万葉集 巻第3


#[番号]03/0235
#[題詞]雜歌 / 天皇御遊雷岳之時柿本朝臣人麻呂作歌一首
#[原文]皇者 神二四座者 天雲之 雷之上尓 廬為<流鴨>
#[訓読]大君は神にしませば天雲の雷の上に廬りせるかも
#[仮名],おほきみは,かみにしませば,あまくもの,いかづちのうへに,いほりせるかも
#[左注]右或本云獻忍壁皇子也 其歌曰 王 神座者 雲隠伊加土山尓 宮敷座
#[校異]鴨流 -> 流鴨 [西(訂正)][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,現人神,天皇讃美,宮廷讃美,飛鳥,地名,枕詞,忍壁皇子
#[訓異]
#[大意]大君は神でいらっしゃるので天雲の雷のほとりに廬をお造りになっていることだ
#{語釈]
天皇  天武天皇、持統天皇、文武


#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0235S
#[題詞]右或本云獻忍壁皇子也 其歌曰
#[原文]王 神座者 雲隠伊加土山尓 宮敷座
#[訓読]大君は神にしませば雲隠る雷山に宮敷きいます
#[仮名],おほきみは,かみにしませば,くもがくる,いかづちやまに,みやしきいます
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,現人神,天皇讃美,宮廷讃美,飛鳥,地名,枕詞,異伝,忍壁皇子
#[訓異]
#[大意]大君は神でいらしゃるので雲に隠れる雷山に宮をご造営になっていらっしゃる。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0236
#[題詞]天皇賜志斐嫗御歌一首
#[原文]不聴跡雖云 強流志斐能我 強語 比者不聞而 朕戀尓家里
#[訓読]いなと言へど強ふる志斐のが強ひ語りこのころ聞かずて我れ恋ひにけり
#[仮名],いなといへど,しふるしひのが,しひかたり,このころきかずて,あれこひにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:持統,問答,志斐嫗
#[訓異]
#[大意]いやだと言っても無理強いをする志斐の強い語りよ。この頃聞かないで自分は恋い思っていることだ 
#{語釈]
天皇 持統天皇
志斐嫗 伝未詳 伝承の語りを行っていたか。担い手は古老。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0237
#[題詞]志斐嫗奉和歌一首 [嫗名未詳]
#[原文]不聴雖謂 語礼々々常 詔許曽 志斐伊波奏 強<語>登言
#[訓読]いなと言へど語れ語れと宣らせこそ志斐いは申せ強ひ語りと詔る
#[仮名],いなといへど,かたれかたれと,のらせこそ,しひいはまをせ,しひかたりとのる
#[左注]
#[校異]話 -> 語 [紀]
#[鄣W],雑歌,作者:志斐嫗,持統,問答
#[訓異]
#[大意]いやだと言っても語れ語れとおっしゃるから志斐めは申し上げるのです。なのにどうして強い語りとおっしゃるおですか。
#{語釈]
志斐い 「い」強意の副助詞 04/0545

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0238
#[題詞]長忌寸意吉麻呂應詔歌一首
#[原文]大宮之 内二手所聞 網引為跡 網子調流 海人之呼聲
#[訓読]大宮の内まで聞こゆ網引すと網子ととのふる海人の呼び声
#[仮名],おほみやの,うちまできこゆ,あびきすと,あごととのふる,あまのよびこゑ
#[左注]右一首
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長意吉麻呂,大阪,地名,応詔
#[訓異]
#[大意]大宮の仲まで聞こえてくる。網を引くとして網の引き手を統率する海人の呼び声よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0239
#[題詞]長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 吾大王 高光 吾日乃皇子乃 馬並而 三猟立流 弱薦乎 猟路乃小野尓 十六社者 伊波比拝目 鶉己曽 伊波比廻礼 四時自物 伊波比拝 鶉成 伊波比毛等保理 恐等 仕奉而 久堅乃 天見如久 真十鏡 仰而雖見 春草之 益目頬四寸 吾於富吉美可聞
#[訓読]やすみしし 我が大君 高照らす 我が日の御子の 馬並めて 御狩り立たせる 若薦を 狩路の小野に 獣こそば い匍ひ拝め 鶉こそ い匍ひ廻れ 獣じもの い匍ひ拝み 鶉なす い匍ひ廻り 畏みと 仕へまつりて ひさかたの 天見るごとく まそ鏡 仰ぎて見れど 春草の いやめづらしき 我が大君かも
#[仮名],やすみしし,わがおほきみ,たかてらす,わがひのみこの,うまなめて,みかりたたせる,わかこもを,かりぢのをのに,ししこそば,いはひをろがめ,うづらこそ,いはひもとほれ,ししじもの,いはひをろがみ,うづらなす,いはひもとほり,かしこみと,つかへまつりて,ひさかたの,あめみるごとく,まそかがみ,あふぎてみれど,はるくさの,いやめづらしき,わがおほきみかも
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,長皇子,猟,大君讃美,枕詞
#[訓異]
#[大意]八方をお治めになる我が大君。天高くお照らしになる我が日の御子が馬を並べて御猟にお立ちになる若い薦を苅るという狩路の小野に鹿や猪こそ這って拝むであろう。鶉こそはい回るであろう。その獣たちのように伏し拝み、鶉のように這い回り恐れ多いのでお仕え申し上げて久方の天を見るようにまそ鏡ではないが仰いで見るけれども春草のようにますますご立派で心引かれる我が大君であることだ
#{語釈]
長皇子 天武天皇第七皇子 母は天智天皇娘大江皇女。同母弟に弓削皇子。和銅八年六月四日薨去。01/60

猟路池 奈良県桜井市鹿路、或いは奈良県宇陀郡榛原町

#[説明]
いつ頃詠まれたかは不明。

#[関連論文]



#[番号]03/0240
#[題詞](長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]久堅乃 天歸月乎 網尓刺 我大王者 盖尓為有
#[訓読]ひさかたの天行く月を網に刺し我が大君は蓋にせり
#[仮名],ひさかたの,あめゆくつきを,あみにさし,わがおほきみは,きぬがさにせり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,長皇子,大君讃美,枕詞
#[訓異]
#[大意]h久方の天を行く月を網で捕まえて我が大君は衣笠になさった。

#{語釈]
網に刺し 狩場にふさわしい言い方として網で捕まえるとした

#[説明]
狩りの宴での即興歌か。

#[関連論文]



#[番号]03/0241
#[題詞](長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])或本反歌一首
#[原文]皇者 神尓之坐者 真木<乃>立 荒山中尓 海成可聞
#[訓読]大君は神にしませば真木の立つ荒山中に海を成すかも
#[仮名],おほきみは,かみにしませば,まきのたつ,あらやまなかに,うみをなすかも
#[左注]
#[校異]乃 -> 之 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,長皇子,現人神,大君讃美,猟,異伝
#[訓異]
#[大意]大君は神でいらっしゃるので立派な木が林立している荒い山の仲に海を作られている
#{語釈]
海を成すかも  猟路池を海に見立てて長皇子を讃美したもの

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0242
#[題詞]弓削皇子遊吉野時御歌一首
#[原文]瀧上之 三船乃山尓 居雲乃 常将有等 和我不念久尓
#[訓読]滝の上の三船の山に居る雲の常にあらむと我が思はなくに
#[仮名],たきのうへの,みふねのやまに,ゐるくもの,つねにあらむと,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:弓削皇子,吉野,地名,不安
#[訓異]
#[大意]急流のほとりの三船の山にかかっている雲のようにいつまでも生きながらえていようとは思ってはいないよ。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0243
#[題詞](弓削皇子遊吉野時御歌一首)春日王奉和歌一首
#[原文]王者 千歳<二>麻佐武 白雲毛 三船乃山尓 絶日安良米也
#[訓読]大君は千年に座さむ白雲も三船の山に絶ゆる日あらめや
#[仮名],おほきみは,ちとせにまさむ,しらくもも,みふねのやまに,たゆるひあらめや
#[左注]
#[校異]尓 -> 二 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:春日王,弓削皇子,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]大君は千年も後までいらっしゃるでしょう。白雲も三船の山に堪える日がありましょうか。
春日王  系譜未詳。文武3年(699)6月27日で没。04/669の志貴皇子の子の春日王とは別人。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0244
#[題詞](弓削皇子遊吉野時御歌一首)或本歌一首
#[原文]三吉野之 御船乃山尓 立雲之 常将在跡 我思莫苦二
#[訓読]み吉野の三船の山に立つ雲の常にあらむと我が思はなくに
#[仮名],みよしのの,みふねのやまに,たつくもの,つねにあらむと,わがおもはなくに
#[左注]右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,弓削皇子,吉野,異伝,地名,柿本人麻呂歌集,非略体
#[訓異]
#[大意]み吉野の三船の山に立つ雲ではないがいつまでも生きているとは自分は思っていなよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0245
#[題詞]長田王被遣筑紫渡水嶋之時歌二首
#[原文]如聞 真貴久 奇母 神左備居賀 許礼能水嶋
#[訓読]聞きしごとまこと尊くくすしくも神さびをるかこれの水島
#[仮名],ききしごと,まことたふとく,くすしくも,かむさびをるか,これのみづしま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長田王,羈旅,土地讃美,水俣,熊本,地名
#[訓異]
#[大意]話に聞いていたとおりに本当に貴く霊妙に神々しくなっているかここ水島は。
#{語釈]
長田王 奈良朝風流侍従の一人。天平9年6月正四位下で没。03/248に隼人の瀬戸での歌がある。この時は慶雲年中か神亀年中の注。03/247。この時と同じか。

水嶋 熊本県八代市植柳 球磨川の支流南川河口の島か。

#[説明]景行天皇一八年四月一八日

#[関連論文]



#[番号]03/0246
#[題詞](長田王被遣筑紫渡水嶋之時歌二首)
#[原文]葦北乃 野坂乃浦従 船出為而 水嶋尓将去 浪立莫勤
#[訓読]芦北の野坂の浦ゆ船出して水島に行かむ波立つなゆめ
#[仮名],あしきたの,のさかのうらゆ,ふなでして,みづしまにゆかむ,なみたつなゆめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長田王,羈旅,水俣,熊本,地名
#[訓異]
#[大意]芦北の野坂の浦から船出して水島に行こう。浪よ立つな。決して。
#{語釈]
芦北の野坂の浦 熊本県葦北郡不知火海に面した海岸。芦北町佐敷、田浦町あたりか

#[説明]
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#[番号]03/0247
#[題詞]石川大夫和歌一首 [名闕]
#[原文]奥浪 邊波雖立 和我世故我 三船乃登麻里 瀾立目八方
#[訓読]沖つ波辺波立つとも我が背子が御船の泊り波立ためやも
#[仮名],おきつなみ,へなみたつとも,わがせこが,みふねのとまり,なみたためやも
#[左注]右今案 従四位下石川宮麻呂朝臣 慶雲年中任大貳 又正五位下石川朝臣吉美侯 神龜年中任小貳 不知兩人誰作此歌焉
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:石川大夫(宮麻呂:君子),長田王,羈旅,和歌
#[訓異]
#[大意]沖の波や岸辺の波が立つとしても我が背子の御船の停泊地に波が立つでしょうか。
#{語釈]
従四位下石川宮麻呂朝臣大臣石川連子の子  慶雲2年11月従四位下太宰大貳
正五位下石川朝臣吉美侯 霊亀元年播磨守  太宰小貳任官は記録にない。

#[説明]
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#[番号]03/0248
#[題詞]又長田王作歌一首
#[原文]隼人乃 薩麻乃迫門乎 雲居奈須 遠毛吾者 今日見鶴鴨
#[訓読]隼人の薩摩の瀬戸を雲居なす遠くも我れは今日見つるかも
#[仮名],はやひとの,さつまのせとを,くもゐなす,とほくもわれは,けふみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長田王,羈旅,黒瀬戸,鹿児島,地名
#[訓異]
#[大意]隼人の薩摩の瀬戸を雲がいるはるかなように遠くまで自分は今日やって来たことだ
#{語釈]
隼人の薩摩の瀬戸 黒の瀬戸
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0249
#[題詞]柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首
#[原文]三津埼 浪矣恐 隠江乃 舟公宣奴嶋尓
#[訓読]御津の崎波を畏み隠江の舟公宣奴嶋尓
#[仮名],みつのさき,なみをかしこみ,こもりえの,******
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,難訓,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]御津の崎の波が恐ろしいので波の静かな江の******
#{語釈]
舟公宣奴嶋尓 難訓
ふねなるきみはぬしまへとのる 船にいるあなたは野島に速くとおっしゃる

#[説明]
往路(下り)

#[関連論文]



#[番号]03/0250
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]珠藻苅 敏馬乎過 夏草之 野嶋之埼尓 舟近著奴
#[訓読]玉藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野島が崎に船近づきぬ
#[仮名],たまもかる,みぬめをすぎて,なつくさの,のしまがさきに,ふねちかづきぬ
#[左注]一本云 處女乎過而 夏草乃 野嶋我埼尓 伊保里為吾等者
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,兵庫,道行き,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]玉藻を苅る敏馬を過ぎて夏草の野島の崎に船が近づいた
#{語釈]
玉藻刈る敏馬  敏馬神社がある。玉藻刈るで、人がいる様子。
夏草の野島が崎 人もいない荒涼とした様子。
宮古から離れる様子を言う。

往路(下り)

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0251
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]粟路之 野嶋之前乃 濱風尓 妹之結 紐吹返
#[訓読]淡路の野島が崎の浜風に妹が結びし紐吹き返す
#[仮名],あはぢの,のしまがさきの,はまかぜに,いもがむすびし,ひもふきかへす
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]淡路の野島の崎の浜風で妹が結んだ紐を吹き返すことだ
#{語釈]
#[説明]
往路、帰路どちらとも(上り、下り)

#[関連論文]



#[番号]03/0252
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]荒栲 藤江之浦尓 鈴木釣 泉郎跡香将見 旅去吾乎
#[訓読]荒栲の藤江の浦に鱸釣る海人とか見らむ旅行く我れを
#[仮名],あらたへの,ふぢえのうらに,すずきつる,あまとかみらむ,たびゆくわれを
#[左注]一本云 白栲乃 藤江能浦尓 伊射利為流
#[校異]泉 [西(左書)][類][細] 白水
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,霊触り,兵庫,異伝,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]荒栲の藤江の浦に鱸を釣る海人と見られるであろうか。旅を行く自分たちを
#{語釈]
荒栲の藤江の浦 

#[説明]
往路、帰路どちらとも(上り、下り)

#[関連論文]



#[番号]03/0253
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]稲日野毛 去過勝尓 思有者 心戀敷 可古能嶋所見 [一云 湖見]
#[訓読]稲日野も行き過ぎかてに思へれば心恋しき加古の島見ゆ [一云 水門見ゆ]
#[仮名],いなびのも,ゆきすぎかてに,おもへれば,こころこほしき,かこのしまみゆ,[みなとみゆ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,土地讃美,異伝,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]稲日野も行き過ぎがたく思っていた所、心恋しい加古の島が見える
#{語釈]
#[説明]
帰路(上り)

#[関連論文]



#[番号]03/0254
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]留火之 明大門尓 入日哉 榜将別 家當不見
#[訓読]燈火の明石大門に入らむ日や漕ぎ別れなむ家のあたり見ず
#[仮名],ともしびの,あかしおほとに,いらむひや,こぎわかれなむ,いへのあたりみず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]燈火の明石の海峡に入っていく日にだろうか。漕ぎ別れるのだろうか。故郷のあたりも見えない
#{語釈]
#[説明]
往路(下り)

#[関連論文]



#[番号]03/0255
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]天離 夷之長道従 戀来者 自明門 倭嶋所見 [一本云 家門當見由]
#[訓読]天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ [一本云 家のあたり見ゆ]
#[仮名],あまざかる,ひなのながちゆ,こひくれば,あかしのとより,やまとしまみゆ,[いへのあたりみゆ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]天離る鄙の長い道のりを家を恋い思って来ると、明石の海峡より大和嶋が見える[家のあたりが見える]
#{語釈]
#[説明]
大和を見ているので帰路(上り)
#[関連論文]



#[番号]03/0256
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]飼飯海乃 庭好有之 苅薦乃 乱出所見 海人釣船
#[訓読]笥飯の海の庭よくあらし刈薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船
#[仮名],けひのうみの,にはよくあらし,かりこもの,みだれていづみゆ,あまのつりぶね
#[左注]一本云 武庫乃海 舳尓波有之 伊射里為流 海部乃釣船 浪上従所見
#[校異]海舳尓波 [紀]朱書 [全註釈] 海能尓波好 [訓 海の庭よくあらし]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,魂触り,兵庫,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]笥飯の海の庭はおだやかであるらしい。刈った薦のように乱れて出ているのが見える。海人の釣船よ。
#{語釈]
#[説明]
歌順からすると帰路(上り)

#[関連論文]



#[番号]03/0257
#[題詞]鴨君足人香具山歌一首[并短歌]
#[原文]天降付 天之芳来山 霞立 春尓至婆 松風尓 池浪立而 櫻花 木乃晩茂尓 奥邊波 鴨妻喚 邊津方尓 味村左和伎 百礒城之 大宮人乃 退出而 遊船尓波 梶棹毛 無而不樂毛 己具人奈四二
#[訓読]天降りつく 天の香具山 霞立つ 春に至れば 松風に 池波立ちて 桜花 木の暗茂に 沖辺には 鴨妻呼ばひ 辺つ辺に あぢ群騒き ももしきの 大宮人の 退り出て 遊ぶ船には 楫棹も なくて寂しも 漕ぐ人なしに
#[仮名],あもりつく,あめのかぐやま,かすみたつ,はるにいたれば,まつかぜに,いけなみたちて,さくらばな,このくれしげに,おきへには,かもつまよばひ,へつへに,あぢむらさわき,ももしきの,おほみやひとの,まかりでて,あそぶふねには,かぢさをも,なくてさぶしも,こぐひとなしに
#[左注]?(右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟)
#[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,地名,植物
#[訓異]
#[大意]
天から降って来て付いた天の香具山よ。霞が立つ春になると松を吹く風で埴安の池に波が立ち、桜花が木の下が暗いばかりに沖では鴨が妻を呼び合い、岸の近くはあじ鴨が騒ぎ合っているがいつもだったら、百敷の大宮人が退出して船遊びをするその船には棹も梶もなくて寂しいことである。漕ぐ人もいなくって
#{語釈]
鴨君足人 伝未詳。現在藤原宮跡西に鴨公小学校がある。高市皇子の舎人だったか
池波  埴安池か
あぢ群 あじ鴨の群れ

#[説明]
左注には、奈良線都後のさびしさとあるが、高市皇子の薨去後、香具山宮を中心とした周辺に人気が亡くなっていく様子を描いたものか

#[関連論文]



#[番号]03/0258
#[題詞](鴨君足人香具山歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]人不榜 有雲知之 潜為 鴦与高部共 船上住
#[訓読]人漕がずあらくもしるし潜きする鴛鴦とたかべと船の上に棲む
#[仮名],ひとこがず,あらくもしるし,かづきする,をしとたかべと,ふねのうへにすむ
#[左注]?(右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,動物
#[訓異]
#[大意]人が船遊びをしないのも著しい。水に潜る鴛鴦とたかべが船の上に棲んでいる
#{語釈]
たかべ ガンカモ科の小型の水鳥

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0259
#[題詞]((鴨君足人香具山歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]何時間毛 神左備祁留鹿 香山之 <鉾>椙之本尓 薜生左右二
#[訓読]いつの間も神さびけるか香具山の桙杉の本に苔生すまでに
#[仮名],いつのまも,かむさびけるか,かぐやまの,ほこすぎのもとに,こけむすまでに
#[左注]?(右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]いつの間に神々しくなっていったのか。香具山の鉾杉の元に苔が生すまでに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0260
#[題詞](鴨君足人香具山歌一首[并短歌])或本歌云
#[原文]天降就 神乃香山 打靡 春去来者 櫻花 木暗茂 松風丹 池浪飆 邊都遍者 阿遅村動 奥邊者 鴨妻喚 百式乃 大宮人乃 去出 榜来舟者 竿梶母 無而佐夫之毛 榜与雖思
#[訓読]天降りつく 神の香具山 うち靡く 春さり来れば 桜花 木の暗茂に 松風に 池波立ち 辺つ辺には あぢ群騒き 沖辺には 鴨妻呼ばひ ももしきの 大宮人の 退り出て 漕ぎける船は 棹楫も なくて寂しも 漕がむと思へど
#[仮名],あもりつく,かみのかぐやま,うちなびく,はるさりくれば,さくらばな,このくれしげに,まつかぜに,いけなみたち,へつへには,あぢむらさわき,おきへには,かもつまよばひ,ももしきの,おほみやひとの,まかりでて,こぎけるふねは,さをかぢも,なくてさぶしも,こがむとおもへど
#[左注]右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]
空から降ってきた神の香具山よ。草木の葉が風に靡く春になると桜花は満開になり木も暗くなるばかり。松を吹く風で池の波が立ち、岸辺ではあじ顔の群れが騒ぎ立て、沖では鴨が妻を呼び合っている。だけどももしきの大宮人が宮を退出して漕いでいた船は棹や梶もなくてさびしいことだ。漕ごうとは思うのだが

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0261
#[題詞]柿本朝臣人麻呂獻新田部皇子歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 吾大王 高輝 日之皇子 茂座 大殿於 久方 天傳来 <白>雪仕物 徃来乍 益及常世
#[訓読]やすみしし 我が大君 高照らす 日の御子 敷きいます 大殿の上に ひさかたの 天伝ひ来る 雪じもの 行き通ひつつ いや常世まで
#[仮名],やすみしし,わがおほきみ,たかてらす,ひのみこ,しきいます,おほとののうへに,ひさかたの,あまづたひくる,ゆきじもの,ゆきかよひつつ,いやとこよまで
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 自 -> 白 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,新田部皇子,献呈歌,飛鳥,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君。空高くお照らしになる日の御子。いらっしゃる御殿の上に久方の天から伝わってくる雪のように、行き通い続けよう。いつまでも。
#{語釈]
新田部皇子 天武天皇の末息子。天平七年没。五五歳ぐらいか。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0262
#[題詞](柿本朝臣人麻呂獻新田部皇子歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]矢釣山 木立不見 落乱 雪驪 朝樂毛
#[訓読]矢釣山木立も見えず降りまがふ雪に騒ける朝楽しも
#[仮名],やつりやま,こだちもみえず,ふりまがふ,ゆきにさわける,あしたたのしも
#[左注]
#[校異]矢 [細] 矣 / 釣 [類][紀][細] 駒 / 驪 [類] 驟
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,新田部皇子,献呈歌,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]矢釣山の木立も見えないぐらい降り乱れる雪の中で騒いでいる朝は楽しいことだ
#{語釈]
矢釣山  明日香村八釣の東北の山 新田部皇子の宮があったか。
騒ける  原文「驪」 騒の意味を持つ
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0263
#[題詞]従近江國上来時刑部垂麻呂作歌一首
#[原文]馬莫疾 打莫行 氣並而 見弖毛和我歸 志賀尓安良七國
#[訓読]馬ないたく打ちてな行きそ日ならべて見ても我が行く志賀にあらなくに
#[仮名],うまないたく,うちてなゆきそ,けならべて,みてもわがゆく,しがにあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:刑部垂麻呂,羈旅,土地讃美,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]馬をひどくむち打っては急がせて行くなよ。何日もかけて見に行ける滋賀ではないのだから。
#{語釈]
刑部垂麻呂 伝未詳  文武朝の人か

#[説明]
再び見るとなると大変だから、滋賀の風景をゆっくりと見て行こうという意味

#[関連論文]



#[番号]03/0264
#[題詞]柿本朝臣人麻呂従近江國上来時至宇治河邊作歌一首
#[原文]物乃部能 八十氏河乃 阿白木尓 不知代經浪乃 去邊白不母
#[訓読]もののふの八十宇治川の網代木にいさよふ波のゆくへ知らずも
#[仮名],もののふの,やそうぢかはの,あじろきに,いさよふなみの,ゆくへしらずも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,不安,宇治,京都,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]もののふの八十宇治川の網代木に漂っている波の行き先がわからないことだ
#{語釈]
#[説明]
漂泊の思いや無常観を詠んでいるか。たんなる宇治川の流れの速い様子を言ったものか。

#[関連論文]



#[番号]03/0265
#[題詞]長忌寸奥麻呂歌一首
#[原文]苦毛 零来雨可 神之埼 狭野乃渡尓 家裳不有國
#[訓読]苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに
#[仮名],くるしくも,ふりくるあめか,みわのさき,さののわたりに,いへもあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長意吉麻呂,羈旅,和歌山,苦難,地名
#[訓異]
#[大意]苦しいことにも降って来た雨か。三輪の崎よ。狭野の渡りに家もないのに
#{語釈]
長忌寸奥麻呂 0238
三輪の崎 和歌山県新宮市三輪崎町
狭野の渡り 新宮市佐野あたり。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0266
#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌一首
#[原文]淡海乃海 夕浪千鳥 汝鳴者 情毛思<努>尓 古所念
#[訓読]近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ
#[仮名],あふみのうみ,ゆふなみちどり,ながなけば,こころもしのに,いにしへおもほゆ
#[左注]
#[校異]奴 -> 努 [西(補入)][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,懐古,荒都歌,鎮魂,滋賀,地名,動物
#[訓異]
#[大意]近江の海の夕波に浮かぶ千鳥よ。お前が泣くと心もしおれるばかりに昔のことが思われる
#{語釈]
#[説明]
近江荒都への懐古

#[関連論文]



#[番号]03/0267
#[題詞]志貴皇子御歌一首
#[原文]牟佐々婢波 木末求跡 足日木乃 山能佐都雄尓 相尓来鴨
#[訓読]むささびは木末求むとあしひきの山のさつ男にあひにけるかも
#[仮名],むささびは,こぬれもとむと,あしひきの,やまのさつをに,あひにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:志貴皇子,猟,動物,枕詞
#[訓異]
#[大意]むささびは梢を探そうとして山の猟師に出会ったことだ
#{語釈]
#[説明]
むささびの不運を言っている。何か寓意があるか

