万葉集 巻第20

#[番号]20/4293
#[題詞]幸行於山村之時歌二首 / 先太上天皇詔陪従王臣曰夫諸王卿等宣賦和歌而奏即御口号曰
#[原文]安之比奇能 山行之可婆 山人乃 和礼尓依志米之 夜麻都刀曽許礼
#[訓読]あしひきの山行きしかば山人の我れに得しめし山づとぞこれ
#[仮名],あしひきの,やまゆきしかば,やまびとの,われにえしめし,やまづとぞこれ
#[左注](右天平勝寶五年五月在於大納言藤原朝臣之家時 依奏事而請問之間 少主鈴山田史土麻呂語少納言大伴宿祢家持曰 昔聞此言 即誦此歌也)
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],天平勝宝5年5月,年紀,作者:元正天皇,伝誦,山田土麻呂,古歌,行幸,奈良,神仙,枕詞,大伴家持,藤原仲麻呂
#[訓異]
#[大意]あしひきの山を行っていたところ、山人が自分にくれた山のみやげであるよ。これは。
#{語釈]
山村 和名抄 大和国添上郡山村
欽明紀 百済人己知部(こちぶ)投化。置倭国添上郡山村。
続紀 和銅元年九月二十七日 春日離宮に行幸
堀家春峰 高円離宮の前身か。しかし場所が異なる。
奈良市山町 円上寺の地

先太上天皇 元正天皇 太上天皇である聖武と区別する意味で用いられる。
元明天皇とする考えもあるが、聖武朝になって推移した

先太上天皇、陪従の王臣に詔して曰はく、夫れ諸王卿等、宣しく和歌を賦して奏すべしとのりたまふ。即ち御口号して曰く

陪従 べいじゅ 伴人 大夫たちを言う

賦 歌を作り歌う

口号 大声で歌う
18/4044D01廿五日徃布勢水海道中馬上口号二首

山行きしかば 山を行っていたところ
03/0284H01焼津辺に我が行きしかば駿河なる阿倍の市道に逢ひし子らはも
08/1443H01霞立つ野の上の方に行きしかば鴬鳴きつ春になるらし

山人 山にいる人 仙人

山づと 山からのみやげ 何であるかは不明
土橋寛 杖か薪、榊の枝などの山の呪物か
私注 土地のささやかな献上物

#[説明]
舎人親王は、天平七年十一月に薨去。それ以前
先太上天皇が元明天皇であるとすると、養老五年の崩御以前。

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#[番号]20/4294
#[題詞](幸行於山村之時歌二首) / 舎人親王應詔奉和歌一首
#[原文]安之比奇能 山尓由伎家牟 夜麻妣等能 情母之良受 山人夜多礼
#[訓読]あしひきの山に行きけむ山人の心も知らず山人や誰れ
#[仮名],あしひきの,やまにゆきけむ,やまびとの,こころもしらず,やまびとやたれ
#[左注]右天平勝寶五年五月在於大納言藤原朝臣之家時 依奏事而請問之間 少主鈴山田史土麻呂語少納言大伴宿祢家持曰 昔聞此言 即誦此歌也
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝5年5月,年紀,作者:舎人親王,伝誦,古歌,山田土麻呂,行幸,枕詞,奈良,神仙,大伴家持,藤原仲麻呂
#[訓異]
#[大意]あしひきの山に行ったという山人の心もわからない。山人とは誰ですか。
#{語釈]
舎人親王 続紀 天武天皇第三子 第九子か 母は天智皇女新田部皇女
養老四年 知太政官事
天平七年十一月薨去

山に行きけむ 全注 舎人親王は、山村行幸には参加せず、平城宮で還幸を迎えた時に 詠んだ

山人 仙人 上皇自身を指す

心も知らず 山人である上皇の気持ちは自分はわからない
全注 山人であるあなたが山(山村)で本物の山人に逢い、何やら山づとを貰ったとおっしゃる、これはいったいどういうことでそう、とからかったのである。雄略紀四年の条に葛城の一言主神と雄略の出会い。日本書紀を編纂した舎人親王はとっさに思い浮かべたか。

事を奏すに依りて請問する間に 奏上すべきことについて仲麻呂の指図を待っている
仲麻呂は私邸で政務を行っていたか

少主鈴 中務省 正八位相当官 鈴印、伝符の出納 少納言家持の直属の下僚

山田史土麻呂(ひじまろ) 伝未詳

#[説明]
ここにも君臣和楽の思いが見える

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#[番号]20/4295
#[題詞]天平勝寶五年八月十二日二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首
#[原文]多可麻刀能 乎婆奈布伎故酒 秋風尓 比毛等伎安氣奈 多太奈良受等母
#[訓読]高円の尾花吹き越す秋風に紐解き開けな直ならずとも
#[仮名],たかまとの,をばなふきこす,あきかぜに,ひもときあけな,ただならずとも
#[左注]右一首左京少進大伴宿祢池主
#[校異]天平勝宝五年八月 [細](塙) 八月 / 酒 [類][春] 須
#[鄣W],天平勝宝5年8月12日,年紀,作者:大伴池主,地名,高円,奈良,宴席,植物
#[訓異]
#[大意]高円の尾花を吹き越える秋風に紐をほどいてくつろごうよ。妹と肌を接するというわけでなくとも。
#{語釈]
八月十二日 6、12、18、24、晦日が休暇(六暇) 暇寧令

二三大夫 二三人の気の合った者たち 朝廷の官人で五位ぐらいの者
池主は、正七位相当官で正確には大夫とはならない

壺酒 壺に入れた酒

登高圓野 高円野は現在の白毫寺付近。春日野と同じく高台になっているので「登」とある。高円離宮のあった所

紐解き開けな 衣の紐を解いて、汗を乾かしてくつろごうよ
17/3949H01天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや
天遠く離れた鄙にいる自分を都の妻はまったく自分が紐を解いて浮気をしているとお思いになるだろうか


直ならずとも 直接肌を触れ合うというのでなくとも
池主が卑猥性を交えて冗談交じりに言ったもの
古義 直に妹に交(あふ)にはあらずとも
歌の意は、高円の尾花が末を吹越す秋風を便りにして、いざさらば、紐解開で、打ちとけ心緩めるる遊ばむ、実に妹に交(あふ)には非ずとも、と戯れていへるなり。紐解は、女に交接(あふ)形容(さま)おいふことなれば云り。

全注 この一句で野鄙に堕した。

#[説明]
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#[番号]20/4296
#[題詞](天平勝寶五年八月十二日二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首)
#[原文]安麻久母尓 可里曽奈久奈流 多加麻刀能 波疑乃之多婆波 毛美知安倍牟可聞
#[訓読]天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも
#[仮名],あまくもに,かりぞなくなる,たかまとの,はぎのしたばは,もみちあへむかも
#[左注]右一首左中辨中臣清麻呂朝臣
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝5年8月12日,年紀,作者:中臣清麻呂,宴席,奈良,高円,地名,植物,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]空の雲で雁の鳴き声が聞こえる。高円の萩の下葉は黄葉しつくせるだろうか
#{語釈]
雁と黄葉
08/1540H01今朝の朝明雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅ぞ色づきにける
08/1575H01雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも
10/2191H01雁が音を聞きつるなへに高松の野の上の草ぞ色づきにける
10/2212H01雁がねの寒く鳴きしゆ春日なる御笠の山は色づきにけり

もみちあへむかも あふ 抵抗する、耐え忍ぶ

#[説明]
葉が黄葉しないうちに枯れたり、落ちたりしてしまわないだろうかと心配した様子

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#[番号]20/4297
#[題詞](天平勝寶五年八月十二日二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首)
#[原文]乎美奈<弊>之 安伎波疑之努藝 左乎之可能 都由和氣奈加牟 多加麻刀能野曽
#[訓読]をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露別け鳴かむ高圓の野ぞ
#[仮名],をみなへし,あきはぎしのぎ,さをしかの,つゆわけなかむ,たかまとののぞ
#[左注]右一首少納言大伴宿祢家持
#[校異]敝 -> 弊 [類][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝5年8月12日,年紀,作者:大伴家持,植物,動物,地名,高円,奈良,宴席
#[訓異]
#[大意]女郎花や秋の萩をしのいで雄鹿が露を胸で押し分けて鳴く高円の野であるぞ
#{語釈]
しのぎ 踏みつけて、押さえつける
08/1609H01宇陀の野の秋萩しのぎ鳴く鹿も妻に恋ふらく我れにはまさじ

露別け鳴かむ
08/1599H01さを鹿の胸別けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる
10/2153H01秋萩の咲きたる野辺はさを鹿ぞ露を別けつつ妻どひしける
20/4320H01大夫の呼び立てしかばさを鹿の胸別け行かむ秋野萩原

#[説明]
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#[番号]20/4298
#[題詞]六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首
#[原文]霜上尓 安良礼多<婆>之里 伊夜麻之尓 安礼<波>麻為許牟 年緒奈我久 [古今未詳]
#[訓読]霜の上に霰た走りいやましに我れは参ゐ来む年の緒長く [古今未詳]
#[仮名],しものうへに,あられたばしり,いやましに,あれはまゐこむ,としのをながく
#[左注]右一首左兵衛督大伴宿祢千室
#[校異]波 -> 婆 [元][類][紀] / 婆 -> 波 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝6年1月4日,年紀,作者:大伴千室,賀歌,寿歌,大伴家持,宴席,古歌,伝誦
#[訓異]
#[大意]霜の上に霰が加わり飛び散るように、ますます自分は参り来よう。年月長くいつまでも
#{語釈]
氏人等賀(ほ)き集(つど)ひて 家持が氏上であったかどうかは疑問
大伴宗家の嫡首としての位置はあるが、叔父稲公、駿河麻呂、胡麻呂らの年長者がいる。

霜の上に霰た走り 一面に霰が飛び散り、加わる いや増しの序

参ゐ来む 仕えるという臣下の気持ちを伝えることで主人を言祝ぐ

古今未詳 歌の新旧はわからない 千室の創作か、伝誦歌かは不明の意

大伴宿祢千室 伝未詳

#[説明]
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#[番号]20/4299
#[題詞](六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首)
#[原文]年月波 安良多々々々尓 安比美礼騰 安我毛布伎美波 安伎太良奴可母 [古今未詳]
#[訓読]年月は新た新たに相見れど我が思ふ君は飽き足らぬかも [古今未詳]
#[仮名],としつきは,あらたあらたに,あひみれど,あがもふきみは,あきだらぬかも
#[左注]右一首民部少丞大伴宿祢村上
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年1月4日,年紀,作者:大伴村上,賀歌,寿歌,古歌,伝誦,宴席,主人讃美,大伴家持
#[訓異]
#[大意]年月は新しくなり、そのように改まるごとにお目にかかるが、自分が大事に思う君は見飽きることがない
#{語釈]
年月は新た新たに 年月が新しくなるたびに、

大伴宿祢村上 系譜未詳 宝亀二年 従五位下肥後介 翌三年阿波守
1436、1437 4262、3

#[説明]
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#[番号]20/4300
#[題詞](六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首)
#[原文]可須美多都 春初乎 家布能其等 見牟登於毛倍波 多努之等曽毛布
#[訓読]霞立つ春の初めを今日のごと見むと思へば楽しとぞ思ふ
#[仮名],かすみたつ,はるのはじめを,けふのごと,みむとおもへば,たのしとぞもふ
#[左注]右一首左京少進大伴宿祢池主
#[校異]波 [元](塙) 婆
#[鄣W],天平勝宝6年1月4日,年紀,作者:大伴池主,宴席,賀歌,寿歌
#[訓異]
#[大意]霞の立つ春の初めを今日のように見ようと思うと楽しいと思うことだ
#{語釈]
今日のごと かくしこそ 宴の臨場表現

楽し 宴の語
05/0815H01正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ
05/0832H01梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし
05/0833H01年のはに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ
06/1015H01玉敷きて待たましよりはたけそかに来る今夜し楽しく思ほゆ
09/1753H07今日の楽しさ
17/3905H01遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざしてば思ひなみかも
18/4047H01垂姫の浦を漕ぎつつ今日の日は楽しく遊べ言ひ継ぎにせむ
18/4071H01しなざかる越の君らとかくしこそ柳かづらき楽しく遊ばめ

#[説明]
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#[番号]20/4301
#[題詞]七日天皇太上天皇皇大后<在>於東常宮南大殿肆宴歌一首
#[原文]伊奈美野乃 安可良我之波々 等伎波安礼騰 伎美乎安我毛布 登伎波佐祢奈之
#[訓読]印南野の赤ら柏は時はあれど君を我が思ふ時はさねなし
#[仮名],いなみのの,あからがしはは,ときはあれど,きみをあがもふ,ときはさねなし
#[左注]右一首播磨國守安宿王奏 [古今未詳]
#[校異]<> -> 在 [元]
#[鄣W],天平勝宝6年1月7日,年紀,作者:安宿王,古歌,伝誦,宮廷,肆宴,宴席,孝謙天皇,聖武天皇,光明皇后,地名,兵庫,植物,忠誠
#[訓異]
#[大意]印南野の赤い柏の用いるのは時節があるが、あなたを自分が思う時に区別はなく、いつも思っている
#{語釈]
東常宮南大殿 続紀 同日 天皇、東院に御して五位以上を宴す
天皇 孝謙天皇
太上天皇 聖武
皇太后 光明子

印南野 播磨国播州平野西部
06/0935D01三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
06/0938H01やすみしし 我が大君の 神ながら 高知らせる 印南野の 大海の原の
06/0940H01印南野の浅茅押しなべさ寝る夜の日長くしあれば家し偲はゆ
07/1178H01印南野は行き過ぎぬらし天伝ふ日笠の浦に波立てり見ゆ
07/1179H01家にして我れは恋ひむな印南野の浅茅が上に照りし月夜を
09/1772H01後れ居て我れはや恋ひむ印南野の秋萩見つつ去なむ子故に

赤ら柏 柏の葉を乾燥させて赤くなったもの。食物を包んだり盛る

時はあれど 時節というものがあるが
大炊寮式宴会雑給 葉椀の使用 五月五日青柏 七月二五日 荷葉(はちすば) 余節干柏

用いられるのに季節がある

さねなし さね 一向に 決して 区別はない いつも思っているの意

磨國守安宿王 長屋王の子 母は不比等の娘
長屋王自刃の時も死を免れる
天平九年 従五位下
天平勝宝三年 正四位下
五年 播磨守
天平宝字元年 橘奈良麻呂の変 佐渡に妻子とともに配流
宝亀四年 高階真人の姓

#[説明]
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#[番号]20/4302
#[題詞]三月十九日家持之庄門槻樹下宴飲歌二首
#[原文]夜麻夫伎波 奈埿都々於保佐牟 安里都々母 伎美伎麻之都々 可射之多里家利
#[訓読]山吹は撫でつつ生ほさむありつつも君来ましつつかざしたりけり
#[仮名],やまぶきは,なでつつおほさむ,ありつつも,きみきましつつ,かざしたりけり
#[左注]右一首置始連長谷
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年3月19日,年紀,作者:置始長谷,宴席,植物,大伴家持,主人讃美
#[訓異]
#[大意]山吹は大事にして育てましょう。ずっとこのままであなたが来られ続けかざしにされていることだ
#{語釈]
家持之庄 家持の領有地 所在地未詳 或いは跡見庄か、竹田庄

山吹
17/3968H01鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも
17/3971H01山吹の茂み飛び潜く鴬の声を聞くらむ君は羨しも
17/3974H01山吹は日に日に咲きぬうるはしと我が思ふ君はしくしく思ほゆ
17/3976H01咲けりとも知らずしあらば黙もあらむこの山吹を見せつつもとな
19/4184H01山吹の花取り持ちてつれもなく離れにし妹を偲ひつるかも
19/4185H02折りも折らずも 見るごとに 心なぎむと 茂山の 谷辺に生ふる 山吹を
19/4186H01山吹を宿に植ゑては見るごとに思ひはやまず恋こそまされ
19/4197H01妹に似る草と見しより我が標し野辺の山吹誰れか手折りし
20/4302H01山吹は撫でつつ生ほさむありつつも君来ましつつかざしたりけり
20/4303H01我が背子が宿の山吹咲きてあらばやまず通はむいや年の端に
20/4304H01山吹の花の盛りにかくのごと君を見まくは千年にもがも

撫でつつ生ほさむ 愛情込めて撫でて生育させましょう

ありつつも ずっとこのままの状態を続けている
02/0087H01ありつつも君をば待たむうち靡く我が黒髪に霜の置くまでに
03/0324H02いや継ぎ継ぎに 玉葛 絶ゆることなく ありつつも やまず通はむ
04/0529H01佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来たらば立ち隠るがね
07/1291H01この岡に草刈るわらはなしか刈りそねありつつも君が来まさば御馬草にせむ
10/2300H01九月の有明の月夜ありつつも君が来まさば我れ恋ひめやも
11/2363H01岡の崎廻みたる道を人な通ひそありつつも君が来まさむ避き道にせむ
11/2671H01今夜の有明月夜ありつつも君をおきては待つ人もなし
14/3360H01伊豆の海に立つ白波のありつつも継ぎなむものを乱れしめめや
14/3428H01安達太良の嶺に伏す鹿猪のありつつも我れは至らむ寝処な去りそね
19/4228H01ありつつも見したまはむぞ大殿のこの廻りの雪な踏みそね
20/4302H01山吹は撫でつつ生ほさむありつつも君来ましつつかざしたりけり

置始連長谷 伝未詳 8/1594左注
全註釈 この当時、家持の荘園の管理係をしていたか

#[説明]
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#[番号]20/4303
#[題詞](三月十九日家持之庄門槻樹下宴飲歌二首)
#[原文]和我勢故我 夜度乃也麻夫伎 佐吉弖安良婆 也麻受可欲波牟 伊夜登之能波尓
#[訓読]我が背子が宿の山吹咲きてあらばやまず通はむいや年の端に
#[仮名],わがせこが,やどのやまぶき,さきてあらば,やまずかよはむ,いやとしのはに
#[左注]右一首長谷攀花提壷到来 因是大伴宿祢家持作此歌和之
#[校異]壷 [西(右書)] 壷酒
#[鄣W],天平勝宝6年3月19日,年紀,作者:大伴家持,植物,宴席,賀歌,和歌,置始長谷
#[訓異]
#[大意]あなたの宿の山吹が咲いているならば、ずっと通おう。毎年毎年。
#{語釈]
長谷、花を攀(よ)じ、壷を提(ささ)げて到来す。是に因りて大伴宿祢家持此の歌を作りて和(こた)ふ
#[説明]
相聞発想の歌

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#[番号]20/4304
#[題詞]同月廿五日左大臣橘卿宴于山田御母之宅歌一首
#[原文]夜麻夫伎乃 花能左香利尓 可久乃其等 伎美乎見麻久波 知登世尓母我母
#[訓読]山吹の花の盛りにかくのごと君を見まくは千年にもがも
#[仮名],やまぶきの,はなのさかりに,かくのごと,きみをみまくは,ちとせにもがも
#[左注]右一首少納言大伴宿祢家持矚時花作 但未出之間大臣罷宴而不<擧>誦耳
#[校異]攀 -> 擧 [温][矢][京]
#[鄣W],天平勝宝6年3月25日,年紀,作者:大伴家持,宴席,橘諸兄,山田比売島,植物,賀歌,寿歌,主人讃美,属目,不誦
#[訓異]
#[大意]山吹の花の盛りにこのように君をみることは千年でもありたいものだ
#{語釈]
山田御母 やまだのみおも 母 おも 4376
御母 乳母 12/2925
山田史日女島 孝謙天皇の乳母
天平勝宝元年 孝謙即位 従五位下
七年 同族六人と山田御井宿禰姓
その後まもなく卒
奈良麻呂の変で、御母の名前および宿禰姓を剥奪

時の花を矚(み)て作る。但し未だ出ださざる間に、大臣宴を罷めて、擧げ誦まざるのみ

#[説明]
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#[番号]20/4305
#[題詞]詠霍公鳥歌一首
#[原文]許乃久礼能 之氣伎乎乃倍乎 保等登藝須 奈伎弖故由奈理 伊麻之久良之母
#[訓読]木の暗の茂き峰の上を霍公鳥鳴きて越ゆなり今し来らしも
#[仮名],このくれの,しげきをのへを,ほととぎす,なきてこゆなり,いましくらしも
#[左注]右一首四月大伴宿祢家持作
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年4月,年紀,作者:大伴家持,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]木が繁って暗がりになっている峰のあたりを霍公鳥が鳴いて越えている。今来たらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4306
#[題詞]七夕歌八首
#[原文]波都秋風 須受之伎由布弊 等香武等曽 比毛波牟須妣之 伊母尓安波牟多米
#[訓読]初秋風涼しき夕解かむとぞ紐は結びし妹に逢はむため
#[仮名],はつあきかぜ,すずしきゆふへ,とかむとぞ,ひもはむすびし,いもにあはむため
#[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠
#[訓異]
#[大意]初めての秋風が涼しい夕方にほどこうとして紐は結んだのだ。妹に逢うために
#{語釈]
#[説明]
彦星の立場で歌ったもの

#[関連論文]


#[番号]20/4307
#[題詞](七夕歌八首)
#[原文]秋等伊閇婆 許己呂曽伊多伎 宇多弖家尓 花仁奈蘇倍弖 見麻久保里香聞
#[訓読]秋と言へば心ぞ痛きうたて異に花になそへて見まく欲りかも
#[仮名],あきといへば,こころぞいたき,うたてけに,はなになそへて,みまくほりかも
#[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠
#[訓異]
#[大意]秋というと心が痛い。格別に花にたとえて逢いたいと思うからかなあ
#{語釈]
うたて異に うたて 一般の人や自分の気持ちと異なる場合の語。異常に ますます
格別に 不思議に

花になそへて見まく欲りかも 織女を秋の花に重ねる なでしこ、女郎花など

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4308
#[題詞](七夕歌八首)
#[原文]波都乎婆奈 <々々>尓見牟登之 安麻乃可波 弊奈里尓家良之 年緒奈我久
#[訓読]初尾花花に見むとし天の川へなりにけらし年の緒長く
#[仮名],はつをばな,はなにみむとし,あまのがは,へなりにけらし,としのをながく
#[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)
#[校異]波名 -> 々々 [元]
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠,植物
#[訓異]
#[大意]初尾花の初めての珍しい花として見ようとして天の川が隔たっているらしい。年月ずっと長く
#{語釈]
初尾花 花にかかる枕詞

花に見むとし 初めて咲く花として見よう 新鮮な気持ちで逢おうの意

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4309
#[題詞](七夕歌八首)
#[原文]秋風尓 奈妣久可波備能 尓故具左能 尓古餘可尓之母 於毛保由流香母
#[訓読]秋風に靡く川辺のにこ草のにこよかにしも思ほゆるかも
#[仮名],あきかぜに,なびくかはびの,にこぐさの,にこよかにしも,おもほゆるかも
#[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠,植物
#[訓異]
#[大意]秋風に靡く川辺の柔らかい草ではいが、(間もなく逢うと思うと)にこにことうれしく思われてならないことだ
#{語釈]
川辺 原文「可波備」 かはび 6/1001 はまび 17/3937 やまび 3946 おかび

にこ草 柔らかい草 14/3370 シダ類うらぼし科はこねそう ゆり科あまどころ

にこよか にこにこと ほほえましく

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4310
#[題詞](七夕歌八首)
#[原文]安吉佐礼婆 奇里多知和多流 安麻能河波 伊之奈弥於可<婆> 都藝弖見牟可母
#[訓読]秋されば霧立ちわたる天の川石並置かば継ぎて見むかも
#[仮名],あきされば,きりたちわたる,あまのがは,いしなみおかば,つぎてみむかも
#[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)
#[校異]波 -> 婆 [元][類][細]
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠
#[訓異]
#[大意]秋になると霧が立ちこめる。天の川に飛び石を置いたならば続けて会えるだろうか
#{語釈]
霧立ちわたる 霧を人目に立たないように逢うもの
七夕 10/2035 家持 19/4163

石並 飛び石

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4311
#[題詞](七夕歌八首)
#[原文]秋風尓 伊麻香伊麻可等 比母等伎弖 宇良麻知乎流尓 月可多夫伎奴
#[訓読]秋風に今か今かと紐解きてうら待ち居るに月かたぶきぬ
#[仮名],あきかぜに,いまかいまかと,ひもときて,うらまちをるに,つきかたぶきぬ
#[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠
#[訓異]
#[大意]秋風に今来るか今来るかと衣の紐を解いて心待ちにしているのに月が傾いてきたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4312
#[題詞](七夕歌八首)
#[原文]秋草尓 於久之良都由能 安可受能未 安比見流毛乃乎 月乎之麻多牟
#[訓読]秋草に置く白露の飽かずのみ相見るものを月をし待たむ
#[仮名],あきくさに,おくしらつゆの,あかずのみ,あひみるものを,つきをしまたむ
#[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠
#[訓異]
#[大意]秋草に置く白露ではないが飽き足りないで共に見るものであるのに、もう別れる時になってしまって、次の七夕の月を待とう
#{語釈]
秋草に置く白露の 見ても見飽きることがないということで飽くの序詞

月をし待たむ 次の七夕の月を待つ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4313
#[題詞](七夕歌八首)
#[原文]安乎奈美尓 蘇弖佐閇奴礼弖 許具布祢乃 可之布流保刀尓 左欲布氣奈武可
#[訓読]青波に袖さへ濡れて漕ぐ舟のかし振るほとにさ夜更けなむか
#[仮名],あをなみに,そでさへぬれて,こぐふねの,かしふるほとに,さよふけなむか
#[左注]右大伴宿祢家持獨仰天海作之
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年7月7日,年紀,作者:大伴家持,七夕,独詠
#[訓異]
#[大意]青波に袖までも濡れて漕ぐ船をつなぎ止める杭を振り立てている間に夜が更けるだろうか
#{語釈]
かし 船を係留するための杭
07/1190H01舟泊ててかし振り立てて廬りせむ名児江の浜辺過ぎかてぬかも

#[説明]
獨仰天海 七夕宴などでの歌ではないことを示す

#[関連論文]


#[番号]20/4314
#[題詞]
#[原文]八千種尓 久佐奇乎宇恵弖 等伎其等尓 佐加牟波奈乎之 見都追思<努>波奈
#[訓読]八千種に草木を植ゑて時ごとに咲かむ花をし見つつ偲はな
#[仮名],やちくさに,くさきをうゑて,ときごとに,さかむはなをし,みつつしのはな
#[左注]右一首同月廿八日大伴宿祢家持作之
#[校異]怒 -> 努 [元][類][細]
#[鄣W],天平勝宝6年7月28日,年紀,作者:大伴家持,植物
#[訓異]
#[大意]何種類もの草木を植えて時節ごとに咲くであろう花を見ながら賞美することにしよう
#{語釈]
#[説明]
題詞がない。伊藤博 ○×構造として原資料の構造と見る

#[関連論文]


#[番号]20/4315
#[題詞]
#[原文]宮人乃 蘇泥都氣其呂母 安伎波疑尓 仁保比与呂之伎 多加麻刀能美夜
#[訓読]宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高圓の宮
#[仮名],みやひとの,そでつけごろも,あきはぎに,にほひよろしき,たかまとのみや
#[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年,年紀,作者:大伴家持,植物,独詠,地名,高円,奈良,宮廷
#[訓異]
#[大意]宮人の袖を付けた衣が秋萩に美しく照り映えている高円の宮であることだ
#{語釈]
袖付け衣 袖のない肩衣に対する袖のある衣。特に袖口を別布で縫いつける端袖のある衣
官服

高圓の宮 聖武天皇高円離宮

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4316
#[題詞]
#[原文]多可麻刀能 宮乃須蘇未乃 努都可佐尓 伊麻左家流良武 乎美奈弊之波母
#[訓読]高圓の宮の裾廻の野づかさに今咲けるらむをみなへしはも
#[仮名],たかまとの,みやのすそみの,のづかさに,いまさけるらむ,をみなへしはも
#[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年,年紀,作者:大伴家持,独詠,高円,植物,地名,宮廷,奈良
#[訓異]
#[大意]高円の宮の廻りの小高い丘に今盛んに咲いているであろう女郎花はなあ
#{語釈]
野づかさ 小高い丘 4/529

