゆたに浮蓴辺にも沖にも寄りかつましじ
#[仮名],あがこころ,ゆたにたゆたに,うきぬなは,へにもおきにも,よりかつましじ
#[左注]
#[校異]<> -> 勝 [西(右書)][元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]自分の気持ちはゆったりしたり、揺れたりして池に浮いている蓴菜のように岸辺にも沖にも寄りつけそうにもない
#{語釈]
ゆたにたゆたに ゆったりしたり、揺れたりして
浮蓴 蓴菜

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1353
#[題詞]寄稲
#[原文]石上 振之早田乎 雖不秀 繩谷延与 守乍将居
#[訓読]石上布留の早稲田を秀でずとも縄だに延へよ守りつつ居らむ
#[仮名],いそのかみ,ふるのわさだを,ひでずとも,なはだにはへよ,もりつつをらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,奈良,恋愛,地名,植物
#[訓異]
#[大意]石上布留の早稲田の穂が出ていなくとも縄だけでも張って標を付けておけ。自分が見守っていよう
#{語釈]
#[説明]
親の気に入った男に娘を約束させる親の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1354
#[題詞]寄木
#[原文]白菅之 真野乃榛原 心従毛 不念<吾>之 衣尓<揩>
#[訓読]白菅の真野の榛原心ゆも思はぬ我れし衣に摺りつ
#[仮名],しらすげの,まののはりはら,こころゆも,おもはぬわれし,ころもにすりつ
#[左注]
#[校異]君 -> 吾 [元][類][紀] / 摺 -> 揩 [元]
#[鄣W],譬喩歌,兵庫,恋愛,植物,地名
#[訓異]
#[大意]白菅の生えている真野の榛原よ。心からも思っているわけでもないのに、自分の衣に摺りつけてしまった
#{語釈]
白菅の真野の榛原  神戸市長田区真野、西尻池、東尻池のあたり
03/0280H01いざ子ども大和へ早く白菅の真野の榛原手折りて行かむ
03/0281H01白菅の真野の榛原行くさ来さ君こそ見らめ真野の榛原

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1355
#[題詞](寄木)
#[原文]真木柱 作蘇麻人 伊左佐目丹 借廬之為跡 造計米八方
#[訓読]真木柱作る杣人いささめに仮廬のためと作りけめやも
#[仮名],まきばしら,つくるそまびと,いささめに,かりいほのためと,つくりけめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]真木柱を作る木こりはいい加減に仮庵を作るためにこの立派な柱を作ったのだろうか。そんなことはない。
#{語釈]
真木柱 杉や桧などの良材で作った柱

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1356
#[題詞](寄木)
#[原文]向峯尓 立有桃樹 <将>成哉等 人曽耳言為 汝情勤
#[訓読]向つ峰に立てる桃の木ならむやと人ぞささやく汝が心ゆめ
#[仮名],むかつをに,たてるもものき,ならむやと,ひとぞささやく,ながこころゆめ
#[左注]
#[校異]<> -> 将 [元][類][紀] / 為 [塙本] 焉
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物,歌垣
#[訓異]
#[大意]向かいの丘に立っている桃の木に実がなろうかと人はささやいている。お前の気持ちは決していい加減に思うなよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1357
#[題詞](寄木)
#[原文]足乳根乃 母之其業 桑尚 願者衣尓 著常云物乎
#[訓読]たらちねの母がそのなる桑すらに願へば衣に着るといふものを
#[仮名],たらちねの,ははがそのなる,くはすらに,ねがへばきぬに,きるといふものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]たらちねの母が生業の桑すら願いをかけると衣になって着るというものなのに
#{語釈]
なる  生業

#[説明]
桑の葉がないと蚕が育たずよい衣を作れないという意味で、母に恋愛を禁止された娘がその生業の桑ですら願いをかけると衣になるのに、何故自分の恋は成就出来ないのかと嘆いたもの。

#[関連論文]


#[番号]07/1358
#[題詞](寄木)
#[原文]波之吉也思 吾家乃毛桃 本繁 花耳開而 不成在目八方
#[訓読]はしきやし我家の毛桃本茂く花のみ咲きてならずあらめやも
#[仮名],はしきやし,わぎへのけもも,もとしげく,はなのみさきて,ならずあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]いとしいことだ。我家の毛桃は根本までいっぱいに花が咲くが、花ばかりで実にならないということがあろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1359
#[題詞](寄木)
#[原文]向岳之 若楓木 下枝取 花待伊間尓 嘆鶴鴨
#[訓読]向つ峰の若桂の木下枝取り花待つい間に嘆きつるかも
#[仮名],むかつをの,わかかつらのき,しづえとり,はなまついまに,なげきつるかも
#[左注]
#[校異]向 [元][類][古][紀] 南
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]向かいの岡の若い桂の木の下枝を払って花が咲くのを待つ間も長く感じられて嘆いていることだ
#{語釈]
#[説明]
成人していない娘の世話をかいがいしくして、成人するのを待っているが長く感じられるの喩え

