国連人権理事会における普遍的定期審査(UPR)第28会期に向けた
全国被爆二世団体連絡協議会ならびに
広島県被爆二世団体連絡協議会と長崎県被爆二世の会の署名による
日本に関する情報提供


2017年3月30日










全国被爆二世団体連絡協議会(全国被爆二世協)

全国被爆二世団体連絡協議会は、日本国内における原爆被爆二世(以下「被爆二世」という)で構成する団体が加盟する会である。当会は、被爆二世の声を結集し、被爆二世に対する日本政府の援護対策を人権のひとつとして求めること、核のない世界を実現し再び核被害者をつくらないことを目的に1988年1221日に結成された。現在、日本国内の被爆二世団体、19団体が加盟している。

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全国被爆二世団体連絡協議会
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原水爆禁止日本国民会議 気付
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日本における原爆被爆二世の人権、及び日本政府の取り組みに関する報告書

1 全国被爆二世団体連絡協議会は、国連人権理事会における普遍的定期審査(UPR)第28会期に向けて報告書を提出し、日本における原爆被爆二世の人権に関する情報提供を行う。国連人権理事会が日本政府に被爆二世の人権を保障する施策を行うよう勧告されることを期待する。


T はじめに

2 1945年8月6日午前8時15分広島に、同年8月9日午前11時2分長崎に、アメリカ軍が投下した原子爆弾(以下「原爆」という)によって、原爆被爆者(以下「被爆者」という)が生み出された。原爆投下によって20万人以上の人々が傷つき、殺された。生き残った被爆者も原爆放射線による急性障害と後障害(晩発性障害)に苦しんできた。そして健康障害に伴う生活困難に苦しみながら、社会的偏見や差別と闘わなければならなかった。

3 アメリカ軍が原爆を投下したが、日本政府はアメリカに対する損害賠償請求権を放棄したため被爆者に対する援護対策を講じる責任は日本政府にある。被爆者の長年にわたる運動の結果、日本政府は、被爆者に対しては、被爆50周年にあたる1995年7月から施行された「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という)」によって、無料の被爆者健康診断、医療の給付、手当等の支給などの援護対策を行っている。

4 被爆二世とは被爆者の子どもたちである。「被爆者援護法」では、被爆者を以下のように定義している。原爆に直接に曝された人々を「直接被爆者(1号被爆者)」、原爆投下後2週間以内に爆心地からおよそ2km以内に入った人々を「入市被爆者(2号被爆者)」、「死体の処理及び救護にあたった者等、身体に原爆放射能の影響を受けるような事情の下にあった者(3号被爆者)」、1、2、3号被爆者である母親の胎内で被爆した人々を「胎内被爆者(4号被爆者)」と定義している。被爆二世は、「胎内被爆者(4号被爆者)」より後に生を授かった者である。しかし、被爆二世は「被爆者援護法」の対象になっていない。

5 日本政府は、単年度の施策として行う「原爆被爆二世健康診断実施要領」において、@両親またはそのどちらかが被爆者であること、A@の被爆者が長崎被爆の場合、1946年6月4日以降出生した者、広島被爆の場合、1946年6月1日以降出生した者を「被爆二世健診」の対象者と記載している。これは、法律に明記された被爆二世の定義ではなく、単年度の施策を行うための定義である。

6 被爆70年以上を経た今日に至っても、日本政府による被爆者に対する援護対策は不十分である。遠距離被爆者や残留放射能による被爆者は、多くの被爆者がガンなどの病気にかかっていながら「原爆症」(原爆放射線が原因になって起こった病気やけが、治癒能力の低下など)として認定されていない。低線量被曝や残留放射能の人体への影響が過小に評価されている。日本政府によって被爆者の健康権という基本的人権さえ十分に保障されていない。

7 原爆放射線のヒトへの遺伝的影響は、1948年以降、原爆傷害調査委員会(ABCC)及び、その研究を引き継いだ放射線影響研究所(以下「放影研」という)を中心に調査研究が行われてきた。その結果、放影研は「現時点では遺伝的影響があるという証拠は認められていない」と報告している。しかし、「遺伝的影響はない」ということを示す科学的証拠もない。