#[説明]
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#[番号]20/4317
#[題詞]
#[原文]秋野尓波 伊麻己曽由可米 母能乃布能 乎等古乎美奈能 波奈尓保比見尓
#[訓読]秋野には今こそ行かめもののふの男女の花にほひ見に
#[仮名],あきのには,いまこそゆかめ,もののふの,をとこをみなの,はなにほひみに
#[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年,年紀,作者:大伴家持,高円,宮廷,奈良,独詠
#[訓異]
#[大意]秋野には今こそ行こう。宮仕えする男や女の花のように着飾って美しい姿を見に
#{語釈]
もののふの 宮仕えする官人

花にほひ 花のように照り映えて美しい姿

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4318
#[題詞]
#[原文]安伎能野尓 都由於弊流波疑乎 多乎良受弖 安多良佐可里乎 須<具>之弖牟登香
#[訓読]秋の野に露負へる萩を手折らずてあたら盛りを過ぐしてむとか
#[仮名],あきののに,つゆおへるはぎを,たをらずて,あたらさかりを,すぐしてむとか
#[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)
#[校異]其 -> 具 [元][類][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝6年,年紀,作者:大伴家持,植物,高円,宮廷,奈良,独詠
#[訓異]
#[大意]秋の野に露を負って咲いている萩を手折らないで、惜しい盛りを過ごそうというのだろうか
#{語釈]
露負へる萩 露が萩の花を咲かせる
08/1605H01高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも
10/2116H01白露に争ひかねて咲ける萩散らば惜しけむ雨な降りそね

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4319
#[題詞]
#[原文]多可麻刀能 秋野乃宇倍能 安佐疑里尓 都麻欲夫乎之可 伊泥多都良牟可
#[訓読]高圓の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ壮鹿出で立つらむか
#[仮名],たかまとの,あきののうへの,あさぎりに,つまよぶをしか,いでたつらむか
#[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)
#[校異]牟 [元][類] 武
#[鄣W],天平勝宝6年,年紀,作者:大伴家持,動物,地名,高円,奈良,宮廷,独詠
#[訓異]
#[大意]高円の秋の野のあたりの朝霧に妻を呼ぶ牡鹿は今頃は出て立っているだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]20/4320
#[題詞]
#[原文]麻須良男乃 欲妣多天思加婆 左乎之加能 牟奈和氣由加牟 安伎野波疑波良
#[訓読]大夫の呼び立てしかばさを鹿の胸別け行かむ秋野萩原
#[仮名],ますらをの,よびたてしかば,さをしかの,むなわけゆかむ,あきのはぎはら
#[左注]右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝6年,年紀,作者:大伴家持,独詠,高円,奈良,宮廷,動物,植物
#[訓異]
#[大意]大夫が呼び立てるので牡鹿が胸で押し分けて行くであろう秋野の萩原であることだ

#{語釈]
#[説明]
高円野での狩のイメージしている

#[関連論文]


#[番号]20/4321
#[題詞]天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌
#[原文]可之古伎夜 美許等加我布理 阿須由利也 加曳<我>牟多祢<牟> 伊牟奈之尓志弖
#[訓読]畏きや命被り明日ゆりや草がむた寝む妹なしにして
#[仮名],かしこきや,みことかがふり,あすゆりや,かえがむたねむ,いむなしにして
#[左注]右一首國造丁長下郡物部秋持 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)
#[校異]我伊 -> 我 [元][古] / 乎 -> 牟 [元][類][古]
#[鄣W],天平勝宝7年2月6日,年紀,作者:物部秋持,防人歌,恋情,静岡,坂本人上
#[訓異]
#[大意]恐れ多くも御命令を承って明日からは草とともに寝よう。妹もいなくって
#{語釈]
畏きや 恐れ多い
かがふり  被って
かえ  草
國造丁  国造の正丁
国造の家からでた防人。防人として最上位。国造は大化改新以前の地方長官。
    改新後は多くは郡司
長下郡 静岡県浜名郡、磐田郡 浜名湖東から天竜川に至る地域
物部秋持  伝未詳
#[説明]
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#[番号]20/4322
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我都麻波 伊多久古<非>良之 乃牟美豆尓 加其佐倍美曳弖 余尓和須良礼受
#[訓読]我が妻はいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えてよに忘られず
#[仮名],わがつまは,いたくこひらし,のむみづに,かごさへみえて,よにわすられず
#[左注]右一首主帳丁麁玉郡若倭部身麻呂 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)
#[校異]比 -> 非 [元]
#[鄣W],天平勝宝7年2月6日,年紀,作者:若倭部身麻呂,防人歌,静岡,坂本人上,恋情
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]我が妻はひどく恋い思うらしい。飲む水に姿さえも映って、ちっとも忘れることが出来ない
よに忘られず よに ちっとも けっして
主帳丁 主計の家から出た正丁 庶務、会計
麁玉郡(あらたま) 静岡県浜松市付近
若倭部身麻呂  伝未詳

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4323
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]等伎騰吉乃 波奈波佐家登母 奈尓須礼曽 波々登布波奈乃 佐吉泥己受祁牟
#[訓読]時々の花は咲けども何すれぞ母とふ花の咲き出来ずけむ
#[仮名],ときどきの,はなはさけども,なにすれぞ,ははとふはなの,さきでこずけむ
#[左注]右一首防人山名郡丈部真麻呂 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月6日,年紀,作者:丈部真麻呂,防人歌,恋情,静岡,坂本人上
#[訓異]
#[大意]その時その時の花は咲くけれども、どうして母という花が咲き出してこなかったのだろう
#{語釈]
時々の その時その時夫 四季折々の
山名郡 静岡県磐田市から袋井市
丈部真麻呂 伝未詳

#[説明]
類道歌
野中川原史満
本毎に花は咲けども何とかもうつくし妹がまた咲き出来ぬ

#[関連論文]

#[番号]20/4324
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]等倍多保美 志留波乃伊宗等 尓閇乃宇良等 安比弖之阿良<婆> 己等母加由波牟
#[訓読]遠江志留波の礒と尓閇の浦と合ひてしあらば言も通はむ
#[仮名],とへたほみ,しるはのいそと,にへのうらと,あひてしあらば,こともかゆはむ
#[左注]右一首同郡丈部川相 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)
#[校異]波 -> 婆 [元][細][温]
#[鄣W],天平勝宝7年2月6日,年紀,作者:丈部川相,防人歌,恋情,静岡,坂本人上,地名
#[訓異]
#[大意]遠江の志留波の礒と尓閇の浦が近くだったら言葉だけでも通おうものなのに
#{語釈]
志留波の礒、尓閇の浦 いずれも所在未詳 志留波の礒は作者の故郷。尓閇の浦は今通過している場所か。

#[説明]
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#[番号]20/4325
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]知々波々母 波奈尓母我毛夜 久佐麻久良 多妣波由久等母 佐々己弖由加牟
#[訓読]父母も花にもがもや草枕旅は行くとも捧ごて行かむ
#[仮名],ちちははも,はなにもがもや,くさまくら,たびはゆくとも,ささごてゆかむ
#[左注]右一首佐野郡丈部黒當 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月6日,年紀,作者:丈部黒當,防人歌,静岡,坂本人上,恋情,望郷,枕詞
#[訓異]
#[大意]父母は花であって欲しい。そうすれば草枕の旅に行くとしても捧げ持って行こうものなのに
#{語釈]
佐野郡 静岡県掛川市一帯
丈部黒當  クロマサ 伝未詳

#[説明]
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#[番号]20/4326
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]父母我 等能々志利弊乃 母々余具佐 母々与伊弖麻勢 和我伎多流麻弖
#[訓読]父母が殿の後方のももよ草百代いでませ我が来るまで
#[仮名],ちちははが,とののしりへの,ももよぐさ,ももよいでませ,わがきたるまで
#[左注]右一首同郡生玉部足國 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月6日,年紀,作者:生玉部足國,防人歌,静岡,坂本人上,恋情,植物,序詞,望郷
#[訓異]
#[大意]父母が住む家に生えている百代草ではないが、いつまでもいてください。自分が帰ってくるまで。
#{語釈]
百代草 未詳  花びらの多い菊のようなものか
生玉部足國  いくたまべ  

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4327
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我都麻母 畫尓可伎等良無 伊豆麻母加 多<妣>由久阿礼<波> 美都々志努波牟
#[訓読]我が妻も絵に描き取らむ暇もが旅行く我れは見つつ偲はむ
#[仮名],わがつまも,ゑにかきとらむ,いつまもが,たびゆくあれは,みつつしのはむ
#[左注]右一首長下郡物部古麻呂 / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之
#[校異]比 -> 妣 [元] / 婆 -> 波 [類][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月6日,年紀,作者:物部古麻呂,防人歌,静岡,坂本人上,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]我が妻も絵に描き写す時間があればなあ。旅に行く自分は身ながら忍ぼうものなのに
#{語釈]
長下郡 4321左注 静岡県浜名郡、磐田郡 浜名湖東から天竜川に至る地域

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4328
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]於保吉美能 美許等可之古美 伊蘇尓布理 宇乃波良和多流 知々波々乎於伎弖
#[訓読]大君の命畏み磯に触り海原渡る父母を置きて
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,いそにふり,うのはらわたる,ちちははをおきて
#[左注]右一首助丁丈部造人麻呂 ( / 二月七日相模國防人部領使守従五位下藤原朝臣宿奈麻呂進歌數八首 但拙劣歌五首者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月7日,年紀,作者:丈部人麻呂,防人歌,望郷,恋情,神奈川,藤原宿奈麻呂
#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ謹んで磯づたいに海原を渡る。父母を残して
#{語釈]
助丁 国造丁に次ぐ地位。補佐役。主帳丁の上役
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4329
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]夜蘇久尓波 那尓波尓都度比 布奈可射里 安我世武比呂乎 美毛比等母我<毛>
#[訓読]八十国は難波に集ひ船かざり我がせむ日ろを見も人もがも
#[仮名],やそくには,なにはにつどひ,ふなかざり,あがせむひろを,みもひともがも
#[左注]右一首足下郡上丁丹比部國足 ( / 二月七日相模國防人部領使守従五位下藤原朝臣宿奈麻呂進歌數八首 但拙劣歌五首者不取載之)
#[校異]母 -> 毛 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月7日,年紀,作者:丹比部國足,防人歌,神奈川,藤原宿奈麻呂,地名,難波,大阪,恋情,出発,悲嘆
#[訓異]
#[大意]多くの国の防人は難波に集まって来るが、船出の支度を自分がする日を見る人がいたらなあ
#{語釈]
船飾り 出航の準備にあたって船を飾り付けること
    塗装などをやり直すことか
見も人 故郷の家人や恋人など
足下郡 神奈川県小田原市周辺
上丁  一般の兵士

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4330
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]奈尓波都尓 余曽比余曽比弖 氣布能<比>夜 伊田弖麻可良武 美流波々奈之尓
#[訓読]難波津に装ひ装ひて今日の日や出でて罷らむ見る母なしに
#[仮名],なにはつに,よそひよそひて,けふのひや,いでてまからむ,みるははなしに
#[左注]右一首鎌倉<郡>上丁丸子連多麻呂 / 二月七日相模國防人部領使守従五位下藤原朝臣宿奈麻呂進歌數八首 但拙劣歌五首者不取載之
#[校異]日 -> 比 [元][紀] / 部 -> 郡 [西(朱書訂正)][元][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月7日,年紀,作者:丸子多麻呂,防人歌,神奈川,藤原宿奈麻呂,恋情,悲嘆,出発
#[訓異]
#[大意]難波津で出航の準備で船の装備を調えて、今日の日に出発して筑紫に下る。見送る人はなくて
#{語釈]
鎌倉<郡> 鎌倉市のあたり

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4331
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)追痛防人悲別之心作歌一首[并短歌]
#[原文]天皇乃 等保能朝<廷>等 之良奴日 筑紫國波 安多麻毛流 於佐倍乃城曽等 聞食 四方國尓波 比等佐波尓 美知弖波安礼杼 登利我奈久 安豆麻乎能故波 伊田牟可比 加敝里見世受弖 伊佐美多流 多家吉軍卒等 祢疑多麻比 麻氣乃麻尓々々 多良知祢乃 波々我目可礼弖 若草能 都麻乎母麻可受 安良多麻能 月日餘美都々 安之我知流 難波能美津尓 大船尓 末加伊之自奴伎 安佐奈藝尓 可故等登能倍 由布思保尓 可知比伎乎里 安騰母比弖 許藝由久伎美波 奈美乃間乎 伊由伎佐具久美 麻佐吉久母 波夜久伊多里弖 大王乃 美許等能麻尓末 麻須良男乃 許己呂乎母知弖 安里米具<理> 事之乎波良<婆> 都々麻波受 可敝理伎麻勢登 伊波比倍乎 等許敝尓須恵弖 之路多倍能 蘇田遠利加敝之 奴婆多麻乃 久路加美之伎弖 奈我伎氣遠 麻知可母戀牟 波之伎都麻良波
#[訓読]大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国は 敵守る おさへの城ぞと 聞こし食す 四方の国には 人さはに 満ちてはあれど 鶏が鳴く 東男は 出で向ひ かへり見せずて 勇みたる 猛き軍士と ねぎたまひ 任けのまにまに たらちねの 母が目離れて 若草の 妻をも巻かず あらたまの 月日数みつつ 葦が散る 難波の御津に 大船に ま櫂しじ貫き 朝なぎに 水手ととのへ 夕潮に 楫引き折り 率ひて 漕ぎ行く君は 波の間を い行きさぐくみ ま幸くも 早く至りて 大君の 命のまにま 大夫の 心を持ちて あり廻り 事し終らば つつまはず 帰り来ませと 斎瓮を 床辺に据ゑて 白栲の 袖折り返し ぬばたまの 黒髪敷きて 長き日を 待ちかも恋ひむ 愛しき妻らは
#[仮名],おほきみの,とほのみかどと,しらぬひ,つくしのくには,あたまもる,おさへのきぞと,きこしをす,よものくにには,ひとさはに,みちてはあれど,とりがなく,あづまをのこは,いでむかひ,かへりみせずて,いさみたる,たけきいくさと,ねぎたまひ,まけのまにまに,たらちねの,ははがめかれて,わかくさの,つまをもまかず,あらたまの,つきひよみつつ,あしがちる,なにはのみつに,おほぶねに,まかいしじぬき,あさなぎに,かこととのへ,ゆふしほに,かぢひきをり,あどもひて,こぎゆくきみは,なみのまを,いゆきさぐくみ,まさきくも,はやくいたりて,おほきみの,みことのまにま,ますらをの,こころをもちて,ありめぐり,ことしをはらば,つつまはず,かへりきませと,いはひへを,とこへにすゑて,しろたへの,そでをりかへし,ぬばたまの,くろかみしきて,ながきけを,まちかもこひむ,はしきつまらは
#[左注](右二月八日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 庭 -> 廷 [元][細] / 里 -> 理 [元][類] / 波 -> 婆 [元][紀][温][矢]
#[鄣W],天平勝宝7年2月8日,年紀,作者:大伴家持,同情,防人歌,枕詞,地名,福岡
#[訓異]
#[大意]大君の遠くの朝廷としてしらぬひ筑紫の国は外敵を守る押さえの城だとして、お治めになる四方の国には人は大勢満ちてはいるが、鶏が鳴く東の国の男は出て向かい立って後ろを振り返り見はしないで勇ましい勇猛な兵士であるとお慰めになってご任じされるに従って、たらちねの母の目を離れて若草の妻も手枕として寝ず、あらたまの月日を数えながら、葦が散る難波の御津に大船に両舷に櫂をたくさん貫き、朝なぎに水夫を統率し、夕潮に楫を引き折れるばかりに動かし、引率して漕いで行く君は、波の間を行き押し分けて進み、無事であって早く行き着いて、大君のご命令に従って丈夫の心を持って、ずっとい続けて仕事が終わったら、障害なく帰っていらっしゃいと斎瓮を床のあたりに据えて白妙の袖を折り返して、ぬばたまの黒髪を敷いて長い日を待って恋い思っているだろうか。いとしい妻たちは

#{語釈]
さぐぐみ 波を押し分けて進む。 4/509
つつまはず 障害なく 差し障りなく
白栲の 袖折り返し 待ち人の帰りを待っている様子

#[説明]
防人に対する痛みの気持ちで歌う

#[関連論文]

#[番号]20/4332
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(追痛防人悲別之心作歌一首[并短歌])
#[原文]麻須良男能 由伎等里於比弖 伊田弖伊氣<婆> 和可礼乎乎之美 奈氣伎家牟都麻
#[訓読]大夫の靫取り負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ妻
#[仮名],ますらをの,ゆきとりおひて,いでていけば,わかれををしみ,なげきけむつま
#[左注](右二月八日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]波 -> 婆 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月8日,年紀,作者:大伴家持,悲別,同情,防人歌
#[訓異]
#[大意]丈夫の靫を取り背負って出征して行くと、別れが惜しいので嘆いたであろうよ。妻は。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4333
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(追痛防人悲別之心作歌一首[并短歌])
#[原文]等里我奈久 安豆麻乎等故能 都麻和可礼 可奈之久安里家牟 等之能乎奈我美
#[訓読]鶏が鳴く東壮士の妻別れ悲しくありけむ年の緒長み
#[仮名],とりがなく,あづまをとこの,つまわかれ,かなしくありけむ,としのをながみ
#[左注]右二月八日兵部少輔大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月8日,年紀,作者:大伴家持,枕詞,悲別,同情,防人歌
#[訓異]
#[大意]鶏が鳴く東男が妻と別れて悲しくあっただろう。別れてから年月が長いので。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4334
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]海原乎 等保久和多里弖 等之布等母 兒良我牟須敝流 比毛等久奈由米
#[訓読]海原を遠く渡りて年経とも子らが結べる紐解くなゆめ
#[仮名],うなはらを,とほくわたりて,としふとも,こらがむすべる,ひもとくなゆめ
#[左注](右九日大伴宿祢家持作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:大伴家持,悲別,同情,防人歌
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]海原を遠く渡って年月が経ったとしてもあの子が結んだ紐を解くなよ。決して。
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4335
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]今替 尓比佐伎母利我 布奈弖須流 宇奈波良乃宇倍尓 <奈>美那佐伎曽祢
#[訓読]今替る新防人が船出する海原の上に波なさきそね
#[仮名],いまかはる,にひさきもりが,ふなでする,うなはらのうへに,なみなさきそね
#[左注](右九日大伴宿祢家持作之)
#[校異]那 -> 奈 [元][類][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:大伴家持,出発,同情,防人歌,餞別
#[訓異]
#[大意]今交代する新任の防人が船出する海原の上に波が花が咲いたようにはなるなよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4336
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]佐吉母利能 保理江己藝豆流 伊豆手夫祢 可治<登>流間奈久 戀波思氣家牟
#[訓読]防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船楫取る間なく恋は繁けむ
#[仮名],さきもりの,ほりえこぎづる,いづてぶね,かぢとるまなく,こひはしげけむ
#[左注]右九日大伴宿祢家持作之
#[校異]等 -> 登 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:大伴家持,防人歌,恋情,同情,地名,難波,大阪#[訓異]
#[大意]防人の堀江を漕ぎ出る伊豆手船の楫を取る間もないように、恋は間断なく繁くあるだろう
#{語釈]
伊豆手船 伊豆で造った方式の船 防人の乗った船なので言うか。
     ま熊野の船、松浦船


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4337
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]美豆等<利>乃 多知能已蘇岐尓 父母尓 毛能波須價尓弖 已麻叙久夜志伎
#[訓読]水鳥の立ちの急ぎに父母に物言はず来にて今ぞ悔しき
#[仮名],みづとりの,たちのいそぎに,ちちははに,ものはずけにて,いまぞくやしき
#[左注]右一首上丁有度部牛麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]里 -> 利 [元][類][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:有度部牛麻呂,防人歌,植物,恋情,悲嘆,静岡,布勢人主
#[訓異]
#[大意]水鳥が飛び立つようなあわただしさで父母にものも言わないで出てきて今になって悔しいことである。
#{語釈]
#[説明]
類歌
14/2528
04/0503H01玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも
14/3361H01足柄のをてもこのもにさすわなのかなるましづみ子ろ我れ紐解く
14/3481H01あり衣のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来にて思ひ苦しも
20/4430H01荒し男のいをさ手挟み向ひ立ちかなるましづみ出でてと我が来る

滝川政治郎 防人は上番の者に限られる。徴兵予定日までは日数があった

#[関連論文]

#[番号]20/4338
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多々美氣米 牟良自加已蘇乃 波奈利蘇乃 波々乎波奈例弖 由久我加奈之佐
#[訓読]畳薦牟良自が礒の離磯の母を離れて行くが悲しさ
#[仮名],たたみけめ,むらじがいその,はなりその,ははをはなれて,ゆくがかなしさ
#[左注]右一首助丁生部道麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:生部道麻呂,防人歌,望郷,悲別,恋情,地名,静岡,布勢人主
#[訓異]
#[大意]たたみけめ牟良自が礒の陸から離れている磯ではないが、母から離れて行くのが悲しいことだ。
#{語釈]
たたみけめ たたみこもの訛り 係り方未詳
牟良自が礒 所在未詳

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4339
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]久尓米具留 阿等利加麻氣利 由伎米具利 加比利久麻弖尓 已波比弖麻多祢
#[訓読]国廻るあとりかまけり行き廻り帰り来までに斎ひて待たね
#[仮名],くにめぐる,あとりかまけり,ゆきめぐり,かひりくまでに,いはひてまたね
#[左注]右一首刑部虫麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]具 [元][類] 久
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:刑部虫麻呂,防人歌,静岡,布勢人主,動物,出発,羈旅,悲別
#[訓異]
#[大意]国を行きめぐるアトリやカマやケリのような渡り鳥のように行きめぐって、帰ってくるまでは精進潔斎して待っていてください
#{語釈]
あとり 燕雀目スズメ科のほおじろに似た青い色の渡り鳥
かま  鴨のこと
けり  倭名抄 鴨よりも小さめの「ケリ」

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4340
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]<等知>波々江 已波比弖麻多祢 豆久志奈流 美豆久白玉 等里弖久麻弖尓
#[訓読]父母え斎ひて待たね筑紫なる水漬く白玉取りて来までに
#[仮名],とちははえ,いはひてまたね,つくしなる,みづくしらたま,とりてくまでに
#[左注]右一首川原虫麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]知々 -> 等知 [元][類][古] / 江 [古] 波 / 豆 [類] 都
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:川原虫麻呂,防人歌,出発,悲別,羈旅,,静岡,布勢人主
#[訓異]
#[大意]父母よ。精進潔斎して待っていてください。筑紫にあるという海の底の白玉を取って帰って来るまでは
#{語釈]
父母え 父母よ の意

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4341
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多知波奈能 美袁利乃佐刀尓 父乎於伎弖 道乃長道波 由伎加弖<努>加毛
#[訓読]橘の美袁利の里に父を置きて道の長道は行きかてのかも
#[仮名],たちばなの,みをりのさとに,ちちをおきて,みちのながちは,ゆきかてのかも
#[左注]右一首丈部足麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]奴 -> 努 [元][類][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:丈部足麻呂,防人歌,静岡,布勢人主,植物,地名,望郷,出発,恋情,羈旅,悲別
#[訓異]
#[大意]橘の美袁利の里に父を置いて長い道のりは行くことが出来ないことだ
#{語釈]
橘の美袁利の里 所在未詳

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4342
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]麻氣波之良 寶米弖豆久礼留 等乃能其等 已麻勢波々刀自 於米加波利勢受
#[訓読]真木柱ほめて造れる殿のごといませ母刀自面変はりせず
#[仮名],まけばしら,ほめてつくれる,とののごと,いませははとじ,おめがはりせず
#[左注]右一首坂田部首麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]波 [元] 婆
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:坂田部首麻呂,防人歌,静岡,布勢人主,出発,羈旅,悲別
#[訓異]
#[大意]立派な柱を祝福して作った御殿のようにいつまでも達者でいてください。母刀自よ。お顔も変わらないで。
#{語釈]
真木柱 まきばしら 桧、杉などの良材で作った立派な柱
ほめて造れる 讃美して 祝福して 室ホギなどをして作った

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4343
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和呂多比波 多比等於米保等 已比尓志弖 古米知夜須良牟 和加美可奈志母
#[訓読]我ろ旅は旅と思ほど家にして子持ち痩すらむ我が妻愛しも
#[仮名],わろたびは,たびとおめほど,いひにして,こめちやすらむ,わがみかなしも
#[左注]右一首玉作部廣目 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:玉作部廣目,防人歌,恋情,悲別,,静岡,布勢人主
#[訓異]
#[大意]自分の旅はどうせ旅だと諦めもするが、家にあって子を持ってやつれ痩せるであろう我が妻がいとしいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4344
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和須良牟弖 努由伎夜麻由伎 和例久礼等 和我知々波々波 和須例勢努加毛
#[訓読]忘らむて野行き山行き我れ来れど我が父母は忘れせのかも
#[仮名],わすらむて,のゆきやまゆき,われくれど,わがちちははは,わすれせのかも
#[左注]右一首商長首麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:商長首麻呂,防人歌,静岡,布勢人主,悲別,恋情
#[訓異]
#[大意]忘れようとして野を行き山を行き自分はやって来たが、自分の父母のことは忘れることは出来ないことだ
#{語釈]
商長首麻呂  あきのをさのおびとまろ

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4345
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和伎米故等 不多利和我見之 宇知江須流 々々河乃祢良波 苦不志久米阿流可
#[訓読]我妹子と二人我が見しうち寄する駿河の嶺らは恋しくめあるか
#[仮名],わぎめこと,ふたりわがみし,うちえする,するがのねらは,くふしくめあるか
#[左注]右一首春日部麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:春日部麻呂,防人歌,地名,恋情,望郷,静岡,布勢人主
#[訓異]
#[大意]我妹子と二人で自分が見た波がうち寄せる駿河の嶺は恋しいことである
#{語釈]
駿河の嶺ら  富士山を指すか

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4346
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]知々波々我 可之良加伎奈弖 佐久安<例弖> 伊比之氣等<婆>是 和須礼加祢<豆>流
#[訓読]父母が頭掻き撫で幸くあれて言ひし言葉ぜ忘れかねつる
#[仮名],ちちははが,かしらかきなで,さくあれて,いひしけとはぜ,わすれかねつる
#[左注]右一首丈部稲麻呂 / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]礼天 -> 例弖 [元] / 波 -> 婆 [元][紀][細] / 津 -> 豆 [元]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:丈部稲麻呂,防人歌,望郷,恋情,静岡,布勢人主
#[訓異]
#[大意]父母が頭を掻き撫でて無事でいなさいと言った言葉を忘れることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4347
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]伊閇尓之弖 古非都々安良受波 奈我波氣流 多知尓奈里弖母 伊波非弖之加母
#[訓読]家にして恋ひつつあらずは汝が佩ける大刀になりても斎ひてしかも
#[仮名],いへにして,こひつつあらずは,ながはける,たちになりても,いはひてしかも
#[左注]右一首國造丁日下部使主三中之父歌 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:日下部三中父,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,出発,恋情,悲別
#[訓異]
#[大意]家にあって恋い続けてはいずに、あなたが佩いている太刀になってでも見守ってやりたい
#{語釈]
國造丁 4322 国造の家からでた防人。防人として最上位。国造は大化改新以前の地方長官。
    改新後は多くは郡司