#[関連論文]


#[番号]07/1360
#[題詞]寄花
#[原文]氣緒尓 念有吾乎 山治左能 花尓香<公>之 移奴良武
#[訓読]息の緒に思へる我れを山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ
#[仮名],いきのをに,おもへるわれを,やまぢさの,はなにかきみが,うつろひぬらむ
#[左注]
#[校異]君 -> 公 [元][類][古][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,恨み,失恋,植物
#[訓異]
#[大意]息の緒のように命がけで思っている自分なのに山ぢさの花なのでしょうか。あなたは心変わりしなのでしょうか。
#{語釈]
息の緒 続かないと死ぬように命がけで
04/0644H01今は我はわびぞしにける息の緒に思ひし君をゆるさく思へば
04/0681H01なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我れ恋ひめやも

山ぢさ えごの木か。5月頃白い房状の白い花をつけるがすぐにしぼむ。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1361
#[題詞](寄花)
#[原文]墨吉之 淺澤小野之 垣津幡 衣尓揩著 将衣日不知毛
#[訓読]住吉の浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け着む日知らずも
#[仮名],すみのえの,あささはをのの,かきつはた,きぬにすりつけ,きむひしらずも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,大阪,地名,植物
#[訓異]
#[大意]住吉の淺沢小野のかきつばたよ。衣に摺り付けて着る日がわからないことだ
#{語釈]
住吉の浅沢小野  大阪市住吉区住吉大社東南方の低湿地

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1362
#[題詞](寄花)
#[原文]秋去者 影毛将為跡 吾蒔之 韓藍之花乎 誰採家牟
#[訓読]秋さらば移しもせむと我が蒔きし韓藍の花を誰れか摘みけむ
#[仮名],あきさらば,うつしもせむと,わがまきし,からあゐのはなを,たれかつみけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,悔しさ,植物
#[訓異]
#[大意]秋になたら移し染めにしようと思って自分が播いていた韓藍の花を誰が摘んだのだろう
#{語釈]
移し 移し染めにする  娘を結婚させようとする

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1363
#[題詞](寄花)
#[原文]春日野尓 咲有芽子者 片枝者 未含有 言勿絶行年
#[訓読]春日野に咲きたる萩は片枝はいまだふふめり言な絶えそね
#[仮名],かすがのに,さきたるはぎは,かたえだは,いまだふふめり,ことなたえそね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,奈良,地名,植物
#[訓異]
#[大意]春日野に咲いた萩は片方の枝はまだつぼみのままだ。連絡を絶やさないでください
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1364
#[題詞](寄花)
#[原文]欲見 戀管待之 秋芽子者 花耳開而 不成可毛将有
#[訓読]見まく欲り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きてならずかもあらむ
#[仮名],みまくほり,こひつつまちし,あきはぎは,はなのみさきて,ならずかもあらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]見たいと思って恋い続けて待っていた秋萩は花ばかり咲いて実がならないであるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1365
#[題詞](寄花)
#[原文]吾妹子之 屋前之秋芽子 自花者 實成而許曽 戀益家礼
#[訓読]我妹子がやどの秋萩花よりは実になりてこそ恋ひまさりけれ
#[仮名],わぎもこが,やどのあきはぎ,はなよりは,みになりてこそ,こひまさりけれ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]我妹子の家の秋萩は花であるよりは実になってこそ恋いがつのるというものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1366
#[題詞]寄鳥
#[原文]明日香川 七瀬之不行尓 住鳥毛 意有社 波不立目
#[訓読]明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立てざらめ
#[仮名],あすかがは,ななせのよどに,すむとりも,こころあれこそ,なみたてざらめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,うわさ,飛鳥,地名,動物
#[訓異]
#[大意]明日香川のあちらこちらの淀に住む鳥も心があるからこそ波を立てないのだろう
#{語釈]
#[説明]
川波を立てる鳥ですら配慮があるから波を立てないのに、世間では心なくうわさを立てると言ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1367
#[題詞]寄獸
#[原文]三國山 木末尓住歴 武佐左妣乃 此待鳥如 吾<俟>将痩
#[訓読]三国山木末に住まふむささびの鳥待つごとく我れ待ち痩せむ
#[仮名],みくにやま,こぬれにすまふ,むささびの,とりまつごとく,われまちやせむ
#[左注]
#[校異]侯 -> 俟 [西(貼紙)][元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,地名,動物
#[訓異]
#[大意]三国山の木の梢に住み続けるむささびが鳥を待っているように自分はあなたを待って痩せることだ
#{語釈]
三国山 未詳 福井県坂井郡三国町三国港
むささび 鳥を捕獲することはない。滑空する様子を鳥を捕るためと思われていたか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1368
#[題詞]寄雲
#[原文]石倉之 小野従秋津尓 發渡 雲西裳在哉 時乎思将待
#[訓読]岩倉の小野ゆ秋津に立ちわたる雲にしもあれや時をし待たむ
#[仮名],いはくらの,をのゆあきづに,たちわたる,くもにしもあれや,ときをしまたむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,和歌山県,田辺市,地名
#[訓異]
#[大意]岩倉の小野から秋津に立ち渡る雲でもあるのだろうか。そうでもないのにあなたは時期を待っているのですか
#{語釈]
岩倉 和歌山県田辺市秋津町 奈良県吉野郡吉野町 未詳

