第5章 武州丸やられる

いつ出港したのか朝起きると武州丸が大きな波に揺れながら前を走っていた。その後ろを本船が揺れながら走っていた。遠くに六点五ミリの機関銃を船橋に装備した漁船の海軍護衛艇が波をあびながら必死に走っていた。喫水が浅く魚雷が通りぬけるので潜水艦も魚雷も怖くない。
しかし、小さいのでシケが怖いらしい。
「護衛するのか、されるのかこれじゃ敵潜水艦に舐められるわ」などと賄い長が笑う。
東京港が開港したとき、建造された同じ会社の同じ型のぼろ船が二雙仲良く兄弟のように走っていた。疎開者はみんなシケのため酔っているようで誰も顔をださない。寝ているのだろう。朝鮮人の機関員が
「本船に乗れば、女の裸が飽きるほどのぞけるのに」と私に話しかけてきた。
「はい、そうですね」と心にもない同意の返事をしておく。先輩には、
「ハイ、ハイ」といつもへこへこしていないと、後で
「生意気だ」と殴られるからだ。
ジグザグ運転しながら厳重な見張りを繰り返し、二晩が経つ。明日の夕方には鹿児島に着く。
その晩は昼間の疲れから何も知らずに寝ていた。誰かが揺らすのに目を覚ます。悲壮な声と震える声で、
「武州丸がやられた。起きろ。起きろ」