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4348
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多良知祢乃 波々乎和加例弖 麻許等和例 多非乃加里保尓 夜須久祢牟加母
#[訓読]たらちねの母を別れてまこと我れ旅の仮廬に安く寝むかも
#[仮名],たらちねの,ははをわかれて,まことわれ,たびのかりほに,やすくねむかも
#[左注]右一首國造丁日下部使主三中 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:日下部三中,防人歌,枕詞,悲別,恋情,千葉,茨田沙弥麻呂,羈旅
#[訓異]
#[大意]たらちねの母と別れてほんとうに自分は旅の仮庵に安眠出来るのだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4349
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]毛母久麻能 美知波紀尓志乎 麻多佐良尓 夜蘇志麻須藝弖 和加例加由可牟
#[訓読]百隈の道は来にしをまたさらに八十島過ぎて別れか行かむ
#[仮名],ももくまの,みちはきにしを,またさらに,やそしますぎて,わかれかゆかむ
#[左注]右一首助丁刑部直三野 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:刑部三野,防人歌,羈旅,悲別,悲嘆,千葉,茨田沙弥麻呂
#[訓異]
#[大意]幾重にも曲がった道をやって来たのにまたさらに多くの島を過ぎて別れて行くのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4350
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]尓波奈加能 阿須波乃可美尓 古志波佐之 阿例波伊波々牟 加倍理久麻泥尓
#[訓読]庭中の阿須波の神に小柴さし我れは斎はむ帰り来までに
#[仮名],にはなかの,あすはのかみに,こしばさし,あれはいははむ,かへりくまでに
#[左注]右一首帳丁若麻續部諸人 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:若麻續部諸人,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,羈旅,手向け,神祭り
#[訓異]
#[大意]家の庭の中の阿須波の神に小さな柴の枝を指して自分は精進して無事を祈ろう。帰って来るまで
#{語釈]
阿須波の神 古事記 大年神の子 穀物神 屋敷神として祭っていたか
我 防人として出て行く人 後に残る妻かどちらとも言える
帳丁 主帳丁と同じか。

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4351
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多<妣>己呂母 夜倍伎可佐祢弖 伊努礼等母 奈保波太佐牟志 伊母尓<志>阿良祢婆
#[訓読]旅衣八重着重ねて寐のれどもなほ肌寒し妹にしあらねば
#[仮名],たびころも,やへきかさねて,いのれども,なほはださむし,いもにしあらねば
#[左注]右一首望陀郡上<丁>玉作部國忍 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]比 -> 妣 [元][類] / 倍 (塙) 都 [元] 部 / <> -> 志 [元][類] / 下 -> 丁 [元][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:玉作部國忍,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]旅の衣を幾重にも着重ねて寝るけれどもそれでも肌寒い。妹ではないので。
#{語釈]
望陀郡 千葉県君津市と木更津市にかけての所

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4352
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]美知乃倍乃 宇万良能宇礼尓 波保麻米乃 可良麻流伎美乎 波可礼加由加牟
#[訓読]道の辺の茨のうれに延ほ豆のからまる君をはかれか行かむ
#[仮名],みちのへの,うまらのうれに,はほまめの,からまるきみを,はかれかゆかむ
#[左注]右一首天羽郡上丁丈部鳥 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:丈部鳥,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,恋情,悲嘆,悲別
#[訓異]
#[大意]道のほとりの茨の木末に這っている豆のようにからみついているあなたなのに。別れて行くのだろうか
#{語釈]
天羽郡 富津市南部

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4353
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]伊倍加是波 比尓々々布氣等 和伎母古賀 伊倍其登母遅弖 久流比等母奈之
#[訓読]家風は日に日に吹けど我妹子が家言持ちて来る人もなし
#[仮名],いへかぜは,ひにひにふけど,わぎもこが,いへごともちて,くるひともなし
#[左注]右一首朝夷郡上丁丸子連大歳 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:丸子大歳,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]家の方からの風は毎日間位置に吹くけれども、我妹子の家からのたよりを持って来る人もいないことだ
#{語釈]
朝夷郡(あさひなぐん) 安房国東部中央  養老二年五月上総から平郡、安房、朝夷、長狭(ながさ)を割いて設置。天平十三年、上総に統合。天平勝宝九歳五月に安房国に戻る。この防人歌進上当時は、上総国

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4354
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多知許毛乃 多知乃佐和伎尓 阿比美弖之 伊母加己々呂波 和須礼世奴可母
#[訓読]たちこもの立ちの騒きに相見てし妹が心は忘れせぬかも
#[仮名],たちこもの,たちのさわきに,あひみてし,いもがこころは,わすれせぬかも
#[左注]右一首長狭郡上丁丈部与呂麻呂 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:丈部与呂麻呂,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,恋情,望郷,枕詞,動物
#[訓異]
#[大意]飛び立つ鴨のように出発の騒々しさの中でともに目を交わした妹の心は忘れることは出来ないことだ
#{語釈]
たちこもの 立つ鴨の訛り  立つの枕詞
長狭郡 千葉県鴨川市、安房郡の東北部

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4355
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]余曽尓能美 々弖夜和多良毛 奈尓波我多 久毛為尓美由流 志麻奈良奈久尓
#[訓読]よそにのみ見てや渡らも難波潟雲居に見ゆる島ならなくに
#[仮名],よそにのみ,みてやわたらも,なにはがた,くもゐにみゆる,しまならなくに
#[左注]右一首武射郡上丁丈部山代 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:丈部山代,防人歌,地名,難波,大阪,恋情,千葉,茨田沙弥麻呂
#[訓異]
#[大意]余所だとばかり見て渡って行くのだろうか。難波潟は雲居はるかに見える島だというわけではないのに
#{語釈]
武射郡 千葉県山武郡北部(下総国境近く)

#[説明]
難波潟は、故郷とは陸続きであり無関係な土地ではないのに、無関係に通過して行かなければならないのかという気持ち
#[関連論文]

#[番号]20/4356
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我波々能 蘇弖母知奈弖氐 和我可良尓 奈伎之許己呂乎 和須良延努可毛
#[訓読]我が母の袖もち撫でて我がからに泣きし心を忘らえのかも
#[仮名],わがははの,そでもちなでて,わがからに,なきしこころを,わすらえのかも
#[左注]右一首山邊郡上丁物部<乎>刀良 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]努 [元][温] 奴 / 手 -> 乎 [元][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:物部乎刀良,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,悲別,恋情
#[訓異]
#[大意]我が母が袖を持って自分の頭を撫でて、自分のために泣いた気落ちが忘れられないことだ
#{語釈]
山邊郡 千葉県山武郡、東金市の一部

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4357
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿之可伎能 久麻刀尓多知弖 和藝毛古我 蘇弖<母>志保々尓 奈伎志曽母波由
#[訓読]葦垣の隈処に立ちて我妹子が袖もしほほに泣きしぞ思はゆ
#[仮名],あしかきの,くまとにたちて,わぎもこが,そでもしほほに,なきしぞもはゆ
#[左注]右一首市原郡上丁刑部直千國 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]毛 -> 母 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:刑部千國,防人歌,千葉,茨田沙弥麻呂,悲別,恋情,出発,羈旅
#[訓異]
#[大意]葦の垣根の隅っこに立って我妹子が袖もぐっしょりと濡れて泣いたことが思われてならない
#{語釈]
市原郡 千葉県市原市 上総国府の所在地

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4358
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]於保伎美乃 美許等加志古美 伊弖久礼婆 和努等里都伎弖 伊比之古奈波毛
#[訓読]大君の命畏み出で来れば我の取り付きて言ひし子なはも
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,いでくれば,わのとりつきて,いひしこなはも
#[左注]右一首種淮郡上丁物部龍 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:物部龍,防人歌,恋情,悲別,出発,羈旅,千葉,茨田沙弥麻呂
#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ多く思って出て来ると、自分にとりすがって話をしたあの子はなあ。
#{語釈]
種淮郡(すゑぐん) 千葉県君津市、木更津市南部、富津市北部
    9/1738 高橋虫麻呂の須依の玉名の歌

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4359
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]都久之閇尓 敝牟加流布祢乃 伊都之加毛 都加敝麻都里弖 久尓々閇牟可毛
#[訓読]筑紫辺に舳向かる船のいつしかも仕へまつりて国に舳向かも
#[仮名],つくしへに,へむかるふねの,いつしかも,つかへまつりて,くににへむかも
#[左注]右一首長柄部上丁若麻續部<羊> / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]年 -> 羊 [西(朱書訂正)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],天平勝宝7年2月9日,年紀,作者:若麻續部羊,防人歌,悲嘆,千葉,茨田沙弥麻呂#[訓異]
#[大意]筑紫の方へ舳先を向けている船は、いつになったら勤めを終えて故郷の方に舳先を向けるのだろうか。
#{語釈]
長柄部 千葉県長生郡北部

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4360
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)陳私拙懐一首<[并短歌]>
#[原文]天皇乃 等保伎美与尓毛 於之弖流 難波乃久尓々 阿米能之多 之良志賣之伎等 伊麻能乎尓 多要受伊比都々 可氣麻久毛 安夜尓可之古志 可武奈我良 和其大王乃 宇知奈妣久 春初波 夜知久佐尓 波奈佐伎尓保比 夜麻美礼婆 見能等母之久 可波美礼婆 見乃佐夜氣久 母能其等尓 佐可由流等伎登 賣之多麻比 安伎良米多麻比 之伎麻世流 難波宮者 伎己之乎須 四方乃久尓欲里 多弖麻都流 美都奇能船者 保理江欲里 美乎妣伎之都々 安佐奈藝尓 可治比伎能保理 由布之保尓 佐乎佐之久太理 安治牟良能 佐和伎々保比弖 波麻尓伊泥弖 海原見礼婆 之良奈美乃 夜敝乎流我宇倍尓 安麻乎夫祢 波良々尓宇伎弖 於保美氣尓 都加倍麻都流等 乎知許知尓 伊射里都利家理 曽伎太久毛 於藝呂奈伎可毛 己伎婆久母 由多氣伎可母 許己見礼婆 宇倍之神代由 波自米家良思母
#[訓読]皇祖の 遠き御代にも 押し照る 難波の国に 天の下 知らしめしきと 今の緒に 絶えず言ひつつ かけまくも あやに畏し 神ながら 我ご大君の うち靡く 春の初めは 八千種に 花咲きにほひ 山見れば 見の羨しく 川見れば 見のさやけく ものごとに 栄ゆる時と 見したまひ 明らめたまひ 敷きませる 難波の宮は 聞こし食す 四方の国より 奉る 御調の船は 堀江より 水脈引きしつつ 朝なぎに 楫引き上り 夕潮に 棹さし下り あぢ群の 騒き競ひて 浜に出でて 海原見れば 白波の 八重をるが上に 海人小船 はららに浮きて 大御食に 仕へまつると をちこちに 漁り釣りけり そきだくも おぎろなきかも こきばくも ゆたけきかも ここ見れば うべし神代ゆ 始めけらしも
#[仮名],すめろきの,とほきみよにも,おしてる,なにはのくにに,あめのした,しらしめしきと,いまのをに,たえずいひつつ,かけまくも,あやにかしこし,かむながら,わごおほきみの,うちなびく,はるのはじめは,やちくさに,はなさきにほひ,やまみれば,みのともしく,かはみれば,みのさやけく,ものごとに,さかゆるときと,めしたまひ,あきらめたまひ,しきませる,なにはのみやは,きこしをす,よものくにより,たてまつる,みつきのふねは,ほりえより,みをびきしつつ,あさなぎに,かぢひきのぼり,ゆふしほに,さをさしくだり,あぢむらの,さわききほひて,はまにいでて,うなはらみれば,しらなみの,やへをるがうへに,あまをぶね,はららにうきて,おほみけに,つかへまつると,をちこちに,いざりつりけり,そきだくも,おぎろなきかも,こきばくも,ゆたけきかも,ここみれば,うべしかむよゆ,はじめけらしも
#[左注](右二月十三日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]<> -> 并短歌 [元][細][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年2月13日,年紀,作者:大伴家持,地名,難波,大阪,枕詞,大君讃美,都讃美
#[訓異]
#[大意]天皇の祖先の遠い昔の御代にも押し照る難波の国に天下を統治なさったと現代まで途絶えることなく言い伝えて、言葉にかけるのもまことに恐れ多い神さながらの我が大君の打ち靡く春の始めはたくさんの草に花が咲き香り、山を見ると心が引かれ、川を見るとさやかであり、それぞれのものが栄える時としてご覧になり心を明るくなさって、領有なさっている難波の宮は統治される四方の国から奉ってくる貢ぎ物の船は堀江から航跡を残しながら、朝のなぎに楫を引き上げて操りさかのぼって来て、夕方のなぎに船の楫棹を差して下り、あじ鴨の群れのように騒ぎ競い合って、浜に出て海原を見ると、白波の幾重にも重なっている中に、海人の小舟がぽつりぽつりと浮かんで、天皇のお食事に奉仕するとしてあちらこちらに漁をして釣っている。なんと広大であることか。こんなにもたいそう豊かであることか。そういったことを見るとなるほど神代の昔から始められたらしいことがよくわかることだ。
#{語釈]
見の羨しく  見るのに心が引かれる
はららに  はらはらに ぽつりぽつりとの意か
そきだくも そんなにも甚だしく  そこばくも
おぎろなきかも  おぎろは広大 なしは甚だしい 広大であることが甚だしい
こきばくも こんなにも甚だしく

#[説明]
防人のいる難波を太古の昔から大君の統治される所であり、栄えているとして褒め称えたもの

#[関連論文]

#[番号]20/4361
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳私拙懐一首<[并短歌]>)
#[原文]櫻花 伊麻佐可里奈里 難波乃海 於之弖流宮尓 伎許之賣須奈倍
#[訓読]桜花今盛りなり難波の海押し照る宮に聞こしめすなへ
#[仮名],さくらばな,いまさかりなり,なにはのうみ,おしてるみやに,きこしめすなへ
#[左注](右二月十三日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月13日,年紀,作者:大伴家持,地名,難波,大阪,植物,寿歌,大君讃美,都讃美
#[訓異]
#[大意]桜花は今盛りである。難波の海が波もなく照りわたっているように照りわたる宮でお治めになるごとに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4362
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳私拙懐一首<[并短歌]>)
#[原文]海原乃 由多氣伎見都々 安之我知流 奈尓波尓等之波 倍<奴>倍久於毛保由
#[訓読]海原のゆたけき見つつ葦が散る難波に年は経ぬべく思ほゆ
#[仮名],うなはらの,ゆたけきみつつ,あしがちる,なにはにとしは,へぬべくおもほゆ
#[左注]右二月十三日兵部少輔大伴宿祢家持
#[校異]努 -> 奴 [元]
#[鄣W],天平勝宝7年2月13日,年紀,作者:大伴家持,土地讃美,難波,地名,大阪,植物,大君讃美,寿歌
#[訓異]
#[大意]海原の豊かなのを見ながら、葦が散る難波で年は経ってしまいそうに思われる
#{語釈]
#[説明]
いつまでも難波を去ることが出来ないと言って、難波を讃美したもの
難波が防人集結の晴れと地として難波を讃美する

#[関連論文]

#[番号]20/4363
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]奈尓波都尓 美布祢於呂須恵 夜蘇加奴伎 伊麻波許伎奴等 伊母尓都氣許曽
#[訓読]難波津に御船下ろ据ゑ八十楫貫き今は漕ぎぬと妹に告げこそ
#[仮名],なにはつに,みふねおろすゑ,やそかぬき,いまはこぎぬと,いもにつげこそ
#[左注](右二首茨城郡若舎人部廣足) ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:若舎人部廣足,防人歌,地名,難波,大阪,茨城,息長国島,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]難波津に御舟を下ろし据えて、たくさんの楫を貫き、今は漕ぎ出したと妹に告げて欲しい
#{語釈]
下ろ据ゑ 新造したか修理した船を海に下ろして浮かべ据える
茨城郡 現在の新治郡、西茨城郡、東茨城郡 常陸国府のある場所
若舎人部廣足 伝未詳

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4364
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]佐伎牟理尓 多々牟佐和伎尓 伊敝能伊牟何 奈流<弊>伎己等乎 伊波須伎奴可母
#[訓読]防人に立たむ騒きに家の妹がなるべきことを言はず来ぬかも
#[仮名],さきむりに,たたむさわきに,いへのいむが,なるべきことを,いはずきぬかも
#[左注]右二首茨城郡若舎人部廣足 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]敝 -> 弊 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:若舎人部廣足,防人歌,茨城,息長国島,出発,悲別,後悔,羈旅
#[訓異]
#[大意]防人に出発する騒ぎで家の妹に生業のことを言わないで来たことだ
#{語釈]
#[説明]
なるべきこと  生業、農事のこと

#[関連論文]

#[番号]20/4365
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]於之弖流夜 奈尓波能<都由>利 布奈与曽比 阿例波許藝奴等 伊母尓都岐許曽
#[訓読]押し照るや難波の津ゆり船装ひ我れは漕ぎぬと妹に告ぎこそ
#[仮名],おしてるや,なにはのつゆり,ふなよそひ,あれはこぎぬと,いもにつぎこそ
#[左注](右二首信太郡物部道足) ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]津与 -> 都由 [元]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:物部道足,防人歌,地名,難波,大阪,望郷,恋情,茨城,息長国島
#[訓異]
#[大意]押し照るや難波の津より船を飾って自分は漕いで行ったと妹に告げて欲しい
#{語釈]
信太郡 茨城県竜ヶ崎市、稲敷郡東部

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4366
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]比多知散思 由可牟加里母我 阿我古比乎 志留志弖都祁弖 伊母尓志良世牟
#[訓読]常陸指し行かむ雁もが我が恋を記して付けて妹に知らせむ
#[仮名],ひたちさし,ゆかむかりもが,あがこひを,しるしてつけて,いもにしらせむ
#[左注]右二首信太郡物部道足 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:物部道足,防人歌,茨城,息長国島,地名,動物,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]常陸を指して行く雁もいればなあ。自分の恋い思う気持ちを書いて付けて妹に知らせようものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4367
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿我母弖能 和須例母之太波 都久波尼乎 布利佐氣美都々 伊母波之奴波尼
#[訓読]我が面の忘れもしだは筑波嶺を振り放け見つつ妹は偲はね
#[仮名],あがもての,わすれもしだは,つくはねを,ふりさけみつつ,いもはしぬはね
#[左注]右一首茨城郡占部子龍 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:占部子龍,防人歌,茨城,息長国島,地名,筑波,恋情,悲別,望郷
#[訓異]
#[大意]自分の顔を忘れるようなことがあった時は、筑波の嶺を振り仰いで見ながら妹は自分を思い出してくれ
#{語釈]
しだは 

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4368
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]久自我波々 佐氣久阿利麻弖 志富夫祢尓 麻可知之自奴伎 和波可敝里許牟
#[訓読]久慈川は幸くあり待て潮船にま楫しじ貫き我は帰り来む
#[仮名],くじがはは,さけくありまて,しほぶねに,まかぢしじぬき,わはかへりこむ
#[左注]右一首久慈郡丸子部佐壮 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:丸子部佐壮,防人歌,地名,恋情,茨城,息長国島
#[訓異]
#[大意]久慈川はそのままで待っていなさい。沖合を行くような大きな船に両舷に楫をいっぱいに付けて自分は帰って来ようから
#{語釈]
久慈川 茨城県久慈郡を通って那珂郡東海村境から太平洋に注ぐ川
潮船 潮の流れで航行している船。官船。 14/3450、3556
久慈郡  茨城県久慈郡、常陸太田市、日立市一帯

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4369
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]都久波祢乃 佐由流能波奈能 由等許尓母 可奈之家伊母曽 比留毛可奈之祁
#[訓読]筑波嶺のさ百合の花の夜床にも愛しけ妹ぞ昼も愛しけ
#[仮名],つくはねの,さゆるのはなの,ゆとこにも,かなしけいもぞ,ひるもかなしけ
#[左注](右二首那賀郡上丁大舎人部千文) ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:大舎人部千文,防人歌,茨城,息長国島,植物,恋情,望郷,序詞
#[訓異]
#[大意]筑波の嶺のさ百合の花の「ゆ」ではないがその夜の寝床にも愛しい妹であるが、昼も愛しいことだ
#{語釈]
さ百合の花の夜床 東国方言 夜は、ゆ 夜の寝床はゆどこ ゆりのゆと音の繰り返し

#[説明]
夜になると恋いこがれていた妹であるが、会えなくなって昼も恋しいといったもの
#[関連論文]

#[番号]20/4370
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿良例布理 可志麻能可美乎 伊能利都々 須米良美久佐尓 和例波伎尓之乎
#[訓読]霰降り鹿島の神を祈りつつ皇御軍に我れは来にしを
#[仮名],あられふり,かしまのかみを,いのりつつ,すめらみくさに,われはきにしを
#[左注]右二首那賀郡上丁大舎人部千文 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:大舎人部千文,防人歌,枕詞,地名,茨城,息長国島
#[訓異]
#[大意]霰が降ってかしましい音ではないが、鹿島の神を祈りながら天皇の兵士として自分はやって来たものなのに
#{語釈]
鹿島の神 鹿島神宮建御雷神
皇御軍 天皇の兵士
来にしを 来たものなのに、妻への恋しい気持ちが起こってならないの意が隠されている

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4371
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多知波奈乃 之多布久可是乃 可具波志伎 都久波能夜麻乎 古比須安良米可毛
#[訓読]橘の下吹く風のかぐはしき筑波の山を恋ひずあらめかも
#[仮名],たちばなの,したふくかぜの,かぐはしき,つくはのやまを,こひずあらめかも
#[左注]右一首助丁占部廣方 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:占部廣方,防人歌,植物,地名,茨城,息長国島,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]橘の木の下を吹く風がかぐわしい筑波の山を恋い思うにはいられないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4372
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿志加良能 美佐可多麻波理 可閇理美須 阿例波久江由久 阿良志乎母 多志夜波婆可流 不破乃世伎 久江弖和波由久 牟麻能都米 都久志能佐伎尓 知麻利為弖 阿例波伊波々牟 母呂々々波 佐祁久等麻乎須 可閇利久麻弖尓
#[訓読]足柄の み坂給はり 返り見ず 我れは越え行く 荒し夫も 立しやはばかる 不破の関 越えて我は行く 馬の爪 筑紫の崎に 留まり居て 我れは斎はむ 諸々は 幸くと申す 帰り来までに
#[仮名],あしがらの,みさかたまはり,かへりみず,あれはくえゆく,あらしをも,たしやはばかる,ふはのせき,くえてわはゆく,むまのつめ,つくしのさきに,ちまりゐて,あれはいははむ,もろもろは,さけくとまをす,かへりくまでに
#[左注]右一首倭文部可良麻呂 / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]十 [元][古] 廿
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:倭文部可良麻呂,防人歌,茨城,息長国島,地名,静岡,羈旅,道行き,手向け,寿歌
#[訓異]
#[大意]足柄の御坂を通していただいて後をふり返り見ることなく自分は越えて行く。荒々しい勇猛な男も立ち留まる険しい不破の関を越えて自分は行く。馬の爪がつきる筑紫の岬に留まっていて自分は身を清めて無事を祈ろう。故郷のみんなは無事でいてくれと神に申し上げる。帰って来るまでは。

#{語釈]
み坂給はり  坂の神に無事通していただく
馬の爪 筑紫の枕詞 馬の爪をすり減らして尽くすから来る。それほど遠いの意味
諸々は  故郷のみんな

#[説明]
主発の時の歌

#[関連論文]

#[番号]20/4373
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]祁布与利波 可敝里見奈久弖 意富伎美乃 之許乃美多弖等 伊埿多都和例波
#[訓読]今日よりは返り見なくて大君の醜の御楯と出で立つ我れは
#[仮名],けふよりは,かへりみなくて,おほきみの,しこのみたてと,いでたつわれは
#[左注]右一首火長今奉部与曽布 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:今奉部与曽布,防人歌,栃木,田口大戸,出発,壮行
#[訓異]
#[大意]今日からは振り返り見ることなく大君の醜い御楯として出立する。自分は。
#{語釈]
醜の御楯 いやしい 不格好な 自分を卑下して言ったもの
火長 10人を統括する役の人

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4374
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿米都知乃 可美乎伊乃里弖 佐都夜奴伎 都久之乃之麻乎 佐之弖伊久和例波
#[訓読]天地の神を祈りて猟矢貫き筑紫の島を指して行く我れは
#[仮名],あめつちの,かみをいのりて,さつやぬき,つくしのしまを,さしていくわれは
#[左注]右一首火長大田部荒耳 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]伊 [元] 由
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:大田部荒耳,防人歌,地名,壮行,出発,羈旅,栃木,田口大戸
#[訓異]
#[大意]天地の神を祈って幸矢を負って、筑紫の島を指して行く。自分は。
#{語釈]
猟矢貫き さつ矢は本来は狩猟用の矢。幸矢。ここでは戦闘用の征矢
     貫くは、ユキなどに矢を入れることか
#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4375
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]麻都能氣乃 奈美多流美礼波 伊波妣等乃 和例乎美於久流等 多々理之母己呂
#[訓読]松の木の並みたる見れば家人の我れを見送ると立たりしもころ
#[仮名],まつのけの,なみたるみれば,いはびとの,われをみおくると,たたりしもころ
#[左注]右一首火長物部真嶋 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]波 [紀][細][温] 婆
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:物部真嶋,防人歌,栃木,田口大戸,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]松の木の並んでいるのを見ると家の人が自分を見送るとして立っていたのとそっくりだ
#{語釈]
松の木の並みたる 難波津の松並木か 御津の浜松
もころ 如し 同じ そっくり

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4376
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多妣由<岐>尓 由久等之良受弖 阿母志々尓 己等麻乎佐受弖 伊麻叙久夜之氣
#[訓読]旅行きに行くと知らずて母父に言申さずて今ぞ悔しけ
#[仮名],たびゆきに,ゆくとしらずて,あもししに,ことまをさずて,いまぞくやしけ
#[左注]右一首寒川郡上丁川上<臣>老 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]伎 -> 岐 [元][類][古] / 叙 [元] 所 / 呂 -> 臣 [元][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:川上老,防人歌,後悔,出発,羈旅,悲別,恋情,栃木,田口大戸
#[訓異]
#[大意]旅に出発すると知らないで母や父に別れの言葉も言わないでいて今となっていは悔しいことだ
#{語釈]
寒川郡 栃木県下都賀郡南部 小山市、栃木市

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4377
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿母刀自母 多麻尓母賀母夜 伊多太伎弖 美都良乃奈可尓 阿敝麻可麻久母
#[訓読]母刀自も玉にもがもや戴きてみづらの中に合へ巻かまくも
#[仮名],あもとじも,たまにもがもや,いただきて,みづらのなかに,あへまかまくも
#[左注]右一首津守宿祢小黒栖 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:津守小黒栖,防人歌,栃木,田口大戸,恋情
#[訓異]
#[大意]母刀自も玉であればなあ。そうすればいた炊き持って美豆等の中に一緒に巻き付けようものなのに
#{語釈]
母刀自  あも 母

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4378
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]都久比夜波 須具波由氣等毛 阿母志々可 多麻乃須我多波 和須例西奈布母
#[訓読]月日やは過ぐは行けども母父が玉の姿は忘れせなふも
#[仮名],つくひやは,すぐはゆけども,あもししが,たまのすがたは,わすれせなふも
#[左注]右一首都賀郡上丁中臣部足國 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:中臣部足國,防人歌,恋情,望郷,栃木,田口大戸
#[訓異]
#[大意]月日は過ぎて行くが母や父のいとしい姿は割れることはないよ
#{語釈]
忘れせなふも なふ 否定 現代語 ない
都賀郡 栃木県上都賀、下都賀あたり。国府のあった所。

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4379
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]之良奈美乃 与曽流波麻倍尓 和可例奈波 伊刀毛須倍奈美 夜多妣蘇弖布流
#[訓読]白波の寄そる浜辺に別れなばいともすべなみ八度袖振る
#[仮名],しらなみの,よそるはまへに,わかれなば,いともすべなみ,やたびそでふる
#[左注]右一首足利郡上丁大舎人部祢麻呂 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]波 [元] 婆
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:大舎人部祢麻呂,防人歌,出発,別離,悲別,羈旅,栃木,田口大戸
#[訓異]
#[大意]白波の寄せるこの浜辺と別れてしまうならばどうしようもないので何度も袖を振って別れを哀しむことである。
#{語釈]
足利郡 栃木県足利市東南部、佐野市あたり