06/1028D01十一年己卯 天皇遊猟高圓野之時小獣泄走都里之中 於是適値勇士生而
06/1028D02見獲即以此獣獻上御在所副歌一首 [獣名俗曰牟射佐妣]
06/1028H01ますらをの高円山に迫めたれば里に下り来るむざさびぞこれ
06/1028S01右一首大伴坂上郎女作之也 但未逕奏而小獣死斃 因此獻歌停之

#[関連論文]




#[番号]03/0268
#[題詞]長屋王故郷歌一首
#[原文]吾背子我 古家乃里之 明日香庭 乳鳥鳴成 <嬬>待不得而
#[訓読]我が背子が古家の里の明日香には千鳥鳴くなり妻待ちかねて
#[仮名],わがせこが,ふるへのさとの,あすかには,ちどりなくなり,つままちかねて
#[左注]右今案従明日香遷藤原宮之後作此歌歟
#[校異]嶋 -> 嬬 [注釈] / 歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:長屋王,望郷,故郷,荒都歌,飛鳥,地名,動物
#[訓異]
#[大意]我が背子の昔いた旧宅のある里である飛鳥には千鳥が鳴いている。妻を待ちかねて
{語釈]
妻   千鳥がつがいを待つ  旧宅の住人

#[説明]
飛鳥に残る長屋王が藤京に移住した友人に宛てたもの
藤原京に移住した長屋王が飛鳥の旧宅に帰り、友人に宛てたもの

#[関連論文]



#[番号]03/0269
#[題詞]阿倍女郎屋部坂歌一首
#[原文]人不見者 我袖用手 将隠乎 所焼乍可将有 不服而来来
#[訓読]人見ずは我が袖もちて隠さむを焼けつつかあらむ着ずて来にけり
#[仮名],ひとみずは,わがそでもちて,かくさむを,やけつつかあらむ,きずてきにけり
#[左注]
#[校異]来来 [紀][細] 来々
#[鄣W],雑歌,作者:阿倍女郎,難解,恋愛,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]他人が見ていないならば自分の袖で隠すものなのに。あなた(坂)は焼け続けているのでしょうか。何も着ないままに今まで来たのですね
#{語釈]
阿倍女郎 伝未詳 04/0505・6 514~6 08/1631は別人
屋部坂  未詳。法隆寺より西の竜田川西岸か。明日香村、田原本町

#[説明]
矢部坂というのは赤土が向きだしの坂だったのだろう。それを擬人的に歌っている。
坂越えの手向け歌


#[関連論文]



#[番号]03/0270
#[題詞]高市連黒人覊旅歌八首
#[原文]客為而 物戀敷尓 山下 赤乃曽<保><船> 奥榜所見
#[訓読]旅にしてもの恋しきに山下の赤のそほ船沖を漕ぐ見ゆ
#[仮名],たびにして,ものこほしきに,やましたの,あけのそほふね,おきをこぐみゆ
#[左注]
#[校異](Y) -> 保 [西(右書)][類][紀] / 舡 -> 船 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]旅に出ていて何となく恋しい感じがしているのに、この山の下の方では赤い官船が起きを漕いでいるのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0271
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]櫻田部 鶴鳴渡 年魚市方 塩干二家良之 鶴鳴渡
#[訓読]桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る
#[仮名],さくらだへ,たづなきわたる,あゆちがた,しほひにけらし,たづなきわたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,名古屋,愛知,地名,動物
#[訓異]
#[大意]桜田へ鶴が鳴き渡っている。年魚市潟が潮が干いたらしい。鶴が鳴き渡っている
#{語釈]
桜田  名古屋市南区桜田町一帯
年魚市潟  名古屋市熱田区、南区の海岸。現在は埋め立てられてない。東海道の近道だったか

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0272
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]四極山 打越見者 笠縫之 嶋榜隠 棚無小舟
#[訓読]四極山うち越え見れば笠縫の島漕ぎ隠る棚なし小舟
#[仮名],しはつやま,うちこえみれば,かさぬひの,しまこぎかくる,たななしをぶね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]四極山を越えて見ると笠縫の島を漕ぎ隠れる船棚のない小さな丸木船が見える
#{語釈]
四極山  所在未詳。愛知あたりか。大阪、天王寺あたりとも考えられるが、配列に会わない
笠縫の島 所在未詳。

#[説明]
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#[番号]03/0273
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]礒前 榜手廻行者 近江海 八十之湊尓 鵠佐波二鳴 [未詳]
#[訓読]磯の崎漕ぎ廻み行けば近江の海八十の港に鶴さはに鳴く [未詳]
#[仮名],いそのさき,こぎたみゆけば,あふみのうみ,やそのみなとに,たづさはになく
#[左注]
#[校異]未詳 [類][紀](塙) <>
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,琵琶湖,滋賀,地名,動物
#[訓異]
#[大意]磯の先を漕ぎ廻って行くと近江の海の多くの水門に鶴がたくさん鳴いている
#{語釈]
未詳   次の2首と同じ時の歌詠かどうかはわからないという意味

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0274
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]吾船者 枚乃湖尓 榜将泊 奥部莫避 左夜深去来
#[訓読]我が舟は比良の港に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり
#[仮名],わがふねは,ひらのみなとに,こぎはてむ,おきへなさかり,さよふけにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,琵琶湖,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]我が船は比良の水門に漕いで到着しよう。沖へは離れるなよ。夜も更けたことだから
#{語釈]
比良の港  比良山の麓 近江舞子の南

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0275
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]何處 吾将宿 高嶋乃 勝野原尓 此日暮去者
#[訓読]いづくにか我は宿らむ高島の勝野の原にこの日暮れなば
#[仮名],いづくにか,われはやどらむ,たかしまの,かちののはらに,このひくれなば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]どの場所に自分は宿を取ろう。高島の勝野の原にこの日が暮れてしまうと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0276
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]妹母我母 一有加母 三河有 二見自道 別不勝鶴
#[訓読]妹も我れも一つなれかも三河なる二見の道ゆ別れかねつる
#[仮名],いももあれも,ひとつなれかも,みかはなる,ふたみのみちゆ,わかれかねつる
#[左注]一本云 水河乃 二見之自道 別者 吾勢毛吾文 獨可文将去
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,異伝,愛知,地名
#[訓異]
#[大意]妹も我も一つであろうか。三河にある二見の道から別れることが出来ないでいる
#{語釈]
#[説明]
二見の道 愛知県豊川市御油町と国府町の堺。姫街道と東海道の分かれ道

#[関連論文]



#[番号]03/0277
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]速来而母 見手益物乎 山背 高槻村 散去奚留鴨
#[訓読]早来ても見てましものを山背の高の槻群散りにけるかも
#[仮名],はやきても,みてましものを,やましろの,たかのつきむら,ちりにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,京都,地名,植物
#[訓異]
#[大意]早くやって来て見ればよかったものを。山城の高のけやきの林もすっかり葉が散ってしまっていることだ
#{語釈]
高の槻群  京都府綴喜郡多賀あたり

#[説明]
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#[番号]03/0278
#[題詞]石川少郎歌一首
#[原文]然之海人者 軍布苅塩焼 無暇 髪梳乃<小>櫛 取毛不見久尓
#[訓読]志賀の海女は藻刈り塩焼き暇なみ櫛笥の小櫛取りも見なくに
#[仮名],しかのあまは,めかりしほやき,いとまなみ,くしげのをぐし,とりもみなくに
#[左注]右今案 石川朝臣君子号曰少郎子也
#[校異]少 -> 小 [古][矢]
#[鄣W],雑歌,作者:石川君子,羈旅,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]志賀島の海女は藻を苅り、塩を焼、暇がないので、櫛笥の小櫛を取って見ることもないことだ
#{語釈]
石川少郎 石川君子 247左注 霊亀元年播磨守  太宰小貳任官は記録にない。

#[説明]
働き物の志賀島の海女たちを讃美したもの

#[関連論文]



#[番号]03/0279
#[題詞]高市連黒人歌二首
#[原文]吾妹兒二 猪名野者令見都 名次山 角松原 何時可将示
#[訓読]我妹子に猪名野は見せつ名次山角の松原いつか示さむ
#[仮名],わぎもこに,ゐなのはみせつ,なすきやま,つののまつばら,いつかしめさむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,兵庫,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]我妹子に猪名野は見せた。景勝の名次山や角の松原をいつになったら示そうか
#{語釈]
猪名野  兵庫県伊丹市 猪名川両岸
名次山  兵庫県西宮市名次町
角の松原 兵庫県西宮市津門

#[説明]
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#[番号]03/0280
#[題詞](高市連黒人歌二首)
#[原文]去来兒等 倭部早 白菅乃 真野乃榛原 手折而将歸
#[訓読]いざ子ども大和へ早く白菅の真野の榛原手折りて行かむ
#[仮名],いざこども,やまとへはやく,しらすげの,まののはりはら,たをりてゆかむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,兵庫,地名,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]さあ、者どもよ。大和へ早く戻ろう。白菅の生えている真野の榛の原で手折って行こう
#{語釈]
白菅     湿地に生えるカヤツリグサ科の菅
真野の榛原  兵庫県長田区東尻池町
手折りて行かむ  榛の枝を手折ってみやげにしようというのである。黄葉の時期か

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0281
#[題詞]黒人妻答歌一首
#[原文]白菅乃 真野之榛原 徃左来左 君社見良目 真野乃榛原
#[訓読]白菅の真野の榛原行くさ来さ君こそ見らめ真野の榛原
#[仮名],しらすげの,まののはりはら,ゆくさくさ,きみこそみらめ,まののはりはら
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人妻,羈旅,兵庫,地名,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]白菅の真野の榛原よ行き帰りにあなたこそご覧になったでしょうが私は初めてです。。この美しい真野の蓁原を。だからゆっくりと見て行きましょう。
#{語釈]
#[説明]
黒人が早く帰ろうと即したのに対して、妻は初めて見るのだからゆっくりと行こうと言ったもの


#[関連論文]



#[番号]03/0282
#[題詞]春日蔵首老歌一首
#[原文]角障經 石村毛不過 泊瀬山 何時毛将超 夜者深去通都
#[訓読]つのさはふ磐余も過ぎず泊瀬山いつかも越えむ夜は更けにつつ
#[仮名],つのさはふ,いはれもすぎず,はつせやま,いつかもこえむ,よはふけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:春日老,羈旅,飛鳥,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]つのさはふ磐余もまだ過ぎていない。初瀨山をいつになった越えるのだろうか。夜も更けて来ているのにら

#{語釈]
春日蔵首老 01/0056 もと僧 弁基 大宝元年還俗
つのさはふ 芽がさえぎられる岩の意味か
磐余 桜井市、橿原市の当たり

#[説明]
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#[番号]03/0283
#[題詞]高市連黒人歌一首
#[原文]墨吉乃 得名津尓立而 見渡者 六兒乃泊従 出流船人
#[訓読]住吉の得名津に立ちて見わたせば武庫の泊りゆ出づる船人
#[仮名],すみのえの,えなつにたちて,みわたせば,むこのとまりゆ,いづるふなびと
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,大阪,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]住吉の得南津に立って見渡すと、武庫の波止場にか出て行く船人が見える
#{語釈]
得名津  大阪市住之江区住之江あたり

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0284
#[題詞]春日蔵首老歌一首
#[原文]焼津邊 吾去鹿齒 駿河奈流 阿倍乃市道尓 相之兒等羽裳
#[訓読]焼津辺に我が行きしかば駿河なる阿倍の市道に逢ひし子らはも
#[仮名],やきづへに,わがゆきしかば,するがなる,あべのいちぢに,あひしこらはも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:春日老,羈旅,静岡,恋愛,地名
#[訓異]
#[大意]屋焼津のあたりを自分が行っていると阿倍の市の道ばたで問いかけていたあの子はなあ
#{語釈]
阿倍の市道  静岡市の古い名前

#[説明]
歌垣を回想しているか。

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#[番号]03/0285
#[題詞]丹比真人笠麻呂徃紀伊國超勢能山時作歌一首
#[原文]栲領巾乃 懸巻欲寸 妹名乎 此勢能山尓 懸者奈何将有 [一云 可倍波伊香尓安良牟]
#[訓読]栲領巾の懸けまく欲しき妹が名をこの背の山に懸けばいかにあらむ [一云 替へばいかにあらむ]
#[仮名],たくひれの,かけまくほしき,いもがなを,このせのやまに,かけばいかにあらむ,[かへばいかにあらむ]
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:丹比笠麻呂,羈旅,土地讃美,和歌山,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]栲領巾を肩に懸けるということではないが、言葉に懸けたい妹の名前をこの背の山に懸けるとどのようであろうか
#{語釈]
丹比真人笠麻呂  伝未詳
背の山   和歌山県伊都郡かつらぎ町  紀ノ川北岸 01/0035
栲領巾の 楮の繊維で作った薄い布 そのヒレ  懸けるにかかる枕詞

#[説明]
羇旅中の望郷と土地讃美

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#[番号]03/0286
#[題詞]春日蔵首老即和歌一首
#[原文]宜奈倍 吾背乃君之 負来尓之 此勢能山乎 妹者不喚
#[訓読]よろしなへ我が背の君が負ひ来にしこの背の山を妹とは呼ばじ
#[仮名],よろしなへ,わがせのきみが,おひきにし,このせのやまを,いもとはよばじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:春日老,羈旅,土地讃美,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]都合よく我が背の君が背負ってきたこの背とちう名前の山を妹とは呼ぶまいよ
#{語釈]
よろしなへ都合よく  ふさわしい

#[説明]
丹比笠麻呂が妹という名前を背に懸けたらどうだろうかと言ったのに対して、長い間我が背の君が背負ってきた「背」なのだから、「妹」などとは決して呼ばないよと答えたもの。

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#[番号]03/0287
#[題詞]幸志賀時石上卿作歌一首 [名闕]
#[原文]此間為而 家八方何處 白雲乃 棚引山乎 超而来二家里
#[訓読]ここにして家やもいづく白雲のたなびく山を越えて来にけり
#[仮名],ここにして,いへやもいづく,しらくもの,たなびくやまを,こえてきにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:石上卿,羈旅,行幸,従駕,望郷,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]ここにあって家はどの方向だろうか。白雲のたなびく山を越えて来たことだ
#{語釈]
幸志賀時  不明  文武朝頃か  霊亀二年の元明天皇美濃行幸時とすると石上豊庭
石上卿  不明  石上麻呂か

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0288
#[題詞]穂積朝臣老歌一首
#[原文]吾命之 真幸有者 亦毛将見 志賀乃大津尓 縁流白波
#[訓読]我が命のま幸くあらばまたも見む志賀の大津に寄する白波
#[仮名],わがいのちの,まさきくあらば,またもみむ,しがのおほつに,よするしらなみ
#[左注]右今案 不審幸行年月
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:穂積老,羈旅,予祝,大津,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]自分の命が無事だったならばまた見よう。志賀の大津に寄せる白波を
#{語釈]
穂積朝臣老 養老6年元正天皇を誹謗した罪により斬刑の所を首皇太子のとりなしで佐渡へ流罪。天平12年大赦。天平勝宝元年没。

ま幸くあらば 有間皇子の結び松の歌   羇旅の無事を願う

不審幸行年月  編纂者は行幸だと考えている。
        13-3241と同じ時か。遺伝か。

#[説明]
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#[番号]03/0289
#[題詞]間人宿祢大浦初月歌二首
#[原文]天原 振離見者 白真弓 張而懸有 夜路者将吉
#[訓読]天の原振り放け見れば白真弓張りて懸けたり夜道はよけむ
#[仮名],あまのはら,ふりさけみれば,しらまゆみ,はりてかけたり,よみちはよけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:間人大浦,恋歌
#[訓異]
#[大意]天の原を振り仰いでみると白木の真弓が弦を張ったように空に掛けてある。夜道は明るいだろう
#{語釈]
間人宿祢大浦 伝未詳 09/1685

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0290
#[題詞](間人宿祢大浦初月歌二首)
#[原文]椋橋乃 山乎高可 夜隠尓 出来月乃 光乏寸
#[訓読]倉橋の山を高みか夜隠りに出で来る月の光乏しき
#[仮名],くらはしの,やまをたかみか,よごもりに,いでくるつきの,ひかりともしき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:間人大浦,初瀬,地名
#[訓異]
#[大意]倉橋の山が高いからなのだろうか。夜隠っていて出てくる月の光が乏しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0291
#[題詞]小田事勢能山歌一首
#[原文]真木葉乃 之奈布勢能山 之<努>波受而 吾超去者 木葉知家武
#[訓読]真木の葉のしなふ背の山偲はずて我が越え行けば木の葉知りけむ
#[仮名],まきのはの,しなふせのやま,しのはずて,わがこえゆけば,このはしりけむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 奴 -> 努 [類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:小田事,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]立派な木立の枝がたわむばかりの鬱蒼とした背の山を賞美しないで自分が越えて行くと、木の葉はそれを知ってしまうだろうか。
#{語釈]
小田事 伝未詳

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0292
#[題詞]角麻呂歌四首
#[原文]久方乃 天之探女之 石船乃 泊師高津者 淺尓家留香裳
#[訓読]ひさかたの天の探女が岩船の泊てし高津はあせにけるかも
#[仮名],ひさかたの,あまのさぐめが,いはふねの,はてしたかつは,あせにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]久方の天の深女の岩舟が停泊した高津は浅くなってしまったことだ
#{語釈]
角麻呂 伝未詳
天の探女が岩船  摂津国風土記逸聞

#[説明]
風光が変化していることを言う。淀川の土砂の堆積により海岸線が進出していく様子。

#[関連論文]



#[番号]03/0293
#[題詞](角麻呂歌四首)
#[原文]塩干乃 三津之海女乃 久具都持 玉藻将苅 率行見
#[訓読]潮干の御津の海女のくぐつ持ち玉藻刈るらむいざ行きて見む
#[仮名],しほひの,みつのあまの,くぐつもち,たまもかるらむ,いざゆきてみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名,植物
#[訓異]
#[大意]潮が干いた御津の海女がくぐつを持って玉今頃は藻を苅っているだろう。さあ行って見よう
#{語釈]
くぐつ 海草(くぐ)を縄にして編んだ籠

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0294
#[題詞](角麻呂歌四首)
#[原文]風乎疾 奥津白波 高有之 海人釣船 濱眷奴
#[訓読]風をいたみ沖つ白波高からし海人の釣舟浜に帰りぬ
#[仮名],かぜをいたみ,おきつしらなみ,たかからし,あまのつりぶね,はまにかへりぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]風がひどいので沖の白波が高いらしい。海人の釣船が浜へ帰ってしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0295
#[題詞](角麻呂歌四首)
#[原文]清江乃 木笶松原 遠神 我王之 幸行處
#[訓読]住吉の岸の松原遠つ神我が大君の幸しところ
#[仮名],すみのえの,きしのまつばら,とほつかみ,わがおほきみの,いでましところ
#[左注]
#[校異]木 [紀] 野木
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]住吉の岸の松原よ。遠い神である我が大君の行幸された所である
#{語釈]
岸の松原  「笑」異訓あり。音仮名として「し」、岸の松原
      紀州「清江乃 野木笶松原」 「笑」は矢竹を意味する「の」  のぎの松     原  野に生えている木

遠つ神   遠い御代で神となった大君の意  人倫に遠い神としての存在である大君

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0296
#[題詞]田口益人大夫任上野國司時至駿河浄見埼作歌二首
#[原文]廬原乃 浄見乃埼乃 見穂之浦乃 寛見乍 物念毛奈信
#[訓読]廬原の清見の崎の三保の浦のゆたけき見つつ物思ひもなし
#[仮名],いほはらの,きよみのさきの,みほのうらの,ゆたけきみつつ,ものもひもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田口益人,羈旅,土地讃美,静岡,地名
#[訓異]
#[大意]廬原の清見の崎の三保の浦のゆったりとした風景を見続けて物思いもないことだ
#{語釈]
田口益人  大宝四年正月 従五位下
任上野國司時  通常は東山道を行く。何故東海道かはわからない
駿河浄見埼 清水市興津清見寺町の岬
廬原の清見の崎の三保の浦  美保の松原の海

#[説明]
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#[番号]03/0297
#[題詞](田口益人大夫任上野國司時至駿河浄見埼作歌二首)
#[原文]晝見騰 不飽田兒浦 大王之 命恐 夜見鶴鴨
#[訓読]昼見れど飽かぬ田子の浦大君の命畏み夜見つるかも
#[仮名],ひるみれど,あかぬたごのうら,おほきみの,みことかしこみ,よるみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田口益人,羈旅,静岡,土地讃美,地名,大夫
#[訓異]
#[大意]昼見ても見飽きることのない田子の浦を大君のご命令を恐れ多く思って夜見ていることである
#{語釈]
田子の浦  浄見埼から15キロほどの所
大君の命畏み 下降の日数が決まっていたので、滞在出来ないという意味

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0298
#[題詞]弁基歌一首
#[原文]亦打山 暮越行而 廬前乃 角太川原尓 獨可毛将宿
#[訓読]真土山夕越え行きて廬前の角太川原にひとりかも寝む
#[仮名],まつちやま,ゆふこえゆきて,いほさきの,すみだかはらに,ひとりかもねむ
#[左注]右或云 弁基者春日蔵首老之法師名也
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:弁基,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]真土山を夕方に越えて行って廬前の角太川原に独りで野宿することであろうか
#{語釈]
弁基 春日蔵人老の出家名 282、4、6の作者
廬前の角太川原  和歌山県橋本市隅田あたりを流れる紀ノ川

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0299
#[題詞]大納言大伴卿歌一首 [未詳]
#[原文]奥山之 菅葉凌 零雪乃 消者将惜 雨莫零行年
#[訓読]奥山の菅の葉しのぎ降る雪の消なば惜しけむ雨な降りそね
#[仮名],おくやまの,すがのはしのぎ,ふるゆきの,けなばをしけむ,あめなふりそね
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人
#[訓異]
#[大意]奥山の菅の葉を凌いで降り積もる雪が消えてしまうと惜しいので雨よ降るなよ
#{語釈]
大納言大伴卿  大伴安麻呂、旅人 かが [未詳] 編者の注
雨な降りそね  みぞれ混じりで雨に変わって行ったか。

       雪はめでたい予祝のもの。しかも奥山に降るので神聖なもという概念があ        る。そこで惜しいということになる。
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0300
#[題詞]長屋王駐馬寧樂山作歌二首
#[原文]佐保過而 寧樂乃手祭尓 置幣者 妹乎目不離 相見染跡衣
#[訓読]佐保過ぎて奈良の手向けに置く幣は妹を目離れず相見しめとぞ
#[仮名],さほすぎて,ならのたむけに,おくぬさは,いもをめかれず,あひみしめとぞ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長屋王,羈旅,手向け,奈良,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]佐保を過ぎて奈良の手向けに置く御幣は妹の目を離れずに共に見させて欲しいという意味があるのだ
#{語釈]
佐保過ぎて 藤原京にいた文武朝の頃。何の旅であるかは不明

#[説明]
平城山での手向けの歌

#[関連論文]



#[番号]03/0301
#[題詞](長屋王駐馬寧樂山作歌二首)
#[原文]磐金之 凝敷山乎 超不勝而 哭者泣友 色尓将出八方
#[訓読]岩が根のこごしき山を越えかねて音には泣くとも色に出でめやも
#[仮名],いはがねの,こごしきやまを,こえかねて,ねにはなくとも,いろにいでめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長屋王,羈旅,望郷,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]岩のごつごつした山を越えることが出来なくて声を上げて泣くことはあっても顔に出るだろうか
#{語釈]
#[説明]
手向けの望郷。不吉とされたか。

#[関連論文]



#[番号]03/0302
#[題詞]中納言阿倍廣庭卿歌一首
#[原文]兒等之家道 差間遠焉 野干<玉>乃 夜渡月尓 競敢六鴨
#[訓読]子らが家道やや間遠きをぬばたまの夜渡る月に競ひあへむかも
#[仮名],こらがいへぢ,ややまどほきを,ぬばたまの,よわたるつきに,きほひあへむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 子 -> 玉 [西(左書)][類][細]
#[鄣W],雑歌,作者:阿倍広庭,恋愛
#[訓異]
#[大意]あの子への家路はちょっと遠いのだが、ぬばたまの夜空を渡っていく月と競争して勝てるかなあ
#{語釈]
阿倍廣庭卿  右大臣御主人の子 神亀四年中納言。天平四年薨去。七四歳
競ひあへむかも  あふ  耐える、こらえる

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0303
#[題詞]柿本朝臣人麻呂下筑紫國時海路作歌二首
#[原文]名細寸 稲見乃海之 奥津浪 千重尓隠奴 山跡嶋根者
#[訓読]名ぐはしき印南の海の沖つ波千重に隠りぬ大和島根は
#[仮名],なぐはしき,いなみのうみの,おきつなみ,ちへにかくりぬ,やまとしまねは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]名前を霊妙な印南の海の沖の波に幾重にも隠れてしまった。大和島根は。
#{語釈]
名ぐはしき  名も霊妙な  
印南の海  播磨灘
大和島根  生駒山から葛城、和泉山脈を指す

#[説明]
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#[番号]03/0304
#[題詞](柿本朝臣人麻呂下筑紫國時海路作歌二首)
#[原文]大王之 遠乃朝庭跡 蟻通 嶋門乎見者 神代之所念
#[訓読]大君の遠の朝廷とあり通ふ島門を見れば神代し思ほゆ
#[仮名],おほきみの,とほのみかどと,ありがよふ,しまとをみれば,かむよしおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,兵庫,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]大君の遠の朝廷として行き来する海峡を見ると神代のことが思われる
#{語釈]
神代し思ほゆ  淡路の国生み神話を想定しているか。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0305
#[題詞]高市連黒人近江舊都歌一首
#[原文]如是故尓 不見跡云物乎 樂浪乃 舊都乎 令見乍本名
#[訓読]かく故に見じと言ふものを楽浪の旧き都を見せつつもとな
#[仮名],かくゆゑに,みじといふものを,ささなみの,ふるきみやこを,みせつつもとな
#[左注]右歌或本曰少辨作也 未審此少弁者也
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,少辨,近江荒都,荒都歌,大津,滋賀,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]このように悲しくなるから見ないと言ったのに楽浪の古い都をむやみに見せてしまって
#{語釈]
少辨作  伝未詳 役職名 09/1734