#[説明]
雲 一定の刻限に雲が起こるか
いつまで待たせるのかと男に迫る女の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1369
#[題詞]寄雷
#[原文]天雲 近光而 響神之 見者恐 不見者悲毛
#[訓読]天雲に近く光りて鳴る神の見れば畏し見ねば悲しも
#[仮名],あまくもに,ちかくひかりて,なるかみの,みればかしこし,みねばかなしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,序詞
#[訓異]
#[大意]天雲に近く光って鳴る雷のように会うと恐れ多い。会わないといとしく思うことだ
#{語釈]
#[説明]
身分の高い男と関係を持った女の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1370
#[題詞]寄雨
#[原文]甚多毛 不零雨故 庭立水 太莫逝 人之應知
#[訓読]はなはだも降らぬ雨故にはたづみいたくな行きそ人の知るべく
#[仮名],はなはだも,ふらぬあめゆゑ,にはたづみ,いたくなゆきそ,ひとのしるべく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,うわさ
#[訓異]
#[大意]ひどくも降らない雨なのに庭の水たまりよ。ひどくは流れて行くなよ。人が知ってしまうほど。
#{語釈]
#[説明]
後朝の男を送る女の歌
はなはだも降らぬ雨は、たいして通って来ない男のこと
いなくな行きそ 男が大げさには帰って行って欲しくない気持ち

#[関連論文]


#[番号]07/1371
#[題詞](寄雨)
#[原文]久堅之 雨尓波不著乎 恠毛 吾袖者 干時無香
#[訓読]ひさかたの雨には着ぬをあやしくも我が衣手は干る時なきか
#[仮名],ひさかたの,あめにはきぬを,あやしくも,わがころもでは,ふるときなきか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,枕詞
#[訓異]
#[大意]ひさかたの雨の時には着ないのに不思議にも自分の衣手は乾く時もないことだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1372
#[題詞]寄月
#[原文]三空徃 月讀<壮>士 夕不去 目庭雖見 因縁毛無
#[訓読]み空行く月読壮士夕さらず目には見れども寄るよしもなし
#[仮名],みそらゆく,つくよみをとこ,ゆふさらず,めにはみれども,よるよしもなし
#[左注]
#[校異]牡 -> 壮 [元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]み空を行く月読み男は夕べごとに目には見るけれども自分に寄る手だてもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1373
#[題詞](寄月)
#[原文]春日山 々高有良之 石上 菅根将見尓 月待難
#[訓読]春日山山高くあらし岩の上の菅の根見むに月待ちかたし
#[仮名],かすがやま,やまたかくあらし,いはのうへの,すがのねみむに,つきまちかたし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,奈良,地名,植物
#[訓異]
#[大意]春日山の山は高くあるらしい。岩の上の管の根を見ようと思うのに月を待つことが出来ない
#{語釈]
#[説明]
身分の高い女性に恋をする男の歌か
山高し 恋の通い路に妨げが多いこと
菅の根 相手の女性
月待ち難し なかなか会えない様子

#[関連論文]


#[番号]07/1374
#[題詞](寄月)
#[原文]闇夜者 辛苦物乎 何時跡 吾待月毛 早毛照奴賀
#[訓読]闇の夜は苦しきものをいつしかと我が待つ月も早も照らぬか
#[仮名],やみのよは,くるしきものを,いつしかと,わがまつつきも,はやもてらぬか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]闇の夜は苦しいものなのに。いつになったらと自分が待つ月も早く照らないものだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1375
#[題詞](寄月)
#[原文]朝霜之 消安命 為誰 千歳毛欲得跡 吾念莫國
#[訓読]朝霜の消やすき命誰がために千年もがもと我が思はなくに
#[仮名],あさしもの,けやすきいのち,たがために,ちとせもがもと,わがおもはなくに
#[左注]右一首者不有譬喩歌類也 但闇夜歌人所心之故並作此歌 因以此歌載於此次
#[校異]譬喩歌 [西] 譬喩謌 [西(訂正)] 譬喩歌 / 作此歌 [西] 作此謌 [西(訂正)] 作此歌
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,枕詞
#[訓異]
#[大意]朝露のように消えやすい命であるのに、誰のために千年もあればと自分は思わないというのか
#{語釈]
右一首は、譬喩歌の類に有らず。但し闇の夜の歌人の所心(おもひ)の故に並(とも)に此の歌を作る。因りて此の歌を以て此処の次に載す。