#[説明]
難波まではまだ故郷と地続きでつながっている思いがあったが、難波津を出航すると、いよいよ故郷遠く離れてしまうという思いを言ったもの。

#[関連論文]

#[番号]20/4380
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]奈尓波刀乎 己岐埿弖美例婆 可美佐夫流 伊古麻多可祢尓 久毛曽多奈妣久
#[訓読]難波津を漕ぎ出て見れば神さぶる生駒高嶺に雲ぞたなびく
#[仮名],なにはとを,こぎでてみれば,かみさぶる,いこまたかねに,くもぞたなびく
#[左注]右一首梁田郡上丁大田部三成 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:大田部三成,防人歌,地名,難波,大阪,叙景,出発,栃木,田口大戸
#[訓異]
#[大意]難波津を漕ぎ出て見ると神々しい生駒山の高嶺に雲がたなびいている
#{語釈]
梁田郡  栃木県足利市北西部
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4381
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]<久>尓<具尓>乃 佐岐毛利都度比 布奈能里弖 和可流乎美礼婆 伊刀母須敝奈之
#[訓読]国々の防人集ひ船乗りて別るを見ればいともすべなし
#[仮名],くにぐにの,さきもりつどひ,ふなのりて,わかるをみれば,いともすべなし
#[左注]右一首河内郡上丁神麻續部嶋麻呂 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]具 -> 久 [元][類][古] / 々々 -> 具尓 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:神麻續部嶋麻呂,防人歌,出発,羈旅,栃木,田口大戸
#[大意]国々の防人が集まって船に乗って別れるのを見るとなんともどうしようもないことだ
#{語釈]
河内郡 栃木県宇都宮市、河内郡の一部
#[説明]
先発して出航する防人を見送っている歌か。

#[関連論文]

#[番号]20/4382
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]布多富我美 阿志氣比等奈里 阿多由麻比 和我須流等伎尓 佐伎母里尓佐須
#[訓読]ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がする時に防人にさす
#[仮名],ふたほがみ,あしけひとなり,あたゆまひ,わがするときに,さきもりにさす
#[左注]右一首那須郡上丁大伴<部>廣成 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]<> -> 部 [類][古]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:大伴部廣成,防人歌,怨恨,栃木,田口大戸
#[訓異]
#[大意]布多富の長は悪い人である。急病を自分がする時に防人にさせる(国司は悪いひとだ。賄を自分がしたのに防人にさせるとは
#{語釈]
ふたほがみ 代匠紀 陰上(ほとがみ)の意味で腹のこと
      二腹も持った悪い人 二心ある人でそしる意
      万葉考 二面神 賄賂をとりながら防人にさせる国司
      全註釈 和名抄 下野国都賀郡 布多
          ほがみ 一番目立つ所
      布多の国府 国司の意
      全註 ふたほ は布多富であり地名 布多富の上で里長か

あたゆまひ 万葉考 あたゆる賄 賄賂
      全註釈 類従名義抄 熱暑 アタタカナリ ゆめひ やまひ 熱病のこと
      注釈 大野晋 日葡辞書 アタバラヲタツル 腹の急な痛み、急に怒る
         急病のこと
那須郡 栃木県那須郡

#[説明]
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#[番号]20/4383
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]都乃久尓乃 宇美能奈伎佐尓 布奈餘曽比 多志埿毛等伎尓 阿母我米母我母
#[訓読]津の国の海の渚に船装ひ立し出も時に母が目もがも
#[仮名],つのくにの,うみのなぎさに,ふなよそひ,たしでもときに,あもがめもがも
#[左注]右一首塩屋郡上丁丈部足人 / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月14日,年紀,作者:丈部足人,防人歌,出発,恋情,望郷,栃木,田口大戸

#[訓異]
#[大意]摂津の国の海の渚に船を美しく飾って出航する時に母に一目会えたらなあ
#{語釈]
津の国 摂津の国
母が目もがも 母の目があればなあ 一目会いたい
塩屋郡 栃木県塩谷郡、矢板市

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4384
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿加等伎乃 加波多例等枳尓 之麻加枳乎 己枳尓之布祢乃 他都枳之良須母
#[訓読]暁のかはたれ時に島蔭を漕ぎ去し船のたづき知らずも
#[仮名],あかときの,かはたれときに,しまかぎを,こぎにしふねの,たづきしらずも
#[左注]右一首助丁海上郡海上國造他田日奉直得大理( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:他田日奉得大理,防人歌,叙景,漂泊,旅情,千葉,県犬養浄人
#[訓異]
#[大意]暁の薄暗い時に島陰を漕いで行った船のあてどもわからないことだ
#{語釈]
かはたれ時 彼は誰という時 薄暗い時 たそがれ 誰彼
海上郡 千葉県東北端海上郡

#[説明]
#[関連論文]

#[番号]20/4385
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]由古作枳尓 奈美奈等恵良比 志流敝尓波 古乎等都麻乎等 於枳弖等母枳奴
#[訓読]行こ先に波なとゑらひ後方には子をと妻をと置きてとも来ぬ
#[仮名],ゆこさきに,なみなとゑらひ,しるへには,こをとつまをと,おきてともきぬ
#[左注]右一首葛餝郡私部石嶋 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]等母 [元] 良毛
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:私部石嶋,防人歌,出発,千葉,県犬養浄人
#[訓異]
#[大意]行く先に波よ高く立つなよ。後ろの方には子どもと妻とを置いて来たのだから
#{語釈]
とゑらひ 09/1740 とをらふ 波が高く立つ うねる
葛餝郡 千葉県松戸、市川 葛飾区

#[説明]
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#[番号]20/4386
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和加々都乃 以都母等夜奈枳 以都母々々々 於母加古比須々 奈理麻之都之母
#[訓読]我が門の五本柳いつもいつも母が恋すす業りましつしも
#[仮名],わがかづの,いつもとやなぎ,いつもいつも,おもがこひすす,なりましつしも
#[左注]右一首結城郡矢作部真長 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:矢作部真長,防人歌,悲別,望郷,恋情,千葉,県犬養浄人
#[訓異]
#[大意]我が家の門前に何本か立っていた柳の木ではないが、いつもいつも母が恋い続けてなりわいをなさっているのかなあ
#{語釈]
五本柳 門前に何本も植えてある柳を呼んだ いつもを引き出す序詞
母が恋すす 母が恋ひつつ つつは「すす」14/3487
業りましつしも なりは、生業。農業 まし 尊敬 つしも 不明
結城郡 茨城県結城郡、結城市

#[説明]
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#[番号]20/4387
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]知波乃奴乃 古乃弖加之波能 保々麻例等 阿夜尓加奈之美 於枳弖他加枳奴
#[訓読]千葉の野の児手柏のほほまれどあやに愛しみ置きて誰が来ぬ
#[仮名],ちばのぬの,このてかしはの,ほほまれど,あやにかなしみ,おきてたがきぬ
#[左注]右一首千葉郡大田<部>足人 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]郡 -> 部 [西(訂正)][元][細][温]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:大田部足人,防人歌,千葉,県犬養浄人,地名,植物,序詞,自嘲,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]千葉の野の児手柏が葉がかわいくて小さいようにあの子はまだ若くてかわいいけれども何とも愛しいので、国元に置いて自分は来たことだ
#{語釈]
千葉の野の 千葉市付近
児手柏 16/3836H01奈良山の児手柏の両面にかにもかくにも侫人の伴
    ヒノキ科の常緑高木 側柏か。大和本草「側柏は桧に似る葉が手の形状に直立し、表裏の区別がない」
ほほまれど 含む つぼみの状態 娘がまだ若くてかわいいこと
    ここでは開きかけの葉がかわいい様子からかける序
誰が来ぬ  難解 全注釈 置いて誰が来たのか 他でもない自分が来たのだ
      釈注 いや高に山も越え来ぬ のようにはるかに 遠くまでの意
         はるかかなたまで来たことだ
千葉郡 千葉市 習志野市

#[説明]
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#[番号]20/4388
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]多妣等<弊>等 麻多妣尓奈理奴 以<弊>乃母加 枳世之己呂母尓 阿加都枳尓迦理
#[訓読]旅とへど真旅になりぬ家の妹が着せし衣に垢付きにかり
#[仮名],たびとへど,またびになりぬ,いへのもが,きせしころもに,あかつきにかり
#[左注]右一首占部虫麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]敝 -> 弊 [元][類][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:占部虫麻呂,防人歌,千葉,県犬養浄人
#[訓異]
#[大意]旅と言うが本当の旅になってしまった。家の妹が着せた衣に垢がすっかりついてしまった。
#{語釈]
旅とへど  旅と言へど
真旅  本格的な旅になった。
占部虫麻呂  出身地のないのは、同じ千葉郡の人か

#[説明]
類想歌
15/3667H01我が旅は久しくあらしこの我が着る妹が衣の垢つく見れば

#[関連論文]

#[番号]20/4389
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]志保不尼乃 <弊>古祖志良奈美 尓波志久母 於不世他麻保加 於母波弊奈久尓
#[訓読]潮舟の舳越そ白波にはしくも負ふせたまほか思はへなくに
#[仮名],しほふねの,へこそしらなみ,にはしくも,おふせたまほか,おもはへなくに
#[左注]右一首印波郡丈部直大麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]敝 -> 弊 [元][類][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:丈部大麻呂,防人歌,怨恨,千葉,県犬養浄人#[訓異]
#[大意]潮船の舳先を越える白波のようにだしぬけにお召しになることか。思っても見なかったのに
#{語釈]
潮舟 潮に乗って航行する船。沖合を行く丈夫な船
14/3450H01乎久佐男と乎具佐受家男と潮舟の並べて見れば乎具佐勝ちめり
14/3556H01潮船の置かれば愛しさ寝つれば人言繁し汝をどかもしむ
20/4368H01久慈川は幸くあり待て潮船にま楫しじ貫き我は帰り来む

舳越そ白波 舳先を越す白波
にはしくも にわかに
負ふせたまほか 背負わせる 課する
印波郡  千葉県印旛郡、佐倉市

#[説明]
急に防人に招集された言い方

#[関連論文]



#[番号]20/4390
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]牟浪他麻乃 久留尓久枳作之 加多米等之 以母加去々里波 阿用久奈米加母
#[訓読]群玉の枢にくぎさし堅めとし妹が心は動くなめかも
#[仮名],むらたまの,くるにくぎさし,かためとし,いもがこころは,あよくなめかも
#[左注]右一首猨島郡刑部志可麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:刑部志可麻呂,防人歌,恋情,千葉,県犬養浄人
#[大意]たくさんの玉がくるくると回るくるではないが、その枢に釘を刺して固めている妹の心は動くことがあるものか
#{語釈]
群玉の 枢(くる)の枕詞 数多くの玉がくるくる回る
枢(くる) くるる くるる戸 扉の上と鴨居、下と敷居に差し挟んで開閉させるもの
動くなめかも あよくなむかも あよく 動揺する 揺れ動く
ミ島郡(さしま) 茨城県猿島郡、古河市
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4391
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]久尓<具尓>乃 夜之呂乃加美尓 奴佐麻都理 阿加古比須奈牟 伊母賀加奈志作
#[訓読]国々の社の神に幣奉り贖乞ひすなむ妹が愛しさ
#[仮名],くにぐにの,やしろのかみに,ぬさまつり,あがこひすなむ,いもがかなしさ
#[左注]右一首結城郡忍海部五百麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]々々 -> 具尓 [類][紀][細] / 呂 [元](塙) 里
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:忍海部五百麻呂,防人歌,千葉,県犬養浄人,恋情,神祭り
#[訓異]
#[大意]諸国の社殿の神に幣帛を奉って自分の無事を祈る妹のいとしいことだ
#{語釈]
社 屋代 神が降臨する建物
贖乞ひすなむ 乞い祷む 祈祷 無事を祈って精進潔斎をする
       釈注 恋いこがれている
結城郡  4386左注 茨城県結城郡、結城市 分けた理由は不明
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4392
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿米都之乃 以都例乃可美乎 以乃良波加 有都久之波々尓 麻多己等刀波牟
#[訓読]天地のいづれの神を祈らばか愛し母にまた言とはむ
#[仮名],あめつしの,いづれのかみを,いのらばか,うつくしははに,またこととはむ
#[左注]右一首埴生郡大伴部麻与佐 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:大伴部麻与佐,防人歌,千葉,県犬養浄人,恋情,望郷,神祭り
#[訓異]
#[大意]天地のどの神を祈ったらいとしい母とまた言葉を交わすことが出来ようか
#{語釈]
埴生郡 千葉県印旛郡 佐倉、成田
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4393
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]於保伎美能 美許等尓<作>例波 知々波々乎 以波比<弊>等於枳弖 麻為弖枳尓之乎
#[訓読]大君の命にされば父母を斎瓮と置きて参ゐ出来にしを
#[仮名],おほきみの,みことにされば,ちちははを,いはひへとおきて,まゐできにしを
#[左注]右一首結城郡雀部廣嶋 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]佐 -> 作 [元][類] / 敝 -> 弊 [元][類][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:雀部廣嶋,防人歌,千葉,県犬養浄人,悲別,出発,恋情
#[訓異]
#[大意]大君のご命令であるので父母を斎瓮のように据えて後に残して参上してきたのだが(今となっては父母が恋しいことだ)
#{語釈]
命にされば 命にしあれば
斎瓮と置きて斎瓮を据え置くように、後に据え付けて
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4394
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]於保伎美能 美己等加之古美 由美乃美<他> 佐尼加和多良牟 奈賀氣己乃用乎
#[訓読]大君の命畏み弓の共さ寝かわたらむ長けこの夜を
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,ゆみのみた,さねかわたらむ,ながけこのよを
#[左注]右一首相馬郡大伴<部>子羊 / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]仁 -> 他 [元][類] / <> -> 部 [類][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月16日,年紀,作者:大伴部子羊,防人歌,千葉,県犬養浄人,悲嘆#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ多く思って弓とともに寝続けることだろうか。長いこの夜を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4395
#[題詞]獨惜龍田山櫻花歌一首
#[原文]多都多夜麻 見都々古要許之 佐久良波奈 知利加須疑奈牟 和我可敝流刀<尓>
#[訓読]龍田山見つつ越え来し桜花散りか過ぎなむ我が帰るとに
#[仮名],たつたやま,みつつこえこし,さくらばな,ちりかすぎなむ,わがかへるとに
#[左注](右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之)
#[校異]祢 -> 尓 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月17日,年紀,作者:大伴家持,独詠,地名,龍田,奈良,植物,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]龍田山を見ながら越えてきた桜花は散って過ぎてしまうのだろうか。自分が帰る時は
#{語釈]
龍田山見つつ越え来し 防人検校は2月なので桜の花が咲いており、都からやって来た時を示す。検校が終わって帰京。この時はもう散っているか。


#[説明]
"#[番号]09/1747"
"#[題詞](天平6年)春三月諸卿大夫等下難波時歌二首[并短歌]"の歌を踏まえて、「独」と言うか。

#[関連論文]


#[番号]20/4396
#[題詞]獨見江水浮漂糞怨恨貝玉不依作歌一首
#[原文]保理江欲利 安佐之保美知尓 与流許都美 可比尓安里世波 都刀尓勢麻之乎
#[訓読]堀江より朝潮満ちに寄る木屑貝にありせばつとにせましを
#[仮名],ほりえより,あさしほみちに,よるこつみ,かひにありせば,つとにせましを
#[左注](右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月17日,年紀,作者:大伴家持,独詠,地名,難波,大阪,望郷
#[訓異]
#[大意]堀江から朝の潮が満ちてくる中で岸辺に寄る木屑よ。貝であったのならばみやげにしようものなのに
#{語釈]
獨り江水に浮かび漂ふ糞(こづみ)を見、貝玉の依らぬことを怨恨(うら)みて作る歌一首

#[説明]
防人の心に乗じてか、家持が個人的に大嬢を思っているのか、虫麻呂の歌の延長か。
#[関連論文]


#[番号]20/4397
#[題詞]在舘門見江南美女作歌一首
#[原文]見和多世波 牟加都乎能倍乃 波奈尓保比 弖里氐多弖流<波> 波之伎多我都麻
#[訓読]見わたせば向つ峰の上の花にほひ照りて立てるは愛しき誰が妻
#[仮名],みわたせば,むかつをのへの,はなにほひ,てりてたてるは,はしきたがつま
#[左注]右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之
#[校異]婆 -> 波 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月17日,年紀,作者:大伴家持,独詠,望郷,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]見渡すと向こう側の峰の上で花のように照り輝いて立っているのはいとしい誰の妻なのだろうか
#{語釈]
#[説明]
前作と同じ意図か。
虫麻呂歌 
"#[番号]09/1742""#[題詞]見河内大橋獨去娘子歌一首[并短歌]"

#[関連論文]


#[番号]20/4398
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)為防人情陳思作歌一首[并短歌]
#[原文]大王乃 美己等可之古美 都麻和可礼 可奈之久波安礼特 大夫 情布里於許之 等里与曽比 門出乎須礼婆 多良知祢乃 波々可伎奈埿 若草乃 都麻波等里都吉 平久 和礼波伊波々牟 好去而 早還来等 麻蘇埿毛知 奈美太乎能其比 牟世比都々 言語須礼婆 群鳥乃 伊埿多知加弖尓 等騰己保里 可<弊>里美之都々 伊也等保尓 國乎伎波奈例 伊夜多可尓 山乎故要須疑 安之我知流 難波尓伎為弖 由布之保尓 船乎宇氣須恵 安佐奈藝尓 倍牟氣許我牟等 佐毛良布等 和我乎流等伎尓 春霞 之麻<未>尓多知弖 多頭我祢乃 悲鳴婆 波呂<婆>呂尓 伊弊乎於毛比埿 於比曽箭乃 曽与等奈流麻埿 奈氣吉都流香母
#[訓読]大君の 命畏み 妻別れ 悲しくはあれど 大夫の 心振り起し 取り装ひ 門出をすれば たらちねの 母掻き撫で 若草の 妻は取り付き 平らけく 我れは斎はむ ま幸くて 早帰り来と 真袖もち 涙を拭ひ むせひつつ 言問ひすれば 群鳥の 出で立ちかてに とどこほり かへり見しつつ いや遠に 国を来離れ いや高に 山を越え過ぎ 葦が散る 難波に来居て 夕潮に 船を浮けすゑ 朝なぎに 舳向け漕がむと さもらふと 我が居る時に 春霞 島廻に立ちて 鶴が音の 悲しく鳴けば はろはろに 家を思ひ出 負ひ征矢の そよと鳴るまで 嘆きつるかも
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,つまわかれ,かなしくはあれど,ますらをの,こころふりおこし,とりよそひ,かどでをすれば,たらちねの,ははかきなで,わかくさの,つまはとりつき,たひらけく,われはいははむ,まさきくて,はやかへりこと,まそでもち,なみだをのごひ,むせひつつ,ことどひすれば,むらとりの,いでたちかてに,とどこほり,かへりみしつつ,いやとほに,くにをきはなれ,いやたかに,やまをこえすぎ,あしがちる,なにはにきゐて,ゆふしほに,ふねをうけすゑ,あさなぎに,へむけこがむと,さもらふと,わがをるときに,はるかすみ,しまみにたちて,たづがねの,かなしくなけば,はろはろに,いへをおもひで,おひそやの,そよとなるまで,なげきつるかも
#[左注](右十九日兵部少輔大伴宿祢家持作之)
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 麻波 [元](塙) 麻 / 敝 -> 弊 [元][紀][細] / 米 -> 未 [代匠記精撰本] / 波 -> 婆 [元][類][紀][温]
#[鄣W],天平勝宝7年2月19日,年紀,作者:大伴家持,同情,防人歌,枕詞,動物,難波,大阪
#[大意]大君のご命令を恐れ多く思って妻と別れて悲しくはあるけれども丈夫の気持ちを振り起こして準備をして出発するとして門に出ると、たらちねの母は自分を掻き撫でて、妻は取り付いて、平穏に自分は精進して祈ろう。ご無事で早く帰って来てくれと両袖をもって涙を払いむせびながら言葉を掛けるので鳥の群れのように出立出来かねて躊躇されて振り返り見ながらますます遠く国を離れ、ますます高く山を越えて過ぎ、葦が散る難波にやって来て夕方の潮に船を浮かべ据え、朝なぎに舳先を向けて漕ぎ出そうとして控えて自分がいる時に春霞が島のめぐりに立って鶴が悲しく鳴くので、はるかかなたに故郷の家を思い出し、背負っている征矢がそよと鳴るまで嘆いたことであるよ

#{語釈]
言問ひすれば 原文「言語」万葉考「ことどひ」言葉を投げかける
       常陸国風土記 言語 ことどひ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4399
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(為防人情陳思作歌一首[并短歌])
#[原文]宇奈波良尓 霞多奈妣伎 多頭我祢乃 可奈之伎与比波 久尓<弊>之於毛保由
#[訓読]海原に霞たなびき鶴が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ
#[仮名],うなはらに,かすみたなびき,たづがねの,かなしきよひは,くにへしおもほゆ
#[左注](右十九日兵部少輔大伴宿祢家持作之)
#[校異]敝 -> 弊 [元][類][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年2月19日,年紀,作者:大伴家持,防人歌,同情,望郷,動物,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]海原に霞が棚引いて鶴の鳴き声が悲しい宵は故郷のことが思われてならない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4400
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(為防人情陳思作歌一首[并短歌])
#[原文]伊<弊>於毛負等 伊乎祢受乎礼婆 多頭我奈久 安之<弊>毛美要受 波流乃可須美尓
#[訓読]家思ふと寐を寝ず居れば鶴が鳴く葦辺も見えず春の霞に
#[仮名],いへおもふと,いをねずをれば,たづがなく,あしへもみえず,はるのかすみに
#[左注]右十九日兵部少輔大伴宿祢家持作之
#[校異]敝 -> 弊 [元][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月19日,年紀,作者:大伴家持,動物,望郷,防人歌,同情,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]故郷の家を思うとして安眠も出来ないでいると鶴が鳴く芦辺も見えないことだ。春の霞に
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4401
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]可良己呂<武> 須<宗>尓等里都伎 奈苦古良乎 意伎弖曽伎<怒>也 意母奈之尓志弖
#[訓読]唐衣裾に取り付き泣く子らを置きてぞ来のや母なしにして
#[仮名],からころむ,すそにとりつき,なくこらを,おきてぞきのや,おもなしにして
#[左注]右一首國造小縣郡他田舎人大嶋 ( / 二月廿二日信濃國防人部領使上道得病不来 進歌<數>十二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]茂 -> 武 [元][類] / 曽 -> 宗 [元][春] / 奴 -> 怒 [元][類][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月22日,年紀,作者:他田舎人大嶋,防人歌,悲別,悲嘆,長野,
#[訓異]
#[大意]唐衣の裾に取り憑いて泣くあの子を置いて来たことだ。母もなくて
#{語釈]
唐衣 官服
小縣郡 長野県上田市周辺

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4402
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]知波夜布留 賀美乃美佐賀尓 奴佐麻都<里> 伊波<布>伊能知波 意毛知々我多米
#[訓読]ちはやぶる神の御坂に幣奉り斎ふ命は母父がため
#[仮名],ちはやふる,かみのみさかに,ぬさまつり,いはふいのちは,おもちちがため
#[左注]右一首主帳埴科郡神人部子忍男 ( / 二月廿二日信濃國防人部領使上道得病不来 進歌<數>十二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]里 -> 理 [元][春] / 負 -> 布 [元][春]
#[鄣W],天平勝宝7年2月22日,年紀,作者:神人部子忍男,防人歌,羈旅,手向け,地名,長野,悲別
#[訓異]
#[大意]霊威ある神の御坂に幣を奉って無事を祈る命は母父がためなのだ
#{語釈]
神の御坂 御坂峠
埴科郡  更埴市(現千曲市)あたり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4403
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]意保枳美能 美己等可之古美 阿乎久<牟>乃 <等能>妣久夜麻乎 古与弖伎怒加牟
#[訓読]大君の命畏み青雲のとのびく山を越よて来ぬかむ
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,あをくむの,とのびくやまを,こよてきぬかむ
#[左注]右一首小長谷部笠麻呂 / 二月廿二日信濃國防人部領使上道得病不来 進歌<數>十二首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]毛 -> 牟 [元][類][紀] / 多奈 -> 等能 [元] / <> -> 數 [元][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月22日,年紀,作者:小長谷部笠麻呂,防人歌,羈旅,長野
#[訓異]
#[大意]大君の命を恐れ多く思って青雲の棚引く山を越えてやって来たことであるよ
#{語釈]
出身地がないのは、前作者と出身が同じか
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4404
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]奈尓波治乎 由伎弖久麻弖等 和藝毛古賀 都氣之非毛我乎 多延尓氣流可母
#[訓読]難波道を行きて来までと我妹子が付けし紐が緒絶えにけるかも
#[仮名],なにはぢを,ゆきてくまでと,わぎもこが,つけしひもがを,たえにけるかも
#[左注]右一首助丁上毛野牛甘 ( / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:上毛野牛甘,防人歌,地名,難波,大阪,望郷,悲別,悲嘆,群馬,上毛野駿河
#[訓異]
#[大意]難波への道を行って帰って来るまでと我妹子が付けた紐の緒が切れてしまったことである
#{語釈]
絶えにけるかも 切れてしまうほど長い苦難の道のりであることを言う

#[説明]
類歌
相聞歌の場合
04/0515D01中臣朝臣東人贈阿倍女郎歌一首
04/0515H01ひとり寝て絶えにし紐をゆゆしみと為むすべ知らに音のみしぞ泣く

#[関連論文]


#[番号]20/4405
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我伊母古我 志濃比尓西餘等 都氣志<非>毛 伊刀尓奈流等母 和波等可自等余
#[訓読]我が妹子が偲ひにせよと付けし紐糸になるとも我は解かじとよ
#[仮名],わがいもこが,しぬひにせよと,つけしひも,いとになるとも,わはとかじとよ
#[左注]右一首朝倉益人 ( / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]比 -> 非 [元][春]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:朝倉益人,防人歌,悲別,恋情,群馬,上毛野駿河
#[訓異]
#[大意]我妹子が思い出すよすがにしてねと付けてくれた紐は糸になるまですり切れるとしても自分はほどくことはあるまいよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4406
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我伊波呂尓 由加毛比等母我 久佐麻久良 多妣波久流之等 都氣夜良麻久母
#[訓読]我が家ろに行かも人もが草枕旅は苦しと告げ遣らまくも
#[仮名],わがいはろに,ゆかもひともが,くさまくら,たびはくるしと,つげやらまくも
#[左注]右一首大伴部節麻呂 ( / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:大伴部節麻呂,防人歌,群馬,上毛野駿河,枕詞,望郷,悲別
#[訓異]
#[大意]我が故郷の家に行く人もいればなあ。そうすれば旅は苦しいと告げてやることなのに
#{語釈]
#[説明]
類歌 4366
15/3643H01沖辺より船人上る呼び寄せていざ告げ遣らむ旅の宿りを
#[関連論文]