#[説明]
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#[番号]03/0306
#[題詞]幸伊勢國之時安貴王作歌一首
#[原文]伊勢海之 奥津白浪 花尓欲得 褁而妹之 家褁為
#[訓読]伊勢の海の沖つ白波花にもが包みて妹が家づとにせむ
#[仮名],いせのうみの,おきつしらなみ,はなにもが,つつみていもが,いへづとにせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:安貴王,羈旅,望郷,伊勢,三重,地名
#[訓異]
#[大意]伊勢の海の沖の白波が花にでもあればよいのに。そうすれば包んで妹のみやげにしようものを
#{語釈]
安貴王  志貴皇子の孫 04/534 八上采女との不倫。04/0643 紀女郎の離婚

#[説明]
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#[番号]03/0307
#[題詞]博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首
#[原文]皮為酢寸 久米能若子我 伊座家留 [一云 家牟] 三穂乃石室者 雖見不飽鴨 [一云 安礼尓家留可毛]
#[訓読]はだ薄久米の若子がいましける [一云 けむ] 三穂の石室は見れど飽かぬかも [一云 荒れにけるかも]
#[仮名],はだすすき,くめのわくごが,いましける,[けむ],みほのいはやは,みれどあかぬかも,[あれにけるかも]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:博通法師,羈旅,土地讃美,和歌山,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]はだ薄久米の若者がいらっしゃった三穂の岩屋は見ても見飽きることがないよ
#{語釈]
博通法師  伝未詳
三穂石室 和歌山県日高郡美浜町三尾
はだ薄    皮に包まれて穂が出ていない薄。穂が隠れているので隠れるの意味の「くめ」に係る。  くみど、こもど
久米の若子 伝説上の人物か。久米の若者、神人

#[説明]
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#[番号]03/0308
#[題詞](博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首)
#[原文]常磐成 石室者今毛 安里家礼騰 住家類人曽 常無里家留
#[訓読]常磐なす石室は今もありけれど住みける人ぞ常なかりける
#[仮名],ときはなす,いはやはいまも,ありけれど,すみけるひとぞ,つねなかりける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:博通法師,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]永遠の岩のような岩屋は今もあるが住んでいた人は永遠ではないのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0309
#[題詞](博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首)
#[原文]石室戸尓 立在松樹 汝乎見者 昔人乎 相見如之
#[訓読]石室戸に立てる松の木汝を見れば昔の人を相見るごとし
#[仮名],いはやとに,たてるまつのき,なをみれば,むかしのひとを,あひみるごとし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:博通法師,羈旅,和歌山,地名,植物
#[訓異]
#[大意]岩屋の入り口に立っている松の木よ。お前を見ると昔の人をともに見ているようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0310
#[題詞]門部王詠東市之樹作歌一首 [後賜姓大原真人氏也]
#[原文]東 市之殖木乃 木足左右 不相久美 宇倍<戀>尓家利
#[訓読]東の市の植木の木垂るまで逢はず久しみうべ恋ひにけり
#[仮名],ひむがしの,いちのうゑきの,こだるまで,あはずひさしみ,うべこひにけり
#[左注]
#[校異]吾戀 -> 戀 [類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:門部王,東市,奈良都,植物
#[訓異]
#[大意]東の市の植木が繁く成って木が垂れ下がるまであなたに逢っていないのだからなるほど恋しくなるのも当然だ
#{語釈]
門部王長皇子の孫。和銅三年従五位下、天平一二年臣籍降下姓大原真人氏。一七年大蔵卿従四位上で卒。風流侍従の一人。


#[説明]
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#[番号]03/0311
#[題詞]按作村主益人従豊前國上京時作歌一首
#[原文]梓弓 引豊國之 鏡山 不見久有者 戀敷牟鴨
#[訓読]梓弓引き豊国の鏡山見ず久ならば恋しけむかも
#[仮名],あづさゆみ,ひきとよくにの,かがみやま,みずひさならば,こほしけむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:按作益人,鏡山,豊前国,福岡県,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]梓弓を引き響めるという豊国の鏡山よ。見ないで久しくなったならば恋しくなることだろうか
#{語釈]
按作村主益人 伝未詳。05/1004 仏師按作鳥と関係あるか
鏡山   大分県西部 香春町の山  鏡造部がいる 417

#[説明]
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#[番号]03/0312
#[題詞]式部卿藤原宇合卿被使改造難波堵之時作歌一首
#[原文]昔者社 難波居中跡 所言奚米 今者京引 都備仁鷄里
#[訓読]昔こそ難波田舎と言はれけめ今は都引き都びにけり
#[仮名],むかしこそ,なにはゐなかと,いはれけめ,いまはみやこひき,みやこびにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:藤原宇合,難波,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]昔こそ難波田舎と言われただろう。しかし今は都を引いてきて、都らしくなった
#{語釈]
造難波堵 藤原宇合が任命されたのは、損気二年七月から天平四年三月

#[説明]
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#[番号]03/0313
#[題詞]土理宣令歌一首
#[原文]見吉野之 瀧乃白浪 雖不知 語之告者 古所念
#[訓読]み吉野の滝の白波知らねども語りし継げばいにしへ思ほゆ
#[仮名],みよしのの,たきのしらなみ,しらねども,かたりしつげば,いにしへおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:土理宣令,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]み吉野の急流の白波よ。その音のように知らないが人々が語り継ぐので昔のことが思われる
#{語釈]
土理宣令  伝未詳 08/1470 懐風藻
いにしへ思ほゆ 今は奈良時代。吉野の過去の歴史のことを言う。主に天武から持統時代を言っているか。

#[説明]
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#[番号]03/0314
#[題詞]波多朝臣<小>足歌一首
#[原文]小浪 礒越道有 能登湍河 音之清左 多藝通瀬毎尓
#[訓読]さざれ波礒越道なる能登瀬川音のさやけさたぎつ瀬ごとに
#[仮名],さざれなみ,いそこしぢなる,のとせがは,おとのさやけさ,たぎつせごとに
#[左注]
#[校異]少 -> 小 [類][古][温]
#[鄣W],雑歌,作者:波多小足,能登瀬川,滋賀県,羈旅,土地讃美,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]さざれ波が磯を越えるという越腰の国へ行く途中の能登瀬川よ。音のさやけさは劇ルウの瀬ごとにしているよ
#{語釈]
波多朝臣<小>足 伝未詳
能登瀬川 所在未詳。滋賀県坂田郡近江町の天野川か。

#[説明]
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#[番号]03/0315
#[題詞]暮春之月幸芳野離宮時中納言大伴卿奉勅作歌一首[并短歌] [未逕奏上歌]
#[原文]見吉野之 芳野乃宮者 山可良志 貴有師 <水>可良思 清有師 天地与 長久 萬代尓 不改将有 行幸之<宮>
#[訓読]み吉野の 吉野の宮は 山からし 貴くあらし 川からし さやけくあらし 天地と 長く久しく 万代に 変はらずあらむ 幸しの宮
#[仮名],みよしのの,よしののみやは,やまからし,たふとくあらし,かはからし,さやけくあらし,あめつちと,ながくひさしく,よろづよに,かはらずあらむ,いでましのみや
#[左注]
#[校異]永 -> 水 [類] / 處 -> 宮 [類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,吉野,宮廷讃美,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]美吉野の吉野の宮は山の故なのだろうか貴くあるらしい。川の故からなのだろうか。さやかであるらしい。天地と長く久しくいつまでも変わらずにあるだろう。行幸の宮は。
#{語釈]
暮春之月 神亀元年三月即位直後の聖武天皇。左大臣長屋王

#[説明]
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#[番号]03/0316
#[題詞](暮春之月幸芳野離宮時中納言大伴卿奉勅作歌一首并短歌 [未逕奏上歌])反歌
#[原文]昔見之 象乃小河乎 今見者 弥清 成尓来鴨
#[訓読]昔見し象の小川を今見ればいよよさやけくなりにけるかも
#[仮名],むかしみし,きさのをがはを,いまみれば,いよよさやけく,なりにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]昔見た象の小川を今見るとますますさやかになったことである
#{語釈]
昔見し象の小川  持統朝頃の吉野行幸従駕の時を指すか。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0317
#[題詞]山部宿祢赤人望不盡山歌一首[并短歌]
#[原文]天地之 分時従 神左備手 高貴寸 駿河有 布士能高嶺乎 天原 振放見者 度日之 陰毛隠比 照月乃 光毛不見 白雲母 伊去波伐加利 時自久曽 雪者落家留 語告 言継将徃 不盡能高嶺者
#[訓読]天地の 別れし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 富士の高嶺を 天の原 振り放け見れば 渡る日の 影も隠らひ 照る月の 光も見えず 白雲も い行きはばかり 時じくぞ 雪は降りける 語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ 富士の高嶺は
#[仮名],あめつちの,わかれしときゆ,かむさびて,たかくたふとき,するがなる,ふじのたかねを,あまのはら,ふりさけみれば,わたるひの,かげもかくらひ,てるつきの,ひかりもみえず,しらくもも,いゆきはばかり,ときじくぞ,ゆきはふりける,かたりつぎ,いひつぎゆかむ,ふじのたかねは
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,富士山,静岡,地名,土地讃美,羈旅
#[訓異]
#[大意]天地が別れた時から神々しく高く貴い駿河になる富士の高い嶺を天の原を振り仰ぐように仰ぎ見ると、空を渡る太陽の光も時々隠れ、照る月の光も見えない。白雲も行きさえぎられ、季節外れの雪は降っている。語り継ぎ、言い継ぎ行こう。富士の高嶺は。
#{語釈]
#[説明]
富士山の神性表現、虚構性

#[関連論文]



#[番号]03/0318
#[題詞](山部宿祢赤人望不盡山歌一首[并短歌])反歌
#[原文]田兒之浦従 打出而見者 真白衣 不盡能高嶺尓 雪波零家留
#[訓読]田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける
#[仮名],たごのうらゆ,うちいでてみれば,ましろにぞ,ふじのたかねに,ゆきはふりける
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,富士山,静岡,土地讃美,国見,地名,羈旅
#[訓異]
#[大意]田子の浦に出てみると真っ白に富士の高嶺に雪は降り積もっている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0319
#[題詞]詠不盡山歌一首[并短歌]
#[原文]奈麻余美乃 甲斐乃國 打縁流 駿河能國与 己知其智乃 國之三中従 出<立>有 不盡能高嶺者 天雲毛 伊去波伐加利 飛鳥母 翔毛不上 燎火乎 雪以滅 落雪乎 火用消通都 言不得 名不知 霊母 座神香<聞> 石花海跡 名付而有毛 彼山之 堤有海曽 不盡河跡 人乃渡毛 其山之 水乃當焉 日本之 山跡國乃 鎮十方 座祇可間 寳十方 成有山可聞 駿河有 不盡能高峯者 雖見不飽香聞
#[訓読]なまよみの 甲斐の国 うち寄する 駿河の国と こちごちの 国のみ中ゆ 出で立てる 富士の高嶺は 天雲も い行きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びも上らず 燃ゆる火を 雪もち消ち 降る雪を 火もち消ちつつ 言ひも得ず 名付けも知らず くすしくも います神かも せの海と 名付けてあるも その山の つつめる海ぞ 富士川と 人の渡るも その山の 水のたぎちぞ 日の本の 大和の国の 鎮めとも います神かも 宝とも なれる山かも 駿河なる 富士の高嶺は 見れど飽かぬかも
#[仮名],なまよみの,かひのくに,うちよする,するがのくにと,こちごちの,くにのみなかゆ,いでたてる,ふじのたかねは,あまくもも,いゆきはばかり,とぶとりも,とびものぼらず,もゆるひを,ゆきもちけち,ふるゆきを,ひもちけちつつ,いひもえず,なづけもしらず,くすしくも,いますかみかも,せのうみと,なづけてあるも,そのやまの,つつめるうみぞ,ふじかはと,ひとのわたるも,そのやまの,みづのたぎちぞ,ひのもとの,やまとのくにの,しづめとも,いますかみかも,たからとも,なれるやまかも,するがなる,ふじのたかねは,みれどあかぬかも
#[左注]?(右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此)
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 之 -> 立 [古] / <> -> 聞 [西(右書)][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:高橋虫麻呂,富士山,静岡,枕詞,地名,土地讃美,羈旅
#[訓異]
#[大意]なまよみの甲斐の国。波が打ち寄せる駿河の国としてあちらこちらの国の真ん中から出て立っている富士の高嶺は、空の雲も通り過ぎることが出来ず、飛ぶ鳥も飛び昇って行くことが出来ない。火口の燃える火を雪で消し、降る雪を火口の火で消しなどして、どのように言ってよいか、名付ける方法もわからないほど霊妙でいらっしゃる神である。石花の海と名付けてあるのも、その山が包んでいる海であるぞ。富士川として人が渡るのもその山の水の激流であるぞ。日本の大和の国の鎮めともいらっしゃる神であるよ。宝ともなている山であるよ。駿河にある富士の高嶺は見ても見飽きることがない。

#{語釈]
なまよみの 係り方未詳
せの海   西湖、精進湖。当時は一続き。石花は海岸の岩の裂け目などに棲む貝で「せ」という

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0320
#[題詞](詠不盡山歌一首[并短歌])反歌
#[原文]不盡嶺尓 零置雪者 六月 十五日消者 其夜布里家利
#[訓読]富士の嶺に降り置く雪は六月の十五日に消ぬればその夜降りけり
#[仮名],ふじのねに,ふりおくゆきは,みなづきの,もちにけぬれば,そのよふりけり
#[左注]?(右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:高橋虫麻呂,富士山,静岡,地名,土地讃美,羈旅
#[訓異]
#[大意]富士の峰に降る積もる雪は六月の一五日に積もるとその夜にまた降ったようだ
#{語釈]
六月の十五日 大暑とされる。結局一年中積雪のあることを言う。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0321
#[題詞]((詠不盡山歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]布士能嶺乎 高見恐見 天雲毛 伊去羽斤 田菜引物緒
#[訓読]富士の嶺を高み畏み天雲もい行きはばかりたなびくものを
#[仮名],ふじのねを,たかみかしこみ,あまくもも,いゆきはばかり,たなびくものを
#[左注]右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高橋虫麻呂,富士山,静岡,地名,土地讃美,羈旅
#[訓異]
#[大意]富士の峰が高いので恐れ多くして空の雲も行くことが出来ないでたなびいているものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0322
#[題詞]山部宿祢赤人至伊豫温泉作歌一首[并短歌]
#[原文]皇神祖之 神乃御言<乃> 敷座 國之盡 湯者霜 左波尓雖在 嶋山之 宣國跡 極此<疑> 伊豫能高嶺乃 射狭庭乃 崗尓立而 歌思 辞思為師 三湯之上乃 樹村乎見者 臣木毛 生継尓家里 鳴鳥之 音毛不更 遐代尓 神左備将徃 行幸處
#[訓読]すめろきの 神の命の 敷きませる 国のことごと 湯はしも さはにあれども 島山の 宣しき国と こごしかも 伊予の高嶺の 射狭庭の 岡に立たして 歌思ひ 辞思はしし み湯の上の 木群を見れば 臣の木も 生ひ継ぎにけり 鳴く鳥の 声も変らず 遠き代に 神さびゆかむ 幸しところ
#[仮名],すめろきの,かみのみことの,しきませる,くにのことごと,ゆはしも,さはにあれども,しまやまの,よろしきくにと,こごしかも,いよのたかねの,いざにはの,をかにたたして,うたおもひ,ことおもはしし,みゆのうへの,こむらをみれば,おみのきも,おひつぎにけり,なくとりの,こゑもかはらず,とほきよに,かむさびゆかむ,いでましところ
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌 / <> -> 乃 [西(右書)][紀][温] / 凝 -> 疑 [細] / 崗 [紀][細](塙) 岡 / 歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌 [全註釈](塙)(楓) 敲
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,伊予温泉,道後温泉,愛媛,羈旅,植物,地名,国見,土地讃美
#[訓異]
#[大意]すめろぎの神の命のお治めになる国のすべての中で温泉は多くあるが、島山のよい国であると険しい伊予の高嶺の射狭庭の 岡にお立ちになって、歌をお考えになり、言葉をお思いになったみ湯のほとりの林を見ると、あの臣の木も絶えないで生えている。鳴く鳥の声も変わっていない。昔の世の中のこととして神々しくなっていく行幸の場所である

#{語釈]
射狭庭の岡  現在、伊佐尓波神社と湯築城跡の丘
臣の木  伊予国風土記逸聞

#[説明]
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#[番号]03/0323
#[題詞](山部宿祢赤人至伊豫温泉作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]百式紀乃 大宮人之 飽田津尓 船乗将為 年之不知久
#[訓読]ももしきの大宮人の熟田津に船乗りしけむ年の知らなく
#[仮名],ももしきの,おほみやひとの,にきたつに,ふなのりしけむ,としのしらなく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,伊予温泉,道後温泉,愛媛,羈旅,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]ももしきの大宮人の熟田津に船乗りしたであろう年はもうわからないことだ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0324
#[題詞]登神岳山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]三諸乃 神名備山尓 五百枝刺 繁生有 都賀乃樹乃 弥継<嗣>尓 玉葛 絶事無 在管裳 不止将通 明日香能 舊京師者 山高三 河登保志呂之 春日者 山四見容之 秋夜者 河四清之 <旦>雲二 多頭羽乱 夕霧丹 河津者驟 毎見 哭耳所泣 古思者
#[訓読]みもろの 神なび山に 五百枝さし しじに生ひたる 栂の木の いや継ぎ継ぎに 玉葛 絶ゆることなく ありつつも やまず通はむ 明日香の 古き都は 山高み 川とほしろし 春の日は 山し見がほし 秋の夜は 川しさやけし 朝雲に 鶴は乱れ 夕霧に かはづは騒く 見るごとに 音のみし泣かゆ いにしへ思へば
#[仮名],みもろの,かむなびやまに,いほえさし,しじにおひたる,つがのきの,いやつぎつぎに,たまかづら,たゆることなく,ありつつも,やまずかよはむ,あすかの,ふるきみやこは,やまたかみ,かはとほしろし,はるのひは,やましみがほし,あきのよは,かはしさやけし,あさくもに,たづはみだれ,ゆふぎりに,かはづはさわく,みるごとに,ねのみしなかゆ,いにしへおもへば
#[左注]
#[校異]飼 -> 嗣 [西(右書)][類][紀] / 且 -> 旦 [類][紀][温]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,神丘,神奈備山,飛鳥,荒都,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]三諸の 神名備山にたくさんの枝を刺して多く生えている栂の木のようにますます次々に玉鬘ではないが、絶えることがなく、そのままで絶えず通おうと思う明日香の古い都は、山が高いので川は雄大である。春の日は山が眺めがよい。秋の夜は川はさやかである。朝雲に鶴は乱れ飛び、夕霧にかわづは騒ぎ鳴く。見るごとに大声を上げてばかり泣かれる。昔のことを思うと

#{語釈]
とほしろし  雄大である
見がほし 見ることが欲しい 眺めがよい

#[説明]
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#[番号]03/0325
#[題詞](登神岳山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]明日香河 川余藤不去 立霧乃 念應過 孤悲尓不有國
#[訓読]明日香河川淀さらず立つ霧の思ひ過ぐべき恋にあらなくに
#[仮名],あすかがは,かはよどさらず,たつきりの,おもひすぐべき,こひにあらなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,神丘,神奈備山,飛鳥,荒都,地名,鎮魂
#[訓異]
#[大意]明日香川の川淀ごとに立ち上る霧のように、思い過ぎてしまうような恋いではないのに
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0326
#[題詞]門部王在難波見漁父燭光作歌一首 [後賜姓大原真人氏也]
#[原文]見渡者 明石之浦尓 焼火乃 保尓曽出流 妹尓戀久
#[訓読]見わたせば明石の浦に燭す火の穂にぞ出でぬる妹に恋ふらく
#[仮名],みわたせば,あかしのうらに,ともすひの,ほにぞいでぬる,いもにこふらく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:門部王,難波,大阪,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]見渡すと明かしの裏にともしている漁り火の目立つようにほ顔色に出てしまう。妹に恋い思っていることが。
#{語釈]
門部王 0310  長皇子の孫。和銅三年従五位下、天平一二年臣籍降下姓大原真人氏。一七年大蔵卿従四位上で卒。風流侍従の一人。

#[説明]
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#[番号]03/0327
#[題詞]或娘子等<贈>褁乾鰒戯請通觀僧之咒願時通觀作歌一首
#[原文]海若之 奥尓持行而 雖放 宇礼牟曽此之 将死還生
#[訓読]海神の沖に持ち行きて放つともうれむぞこれがよみがへりなむ
#[仮名],わたつみの,おきにもちゆきて,はなつとも,うれむぞこれが,よみがへりなむ
#[左注]
#[校異]賜 -> 贈 [紀] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:娘子,通観,奈良都,地名,諧謔
#[訓異]
#[大意]海神の沖に持って行って放つといってもどうしてこれが生き返るということがあろうか
#{語釈]
通觀  伝未詳 0353
咒願 かしり  放生まのこと  生き返るように呪文を唱える

#[説明]
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#[番号]03/0328
#[題詞]<大>宰少貳小野老朝臣歌一首
#[原文]青丹吉 寧樂乃京師者 咲花乃 薫如 今盛有
#[訓読]あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり
#[仮名],あをによし,ならのみやこは,さくはなの,にほふがごとく,いまさかりなり
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [古][紀][京]
#[鄣W],雑歌,作者:小野老,奈良都,都讃美,地名,枕詞,太宰府,福岡
#[訓異]
#[大意]あをによし奈良の都は咲く花の照り輝くように今を盛りとしている
#{語釈]
小野老 養老3年 従五位下 神亀年中太宰少貳 天平九年従四位下太宰少貳で卒
今盛りなり  今をほめることによって最高の讃美とする
05/0821H01青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし

#[説明]
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#[番号]03/0329
#[題詞]防人司佑大伴四綱歌二首
#[原文]安見知之 吾王乃 敷座在 國中者 京師所念
#[訓読]やすみしし我が大君の敷きませる国の中には都し思ほゆ
#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,しきませる,くにのうちには,みやこしおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴四綱,太宰府,福岡,望郷,地名,枕詞,望郷
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君のお治めになる国の中では都のことが思われてならない
#{語釈]
防人司佑  防人司の次官 正八位上  防人の名簿、武器、教練、食料田のことを司る
#[説明]
大君がお治めになる国の中はどこでも同じだが、自分はやはり都のことが恋しく思われる06/0955D01大宰少貳石川朝臣足人歌一首
06/0955H01さす竹の大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君
06/0956D01帥大伴卿和歌一首
06/0956H01やすみしし我が大君の食す国は大和もここも同じとぞ思ふ
と関連しているか。或いは、この歌を意識して四綱は歌ったか。

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#[番号]03/0330
#[題詞](防人司佑大伴四綱歌二首)
#[原文]藤浪之 花者盛尓 成来 平城京乎 御念八君
#[訓読]藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君
#[仮名],ふぢなみの,はなはさかりに,なりにけり,ならのみやこを,おもほすやきみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴四綱,太宰府,福岡,地名,望郷
#[訓異]
#[大意]藤波の花は盛りになった。奈良の都をお思いになっているのでしょうか。あなたは。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0331
#[題詞]帥大伴卿歌五首
#[原文]吾盛 復将變八方 殆 寧樂京乎 不見歟将成
#[訓読]我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ
#[仮名],わがさかり,またをちめやも,ほとほとに,ならのみやこを,みずかなりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]自分の盛んだった若い頃にまた戻らないかなあ。ほとんど奈良の都を見ない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0332
#[題詞](帥大伴卿歌五首)
#[原文]吾命毛 常有奴可 昔見之 象<小>河乎 行見為
#[訓読]我が命も常にあらぬか昔見し象の小川を行きて見むため
#[仮名],わがいのちも,つねにあらぬか,むかしみし,きさのをがはを,ゆきてみむため
#[左注]
#[校異]少 -> 小 [類][細]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]自分の命もこのままであってはくれないだろうか。昔見た象の小川を行って見るために
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0333
#[題詞](帥大伴卿歌五首)
#[原文]淺茅原 曲曲二 物念者 故郷之 所念可聞
#[訓読]浅茅原つばらつばらにもの思へば古りにし里し思ほゆるかも
#[仮名],あさぢはら,つばらつばらに,ものもへば,ふりにしさとし,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,望郷,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]浅茅原ではないが、つくづくと物思いをしていると古くなった里のことが思われてならない
#{語釈]
浅茅原つばらつばらに 枕詞 浅茅原のちはらのおと同音の繰り返し  つくづくと 細かく
古りにし里  故郷明日香のこと。天平3年(731)7月旅人薨去 67歳 664年(天智3年)誕生

#[説明]
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#[番号]03/0334
#[題詞](帥大伴卿歌五首)
#[原文]萱草 吾紐二付 香具山乃 故去之里乎 <忘>之為
#[訓読]忘れ草我が紐に付く香具山の古りにし里を忘れむがため
#[仮名],わすれくさ,わがひもにつく,かぐやまの,ふりにしさとを,わすれむがため
#[左注]
#[校異]不忘 -> 忘 [注釈]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]忘れ草を自分の衣の紐に付ける。香具山の古くなった里をいっそのこと忘れてしまうために
#{語釈]
忘れ草  ユリ科のカン草のこと  忘れてしまうために付ける

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0335
#[題詞](帥大伴卿歌五首)
#[原文]吾行者 久者不有 夢乃和太 湍者不成而 淵有<乞>
#[訓読]我が行きは久にはあらじ夢のわだ瀬にはならずて淵にありこそ
#[仮名],わがゆきは,ひさにはあらじ,いめのわだ,せにはならずて,ふちにありこそ
#[左注]
#[校異]毛 -> 乞 [古義]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]自分がここにいることはそう長くはあるまい。夢のわだよ。浅い早瀬にはならないで、深い淵のままであって欲しい