8 ヒト以外の動植物の実験では放射線の次世代への影響がすでに証明されている。例えばマウスによる実験では、放射線被曝した親マウス(雄)の子どもの世代に、ガンを含む様々な「病気になり易い体質」を持つマウスが出現し、その体質は次の世代以降にも伝わっていくことが証明されている。そのような健康リスクを持つ子どもマウスの出現頻度は、親の被曝量に比例していることから、放射線被曝との因果関係があると科学的に認められている。ヒトもマウスと同じ哺乳動物であるから、このようなマウスの実験結果は、原爆による放射線被曝によって、ヒトでも遺伝的影響による健康リスクの増大がもたらされることを示唆している。
 
9 しかし日本政府は、ヒトへの「遺伝的影響がある」ことが科学的に証明されない限りは、被爆二世に原爆放射線による遺伝的影響があるとは断じて認めようとしていない。そして、被爆二世への援護対策を講じていない。

10 「国連環境開発会議」(地球サミット)の「環境と開発に関するリオ宣言」(1992年)では「重大あるいは取り返しのつかない損害のおそれがあるところでは、十分な科学的確実性がない」場合でも対策を遅らせてはならないと「予防原則」が国際的に確認された。日本政府は被爆二世が置かれている状況を十分に理解し、「予防原則」の立場に立って、被爆二世に対する援護対策を行い、健康権をはじめ、基本的人権を保障するべきである。


U 被爆二世はどのような人権侵害を受けてきたか

11 過去数年間に世界で核兵器の非人道性に関する会議が開催され、核兵器の非人道性が世界の共通認識となり、昨年(2016年)、国連では核兵器禁止条約についての交渉を始めることが決議された。放射線による健康リスクの将来世代への影響こそが核兵器の非人道性の最たるものの一つである。

12 戦争中に原爆が投下された当時、生を授かっていなかった被爆二世が、原爆放射線の遺伝的影響によって、現在あるいは将来にわたって健康リスクを負うことは不当なことである。被爆二世は次のような問題を抱え、人権を侵害されてきた。

13 第1の問題は、原爆放射線の次世代への遺伝的影響による健康リスクを負っている問題である。これまでに多くの被爆二世が、被爆者である親と同じようにガンや白血病などで亡くなってきた。そして現在、ガンや白血病などの病気に罹って苦しんでいる被爆二世がいる。被爆二世であるきょうだいたちをガンや白血病で亡くした被爆二世がいる。非ガン疾患など様々な健康障害を抱えている被爆二世がいる。

14 また、親が被爆したために、自分も親と同じような病気に罹ったのではないだろうかと考え、現在患っている病気に対し、また将来罹るかもしれない病気に対する精神的な不安と苦悩を日々抱えながら生活をしている被爆二世もいる。一方、子どもが罹った病気や身体障害の原因が、自分が被爆したためではないかと自らを責めている親の被爆者がいる。このように過去と現在の健康障害、そして将来の健康障害に対する不安に苦しんでいるのである。

15 第2の問題は、被爆者の子どもであるために社会生活上の困難を強いられてきたという問題である。原爆による病気や障害に苦しみ、その結果、定職にも就けなかった被爆者、あるいは低賃金にあえいだ被爆者は少なくない。貧困故に十分な教育を受けられなかった被爆二世がいる。成人後も被爆者である親や祖父母の看病に追われて経済的に困難な生活を強いられてきた被爆二世もいる。また、親である被爆者と同様に、病気故に収入が減り、病気の治療も十分にできないという「病気と貧困の悪循環」の中で生きてきた、そして今も生きている被爆二世がいる。収入が少なく生活するのがやっとなのに、健康被害を抱え高額の医療費により、一層苦しい生活を強いられている被爆二世もいる。

16 第3の問題は、被爆二世が深刻な社会的偏見や差別を受けているという問題である。日本政府は、被爆二世が健康障害や生活困難に陥っても援護対策を講じてこなかった。この状況のために、被爆二世に不利益がもたらされ、社会的偏見や差別を強いられている。この意味において、何よりも日本政府が非難されるべきである。このように公的支援のない下で、「被爆二世は皆、親の原爆が原因で健康障害になる」「被爆二世と結婚すれば先天障害を持つ子が生まれる」といった偏見を人々が持ち、それが差別につながっている。

17 被爆二世であることがわかったために、相手の親から反対され結婚ができなくなった被爆二世がいる。また、被爆二世であることを理由に離婚され自殺を図った被爆二世もいる。そして、就職しても被爆二世であることがわかったために仕事を続けることができず会社を辞めさせられた被爆二世もいる。