#[番号]20/4407
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]比奈久母理 宇須比乃佐可乎 古延志太尓 伊毛賀古比之久 和須良延奴加母
#[訓読]ひな曇り碓氷の坂を越えしだに妹が恋しく忘らえぬかも
#[仮名],ひなくもり,うすひのさかを,こえしだに,いもがこひしく,わすらえぬかも
#[左注]右一首他田部子磐前 / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]賀 [元][春] 駕
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:他田部子磐前,防人歌,群馬,上毛野駿河,悲別,羈旅,地名,望郷,枕詞
#[訓異]
#[大意]薄曇りの碓氷の坂を越える時でも妹が恋しくて忘れることが出来ないことだ
#{語釈]
ひな曇り 薄曇りで薄日が指すという意味で碓氷にかかる枕詞
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4408
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)陳防人悲別之情歌一首[并短歌]
#[原文]大王乃 麻氣乃麻尓々々 嶋守尓 和我多知久礼婆 波々蘇婆能 波々能美許等波 美母乃須蘇 都美安氣可伎奈埿 知々能未乃 知々能美許等波 多久頭<努>能 之良比氣乃宇倍由 奈美太多利 奈氣伎乃多婆久 可胡自母乃 多太比等里之氐 安佐刀埿乃 可奈之伎吾子 安良多麻乃 等之能乎奈我久 安比美受波 古非之久安流倍之 今日太<尓>母 許等騰比勢武等 乎之美都々 可奈之備麻勢婆 若草之 都麻母古騰母毛 乎知己知尓 左波尓可久美為 春鳥乃 己恵乃佐麻欲比 之路多倍乃 蘇埿奈伎奴良之 多豆佐波里 和可礼加弖尓等 比伎等騰米 之多比之毛能乎 天皇乃 美許等可之古美 多麻保己乃 美知尓出立 乎可<乃>佐伎 伊多牟流其等尓 与呂頭多妣 可弊里見之都追 波呂々々尓 和可礼之久礼婆 於毛布蘇良 夜須久母安良受 古布流蘇良 久流之伎毛乃乎 宇都世美乃 与能比等奈礼婆 多麻伎波流 伊能知母之良受 海原乃 可之古伎美知乎 之麻豆多比 伊己藝和多利弖 安里米具利 和我久流麻埿尓 多比良氣久 於夜波伊麻佐祢 都々美奈久 都麻波麻多世等 須美乃延能 安我須賣可未尓 奴佐麻都利 伊能里麻乎之弖 奈尓波都尓 船乎宇氣須恵 夜蘇加奴伎 可古<等登>能倍弖 安佐婢良伎 和波己藝埿奴等 伊弊尓都氣己曽
#[訓読]大君の 任けのまにまに 島守に 我が立ち来れば ははそ葉の 母の命は み裳の裾 摘み上げ掻き撫で ちちの実の 父の命は 栲づのの 白髭の上ゆ 涙垂り 嘆きのたばく 鹿子じもの ただ独りして 朝戸出の 愛しき我が子 あらたまの 年の緒長く 相見ずは 恋しくあるべし 今日だにも 言問ひせむと 惜しみつつ 悲しびませば 若草の 妻も子どもも をちこちに さはに囲み居 春鳥の 声のさまよひ 白栲の 袖泣き濡らし たづさはり 別れかてにと 引き留め 慕ひしものを 大君の 命畏み 玉桙の 道に出で立ち 岡の崎 い廻むるごとに 万たび かへり見しつつ はろはろに 別れし来れば 思ふそら 安くもあらず 恋ふるそら 苦しきものを うつせみの 世の人なれば たまきはる 命も知らず 海原の 畏き道を 島伝ひ い漕ぎ渡りて あり廻り 我が来るまでに 平けく 親はいまさね つつみなく 妻は待たせと 住吉の 我が統め神に 幣奉り 祈り申して 難波津に 船を浮け据ゑ 八十楫貫き 水手ととのへて 朝開き 我は漕ぎ出ぬと 家に告げこそ
#[仮名],おほきみの,まけのまにまに,しまもりに,わがたちくれば,ははそばの,ははのみことは,みものすそ,つみあげかきなで,ちちのみの,ちちのみことは,たくづのの,しらひげのうへゆ,なみだたり,なげきのたばく,かこじもの,ただひとりして,あさとでの,かなしきあがこ,あらたまの,としのをながく,あひみずは,こひしくあるべし,けふだにも,ことどひせむと,をしみつつ,かなしびませば,わかくさの,つまもこどもも,をちこちに,さはにかくみゐ,はるとりの,こゑのさまよひ,しろたへの,そでなきぬらし,たづさはり,わかれかてにと,ひきとどめ,したひしものを,おほきみの,みことかしこみ,たまほこの,みちにいでたち,をかのさき,いたむるごとに,よろづたび,かへりみしつつ,はろはろに,わかれしくれば,おもふそら,やすくもあらず,こふるそら,くるしきものを,うつせみの,よのひとなれば,たまきはる,いのちもしらず,うなはらの,かしこきみちを,しまづたひ,いこぎわたりて,ありめぐり,わがくるまでに,たひらけく,おやはいまさね,つつみなく,つまはまたせと,すみのえの,あがすめかみに,ぬさまつり,いのりまをして,なにはつに,ふねをうけすゑ,やそかぬき,かこととのへて,あさびらき,わはこぎでぬと,いへにつげこそ
#[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 怒 -> 努 [元][類] / 仁 -> 尓 [類] / 之 -> 乃 [元][類] / 登々 -> 等登 [元]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:大伴家持,防人歌,悲別,同情,望郷
#[訓異]
#[大意]大君が任命されるままに島を守る役に自分が出発して来ると、ははそ葉の母の命は、み裳の裾をつまみ上げて自分の頭を掻き撫で、父の実の父の命は栲づののようなごわごわした白髭の上から涙を垂れて嘆いておっしゃることには、鹿の子のようにただ独り子であって朝に家を出て行くいとしい我が子よ。あらたまの年月が長くともに会わないでは恋しくてしかたがないだろう。今日だけでも語り合おうと別れを惜しみながら悲しみが増すので、若草の妻も子どももあちらこちらに多く自分のまわりを囲んで座り、春の鳥のようにあちらこちらで声を上げて、白妙の袖を泣いて濡らし手を取って別れるのがつらいと引き留めて自分を慕っていたものであるが、大君のご命令を恐れ多く思って玉鉾の道に出発して岡の曲がり角をめぐるごとに何度も振り返り見ながら、はるばると別れて来たので、思う気持ちも安らかでもない、恋い思う気持ちも苦しいものであるのに、この世の人間であるのでたまきはる命もわからないで、海原の恐ろしい道を島伝いに漕いで渡り、そのままめぐって自分が帰ってくるまでは平穏に親はいてください、何こともなく妻はお待ち下さいと住吉の自分を支配する神に幣帛を奉ってお祈りをして、難波津に船を浮かべ据えてたくさんの楫を貫いて、水夫に号令をかけて朝海早く自分は漕ぎ出したと故郷の家に告げてほしい。

#{語釈]
ははそ葉の 母の枕詞 小楢
09/1730H01山科の石田の小野のははそ原見つつか君が山道越ゆらむ
19/4164

父の実 父の枕詞 未詳
古今要覧稿 今もちちの木 いちじく、一名いぬびわ
伊藤多羅 万葉動植考 とちの実
本草啓蒙 天仙果

栲づのの 白髭の枕詞 楮で編んだ綱 老年でごわごわしているか。


#[説明]
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#[番号]20/4409
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])
#[原文]伊弊婢等乃 伊波倍尓可安良牟 多比良氣久 布奈埿波之奴等 於夜尓麻乎佐祢
#[訓読]家人の斎へにかあらむ平けく船出はしぬと親に申さね
#[仮名],いへびとの,いはへにかあらむ,たひらけく,ふなではしぬと,おやにまをさね
#[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:大伴家持,悲別,防人歌,望郷,同情
#[訓異]
#[大意]故郷の家の人たちの精進潔斎の効果だからだろうか。平穏に船出はしたと親に知らせてください。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4410
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])
#[原文]美蘇良由久 々母々都可比等 比等波伊倍等 伊弊頭刀夜良武 多豆伎之良受母
#[訓読]み空行く雲も使と人は言へど家づと遣らむたづき知らずも
#[仮名],みそらゆく,くももつかひと,ひとはいへど,いへづとやらむ,たづきしらずも
#[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:大伴家持,防人歌,望郷,悲別
#[訓異]
#[大意]み空行く雲も使者だと人は言うけれども、家へのみやげをやる方法もわからないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4411
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])
#[原文]伊弊都刀尓 可比曽比里弊流 波麻奈美波 伊也<之>久々々二 多可久与須礼騰
#[訓読]家づとに貝ぞ拾へる浜波はいやしくしくに高く寄すれど
#[仮名],いへづとに,かひぞひりへる,はまなみは,いやしくしくに,たかくよすれど
#[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]之之 -> 之 [西(訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:大伴家持,防人歌,望郷,悲別,同情
#[訓異]
#[大意]家へのみやげとして貝は拾った。浜辺の波はますます重なり重なり高く寄せてはくるけれども
#{語釈]
#[説明]
04/0782H01風高く辺には吹けども妹がため袖さへ濡れて刈れる玉藻ぞ
06/0957H01いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ
07/1145H01妹がため貝を拾ふと茅渟の海に濡れにし袖は干せど乾かず
12/3175H01和歌の浦に袖さへ濡れて忘れ貝拾へど妹は忘らえなくに
15/3711H01我が袖は手本通りて濡れぬとも恋忘れ貝取らずは行かじ

#[関連論文]


#[番号]20/4412
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])
#[原文]之麻可氣尓 和我布祢波弖氐 都氣也良牟 都可比乎奈美也 古非都々由加牟
#[訓読]島蔭に我が船泊てて告げ遣らむ使を無みや恋ひつつ行かむ
#[仮名],しまかげに,わがふねはてて,つげやらむ,つかひをなみや,こひつつゆかむ
#[左注]二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:大伴家持,防人歌,望郷,同情,恋情
#[訓異]
#[大意]島影に自分の船は停泊して知らせてやる使いがないからなのだろうか、恋い続けて行こう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4413
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]麻久良多之 己志尓等里波伎 麻可奈之伎 西呂我馬伎己無 都久乃之良奈久
#[訓読]枕太刀腰に取り佩きま愛しき背ろが罷き来む月の知らなく
#[仮名],まくらたし,こしにとりはき,まかなしき,せろがまきこむ,つくのしらなく
#[左注]右一首上丁那珂郡桧前舎人石前之妻大伴<部>真足女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]<> -> 部 [元]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:桧前舎人石前妻:大伴部真足女,防人歌,埼玉,安曇三國,女歌,悲別
#[訓異]
#[大意]枕太刀を腰に取り佩いていとしい背が帰って来月がわからなくて
#{語釈]
那珂郡  埼玉県児玉郡、本庄市の一部

#[説明]
夫婦別姓は、当時は女は父方の姓を名乗ることによる

#[関連論文]


#[番号]20/4414
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]於保伎美乃 美己等可之古美 宇都久之氣 麻古我弖波奈利 之末豆多比由久
#[訓読]大君の命畏み愛しけ真子が手離り島伝ひ行く
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,うつくしけ,まこがてはなり,しまづたひゆく
#[左注]右一首助丁秩父郡大伴部小歳 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:大伴部小歳,防人歌,埼玉,安曇三國,悲別,羈旅
#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ謹んでかわいいあの子の手を離れて島伝いに行くことだ
#{語釈]
秩父郡 埼玉県秩父郡、秩父市

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4415
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]志良多麻乎 弖尓刀里母之弖 美流乃須母 伊弊奈流伊母乎 麻多美弖毛母也
#[訓読]白玉を手に取り持して見るのすも家なる妹をまた見てももや
#[仮名],しらたまを,てにとりもして,みるのすも,いへなるいもを,またみてももや
#[左注]右一首主帳荏原郡物部歳徳 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:物部歳徳,防人歌,埼玉,安曇三國,悲別,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]白玉を手に取り以て見るように家にいる妹をまた会おうかなあ
#{語釈]
見るのすも 見るなすも ~の如くの意
見てももや  見てむもや て 強意のつ 推量 む もや 詠嘆 もよと同じか
荏原郡  東京都荏原 太田、目黒、品川、世田谷のあたり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4416
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]久佐麻久良 多比由苦世奈我 麻流祢世婆 伊波奈流和礼波 比毛等加受祢牟
#[訓読]草枕旅行く背なが丸寝せば家なる我れは紐解かず寝む
#[仮名],くさまくら,たびゆくせなが,まるねせば,いはなるわれは,ひもとかずねむ
#[左注]右一首妻椋椅部刀自賣 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:妻椋椅部刀自賣,防人歌,枕詞,女歌,留守,恋情,埼玉,安曇三國
#[訓異]
#[大意]草枕旅に行く夫が着のみ着のままで寝るのならば、家にいる自分は紐を解かないでねよう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4417
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿加胡麻乎 夜麻努尓波賀志 刀里加尓弖 多麻<能>余許夜麻 加志由加也良牟
#[訓読]赤駒を山野にはがし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ
#[仮名],あかごまを,やまのにはかし,とりかにて,たまのよこやま,かしゆかやらむ
#[左注]右一首豊嶋郡上丁椋椅部荒虫之妻宇遅部黒女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]乃 -> 能 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:椋椅部荒虫妻:宇遅部黒女,防人歌,地名,女歌,埼玉,安曇三國,恋情
#[訓異]
#[大意]元気な赤駒を山野に放し飼いにして捕らえることに失敗して、多摩の横山を歩いて行かせることだろうか
#{語釈]
多摩の横山 多摩丘陵のあたり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4418
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我可度乃 可多夜麻都婆伎 麻己等奈礼 和我弖布礼奈々 都知尓於知母加毛
#[訓読]我が門の片山椿まこと汝れ我が手触れなな土に落ちもかも
#[仮名],わがかどの,かたやまつばき,まことなれ,わがてふれなな,つちにおちもかも
#[左注]右一首荏原郡上丁物部廣足 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:物部廣足,防人歌,植物,恋情,埼玉,安曇三國
#[訓異]
#[大意]我が家の門前の片山に咲く椿よ。ほんとうにお前は自分の手に触れないようにしたい。しかし地面に落ちてしまうだろうか

#{語釈]
#[説明]
譬喩。椿は女。結婚すると自分が旅先で死んだ場合独りになる。しかしそのまま残して行くと人のものになってしまう不安を言ったもの。
#[関連論文]


#[番号]20/4419
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]伊波呂尓波 安之布多氣騰母 須美与氣乎 都久之尓伊多里弖 古布志氣毛波母
#[訓読]家ろには葦火焚けども住みよけを筑紫に至りて恋しけ思はも
#[仮名],いはろには,あしふたけども,すみよけを,つくしにいたりて,こふしけもはも
#[左注]右一首橘樹郡上丁物部真根 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:物部真根,防人歌,埼玉,安曇三國,望郷,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]家では葦を焚いて火にしているような貧しい暮らしだが住み心地がいいのに。筑紫に行って家が恋しく思うだろうな。
#{語釈]
橘樹郡 神奈川県川崎市、横浜市北部
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4420
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]久佐麻久良 多妣乃麻流祢乃 比毛多要婆 安我弖等都氣呂 許礼乃波流母志
#[訓読]草枕旅の丸寝の紐絶えば我が手と付けろこれの針持し
#[仮名],くさまくら,たびのまるねの,ひもたえば,あがてとつけろ,これのはるもし
#[左注]右一首椋<椅>部弟女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]埼 -> 椅 [類][紀][古]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:椋椅部弟女,防人歌,埼玉,安曇三國,枕詞,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]草枕旅の丸寝で紐が切れたら私の手だと思って付けてください。この針を持って
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4421
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我由伎乃 伊伎都久之可婆 安之我良乃 美祢波保久毛乎 美等登志努波祢
#[訓読]我が行きの息づくしかば足柄の峰延ほ雲を見とと偲はね
#[仮名],わがゆきの,いきづくしかば,あしがらの,みねはほくもを,みととしのはね
#[左注]右一首都筑郡上丁服部於<由> ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]祢 [類] 祢尓 / 田 -> 由 [元][万葉考]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:服部於由,防人歌,埼玉,安曇三國,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]自分が旅に出てため息をついたならば足柄の峰に棚引く雲を実ながら偲んでください
#{語釈]
都筑郡 横浜市北部 保土ヶ谷、緑区のあたり 箱根の山から富士山が見える
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4422
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我世奈乎 都久之倍夜里弖 宇都久之美 於妣<波>等可奈々 阿也尓加母祢毛
#[訓読]我が背なを筑紫へ遣りて愛しみ帯は解かななあやにかも寝も
#[仮名],わがせなを,つくしへやりて,うつくしみ,おびはとかなな,あやにかもねも
#[左注]右一首妻服部呰女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]婆 -> 波 [元][類][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:妻服部呰女,防人歌,女歌,恋情,埼玉,安曇三國
#[訓異]
#[大意]我が夫を筑紫へやってしまったらいとしく思って帯は解くまいよ。普通でなく寝ることだ。
#{語釈]
あやにかも寝も 帯を解かないで寝るとは普通でなく、異常な形
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4423
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]安之我良乃 美佐可尓多志弖 蘇埿布良波 伊波奈流伊毛波 佐夜尓美毛可母
#[訓読]足柄の御坂に立して袖振らば家なる妹はさやに見もかも
#[仮名],あしがらの,みさかにたして,そでふらば,いはなるいもは,さやにみもかも
#[左注]右一首埼玉郡上丁藤原部等母麻呂 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)
#[校異]波 [元](塙) 婆
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:藤原部等母麻呂,防人歌,埼玉,安曇三國,地名,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]足柄のみ坂に立って袖を振るならば、家にいる妹ははっきりと見えるだろうか
#{語釈]
足柄の御坂
14/3371H01足柄のみ坂畏み曇り夜の我が下ばへをこち出つるかも
(足柄のみ坂が恐ろしくて、曇った夜ではないが自分の心の思いを言葉に出したことであるよ)
20/4372H01足柄の み坂給はり 返り見ず 我れは越え行く 荒し夫も

埼玉郡 埼玉県東端部

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4424
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]伊呂夫可久 世奈我許呂母波 曽米麻之乎 美佐可多婆良婆 麻佐夜可尓美無
#[訓読]色深く背なが衣は染めましをみ坂給らばまさやかに見む
#[仮名],いろぶかく,せながころもは,そめましを,みさかたばらば,まさやかにみむ
#[左注]右一首妻物部刀自賣 / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之
#[校異]<> -> 九 [古]
#[鄣W],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:妻物部刀自賣,防人歌,埼玉,安曇三國,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]濃い色に我が夫の衣は染めたらよかった。み坂を通していただく時にはっきりと見ようのものに。
#{語釈]
み坂給はり  坂の神に無事通していただく

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4425
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]佐伎毛利尓 由久波多我世登 刀布比登乎 美流我登毛之佐 毛乃母比毛世受
#[訓読]防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨しさ物思ひもせず
#[仮名],さきもりに,ゆくはたがせと,とふひとを,みるがともしさ,ものもひもせず
#[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,磐余諸君,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]防人に行くのはどこの夫だと言う人を見るうらやましさよ。物思いもしていなくって。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4426
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿米都之乃 可未尓奴佐於伎 伊波比都々 伊麻世和我世奈 阿礼乎之毛波婆
#[訓読]天地の神に幣置き斎ひつついませ我が背な我れをし思はば
#[仮名],あめつしの,かみにぬさおき,いはひつつ,いませわがせな,あれをしもはば
#[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,女歌,恋情,磐余諸君
#[訓異]
#[大意]天地の神に幣帛を奉って精進潔斎しながらいらっしゃいよ。我が夫よ。自分のことを恋い思うのならば
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4427
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]伊波乃伊毛呂 和乎之乃布良之 麻由須比尓 由須比之比毛乃 登久良久毛倍婆
#[訓読]家の妹ろ我を偲ふらし真結ひに結ひし紐の解くらく思へば
#[仮名],いはのいもろ,わをしのふらし,まゆすひに,ゆすひしひもの,とくらくもへば
#[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,磐余諸君,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]家の妹は自分のことを思っているらしい。固結びにした紐がほどけることを思うと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4428
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]和我世奈乎 都久志波夜利弖 宇都久之美 叡比波登加奈々 阿夜尓可毛祢牟
#[訓読]我が背なを筑紫は遣りて愛しみえひは解かななあやにかも寝む
#[仮名],わがせなを,つくしはやりて,うつくしみ,えひはとかなな,あやにかもねむ
#[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,女歌,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]我が夫を筑紫にやっていとしいので、結んだ紐は解くことはないよ。それにしても普通でなく寝ることか。

#{語釈]
えひ 結いの訛りか
あやにかも寝も 帯を解かないで寝るとは普通でなく、異常な形

#[説明]
4422の類歌。4422が伝誦されていた
#[関連論文]


#[番号]20/4429
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]宇麻夜奈流 奈波多都古麻乃 於久流我弁 伊毛我伊比之乎 於岐弖可奈之毛
#[訓読]馬屋なる縄立つ駒の後るがへ妹が言ひしを置きて悲しも
#[仮名],うまやなる,なはたつこまの,おくるがへ,いもがいひしを,おきてかなしも
#[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,悲別,恋情,磐余諸君
#[訓異]
#[大意]馬屋にいる縄を斬ってしまうあばれ午のように後に残っているものかと妹が言っていたのを家に残して出てきて今となってはいとしいことだ
#{語釈]
後るがへ がへは反語 かは

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4430
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]阿良之乎乃 伊乎佐太波佐美 牟可比多知 可奈流麻之都美 伊埿弖登阿我久流
#[訓読]荒し男のいをさ手挟み向ひ立ちかなるましづみ出でてと我が来る
#[仮名],あらしをの,いをさたはさみ,むかひたち,かなるましづみ,いでてとあがくる
#[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,磐余諸君,序詞,出発,羈旅
#[訓異]
#[大意]勇猛な男の矢を手挟んで向かい立ってじと獲物をねらってその静かな時になるように、見送りの騒ぎが静まるのを見計らって出発してと自分は来たことだ
#{語釈]
荒し男 荒々しい男  勇猛な男 丈夫と区別
17/3962H12荒し男すらに 嘆き伏せらむ

いをさ 種両用の矢 い を 接頭語 さは矢
かなるましづみ
代匠紀 鹿鳴間沈なり。鹿が鳴いて寄ってくる間、狩人は静かにして待つことから言う
新考 かなる がなる、やかましい意味 夜が更けてかまびすしい人が寝静まっての意
14/3361H01足柄のをてもこのもにさすわなのかなるましづみ子ろ我れ紐解く
(足柄のあちらこちらに張ってある罠が音を立てるように、かまびすしい時が静まってあの子と自分は紐を解くことだ)

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4431
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]佐左賀波乃 佐也久志毛用尓 奈々弁加流 去呂毛尓麻世流 古侶賀波太波毛
#[訓読]笹が葉のさやぐ霜夜に七重着る衣に増せる子ろが肌はも
#[仮名],ささがはの,さやぐしもよに,ななへかる,ころもにませる,ころがはだはも
#[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,望郷,恋情,磐余諸君
#[訓異]
#[大意]笹の葉がさやぐ霜の降る寒い夜に幾重にも着る衣に勝っているあの子の肌はなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4432
#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
#[原文]佐弁奈弁奴 美許登尓阿礼婆 可奈之伊毛我 多麻久良波奈礼 阿夜尓可奈之毛
#[訓読]障へなへぬ命にあれば愛し妹が手枕離れあやに悲しも
#[仮名],さへなへぬ,みことにあれば,かなしいもが,たまくらはなれ,あやにかなしも
#[左注]右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持
#[校異]年 [西(上書訂正)][元][紀][古]
#[鄣W],天平勝宝7年2月,年紀,防人歌,古歌,伝誦,磐余諸君,悲別,恋情
#[訓異]
#[大意]抵抗できない大君の命令であるのでかわいい妹の手枕を離れて何ともいとしいことだ
#{語釈]
障へなへぬ 抵抗出来ない  障ふ 妨げる なふ 抵抗する 妨げ抵抗出来ない

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4433
#[題詞]三月三日檢校防人 勅使并兵部使人等同集飲宴作歌三首
#[原文]阿佐奈佐奈 安我流比婆理尓 奈里弖之可 美也古尓由伎弖 波夜加弊里許牟
#[訓読]朝な朝な上がるひばりになりてしか都に行きて早帰り来む
#[仮名],あさなさな,あがるひばりに,なりてしか,みやこにゆきて,はやかへりこむ
#[左注]右一首勅使紫微大弼安倍沙<美>麻呂朝臣
#[校異]祢 -> 美 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年3月3日,年紀,作者:安倍沙美麻呂,宴席,動物,望郷,防人検校,大阪
#[訓異]
#[大意]毎朝毎朝舞い上がるひばりになりたいものだ。そうなれば都に行って早くその日のうちに帰って来ようのに
#{語釈]
三月三日は上巳 都での曲水宴に出たいというのか。
紫微大弼 紫微中台の次官 正四位下相当官
安倍沙<美>麻呂朝臣 敬称法
   天平9 従五位下 少納言
   天平宝字2 中務卿参議正四位下で卒

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4434
#[題詞](三月三日檢校防人 勅使并兵部使人等同集飲宴作歌三首)
#[原文]比婆里安我流 波流弊等佐夜尓 奈理奴礼波 美夜古母美要受 可須美多奈妣久
#[訓読]ひばり上がる春へとさやになりぬれば都も見えず霞たなびく
#[仮名],ひばりあがる,はるへとさやに,なりぬれば,みやこもみえず,かすみたなびく
#[左注](右二首兵部使少輔大伴宿祢家持)
#[校異]婆 [元][類] 波
#[鄣W],天平勝宝7年3月3日,年紀,作者:大伴家持,動物,叙景,宴席,防人検校,大阪
#[訓異]
#[大意]ひばりの上がる春部とさやかになったので、都も見えないで霞が棚引いている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4435
#[題詞](三月三日檢校防人 勅使并兵部使人等同集飲宴作歌三首)
#[原文]布敷賣里之 波奈乃波自米尓 許之和礼夜 知里奈牟能知尓 美夜古敝由可無
#[訓読]ふふめりし花の初めに来し我れや散りなむ後に都へ行かむ
#[仮名],ふふめりし,はなのはじめに,こしわれや,ちりなむのちに,みやこへゆかむ
#[左注]右二首兵部使少輔大伴宿祢家持
#[校異]使 [西(朱筆消去)][元][紀]
#[鄣W],天平勝宝7年3月3日,年紀,作者:大伴家持,望郷,防人検校,宴席,大阪
#[訓異]
#[大意]まだつぼみであった花の始めの頃にここ難波にやって来た自分であるのに、散ってしまった後に都に帰ることになるのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4436
#[題詞]昔年相替防人歌一首
#[原文]夜未乃欲能 由久左伎之良受 由久和礼乎 伊都伎麻<佐>牟等 登比之古良波母
#[訓読]闇の夜の行く先知らず行く我れをいつ来まさむと問ひし子らはも
#[仮名],やみのよの,ゆくさきしらず,ゆくわれを,いつきまさむと,とひしこらはも
#[左注](右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳])
#[校異]左 -> 佐 [元][類]
#[鄣W],防人歌,古歌,伝誦,恋情,出発,大原今城
#[訓異]
#[大意]暗闇の夜を行くようにまったく行く先がわかないで出発する自分であるのに、いつお越しになるのかと尋ねるあの子はなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4437
#[題詞]先太上天皇御製霍公鳥歌一首 [日本根子高瑞日清足姫天皇也]
#[原文]冨等登藝須 奈保毛奈賀那牟 母等都比等 可氣都々母等奈 安乎祢之奈久母
#[訓読]霍公鳥なほも鳴かなむ本つ人かけつつもとな我を音し泣くも
#[仮名],ほととぎす,なほもなかなむ,もとつひと,かけつつもとな,あをねしなくも
#[左注](右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳])
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],作者:元正天皇,古歌,伝誦,大原今城,動物,悲嘆,懐古
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。もっと啼いて欲しい。今は亡き昔なじみの人を口かけながらむやみに啼くので、自分を声を上げて啼かせるよ
#{語釈]
先太上天皇 元正天皇 天平20年4月21日崩御
本つ人 旧知の人、むかしなじみの人。ここは亡き元明天皇 霍公鳥は懐旧の鳥として歌われる
10/1962H01本つ人霍公鳥をやめづらしく今か汝が来る恋ひつつ居れば
昔なじみの人である霍公鳥をばめづらしいことに今お前が来るのか。恋い続けていると
(別解)昔なじみの人が霍公鳥をめづらしく思って、今あなたが来るのか。恋い続けていると
12/3009H01橡の衣解き洗ひ真土山本つ人にはなほしかずけり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4438
#[題詞]薩妙觀應詔奉和歌一首
#[原文]保等登藝須 許々尓知可久乎 伎奈伎弖余 須疑奈<无>能知尓 之流志安良米夜母
#[訓読]霍公鳥ここに近くを来鳴きてよ過ぎなむ後に験あらめやも
#[仮名],ほととぎす,ここにちかくを,きなきてよ,すぎなむのちに,しるしあらめやも
#[左注](右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳])
#[校異]歌 [西] 謌 / 無 -> 无 [元][類]
#[鄣W],作者:薩妙觀,古歌,伝誦,動物,大原今城,応詔
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。ここにもっと近く来て鳴いてくれよ。今を過ぎてしまった後にはいくら鳴いても効果があるだろうか。今しかないのだから
#{語釈]
薩妙觀 内命婦 養老五年 従五位下
    天平五年二月 正五位上
元正から聖武にかけて内侍司の典侍か。天平九年の悪疫で死亡