#{語釈]
我が行き 自分が行っていること。ここ太宰府に赴任していること。

#[説明]
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#[番号]03/0336
#[題詞]沙弥満誓詠綿歌一首 [造筑紫觀音寺別當俗姓笠朝臣麻呂也]
#[原文]白縫 筑紫乃綿者 身箸而 未者<伎>袮杼 暖所見
#[訓読]しらぬひ筑紫の綿は身に付けていまだは着ねど暖けく見ゆ
#[仮名],しらぬひ,つくしのわたは,みにつけて,いまだはきねど,あたたけくみゆ
#[左注]
#[校異]妓 -> 伎 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:沙弥満誓,笠麻呂,太宰府,福岡,枕詞,地名,比喩
#[訓異]
#[大意]しらぬひ筑紫の綿は身につけてまだ着てはいないが、暖かそうに見える。
#{語釈]
沙弥満誓 笠麻呂  養老5年元明天皇の病気平癒を願って出家。筑紫観世音寺別当となる

しらぬひ 筑紫の枕詞。知らぬ魂が憑くから筑紫にかかるか。

#[説明]
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#[番号]03/0337
#[題詞]山上憶良臣罷宴歌一首
#[原文]憶良等者 今者将罷 子将哭 其彼母毛 吾乎将待曽
#[訓読]憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ
#[仮名],おくららは,いまはまからむ,こなくらむ,それそのははも,わをまつらむぞ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山上憶良,罷宴,太宰府,福岡,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]憶良めは今はそろそろ退散しましょう。今頃は子どもが泣いているでしょう。それその母も自分を待っているでしょう。

#{語釈]
#[説明]  罷宴歌。ごちそうを持って帰ることもあるか。

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#[番号]03/0338
#[題詞]<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首
#[原文]験無 物乎不念者 一坏乃 濁酒乎 可飲有良師
#[訓読]験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし
#[仮名],しるしなき,ものをおもはずは,ひとつきの,にごれるさけを,のむべくあるらし
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]難の甲斐もないことを思うよりは一杯の濁り酒を飲むのがよいようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0339
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]酒名乎 聖跡負師 古昔 大聖之 言乃宜左
#[訓読]酒の名を聖と負ほせしいにしへの大き聖の言の宣しさ
#[仮名],さけのなを,ひじりとおほせし,いにしへの,おほきひじりの,ことのよろしさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]酒の名前を聖とおっしゃった昔の立派な聖の言葉のよいこと。
#{語釈]
大き聖 魏志徐?伝 太祖が禁酒令の中で泥水して罪に問われた徐?が「酒」ではなく、「聖人」を飲んでいるといって罪を逃れた故事。清酒を「聖人」、濁酒を「賢人」と称したという。

#[説明]
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#[番号]03/0340
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]古之 七賢 人等毛 欲為物者 酒西有良師
#[訓読]いにしへの七の賢しき人たちも欲りせしものは酒にしあるらし
#[仮名],いにしへの,ななのさかしき,ひとたちも,ほりせしものは,さけにしあるらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]昔の七人の賢い人たちも望んでいたものは酒であるらしい
#{語釈]
七の賢しき人  竹林の七賢。世説新詞 七人の隠士

#[説明]
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#[番号]03/0341
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]賢跡 物言従者 酒飲而 酔哭為師 益有良之
#[訓読]賢しみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするしまさりたるらし
#[仮名],さかしみと,ものいふよりは,さけのみて,ゑひなきするし,まさりたるらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]賢ぶってものを言うよりは酒を飲んで酔い泣きをすることがまさっているらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0342
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]将言為便 将為便不知 極 貴物者 酒西有良之
#[訓読]言はむすべ為むすべ知らず極まりて貴きものは酒にしあるらし
#[仮名],いはむすべ,せむすべしらず,きはまりて,たふときものは,さけにしあるらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]言う方法もする方法も極めて貴いものは酒であるらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0343
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]中々尓 人跡不有者 酒壷二 成而師鴨 酒二染甞
#[訓読]なかなかに人とあらずは酒壷になりにてしかも酒に染みなむ
#[仮名],なかなかに,ひととあらずは,さかつぼに,なりにてしかも,さけにしみなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]なまじっか人であるよりは酒壺になってしまいたいものだ。酒に染みるだろうから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0344
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]痛醜 賢良乎為跡 酒不飲 人乎熟見<者> 猿二鴨似
#[訓読]あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む
#[仮名],あなみにく,さかしらをすと,さけのまぬ,ひとをよくみば,さるにかもにむ
#[左注]
#[校異]<> -> 者 [西(右書)][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]ああ醜い。賢ぶるとして酒を飲まない人をよく見ると猿に似ているよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0345
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]價無 寳跡言十方 一坏乃 濁酒尓 豈益目八<方>
#[訓読]価なき宝といふとも一杯の濁れる酒にあにまさめやも
#[仮名],あたひなき,たからといふとも,ひとつきの,にごれるさけに,あにまさめやも
#[左注]
#[校異]<> -> 方 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]無上の宝と言っても一杯の濁っている酒にどうしてまさるということがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0346
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]夜光 玉跡言十方 酒飲而 情乎遣尓 豈若目八方
#[訓読]夜光る玉といふとも酒飲みて心を遣るにあにしかめやも
#[仮名],よるひかる,たまといふとも,さけのみて,こころをやるに,あにしかめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]夜光る玉というとしても、酒を飲んで心を晴らすことにどうして及ぼうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0347
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]世間之 遊道尓 <怜>者 酔泣為尓 可有良師
#[訓読]世間の遊びの道に楽しきは酔ひ泣きするにあるべくあるらし
#[仮名],よのなかの,あそびのみちに,たのしきは,ゑひなきするに,あるべくあるらし
#[左注]
#[校異]冷 -> 怜 [玉の小琴] (塙) 冷
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]世の中の遊びの中で楽しいのは酔い泣きすることであるようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0348
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]今代尓之 樂有者 来生者 蟲尓鳥尓毛 吾羽成奈武
#[訓読]この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ
#[仮名],このよにし,たのしくあらば,こむよには,むしにとりにも,われはなりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]この世で楽しいのならば来世は鳥にも虫にも自分はなろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0349
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]生者 遂毛死 物尓有者 今生在間者 樂乎有名
#[訓読]生ける者遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しくをあらな
#[仮名],いけるもの,つひにもしぬる,ものにあれば,このよなるまは,たのしくをあらな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]生きているものはついには死ぬものであるので、この世にいる間は楽しくありたいものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0350
#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)
#[原文]黙然居而 賢良為者 飲酒而 酔泣為尓 尚不如来
#[訓読]黙居りて賢しらするは酒飲みて酔ひ泣きするになほしかずけり
#[仮名],もだをりて,さかしらするは,さけのみて,ゑひなきするに,なほしかずけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]黙っていて賢ぶっていることは、酒を飲んで酔い泣きをするのに及ばないことだ
#{語釈]
#[説明]
讃歌歌一三種 老荘思想 現実肯定。自然。 朝隠思想


#[関連論文]



#[番号]03/0351
#[題詞]沙弥満誓歌一首
#[原文]世間乎 何物尓将譬 <旦>開 榜去師船之 跡無如
#[訓読]世間を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきごとし
#[仮名],よのなかを,なににたとへむ,あさびらき,こぎいにしふねの,あとなきごとし
#[左注]
#[校異]且 -> 旦 [古][紀][矢]
#[鄣W],雑歌,作者:沙弥満誓,無常,太宰府,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]世の中を何に喩えようか。朝準備をしてこぎ出した船の航跡もないようなものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0352
#[題詞]若湯座王歌一首
#[原文]葦邊波 鶴之哭鳴而 湖風 寒吹良武 津乎能埼羽毛
#[訓読]葦辺には鶴がね鳴きて港風寒く吹くらむ津乎の崎はも
#[仮名],あしへには,たづがねなきて,みなとかぜ,さむくふくらむ,つをのさきはも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:若湯座王,津乎,滋賀県,羈旅,地名,動物
#[訓異]
#[大意]芦辺には鶴が鳴いて港か攄なお風が寒く吹いているだろう津乎の崎であるよ
#{語釈]
若湯座王 伝未詳。湯座は、子どもの産湯をする人。養育係
津乎の崎 所在未詳  滋賀県東浅井郡湖北町津ノ里か

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0353
#[題詞]釋通觀歌一首
#[原文]見吉野之 高城乃山尓 白雲者 行憚而 棚引所見
#[訓読]み吉野の高城の山に白雲は行きはばかりてたなびけり見ゆ
#[仮名],みよしのの,たかきのやまに,しらくもは,ゆきはばかりて,たなびけりみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:釈通観,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]美吉野の高城の山に白雲はさえぎられてたなびいているのが見える
#{語釈]
釋通觀  327  伝未詳
高城の山 吉野山の一峰 所在未詳

#[説明]
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#[番号]03/0354
#[題詞]日置少老歌一首
#[原文]縄乃浦尓 塩焼火氣 夕去者 行過不得而 山尓棚引
#[訓読]縄の浦に塩焼く煙夕されば行き過ぎかねて山にたなびく
#[仮名],なはのうらに,しほやくけぶり,ゆふされば,ゆきすぎかねて,やまにたなびく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:日置少老,縄の浦,兵庫,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]縄の浦に塩を焼く煙は、夕方になると通り過ぎることが出来ないで山にたなびいている
日置少老 伝未詳
縄の浦  未詳  兵庫県相生市相生湾 那波の海岸

#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0355
#[題詞]生石村主真人歌一首
#[原文]大汝 小彦名乃 将座 志都乃石室者 幾代将經
#[訓読]大汝少彦名のいましけむ志都の石屋は幾代経にけむ
#[仮名],おほなむち,すくなひこなの,いましけむ,しつのいはやは,いくよへにけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:生石真人,静の岩屋,島根,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]大汝少彦名がいらっしゃという志都の石屋はどのぐらい立ったのだろうか
#{語釈]
生石村主真人 天平10年 美濃少目
志都の石屋 島根県邑智郡瑞穂町岩屋 島根県太田市静間町 兵庫県高砂市生石

#[説明]
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#[番号]03/0356
#[題詞]上古麻呂歌一首
#[原文]今日可聞 明日香河乃 夕不離 川津鳴瀬之 清有良武 [或本歌發句云 明日香川今毛可毛等奈]
#[訓読]今日もかも明日香の川の夕さらずかはづ鳴く瀬のさやけくあるらむ [或本歌發句云 明日香川今もかもとな]
#[仮名],けふもかも,あすかのかはの,ゆふさらず,かはづなくせの,さやけくあるらむ,[あすかがは,いまもかもとな]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:上古麻呂,飛鳥川,地名
#[訓異]
#[大意]今日もだろうか明日香の川で夕方ごろに蛙の鳴く声がさやかであるだろうか 或本の歌には、明日香川は今もやたらと
#{語釈]
上古麻呂 伝未詳

#[説明]
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#[番号]03/0357
#[題詞]山部宿祢赤人歌六首
#[原文]縄浦従 背向尓所見 奥嶋 榜廻舟者 釣為良下
#[訓読]縄の浦ゆそがひに見ゆる沖つ島漕ぎ廻る舟は釣りしすらしも
#[仮名],なはのうらゆ,そがひにみゆる,おきつしま,こぎみるふねは,つりしすらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,縄の浦,兵庫,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]縄の浦の背後に見える沖の島よ。漕ぎ廻る船は釣りをしているらしい
#{語釈]
そがひ
03/0357H01縄の浦ゆそがひに見ゆる沖つ島漕ぎ廻る舟は釣りしすらしも
03/0358H01武庫の浦を漕ぎ廻る小舟粟島をそがひに見つつ羨しき小舟
03/0460H07草枕 旅なる間に 佐保川を 朝川渡り 春日野を そがひに見つつ
04/0509H06粟島を そがひに見つつ 朝なぎに 水手の声呼び 夕なぎに
06/0917H01やすみしし 我ご大君の 常宮と 仕へ奉れる 雑賀野ゆ そがひに見ゆる
07/1412H01我が背子をいづち行かめとさき竹のそがひに寝しく今し悔しも
14/3391H01筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに
14/3577H01愛し妹をいづち行かめと山菅のそがひに寝しく今し悔しも
17/4003H01朝日さし そがひに見ゆる 神ながら 御名に帯ばせる 白雲の
17/4011H12鳥猟すと 名のみを告りて 三島野を そがひに見つつ 二上の
19/4207H01ここにして そがひに見ゆる 我が背子が 垣内の谷に 明けされば
20/4472H01大君の命畏み於保の浦をそがひに見つつ都へ上る


#[説明]
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#[番号]03/0358
#[題詞](山部宿祢赤人歌六首)
#[原文]武庫浦乎 榜轉小舟 粟嶋矣 背尓見乍 乏小舟
#[訓読]武庫の浦を漕ぎ廻る小舟粟島をそがひに見つつ羨しき小舟
#[仮名],むこのうらを,こぎみるをぶね,あはしまを,そがひにみつつ,ともしきをぶね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,武庫の浦,兵庫,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]武庫の浦を漕ぎ廻る小舟は粟島を背後にみて、うらやましい小舟よ
#{語釈]
粟島  所在未詳  妻に会うことをかけている。都に昇る舟である

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0359
#[題詞](山部宿祢赤人歌六首)
#[原文]阿倍乃嶋 宇乃住石尓 依浪 間無比来 日本師所念
#[訓読]阿倍の島鵜の住む磯に寄する波間なくこのころ大和し思ほゆ
#[仮名],あへのしま,うのすむいそに,よするなみ,まなくこのころ,やまとしおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,阿倍の島,大阪,和歌山,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]阿倍の島よ。鵜の住む磯に寄せる波が絶え間ないように、絶え間なくこの頃は大和のことが思われる
#{語釈]
阿倍の島  所為未詳  大阪府大阪市阿倍野区 和歌山県和歌山市

#[説明]
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#[番号]03/0360
#[題詞](山部宿祢赤人歌六首)
#[原文]塩干去者 玉藻苅蔵 家妹之 濱褁乞者 何矣示
#[訓読]潮干なば玉藻刈りつめ家の妹が浜づと乞はば何を示さむ
#[仮名],しほひなば,たまもかりつめ,いへのいもが,はまづとこはば,なにをしめさむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,植物,みやげ
#[訓異]
#[大意]潮が挽干いたならば玉藻をかり集めろ。家の妹が浜のおみやげを欲しがったら何を示そうか。
#{語釈]
刈りつめ  刈って集める
何を示さむ  玉藻のほかに持て帰るものがない

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0361
#[題詞](山部宿祢赤人歌六首)
#[原文]秋風乃 寒朝開乎 佐農能岡 将超公尓 衣借益矣
#[訓読]秋風の寒き朝明を佐農の岡越ゆらむ君に衣貸さましを
#[仮名],あきかぜの,さむきあさけを,さぬのをか,こゆらむきみに,きぬかさましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,地名,兵庫県
#[訓異]
#[大意]寒い明け方、佐農の岡を越えるあなたに衣を貸せばよかった
#{語釈]
佐農の岡 所在未詳 和名抄 但馬国気多郡 狭沼 左乃  現在の豊岡市の南の佐野

#[説明]
旅の途中の遊行女婦の歌か。

#[関連論文]



#[番号]03/0362
#[題詞](山部宿祢赤人歌六首)
#[原文]美沙居 石轉尓生 名乗藻乃 名者告志<弖>余 親者知友
#[訓読]みさご居る磯廻に生ふるなのりその名は告らしてよ親は知るとも
#[仮名],みさごゐる,いそみにおふる,なのりその,なはのらしてよ,おやはしるとも
#[左注]
#[校異]五 -> 弖 [万葉集代匠記]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,動物,植物,序詞
#[訓異]
#[大意]みさごがいる荒磯に生えるなのりそではないが、名前をおっしゃってくださいよ。親が知るとしても
#{語釈]
みさご 鷲鷹目みさご科の鳥。魚を捕るので水辺にいる。
03/0362H01みさご居る磯廻に生ふるなのりその名は告らしてよ親は知るとも
03/0363H01みさご居る荒磯に生ふるなのりそのよし名は告らせ親は知るとも
11/2739H01みさご居る沖つ荒礒に寄する波ゆくへも知らず我が恋ふらくは
11/2831H01みさご居る洲に居る舟の夕潮を待つらむよりは我れこそまされ
12/3077H01みさご居る荒礒に生ふるなのりそのよし名は告らじ親は知るとも
12/3203H01みさご居る洲に居る舟の漕ぎ出なばうら恋しけむ後は逢ひぬとも


なのりそ  海草
名は告らしてよ  名はその人の魂であるので、「告る」と表現される  名乗る

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0363
#[題詞](山部宿祢赤人歌六首)或本歌曰
#[原文]美沙居 荒礒尓生 名乗藻乃 <吉>名者告世 父母者知友
#[訓読]みさご居る荒磯に生ふるなのりそのよし名は告らせ親は知るとも
#[仮名],みさごゐる,ありそにおふる,なのりその,よしなはのらせ,おやはしるとも
#[左注]
#[校異]告 -> 吉 [万葉集略解]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,異伝,動物,植物,序詞
#[訓異]
#[大意]みさごがいる荒磯に生えるなのりそではないが、思い切って名前をおっしゃってください。親が知るとしても
#{語釈]
よし  よしえやし

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0364
#[題詞]笠朝臣金村塩津山作歌二首
#[原文]大夫之 弓上振起 射都流矢乎 後将見人者 語継金
#[訓読]ますらをの弓末振り起し射つる矢を後見む人は語り継ぐがね
#[仮名],ますらをの,ゆずゑふりおこし,いつるやを,のちみむひとは,かたりつぐがね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,滋賀県,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]ますらをが弓末を振り起こして射た矢を後に見る人は語り継ぐように
#{語釈]
塩津山 滋賀県伊香郡西浅井町塩津浜
がね  ~するように  ~なるように  語り継ぐよすがとなるように

#[説明]
峠の手向け儀礼  矢立杉

#[関連論文]



#[番号]03/0365
#[題詞](笠朝臣金村塩津山作歌二首)
#[原文]塩津山 打越去者 我乗有 馬曽爪突 家戀良霜
#[訓読]塩津山打ち越え行けば我が乗れる馬ぞつまづく家恋ふらしも
#[仮名],しほつやま,うちこえゆけば,あがのれる,うまぞつまづく,いへこふらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,滋賀県,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]塩津山を越えて行くと自分が乗っている馬がつまずいた。家のことを恋い思っているらしい
#{語釈]
馬がつまづく
07/1191H01妹が門出入の川の瀬を早み我が馬つまづく家思ふらしも
11/2421H01来る道は岩踏む山はなくもがも我が待つ君が馬つまづくに
13/3276H02早川の 行きも知らず 衣手の 帰りも知らず 馬じもの 立ちてつまづき

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0366
#[題詞]角鹿津乗船時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]越海之 角鹿乃濱従 大舟尓 真梶貫下 勇魚取 海路尓出而 阿倍寸管 我榜行者 大夫乃 手結我浦尓 海未通女 塩焼炎 草枕 客之有者 獨為而 見知師無美 綿津海乃 手二巻四而有 珠手次 懸而之努櫃 日本嶋根乎
#[訓読]越の海の 角鹿の浜ゆ 大船に 真楫貫き下ろし 鯨魚取り 海道に出でて 喘きつつ 我が漕ぎ行けば ますらをの 手結が浦に 海女娘子 塩焼く煙 草枕 旅にしあれば ひとりして 見る験なみ 海神の 手に巻かしたる 玉たすき 懸けて偲ひつ 大和島根を
#[仮名],こしのうみの,つのがのはまゆ,おほぶねに,まかぢぬきおろし,いさなとり,うみぢにいでて,あへきつつ,わがこぎゆけば,ますらをの,たゆひがうらに,あまをとめ,しほやくけぶり,くさまくら,たびにしあれば,ひとりして,みるしるしなみ,わたつみの,てにまかしたる,たまたすき,かけてしのひつ,やまとしまねを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,敦賀,福井,羈旅,望郷,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]越の海の敦賀の浜から大船に梶をいっぱい取り付け、鯨魚取り海道にこぎ出してあえぎながら自分漕いで行くと、、ますらをの手結の浦に海女娘が潮を焼く煙を草枕旅であるので、独りで見ても何の甲斐もないので、海神の手にお巻きになっている玉のたすきを懸けることではないが、心に懸けて偲んだことである。大和島根を

#{語釈]
角鹿の浜  福井県敦賀の港
手結が浦  敦賀湾の東岸  田結
ますらをの 男は旅の時に手甲、脚絆をつけるので、手を結ぶ手甲のことで掛かる枕詞。
#[説明]
栃讃美と望郷

#[関連論文]



#[番号]03/0367
#[題詞](角鹿津乗船時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]越海乃 手結之浦<矣> 客為而 見者乏見 日本思櫃
#[訓読]越の海の手結が浦を旅にして見れば羨しみ大和偲ひつ
#[仮名],こしのうみの,たゆひがうらを,たびにして,みればともしみ,やまとしのひつ
#[左注]
#[校異]原字不明 -> 矣 [西(訂正)]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,敦賀,福井,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]越の海の手結が浦を旅にあって見ると心挽かれて大和のことが思われる。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0368
#[題詞]石上大夫歌一首
#[原文]大船二 真梶繁貫 大王之 御命恐 礒廻為鴨
#[訓読]大船に真楫しじ貫き大君の命畏み磯廻するかも
#[仮名],おほぶねに,まかぢしじぬき,おほきみの,みことかしこみ,いそみするかも
#[左注]右今案 石上朝臣乙麻呂任越前國守盖此大夫歟
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:石上乙麻呂,越前,福井,羈旅
#[訓異]
#[大意]大船に両舷いっぱいに梶をたくさん貫き大君のご命令を恐れ多く思って磯廻りをすることだ
#{語釈]
石上大夫 石上麻呂(01/44)の第3子。神亀元年2月従五位下 天平11年3月藤原宇合の未亡人久米連若売と密通。土佐配流れとなる。06/1019 天平勝宝2年9月中納言兼中務卿で薨去。越前赴任は未詳。神亀初年頃か。


#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0369
#[題詞](石上大夫歌一首)和歌一首
#[原文]物部乃 臣之壮士者 大王<之> 任乃随意 聞跡云物曽
#[訓読]物部の臣の壮士は大君の任けのまにまに聞くといふものぞ
#[仮名],もののふの,おみのをとこは,おほきみの,まけのまにまに,きくといふものぞ
#[左注]右作者未審 但笠朝臣金村之歌中出也
#[校異]歌 [西] 謌 / <> -> 之 [紀]
#[鄣W],雑歌,作者:石上乙麻呂,越前,福井,羈旅
#[訓異]
#[大意]物部の臣の男は大君のご任命のままに従うというものであるぞ
#{語釈]
聞く 聞き入れる 従う
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0370
#[題詞]阿倍廣庭卿歌一首
#[原文]雨不零 殿雲流夜之 潤濕跡 戀乍居寸 君待香光
#[訓読]雨降らずとの曇る夜のぬるぬると恋ひつつ居りき君待ちがてり
#[仮名],あめふらず,とのぐもるよの,ぬるぬると,こひつつをりき,きみまちがてり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:阿倍広庭,恋情,意味難解
#[訓異]
#[大意]雨も降らないで一面曇っている夜は湿気が高くて髪がぬるぬるとほどける。そんな中で恋い思いながらいますよ。あなたを待つことが出来なくて。

#{語釈]
阿倍廣庭 302
との曇る たな曇る  一面に曇る
ぬるぬると じめじめする
02/0118H01嘆きつつますらをのこの恋ふれこそ我が髪結ひの漬ちてぬれけれ
誰かに恋い思われていると髪の毛が濡れてほどけるという俗信

#[説明]
宴の遅参を言ったものか。
04/0680D01大伴宿祢家持与交遊別歌三首
04/0680H01けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ

#[関連論文]



#[番号]03/0371
#[題詞]出雲守門部王思京歌一首 [後賜大原真人氏也]
#[原文]飫海乃 河原之乳鳥 汝鳴者 吾佐保河乃 所念國
#[訓読]意宇の海の河原の千鳥汝が鳴けば我が佐保川の思ほゆらくに
#[仮名],おうのうみの,かはらのちどり,ながなけば,わがさほかはの,おもほゆらくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:門部王,羈旅,望郷,地名,動物
#[訓異]
#[大意]意宇の海の河原の千鳥よ。お前が鳴くと都の佐保川が思われてならないの
#{語釈]
出雲守門部王 310
意宇の海 中の海  国府に近い

#[説明]
我が佐保川 門部王の都の邸宅は佐保川に近くだったか。

#[関連論文]



#[番号]03/0372
#[題詞]山部宿祢赤人登春日野作歌一首[并短歌]
#[原文]春日乎 春日山乃 高座之 御笠乃山尓 朝不離 雲居多奈引 容鳥能 間無數鳴 雲居奈須 心射左欲比 其鳥乃 片戀耳二 晝者毛 日之盡 夜者毛 夜之盡 立而居而 念曽吾為流 不相兒故荷
#[訓読]春日を 春日の山の 高座の 御笠の山に 朝さらず 雲居たなびき 貌鳥の 間なくしば鳴く 雲居なす 心いさよひ その鳥の 片恋のみに 昼はも 日のことごと 夜はも 夜のことごと 立ちて居て 思ひぞ我がする 逢はぬ子故に
#[仮名],はるひを,かすがのやまの,たかくらの,みかさのやまに,あささらず,くもゐたなびき,かほどりの,まなくしばなく,くもゐなす,こころいさよひ,そのとりの,かたこひのみに,ひるはも,ひのことごと,よるはも,よのことごと,たちてゐて,おもひぞわがする,あはぬこゆゑに
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,春日野,奈良,野遊び,動物,地名,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]春日の春日の山の高座の三笠野山に朝ごろに雲がたなびき、貌鳥もしきりに鳴く。その雲のように心が鬱屈し、その鳥のように片思いばかりで、昼は昼中、夜は夜中、立ったり座ったりして物思いばかり自分はする。会わないあの子なのだから