前の歌と同一人の作。
現場を知っている人の編纂

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1376
#[題詞]寄赤土
#[原文]山跡之 宇陀乃真赤土 左丹著者 曽許裳香人之 吾乎言将成
#[訓読]大和の宇陀の真埴のさ丹付かばそこもか人の我を言なさむ
#[仮名],やまとの,うだのまはにの,さにつかば,そこもかひとの,わをことなさむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,奈良,恋愛,うわさ,地名
#[訓異]
#[大意]大和の宇陀の赤土の赤い色が付いたら、それだけのことで世間は自分のことをうわさするだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1377
#[題詞]寄神
#[原文]木綿懸而 祭三諸乃 神佐備而 齊尓波不在 人目多見許<曽>
#[訓読]木綿懸けて祭る三諸の神さびて斎むにはあらず人目多みこそ
#[仮名],ゆふかけて,まつるみもろの,かむさびて,いむにはあらず,ひとめおほみこそ
#[左注]
#[校異]増 -> 曽 [元][類][矢][京]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,うわさ,三輪,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]木綿を懸けて祭る三諸ではないが神々しくなって齋き祭るというのではない。人目が多いからなのです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1378
#[題詞](寄神)
#[原文]木綿懸而 齊此神社 可超 所念可毛 戀之繁尓
#[訓読]木綿懸けて斎ふこの社越えぬべく思ほゆるかも恋の繁きに
#[仮名],ゆふかけて,いはふこのもり,こえぬべく,おもほゆるかも,こひのしげきに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,三輪,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]木綿を懸けて齋き祭るこの神の杜の聖域さへも乗り越えて思われてならない。恋い思う気持ちが激しくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1379
#[題詞]寄河
#[原文]不絶逝 明日香川之 不逝有者 故霜有如 人之見國
#[訓読]絶えず行く明日香の川の淀めらば故しもあるごと人の見まくに
#[仮名],たえずゆく,あすかのかはの,よどめらば,ゆゑしもあるごと,ひとのみまくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,飛鳥,恋情,停滞,うわさ,地名
#[訓異]
#[大意]絶えず流れている明日香の川が停滞したならば何かわけがあるのかと人が見ることでしょう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1380
#[題詞](寄河)
#[原文]明日香川 湍瀬尓玉藻者 雖生有 四賀良美有者 靡不相
#[訓読]明日香川瀬々に玉藻は生ひたれどしがらみあれば靡きあはなくに
#[仮名],あすかがは,せぜにたまもは,おひたれど,しがらみあれば,なびきあはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,飛鳥,恋情,恨み,地名
#[訓異]
#[大意]明日香川の早瀬ごとに玉藻は生えているが、しがらみがあるので靡き合うことが出来ないことだ
#{語釈]
しがらみ 流れをせき止めるための杭に小枝や竹を絡ませたもの 02/137
     人目やうわさの喩え

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1381
#[題詞](寄河)
#[原文]廣瀬<河> 袖衝許 淺乎也 心深目手 吾念有良武
#[訓読]広瀬川袖漬くばかり浅きをや心深めて我が思へるらむ
#[仮名],ひろせがは,そでつくばかり,あさきをや,こころふかめて,わがおもへるらむ
#[左注]
#[校異]川 -> 河 [元][類][古][紀]
#[鄣W],譬喩歌,奈良,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]広瀬川が袖が浸かるほど浅いようにそのようにあなたは薄情なのに、心を深く思って自分は恋い思っているのだろうか
#{語釈]
広瀬川 奈良県北葛城郡川合町広瀬あたりの曽我川のこと