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4439
#[題詞]冬日幸于靱負御井之時内命婦石川朝臣應詔賦雪歌一首 [諱曰邑婆]
#[原文]麻都我延乃 都知尓都久麻埿 布流由伎乎 美受弖也伊毛我 許母里乎流良牟
#[訓読]松が枝の土に着くまで降る雪を見ずてや妹が隠り居るらむ
#[仮名],まつがえの,つちにつくまで,ふるゆきを,みずてやいもが,こもりをるらむ
#[左注]于時水主内親王寝膳不安累日不参 因以此日太上天皇勅侍嬬等曰 為遣水主内親王賦雪作歌奉獻者 於是諸命婦等不堪作歌而此石川命婦 獨此歌奏之 / 右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳]
#[校異]様 -> 掾 [西(朱訂正右書)][元][紀][細]
#[鄣W],作者:石川郎女,古歌,伝誦,宮廷,応詔,水主内親王,見舞い,元正天皇
#[訓異]
#[大意]松の枝が地面に着くまで降る雪を見ないで妹は寝所にとじ籠もっているのだろうか
#{語釈]
靱負御井 宮廷や行幸の敬語にあたる衛門府の近くにあった井戸
行幸したのは、元正太上天皇

内命婦石川朝臣 03/0461左注 石川邑婆 大伴安麻呂の後妻 坂上郎女の母
        天平九年頃没

時に水主内親王(もひとりのひめみこ)、寝膳安くあらずして累日参りたまはず。因りて此の日を以ちて太上天皇、侍嬬等に勅して曰く、「水主内親王に遣らむ為に雪を賦し、歌を作りて奉獻(たてまつれ)」とのりたまふ。是に諸の命婦等、歌を作るに堪(あ)へずして此の石川命婦のみ獨り此の歌を奏す。

水主内親王 天智天皇皇女 天平九年八月二〇日薨去 三品
冬なので、この歌の時期は天平八年一二月頃か。天智時代の生まれと見ると七〇歳ぐらい
元正太上天皇は、五十七歳(天武九年生まれ)

寝膳 寝ることと食べること 不眠、食欲不振の病気であることを表す
侍嬬 太上天皇に近侍する女官
雪を賦し 雪を題にする

大原真人今城 家持と親しい関係にある
       天平勝宝七歳二月頃 正六位上 上総国大掾
三月 上総国朝集使で在京
八歳二月 兵部大丞
天平宝字元年五月 従五位下
六月 治部少輔
八年正月 従五位上
大原真人桜井の子か。長皇子の曾孫、川内王の孫
系譜未詳
天平十一年三月 大原真人姓

#[説明]


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4440
#[題詞]上総國朝集使大<掾>大原真人今城向京之時郡司妻女等餞之歌二首
#[原文]安之我良乃 夜敝也麻故要弖 伊麻之奈波 多礼乎可伎美等 弥都々志努波牟
#[訓読]足柄の八重山越えていましなば誰れをか君と見つつ偲はむ
#[仮名],あしがらの,やへやまこえて,いましなば,たれをかきみと,みつつしのはむ
#[左注]
#[校異]様 -> 掾 [元][類][紀]
#[鄣W],作者:上総国郡司妻,大原今城,羈旅,出発,千葉,地名,恋情,餞別
#[訓異]
#[大意]足柄の折り重なる山を越えて都へ行ってしまわれたら、誰をあなただとして見ながら偲ぼうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4441
#[題詞](上総國朝集使大<掾>大原真人今城向京之時郡司妻女等餞之歌二首)
#[原文]多知之奈布 伎美我須我多乎 和須礼受波 与能可藝里尓夜 故非和多里奈無
#[訓読]立ちしなふ君が姿を忘れずは世の限りにや恋ひわたりなむ
#[仮名],たちしなふ,きみがすがたを,わすれずは,よのかぎりにや,こひわたりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],作者:上総国郡司妻,大原今城,羈旅,出発,千葉,恋情,餞別
#[訓異]
#[大意]たち姿がしなやかなあなたの姿を忘れないならば命が終わるまで恋い続けることでしょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4442
#[題詞]五月九日兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴<歌>四首
#[原文]和我勢故我 夜度乃奈弖之故 比奈良倍弖 安米波布礼杼母 伊呂毛可波良受
#[訓読]我が背子が宿のなでしこ日並べて雨は降れども色も変らず
#[仮名],わがせこが,やどのなでしこ,ひならべて,あめはふれども,いろもかはらず
#[左注]右一首大原真人今城
#[校異]<> -> 歌 [元][細][温]
#[鄣W],天平勝宝7年5月9日,年紀,作者:大原今城,宴席,植物,大伴家持,主人讃美
#[訓異]
#[大意]あなたの家のナデシコは毎日雨が降っているが、色も変わらないことだ
#{語釈]
日並べて
08/1425H01あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも

大原真人今城 天平勝宝七歳二月頃 正六位上 上総国大掾
三月 上総国朝集使で在京
八歳二月 兵部大丞
天平宝字元年五月 従五位下
六月 治部少輔
八年正月 従五位上
大原真人桜井の子か。長皇子の曾孫、川内王の孫
系譜未詳
天平十一年三月 大原真人姓
#[説明]
ナデシコの不変を讃えることによる主人讃美
このナデシコのように主人家持もいつまでもお変わりがないと言ったもの
#[関連論文]


#[番号]20/4443
#[題詞](五月九日兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴<歌>四首)
#[原文]比佐可多<能> 安米波布里之久 奈弖之故我 伊夜波都波奈尓 故非之伎和我勢
#[訓読]ひさかたの雨は降りしくなでしこがいや初花に恋しき我が背
#[仮名],ひさかたの,あめはふりしく,なでしこが,いやはつはなに,こひしきわがせ
#[左注]右一首大伴宿祢家持
#[校異]乃 -> 能 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年5月9日,年紀,作者:大伴家持,植物,大原今城,客讃美,宴席,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]ひさかたの雨は降り続いている。なでしこの初花のように恋しく思われるあなたであることだ
#{語釈]
いや初花 たった今初めて咲いた花

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4444
#[題詞](五月九日兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴<歌>四首)
#[原文]和我世故我 夜度奈流波疑乃 波奈佐可牟 安伎能由布敝波 和礼乎之努波世
#[訓読]我が背子が宿なる萩の花咲かむ秋の夕は我れを偲はせ
#[仮名],わがせこが,やどなるはぎの,はなさかむ,あきのゆふへは,われをしのはせ
#[左注]右一首大原真人今城
#[校異]敝 [元][細] 弊
#[鄣W],天平勝宝7年5月9日,年紀,作者:大原今城,植物,大伴家持,惜別,恋情
#[訓異]
#[大意]わが背子の家にある萩の花が咲く秋の夕方は自分を思い出してください。
#{語釈]
我が背子が宿なる萩の花 家持の庭園に萩の木があった。秋に咲くことを想像している

秋の夕は我れを偲はせ 今城は上総へ戻っている。
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4445
#[題詞]即聞鴬哢作歌一首
#[原文]宇具比須乃 許恵波須疑奴等 於毛倍杼母 之美尓之許己呂 奈保古非尓家里
#[訓読]鴬の声は過ぎぬと思へどもしみにし心なほ恋ひにけり
#[仮名],うぐひすの,こゑはすぎぬと,おもへども,しみにしこころ,なほこひにけり
#[左注]右一首大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年5月9日,年紀,作者:大伴家持,動物,宴席,恋情,大原今城
#[訓異]
#[大意]鴬の鳴く声の季節は過ぎたと思うが、染みついた気持ちにはやはり恋しいことだ
#{語釈]
即ち鴬の哢(な)くを聞きて作る歌一首
大伴家の背後は佐保山になるので、夏でも鳴き声が聞こえるか。

しみにし心 鴬の鳴き声がしみついた気持ち もっと聞きたい気持ち

#[説明]
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#[番号]20/4446
#[題詞]同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首
#[原文]和我夜度尓 佐家流奈弖之故 麻比波勢牟 由米波奈知流奈 伊也乎知尓左家
#[訓読]我が宿に咲けるなでしこ賄はせむゆめ花散るないやをちに咲け
#[仮名],わがやどに,さけるなでしこ,まひはせむ,ゆめはなちるな,いやをちにさけ
#[左注]右一首丹比國人真人壽左大臣歌
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年5月11日,年紀,作者:丹比国人,橘諸兄,植物,宴席,客讃美,寿歌
#[訓異]
#[大意]我が宿に咲いているなでしこよ。贈り物をしよう。だから決して花は散るなよ。ますます若返って咲きなさい
#{語釈]
丹比國人真人 天平8年正月 従五位下
一八年四月 従五位上より正五位下
天平勝宝元年七月 正五位上
二年三月 太宰少貳
天平宝字元年六月 従四位下
七月 橘奈良麻呂乱に連座。伊豆配流

いやをちに咲け をち 若返る

#[説明]
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#[番号]20/4447
#[題詞](同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首)
#[原文]麻比之都々 伎美我於保世流 奈弖之故我 波奈乃未等波無 伎美奈良奈久尓
#[訓読]賄しつつ君が生ほせるなでしこが花のみ問はむ君ならなくに
#[仮名],まひしつつ,きみがおほせる,なでしこが,はなのみとはむ,きみならなくに
#[左注]右一首左大臣和歌
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],天平勝宝7年5月11日,年紀,作者:橘諸兄,丹比国人,宴席,戯笑,愛情
#[訓異]
#[大意]贈り物をしながらあなたが育てているなでしこの花ばかりを訪ねたあなたではないものなのに
#{語釈]
君ならなくに 花は実のない移り気なもの。あなたは、その時だけの気まぐれで訪れようなどとわたしが思うような相手ではないのだの意

新考 君は、我の誤りではないか。注釈 花のみを訪ねようとする自分ではないものを

#[説明]
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#[番号]20/4448
#[題詞](同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首)
#[原文]安治佐為能 夜敝佐久其等久 夜都与尓乎 伊麻世和我勢故 美都々思努波牟
#[訓読]あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ
#[仮名],あぢさゐの,やへさくごとく,やつよにを,いませわがせこ,みつつしのはむ
#[左注]右一首左大臣寄味狭藍花詠也
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年5月11日,年紀,作者:橘諸兄,寿歌,丹比国人,宴席,植物
#[訓異]
#[大意]あじさいが幾重にも咲くように幾代までもいらっしゃってください。我が背子よ。あじさいの花を見てはあなたを偲びましょう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4449
#[題詞]十八日左大臣<宴>於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首
#[原文]奈弖之故我 波奈等里母知弖 宇都良々々々 美麻久能富之伎 吉美尓母安流加母
#[訓読]なでしこが花取り持ちてうつらうつら見まくの欲しき君にもあるかも
#[仮名],なでしこが,はなとりもちて,うつらうつら,みまくのほしき,きみにもあるかも
#[左注]右一首治部卿船王
#[校異]<> -> 宴 [西(右書)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],天平勝宝7年5月18日,年紀,作者:船王,宴席,植物,主人讃美,恋愛,橘奈良麻呂
#[訓異]
#[大意]なでしこの花を手に取り持って、はっきりと見たいと思うあなたであることだ
#{語釈]
うつらうつら 代匠記 つらつら つらつら椿と同じ 続いて、つながって
略解 顕現なり いつまでも見まくほし
大坪併治 目にはっきりと

船王 天武天皇孫、舎人親王の子 淳仁天皇の兄
天平宝字元年七月 橘奈良麻呂乱の折りに、黄文王、道祖王、大伴古麻呂らを杖下に死せしむ
八年九月 藤原仲麻呂の連に連座。隠岐に配流

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4450
#[題詞](十八日左大臣<宴>於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首)
#[原文]和我勢故我 夜度能奈弖之故 知良米也母 伊夜波都波奈尓 佐伎波麻須等母
#[訓読]我が背子が宿のなでしこ散らめやもいや初花に咲きは増すとも
#[仮名],わがせこが,やどのなでしこ,ちらめやも,いやはつはなに,さきはますとも
#[左注](右二首兵部少輔大伴宿祢家持追作)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年5月18日,年紀,作者:大伴家持,植物,寿歌,宴席,主人讃美,橘奈良麻呂
#[訓異]
#[大意]我が背子の家のなでしこが散るということがあろうか。ますます新しく花が咲きほこるとしても
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4451
#[題詞](十八日左大臣<宴>於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首)
#[原文]宇流波之美 安我毛布伎美波 奈弖之故我 波奈尓奈<蘇>倍弖 美礼杼安可奴香母
#[訓読]うるはしみ我が思ふ君はなでしこが花になそへて見れど飽かぬかも
#[仮名],うるはしみ,あがもふきみは,なでしこが,はなになそへて,みれどあかぬかも
#[左注]右二首兵部少輔大伴宿祢家持追作
#[校異]曽 -> 蘇 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝7年5月18日,年紀,作者:大伴家持,主人讃美,宴席,寿歌,植物,橘奈良麻呂
#[訓異]
#[大意]いとおしく自分が恋い思うあなたはなでしこの花になぞえて見ても見飽きることがない
#{語釈]
#[説明]
追和、追作、追同 の類同性

02/0145D01山上臣憶良追和歌一首
05/0849D01後追和梅歌四首
05/0861D01後人追和之詩三首 [帥老]
05/0872D01後人追和
05/0873D01最後人追和
05/0874D01最々後人追和二首
05/0883D01三嶋王後追和松浦佐用嬪面歌一首
06/1015D01榎井王後追和歌一首 [志貴親王之子也]
17/3901D01追和大宰之時梅花新歌六首
17/3994S01右掾大伴宿祢池主作 [四月廿六日追和]
18/4063D01後追和橘歌二首
19/4165S01右二首追和山上憶良臣作歌
19/4174D01追和筑紫大宰之時春苑梅歌一首
20/4474S01右一首兵部少輔大伴宿祢家持後日追和出雲守山背王歌作之

04/0520D01後人追同歌一首
19/4211D01追同處女墓歌一首并短歌

15/3638D01過大嶋鳴門而経再宿之後追作歌二首
20/4451S01右二首兵部少輔大伴宿祢家持追作

#[関連論文]


#[番号]20/4452
#[題詞]八月十三日在内南安殿肆宴歌二首
#[原文]乎等賣良我 多麻毛須蘇婢久 許能尓波尓 安伎可是不吉弖 波奈波知里都々
#[訓読]娘子らが玉裳裾引くこの庭に秋風吹きて花は散りつつ
#[仮名],をとめらが,たまもすそびく,このにはに,あきかぜふきて,はなはちりつつ
#[左注]右一首内匠頭兼播磨守正四位下安宿王奏之
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年8月13日,年紀,作者:安宿王,肆宴,宮廷,宴席,叙景
#[訓異]
#[大意]娘子たちが美しい裳を裾引くこの庭に秋風が吹いて花は散り散りして
#{語釈]
内南安殿 続紀 天平勝宝三年正月 天皇、大極殿の南院に御して、百官主典巳上を宴す
大極殿の南の院か
全注 内裏の南殿 紫宸殿を指す

安宿(あすかべ)王 天武天皇曾孫 高市皇子の孫 長屋王の第五子 母は藤原不比等の娘
天平九年十月 従四位下
十二年十一月 従四位上
十八年四月 治部卿
天平勝宝元年八月 中務大輔
五年四月 播磨守
天平宝字元年七月 橘奈良麻呂の乱に連座 佐渡配流
宝亀四年十月 高階真人姓

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4453
#[題詞](八月十三日在内南安殿肆宴歌二首)
#[原文]安吉加是能 布伎古吉之家流 波奈能尓波 伎欲伎都久欲仁 美礼杼安賀奴香母
#[訓読]秋風の吹き扱き敷ける花の庭清き月夜に見れど飽かぬかも
#[仮名],あきかぜの,ふきこきしける,はなのには,きよきつくよに,みれどあかぬかも
#[左注]右一首兵部少輔従五位上大伴宿祢<家持> [未奏]
#[校異]<> -> 家持 [西(右書)][元][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝7年8月13日,年紀,作者:大伴家持,未奏,叙景,宮廷,肆宴
#[訓異]
#[大意]秋風が吹いてしごき落ちて地に敷いている花の庭よ。清らかな月夜に見ても見飽きることはない
#{語釈]
吹き扱き敷ける 秋風が吹いて花をしごき落として、地に散り敷いている風景

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4454
#[題詞]十一月廿八日左大臣集於兵部卿橘奈良麻呂朝臣宅宴歌一首
#[原文]高山乃 伊波保尓於布流 須我乃根能 祢母許呂其呂尓 布里於久白雪
#[訓読]高山の巌に生ふる菅の根のねもころごろに降り置く白雪
#[仮名],たかやまの,いはほにおふる,すがのねの,ねもころごろに,ふりおくしらゆき
#[左注]右一首左大臣作
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝7年11月28日,年紀,作者:橘諸兄,植物,橘奈良麻呂,寿歌
#[訓異]
#[大意]高い山の巌に生えている菅の根ではないが、ねんごろに降り積もる白雪であることだ
#{語釈]
ねもころごろに ねんごろに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4455
#[題詞]天平元年班田之時使葛城王従山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首[副芹子褁]
#[原文]安可祢<左>須 比流波多々婢弖 奴婆多麻乃 欲流乃伊刀末仁 都賣流芹子許礼
#[訓読]あかねさす昼は田賜びてぬばたまの夜のいとまに摘める芹これ
#[仮名],あかねさす,ひるはたたびて,ぬばたまの,よるのいとまに,つめるせりこれ
#[左注](右二首左大臣讀之云尓 [左大臣是葛城王 後賜橘姓也])
#[校異]佐 -> 左 [元][類]
#[鄣W],天平1年,年紀,作者:橘諸兄:葛城王,薩妙觀,贈答,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]あかねさす昼は田を班給する仕事に従事して、ぬばたまの夜の暇な時に摘んだ芹であるぞ。これは。
#{語釈]
葛城王 三野王の子 母は県犬養橘三千代
天平八年11月 橘宿禰姓 橘諸兄となる

薩妙觀 養老五年 従五位下
天平九年二月 正五位上
元正から聖武にかけて内侍司の典侍か。天平九年の悪疫で死亡

田賜びて 班田の仕事に従事して

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4456
#[題詞](天平元年班田之時使葛城王従山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首[副芹子褁])薩妙觀命婦報贈歌一首
#[原文]麻須良乎等 於毛敝流母能乎 多知波吉弖 可尓波乃多為尓 世理曽都美家流
#[訓読]大夫と思へるものを太刀佩きて可尓波の田居に芹ぞ摘みける
#[仮名],ますらをと,おもへるものを,たちはきて,かにはのたゐに,せりぞつみける
#[左注]右二首左大臣讀之云尓 [左大臣是葛城王 後賜橘姓也]
#[校異]
#[鄣W],天平1年,年紀,作者:薩妙觀,橘諸兄,葛城王,贈答,植物,戯笑
#[訓異]
#[大意]あなたは大夫だと思っていたのに、太刀を佩いて綺田の田圃で芹を摘んでいるのですか。
#{語釈]
可尓波の田居 和名抄山城国相楽郡 蟹幡 加無波多 現在相楽郡山城町綺田(かばた) 元棚倉村

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4457
#[題詞]天平勝寶八歳丙申二月朔乙酉廿四日戊申 太上天皇<大>后幸行於河内離宮 經信以壬子傳幸於難波宮也 三月七日於河内國伎人郷馬國人之家宴歌三首
#[原文]須美乃江能 波麻末都我根乃 之多<婆>倍弖 和我見流乎努能 久佐奈加利曽祢
#[訓読]住吉の浜松が根の下延へて我が見る小野の草な刈りそね
#[仮名],すみのえの,はままつがねの,したはへて,わがみるをのの,くさなかりそね
#[左注]右一首兵部少輔大伴宿祢家持
#[校異]太皇太 -> 大 [元][温] / 波 -> 婆 [元][類][古]
#[鄣W],天平勝宝8年2月24日,年紀,作者:大伴家持,宴席,地名,大阪,難波,植物,恋愛,主人讃美,馬国人
#[訓異]
#[大意]住吉の浜松の根が地に延びているように、心密かに自分が見る小野の草を刈らないでほしい
#{語釈]
幸行於河内離宮 続紀 天平勝宝八年二月二四日 天皇難波に行幸。河内国の智識寺の南の行宮に泊まる
二月二五日 智識、山下、大里、三宅、家原、烏坂等の六寺に幸し、礼仏のことあり。
二六日 内舎人を六寺に遣わし、布施の寄進
二八日(壬子) 難波宮に行幸。東南新宮に泊まる。
三月1日 堀江に行幸
四月一五日 渋河路を取って智識寺行宮に幸す。
一七日 平城宮に還幸。

經信 ふたよを経て 信 毛詩周頌(しょう) 有客 客有り。宿宿たり。客有り。信信たり。 伝 一宿を宿と曰ふ。再宿を信と曰ふ。

伎人郷(くれのさと) 職員令 伎楽 呉(くれ)楽也。 伎楽の人ということで「くれのさと」
東住吉区喜連町

馬國人 天平宝字八年十月 外従五位下
天平神護元年十二月 姓武生連を賜う

#[説明]
現地の歌垣歌をもとにして作ったものか。

#[関連論文]


#[番号]20/4458
#[題詞](天平勝寶八歳丙申二月朔乙酉廿四日戊申 太上天皇<大>后幸行於河内離宮 經信以壬子傳幸於難波宮也 三月七日於河内國伎人郷馬國人之家宴歌三首)
#[原文]尓保杼里乃 於吉奈我河波半 多延奴等母 伎美尓可多良武 己等都奇米也母 [古新未詳]
#[訓読]にほ鳥の息長川は絶えぬとも君に語らむ言尽きめやも [古新未詳]
#[仮名],にほどりの,おきながかはは,たえぬとも,きみにかたらむ,ことつきめやも
#[左注]右一首主人散位寮散位馬史國人
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年2月24日,年紀,作者:馬国人,枕詞,宴席,伝誦,古歌,地名,近江,志賀,大阪,難波
#[訓異]
#[大意]にほ鳥の息長川は絶えてしまうとしてもあなたにお話することが尽きるということがあろうか
#{語釈]
にほ鳥の かいつぶり 水に潜って息が長く続くことから息長の枕詞

息長川 地名辞書 今天野川又箕浦川という。伊吹山の西南、弥高(いやたか)大清水の辺より発し、西南流、長岡醒井を経て西に折れ、筑摩の北に至り湖に入る。
近江の古歌か

散位 位があって役職のない人

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4459
#[題詞](天平勝寶八歳丙申二月朔乙酉廿四日戊申 太上天皇<大>后幸行於河内離宮 經信以壬子傳幸於難波宮也 三月七日於河内國伎人郷馬國人之家宴歌三首)
#[原文]蘆苅尓 保<里>江許具奈流 可治能於等波 於保美也比等能 未奈伎久麻泥尓
#[訓読]葦刈りに堀江漕ぐなる楫の音は大宮人の皆聞くまでに
#[仮名],あしかりに,ほりえこぐなる,かぢのおとは,おほみやひとの,みなきくまでに
#[左注]右一首式部少丞大伴宿祢池主讀之 即兵部大丞大原真人今城 先日他所讀歌者也
#[校異]利 -> 里 [元][類]
#[鄣W],天平勝宝8年2月24日,年紀,作者:大伴池主,地名,難波,大阪,宴席,馬国人
#[訓異]
#[大意]葦を刈りに堀江を漕いでいるらしい楫の音は大宮人がみんな聞くほどに大きく立っているよ
#{語釈]
先つ日に他(あだし)所にて讀む歌なりといふ

#[説明]
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#[番号]20/4460
#[題詞]
#[原文]保利江己具 伊豆手乃船乃 可治都久米 於等之婆多知奴 美乎波也美加母
#[訓読]堀江漕ぐ伊豆手の舟の楫つくめ音しば立ちぬ水脈早みかも
#[仮名],ほりえこぐ,いづてのふねの,かぢつくめ,おとしばたちぬ,みをはやみかも
#[左注](右三首江邊作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年2月24日,年紀,作者:大伴家持,行幸,地名,難波,大阪,叙景
#[訓異]
#[大意]堀江を漕ぐ伊豆手の船の舵のつくめの軋る音がたいそう立っている。水の流れが速いからだろうか
#{語釈]
伊豆手の舟 伊豆で作られた船。 伊豆風の船
20/4336H01防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船楫取る間なく恋は繁けむ

楫つくめ 注釈 8/1546 つくめ 楫を舷に束ね結ぶ部分の名称
全註釈 抑えて動かない意
大系 櫓を強くにぎって

#[説明]
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#[番号]20/4461
#[題詞]
#[原文]保里江欲利 美乎左<香>能保流 <梶>音乃 麻奈久曽奈良波 古非之可利家留
#[訓読]堀江より水脈さかのぼる楫の音の間なくぞ奈良は恋しかりける
#[仮名],ほりえより,みをさかのぼる,かぢのおとの,まなくぞならは,こひしかりける
#[左注](右三首江邊作之)
#[校異]可 -> 香 [元][類][古] / 梶乃 -> 梶 [元][類][古]
#[鄣W],天平勝宝8年2月24日,年紀,作者:大伴家持,行幸,望郷,地名,奈良,序詞,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]堀江より流れをさかのぼる楫の音が間断ないようにしきりに奈良は恋しいことであるよ
#{語釈]
#[説明]
類歌
17/4027H01香島より熊来をさして漕ぐ船の楫取る間なく都し思ほゆ

#[関連論文]


#[番号]20/4462
#[題詞]
#[原文]布奈藝保布 保利江乃可波乃 美奈伎波尓 伎為都々奈久波 美夜故杼里香蒙
#[訓読]舟競ふ堀江の川の水際に来居つつ鳴くは都鳥かも
#[仮名],ふなぎほふ,ほりえのかはの,みなきはに,きゐつつなくは,みやこどりかも
#[左注]右三首江邊作之
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年2月24日,年紀,作者:大伴家持,動物,地名,大阪,難波,叙景
#[訓異]
#[大意]船が競い合っている堀江の川の水際にやって来て鳴くのは都鳥であるのかなあ
#{語釈]
都鳥 ちどり科のみやことり
かもめ科のゆりかもめ

#[説明]
望郷歌
#[関連論文]