#{語釈]
登春日野 平城京の中心から見て、春日野は春日山麓で少し高台になっている。
高座  高御座。上に笠のような天井がある。
貌鳥  不明。みみづくのようなものか。

#[説明]
野遊びの歌垣の場を想定して恋愛風に歌ったもの

#[関連論文]



#[番号]03/0373
#[題詞](山部宿祢赤人登春日野作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]高按之 三笠乃山尓 鳴<鳥>之 止者継流 <戀>哭為鴨
#[訓読]高座の御笠の山に鳴く鳥の止めば継がるる恋もするかも
#[仮名],たかくらの,みかさのやまに,なくとりの,やめばつがるる,こひもするかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / <> -> 鳥 [西(右書)][類][温] / <> -> 戀 [西(右書)][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,春日野,奈良,野遊び,恋情,動物,序詞,地名
#[訓異]
#[大意]高座の三笠の山に鳴く鳥ではないが、鳴き止んだと思ったらまた鳴き始めるような、とめどもない恋をすることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0374
#[題詞]石上乙麻呂朝臣歌一首
#[原文]雨零者 将盖跡念有 笠乃山 人尓莫令盖 霑者漬跡裳
#[訓読]雨降らば着むと思へる笠の山人にな着せそ濡れは漬つとも
#[仮名],あめふらば,きむとおもへる,かさのやま,ひとになきせそ,ぬれはひつとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:石上乙麻呂,三笠山,桜井市笠,地名
#[訓異]雨が降るならば付被ろうと思う笠の山よ。人には着せるなよ。たとえその人が濡れてびしょびそになるとしても
#[大意]
#{語釈]
笠の山  三笠山か

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0375
#[題詞]湯原王芳野作歌一首
#[原文]吉野尓有 夏實之河乃 川余杼尓 鴨曽鳴成 山影尓之弖
#[訓読]吉野なる菜摘の川の川淀に鴨ぞ鳴くなる山蔭にして
#[仮名],よしのなる,なつみのかはの,かはよどに,かもぞなくなる,やまかげにして
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,吉野,地名,動物
#[訓異]
#[大意]み吉野の菜摘の川の川淀に鴨の鳴き声が聞こえる。山陰にあって
#{語釈]
湯原王  志貴皇子の子
菜摘の川 宮田期東菜摘あたりを流れる所

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0376
#[題詞]湯原王宴席歌二首
#[原文]秋津羽之 袖振妹乎 珠匣 奥尓念乎 見賜吾君
#[訓読]あきづ羽の袖振る妹を玉櫛笥奥に思ふを見たまへ我が君
#[仮名],あきづはの,そでふるいもを,たまくしげ,おくにおもふを,みたまへあがきみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,宴席,枕詞
#[訓異]
#[大意]蜻蛉の羽のような透き通ったような美しい袖を振る妹を玉櫛笥にしまうことではないが、心の奥底深く思うが、ご覧なさい。我が君よ。
#{語釈]
玉櫛笥 大事な化粧道具を奥に入れることから「奥」の枕詞

#[説明]
宴で、舞を舞う美女か、遊行女婦を褒めて紹介している歌

#[関連論文]



#[番号]03/0377
#[題詞](湯原王宴席歌二首)
#[原文]青山之 嶺乃白雲 朝尓食尓 恒見杼毛 目頬四吾君
#[訓読]青山の嶺の白雲朝に日に常に見れどもめづらし我が君
#[仮名],あをやまの,みねのしらくも,あさにけに,つねにみれども,めづらしあがきみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,宴席
#[訓異]
#[大意]青山の峰の白雲のように朝に昼にいつも見ているが、讃美すべき我が君であるよ
#{語釈]
#[説明]
主賓を讃美さいたもの

#[関連論文]



#[番号]03/0378
#[題詞]山部宿祢赤人詠故太上大臣藤原家之山池歌一首
#[原文]昔者之 舊堤者 年深 池之瀲尓 水草生家里
#[訓読]いにしへの古き堤は年深み池の渚に水草生ひにけり
#[仮名],いにしへの,ふるきつつみは,としふかみ,いけのなぎさに,みくさおひにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌 / 生 [紀] 生尓
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,不比等,奈良,植物,地名
#[訓異]
#[大意]その昔の古い池の包みは、年が経っているので、池の渚に水草が生えてしまっているよ
#{語釈]
故太上大臣藤原家之山池 藤原不比等の邸宅。現在の法華寺。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0379
#[題詞]大伴坂上郎女祭神歌一首[并短歌]
#[原文]久堅之 天原従 生来 神之命 奥山乃 賢木之枝尓 白香付 木綿取付而 齊戸乎 忌穿居 竹玉乎 繁尓貫垂 十六自物 膝折伏 手弱女之 押日取懸 如此谷裳 吾者<祈>奈牟 君尓不相可聞
#[訓読]ひさかたの 天の原より 生れ来る 神の命 奥山の 賢木の枝に しらか付け 木綿取り付けて 斎瓮を 斎ひ掘り据ゑ 竹玉を 繁に貫き垂れ 獣じもの 膝折り伏して たわや女の 襲取り懸け かくだにも 我れは祈ひなむ 君に逢はじかも
#[仮名],ひさかたの,あまのはらより,あれきたる,かみのみこと,おくやまの,さかきのえだに,しらかつけ,ゆふとりつけて,いはひへを,いはひほりすゑ,たかたまを,しじにぬきたれ,ししじもの,ひざをりふして,たわやめの,おすひとりかけ,かくだにも,あれはこひなむ,きみにあはじかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 / 折 -> 祈 [紀]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,奈良,神祭,枕詞,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]久方の天の原より降って来る神の巫女とを、山奥の神聖な榊の枝に白香るを取り付けて木綿を取り付けて、斎瓮を清めて掘って据えて、竹玉を多く貫き垂らし、四つ足動物のように膝を折り曲げて手弱女の襲を取りかけて、このように自分は祈ろう。君に会わないことだろうか。

#{語釈]
しらか  祭祀用の純白の幣帛
君    大伴祖先神、今は亡き駿河麻呂ら。

#[説明]
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#[番号]03/0380
#[題詞](大伴坂上郎女祭神歌一首[并短歌])反歌
#[原文]木綿疊 手取持而 如此谷母 吾波乞甞 君尓不相鴨
#[訓読]木綿畳手に取り持ちてかくだにも我れは祈ひなむ君に逢はじかも
#[仮名],ゆふたたみ,てにとりもちて,かくだにも,あれはこひなむ,きみにあはじかも
#[左注]右歌者 以天平五年冬十一月供祭大伴氏神之時 聊作此歌 故曰祭神歌
#[校異]歌 [西] 謌 / 此歌 [西] 此謌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,奈良,神祭,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]木綿の畳を手に取り持ってこのように自分は祈ろう。それなのにあなたに会うことはないのだろうか。
#{語釈]
木綿畳 未詳。木綿で造った敷物か。

#[説明]
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#[番号]03/0381
#[題詞]筑紫娘子贈行旅歌一首 [娘子字曰兒嶋]
#[原文]思家登 情進莫 風候 好為而伊麻世 荒其路
#[訓読]家思ふと心進むな風まもり好くしていませ荒しその道
#[仮名],いへもふと,こころすすむな,かぜまもり,よくしていませ,あらしそのみち
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:筑紫娘子,太宰府,福岡,餞別,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]都の家を恋い思うとして焦ってはいけません。風をよく見ていらっしゃてください。危険ですから。あなたが行く道は
#{語釈]
筑紫娘子 兒嶋 06/0968 太宰府の遊行女婦

#[説明]
04/0567と類歌  これに倣ったか。

#[関連論文]



#[番号]03/0382
#[題詞]登筑波岳丹比真人國人作歌一首[并短歌]
#[原文]鷄之鳴 東國尓 高山者 佐波尓雖有 <朋>神之 貴山乃 儕立乃 見<杲>石山跡 神代従 人之言嗣 國見為<築>羽乃山矣 冬木成 時敷<時>跡 不見而徃者 益而戀石見 雪消為 山道尚矣 名積叙吾来<煎>
#[訓読]鶏が鳴く 東の国に 高山は さはにあれども 二神の 貴き山の 並み立ちの 見が欲し山と 神世より 人の言ひ継ぎ 国見する 筑波の山を 冬こもり 時じき時と 見ずて行かば まして恋しみ 雪消する 山道すらを なづみぞ我が来る
#[仮名],とりがなく,あづまのくにに,たかやまは,さはにあれども,ふたかみの,たふときやまの,なみたちの,みがほしやまと,かむよより,ひとのいひつぎ,くにみする,つくはのやまを,ふゆこもり,ときじきときと,みずていかば,ましてこほしみ,ゆきげする,やまみちすらを,なづみぞわがける
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 明 -> 朋 [万葉集童蒙抄] / 果 -> 杲 [矢] / 筑 -> 築 [西(訂正)][類][温][細] / <> -> 時 [西(右書)][類][紀][細] / 前一 -> 煎 [紀]
#[鄣W],雑歌,作者:丹比国人,筑波,茨城,山讃美,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]鶏が鳴く東の国は高い山はたくさんあるが、二神の貴い山の並び立っている一度は見たい山だとして神の時代から人が言い継いで国見をする筑波の山を今はまだ冬でその時ではないが、見ないで行くと恋しさが増すので、雪解けの山道ではあるが、難渋して自分は来ることだ
#{語釈]
丹比真人國人 天平8 従五位下 天平宝字元年 奈良麻呂の乱に連座。伊豆に配流
冬こもり  普通は春の枕詞 代償気 春去り来れば白雪の が脱落しているか
      冬そのもととする。

#[説明]
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#[番号]03/0383
#[題詞](登筑波岳丹比真人國人作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]築羽根矣 卌耳見乍 有金手 雪消乃道矣 名積来有鴨
#[訓読]筑波嶺を外のみ見つつありかねて雪消の道をなづみ来るかも
#[仮名],つくはねを,よそのみみつつ,ありかねて,ゆきげのみちを,なづみけるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:丹比国人,筑波,茨城,山讃美,地名
#[訓異]
#[大意]筑波の嶺を外からばかりりいつも見ていることもがまん出来ないで雪の消え残る道を難渋してやってくることだ
#{語釈]
来る  来ありのつづまった「来り(けり)の連体形

#[説明]
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#[番号]03/0384
#[題詞]山部宿祢赤人歌一首
#[原文]吾屋戸尓 韓藍<種>生之 雖干 不懲而亦毛 将蒔登曽念
#[訓読]我がやどに韓藍蒔き生ほし枯れぬれど懲りずてまたも蒔かむとぞ思ふ
#[仮名],わがやどに,からあゐまきおほし,かれぬれど,こりずてまたも,まかむとぞおもふ
#[左注]
#[校異]蘓 -> 種 [類][古]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,恋愛,比喩,植物
#[訓異]
#[大意]自分の家に韓藍<の種を播き育てて今は枯れてしまったが、懲りないでまた播こうと思う。
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0385
#[題詞]仙柘枝歌三首
#[原文]霰零 吉<志>美我高嶺乎 險跡 草取可奈和 妹手乎取
#[訓読]霰降り吉志美が岳をさがしみと草取りかなわ妹が手を取る
#[仮名],あられふり,きしみがたけを,さがしみと,くさとりかなわ,いもがてをとる
#[左注]右一首或云 吉野人味稲与柘枝<仙>媛歌也 但見柘枝傳無有此歌
#[校異]<> -> 志 [紀][古][温] / 和 [古][紀] 知 / <> -> 仙 [西(右書)][紀][古][温]
#[鄣W],雑歌,作者:味稲,仙媛,仙柘枝,吉野,伝承,異伝,杵島振,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]霰が降ってきしむその吉志美が岳が険しいのでと草をつかみかねて、妹の手を取ることだ
#{語釈]
仙柘枝歌 異類神婚譚。全容は不明。神仙思想も混じる。
    吉野の漁師である味稲が、ある日網にかかった山桑の枝を手に取ると、仙媛に変わった。結婚してしばら同棲していたが、何らかの原因で仙媛は天井へと帰って行った
霰降り    きしむの枕詞
吉志美が岳  所在未詳。肥前の杵島山の歌垣歌の伝承であるので、鈍ったものか

かなわ 「わ」文法的に未詳

#[説明]
本来は、肥前国風土記杵島振りの大和へと伝来したもの。
古事記、隼別王の歌謡にも出る。

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#[番号]03/0386
#[題詞](仙柘枝歌三首)
#[原文]此暮 柘之左枝乃 流来者 (a)者不打而 不取香聞将有
#[訓読]この夕柘のさ枝の流れ来ば梁は打たずて取らずかもあらむ
#[仮名],このゆふへ,つみのさえだの,ながれこば,やなはうたずて,とらずかもあらむ
#[左注]右一首
#[校異]
#[鄣W],雑歌,仙媛,仙柘枝,吉野,伝承,植物,地名
#[訓異]
#[大意]この夕方に山桑の枝が流れて来なかったならば簗は造らないで取らなかったかも知れないのに。そうすればこんな悲劇は生まれなかったのに。
#{語釈]
梁は打たずて  簗は朝仕掛けておくので、夕方になると取り去る

#[説明]
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#[番号]03/0387
#[題詞](仙柘枝歌三首)
#[原文]古尓 a打人乃 無有世伐 此間毛有益 柘之枝羽裳
#[訓読]いにしへに梁打つ人のなかりせばここにもあらまし柘の枝はも
#[仮名],いにしへに,やなうつひとの,なかりせば,ここにもあらまし,つみのえだはも
#[左注]右一首若宮年魚麻呂作
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:若宮年魚麻呂,味稲,仙媛,仙柘枝,吉野,伝承,植物,地名
#[訓異]
#[大意]昔簗を討つ人がいなかったならば、まだここに残っていたかも知れない山桑の木だったのに
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0388
#[題詞]羈旅歌一首[并短歌]
#[原文]海若者 霊寸物香 淡路嶋 中尓立置而 白浪乎 伊与尓廻之 座待月 開乃門従者 暮去者 塩乎令満 明去者 塩乎令于 塩左為能 浪乎恐美 淡路嶋 礒隠居而 何時鴨 此夜乃将明跡<侍>従尓 寐乃不勝宿者 瀧上乃 淺野之雉 開去歳 立動良之 率兒等 安倍而榜出牟 尓波母之頭氣師
#[訓読]海神は くすしきものか 淡路島 中に立て置きて 白波を 伊予に廻らし 居待月 明石の門ゆは 夕されば 潮を満たしめ 明けされば 潮を干しむ 潮騒の 波を畏み 淡路島 礒隠り居て いつしかも この夜の明けむと さもらふに 寐の寝かてねば 滝の上の 浅野の雉 明けぬとし 立ち騒くらし いざ子ども あへて漕ぎ出む 庭も静けし
#[仮名],わたつみは,くすしきものか,あはぢしま,なかにたておきて,しらなみを,いよにめぐらし,ゐまちづき,あかしのとゆは,ゆふされば,しほをみたしめ,あけされば,しほをひしむ,しほさゐの,なみをかしこみ,あはぢしま,いそがくりゐて,いつしかも,このよのあけむと,さもらふに,いのねかてねば,たきのうへの,あさののきぎし,あけぬとし,たちさわくらし,いざこども,あへてこぎでむ,にはもしづけし
#[左注](右歌若宮年魚麻呂誦之 但未審作者)
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 待 -> 侍 [細]
#[鄣W],雑歌,,羈旅,伝誦,若年魚麻呂,明石海峡,兵庫,地名,動物
#[訓異]
#[大意]
大海は何と霊妙なものか。淡路島を中に置いて、白波を伊予の国にめぐらせて、居待ち月を待って夜を明かす明石の海峡より、夕方になると潮を満ちさせて、夜が明けると潮を干させるとして、潮騒の波が恐ろしいので、淡路島の磯に波待ちをしていて、いつになったらこの夜が明けるのだろうかと待っていて寝ることも出来ないでいると、急流のほとりの浅野にいる雉が夜が明けるのでと立ち騒いでいるらしい。さあ者どもよ。勇気を出して漕ぎだそう。海庭も静かだ。

#{語釈]
若年魚麻呂  伝未詳。
滝の上の 浅野の雉  淡路島北淡町浅野。一般名詞とすると茅萱などの丈の低い草木の生えている野
#[説明]
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#[番号]03/0389
#[題詞](羈旅歌一首[并短歌])反歌
#[原文]嶋傳 敏馬乃埼乎 許藝廻者 日本戀久 鶴左波尓鳴
#[訓読]島伝ひ敏馬の崎を漕ぎ廻れば大和恋しく鶴さはに鳴く
#[仮名],しまつたひ,みぬめのさきを,こぎみれば,やまとこほしく,たづさはになく
#[左注]右歌若宮年魚麻呂誦之 但未審作者
#[校異]歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,羈旅,伝誦,若年魚麻呂,兵庫,望郷,地名,動物
#[訓異]
#[大意]島伝いに敏馬の岬を漕ぎ廻ると、大和を恋しがって鶴がたくさん鳴いている。
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0390
#[題詞]譬喩歌 / 紀皇女御歌一首
#[原文]軽池之 汭廻徃轉留 鴨尚尓 玉藻乃於丹 獨宿名久二
#[訓読]軽の池の浦廻行き廻る鴨すらに玉藻の上にひとり寝なくに
#[仮名],かるのいけの,うらみゆきみる,かもすらに,たまものうへに,ひとりねなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:紀皇女,飛鳥,孤独,恋愛,動物
#[訓異]
#[大意]軽の池の浦の廻りを行き廻る鴨ですら玉藻の上に独りでは寝ないというのに。(自分はどうして独りで寝るのだろうか)
#{語釈]
譬喩歌   三大部立ての分類と異なり、修辞の上の分類。巻三は、雑歌、比喩、挽歌分類で、相聞は巻四。本来巻四の相聞歌で一巻にしようとした編纂方針であったが、比喩が多いので、相聞を槇四で独立させたと考えられている。

紀皇女 天武天皇皇女  穂積皇子の同母妹  02/0119
12/3098 醜聞が多い
    <多>紀皇女 吉永登 諸写本「聞紀皇女」奈良遷都以前に薨去
高安王 和銅六年に無位から従五位下 二十一歳か。
奈良遷都時は十八歳。伊予守は養老三年
紀皇女と高安王とは時代がずれる。
「聞」は「伝」と重複の感。多と聞とを誤った
多紀皇女は、紀皇女の異腹の妹 文武二年伊勢斎宮 十四歳
高安王とは年齢的に合う

聞紀皇女 注釈 多紀皇女の年齢は、推定すると吉永登氏よりも二十歳近く上
釋注 天平十五年頃大伴氏に伝えられた話。実際とは食い違うことはよくあ る。

軽の池  軽地方にあった池   人麻呂 泣血哀慟歌

#[説明]
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#[番号]03/0391
#[題詞]造筑紫觀世音寺別當沙弥満誓歌一首
#[原文]鳥総立 足柄山尓 船木伐 樹尓伐歸都 安多良船材乎
#[訓読]鳥総立て足柄山に船木伐り木に伐り行きつあたら船木を
#[仮名],とぶさたて,あしがらやまに,ふなぎきり,きにきりゆきつ,あたらふなぎを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:沙弥満誓,恋愛,地名,太宰府,福岡
#[訓異]
#[大意]鳥総を立てて足柄山に船材を伐採し、ただの木として切って行ってしまった。惜しい船の木であったのに。
#{語釈]
#[説明]
美しい女を変な男が持って行ってしまった残念さを言ったもの。

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#[番号]03/0392
#[題詞]<大>宰大監大伴宿祢百代梅歌一首
#[原文]烏珠之 其夜乃梅乎 手忘而 不折来家里 思之物乎
#[訓読]ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひしものを
#[仮名],ぬばたまの,そのよのうめを,たわすれて,をらずきにけり,おもひしものを
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [紀][細]
#[鄣W],譬喩歌,作者:大伴百代,恋愛,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]ぬばたまのその夜の梅を忘れてしまって折らずに来てしまった。思っていたものなのに
#{語釈]
大伴宿祢百代  系譜未詳 04/559~62556 08/823

#[説明]
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#[番号]03/0393
#[題詞]満誓沙弥月歌一首
#[原文]不所見十方 孰不戀有米 山之末尓 射狭夜歴月乎 外見而思香
#[訓読]見えずとも誰れ恋ひざらめ山の端にいさよふ月を外に見てしか
#[仮名],みえずとも,たれこひざらめ,やまのはに,いさよふつきを,よそにみてしか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:沙弥満誓,恋愛
#[訓異]
#[大意]見えなくとも誰が恋い思わないちうことがあろうか。山際でゆっくりと入ろうとしている月を余所ながら見たいものだ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0394
#[題詞]<余>明軍歌一首
#[原文]印結而 我定義之 住吉乃 濱乃小松者 後毛吾松
#[訓読]標結ひて我が定めてし住吉の浜の小松は後も我が松
#[仮名],しめゆひて,わがさだめてし,すみのえの,はまのこまつは,のちもわがまつ
#[左注]
#[校異]金 -> 余 [紀][細]
#[鄣W],譬喩歌,作者:余明軍,大阪,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]印をつけて自分が決めておいた住吉の浜の小松は後々までも自分の松だよ
#{語釈]
<余>明軍  旅人の資人 454~8

#[説明]
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#[番号]03/0395
#[題詞]笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首
#[原文]<託>馬野尓 生流紫 衣染 未服而 色尓出来
#[訓読]託馬野に生ふる紫草衣に染めいまだ着ずして色に出でにけり
#[仮名],たくまのに,おふるむらさき,きぬにしめ,いまだきずして,いろにいでにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌 / 詫 -> 託 [類][紀][温] / 衣 [紀] 衣尓
#[鄣W],譬喩歌,作者:笠郎女,大伴家持,恋愛,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]託馬野に生えている紫を色に染めてまだ着てもいないのに表に出てうわさになってしまった
#{語釈]
託馬野  滋賀県坂田郡米原町筑摩 熊本県熊本市新大江町 未詳

#[説明]
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#[番号]03/0396
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首)
#[原文]陸奥之 真野乃草原 雖遠 面影為而 所見云物乎
#[訓読]陸奥の真野の草原遠けども面影にして見ゆといふものを
#[仮名],みちのくの,まののかやはら,とほけども,おもかげにして,みゆといふものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:笠郎女,大伴家持,恋愛,地名,贈答
#[訓異]
#[大意]東北の真野の草原は遠いけれども、面影に立って見えるというものであるよ(だからすぐ近くにいるあなたは、会えなくとも姿は眼にちらついていますよ)
#{語釈]
真野の草原 島県相馬郡鹿島町 真野川流域

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0397
#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首)
#[原文]奥山之 磐本菅乎 根深目手 結之情 忘不得裳
#[訓読]奥山の岩本菅を根深めて結びし心忘れかねつも
#[仮名],おくやまの,いはもとすげを,ねふかめて,むすびしこころ,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:笠郎女,大伴家持,恋愛,植物,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]山奥の岩の元に生えている神聖な菅の根が深いように、心深くしてあなたと結んだ気持ちは忘れることが出来ないでいる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0398
#[題詞]藤原朝臣八束梅歌二首 [八束後名真楯 房前第<三>子]
#[原文]妹家尓 開有梅之 何時毛々々々 将成時尓 事者将定
#[訓読]妹が家に咲きたる梅のいつもいつもなりなむ時に事は定めむ
#[仮名],いもがいへに,さきたるうめの,いつもいつも,なりなむときに,ことはさだめむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 二 -> 三 [矢][京]
#[鄣W],譬喩歌,作者:藤原八束,真楯,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]妹の家に咲いた梅がいつでも実になった時に決心しよう
#{語釈]
藤原朝臣八束  藤原房前の第3子  淸河、永手  天平12年従五位下 天平神護2年大納言式部卿で薨去。52歳

いつもいつもなりなむ いつでも実になった時
事は定めむ  結婚のことを決めよう

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0399
#[題詞](藤原朝臣八束梅歌二首 [八束後名真楯 房前第<三>子])
#[原文]妹家尓 開有花之 梅花 實之成名者 左右将為
#[訓読]妹が家に咲きたる花の梅の花実にしなりなばかもかくもせむ
#[仮名],いもがいへに,さきたるはなの,うめのはな,みにしなりなば,かもかくもせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:藤原八束,真楯,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]妹の家に咲いた花である梅の花よ。実になったならばどうもこうもしよう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0400
#[題詞]大伴宿祢駿河麻呂梅歌一首
#[原文]梅花 開而落去登 人者雖云 吾標結之 枝将有八方
#[訓読]梅の花咲きて散りぬと人は言へど我が標結ひし枝にあらめやも
#[仮名],うめのはな,さきてちりぬと,ひとはいへど,わがしめゆひし,えだにあらめやも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:大伴駿河麻呂,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]梅の花は咲いて散ったと人は言うが、自分が約束しておいた枝ではないだろうね。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0401
#[題詞]大伴坂上郎女宴親族之日吟歌一首
#[原文]山守之 有家留不知尓 其山尓 標結立而 結之辱為都
#[訓読]山守のありける知らにその山に標結ひ立てて結ひの恥しつ
#[仮名],やまもりの,ありけるしらに,そのやまに,しめゆひたてて,ゆひのはぢしつ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:坂上郎女,宴席,誦詠
#[訓異]
#[大意]山の番人のいたのも知らないで、その山に印を結んで約束の恥をしてしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0402
#[題詞](大伴坂上郎女宴親族之日吟歌一首)大伴宿祢駿河麻呂即和歌一首
#[原文]山主者 盖雖有 吾妹子之 将結標乎 人将解八方
#[訓読]山守はけだしありとも我妹子が結ひけむ標を人解かめやも
#[仮名],やまもりは,けだしありとも,わぎもこが,ゆひけむしめを,ひととかめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:坂上郎女,宴席,誦詠
#[訓異]
#[大意]山の番人はもしかしたらそうであったとしても、我妹子が結んだ印を他人が解くことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0403
#[題詞]大伴宿祢家持贈同坂上家之大嬢歌一首
#[原文]朝尓食尓 欲見 其玉乎 如何為鴨 従手不離有牟
#[訓読]朝に日に見まく欲りするその玉をいかにせばかも手ゆ離れずあらむ
#[仮名],あさにけに,みまくほりする,そのたまを,いかにせばかも,てゆかれずあらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:大伴家持,坂上大嬢,恋愛,贈答
#[訓異]
#[大意]毎朝見たいと思うその玉をどのようにすれば手から離れないでいるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0404
#[題詞]娘子報佐伯宿祢赤麻呂贈歌一首
#[原文]千磐破 神之社四 無有世伐 春日之野邊 粟種益乎
#[訓読]ちはやぶる神の社しなかりせば春日の野辺に粟蒔かましを
#[仮名],ちはやぶる,かみのやしろし,なかりせば,かすがののへに,あはまかましを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:娘子,佐伯赤麻呂,地名,奈良,枕詞,植物,贈答,掛け合い,恋愛
#[訓異]
#[大意]霊威ある神の社さえなかったならば春日の野辺に粟を播こうものなのに
#{語釈]
佐伯宿祢赤麻呂  伝未詳