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1382
#[題詞](寄河)
#[原文]泊瀬川 流水沫之 絶者許曽 吾念心 不遂登思齒目
#[訓読]泊瀬川流るる水沫の絶えばこそ我が思ふ心遂げじと思はめ
#[仮名],はつせがは,ながるるみなわの,たえばこそ,あがおもふこころ,とげじとおもはめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,奈良,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]泊瀬川の流れる水の泡がなくなってしまうのならば、自分が恋い思う気持ちも遂げることは出来ないと思いもしようが。(絶えないのでなくならばい)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1383
#[題詞](寄河)
#[原文]名毛伎世婆 人可知見 山川之 瀧情乎 塞敢<而>有鴨
#[訓読]嘆きせば人知りぬべみ山川のたぎつ心を塞かへてあるかも
#[仮名],なげきせば,ひとしりぬべみ,やまがはの,たぎつこころを,せかへてあるかも
#[左注]
#[校異]与 -> 而 [西(訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]ためいきをつくと人が知ってしまいそうなので、山川のように激しく流れる気持ちを塞き止めていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1384
#[題詞](寄河)
#[原文]水隠尓 氣衝餘 早川之 瀬者立友 人二将言八方
#[訓読]水隠りに息づきあまり早川の瀬には立つとも人に言はめやも
#[仮名],みごもりに,いきづきあまり,はやかはの,せにはたつとも,ひとにいはめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情
#[訓異]
#[大意]水にもぐって息を止めているのが苦しくなって流れの速い川の早瀬に立ち上がるとしても人に言いましょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1385
#[題詞]寄埋木
#[原文]真そ持 弓削河原之 埋木之 不可顕 事<尓>不有君
#[訓読]真鉋持ち弓削の川原の埋れ木のあらはるましじきことにあらなくに
#[仮名],まかなもち,ゆげのかはらの,うもれぎの,あらはるましじき,ことにあらなくに
#[左注]
#[校異]等 -> 尓 [元][類][古][紀]
#[鄣W],譬喩歌,大阪,恋情,人目,地名
#[訓異]
#[大意]真鉋を持って弓に削る弓削の川原に埋もれている木のように表に表れることは決してないのだが
#{語釈]
真鉋 槍カンナ。弓を作るのに木を削る意味での枕詞
弓削の川原 大阪府八尾区弓削 弓削川

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1386
#[題詞]寄海
#[原文]大船尓 真梶繁貫 水手出去之 奥<者>将深 潮者干去友
#[訓読]大船に真楫しじ貫き漕ぎ出なば沖は深けむ潮は干ぬとも
#[仮名],おほぶねに,まかぢしじぬき,こぎでなば,おきはふかけむ,しほはひぬとも
#[左注]
#[校異]<> -> 者 [元][類][古][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋情
#[訓異]
#[大意]大船に両舷に楫を多く貫き漕ぎだしたならば沖は深いでしょう。潮が引いているとしても
#{語釈]
沖は深けむ 二人の仲は深く結ばれている
潮は干ぬ まわりはとかく悪いうわさを立てる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1387
#[題詞](寄海)
#[原文]伏超従 去益物乎 間守尓 所打沾 浪不數為而
#[訓読]伏越ゆ行かましものをまもらふにうち濡らさえぬ波数まずして
#[仮名],ふしこえゆ,ゆかましものを,まもらふに,うちぬらさえぬ,なみよまずして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情
#[訓異]
#[大意]伏越を通って行けばよかったのに、波の様子を窺っていて着物を濡らされてしまった。波の寄せるのを見なかったために
#{語釈]
伏超  地名か。所在未詳。這って越えていくような険しい場所
    女の所へ行くのに近道か
まもらふ 目守る 様子を窺う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1388
#[題詞](寄海)
#[原文]石灑 岸之浦廻尓 縁浪 邊尓来依者香 言之将繁
#[訓読]石そそき岸の浦廻に寄する波辺に来寄らばか言の繁けむ
#[仮名],いはそそき,きしのうらみに,よするなみ,へにきよらばか,ことのしげけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]磯に流れ込み岸の浦のめぐりに寄せてくる波は、さらに岸辺にやって来るからかうわさがひどいのだろうか
#{語釈]
#[説明]
波を男に喩える。男がさらに近づいてくるのでうわさになると言ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1389
#[題詞](寄海)
#[原文]礒之浦尓 来依白浪 反乍 過不勝者 <誰>尓絶多倍
#[訓読]礒の浦に来寄る白波返りつつ過ぎかてなくは誰れにたゆたへ
#[仮名],いそのうらに,きよるしらなみ,かへりつつ,すぎかてなくは,たれにたゆたへ
#[左注]
#[校異]雉 -> 誰 [元][類][古][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋情
#[訓異]
#[大意]磯の浦にやって来て寄せる白波が返りながらも戻っていかないのは誰と滞っているのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1390
#[題詞](寄海)
#[原文]淡海之海 浪恐登 風守 年者也将經去 榜者無二
#[訓読]近江の海波畏みと風まもり年はや経なむ漕ぐとはなしに
#[仮名],あふみのうみ,なみかしこみと,かぜまもり,としはやへなむ,こぐとはなしに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,滋賀,恋情,琵琶湖,地名
#[訓異]
#[大意]近江の海の波がおそろしいので風を見守っていて年が早々と経ってしまうだろうか。漕ぎ出すということもなくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1391
#[題詞](寄海)
#[原文]朝奈藝尓 来依白浪 欲見 吾雖為 風許増不令依
#[訓読]朝なぎに来寄る白波見まく欲り我れはすれども風こそ寄せね
#[仮名],あさなぎに,きよるしらなみ,みまくほり,われはすれども,かぜこそよせね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情
#[訓異]
#[大意]朝なぎにやってくる白波を見たいと自分は思っているが風ばかり寄せて来る
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1392
#[題詞]寄浦沙
#[原文]紫之 名高浦之 愛子地 袖耳觸而 不寐香将成
#[訓読]紫の名高の浦の真砂土袖のみ触れて寝ずかなりなむ
#[仮名],むらさきの,なたかのうらの,まなごつち,そでのみふれて,ねずかなりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,和歌山,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]紫の名高の浦の真砂土に袖が触れるばかりで寝ないままになってしまうのだろうか
#{語釈]
紫の 高貴な色として有名なの意味で、名高にかかる枕詞
名高の浦 和歌山県海南市名高