#[番号]20/4463
#[題詞]
#[原文]保等登藝須 麻豆奈久安佐氣 伊可尓世婆 和我加度須疑自 可多利都具麻埿
#[訓読]霍公鳥まづ鳴く朝明いかにせば我が門過ぎじ語り継ぐまで
#[仮名],ほととぎす,まづなくあさけ,いかにせば,わがかどすぎじ,かたりつぐまで
#[左注](右二首廿日大伴宿祢家持依興作之)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年3月20日,年紀,作者:大伴家持,動物,依興
#[訓異]
#[大意]ほととぎすがまず鳴く明け方にどのようにすれば自分の家の門口を過ぎないのだろうか。語り継ぐほどに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4464
#[題詞]
#[原文]保等登藝須 可氣都々伎美我 麻都可氣尓 比毛等伎佐久流 都奇知可都伎奴
#[訓読]霍公鳥懸けつつ君が松蔭に紐解き放くる月近づきぬ
#[仮名],ほととぎす,かけつつきみが,まつかげに,ひもときさくる,つきちかづきぬ
#[左注]右二首廿日大伴宿祢家持依興作之
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年3月20日,年紀,作者:大伴家持,動物,依興
#[訓異]
#[大意]ほととぎすを心にかけながらあなたが松陰に紐を解いてうちとけて遊ぶ月が近づいたことだ
#{語釈]
右二首 元暦校本 五首 前の三首も含めて数えた。
仙覚が二首に改めたか

#[説明]
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#[番号]20/4465
#[題詞]喩族歌一首[并短歌]
#[原文]比左加多能 安麻能刀比良伎 多可知保乃 多氣尓阿毛理之 須賣呂伎能 可未能御代欲利 波自由美乎 多尓藝利母多之 麻可胡也乎 多婆左美蘇倍弖 於保久米能 麻須良多祁乎々 佐吉尓多弖 由伎登利於保世 山河乎 伊波祢左久美弖 布美等保利 久尓麻藝之都々 知波夜夫流 神乎許等牟氣 麻都呂倍奴 比等乎母夜波之 波吉伎欲米 都可倍麻都里弖 安吉豆之萬 夜萬登能久尓乃 可之<波>良能 宇祢備乃宮尓 美也<婆>之良 布刀之利多弖氐 安米能之多 之良志賣之祁流 須賣呂伎能 安麻能日継等 都藝弖久流 伎美能御代々々 加久左波奴 安加吉許己呂乎 須賣良弊尓 伎波米都久之弖 都加倍久流 於夜能都可佐等 許等太弖氐 佐豆氣多麻敝流 宇美乃古能 伊也都藝都岐尓 美流比等乃 可多里都藝弖氐 伎久比等能 可我見尓世武乎 安多良之伎 吉用伎曽乃名曽 於煩呂加尓 己許呂於母比弖 牟奈許等母 於夜乃名多都奈 大伴乃 宇治等名尓於敝流 麻須良乎能等母
#[訓読]久方の 天の門開き 高千穂の 岳に天降りし 皇祖の 神の御代より はじ弓を 手握り持たし 真鹿子矢を 手挟み添へて 大久米の ますらたけをを 先に立て 靫取り負ほせ 山川を 岩根さくみて 踏み通り 国求ぎしつつ ちはやぶる 神を言向け まつろはぬ 人をも和し 掃き清め 仕へまつりて 蜻蛉島 大和の国の 橿原の 畝傍の宮に 宮柱 太知り立てて 天の下 知らしめしける 天皇の 天の日継と 継ぎてくる 君の御代御代 隠さはぬ 明き心を すめらへに 極め尽して 仕へくる 祖の官と 言立てて 授けたまへる 子孫の いや継ぎ継ぎに 見る人の 語り継ぎてて 聞く人の 鏡にせむを 惜しき 清きその名ぞ おぼろかに 心思ひて 空言も 祖の名絶つな 大伴の 氏と名に負へる 大夫の伴
#[仮名],ひさかたの,あまのとひらき,たかちほの,たけにあもりし,すめろきの,かみのみよより,はじゆみを,たにぎりもたし,まかごやを,たばさみそへて,おほくめの,ますらたけをを,さきにたて,ゆきとりおほせ,やまかはを,いはねさくみて,ふみとほり,くにまぎしつつ,ちはやぶる,かみをことむけ,まつろはぬ,ひとをもやはし,はききよめ,つかへまつりて,あきづしま,やまとのくにの,かしはらの,うねびのみやに,みやばしら,ふとしりたてて,あめのした,しらしめしける,すめろきの,あまのひつぎと,つぎてくる,きみのみよみよ,かくさはぬ,あかきこころを,すめらへに,きはめつくして,つかへくる,おやのつかさと,ことだてて,さづけたまへる,うみのこの,いやつぎつぎに,みるひとの,かたりつぎてて,きくひとの,かがみにせむを,あたらしき,きよきそのなぞ,おぼろかに,こころおもひて,むなことも,おやのなたつな,おほともの,うぢとなにおへる,ますらをのとも
#[左注](右縁淡海真人三船讒言出雲守大伴古慈斐宿祢解任 是以家持作此歌也)(以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 婆 -> 波 [元] / 波 -> 婆 [元][紀][細] / 左 [紀][細] 佐
#[鄣W],天平勝宝8年6月17日,年紀,作者:大伴家持,枕詞,氏族意識,大伴古慈悲,説教,淡海三船
#[訓異]
#[大意]久方の天の門を開いて高千穂の峰に降臨された皇祖の神の御代から 梔弓を手に握りお持ちになり、真鹿児矢を手挟み添えて、大久米の勇猛な軍兵を先に立てて靫を背負わせ、山川を磐根を踏み破って踏み通り、国を求めながら荒々しい神を鎮め、服従しない人をも和らげ、掃き清めお仕え申し上げて、あきづ島大和の国の橿原の畝傍の宮に宮柱をりっぱにお建てになり、天下をお治めになった天皇の継承者として継いで来る天皇の御代御代に隠すところのない清明な心を天皇のお側に極め尽くしてお仕え申し上げてきた祖先伝来の官職として言葉に立てて(天皇が)お授けくださった子孫のますます継ぎ継ぎに見る人が語り継ぎ聞く人の鏡にしようものなのに、大切にすべき清らかなその名であるぞ。おろそかに心に思ってかりそめにも親の名前を絶ってはいけないぞ。大伴の氏と名前に負っている大夫のともがらよ。
#{語釈]
天の門 神代紀第四一書
 一書に曰はく、高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)、真床覆衾(まとこおふふすま)を以て、天津彦国光彦火瓊瓊杵尊(あまつひこくにてるひこほのににぎのみこと)に■(き)せま つりて、則ち天磐戸(あまのいはと)を引(ひ)き開(あ)け、天八重雲(あめのやへたなぐも)を排分(おしわ)けて、降(あまくだ)し奉(まつ)る。時に、大伴連(おほとものむらじ) の遠祖(とほつおや)天忍日命(あまのおしひのみこと)、来目部(くめべ)の遠祖天■津大来目(あめくしつのおほくめ)を帥(ひき)ゐて、背(そびら)には天磐靫(あまのいはゆき)を負(お)ひ、臂(ただむき)には稜威(いつ)の高鞆(たかとも)を著(は)き、手(て)には天梔弓(あまのはじゆみ)・天羽羽矢(あまのははや)を捉(と)り、八目鳴鏑(やつめのかぶら)を副持(とりそ)へ、又頭槌劒(かぶつちのつるぎ)を帯(は)きて、天孫(あめみま)の前(みさき)に立(た)ちて、遊行(ゆ)き降来(くだ)りて、日向(ひむか)の襲(そ)の高千穂(たかちほ)の ■日(くしひ)の二上峯(ふたがみのたけ)の天浮橋(あまのうきはし)に到(いた)りて、浮渚在之平地(うきじまりたひら)に立たして、膂宍(そしし)の空国(むなくに)を、
頓丘(ひたを)から国(くに)覓(ま)ぎ行去(とほ)りて、吾田(あた)の長屋(ながや)の笠狭(かささ)の御碕(みさき)に到ります。(P156)

皇祖の神 ニニギ命 スメ 皇統に関係する語

天忍穂耳命 -- ニニギ |- ホデリ(海幸)
| |- ホヲリ(山幸)
|-------------------|-ホスセリ |
木の花の咲くや姫 |-------ウガヤフキアヘズ
海神-----------豊玉姫 |--カムヤマト
| イハレビコ
玉依姫


はじ弓 ハゼの木で作った弓 梔
真鹿子矢 鹿を射る為の矢
大久米のますらたけを 18/4094
記 天忍日命 紀 道臣 日臣 久米部を率いる
言向け 言葉の力で従わせる
祭りを行って鎮める
まつろはぬ 原文「麻都呂倍奴」 倍 普通は「ヘ」ハの仮名として用いられている
17/4016、4027
人をも和し 2/0199 やわらかにする 和平にする
天皇 神武天皇
隠さはぬ 隠さふ 人に対して隠さなければならないところのない
祖の官と 祖先からの官職として
言立てて 特に言葉に出して 言い立てて
授けたまへる 主格は天皇 天皇がお授けになった
子孫の 生みの子 子孫
惜しき 惜しむべき 大切にすべき
空言も むなしい言葉にも かりそめにも

#[説明]
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#[番号]20/4466
#[題詞](喩族歌一首[并短歌])
#[原文]之奇志麻乃 夜末等能久尓々 安伎良氣伎 名尓於布等毛能乎 己許呂都刀米与
#[訓読]磯城島の大和の国に明らけき名に負ふ伴の男心つとめよ
#[仮名],しきしまの,やまとのくにに,あきらけき,なにおふとものを,こころつとめよ
#[左注](右縁淡海真人三船讒言出雲守大伴古慈斐宿祢解任 是以家持作此歌也)(以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年6月17日,年紀,作者:大伴家持,氏族意識,枕詞,説教,大伴古慈悲,淡海三船
#[訓異]
#[大意]敷島の大和の国に忠誠深い汚れない氏の名を背負っている伴の男であるぞ。心から精進努力をしなさい

#{語釈]
敷島の そらみつ、あをによし等と比べて改まった時に使われる傾向が見られる。
欽明天皇 敷島の金刺の宮からくるか。
09/1787H01うつせみの 世の人なれば 大君の 命畏み 敷島の 大和の国の 石上
13/3248H01磯城島の 大和の国に 人さはに 満ちてあれども 藤波の 思ひまつはり
13/3249H01磯城島の大和の国に人ふたりありとし思はば何か嘆かむ
13/3254H01磯城島の大和の国は言霊の助くる国ぞま幸くありこそ
13/3326H01礒城島の 大和の国に いかさまに 思ほしめせか つれもなき
19/4280H01立ち別れ君がいまさば磯城島の人は我れじく斎ひて待たむ
20/4466H01磯城島の大和の国に明らけき名に負ふ伴の男心つとめよ

あきらけき 清明からくる忠誠心を象徴した言葉
#[説明]
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#[番号]20/4467
#[題詞](喩族歌一首[并短歌])
#[原文]都流藝多知 伊与餘刀具倍之 伊尓之敝由 佐夜氣久於比弖 伎尓之曽乃名曽
#[訓読]剣太刀いよよ磨ぐべし古ゆさやけく負ひて来にしその名ぞ
#[仮名],つるぎたち,いよよとぐべし,いにしへゆ,さやけくおひて,きにしそのなぞ
#[左注]右縁淡海真人三船讒言出雲守大伴古慈斐宿祢解任 是以家持作此歌也 (以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年6月17日,年紀,作者:大伴家持,氏族意識,説教,大伴古慈悲,淡海三船
#[訓異]
#[大意]剣太刀をもっと研ぎなさい。昔からさやかに背負って来たその氏の名前であるぞ。
#{語釈]
右、淡海真人三船の讒言に縁りて、出雲守大伴古慈斐宿祢解任せらる。是を以て家持此の歌を作る也。

続日本紀
天平勝宝08/05/10/癸亥、出雲國守從四位上大伴宿祢古慈斐、内堅淡海眞人三船、坐誹謗朝廷、无人臣之礼、禁於左右衛士府
天平勝宝08/05/13/丙寅、詔並放免

続日本紀によれば2人が朝廷を誹謗した罪で受禁されている。3日後には放免。
左注は、三船の讒言となっていて異なっている。

天平勝宝08/05/02/五月乙夘、聖武上皇崩御
崩御時の緊張時の中で見とがめられた。

朝廷の誹謗とは、おそらく藤原仲麻呂を批判したか。

宝亀8年8月19日古慈悲薨卒伝
勝寳年中累遷從四位上衛門督俄遷出雲守。自見踈外、意常欝欝。紫微内相藤原仲滿、誣以誹謗、左降土佐守、促令之任
仲麻呂が背後で2人を讒言した。
詳しくは不明。

#[説明]
歌の意味
家持が大伴氏の統領であり事件を契機に一族を戒めたという考えが一般的。
しかし、
家持よりも高位高官の一族は、
兄麻呂(正四位下)、稲公(正五位下)がいる。歌の実効性は疑われる。

一族への伴造意識という家持の正義感が創作の動機か。
伊藤博 亡き聖武上皇への謝罪の気持ち

#[関連論文]


#[番号]20/4468
#[題詞]臥病悲無常欲修道作歌二首
#[原文]宇都世美波 加受奈吉身奈利 夜麻加波乃 佐夜氣吉見都々 美知乎多豆祢奈
#[訓読]うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ねな
#[仮名],うつせみは,かずなきみなり,やまかはの,さやけきみつつ,みちをたづねな
#[左注](以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年6月17日,年紀,作者:大伴家持,無常,仏教,求道
#[訓異]
#[大意]現実のこの世はものの数にも入らない我が身である。山川の清かなのを見ながら道を尋ねよう
#{語釈]
病に臥して無常を悲しび道を修めんと欲する歌二首
道 仏道  悟りの境地

#[説明]
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#[番号]20/4469
#[題詞](臥病悲無常欲修道作歌二首)
#[原文]和多流日能 加氣尓伎保比弖 多豆祢弖奈 伎欲吉曽能美知 末多母安波無多米
#[訓読]渡る日の影に競ひて尋ねてな清きその道またもあはむため
#[仮名],わたるひの,かげにきほひて,たづねてな,きよきそのみち,またもあはむため
#[左注](以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年6月17日,年紀,作者:大伴家持,無常,仏教,求道
#[訓異]
#[大意]空を渡る太陽の光と競争して訪ねよう。清らかなその道にまたも会うために
#{語釈]
またも会う  何に会うのか不明。ただ清らかなその道であり、聖武天皇の昔の理想的な世の中か。

#[説明]
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#[番号]20/4470
#[題詞]願壽作歌一首
#[原文]美都煩奈須 可礼流身曽等波 之礼々杼母 奈保之祢我比都 知等世能伊乃知乎
#[訓読]水泡なす仮れる身ぞとは知れれどもなほし願ひつ千年の命を
#[仮名],みつぼなす,かれるみぞとは,しれれども,なほしねがひつ,ちとせのいのちを
#[左注]以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年6月17日,年紀,作者:大伴家持,無常,仏教,求道,寿歌
#[訓異]
#[大意]みつぼのような仮の身だとは知っているが、なお願うことだ。千年の命を
#{語釈]
みつぼ ここだけの用例。水つぼで水たまりか。水粒、水の泡など諸説ある。

#[説明]
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#[番号]20/4471
#[題詞]冬十一月五日夜小雷起鳴雪落覆庭忽懐<感>憐聊作短歌一首
#[原文]氣能己里能 由伎尓安倍弖流 安之比奇<乃> 夜麻多知波奈乎 都刀尓通弥許奈
#[訓読]消残りの雪にあへ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な
#[仮名],けのこりの,ゆきにあへてる,あしひきの,やまたちばなを,つとにつみこな
#[左注]右一首兵部少輔大伴宿祢家持
#[校異]盛 -> 感 [西(朱訂正)][元][紀][細] / 之 -> 乃 [元][類] / 波 [元] 婆
#[鄣W],天平勝宝8年11月5日,年紀,作者:大伴家持,植物
#[訓異]
#[大意]消え残りの雪に照り映えているあしひきの山橘をみやげに摘んで来よう
#{語釈]
小雷起りて鳴り、雪落(ふ)りて庭を覆(おほ)ふ。忽に<感>憐(かんれん)を懐(むだ)き、聊かに作る短歌一首

山橘 やぶこうじ 常緑低木 花は白く、秋に深紅の実をつける
19/4226 この雪の消残る時にいざ行かな山橘の実の照るも見む

あへ照る 交わって輝いている
つと みやげ 包み物 山へ行って山づととして取ってこようというもの

#[説明]
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#[番号]20/4472
#[題詞]八日讃岐守安宿王等集於出雲掾安宿奈杼麻呂之家宴歌二首
#[原文]於保吉美乃 美許登加之古美 於保乃宇良乎 曽我比尓美都々 美也古敝能保流
#[訓読]大君の命畏み於保の浦をそがひに見つつ都へ上る
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,おほのうらを,そがひにみつつ,みやこへのぼる
#[左注]右掾安宿奈杼麻呂
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年11月8日,年紀,作者:安宿奈杼麻呂,宴席,出発,安宿王,地名,島根,意宇浦,羈旅,餞別
#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ多く思って、意宇の浦を背後に身ながら都へ上ることだ。
#{語釈]
讃岐守安宿王 高市皇子の孫 長屋王の子 正四位下 4301 4452
       いつ讃岐守となったかは不明
奈良麻呂謀反事件に際し、佐渡に流罪
朝集使として帰京していたか。

出雲掾安宿奈杼麻呂 出雲守山背王が安宿王の弟
          安宿王を傅育(ふいく)した家か。
          天平神護元年 正六位上から外従五位下

於保の浦 意宇の浦(中海)のことか。 意宇の海 03/0371 04/0536

#[説明]
#[関連論文]
類歌
03/0297H01昼見れど飽かぬ田子の浦大君の命畏み夜見つるかも


#[番号]20/4473
#[題詞](八日讃岐守安宿王等集於出雲掾安宿奈杼麻呂之家宴歌二首)
#[原文]宇知比左須 美也古乃比等尓 都氣麻久波 美之比乃其等久 安里等都氣己曽
#[訓読]うちひさす都の人に告げまくは見し日のごとくありと告げこそ
#[仮名],うちひさす,みやこのひとに,つげまくは,みしひのごとく,ありとつげこそ
#[左注]右一首守山背王歌也 主人安宿奈杼麻呂語云 奈杼麻呂被差朝集使擬入京師 因此餞之日各<作>歌聊陳所心也
#[校異]作此 -> 作 [元]
#[鄣W],天平勝宝8年11月8日,年紀,作者:山背王,安宿王,安宿奈杼麻呂,宴席,出発,羈旅,餞別,島根
#[訓異]
#[大意]うち日さす都の人に告げることには、会っていた日のようにいると告げて欲しい
#{語釈]
奈杼麻呂、朝集使に差(つかは)さえ、京師に入らむとす。此に因りて餞する日に各歌を作りて聊か所心を陳ぶ」といふ。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4474
#[題詞]
#[原文]武良等里乃 安佐太知伊尓之 伎美我宇倍波 左夜加尓伎吉都 於毛比之其等久 [一云 於毛比之母乃乎]
#[訓読]群鳥の朝立ち去にし君が上はさやかに聞きつ思ひしごとく [一云 思ひしものを]
#[仮名],むらどりの,あさだちいにし,きみがうへは,さやかにききつ,おもひしごとく,[おもひしものを]
#[左注]右一首兵部少輔大伴宿祢家持後日追和出雲守山背王歌作之
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年11月8日,年紀,作者:大伴家持,追和,山背王,推敲
#[訓異]
#[大意]鳥の群れが朝出発するように朝都を出発して行ったあなたのうわさははっきりと聞いた。何事もないようにと思っていたように(思っていたことではあるが)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4475
#[題詞]廿三日集於式部少丞大伴宿祢池主之宅飲宴歌二首
#[原文]波都由伎波 知敝尓布里之家 故非之久能 於保加流和礼波 美都々之努波牟
#[訓読]初雪は千重に降りしけ恋ひしくの多かる我れは見つつ偲はむ
#[仮名],はつゆきは,ちへにふりしけ,こひしくの,おほかるわれは,みつつしのはむ
#[左注](右二首兵部大丞大原真人今城)
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年11月23日,年紀,作者:大原今城,宴席,大伴池主,恋情
#[訓異]
#[大意]初雪は幾重にも降り積もってくれ。恋しいことの多い自分は見ながら偲ぼうから
#{語釈]
#[説明]
主人のことを恋しい人と言って、宴で讃めた言い方

#[関連論文]


#[番号]20/4476
#[題詞](廿三日集於式部少丞大伴宿祢池主之宅飲宴歌二首)
#[原文]於久夜麻能 之伎美我波奈能 奈能其等也 之久之久伎美尓 故非和多利奈無
#[訓読]奥山のしきみが花の名のごとやしくしく君に恋ひわたりなむ
#[仮名],おくやまの,しきみがはなの,なのごとや,しくしくきみに,こひわたりなむ
#[左注]右二首兵部大丞大原真人今城
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝8年11月23日,年紀,作者:大原今城,植物,大伴池主,宴席,恋情
#[訓異]
#[大意]奥山のしきみの花の名前のように重ね重ねあなたに恋い続けることであろうか
#{語釈]
しきみが花 万葉集中この一例 樒 モクレン科の常緑高木 四月頃淡黄色の花を開く

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4477
#[題詞]智努女王卒後圓方女王悲傷作歌一首
#[原文]由布義<理>尓 知杼里乃奈吉志 佐保治乎婆 安良之也之弖牟 美流与之乎奈美
#[訓読]夕霧に千鳥の鳴きし佐保路をば荒しやしてむ見るよしをなみ
#[仮名],ゆふぎりに,ちどりのなきし,さほぢをば,あらしやしてむ,みるよしをなみ
#[左注](右件四首傳讀兵部大丞大原今城)
#[校異]利 -> 理 [元][類][紀]
#[鄣W],作者:圓方女王,挽歌,悲別,哀悼,動物,地名,奈良,智努女王,伝誦,古歌,大原今城#[訓異]
#[大意]夕霧の中で千鳥が鳴いていた佐保路を人気もなく荒らしてしまうのであろうか。会うてだてもなくて。
#{語釈]
智努女王 長屋王の妻妾、圓方女王の母か。
     神亀元年従四位下より従三位
圓方女王 長屋王の娘。智努女王の子か。
     天平9年 従五位下
     宝亀5年12月20日正三位で薨。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]20/4478
#[題詞]大原櫻井真人行佐保川邊之時作歌一首
#[原文]佐保河波尓 許保里和多礼流 宇須良婢乃 宇須伎許己呂乎 和我於毛波奈久尓
#[訓読]佐保川に凍りわたれる薄ら氷の薄き心を我が思はなくに
#[仮名],さほがはに,こほりわたれる,うすらびの,うすきこころを,わがおもはなくに
#[左注](右件四首傳讀兵部大丞大原今城)
#[校異]
#[鄣W],作者:大原櫻井,地名,奈良,序詞,恋歌,大原今城,伝誦,古歌,相聞
#[訓異]
#[大意]佐保川にうっすらと一面に凍っている薄氷ではないが、うすっぺらな気持ちで自分は思っているというわけではないことだ
#{語釈]
大原櫻井真人 長皇子の孫。桜井王 天平11年4月 臣籍降下

#[説明]
類歌
16/3807H01安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに
#[関連論文]


#[番号]20/4479
#[題詞]藤原夫人歌一首 [浄御原宮御宇天皇之夫人也 字曰氷上大刀自也]
#[原文]安佐欲比尓 祢能未之奈氣婆 夜伎多知能 刀其己呂毛安礼<波> 於母比加祢都毛
#[訓読]朝夕に音のみし泣けば焼き太刀の利心も我れは思ひかねつも
#[仮名],あさよひに,ねのみしなけば,やきたちの,とごころもあれは,おもひかねつも
#[左注](右件四首傳讀兵部大丞大原今城)
#[校異]婆 -> 波 [元][紀][細]
#[鄣W],作者:藤原氷上夫人,古歌,伝誦,大原今城,枕詞,恋情,相聞
#[訓異]
#[大意]朝夕に大声を上げて泣いてばかりいると焼き太刀ではないが、しっかりとした気持ちも自分は思うことが出来ないことだ
#{語釈]
利心 理性 しっかりとした心

#[説明]
天武天皇崩御に関わる挽歌か
#[関連論文]


#[番号]20/4480
#[題詞]
#[原文]可之故伎也 安米乃美加度乎 可氣都礼婆 祢能未之奈加由 安佐欲比尓之弖 [作者未詳]
#[訓読]畏きや天の御門を懸けつれば音のみし泣かゆ朝夕にして [作者未詳]
#[仮名],かしこきや,あめのみかどを,かけつれば,ねのみしなかゆ,あさよひにして
#[左注]右件四首傳讀兵部大丞大原今城
#[校異]
#[鄣W],伝誦,古歌,大原今城,悲嘆
#[訓異]
#[大意]恐れ多い天の御門である天皇の御門を心に懸けてたので、声を上げてばかり泣かれることだ。朝夕にあって。
#{語釈]
#[説明]
上と同じく天武天皇崩御に関わる挽歌か
#[関連論文]


#[番号]20/4481
#[題詞]三月四日於兵部大丞大原真人今城之宅宴歌一首
#[原文]安之比奇能 夜都乎乃都婆吉 都良々々尓 美等母安<可>米也 宇恵弖家流伎美
#[訓読]あしひきの八つ峰の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君
#[仮名],あしひきの,やつをのつばき,つらつらに,みともあかめや,うゑてけるきみ
#[左注]右兵部少輔大伴家持属植椿作
#[校異]加 -> 可 [元][類][古]
#[鄣W],天平勝宝9年3月4日,年紀,作者:大伴家持,宴席,大原今城,序詞,植物,枕詞,主人讃美,属目
#[訓異]
#[大意]あしひきのあちらこちらの嶺の椿をじっくりと見ても見飽きることがあろうか。これを植えたあなたも
#{語釈]
つらつらに  凝視するさま

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4482
#[題詞]
#[原文]保里延故要 等保伎佐刀麻弖 於久利家流 伎美我許己呂波 和須良由麻之<自>
#[訓読]堀江越え遠き里まで送り来る君が心は忘らゆましじ
#[仮名],ほりえこえ,とほきさとまで,おくりける,きみがこころは,わすらゆましじ
#[左注]右一首播磨介藤原朝臣執弓赴任悲別也 主人大原今城傳讀云尓
#[校異]目 -> 自 [元]
#[鄣W],天平勝宝9年3月4日,年紀,作者:藤原執弓,地名,難波,大阪,古歌,伝誦,大原今城,宴席,悲別,餞別,転用
#[訓異]
#[大意]堀江を越えて遠い里まで送ってくれるあなたの気持ちは忘れることはないだろう
#{語釈]
播磨介藤原朝臣執弓(ゆみとり) 藤原仲麻呂の次男 真先のことか。
     播磨介は、正六位下相当官
     天平勝宝9年8月1日 従五位上
     天平宝字8年9月 仲麻呂の乱に連座。斬殺される。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4483
#[題詞]勝寶九歳六月廿三日於大監物三形王之宅宴歌一首
#[原文]宇都里由久 時見其登尓 許己呂伊多久 牟可之能比等之 於毛保由流加母
#[訓読]移り行く時見るごとに心痛く昔の人し思ほゆるかも
#[仮名],うつりゆく,ときみるごとに,こころいたく,むかしのひとし,おもほゆるかも
#[左注]右兵部大輔大伴宿祢家持作
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝9年6月23日,年紀,作者:大伴家持,宴席,無常,悲嘆,三形王
#[訓異]
#[大意]移り行く時を見るごとに心痛く昔の人が思われてならない
#{語釈]
大監物 中務省 官物出納の鍵を管理する係の長官 従五位下相当
三形王 系統未詳 天平宝字3年7月 従四位下木工頭 4481~91 家持との関わり
昔の人 聖武天皇を中心とした橘諸兄など家持の信奉していた人

#[説明]
天平勝宝6年1月 大伴古麻呂ら帰国。鑑真来朝  
7年   安緑山の変  8年 玄宗長安より逃れる
8年5月 聖武上皇崩御 遺言により道祖王立太子
9年1月 橘諸兄薨去
3月 道祖王廃太子
4月 大炊王立太子
5月 藤原仲麻呂紫微内相 養老律令施行
7月 奈良麻呂の乱 豊成を太宰員外帥に左遷
8月 天平宝字に改元   安緑山、子の安慶緒に殺される
天平宝字2年8月 淳仁天皇即位 仲麻呂を大保