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0405
#[題詞]佐伯宿祢赤麻呂更贈歌一首
#[原文]春日野尓 粟種有世伐 待鹿尓 継而行益乎 社師<怨>焉
#[訓読]春日野に粟蒔けりせば鹿待ちに継ぎて行かましを社し恨めし
#[仮名],かすがのに,あはまけりせば,ししまちに,つぎてゆかましを,やしろしうらめし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 留 -> 怨 [紀]
#[鄣W],譬喩歌,作者:佐伯赤麻呂,奈良,地名,動物,植物,掛け合い,贈答,恋愛
#[訓異]
#[大意]
春日野に粟を播いたならば、鹿の見張りに毎日行こうものなのに社が恨めしいことだ

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0406
#[題詞]娘子復報歌一首
#[原文]吾祭 神者不有 大夫尓 認有神曽 好應祀
#[訓読]我が祭る神にはあらず大夫に憑きたる神ぞよく祭るべし
#[仮名],わがまつる,かみにはあらず,ますらをに,つきたるかみぞ,よくまつるべし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:娘子,佐伯赤麻呂,贈答,掛け合い,恋愛

#[訓異]
#[大意]
自分が祀る神ではない。大夫に憑依した神です。よくお祭りをするのがいいでしょう。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0407
#[題詞]大伴宿祢駿河麻呂娉同坂上家之二嬢歌一首
#[原文]春霞 春日里之 殖子水葱 苗有跡云師 柄者指尓家牟
#[訓読]春霞春日の里の植ゑ子水葱苗なりと言ひし枝はさしにけむ
#[仮名],はるかすみ,かすがのさとの,うゑこなぎ,なへなりといひし,えはさしにけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:大伴駿河麻呂,坂上二嬢,奈良,地名,植物,贈答,恋愛

#[訓異]
#[大意]
春霞の春日の里で育てられていた小さかった水葱は、まだ苗だと言っておられたが、もう枝も出て大きくなったことでしょうか。

#{語釈]
大伴宿祢駿河麻呂 御行の孫。二嬢と結婚している。
春日の里  大伴家の別宅がある。
植ゑ子水葱 ミズアオイ科の一年草。葉は食用。花は染料にする

#[説明]
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#[番号]03/0408
#[題詞]大伴宿祢家持贈同坂上家之大嬢歌一首
#[原文]石竹之 其花尓毛我 朝旦 手取持而 不戀日将無
#[訓読]なでしこがその花にもが朝な朝な手に取り持ちて恋ひぬ日なけむ
#[仮名],なでしこが,そのはなにもが,あさなさな,てにとりもちて,こひぬひなけむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:大伴家持,坂上大嬢,恋愛,植物,贈答,恋情

#[訓異]
#[大意]
なでしこのその花にでもあればなあ。そうすれば毎朝毎朝手に取って持って恋い思わないという日がなかったことだろうのに。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0409
#[題詞]大伴宿祢駿河麻呂歌一首
#[原文]一日尓波 千重浪敷尓 雖念 奈何其玉之 手二巻<難>寸
#[訓読]一日には千重波しきに思へどもなぞその玉の手に巻きかたき
#[仮名],ひとひには,ちへなみしきに,おもへども,なぞそのたまの,てにまきかたき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 對 -> 難 [西(貼紙訂正)][類][古][紀]
#[鄣W],譬喩歌,作者:大伴駿河麻呂,恋情

#[訓異]
#[大意]
一日に千の浪が押し寄せるほどしきりに恋い思うが、どうしてその玉の手に巻くことが難しいのだろう。

#{語釈]
浪、玉  縁語

#[説明]
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#[番号]03/0410
#[題詞]大伴坂上郎女橘歌一首
#[原文]橘乎 屋前尓殖生 立而居而 後雖悔 驗将有八方
#[訓読]橘を宿に植ゑ生ほし立ちて居て後に悔ゆとも験あらめやも
#[仮名],たちばなを,やどにうゑおほし,たちてゐて,のちにくゆとも,しるしあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],譬喩歌,作者:坂上郎女,植物

#[訓異]
#[大意]
橘を我が屋の庭に植ええて育てて、立ったり座ったりして気をもんだあげくに、人に取られて後に後悔しても何の甲斐がありましょうか。

#{語釈]
#[説明]
橘は娘。娘を大事に育てても人に取られていたのでは育て甲斐がないと言ったもの。
特に事情は説明されていないが、大嬢は家持に。二嬢は駿河麻呂に嫁しているので、その母の心境を詠んだもの。

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#[番号]03/0411
#[題詞](大伴坂上郎女橘歌一首)和歌一首
#[原文]吾妹兒之 屋前之橘 甚近 殖而師故二 不成者不止
#[訓読]我妹子がやどの橘いと近く植ゑてし故にならずはやまじ
#[仮名],わぎもこが,やどのたちばな,いとちかく,うゑてしゆゑに,ならずはやまじ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],譬喩歌,作者:坂上郎女,植物
#[訓異]
#[大意]
我妹子の家の橘は、たいそう身近な所に植えたのだから、恋が成立しないではいられないでしょう。

#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0412
#[題詞]市原王歌一首
#[原文]伊奈太吉尓 伎須賣流玉者 無二 此方彼方毛 君之随意
#[訓読]いなだきにきすめる玉は二つなしかにもかくにも君がまにまに
#[仮名],いなだきに,きすめるたまは,ふたつなし,かにもかくにも,きみがまにまに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],譬喩歌,作者:市原王,難解
#[訓異]
#[大意]頭の髻に秘蔵する玉は二つとない貴重なものです。しかしどちらにしてもあなたの気持ちのままになさってください。

#{語釈]
市原王  志貴皇子の曾孫。安貴王の子。  家持と親しい
いなだき 頭の頂  髻
きすめる玉 納める。秘蔵する。
     法華経安楽行本第一四  転輪王の髻中明玉を仏法の至上なことに喩える
君  歌が前の続きだとすると、坂上郎女に成り代わった市原王として、大伴駿河麻呂

#[説明]
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#[番号]03/0413
#[題詞]大網公人主宴吟歌一首
#[原文]須麻乃海人之 塩焼衣乃 藤服 間遠之有者 未著穢
#[訓読]須磨の海女の塩焼き衣の藤衣間遠にしあればいまだ着なれず
#[仮名],すまのあまの,しほやききぬの,ふぢころも,まどほにしあれば,いまだきなれず
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:大網公人,宴席,誦詠,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]須磨の海女の塩を焼く時の衣である粗末な藤の繊維で作った衣がごわごわしているように、あまり親しんでいないのでまだ着慣れてはいないことだ

#{語釈]
大網公人主 伝未詳

#[説明]
相手の女とまだ十分に慣れ親しんで以内様子

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#[番号]03/0414
#[題詞]大伴宿祢家持歌一首
#[原文]足日木能 石根許其思美 菅根乎 引者難三等 標耳曽結焉
#[訓読]あしひきの岩根こごしみ菅の根を引かばかたみと標のみぞ結ふ
#[仮名],あしひきの,いはねこごしみ,すがのねを,ひかばかたみと,しめのみぞゆふ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],譬喩歌,作者:大伴家持,枕詞,植物,恋愛
#[訓異]
#[大意]あしひきの磐根がごつごつしてるので、菅の根を引き抜くのは固いとして、標だけを付けておくよ。

#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0415
#[題詞]挽歌 / 上宮聖徳皇子出遊竹原井之時見龍田山死人悲傷御作歌一首 [小墾田宮御宇天皇代墾田宮御宇者豊御食炊屋姫天皇也諱額田謚推古]
#[原文]家有者 妹之手将纒 草枕 客尓臥有 此旅人𪫧怜
#[訓読]家にあらば妹が手まかむ草枕旅に臥やせるこの旅人あはれ
#[仮名],いへにあらば,いもがてまかむ,くさまくら,たびにこやせる,このたびとあはれ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 / 墾田 [細] 小墾田
#[鄣W],挽歌,作者:聖徳太子,行路死人,枕詞,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]家にいるならば妹が手で抱くのであろうのに。草枕の旅に臥しているこの旅人があわれである

#{語釈]
竹原井 大阪府柏原氏高井田

#[説明]
行路死人歌の類型 家人への思い、旅中の死、同情
日本霊異記

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#[番号]03/0416
#[題詞]大津皇子被死之時磐余池<陂>流涕御作歌一首
#[原文]百傳 磐余池尓 鳴鴨乎 今日耳見哉 雲隠去牟
#[訓読]百伝ふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ
#[仮名],ももづたふ,いはれのいけに,なくかもを,けふのみみてや,くもがくりなむ
#[左注]右藤原宮朱鳥元年冬十月
#[校異]般 -> 陂 [類][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:大津皇子,枕詞,動物,桜井,地名,辞世

#[訓異]
#[大意]百に続く磐余の池に鳴く鴨を今日ばかり見て雲隠れるのだろうか
#{語釈]
磐余池 香具山の東北。桜井市池内、樫原氏東池尻町あたり
百伝ふ 百に続く五十の意味

(寄船)"
07/1399百伝ふ八十の島廻を漕ぐ舟に乗りにし心忘れかねつも"

09/1711百伝ふ八十の島廻を漕ぎ来れど粟の小島は見れど飽かぬかも"
右二首或云柿本朝臣人麻呂作"

#[説明]
懐風藻詩

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#[番号]03/0417
#[題詞]河内王葬豊前國鏡山之時手持女王作歌三首
#[原文]王之 親魄相哉 豊國乃 鏡山乎 宮登定流
#[訓読]大君の和魂あへや豊国の鏡の山を宮と定むる
#[仮名],おほきみの,にきたまあへや,とよくにの,かがみのやまを,みやとさだむる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,河内王,作者:手持女王,福岡県,地名

#[訓異]
#[大意]大君の御心がかなったというのだろうか。豊国の鏡の山を宮と定める
#{語釈]
河内王  持統八年四月頃 太宰帥として現地で没
豊前國鏡山  福岡県田川郡香春町  03/0311  鏡山神社の北
手持女王  未詳  妻か
和魂あへや 和魂 穏和な魂  荒魂の反対
      御心が合う。かなう 「や(反語)」でそんなはずはないのにの意
      都でなくなったのならばともかく、こんな地方で死ぬとは心にかなうはうはない

#[説明]
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#[番号]03/0418
#[題詞](河内王葬豊前國鏡山之時手持女王作歌三首)
#[原文]豊國乃 鏡山之 石戸立 隠尓計良思 雖待不来座
#[訓読]豊国の鏡の山の岩戸立て隠りにけらし待てど来まさず
#[仮名],とよくにの,かがみのやまの,いはとたて,こもりにけらし,まてどきまさず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,河内王,作者:手持女王,福岡県,地名

#[訓異]
#[大意]豊国の鏡の山に岩戸を立ててお隠りになったらしい。いくら待ってもお来しにならない
#{語釈]
岩戸立て隠りにけらし  人麻呂 日並皇子挽歌  岩戸を開き上がる  古事記 岩戸隠れ 岩戸のイメージは古墳によるか。

#[説明]
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#[番号]03/0419
#[題詞](河内王葬豊前國鏡山之時手持女王作歌三首)
#[原文]石戸破 手力毛欲得 手弱寸 女有者 為便乃不知苦
#[訓読]岩戸破る手力もがも手弱き女にしあればすべの知らなく
#[仮名],いはとわる,たぢからもがも,たよわき,をみなにしあれば,すべのしらなく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,河内王,作者:手持女王,悲嘆

#[訓異]
#[大意]岩戸を割る手の力もあればなあ。力弱い女であるので方法がわからないことだ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0420
#[題詞]石田王卒之時丹生王作歌一首[并短歌]
#[原文]名湯竹乃 十縁皇子 狭丹頬相 吾大王者 隠久乃 始瀬乃山尓 神左備尓 伊都伎坐等 玉梓乃 人曽言鶴 於余頭礼可 吾聞都流 <狂>言加 我間都流母 天地尓 悔事乃 世開乃 悔言者 天雲乃 曽久敝能極 天地乃 至流左右二 杖策毛 不衝毛去而 夕衢占問 石卜以而 吾屋戸尓 御諸乎立而 枕邊尓 齊戸乎居 竹玉乎 無間貫垂 木綿手次 可比奈尓懸而 天有 左佐羅能小野之 七相菅 手取持而 久堅乃 天川原尓 出立而 潔身而麻之<乎> 高山乃 石穂乃上尓 伊座都<類>香物
#[訓読]なゆ竹の とをよる御子 さ丹つらふ 我が大君は こもりくの 初瀬の山に 神さびに 斎きいますと 玉梓の 人ぞ言ひつる およづれか 我が聞きつる たはことか 我が聞きつるも 天地に 悔しきことの 世間の 悔しきことは 天雲の そくへの極み 天地の 至れるまでに 杖つきも つかずも行きて 夕占問ひ 石占もちて 我が宿に みもろを立てて 枕辺に 斎瓮を据ゑ 竹玉を 間なく貫き垂れ 木綿たすき かひなに懸けて 天なる ささらの小野の 七節菅 手に取り持ちて ひさかたの 天の川原に 出で立ちて みそぎてましを 高山の 巌の上に いませつるかも
#[仮名],なゆたけの,とをよるみこ,さにつらふ,わがおほきみは,こもりくの,はつせのやまに,かむさびに,いつきいますと,たまづさの,ひとぞいひつる,およづれか,わがききつる,たはことか,わがききつるも,あめつちに,くやしきことの,よのなかの,くやしきことは,あまくもの,そくへのきはみ,あめつちの,いたれるまでに,つゑつきも,つかずもゆきて,ゆふけとひ,いしうらもちて,わがやどに,みもろをたてて,まくらへに,いはひへをすゑ,たかたまを,まなくぬきたれ,ゆふたすき,かひなにかけて,あめなる,ささらのをのの,ななふすげ,てにとりもちて,ひさかたの,あまのかはらに,いでたちて,みそぎてましを,たかやまの,いはほのうへに,いませつるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 枉 -> 狂 [紀][温] / 身 -> 乎 [西(訂正)][類][紀][温] / 流 -> 類 [類][矢]
#[鄣W],挽歌,石田王,作者:丹生王,枕詞,桜井,地名,悲別,悲嘆
#[訓異]
#[大意]しなやかな竹のように寄り添った御子、紅顔の我が大君は、隠り口の初瀨の山に神々しくして祀られていると玉梓の使いのように人が言う。でたらめだろうか。自分が聞いたのは。冗談だろうか。自分が聞いたのは。天地の中でもっとも悔しいことで、世の中のくやしいことは、空の雲の遠く離れたはてまで天地が行き着くまでも杖をついてでも、つかないでも行って、夕方の占いをし、石で占いをして、自分の家に御諸を立て、枕の方には斎瓮を据え、竹玉をすきまなく貫き垂らし、木綿のたすきを腕に懸けて、天井にあるささらの小野の七節の菅を手に取り持って、ひさかたの天の川原に出て立ってみそぎをしたものなのに。そうとは知らずに高い山の巌の上にいらっしゃることだ。

#{語釈]
石田王 伝未詳  424左注 紀皇女薨去後に丹生王と再婚したか。
丹生王 伝未詳  丹生女王(553)と同一人物か
なゆ竹の 02/217 しなやかな竹
とをよる御子 しなやかに寄り添う子
斎きいます 神として祀られている  墓に入っている
玉梓の  普通、使いにかかる枕詞。ここは伝聞であることを示すのに使者を印象付ける
およづれ でたらめ
たはことか  狂った言葉。ふざけた言葉
そくへの極み  退く辺の極み  遠く離れた所
夕占  夕方に辻に出て人の話で吉凶を占ったものか
石占  石を投げたり、持ち上げたりして吉凶を占ったものか
    ここでは祭祀を行う日時や場所を占っているか。
みもろ 神が降臨する時に憑依するもの
天なる ささらの小野  16/3887
七節菅 14/3524

#[説明]
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#[番号]03/0421
#[題詞](石田王卒之時丹生王作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]逆言之 狂言等可聞 高山之 石穂乃上尓 君之臥有
#[訓読]およづれのたはこととかも高山の巌の上に君が臥やせる
#[仮名],およづれの,たはこととかも,たかやまの,いはほのうへに,きみがこやせる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,石田王,作者:丹生王,哀悼,悲嘆
#[訓異]
#[大意]さかさ言葉の冗談なのだろうか。高い山の巌の上にあなたが横たわっておられる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0422
#[題詞]((石田王卒之時丹生王作歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]石上 振乃山有 杉村乃 思過倍吉 君尓有名國
#[訓読]石上布留の山なる杉群の思ひ過ぐべき君にあらなくに
#[仮名],いそのかみ,ふるのやまなる,すぎむらの,おもひすぐべき,きみにあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,石田王,作者:丹生王,枕詞,哀悼,悲嘆,悲別
#[訓異]
#[大意]石上の布留の山にある杉林のすぎではないが、思い過ごしてしまうようなあなたではないことなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0423
#[題詞]同石田王卒之時山前王哀傷作歌一首
#[原文]角障經 石村之道乎 朝不離 将歸人乃 念乍 通計萬<口>波 霍公鳥 鳴五月者 菖蒲 花橘乎 玉尓貫 [一云 貫交] 蘰尓将為登 九月能 四具礼能時者 黄葉乎 折挿頭跡 延葛乃 弥遠永 [一云 田葛根乃 弥遠長尓] 萬世尓 不絶等念而 [一云 大舟之 念憑而] 将通 君乎婆明日従 [一云 君乎従明日<者>] 外尓可聞見牟
#[訓読]つのさはふ 磐余の道を 朝さらず 行きけむ人の 思ひつつ 通ひけまくは 霍公鳥 鳴く五月には あやめぐさ 花橘を 玉に貫き [一云 貫き交へ] かづらにせむと 九月の しぐれの時は 黄葉を 折りかざさむと 延ふ葛の いや遠長く [一云 葛の根の いや遠長に] 万代に 絶えじと思ひて [一云 大船の 思ひたのみて] 通ひけむ 君をば明日ゆ [一云 君を明日ゆは] 外にかも見む
#[仮名],つのさはふ,いはれのみちを,あささらず,ゆきけむひとの,おもひつつ,かよひけまくは,ほととぎす,なくさつきには,あやめぐさ,はなたちばなを,たまにぬき,[ぬきまじへ],かづらにせむと,ながつきの,しぐれのときは,もみちばを,をりかざさむと,はふくずの,いやとほながく,[くずのねの,いやとほながに],よろづよに,たえじとおもひて,[おほぶねの,おもひたのみて],かよひけむ,きみをばあすゆ,[きみをあすゆは],よそにかもみむ
#[左注]右一首或云柿本朝臣人麻呂作
#[校異]歌 [西] 謌 / 石 -> 口 [類][古] / 香 -> 者 [類][古][紀]
#[鄣W],挽歌,石田王,作者:山前王:柿本人麻呂,異伝,枕詞,桜井,地名,代作
#[訓異]
#[大意]つのさはふ磐余の道を毎朝行ったという人が思い続けて通ったということには、時鳥が鳴く五月にはアヤメ草を橘の花とともに貫き交え、鬘にしようと、九月の時雨の時は黄葉を折ってかざそうと、延びていく蔦のようにますます遠く長く、いつまでも途絶えることはないだろうと[一云う 大船の思い頼んで]、お通いになったであろうあなたは明日からは余所ながらみることであろう。

#{語釈]
山前王 忍壁皇子の子 慶雲2年(795)無位から従四位下 養老7年(723)12月卒
つのさはふ  植物の芽が成長するのを妨げる岩の意味から「い」に掛かる。
通う  女のもとへ通う。朝帰り。藤原の役所へと通う。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0424
#[題詞](同石田王卒之時山前王哀傷作歌一首)或本反歌二首
#[原文]隠口乃 泊瀬越女我 手二纒在 玉者乱而 有不言八方
#[訓読]こもりくの泊瀬娘子が手に巻ける玉は乱れてありと言はずやも
#[仮名],こもりくの,はつせをとめが,てにまける,たまはみだれて,ありといはずやも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,石田王,作者:山前王,異伝,枕詞,桜井,地名
#[訓異]
#[大意]隠口の初瀨娘子が手に巻いて持っている球は乱れているというではないか。
#{語釈]
泊瀬娘子 石だ王の愛人か
ありと言はずやも  あると言わないではないだろうか。そうではなくそう言うよ。
     人麻呂 臨死歌

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0425
#[題詞]((同石田王卒之時山前王哀傷作歌一首)或本反歌二首)
#[原文]河風 寒長谷乎 歎乍 公之阿流久尓 似人母逢耶
#[訓読]川風の寒き泊瀬を嘆きつつ君が歩くに似る人も逢へや
#[仮名],かはかぜの,さむきはつせを,なげきつつ,きみがあるくに,にるひともあへや
#[左注]右二首者或云紀皇女薨後山前<王>代石田王作之也
#[校異]<> -> 王 [西(右書)][古][矢]
#[鄣W],挽歌,石田王,作者:山前王,異伝,難解,桜井,地名
#[訓異]
#[大意]川風の寒い初瀨を嘆きながらあなたが歩くのに似ている人に会うことがあろうか
#{語釈]
君が歩くに あなたの魂がさまよい歩いている

#[説明]
使者の魂がさまよい歩いているのだろうが、自分には見えないということを言ったもの

#[関連論文]



#[番号]03/0426
#[題詞]柿本朝臣人麻呂見香具山屍悲慟作歌一首
#[原文]草枕 羈宿尓 誰嬬可 國忘有 家待<真>國
#[訓読]草枕旅の宿りに誰が嬬か国忘れたる家待たまくに
#[仮名],くさまくら,たびのやどりに,たがつまか,くにわすれたる,いへまたまくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 莫 -> 真 [類][古][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:柿本人麻呂,行路死人,枕詞
#[訓異]
#[大意]草枕の旅の仮泊に誰の夫だろうか、故郷を忘れたのは。家では待っているだろうのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0427
#[題詞]田口廣麻呂死之時刑部垂麻呂作歌一首
#[原文]百不足 八十隅坂尓 手向為者 過去人尓 盖相牟鴨
#[訓読]百足らず八十隈坂に手向けせば過ぎにし人にけだし逢はむかも
#[仮名],ももたらず,やそくまさかに,たむけせば,すぎにしひとに,けだしあはむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:刑部垂麻呂,田口広麻呂,枕詞
#[訓異]
#[大意]百に足りない多くの坂に手向けをしたならば、亡くなってしまった人にもしかしたら会うだろうか
#{語釈]
田口廣麻呂 慶雲2年 従五位下
刑部垂麻呂 伝未詳 263

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0428
#[題詞]土形娘子火葬泊瀬山時柿本朝臣人麻呂作歌一首
#[原文]隠口能 泊瀬山之 山際尓 伊佐夜歴雲者 妹鴨有牟
#[訓読]こもりくの初瀬の山の山の際にいさよふ雲は妹にかもあらむ
#[仮名],こもりくの,はつせのやまの,やまのまに,いさよふくもは,いもにかもあらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:柿本人麻呂,土形娘子,枕詞,桜井,地名,火葬
#[訓異]
#[大意]隠口の初瀨の山の山の間際にただよっている雲は妹なのだろうか
#{語釈]
土形娘子 伝未詳

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0429
#[題詞]溺死出雲娘子火葬吉野時柿本朝臣人麻呂作歌二首
#[原文]山際従 出雲兒等者 霧有哉 吉野山 嶺霏<(d)>
#[訓読]山の際ゆ出雲の子らは霧なれや吉野の山の嶺にたなびく
#[仮名],やまのまゆ,いづものこらは,きりなれや,よしののやまの,みねにたなびく
#[左注]
#[校異]c -> (d) [矢][京]
#[鄣W],挽歌,作者:柿本人麻呂,出雲娘子,吉野,地名,火葬
#[訓異]
#[大意]山の間際から出てくる雲よいう出雲のあの子の霧なのだろうか。吉野の山の峰にたなびいている
#{語釈]
出雲娘子 伝未詳 采女か