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1393
#[題詞](寄浦沙)
#[原文]豊國之 <聞>之濱邊之 愛子地 真直之有者 何如将嘆
#[訓読]豊国の企救の浜辺の真砂土真直にしあらば何か嘆かむ
#[仮名],とよくにの,きくのはまへの,まなごつち,まなほにしあらば,なにかなげかむ
#[左注]
#[校異]間 -> 聞 [西(頭書)]
#[鄣W],譬喩歌,福岡県,恋愛,恨み,地名
#[訓異]
#[大意]豊国の企救の浜辺の真砂土がその名前のように素直であったならば何を嘆くことがあろうか
#{語釈]
豊国の企救の浜辺 福岡県北九州市小倉西区長浜付近
真直 素直、真面目
 
#[説明]
真砂土 男の喩え。男が率直であったらという女の嘆き

#[関連論文]


#[番号]07/1394
#[題詞]寄藻
#[原文]塩満者 入流礒之 草有哉 見良久少 戀良久乃太寸
#[訓読]潮満てば入りぬる礒の草なれや見らく少く恋ふらくの多き
#[仮名],しほみてば,いりぬるいその,くさなれや,みらくすくなく,こふらくのおほき
#[左注]
#[校異]太 [類][紀] 大
#[鄣W],譬喩歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]潮が満ちると海に沈む磯野草なのだろうか。見ることが少なく、恋い思うことが多いのは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1395
#[題詞](寄藻)
#[原文]奥浪 依流荒礒之 名告藻者 心中尓 疾跡成有
#[訓読]沖つ波寄する荒礒のなのりそは心のうちに障みとなれり
#[仮名],おきつなみ,よするありその,なのりそは,こころのうちに,つつみとなれり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]沖の波が寄せる荒磯のなのりそは心の中で障害となっている
#{語釈]
#[説明]
女の歌。男に思いを寄せていても告白出来ないもどかしさを歌ったもの

#[関連論文]


#[番号]07/1396
#[題詞](寄藻)
#[原文]紫之 名高浦乃 名告藻之 於礒将靡 時待吾乎
#[訓読]紫の名高の浦のなのりその礒に靡かむ時待つ我れを
#[仮名],むらさきの,なたかのうらの,なのりその,いそになびかむ,ときまつわれを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,和歌山,恋愛,地名,植物
#[訓異]
#[大意]紫の名高の浦なのりその磯に靡く時を待つ自分なのに

#[語釈]
紫の 高貴な色として有名なの意味で、名高にかかる枕詞
名高の浦 和歌山県海南市名高

#[説明]
女が自分に靡く時を待っているという男の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1397
#[題詞](寄藻)
#[原文]荒礒超 浪者恐 然為蟹 海之玉藻之 憎者不有手
#[訓読]荒礒越す波は畏ししかすがに海の玉藻の憎くはあらずて
#[仮名],ありそこす,なみはかしこし,しかすがに,うみのたまもの,にくくはあらずて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]荒磯を超える波は恐ろしい。そうではあるが海の玉藻はいやではないけれども
#[語釈]
波  母親
玉藻 相手の女

#[説明]

#[関連論文]