18 すべての被爆二世が健康障害になるわけではないにもかかわらず、「被爆二世にはすべて健康障害がある」という社会的偏見が存在する。このように被爆二世は社会的差別と向き合いながら日々の生活を送っている。


V 被爆二世の人権を保障する責任は日本政府にある

19 アメリカによる原爆製造と広島・長崎への投下は、日本政府の植民地支配と侵略戦争という当時の国策の帰結である。この二つの爆弾によって原爆被爆者と彼らの苦しみが生じたのである。だから、原爆投下の責任は、戦争を起こした日本政府及び原爆を投下したアメリカ政府の両者にある。日本政府は、サンフランシスコ講和条約の締結により、アメリカに対する損害賠償請求権を放棄している。したがって、現在は、被爆者や被爆二世に対して援護対策を講じる、人権を保障する責任は日本政府のみにある。また、被爆二世に原爆放射線の遺伝的影響があるのか、ないのか、立証する責任は日本政府にある。日本政府が「遺伝的影響はない」ことを立証できない以上、やはり日本政府が被爆二世の人権を保障する責任を負うべきである。すなわち、日本政府の責任において、国家補償に基づき、被爆二世の人権保障を行うべきである。

20 しかし、日本政府は、前述のように人権侵害を受け、苦しんでいる被爆二世に対して、何ら大した援護対策は行ってこなかった。被爆二世に対する唯一の施策として、日本政府が行っているのは、1979年から始まった、被爆二世の健康障害に対する不安を解消することを目的とした、単年度の予算措置で実施している「被爆二世健康診断」だけである。しかし、この健診は、ごく簡単な一般的健康検査項目だけの不十分なもので、被爆二世の健康不安に応えるものにはなっていない。被爆二世が最も心配しているガンを早期に発見するための検診は含まれていない。(2016年4月以降、「被爆二世健康診断」に多発性骨髄腫の検査が追加されたにとどまっている。)被爆二世が健康障害になった場合の医療の給付や生活を保障するための手当の支給もない。

21 日本政府は、1980年12月の原爆被爆者基本問題懇談会答申に基づき、戦争による犠牲は、すべての国民が等しく受忍すべきとの立場(戦争被害受忍論)に立っている。その一方で、被爆者の受けた放射線による健康障害は「特別の犠牲」であるので、広い意味での国家補償的見地に立って、適切妥当な措置を講じるとしている。

22 しかし日本政府は、「放射線による健康障害」に遺伝的影響は含まれていないとする見解を崩そうとせず、被爆二世の健康リスクの増大が、親の被爆者が受けた放射線によって引き起こされていることが科学的に証明されなければ、被爆二世への援護対策を講じないとの姿勢を固持している。


W 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という)及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という)並びに日本国憲法に基づき、被爆二世の人権保障のための対策を求める

23 日本政府は、社会権規約及び自由権規約を批准している。社会権規約は、この規約に規定する権利が、いかなる差別もなしに行使されることを保障し(第2条)、労働の権利(第6条)、到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利(第12条)、教育の権利(第13条)を認めている。また、自由権規約では、いかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保するとし(第2条)、婚姻の権利を認め(第23条)、法のもとの平等とあらゆる差別を禁止している(第26条)。

24 そして、日本国憲法では、前文において「平和的生存権」を掲げるとともに、「基本的人権」として「生存権」(25条)、「教育権」(26条)、「生命、自由、幸福追求権」(13条)を掲げ、それら「基本的人権」を保障する(11条)としている。

25 被爆二世は自分たちが生まれる前に起きた戦争において原爆が投下されたことによって、過去、現在、そして未来の「健康権」「生存権」などの「基本的人権」が脅かされ、「平和的生存権」が侵害されている状況にある。また、既述のように、被爆二世は、教育権、婚姻の権利、労働権が侵害されている。しかし日本政府は、社会権規約や自由権規約、日本国憲法に基づいて当然おこなうべき、被爆二世の人権保障のための援護対策を行っていない。この意味において、日本政府は、社会権規約や自由権規約、日本国憲法に違反している。