#[説明]
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#[番号]03/0430
#[題詞](溺死出雲娘子火葬吉野時柿本朝臣人麻呂作歌二首)
#[原文]八雲刺 出雲子等 黒髪者 吉野川 奥名豆颯
#[訓読]八雲さす出雲の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ
#[仮名],やくもさす,いづものこらが,くろかみは,よしののかはの,おきになづさふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:柿本人麻呂,出雲娘子,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]八雲さす出雲のあの子の黒髪は吉野の川の真ん中でただよっている
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0431
#[題詞]過勝鹿真間娘子墓時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌] [東俗語云可豆思賀能麻末能弖胡]
#[原文]古昔 有家武人之 倭<文>幡乃 帶解替而 廬屋立 妻問為家武 勝壮鹿乃 真間之手兒名之 奥槨乎 此間登波聞杼 真木葉哉 茂有良武 松之根也 遠久寸 言耳毛 名耳母吾者 不<可>忘
#[訓読]いにしへに ありけむ人の 倭文幡の 帯解き交へて 伏屋立て 妻問ひしけむ 勝鹿の 真間の手児名が 奥つ城を こことは聞けど 真木の葉や 茂くあるらむ 松が根や 遠く久しき 言のみも 名のみも我れは 忘らゆましじ
#[仮名],いにしへに,ありけむひとの,しつはたの,おびときかへて,ふせやたて,つまどひしけむ,かつしかの,ままのてごなが,おくつきを,こことはきけど,まきのはや,しげくあるらむ,まつがねや,とほくひさしき,ことのみも,なのみもわれは,わすらゆましじ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌 / 麻末能 [紀][類] 麻末之 / 父 -> 文 [紀][細] / 所 -> 可 [類][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:山部赤人,真間娘子,鎮魂,伝説,東京,地名,葛飾
#[訓異]
#[大意]昔いたという人で粗末な帯を解き合って、あばら屋を建てて妻問いをしたという葛飾の真間の手児名の墓はここだと聞くが、太い木の葉が茂っているからだろうか、松の根がずっと昔から長く生えているからだろうか。場所ははっきりとしない。せめて昔話だけでも名前だけでも忘れるということはしないだろう。
#{語釈]

#[説明]
高橋虫麻呂 09/1807
近江荒都歌の影響、富士山の歌

#[関連論文]



#[番号]03/0432
#[題詞](過勝鹿真間娘子墓時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌] [東俗語云可豆思賀能麻末能弖胡])反歌
#[原文]吾毛見都 人尓毛将告 勝壮鹿之 間<々>能手兒名之 奥津城處
#[訓読]我れも見つ人にも告げむ勝鹿の真間の手児名が奥つ城ところ
#[仮名],われもみつ,ひとにもつげむ,かつしかの,ままのてごなが,おくつきところ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 間 -> 々 [類][古][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:山部赤人,真間娘子,葛飾,東京,地名,鎮魂
#[訓異]
#[大意]自分も見た。人にも語ろう。葛飾の真間の手児名の墓所を。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0433
#[題詞]((過勝鹿真間娘子墓時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌] [東俗語云可豆思賀能麻末能弖胡])反歌)
#[原文]勝壮鹿乃 真々乃入江尓 打靡 玉藻苅兼 手兒名志所念
#[訓読]葛飾の真間の入江にうち靡く玉藻刈りけむ手児名し思ほゆ
#[仮名],かつしかの,ままのいりえに,うちなびく,たまもかりけむ,てごなしおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:山部赤人,真間娘子,葛飾,東京,地名,懐旧,鎮魂
#[訓異]
#[大意]葛飾の真間の入り江にゆらゆらと靡く玉藻を苅っていたであろう手児名が思われてならない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0434
#[題詞]和銅四年辛亥河邊宮人見姫嶋松原美人屍哀慟作歌四首
#[原文]加<座>皤夜能 美保乃浦廻之 白管仕 見十方不怜 無人念者 [或云 見者悲霜 無人思丹]
#[訓読]風早の美穂の浦廻の白つつじ見れども寂しなき人思へば [或云 見れば悲しもなき人思ふに]
#[仮名],かざはやの,みほのうらみの,しらつつじ,みれどもさぶし,なきひとおもへば,[みればかなしも,なきひとおもふに]
#[左注](右案 年紀并所處<及>娘子屍作<歌>人名已見上也 但<歌>辞相違是非難別 因以累載於茲次焉)
#[校異]歌 [西] 謌 / 麻 -> 座 [万葉集略解]
#[鄣W],挽歌,和銅4年,年紀,作者:河辺宮人,行路死人,大阪,地名,植物
#[訓異]
#[大意]風邪の早い三穂の浦のめぐりの白つつじではないが、見ても寂しいことだ。今は亡き人を思うと[見てもはかないことだ。亡き人を思うに]

#{語釈]
河邊宮人  伝未詳
姫嶋   未詳 大阪市西淀川区姫島町 大阪市浪速区勘助町 02.0228d 0228 03.434d
     歌から和歌山県 三穂の浦付近の島か
松原美人屍 伝説上のものか
風早の   風が激しく吹くという気候から来る枕詞
美穂の浦廻 和歌山県日高郡美浜町三尾

#[説明]
02/0228

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#[番号]03/0435
#[題詞](和銅四年辛亥河邊宮人見姫嶋松原美人屍哀慟作歌四首)
#[原文]見津見津四 久米能若子我 伊觸家武 礒之草根乃 干巻惜裳
#[訓読]みつみつし久米の若子がい触れけむ礒の草根の枯れまく惜しも
#[仮名],みつみつし,くめのわくごが,いふれけむ,いそのくさねの,かれまくをしも
#[左注](右案 年紀并所處<及>娘子屍作<歌>人名已見上也 但<歌>辞相違是非難別 因以累載於茲次焉)
#[校異]
#[鄣W],挽歌,和銅4年,年紀,作者:河辺宮人,行路死人,大阪,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]みつみつし久米の若者たちが触れたであろう岩の草根が枯れるのが惜しいことだ
#{語釈]
みつみつし 久米の枕詞 御稜威(みいつ)御稜威で、威力のある


#[説明]
0307
姫島の娘子の相手 物語伝承があったのか。
三穂の海岸あたりに伝わった久米の若者と娘子の悲恋物語。娘子が自殺するような話か。
それを河辺宮人が聞いて(見て)、この歌を詠んだ。

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#[番号]03/0436
#[題詞](和銅四年辛亥河邊宮人見姫嶋松原美人屍哀慟作歌四首)
#[原文]人言之 繁比日 玉有者 手尓巻持而 不戀有益雄
#[訓読]人言の繁きこのころ玉ならば手に巻き持ちて恋ひずあらましを
#[仮名],ひとごとの,しげきこのころ,たまならば,てにまきもちて,こひずあらましを
#[左注](右案 年紀并所處<及>娘子屍作<歌>人名已見上也 但<歌>辞相違是非難別 因以累載於茲次焉)
#[校異]
#[鄣W],挽歌,和銅4年,年紀,作者:河辺宮人,行路死人,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]人のうわさがひどいこの頃。玉だったら手に巻いて持って恋いないということがなかったのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0437
#[題詞](和銅四年辛亥河邊宮人見姫嶋松原美人屍哀慟作歌四首)
#[原文]妹毛吾毛 清之河乃 河岸之 妹我可悔 心者不持
#[訓読]妹も我れも清みの川の川岸の妹が悔ゆべき心は持たじ
#[仮名],いももあれも,きよみのかはの,かはきしの,いもがくゆべき,こころはもたじ
#[左注]右案 年紀并所處<及>娘子屍作<歌>人名已見上也 但<歌>辞相違是非難別 因以累載於茲次焉
#[校異]乃 -> 及 [西(訂正)] / <> -> 歌 [西(右書)] 謌 [紀][温] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,和銅4年,年紀,作者:河辺宮人,行路死人,大阪,飛鳥川,地名
#[訓異]
#[大意]妹も自分も清らかな川の名前のようにその川岸が清いように、妹が後悔するような気持ちは持ってはいませんよ。
#{語釈]
清みの川  所在未詳

#[説明]
物語は、人のうわさに傷ついて妹が入水自殺したというものか。
宮人は、話の登場人物である久米の若者に同情して、その立場で潔癖であることを歌っている。
潔癖というのは、禊ぎをして神に後々まで誓った気持ち。遊びではない気持ち。

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#[番号]03/0438
#[題詞]神龜五年戊辰<大>宰帥大伴卿思戀故人歌三首
#[原文]愛 人之纒而師 敷細之 吾手枕乎 纒人将有哉
#[訓読]愛しき人のまきてし敷栲の我が手枕をまく人あらめや
#[仮名],うつくしき,ひとのまきてし,しきたへの,わがたまくらを,まくひとあらめや
#[左注]右一首別去而經數旬作歌
#[校異]太 -> 大 [類][古][紀] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,神龜5年,年紀
#[訓異]
#[大意]いとしい人が枕としていた敷妙の我が手枕を枕とする人がまたあろうか。
#{語釈]
神龜五年 大伴旅人 神亀四年の暮れ 太宰府赴任
          神亀五年三月頃 亡妻
            五年七月 憶良嘉万郡撰定三部作
          天平二年 帰京  446以降
     
     歌群は編纂時に別れたという見方があるが、一時帰京の時のものか。
     憶良嘉万郡撰定三部作はその時のもの。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0439
#[題詞](神龜五年戊辰大宰帥<大>伴卿思戀故人歌三首)
#[原文]應還 時者成来 京師尓而 誰手本乎可 吾将枕
#[訓読]帰るべく時はなりけり都にて誰が手本をか我が枕かむ
#[仮名],かへるべく,ときはなりけり,みやこにて,たがたもとをか,わがまくらかむ
#[左注](右二首臨近向京之時作歌)
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,神龜5年,年紀
#[訓異]
#[大意]帰る時になった。都で誰が自分の手枕をしようか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0440
#[題詞](神龜五年戊辰大宰帥<大>伴卿思戀故人歌三首)
#[原文]在<京> 荒有家尓 一宿者 益旅而 可辛苦
#[訓読]都なる荒れたる家にひとり寝ば旅にまさりて苦しかるべし
#[仮名],みやこなる,あれたるいへに,ひとりねば,たびにまさりて,くるしかるべし
#[左注]右二首臨近向京之時作歌
#[校異]京師 -> 京 [類][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,神龜5年,年紀
#[訓異]
#[大意]都での荒れた家に独りで寝ると、旅にまさって苦しいだろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0441
#[題詞]神龜六年己巳左大臣長屋王賜死之後倉橋部女王作歌一首
#[原文]大皇之 命恐 大荒城乃 時尓波不有跡 雲隠座
#[訓読]大君の命畏み大殯の時にはあらねど雲隠ります
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,おほあらきの,ときにはあらねど,くもがくります
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 大 [紀] 天
#[鄣W],挽歌,作者:倉橋部女王,長屋王,神龜6年,年紀
#[訓異]
#[大意]大君のご命令をおそれ謹んで、大殯の時でないが雲隠れになる
#{語釈]
倉橋部女王  伝未詳

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0442
#[題詞]悲傷膳部王歌一首
#[原文]世間者 空物跡 将有登曽 此照月者 満闕為家流
#[訓読]世間は空しきものとあらむとぞこの照る月は満ち欠けしける
#[仮名],よのなかは,むなしきものと,あらむとぞ,このてるつきは,みちかけしける
#[左注]右一首作者未詳
#[校異]
#[鄣W],挽歌,膳部王,無常
#[訓異]
#[大意]世の中は空しいものであるというのか。この照る月が満ち欠けしているのは
#{語釈]
膳部王 長屋王の子。母は草壁皇子の娘、吉備内親王
月の満ち欠け 07/1270 19/4160
07/1086H01靫懸くる伴の男広き大伴に国栄えむと月は照るらし

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0443
#[題詞]天平元年己巳攝津國班田史生丈部龍麻呂自經死之時判官大伴宿祢三中作歌一首[并短歌]
#[原文]天雲之 向伏國 武士登 所云人者 皇祖 神之御門尓 外重尓 立候 内重尓 仕奉 玉葛 弥遠長 祖名文 継徃物与 母父尓 妻尓子等尓 語而 立西日従 帶乳根乃 母命者 齊忌戸乎 前坐置而 一手者 木綿取持 一手者 和細布奉 <平> 間幸座与 天地乃 神祇乞祷 何在 歳月日香 茵花 香君之 牛留鳥 名津匝来与 立居而 待監人者 王之 命恐 押光 難波國尓 荒玉之 年經左右二 白栲 衣不干 朝夕 在鶴公者 何方尓 念座可 欝蝉乃 惜此世乎 露霜 置而徃監 時尓不在之天
#[訓読]天雲の 向伏す国の ますらをと 言はれし人は 天皇の 神の御門に 外の重に 立ち侍ひ 内の重に 仕へ奉りて 玉葛 いや遠長く 祖の名も 継ぎ行くものと 母父に 妻に子どもに 語らひて 立ちにし日より たらちねの 母の命は 斎瓮を 前に据ゑ置きて 片手には 木綿取り持ち 片手には 和栲奉り 平けく ま幸くいませと 天地の 神を祈ひ祷み いかにあらむ 年月日にか つつじ花 にほへる君が にほ鳥の なづさひ来むと 立ちて居て 待ちけむ人は 大君の 命畏み おしてる 難波の国に あらたまの 年経るまでに 白栲の 衣も干さず 朝夕に ありつる君は いかさまに 思ひませか うつせみの 惜しきこの世を 露霜の 置きて去にけむ 時にあらずして
#[仮名],あまくもの,むかぶすくにの,ますらをと,いはれしひとは,すめろきの,かみのみかどに,とのへに,たちさもらひ,うちのへに,つかへまつりて,たまかづら,いやとほながく,おやのなも,つぎゆくものと,おもちちに,つまにこどもに,かたらひて,たちにしひより,たらちねの,ははのみことは,いはひへを,まへにすゑおきて,かたてには,ゆふとりもち,かたてには,にきたへまつり,たひらけく,まさきくいませと,あめつちの,かみをこひのみ,いかにあらむ,としつきひにか,つつじはな,にほへるきみが,にほとりの,なづさひこむと,たちてゐて,まちけむひとは,おほきみの,みことかしこみ,おしてる,なにはのくにに,あらたまの,としふるまでに,しろたへの,ころももほさず,あさよひに,ありつるきみは,いかさまに,おもひいませか,うつせみの,をしきこのよを,つゆしもの,おきていにけむ,ときにあらずして
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 / 乎 -> 平 [紀]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴三中,丈部龍麻呂,枕詞,追悼,大阪,地名,天平1年,年紀
#[訓異]
#[大意]天の雲が向かい合い伏せるような遠い国で立派な男と言われた人は、天皇の神の御門に外側の塀に立って伺候し、内の垣に仕えて、玉葛が延びていくようにますます遠くいつまでも祖先の名前を継いでいくものと、母や父や妻や子どもにいつも話して都に出立してきた日から、たらちねの母の命は斎瓮を前に据え置いて、片手には木綿を取り持って、片手には和妙を奉じ持って、何事もなく無事でおられよと、天地の神を祈り祭り、どのような年月日になたらつつじ花が美しく咲くように紅顔のあなたがにほ鳥のようにやっとのことで戻って来るだろうと立ったり座ったりして待っていたという人は、大君の御命令を恐れ多く思って、おしてる難波の国にあらたまの年が経つまでに白妙の衣も干さないで朝夕にいたあなたはどのようにお思いになったのかうつせみの立ち去りがたいこの世を露霜のように後に置いていなくなってしまった。その時でもないのに

#{語釈]
班田史生 宅地班給の書記
丈部龍麻呂 伝未詳

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0444
#[題詞](天平元年己巳攝津國班田史生丈部龍麻呂自經死之時判官大伴宿祢三中作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]昨日社 公者在然 不思尓 濱松之<於> 雲棚引
#[訓読]昨日こそ君はありしか思はぬに浜松の上に雲にたなびく
#[仮名],きのふこそ,きみはありしか,おもはぬに,はままつのうへに,くもにたなびく
#[左注]
#[校異]上於 -> 於 [類][古][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴三中,丈部龍麻呂,大阪,地名,天平1年,年紀
#[訓異]
#[大意]昨日こそあなたはいたのに。思ってもみないことに浜松の上に雲としてたなびいている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0445
#[題詞]((天平元年己巳攝津國班田史生丈部龍麻呂自經死之時判官大伴宿祢三中作歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]何時然跡 待牟妹尓 玉梓乃 事太尓不告 徃公鴨
#[訓読]いつしかと待つらむ妹に玉梓の言だに告げず去にし君かも
#[仮名],いつしかと,まつらむいもに,たまづさの,ことだにつげず,いにしきみかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴三中,丈部龍麻呂,大阪,地名,枕詞,天平1年,年紀
#[訓異]
#[大意]いつになったら帰ってくるかと待っていたであろう妻に玉梓の言葉だけも告げずに亡くなってしまったあなたでる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0446
#[題詞]天平二年庚午冬十二月大宰帥<大>伴卿向京上道之時作歌五首
#[原文]吾妹子之 見師鞆浦之 天木香樹者 常世有跡 見之人曽奈吉
#[訓読]我妹子が見し鞆の浦のむろの木は常世にあれど見し人ぞなき
#[仮名],わぎもこが,みしとものうらの,むろのきは,とこよにあれど,みしひとぞなき
#[左注](右三首過鞆浦日作歌)
#[校異]太 -> 大 [類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,岡山,地名,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]我が妻が見た鞆の浦のむろの木は時間のたたない国にあるかのようにいつまでも茂っているが見た人はいないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0447
#[題詞](天平二年庚午冬十二月大宰帥<大>伴卿向京上道之時作歌五首)
#[原文]鞆浦之 礒之室木 将見毎 相見之妹者 将所忘八方
#[訓読]鞆の浦の礒のむろの木見むごとに相見し妹は忘らえめやも
#[仮名],とものうらの,いそのむろのき,みむごとに,あひみしいもは,わすらえめやも
#[左注](右三首過鞆浦日作歌)
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,岡山,地名,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]鞆の浦の磯のむろの木を見るたびにともに見た妻は忘れることが出来ない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0448
#[題詞](天平二年庚午冬十二月大宰帥<大>伴卿向京上道之時作歌五首)
#[原文]礒上丹 根蔓室木 見之人乎 何在登問者 語将告可
#[訓読]礒の上に根延ふむろの木見し人をいづらと問はば語り告げむか
#[仮名],いそのうへに,ねばふむろのき,みしひとを,いづらととはば,かたりつげむか
#[左注]右三首過鞆浦日作歌
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,岡山,地名,植物,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]磯の上に根を伸ばしているむろの木を見た人を今はどこにいるのかと尋ねると話して知らせてくれるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0449
#[題詞](天平二年庚午冬十二月大宰帥<大>伴卿向京上道之時作歌五首)
#[原文]与妹来之 敏馬能埼乎 還左尓 獨<之>見者 涕具末之毛
#[訓読]妹と来し敏馬の崎を帰るさにひとりし見れば涙ぐましも
#[仮名],いもとこし,みぬめのさきを,かへるさに,ひとりしみれば,なみたぐましも
#[左注](右二首過敏馬埼日作歌)
#[校異]而 -> 之 [古]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,兵庫,地名,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]妻と来た敏馬の崎を帰る時は独りで見ていると涙が落ちそうだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0450
#[題詞](天平二年庚午冬十二月大宰帥<大>伴卿向京上道之時作歌五首)
#[原文]去左尓波 二吾見之 此埼乎 獨過者 情悲<喪> [一云 見毛左可受伎濃]
#[訓読]行くさにはふたり我が見しこの崎をひとり過ぐれば心悲しも [一云 見も放かず来ぬ]
#[仮名],ゆくさには,ふたりわがみし,このさきを,ひとりすぐれば,こころかなしも,[みもさかずきぬ]
#[左注]右二首過敏馬埼日作歌
#[校異]哀 -> 喪 [西(貼紙訂正)][古][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,兵庫,地名,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]行く時は二人で見たこの崎を今は独りで通り過ぎると心悲しいことだ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0451
#[題詞]還入故郷家即作歌三首
#[原文]人毛奈吉 空家者 草枕 旅尓益而 辛苦有家里
#[訓読]人もなき空しき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり
#[仮名],ひともなき,むなしきいへは,くさまくら,たびにまさりて,くるしかりけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,奈良,地名,枕詞,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]妻もいない空しい家は草枕旅に勝って苦しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0452
#[題詞](還入故郷家即作歌三首)
#[原文]与妹為而 二作之 吾山齊者 木高繁 成家留鴨
#[訓読]妹としてふたり作りし我が山斎は木高く茂くなりにけるかも
#[仮名],いもとして,ふたりつくりし,わがしまは,こだかくしげく,なりにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,奈良,地名,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]妻と二人で作った我が屋の庭は小高く繁くなったことである
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0453
#[題詞](還入故郷家即作歌三首)
#[原文]吾妹子之 殖之梅樹 毎見 情咽都追 涕之流
#[訓読]我妹子が植ゑし梅の木見るごとに心咽せつつ涙し流る
#[仮名],わぎもこが,うゑしうめのき,みるごとに,こころむせつつ,なみたしながる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴旅人,亡妻挽歌,奈良,地名,植物,天平2年12月,年紀
#[訓異]
#[大意]我が妻が植えた梅の木を見るにつけても心が鬱屈して涙が流れる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0454
#[題詞]天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首
#[原文]愛八師 榮之君乃 伊座勢<婆> 昨日毛今日毛 吾乎召<麻>之乎
#[訓読]はしきやし栄えし君のいましせば昨日も今日も我を召さましを
#[仮名],はしきやし,さかえしきみの,いましせば,きのふもけふも,わをめさましを
#[左注](右五首資人<余>明軍不勝犬馬之慕心中感緒作歌)
#[校異]歌 [西] 謌 / 波 -> 婆 [類] / 座 -> 麻 [類][古][矢]
#[鄣W],挽歌,作者:余明軍,大伴旅人,奈良,地名,天平3年7月,年紀
#[訓異]
#[大意]いとしい元気だったあなたが生きていらっしゃたならば昨日も今日も自分をお召しになるのに
#{語釈]
天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨 懐風藻67歳
資人  五位以上、中納言以上の官職に応じて朝廷から支給される共人。
    旅人は従二位 80人 大納言 100人  1年の喪に服して解任。
<余>明軍  百済王族系の渡来人 西本願寺本「金」古、金による  394題詞
ば昨日も今日も 舎人草壁皇子挽歌 
02/0184H01東のたぎの御門に侍へど昨日も今日も召す言もなし

#[説明]
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#[番号]03/0455
#[題詞](天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首)
#[原文]如是耳 有家類物乎 芽子花 咲而有哉跡 問之君波母
#[訓読]かくのみにありけるものを萩の花咲きてありやと問ひし君はも
#[仮名],かくのみに,ありけるものを,はぎのはな,さきてありやと,とひしきみはも
#[左注](右五首資人<余>明軍不勝犬馬之慕心中感緒作歌)
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:余明軍,大伴旅人,奈良,地名,植物,追悼,天平3年7月,年紀
#[訓異]
#[大意]このようになるものだったのに。萩の花は咲いているかと尋ねたあなただったなあ
#{語釈]
萩の花  亡き妻が好きだったか。旅人自身が妻の思い出の花か。
06/0969D01三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首
06/0969H01しましくも行きて見てしか神なびの淵はあせにて瀬にかなるらむ
06/0970H01指進の栗栖の小野の萩の花散らむ時にし行きて手向けむ

#[説明]
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#[番号]03/0456
#[題詞](天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首)
#[原文]君尓戀 痛毛為便奈美 蘆鶴之 哭耳所泣 朝夕四天
#[訓読]君に恋ひいたもすべなみ葦鶴の哭のみし泣かゆ朝夕にして
#[仮名],きみにこひ,いたもすべなみ,あしたづの,ねのみしなかゆ,あさよひにして
#[左注](右五首資人<余>明軍不勝犬馬之慕心中感緒作歌)
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:余明軍,大伴旅人,奈良,地名,枕詞,動物,天平3年7月,年紀
#[訓異]
#[大意]あなたに恋い思ってどうしようもないので葦にいる鶴のように大声をあげてばかり泣くことである。朝夕にあって
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0457
#[題詞](天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首)
#[原文]遠長 将仕物常 念有之 君師不座者 心神毛奈思
#[訓読]遠長く仕へむものと思へりし君しまさねば心どもなし
#[仮名],とほながく,つかへむものと,おもへりし,きみしまさねば,こころどもなし
#[左注](右五首資人<余>明軍不勝犬馬之慕心中感緒作歌)
#[校異]君師 [類][古][紀] 君
#[鄣W],挽歌,作者:余明軍,大伴旅人,奈良,地名,天平3年7月,年紀
#[訓異]
#[大意]遠くいつまでも仕えようと思っていたあなたがいらっしゃらないので正気もないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0458
#[題詞](天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首)
#[原文]若子乃 匍匐多毛登保里 朝夕 哭耳曽吾泣 君無二四天
#[訓読]みどり子の匍ひたもとほり朝夕に哭のみぞ我が泣く君なしにして
#[仮名],みどりこの,はひたもとほり,あさよひに,ねのみぞわがなく,きみなしにして
#[左注]右五首資人<余>明軍不勝犬馬之慕心中感緒作歌
#[校異]金 -> 余 [古][紀] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:余明軍,大伴旅人,奈良,地名,天平3年7月,年紀
#[訓異]
#[大意]乳飲み子のように這い回って朝夕に声を上げて泣いてばかりいる。あなたがいなくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0459
#[題詞](天平三年辛未秋七月大納言大伴卿薨之時歌六首)
#[原文]見礼杼不飽 伊座之君我 黄葉乃 移伊去者 悲喪有香
#[訓読]見れど飽かずいましし君が黄葉のうつりい行けば悲しくもあるか
#[仮名],みれどあかず,いまししきみが,もみちばの,うつりいゆけば,かなしくもあるか
#[左注]右一首勅内礼正縣犬養宿祢人上使檢護卿病 而醫藥無驗逝水不留 因斯悲慟即作此歌
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:余明軍,大伴旅人,奈良,地名,天平3年7月,年紀
#[訓異]
#[大意]見ても見飽きることのないあなたが黄葉が散るように亡くなってしまったので悲しい気持ちでいることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0460
#[題詞]七年乙亥大伴坂上郎女悲嘆尼理願死去作歌一首[并短歌]
#[原文]栲角乃 新羅國従 人事乎 吉跡所聞而 問放流 親族兄弟 無國尓 渡来座而 大皇之 敷座國尓 内日指 京思美弥尓 里家者 左波尓雖在 何方尓 念鷄目鴨 都礼毛奈吉 佐保乃山邊<尓> 哭兒成 慕来座而 布細乃 宅乎毛造 荒玉乃 年緒長久 住乍 座之物乎 生者 死云事尓 不免 物尓之有者 憑有之 人乃盡 草<枕> 客有間尓 佐保河乎 朝河渡 春日野乎 背向尓見乍 足氷木乃 山邊乎指而 晩闇跡 隠益去礼 将言為便 将為須敝不知尓 徘徊 直獨而 白細之 衣袖不干 嘆乍 吾泣涙 有間山 雲居軽引 雨尓零寸八
#[訓読]栲づのの 新羅の国ゆ 人言を よしと聞かして 問ひ放くる 親族兄弟 なき国に 渡り来まして 大君の 敷きます国に うち日さす 都しみみに 里家は さはにあれども いかさまに 思ひけめかも つれもなき 佐保の山辺に 泣く子なす 慕ひ来まして 敷栲の 家をも作り あらたまの 年の緒長く 住まひつつ いまししものを 生ける者 死ぬといふことに 免れぬ ものにしあれば 頼めりし 人のことごと 草枕 旅なる間に 佐保川を 朝川渡り 春日野を そがひに見つつ あしひきの 山辺をさして 夕闇と 隠りましぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに たもとほり ただひとりして 白栲の 衣袖干さず 嘆きつつ 我が泣く涙 有間山 雲居たなびき 雨に降りきや
#[仮名],たくづのの,しらきのくにゆ,ひとごとを,よしときかして,とひさくる,うがらはらから,なきくにに,わたりきまして,おほきみの,しきますくにに,うちひさす,みやこしみみに,さといへは,さはにあれども,いかさまに,おもひけめかも,つれもなき,さほのやまへに,なくこなす,したひきまして,しきたへの,いへをもつくり,あらたまの,としのをながく,すまひつつ,いまししものを,いけるもの,しぬといふことに,まぬかれぬ,ものにしあれば,たのめりし,ひとのことごと,くさまくら,たびなるほとに,さほがはを,あさかはわたり,かすがのを,そがひにみつつ,あしひきの,やまへをさして,ゆふやみと,かくりましぬれ,いはむすべ,せむすべしらに,たもとほり,ただひとりして,しろたへの,ころもでほさず,なげきつつ,わがなくなみた,ありまやま,くもゐたなびき,あめにふりきや
#[左注](右新羅國尼名曰理願也 遠感王徳歸化聖朝 於時寄住大納言大将軍大伴卿家 既逕數紀焉 惟以天平七年乙亥忽沈運病既<趣>泉界 於是大家石川命婦 依餌藥事 徃有間温泉而不會此喪 但郎女獨留葬送屍柩既訖 仍作此歌贈入温泉)
#[校異]歌 [西] 謌 別筆 歌 / <> -> 尓 [西(右書)][類][紀] / <> -> 枕 [西(右書)][類][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:坂上郎女,理願,地名,奈良,枕詞,天平7年,年紀
#[訓異]
#[大意]
楮つのの新羅の国から人づてによいとお聞きになって、尋ね求める親族や縁者もいない国に渡って来られて、大君のお治めになる国に、うち日さす都にはいろいろと里や家は数多くあるのに、どのようにお思いになったのか、嚴もない佐保の山辺に泣く子のように慕って来られて、敷妙の家をも造って、あらたまの年月長く住み続けていらっしゃったものなのに、生きている者は死ぬということは免れないものであるので、頼みとした人がすべて草枕旅に出ている間に、佐保川を朝に川渡りをして、春日野を背後に見ながら、あしひきの山辺を指して、夕闇としてお隠れになったので、どう言ってよいか、どのようにしてよいかわからないで、うろうろとして、ただ一人で白妙の衣の袖を干さないで嘆き続けている自分が泣く涙は有馬山の雲とたなびいて、雨に降ったでしょうか。