#[番号]07/1398
#[題詞]寄船
#[原文]神樂聲浪乃 四賀津之浦能 船乗尓 乗西意 常不所忘
#[訓読]楽浪の志賀津の浦の舟乗りに乗りにし心常忘らえず
#[仮名],ささなみの,しがつのうらの,ふなのりに,のりにしこころ,つねわすらえず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,滋賀,琵琶湖,恋情,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]楽浪の志賀津の浦の舟乗りではないが、あなたに乗った気持ちはいつも忘れることが出来ない
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1399
#[題詞](寄船)
#[原文]百傳 八十之嶋廻乎 榜船尓 乗<尓志>情 忘不得裳
#[訓読]百伝ふ八十の島廻を漕ぐ舟に乗りにし心忘れかねつも
#[仮名],ももづたふ,やそのしまみを,こぐふねに,のりにしこころ,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]西 -> 尓志 [元][類][紀]
#[鄣W],譬喩歌,恋情,枕詞,序詞
#[訓異]
#[大意]百につながる八十のたくさんの島のめぐりを漕ぐ船に乗った心を忘れることが出来ないでりうことだ
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1400
#[題詞](寄船)
#[原文]嶋傳 足速乃小舟 風守 年者也經南 相常齒無二
#[訓読]島伝ふ足早の小舟風まもり年はや経なむ逢ふとはなしに
#[仮名],しまづたふ,あばやのをぶね,かぜまもり,としはやへなむ,あふとはなしに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情
#[訓異]
#[大意]島を伝って漕ぐ速い小船は風の様子をうかがっているうちに年月が早くも経ってしまった。会うということはなくて
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1401
#[題詞](寄船)
#[原文]水霧相 奥津小嶋尓 風乎疾見 船縁金都 心者念杼
#[訓読]水霧らふ沖つ小島に風をいたみ舟寄せかねつ心は思へど
#[仮名],みなぎらふ,おきつこしまに,かぜをいたみ,ふねよせかねつ,こころはおもへど
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]しっとりと霧がかかっている沖の小島に風がひどいので船を寄せることが出来ないことだ。心には思っているのだが。
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1402
#[題詞](寄船)
#[原文]殊放者 奥従酒甞 湊自 邊著經時尓 可放鬼香
#[訓読]こと放けば沖ゆ放けなむ港より辺著かふ時に放くべきものか
#[仮名],ことさけば,おきゆさけなむ,みなとより,へつかふときに,さくべきものか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,恋情
#[訓異]
#[大意]別れるのならば沖から別れたいものだ。港から岸辺に近くなって別れてよいものか
#[語釈]
別れるというのならば早いうちに言ってほしいものだ。結婚近くになって別れるなどと言っておいものか。と結婚間近になって破談を言われた女の歌

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1403
#[題詞]旋頭歌
#[原文]三幣帛取 神之祝我 鎮齊杉原 燎木伐 殆之國 手斧所取奴
#[訓読]御幣取り三輪の祝が斎ふ杉原薪伐りほとほとしくに手斧取らえぬ
#[仮名],みぬさとり,みわのはふりが,いはふすぎはら,たきぎこり,ほとほとしくに,てをのとらえぬ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],譬喩歌,旋頭歌,三輪,奈良,恋情,戯笑,地名
#[訓異]
#[大意]幣帛をとって三輪の神官が斎き祭る杉原よ。薪に刈ってすんでのところで手斧を取られるところだった。
#[語釈]
#[説明]
大切に育てられた女にちょっかいを出してひどい目に遭いかけた男の歌

#[関連論文]