26 被爆者は国家補償に基づく被爆者援護法を求め続けている。被爆者はなぜ国家補償に基づく被爆者援護法を求めたのか。被爆者は、@原爆症の根治療法を確立すること、A国の責任で医療と生活の保障をすること、B原爆で親や兄弟姉妹や子どもを亡くした人に原爆の被害者として国が補償すること、C国があの戦争を反省し、国の努力で原水爆のない世界を保証するよう努力すること、この4つの要求を国家補償に基づく被爆者援護法によって実現しようと決意した。被爆二世も全く同じ要求を掲げている。

27 被爆者では原爆放射線の影響で、被爆後5年頃から白血病が増加し、その後、数十年を経るうちに、様々な種類のガンや非ガン疾患が増加した。多くの被爆者がこのような病気で苦しみながら命を落としていった。しかし、これらの疾患が原爆放射線被曝によって発症していることが疫学的に証明されるまでには数十年がかかり、その間に多くの被爆者が被爆による健康被害を認められず、援護を受けられないまま無念の死を遂げた。被爆二世の場合には、同じ過ちを繰り返してはならない。ABCC・放影研が原爆被爆者のガンなどの有意な増加を認めた時期は、白血病:5年後、甲状腺ガン:10年後、乳ガン・肺ガン20年後、胃ガン・結腸ガン・骨髄腫:30年後、皮膚ガン・子宮ガン:40年後など、非ガン疾患:1991年以降であった。

28 これまで当会では、30年近くにわたって、日本政府に対して、被爆二世に対する援護対策を求めてきた。私たちは、被爆二世を「第五の被爆者(5号被爆者)」として位置づけ、「被爆者援護法」を適用することを求め、さらに、「被爆者援護法」に国家補償を明記することを求めてきた。

29 また私たちは、一世被爆者と同様に、「被爆二世はどこにいても被爆二世である」と主張し、日本に居住する被爆二世だけではなく、世界の全ての国に居住する被爆二世の人権が平等に保障されるよう日本政府が責任を持って措置を講じるよう求めてきた。

30 当会では、2016年12月5日にも、上記の内容を含む要請書を日本の厚生労働大臣宛に提出した。しかし、日本政府は適切な施策を実現しようとしていない。被爆二世は既に高齢化し、ガン年齢に達し、健康に対する不安が高まっている。これらの援護策は被爆二世の人権保障のための緊急課題である。

31 日本政府は、被爆二世に対する援護対策を早急に講じるべきである。被爆二世にも「被爆者援護法」を早急に適用すべきである。そして、将来的には国家補償に向かうべきである。


X おわりに

32 日本政府は、「社会権規約」や「自由権規約」など、日本が批准している「健康に対する権利」を保障する数々の国際人権諸条約や、基本的人権の保障を掲げる日本国憲法を遵守していない。このような態度は、「社会権規約」や「自由権規約」の加盟国であり、国連人権理事会の理事国である日本として、国際的にも許されないことである。当会は、日本政府に対して、被爆二世の人権を保障するための対策を早急に講じることを要請する。当会は、日本政府に対して、被爆二世の人権を保障する責任を果たすべく、人権理事会が被爆二世の人権状況について調査を行い、勧告されるよう期待するものである。

33 被爆二世も核被害者である。被爆者の次の世代である被爆二世に対して、日本政府がどのような援護対策を講じるか、人権を保障する措置を講じるかは、日本の被爆二世の問題にとどまらず、世界の被爆二世に係わる問題でもある。また、世界の核被害者の次世代の人権保障につながる極めて重要な国際人権問題である。

34 核被害による人権侵害の最たるものの一つが放射線の将来世代への影響である。この核の非人道性が世界の共通認識となれば、そのことが再び核被害者をつくらないこと、核のない世界の実現につながっていくと確信している。そして、原爆や他の核被害による甚大な人権侵害としての放射線の将来世代への影響の問題を国際社会に訴えていくことが日本の被爆二世の使命であり、責務であると考えている。


「日本における原爆被爆二世の人権、及び日本政府の取り組みに関する報告書(資料1)」  英文(表紙)   英文(本文) 
「日本に関する利害関係者の報告のまとめ」(NGOの情報要約)(資料2)
日本政府が報告書を提出:資料3
厚生労働省交渉で勧告の受け入れを要請(資料4)
長崎市・長崎県へ勧告を受け入れるように日本政府へ強く働きかけるよう要請(資料5
新聞記事

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