#{語釈]
尼理願  伝未詳
栲づのの 新羅の枕詞。楮でつくった綱は白いので、シラにかかる。
ち日さす  日の指し照らす都の意味
都しみみに しみしみ いっぱいあること
敷妙の 枕や寝具にかかる枕詞であるが、寝心地のよい家という意味で家にかける枕詞となっている。

右は、新羅國の尼、名を理願と曰わふ。遠く王徳を感で、聖朝に歸化す。時に大納言大将軍大伴卿の家に寄せ住むみ、既に逕數紀を逕。惟天平七年乙亥を以て、忽ちに運病に沈み、既に泉界に趣く。是に大家石川命婦、餌藥の事に依りて、有間の温泉に往き、此の喪に會はず。但し郎女獨り留りて屍柩を葬送すること既に訖はりぬ。仍り此の歌を作り、温泉に贈り入る。

#[説明]
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#[番号]03/0461
#[題詞](七年乙亥大伴坂上郎女悲嘆尼理願死去作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]留不得 壽尓之在者 敷細乃 家従者出而 雲隠去寸
#[訓読]留めえぬ命にしあれば敷栲の家ゆは出でて雲隠りにき
#[仮名],とどめえぬ,いのちにしあれば,しきたへの,いへゆはいでて,くもがくりにき
#[左注]右新羅國尼名曰理願也 遠感王徳歸化聖 於時寄住大納言大将軍大伴卿家既 逕數紀焉 惟以天平七年乙亥忽沈運病既<趣>泉界 於是大家石川命婦 依餌藥事 徃有間温泉而不會此喪 但郎女獨留葬送屍柩既訖 仍作此歌贈入温泉
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 趣 [西(右書)][類][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:坂上郎女,理願,枕詞,天平7年,年紀
#[訓異]
#[大意]留めることの出来ない命であるので、敷妙の家から出て行って雲隠れになった
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0462
#[題詞]十一年己卯夏六月大伴宿祢家持悲傷亡妾作歌一首
#[原文]従今者 秋風寒 将吹焉 如何獨 長夜乎将宿
#[訓読]今よりは秋風寒く吹きなむをいかにかひとり長き夜を寝む
#[仮名],いま よりは,あきかぜさむく,ふきなむを,いかにかひとり,ながきよをねむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,妾,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]今からは秋風が寒く吹くであろうのにどのようにして独りで長い依るを寝ようか。
#{語釈]
天平11年 内舎人出仕前  16歳前後
妾  不明

#[説明]
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#[番号]03/0463
#[題詞](十一年己卯夏六月大伴宿祢家持悲傷亡妾作歌一首)弟大伴宿祢書持即和歌一首
#[原文]長夜乎 獨哉将宿跡 君之云者 過去人之 所念久尓
#[訓読]長き夜をひとりや寝むと君が言へば過ぎにし人の思ほゆらくに
#[仮名],ながきよを,ひとりやねむと,きみがいへば,すぎにしひとの,おもほゆらくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴書持,大伴家持,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]長い夜を独りで寝るのかとあなたは言うと、亡くなった人が思われてならないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0464
#[題詞]又家持見砌上瞿麦花作歌一首
#[原文]秋去者 見乍思跡 妹之殖之 屋前乃石竹 開家流香聞
#[訓読]秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも
#[仮名],あきさらば,みつつしのへと,いもがうゑし,やどのなでしこ,さきにけるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,植物,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]秋になったら見ては思いだしてくださいと妹が植えた家のナデシコが咲いたことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0465
#[題詞]移朔而後悲嘆秋風家持作歌一首
#[原文]虚蝉之 代者無常跡 知物乎 秋風寒 思努妣都流可聞
#[訓読]うつせみの世は常なしと知るものを秋風寒み偲ひつるかも
#[仮名],うつせみの,よはつねなしと,しるものを,あきかぜさむみ,しのひつるかも
#[左注]
#[校異]妣 [京] 比 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,枕詞,天平11年6月,年紀
#[訓異]現実の人の世の仲は無常であると知ってはいたが秋風が寒いので偲んだことである
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0466
#[題詞]又家持作歌一首[并短歌]
#[原文]吾屋前尓 花曽咲有 其乎見杼 情毛不行 愛八師 妹之有世婆 水鴨成 二人雙居 手折而毛 令見麻思物乎 打蝉乃 借有身在者 <露>霜乃 消去之如久 足日木乃 山道乎指而 入日成 隠去可婆 曽許念尓 胸己所痛 言毛不得 名付毛不知 跡無 世間尓有者 将為須辨毛奈思
#[訓読]我がやどに 花ぞ咲きたる そを見れど 心もゆかず はしきやし 妹がありせば 水鴨なす ふたり並び居 手折りても 見せましものを うつせみの 借れる身なれば 露霜の 消ぬるがごとく あしひきの 山道をさして 入日なす 隠りにしかば そこ思ふに 胸こそ痛き 言ひもえず 名づけも知らず 跡もなき 世間にあれば 為むすべもなし
#[仮名],わがやどに,はなぞさきたる,そをみれど,こころもゆかず,はしきやし,いもがありせば,みかもなす,ふたりならびゐ,たをりても,みせましものを,うつせみの,かれるみなれば,つゆしもの,けぬるがごとく,あしひきの,やまぢをさして,いりひなす,かくりにしかば,そこもふに,むねこそいたき,いひもえず,なづけもしらず,あともなき,よのなかにあれば,せむすべもなし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 / 霑 -> 露 [類]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,植物,枕詞,無常,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]我が家に花が咲いた。それを見ても心が安まらない。いとしい妹がいたならば池に浮かぶ鴨のように二人で並んでいて、手折っても見せたものなのに。人の世の仮の身であるので露霜が消えるようにあしひきの山道を指して、夕日のように隠れてしまったので、そのことを思うと胸が痛い。言うことも出来ず、名付けることもわからない跡もない世の中であるのでどうしようもない。

#{語釈]
#[説明]
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#[番号]03/0467
#[題詞](又家持作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]時者霜 何時毛将有乎 情哀 伊去吾妹可 <若>子乎置而
#[訓読]時はしもいつもあらむを心痛くい行く我妹かみどり子を置きて
#[仮名],ときはしも,いつもあらむを,こころいたく,いゆくわぎもか,みどりこをおきて
#[左注]
#[校異]君 -> 若 [類][古]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]亡くなる時はいつでもあったのに。心痛く亡くなってしまった我が妹子であることか。乳飲み子を後に置いて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0468
#[題詞]((又家持作歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]出行 道知末世波 豫 妹乎将留 塞毛置末思乎
#[訓読]出でて行く道知らませばあらかじめ妹を留めむ関も置かましを
#[仮名],いでてゆく,みちしらませば,あらかじめ,いもをとどめむ,せきもおかましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]出て行くを道を知っていたならば、予め妹を引き留める関を置いたのに
#{語釈]
#[説明]
02/0151H01かからむとかねて知りせば大御船泊てし泊りに標結はましを

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#[番号]03/0469
#[題詞]((又家持作歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]妹之見師 屋前尓花咲 時者經去 吾泣涙 未干尓
#[訓読]妹が見しやどに花咲き時は経ぬ我が泣く涙いまだ干なくに
#[仮名],いもがみし,やどにはなさき,ときはへぬ,わがなくなみた,いまだひなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]妹が見た家に花が咲いて時間が経った。我が泣く涙はまだ乾いてはいないのに
#{語釈]
#[説明]
05/0798H01妹が見し楝の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干なくに

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#[番号]03/0470
#[題詞]悲緒未息更作歌五首
#[原文]如是耳 有家留物乎 妹毛吾毛 如千歳 憑有来
#[訓読]かくのみにありけるものを妹も我れも千年のごとく頼みたりけり
#[仮名],かくのみに,ありけるものを,いももあれも,ちとせのごとく,たのみたりけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]このようなものであったものなのに。妹も自分も千年までいるかのように頼みとしていたことだ
#{語釈]
#[説明]
03/0455H01かくのみにありけるものを萩の花咲きてありやと問ひし君はも
16/3804H01かくのみにありけるものを猪名川の沖を深めて我が思へりける

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#[番号]03/0471
#[題詞](悲緒未息更作歌五首)
#[原文]離家 伊麻須吾妹乎 停不得 山隠都礼 情神毛奈思
#[訓読]家離りいます我妹を留めかね山隠しつれ心どもなし
#[仮名],いへざかり,いますわぎもを,とどめかね,やまかくしつれ,こころどもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀,悲嘆
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0472
#[題詞](悲緒未息更作歌五首)
#[原文]世間之 常如此耳跡 可都<知跡> 痛情者 不忍都毛
#[訓読]世間し常かくのみとかつ知れど痛き心は忍びかねつも
#[仮名],よのなかし,つねかくのみと,かつしれど,いたきこころは,しのびかねつも
#[左注]
#[校異]<> -> 知跡 [西(右書)][類][古][紀]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]世の中はいつもこのようなことばかりだと一方では知ってはいるが、つらい気持ちはこらえることが出来ないでいる。
#{語釈]
#[説明]
19/4216H01世間の常なきことは知るらむを心尽くすな大夫にして

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#[番号]03/0473
#[題詞](悲緒未息更作歌五首)
#[原文]佐保山尓 多奈引霞 毎見 妹乎思出 不泣日者無
#[訓読]佐保山にたなびく霞見るごとに妹を思ひ出泣かぬ日はなし
#[仮名],さほやまに,たなびくかすみ,みるごとに,いもをおもひで,なかぬひはなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,奈良,地名,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]佐保山にたなびく霞を見るごとに妹を思い出して泣かない日はないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0474
#[題詞](悲緒未息更作歌五首)
#[原文]昔許曽 外尓毛見之加 吾妹子之 奥槨常念者 波之吉佐寳山
#[訓読]昔こそ外にも見しか我妹子が奥つ城と思へばはしき佐保山
#[仮名],むかしこそ,よそにもみしか,わぎもこが,おくつきとおもへば,はしきさほやま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,亡妻挽歌,奈良,地名,天平11年6月,年紀
#[訓異]
#[大意]以前は関係ないものと思って見ていたが、我妹子の墓だと思うと愛しい佐保山であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0475
#[題詞]十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首
#[原文]<挂>巻母 綾尓恐之 言巻毛 齊忌志伎可物 吾王 御子乃命 萬代尓 食賜麻思 大日本 久邇乃京者 打靡 春去奴礼婆 山邊尓波 花咲乎為里 河湍尓波 年魚小狭走 弥日異 榮時尓 逆言之 狂言登加聞 白細尓 舎人装束而 和豆香山 御輿立之而 久堅乃 天所知奴礼 展轉 埿打雖泣 将為須便毛奈思
#[訓読]かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしきかも 我が大君 皇子の命 万代に 見したまはまし 大日本 久迩の都は うち靡く 春さりぬれば 山辺には 花咲きををり 川瀬には 鮎子さ走り いや日異に 栄ゆる時に およづれの たはこととかも 白栲に 舎人よそひて 和束山 御輿立たして ひさかたの 天知らしぬれ 臥いまろび ひづち泣けども 為むすべもなし
#[仮名],かけまくも,あやにかしこし,いはまくも,ゆゆしきかも,わがおほきみ,みこのみこと,よろづよに,めしたまはまし,おほやまと,くにのみやこは,うちなびく,はるさりぬれば,やまへには,はなさきををり,かはせには,あゆこさばしり,いやひけに,さかゆるときに,およづれの,たはこととかも,しろたへに,とねりよそひて,わづかやま,みこしたたして,ひさかたの,あめしらしぬれ,こいまろび,ひづちなけども,せむすべもなし
#[左注](右三首二月三日作歌)
#[校異]歌 [西] 謌 / 桂 -> 挂 [矢(訂正消去)]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,内舎人,安積皇子,京都,地名,枕詞,天平16年2月3日,年紀
#[訓異]
内舎人   家持は15歳前後で自身出身している
安積皇子  薨去時の様子  天平16年閏正月16日恭仁京で薨去。難波遷都時
久迩京
和束山   現在安積皇子和束陵がある。

#[大意]
心に懸けるのみまことに恐れ多い、言葉に出すのも慎まれる我が大君、皇子の命は、永遠にご覧になっていた大大和の久迩の都は、植物が靡き生える春がやってくると山のあたりは花が咲いていっぱいになり、川の早瀬には鮎が走りまわり、そのように日を折って盛んになる時に、人を惑わすそら言なのだろうか。白妙の喪服に舎人は身をまとって和束山に御輿がお立ちになって、皇子は久方の天をお治めになてしまうので、ころがって涙を流して泣くがどうしようもないことだ。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0476
#[題詞](十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首)反歌
#[原文]吾王 天所知牟登 不思者 於保尓曽見谿流 和豆香蘇麻山
#[訓読]我が大君天知らさむと思はねばおほにぞ見ける和束杣山
#[仮名],わがおほきみ,あめしらさむと,おもはねば,おほにぞみける,わづかそまやま
#[左注](右三首二月三日作歌)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,内舎人,安積皇子,京都,地名,天平16年2月3日,年紀
#[訓異]
和束杣山

#[大意]我が大君は天をお治めになるとは思っても見ないのでいいかげんに見ていた和束杣山であることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0477
#[題詞]((十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首)反歌)
#[原文]足桧木乃 山左倍光 咲花乃 散去如寸 吾王香聞
#[訓読]あしひきの山さへ光り咲く花の散りぬるごとき我が大君かも
#[仮名],あしひきの,やまさへひかり,さくはなの,ちりぬるごとき,わがおほきみかも
#[左注]右三首二月三日作歌
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,内舎人,安積皇子,天平16年2月3日,年紀
#[訓異]
#[大意]あしひきの山までも光って咲く花が散ってしまうような我が大君であるよ
#{語釈]
#[説明]
満開の花が突然散ってしまうように、元気で栄えていた皇子がいきなり亡くなってしまう様子

#[関連論文]



#[番号]03/0478
#[題詞](十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首)
#[原文]<挂>巻毛 文尓恐之 吾王 皇子之命 物乃負能 八十伴男乎 召集聚 率比賜比 朝猟尓 鹿猪踐<起> 暮猟尓 鶉雉履立 大御馬之 口抑駐 御心乎 見為明米之 活道山 木立之繁尓 咲花毛 移尓家里 世間者 如此耳奈良之 大夫之 心振起 劔刀 腰尓取佩 梓弓 靭取負而 天地与 弥遠長尓 万代尓 如此毛欲得跡 憑有之 皇子乃御門乃 五月蝿成 驟驂舎人者 白栲尓 <服>取著而 常有之 咲比振麻比 弥日異 更經<見>者 悲<呂>可聞
#[訓読]かけまくも あやに畏し 我が大君 皇子の命の もののふの 八十伴の男を 召し集へ 率ひたまひ 朝狩に 鹿猪踏み起し 夕狩に 鶉雉踏み立て 大御馬の 口抑へとめ 御心を 見し明らめし 活道山 木立の茂に 咲く花も うつろひにけり 世間は かくのみならし ますらをの 心振り起し 剣太刀 腰に取り佩き 梓弓 靫取り負ひて 天地と いや遠長に 万代に かくしもがもと 頼めりし 皇子の御門の 五月蝿なす 騒く舎人は 白栲に 衣取り着て 常なりし 笑ひ振舞ひ いや日異に 変らふ見れば 悲しきろかも
#[仮名],かけまくも,あやにかしこし,わがおほきみ,みこのみことの,もののふの,やそとものをを,めしつどへ,あどもひたまひ,あさがりに,ししふみおこし,ゆふがりに,とりふみたて,おほみまの,くちおさへとめ,みこころを,めしあきらめし,いくぢやま,こだちのしげに,さくはなも,うつろひにけり,よのなかは,かくのみならし,ますらをの,こころふりおこし,つるぎたち,こしにとりはき,あづさゆみ,ゆきとりおひて,あめつちと,いやとほながに,よろづよに,かくしもがもと,たのめりし,みこのみかどの,さばへなす,さわくとねりは,しろたへに,ころもとりきて,つねなりし,ゑまひふるまひ,いやひけに,かはらふみれば,かなしきろかも
#[左注](右三首三月廿四日作歌)
#[校異]桂 -> 挂 [矢] / 越 -> 起 [類][紀][温] / 靭 [細](塙) 靫 / <> -> 服 [西(右書)][類][紀][温] / <> -> 者 [西(右書)][類][紀][温] / 召 -> 呂 [類]
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,内舎人,安積皇子,枕詞,天平16年3月24日,年紀
#[訓異]
#[大意]
心にかけるのもまことに恐れ多い我が大君、皇子の命が大勢の朝廷の人たちをお召しになり、引率して朝の猟に鹿や猪を踏み起、夕方の猟に鳥を踏み立てて、お乗りの馬の口を押さえて留め御心を見て晴らされた活道の山の木立が鬱蒼と茂っている中で咲く花も散ってしまった。世の中はこのようなものであるらしい。ますらをの心を振り起こして剣太刀を腰に取り佩いて梓弓や靫を取り背負って、天地とともにますます遠く長く万世の後までもこのようにあればと頼んでいた皇子の御門の五月の蝿のように騒いでいた舎人は白妙の喪服の衣を着て、いつもの笑いや身振りが日を追うごとに変わって行くのをみると悲しいことである。

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0479
#[題詞](十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首)反歌
#[原文]波之吉可聞 皇子之命乃 安里我欲比 見之活道乃 路波荒尓鷄里
#[訓読]はしきかも皇子の命のあり通ひ見しし活道の道は荒れにけり
#[仮名],はしきかも,みこのみことの,ありがよひ,めししいくぢの,みちはあれにけり
#[左注](右三首三月廿四日作歌)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,内舎人,安積皇子,天平16年3月24日,年紀
#[訓異]
#[大意]いとしいことだ。皇子の命がいつも通っておられた活道の道は荒れたことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0480
#[題詞]((十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首)反歌)
#[原文]大伴之 名負靭帶而 萬代尓 憑之心 何所可将寄
#[訓読]大伴の名に負ふ靫帯びて万代に頼みし心いづくか寄せむ
#[仮名],おほともの,なにおふゆきおびて,よろづよに,たのみしこころ,いづくかよせむ
#[左注]右三首三月廿四日作歌
#[校異]靭 [類](塙) 靫 / 歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:大伴家持,内舎人,安積皇子,天平16年3月24日,年紀
#[訓異]
#[大意]大伴の名前にふさわしい靫を背負っていつまでもと頼んでいた気持ちはどこに寄せたらいいのだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0481
#[題詞]悲傷死妻高橋朝臣作歌一首[并短歌]
#[原文]白細之 袖指可倍弖 靡寐 吾黒髪乃 真白髪尓 成極 新世尓 共将有跡 玉緒乃 不絶射妹跡 結而石 事者不果 思有之 心者不遂 白妙之 手本矣別 丹杵火尓之 家従裳出而 緑兒乃 哭乎毛置而 朝霧 髣髴為乍 山代乃 相樂山乃 山際 徃過奴礼婆 将云為便 将為便不知 吾妹子跡 左宿之妻屋尓 朝庭 出立偲 夕尓波 入居嘆<會> 腋<挾> 兒乃泣<毎> 雄自毛能 負見抱見 朝鳥之 啼耳哭管 雖戀 効矣無跡 辞不問 物尓波在跡 吾妹子之 入尓之山乎 因鹿跡叙念
#[訓読]白栲の 袖さし交へて 靡き寝し 我が黒髪の ま白髪に なりなむ極み 新世に ともにあらむと 玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし ことは果たさず 思へりし 心は遂げず 白栲の 手本を別れ にきびにし 家ゆも出でて みどり子の 泣くをも置きて 朝霧の おほになりつつ 山背の 相楽山の 山の際に 行き過ぎぬれば 言はむすべ 為むすべ知らに 我妹子と さ寝し妻屋に 朝には 出で立ち偲ひ 夕には 入り居嘆かひ 脇ばさむ 子の泣くごとに 男じもの 負ひみ抱きみ 朝鳥の 哭のみ泣きつつ 恋ふれども 験をなみと 言とはぬ ものにはあれど 我妹子が 入りにし山を よすかとぞ思ふ
#[仮名],しろたへの,そでさしかへて,なびきねし,わがくろかみの,ましらかに,なりなむきはみ,あらたよに,ともにあらむと,たまのをの,たえじいいもと,むすびてし,ことははたさず,おもへりし,こころはとげず,しろたへの,たもとをわかれ,にきびにし,いへゆもいでて,みどりこの,なくをもおきて,あさぎりの,おほになりつつ,やましろの,さがらかやまの,やまのまに,ゆきすぎぬれば,いはむすべ,せむすべしらに,わぎもこと,さねしつまやに,あしたには,いでたちしのひ,ゆふへには,いりゐなげかひ,わきばさむ,このなくごとに,をとこじもの,おひみむだきみ,あさとりの,ねのみなきつつ,こふれども,しるしをなみと,こととはぬ,ものにはあれど,わぎもこが,いりにしやまを,よすかとぞおもふ
#[左注](右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉)
#[校異]舎 -> 會 [紀] / 狭 -> 挾 [紀][京] / 母 -> 毎 [万葉考]
#[鄣W],挽歌,作者:高橋,古老,老麻呂,亡妻挽歌,京都,枕詞,地名,天平16年7月20日,年紀
#[訓異]
#[大意]
白妙の袖を差し交わして靡き寝た我が黒髪が白髪になる果てまで未来ずっと一緒にいようと、玉の緒ではないが切れるまいよ妹よと約束したことは果たさず、思っていた心は遂げることなく、白妙の袂を離れて、住み慣れた家を出て、乳飲み子が泣いているのも後に置いて、朝霧のようにほのかになりながら、山城の相楽山の山の間際に行ってしまったので、どのように言ってよいか、どのようにしてよいかわからず、我妻と寝た寝床に朝には出て立って思い出し、夕方には入っていて嘆き続け、脇に抱きかかえる子どもが泣くごとに男ではあるが背負ったり抱いたりして、朝鳥のように声を上げたりして泣き続けて、恋い思うが、何の甲斐もないのでと、言葉を言わないものではあるが、我妻がお入りになった山をよすがとして思っていることだ

#{語釈]
高橋朝臣 名前未詳

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]03/0482
#[題詞](悲傷死妻高橋朝臣作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]打背見乃 世之事尓在者 外尓見之 山矣耶今者 因香跡思波牟
#[訓読]うつせみの世のことにあれば外に見し山をや今はよすかと思はむ
#[仮名],うつせみの,よのことにあれば,よそにみし,やまをやいまは,よすかとおもはむ
#[左注](右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉)
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],挽歌,作者:高橋,古老,老麻呂,亡妻挽歌,天平16年7月20日,年紀
#[訓異]
#[大意]現実のこの世の中のことであるので、無関係に見ていた山を今は手だてとして思おう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]