#[番号]07/1404
#[題詞]挽歌
#[原文]鏡成 吾見之君乎 阿婆乃野之 花橘之 珠尓拾都
#[訓読]鏡なす我が見し君を阿婆の野の花橘の玉に拾ひつ
#[仮名],かがみなす,わがみしきみを,あばののの,はなたちばなの,たまにひりひつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,奈良,地名,植物
#[訓異]
#[大意]鏡を見るように自分が絶えず見てきたあなたをを阿婆の野の花橘の玉として拾ったことだ
#[語釈]
阿婆の野 所在未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1405
#[題詞]
#[原文]蜻野(S) 人之懸者 朝蒔 君之所思而 嗟齒不病
#[訓読]秋津野を人の懸くれば朝撒きし君が思ほえて嘆きはやまず
#[仮名],あきづのを,ひとのかくれば,あさまきし,きみがおもほえて,なげきはやまず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]秋津野という言葉を人が口にすると朝撒いたあなたのことが思われて歎きは止まないことだ
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1406
#[題詞]
#[原文]秋津野尓 朝居雲之 失去者 前裳今裳 無人所念
#[訓読]秋津野に朝居る雲の失せゆけば昨日も今日もなき人思ほゆ
#[仮名],あきづのに,あさゐるくもの,うせゆけば,きのふもけふも,なきひとおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]秋津野に朝ただよっている雲が消えて行くと昨日も今日も亡くなった人のことが思われてならない
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1407
#[題詞]
#[原文]隠口乃 泊瀬山尓 霞立 棚引雲者 妹尓鴨在武
#[訓読]隠口の泊瀬の山に霞立ちたなびく雲は妹にかもあらむ
#[仮名],こもりくの,はつせのやまに,かすみたち,たなびくくもは,いもにかもあらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,奈良,初瀬,地名
#[訓異]
#[大意]隠口の泊瀬の山に霞が立ち上り棚引く雲は妹であろうか
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1408
#[題詞]
#[原文]狂語香 逆言哉 隠口乃 泊瀬山尓 廬為云
#[訓読]たはことかおよづれことかこもりくの泊瀬の山に廬りせりといふ
#[仮名],たはことか,およづれことか,こもりくの,はつせのやまに,いほりせりといふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,初瀬,地名
#[訓異]
#[大意]でたらめか嘘か隠口の泊瀬の山に庵をしているというのは
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1409
#[題詞]
#[原文]秋山 黄葉𪫧怜 浦觸而 入西妹者 待不来
#[訓読]秋山の黄葉あはれとうらぶれて入りにし妹は待てど来まさず
#[仮名],あきやまの,もみちあはれと,うらぶれて,いりにしいもは,まてどきまさず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,亡妻歌,植物
#[訓異]
#[大意]秋の山の黄葉が趣きがあるとしょんぼりとして入って行った妹は待ってもお帰りにはならない
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]07/1410
#[題詞]
#[原文]世間者 信二代者 不徃有之 過妹尓 不相念者
#[訓読]世間はまこと二代はゆかざらし過ぎにし妹に逢はなく思へば
#[仮名],よのなかは,まことふたよは,ゆかざらし,すぎにしいもに,あはなくおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,亡妻歌
#[訓異]
#[大意]世の中はほんとうに人生は二度繰り返さないらしい。亡くなった妹に会わないことを思うと
#[語釈]
二代 04/0733

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]07/1411
#[題詞]
#[原文]福 何有人香 黒髪之 白成左右 妹之音乎聞
#[訓読]幸はひのいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く
#[仮名],さきはひの,いかなるひとか,くろかみの,しろくなるまで,いもがこゑをきく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,亡妻歌
#[訓異]
#[大意]幸福のあるどのような人なのか。黒髪が白くなるまで妹の声を聞く人は
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]07/1412
#[題詞]
#[原文]吾背子乎 何處行目跡 辟竹之 背向尓宿之久 今思悔裳
#[訓読]我が背子をいづち行かめとさき竹のそがひに寝しく今し悔しも
#[仮名],わがせこを,いづちゆかめと,さきたけの,そがひにねしく,いましくやしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,後悔,枕詞
#[訓異]
#[大意]我が背子はどこへ行くだろうか。どこへも行くことはないと裂いた竹のように後ろ向きになって寝ていたことが今となっては悔しいことだ
#[語釈]
#[説明]
類歌 14/3577

#[関連論文]



#[番号]07/1413
#[題詞]
#[原文]庭津鳥 <可>鷄乃垂尾乃 乱尾乃 長心毛 不所念鴨
#[訓読]庭つ鳥鶏の垂り尾の乱れ尾の長き心も思ほえぬかも
#[仮名],にはつとり,かけのたりをの,みだれをの,ながきこころも,おもほえぬかも
#[左注]
#[校異]下 -> 可 [類][紀][温]
#[鄣W],挽歌,枕詞,動物,枕詞
#[訓異]
#[大意]庭の鳥の鶏の垂れた尾の乱れた尾のように長いのんびりした気持ちを思うことが出来ようか
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]07/1414
#[題詞]
#[原文]薦枕 相巻之兒毛 在者社 夜乃深良久毛 吾惜責
#[訓読]薦枕相枕きし子もあらばこそ夜の更くらくも我が惜しみせめ
#[仮名],こもまくら,あひまきしこも,あらばこそ,よのふくらくも,わがをしみせめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,枕詞
#[訓異]
#[大意]薦枕を共に枕として寝たあの子もいればこそ夜が更けて行くのも自分は惜しいと思うのだが
#[語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]07/1415
#[題詞]
#[原文]玉梓能 妹者珠氈 足氷木乃 清山邊 蒔散<と>
#[訓読]玉梓の妹は玉かもあしひきの清き山辺に撒けば散りぬる
#[仮名],たまづさの,いもはたまかも,あしひきの,きよきやまへに,まけばちりぬる
#[左注]
#[校異]染 -> と [古]
#[鄣W],挽歌,亡妻歌,枕詞,葬儀
#[訓異]
#[大意]玉梓の妹は玉なのであろうか。あしひきの清らかな山辺に撒くと散ってしまった
#[語釈]
玉梓の 玉梓の使いを遣る妹の意味で、妹の枕詞


#[説明]
#[関連論文]