めまぐるしく動いた時期であるので、聖武追懐の念。
或いはこの1ヶ月後の奈良麻呂の謀反事件に関わる人々を暗示しているか。

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#[番号]20/4484
#[題詞]
#[原文]佐久波奈波 宇都呂布等伎安里 安之比奇乃 夜麻須我乃祢之 奈我久波安利家里
#[訓読]咲く花は移ろふ時ありあしひきの山菅の根し長くはありけり
#[仮名],さくはなは,うつろふときあり,あしひきの,やますがのねし,ながくはありけり
#[左注]右一首大伴宿祢家持悲怜物色變化作之也
#[校異]
#[鄣W],天平勝宝9年,年紀,作者:大伴家持,枕詞,植物,悲嘆,無常,寿歌,永遠
#[訓異]
#[大意]咲く花は散ってしまう時がある。あしひきの山菅の根は長くはあることだ
#{語釈]
物色  風物の気配
08/1599S01右天平十五年癸未秋八月見物色作
17/3967D04空過令節物色軽人乎 所怨有此不能黙已 俗語云以藤續錦 聊擬談咲耳
20/4484S01右一首大伴宿祢家持悲怜物色變化作之也

#[説明]
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#[番号]20/4485
#[題詞]
#[原文]時花 伊夜米豆良之母 <加>久之許曽 賣之安伎良米晩 阿伎多都其等尓
#[訓読]時の花いやめづらしもかくしこそ見し明らめめ秋立つごとに
#[仮名],ときのはな,いやめづらしも,かくしこそ,めしあきらめめ,あきたつごとに
#[左注]<右>大伴宿祢家持作之
#[校異]可 -> 加 [元][類] / 右一首 -> 右 [元][紀][細]
#[鄣W],天平勝宝9年,年紀,作者:大伴家持,天皇讃美,寿歌,永遠
#[訓異]
#[大意]その時々に咲く花は讃め讃えるべきである。このようにご覧になってお心をお晴らしください。秋が立つごとに
#{語釈]
時の花  その時々(季節ごと)に美しく咲く花 ここでは萩などの秋の花
めづらしも  心が引かれる 讃め称えるべき
見し明らめめ  天皇がご覧になって心をお晴らしになる
19/4254H08我が大君 秋の花 しが色々に 見したまひ 明らめたまひ 酒みづき
19/4255H01秋の花種にあれど色ごとに見し明らむる今日の貴さ

#[説明]
聖武天皇への献呈歌として作っているか。

#[関連論文]


#[番号]20/4486
#[題詞]天平寶字元年十一月十八日於内裏肆宴歌二首
#[原文]天地乎 弖良須日月乃 極奈久 阿流倍伎母能乎 奈尓乎加於毛波牟
#[訓読]天地を照らす日月の極みなくあるべきものを何をか思はむ
#[仮名],あめつちを,てらすひつきの,きはみなく,あるべきものを,なにをかおもはむ
#[左注]右一首皇太子御歌
#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌
#[鄣W],天平宝字1年11月18日,年紀,作者:大炊王,肆宴,宴席,宮廷
#[訓異]
#[大意]天地を照らす日月のように天皇の御代は永遠に続くものであるのに、何を思おうか
#{語釈]
十一月十八日 新嘗祭の肆宴
極みなくある 永遠に続く はてしない
皇太子  大炊王

#[説明]
奈良麻呂たちを言うか。

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#[番号]20/4487
#[題詞](天平寶字元年十一月十八日於内裏肆宴歌二首)
#[原文]伊射子等毛 多波和射奈世曽 天地能 加多米之久尓曽 夜麻登之麻祢波
#[訓読]いざ子どもたはわざなせそ天地の堅めし国ぞ大和島根は
#[仮名],いざこども,たはわざなせそ,あめつちの,かためしくにぞ,やまとしまねは
#[左注]右一首内相藤原朝臣奏之
#[校異]
#[鄣W],天平宝字1年11月18日,年紀,作者:藤原仲麻呂,肆宴,宮廷,宴席
#[訓異]
#[大意]さあ。者どもよ。ふざけたことをするなよ。天地の固まった国であるぞ。この大和島根は。
#{語釈]
たはわざ  たわけたこと ふざけたこと
天地の堅めし国 天皇の盤石な国である

#[説明]
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#[番号]20/4488
#[題詞]十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首
#[原文]三雪布流 布由波祁布能未 鴬乃 奈加牟春敝波 安須尓之安流良之
#[訓読]み雪降る冬は今日のみ鴬の鳴かむ春へは明日にしあるらし
#[仮名],みゆきふる,ふゆはけふのみ,うぐひすの,なかむはるへは,あすにしあるらし
#[左注]右一首主人三形王
#[校異]
#[鄣W],天平宝字1年12月18日,年紀,作者:三形王,宴席,動物,挨拶
#[訓異]
#[大意]み雪が降る冬は今日ばかりだ。鶯の鳴く春辺は明日であるらしい
#{語釈]
十二月十八日 6、12、18、24、晦日が休暇(六暇) 暇寧令
       翌十九日は立春

大監物三形王 4483
大監物 中務省 官物出納の鍵を管理する係の長官 従五位下相当
三形王 系統未詳 天平宝字3年7月 従四位下木工頭 4481~91 家持との関わり

#[説明]
保守、皇親派の人たちが集まった文雅の会

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#[番号]20/4489
#[題詞](十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首)
#[原文]宇知奈婢久 波流乎知可美加 奴婆玉乃 己与比能都久欲 可須美多流良牟
#[訓読]うち靡く春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ
#[仮名],うちなびく,はるをちかみか,ぬばたまの,こよひのつくよ,かすみたるらむ
#[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人
#[校異]
#[鄣W],天平宝字1年12月18日,年紀,作者:甘南備伊香,三形王,枕詞,叙景,宴席
#[訓異]
#[大意]うち靡く春が近いからか、ぬばたまの今夜の月夜は霞んでいるのだろう
#{語釈]
甘南備伊香(いかご)真人 もと伊香王 系譜未詳
天平8年 従五位下雅楽頭
天平勝宝元年 従五位上
  3年 臣籍降下
宝亀3年 正五位下
  8年 正五位上

#[説明]
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#[番号]20/4490
#[題詞](十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首)
#[原文]安良多末能 等之由伎我敝理 波流多々婆 末豆和我夜度尓 宇具比須波奈家
#[訓読]あらたまの年行き返り春立たばまづ我が宿に鴬は鳴け
#[仮名],あらたまの,としゆきがへり,はるたたば,まづわがやどに,うぐひすはなけ
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平宝字1年12月18日,年紀,作者:大伴家持,枕詞,動物,宴席,三形王
#[訓異]
#[大意]あらたまの年が行き帰って春が立つならば、まず最初に我が家に鶯は鳴きなさい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4491
#[題詞]
#[原文]於保吉宇美能 美奈曽己布可久 於毛比都々 毛婢伎奈良之思 須我波良能佐刀
#[訓読]大き海の水底深く思ひつつ裳引き平しし菅原の里
#[仮名],おほきうみの,みなそこふかく,おもひつつ,もびきならしし,すがはらのさと
#[左注]右一首藤原宿奈麻呂朝臣之妻石川女郎薄愛離別悲恨作歌也 [年月未詳]
#[校異]
#[鄣W],作者:藤原宿奈麻呂妻:石川女郎,藤原宿麻呂,悲嘆,怨恨,離別,地名,奈良,古歌,伝誦,転用,宴席
#[訓異]
#[大意]大きい海の水底のように深く思い続けて裳を引いて行ったり来たりで平らかにした菅原の里の人であるのに。(今はもうそれもなくなって)
#{語釈]
藤原宿奈麻呂朝臣の妻石川女郎、愛を薄く離別せらえ、悲しび恨みて作る歌也
藤原宿奈麻呂朝臣 4328~30
式家宇合の次男。仲麻呂に反発。後に良継と改名。
宝亀8年9月18日、内大臣従二位勲五等で薨去。62歳
石川郎女 伝未詳。他の石川郎女とは別人。
菅原の里 奈良市菅原町一帯  石川郎女の住居の場所

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4492
#[題詞]廿三日於治部少輔大原今城真人之宅宴歌一首
#[原文]都奇餘米婆 伊麻太冬奈里 之可須我尓 霞多奈婢久 波流多知奴等可
#[訓読]月数めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか
#[仮名],つきよめば,いまだふゆなり,しかすがに,かすみたなびく,はるたちぬとか
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持作
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],天平宝字1年12月23日,年紀,作者:大伴家持,宴席,大原今城
#[訓異]
#[大意]月を数えるとまだ冬である。そうではあるが霞が棚引く春が立ったとか。
#{語釈]
春立ちぬとか  十二月十九日が立春。

#[説明]
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#[番号]20/4493
#[題詞]二年正月三日召侍従竪子王臣等令侍於内裏之東屋垣下即賜玉箒肆宴 于時内相藤原朝臣奉勅宣 諸王卿等随堪任意作歌并賦詩 仍應詔旨各陳心緒作歌賦詩 [未得諸人之賦詩并作歌也]
#[原文]始春乃 波都祢乃家布能 多麻婆波伎 手尓等流可良尓 由良久多麻能乎
#[訓読]初春の初子の今日の玉箒手に取るからに揺らく玉の緒
#[仮名],はつはるの,はつねのけふの,たまばはき,てにとるからに,ゆらくたまのを
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持作 但依大蔵政不堪奏之也
#[校異]之也 [元][細](塙) 之
#[鄣W],天平宝字2年1月3日,年紀,作者:大伴家持,未奏,宮廷,肆宴,宴席,藤原仲麻呂,寿歌,宮廷讃美
#[訓異]
#[大意]初春の初子の今日の玉帚よ。手にとっただけでもゆらゆらと揺らいでいる玉の緒であることだ
#{語釈]
侍従、竪子、王臣等を召し、内裏の東の屋の垣の下に侍らしめ、即ち玉箒を賜ひて肆宴したまふ。時に内相藤原朝臣、勅を奉じ宣(のりたまはく)、「諸王卿等、堪(かん)の随(まにまに)、意の任(まにまに)歌を作り并びに詩を賦せ。」とのりたまふ。仍(よ)りて詔旨(みことのり)に應(こた)へ、各(おのもおのも)心緒を陳(の)べ、歌を作り詩を賦す。 [未だ諸人の賦詩并びに作歌を得ず]

竪子 少年。天皇に近侍して警護などの役
内裏の東の屋 宮殿の名称は不明。春であるので東を用いる
玉箒 玉の飾りを付けた帚。正倉院に現存。帚は蚕室の床を掃除するもの
   正月の初子の日に唐鋤と玉帚を宮中に飾って天皇自らの耕作と皇后の養蚕を象徴して予祝行事とした

#[説明]
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#[番号]20/4494
#[題詞]
#[原文]水鳥乃 可毛<能>羽能伊呂乃 青馬乎 家布美流比等波 可藝利奈之等伊布
#[訓読]水鳥の鴨の羽の色の青馬を今日見る人は限りなしといふ
#[仮名],みづとりの,かものはのいろの,あをうまを,けふみるひとは,かぎりなしといふ
#[左注]右一首為七日侍宴右中辨大伴宿祢家持預作此歌 但依仁王會事却以六日於内裏召諸王卿等賜酒肆宴給祿 因斯不奏也
#[校異]<> -> 能 [温][矢][京]
#[鄣W],天平宝字2年1月6日,年紀,作者:大伴家持,未奏,予作,宮廷,行事,宴席,寿歌,動物
#[訓異]
#[大意]水鳥の鴨の羽色のような青い馬を今日見る人は命が限りがないと言うよ
#{語釈]
七日の侍宴の為に右中辨大伴宿祢家持、預め此の歌を作る。但し仁王會(にんのうえ)の事に依りて、却(かへ)りて六日を以ちて内裏に諸王卿等を召して酒を賜ひ、肆宴して祿を給ふ。斯(これ)に因りて奏せず。

七日 青馬の節会 天皇が馬を閲覧する儀式。初子の祝儀も兼ねる。
   正月の儀礼として固定していく。

仁王會 天下泰平、万民福利を祈願するために仁王経(仁王護国般若波羅蜜多経)を講ずる法会  斉明6年(660)5月所出。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4495
#[題詞]六日内庭假植樹木以作林帷而為肆宴歌
#[原文]打奈婢久 波流等毛之流久 宇具比須波 宇恵木之樹間乎 奈<枳>和多良奈牟
#[訓読]うち靡く春ともしるく鴬は植木の木間を鳴き渡らなむ
#[仮名],うちなびく,はるともしるく,うぐひすは,うゑきのこまを,なきわたらなむ
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持 [不奏]
#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [細] 歌一首 / 伎 -> 枳 [元][類]
#[鄣W],天平宝字2年1月6日,年紀,作者:大伴家持,動物,宮廷,肆宴,宴席,叙景,未奏
#[訓異]
#[大意]うち靡く春がやってきたとはっきりとわかるように鶯は植木の木の間を鳴き渡って欲しい
#{語釈]
内庭に假に樹木を植ゑて以て林帷と作して、肆宴を為す歌
青馬の節会に際して、春の様子を創作したか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4496
#[題詞]二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首
#[原文]宇良賣之久 伎美波母安流加 夜度乃烏梅<能> 知利須具流麻埿 美之米受安利家流
#[訓読]恨めしく君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける
#[仮名],うらめしく,きみはもあるか,やどのうめの,ちりすぐるまで,みしめずありける
#[左注]右一首治部少輔大原今城真人
#[校異]<> -> 五 [元] / 乃 -> 能 [元][類][紀][細]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大原今城,宴席,中臣清麻呂,植物,怨恨
#[訓異]
#[大意]恨めしいことにあなたはあることか。家の梅の散り過ぎるまで見させないでいるとは
#{語釈]
中臣清麻呂 19/4258
天平十五年五月 従五位下
天平勝宝三年正月 従五位上
六年四月 神祇大副
天平宝字元年五月 正五位下
三年六月 正五位上
六年正月 従四位上
七月 左中弁
十二月 参議
九月 正四位上
七年正月 左大弁
神護景雲二年二月 中納言
宝亀元年十月 正三位
二年正月 大納言
三月 右大臣
延暦七年七月 薨去 八十七歳
        天平宝字2年頃は57歳

#[説明]
#[関連論文]




#[番号]20/4497
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]美牟等伊波婆 伊奈等伊波米也 宇梅乃波奈 知利須具流麻弖 伎美我伎麻左奴
#[訓読]見むと言はば否と言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ
#[仮名],みむといはば,いなといはめや,うめのはな,ちりすぐるまで,きみがきまさぬ
#[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:中臣清麻呂,宴席,植物
#[訓異]
#[大意]見たいとおっしゃったならばいやだと言いましょうか。梅の花が散り過ぎるまであなたがいらっしゃらないのです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4498
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]波之伎余之 家布能安路自波 伊蘇麻都能 都祢尓伊麻佐祢 伊麻母美流其等
#[訓読]はしきよし今日の主人は礒松の常にいまさね今も見るごと
#[仮名],はしきよし,けふのあろじは,いそまつの,つねにいまさね,いまもみるごと
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大伴家持,宴席,中臣清麻呂,主人讃美,寿歌,植物,序詞
#[訓異]
#[大意]愛しく思う今日の主人は磯の松のようにいつまでもいらっしゃってください。今も見るように
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4499
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]和我勢故之 可久志伎許散婆 安米都知乃 可未乎許比能美 奈我久等曽於毛布
#[訓読]我が背子しかくし聞こさば天地の神を祈ひ祷み長くとぞ思ふ
#[仮名],わがせこし,かくしきこさば,あめつちの,かみをこひのみ,ながくとぞおもふ
#[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:中臣清麻呂,宴席,寿歌,永遠
#[訓異]
#[大意]我が背子がこのようにおっしゃるのならば天地の神を祈りながらいつまでもと思いますよ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]20/4500
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努尓 伎美乎之曽於毛布
#[訓読]梅の花香をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ
#[仮名],うめのはな,かをかぐはしみ,とほけども,こころもしのに,きみをしぞおもふ
#[左注]右一首治部大輔市原王
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:市原王,宴席,中臣清麻呂,植物,恋情,主人讃美
#[訓異]
#[大意]梅の花の香りが芳しいので遠いけれども、心もしおれるばかりにあなたのことを思うことだ
#{語釈]
市原王 志貴皇子の曾孫 安貴王の子 笠郎女は義母か。
     天平15年正5位下 清麻呂と同じ時
     天平勝宝元年 写経司長官
     天平宝字7年 造東大寺長官

#[説明]
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#[番号]20/4501
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]夜知久佐能 波奈波宇都呂布 等伎波奈流 麻都能左要太乎 和礼波牟須婆奈
#[訓読]八千種の花は移ろふ常盤なる松のさ枝を我れは結ばな
#[仮名],やちくさの,はなはうつろふ,ときはなる,まつのさえだを,われはむすばな
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大伴家持,宴席,中臣清麻呂,寿歌,植物,永遠,主人讃美,予祝
#[訓異]
#[大意]たくさんの花は散ってしまう。永遠の松の小枝を自分は結ぼうよ
#{語釈]
松のさ枝翟結ぶ
02/0141H01岩代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた帰り見む
06/1043H01たまきはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとぞ思ふ

#[説明]
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#[番号]20/4502
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]烏梅能波奈 左伎知流波流能 奈我伎比乎 美礼杼母安加奴 伊蘇尓母安流香母
#[訓読]梅の花咲き散る春の長き日を見れども飽かぬ礒にもあるかも
#[仮名],うめのはな,さきちるはるの,ながきひを,みれどもあかぬ,いそにもあるかも
#[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:甘南備伊香,植物,宴席,中臣清麻呂,宴席讃美
#[訓異]
#[大意]梅の花が咲き散る春の長い一日を見ても見飽きることのない磯でもあることだ
#{語釈]
甘南備伊香(いかご)真人 4489 もと伊香王 系譜未詳
天平8年 従五位下雅楽頭
天平勝宝元年 従五位上
  3年 臣籍降下
宝亀3年 正五位下
  8年 正五位上

#[説明]
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#[番号]20/4503
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]伎美我伊敝能 伊氣乃之良奈美 伊蘇尓与世 之婆之婆美等母 安加無伎弥加毛
#[訓読]君が家の池の白波礒に寄せしばしば見とも飽かむ君かも
#[仮名],きみがいへの,いけのしらなみ,いそによせ,しばしばみとも,あかむきみかも
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大伴家持,宴席,中臣清麻呂,主人讃美,恋愛
#[訓異]
#[大意]あなたの家の池の白波が磯に重ね重ね寄せてくるように何度見ても見飽きることのないあなたであることだ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]20/4504
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]宇流波之等 阿我毛布伎美波 伊也比家尓 伎末勢和我世<古> 多由流日奈之尓
#[訓読]うるはしと我が思ふ君はいや日異に来ませ我が背子絶ゆる日なしに
#[仮名],うるはしと,あがもふきみは,いやひけに,きませわがせこ,たゆるひなしに
#[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣
#[校異]呂 -> 古 [類][細]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:中臣清麻呂,宴席,恋愛
#[訓異]
#[大意]すばらしいと自分が思っているあなたはもっと毎日でもいらっしゃいよ。我が背子よ。途絶える日がないように
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]20/4505
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)
#[原文]伊蘇能宇良尓 都祢欲比伎須牟 乎之杼里能 乎之伎安我未波 伎美我末仁麻尓
#[訓読]礒の裏に常呼び来住む鴛鴦の惜しき我が身は君がまにまに
#[仮名],いそのうらに,つねよびきすむ,をしどりの,をしきあがみは,きみがまにまに
#[左注]右一首治部少輔大原今城真人
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大原今城,宴席,中臣清麻呂,序詞,動物,主人讃美,忠誠
#[訓異]
#[大意]磯蔭にいつも声を掛け合って住む鴛鴦の名前ではないが、命の惜しい自分の身ではあるが、あなたの意のままに(でかまいません)
#{語釈]
#[説明]
忠誠を尽くすという意味を含んでいる

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#[番号]20/4506
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)依興各思高圓離宮處作歌五首
#[原文]多加麻刀能 努乃宇倍能美也<波> 安礼尓家里 多々志々伎美能 美与等保曽氣婆
#[訓読]高圓の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば
#[仮名],たかまとの,ののうへのみやは,あれにけり,たたししきみの,みよとほそけば
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持
#[校異]婆 -> 波 [類]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大伴家持,宴席,中臣清麻呂,依興,高円,離宮,宮廷,懐古,地名,聖武天皇
#[訓異]
#[大意]高円の野の上の宮は荒れたことである。お立ちになっていた大君の御代が遠くなって行ったので
#{語釈]
#[説明]
高円離宮 天平勝宝8年 聖武上皇崩御後は東大寺に施入

天平回帰の念。

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#[番号]20/4507
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)
#[原文]多加麻刀能 乎能宇倍乃美也<波> 安礼奴等母 多々志々伎美能 美奈和須礼米也
#[訓読]高圓の峰の上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや
#[仮名],たかまとの,をのうへのみやは,あれぬとも,たたししきみの,みなわすれめや
#[左注]右一首治部少輔<大原>今城真人
#[校異]婆 -> 波 [類][細] / <> -> 大原 [元][古]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大原今城,宴席,中臣清麻呂,依興,高円,離宮,宮廷,懐古,聖武天皇,地名
#[訓異]
#[大意]高円の嶺の上の宮は荒れてしまったとしてもお立ちになっていた大君の御名を忘れるということがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4508
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)
#[原文]多可麻刀能 努敝波布久受乃 須恵都比尓 知与尓和須礼牟 和我於保伎美加母
#[訓読]高圓の野辺延ふ葛の末つひに千代に忘れむ我が大君かも
#[仮名],たかまとの,のへはふくずの,すゑつひに,ちよにわすれむ,わがおほきみかも
#[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:中臣清麻呂,宴席,依興,高円,離宮,宮廷,懐古,聖武天皇,地名,植物,序詞
#[訓異]
#[大意]高円の野辺を這う葛の行く先のように永遠に忘れる我が大君であろうか。永遠に忘れることはないだろう
#{語釈]
末つひに 末の終わり しまいには とうとう

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4509
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)
#[原文]波布久受能 多要受之努波牟 於保吉美<乃> 賣之思野邊尓波 之米由布倍之母
#[訓読]延ふ葛の絶えず偲はむ大君の見しし野辺には標結ふべしも
#[仮名],はふくずの,たえずしのはむ,おほきみの,めししのへには,しめゆふべしも
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持
#[校異]能 -> 乃 [元][類]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:大伴家持,宴席,中臣清麻呂,依興,高円,離宮,宮廷,懐古,枕詞,植物,聖武天皇
#[訓異]
#[大意]這い広がる葛のように絶えず思い出して以降。大君のご覧になった野辺には標を結んでおくべきだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4510
#[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)
#[原文]於保吉美乃 都藝弖賣須良之 多加麻刀能 努敝美流其等尓 祢能未之奈加由
#[訓読]大君の継ぎて見すらし高圓の野辺見るごとに音のみし泣かゆ
#[仮名],おほきみの,つぎてめすらし,たかまとの,のへみるごとに,ねのみしなかゆ
#[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年2月,年紀,作者:甘南備伊香,宴席,中臣清麻呂,依興,高円,離宮,宮廷,懐古,地名,聖武天皇,悲嘆
#[訓異]
#[大意]大君が続けてご覧になっているらしい高円の野辺を見るごとに大声を上げて泣かれるばかりである
#{語釈]
継ぎて見すらし 大君の魂が今も続けてご覧になっているらしい

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4511
#[題詞]属目山齊作歌三首
#[原文]乎之能須牟 伎美我許乃之麻 家布美礼婆 安之婢乃波奈毛 左伎尓家流可母
#[訓読]鴛鴦の住む君がこの山斎今日見れば馬酔木の花も咲きにけるかも
#[仮名],をしのすむ,きみがこのしま,けふみれば,あしびのはなも,さきにけるかも
#[左注]右一首大監物御方王
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年,年紀,作者:三形王,宴席,中臣清麻呂,植物,動物,叙景,庭園讃美,属目
#[訓異]
#[大意]鴛鴦の住むあなたのこの庭園を今日見ると馬酔木の花も咲いたことであるよ
#{語釈]
大監物三形王 4483 4488
大監物 中務省 官物出納の鍵を管理する係の長官 従五位下相当
三形王 系統未詳 天平宝字3年7月 従四位下木工頭 4481~91 家持との関わり

#[説明]
清麻呂邸宴での第二部

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#[番号]20/4512
#[題詞](属目山齊作歌三首)
#[原文]伊氣美豆尓 可氣左倍見要氐 佐伎尓保布 安之婢乃波奈乎 蘇弖尓古伎礼奈
#[訓読]池水に影さへ見えて咲きにほふ馬酔木の花を袖に扱入れな
#[仮名],いけみづに,かげさへみえて,さきにほふ,あしびのはなを,そでにこきれな
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年,年紀,作者:大伴家持,宴席,中臣清麻呂,植物,庭園讃美,叙景,属目#[訓異]
#[大意]池水に影までも見えて咲き輝いている馬酔木の花を袖にしごいて入れようよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]20/4513
#[題詞](属目山齊作歌三首)
#[原文]伊蘇可氣乃 美由流伊氣美豆 氐流麻埿尓 左家流安之婢乃 知良麻久乎思母
#[訓読]礒影の見ゆる池水照るまでに咲ける馬酔木の散らまく惜しも
#[仮名],いそかげの,みゆるいけみづ,てるまでに,さけるあしびの,ちらまくをしも
#[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人
#[校異]
#[鄣W],天平宝字2年,年紀,作者:甘南備伊香,宴席,中臣清麻呂,植物,庭園讃美,属目
#[訓異]
#[大意]磯影の見える池水が明るく輝くほど咲いている馬酔木が散ることは惜しいことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]20/4514
#[題詞]二月十日於内相宅餞渤海大使小野田守朝臣等宴歌一首
#[原文]阿乎宇奈波良 加是奈美奈妣伎 由久左久佐 都々牟許等奈久 布祢波々夜家無
#[訓読]青海原風波靡き行くさ来さつつむことなく船は速けむ
#[仮名],あをうなはら,かぜなみなびき,ゆくさくさ,つつむことなく,ふねははやけむ
#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持 [未誦之]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],天平宝字2年2月10日,年紀,作者:大伴家持,藤原仲麻呂,未誦,小野田守,餞別,宴席,出発,羈旅,無事
#[訓異]
#[大意]青海原に風や波が靡いて行く時も帰る時も障害がなく船は速いだろう
#{語釈]
渤海  7世紀から十世紀にかけて朝鮮半島北部から中国吉林省あたりにあった国。
    高句麗の後。神亀四年(727)~大同(810)までに15回来朝
    神亀5年((728)~大同四年(809)まで13回使節を送る

大使小野田守 第3次渤海使 天平宝字2年9月に帰朝
       天平19年1月 従五位下
天平宝字2年10月 従五位上
       天平2年旅人梅花宴の時に無位無冠で幹事役(05/846)
       家持とは旧知の仲

未誦之  理由は不明

#[説明]
使節餞別 05/0894 09/1784 19/4243など

#[関連論文]


#[番号]20/4515
#[題詞]七月五日於<治>部少輔大原今城真人宅餞因幡守大伴宿祢家持宴歌一首
#[原文]秋風乃 須恵布伎奈婢久 波疑能花 登毛尓加射左受 安比加和可礼牟
#[訓読]秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ
#[仮名],あきかぜの,すゑふきなびく,はぎのはな,ともにかざさず,あひかわかれむ
#[左注]右一首大伴宿祢家持作之
#[校異]式 -> 治 [西(朱訂正右書)][元][紀][細]
#[鄣W],天平宝字2年7月5日,年紀,作者:大伴家持,植物,大原今城,餞別,宴席,悲別
#[訓異]
#[大意]秋風が梢を吹き靡く萩の花を共にかざすことがなくあい別れることであろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]