国連人権理事会に対する取り組みと被爆二世集団訴訟

                                               2018年3月15日 

 私たち全国被爆二世団体連絡協議会(全国被爆二世協)は、1988年結成以来、被爆二世・三世に対する国による援護対策を国(厚生労働省)や国会に対して求めてまいりました。しかし、被爆70年を過ぎた今日に至っても実現していません。
 全国に30万人とも50万人ともいわれる被爆二世が存在しています。私たち被爆二世は、親が受けた原爆放射線の遺伝的影響を否定できない状況におかれた核の被害者です。これまで多くの被爆二世が親である被爆者と同じようにガンや白血病などの病気で亡くなってきました。そして今、そのような病気に苦しみながら闘病生活を続けている被爆二世がいます。被爆二世は健康に対する不安だけでなく、健康被害にも苦しんでいるのです。このように苦しんでいる被爆二世を国も国会も何の援護対策も行わず放置してきました。
 そのような中、被爆70年を過ぎた2016年2月13日、被爆地広島で開催した総会で、国家補償と被爆二世・三世への適用を銘記した被爆者援護法の改正をめざすための、被爆70年以降の活動として2つの方針を決定しました。第1に、被爆二世問題を国際社会(国連人権理事会)で人権侵害として訴え、日本政府に被爆二世の人権保障を求める取り組みを進めること、第2に、裁判を通して、被爆二世に対する援護対策の実現をめざすことです。

 第1の方針については、2015年6月29日から7月5日にかけて全国被爆二世協では、ジュネーブの国連欧州本部へ国連人権理事会訪問団を派遣し、国連人権理事会に対する理解を深めるために国連人権理事会を傍聴し、サイドイベントに参加するとともに、国連人権理事会で活動するNGOと交流・意見交換を行い、被爆二世問題が国連人権理事会で取り上げるべき課題であることが確認できました。そして、2017年11月6日から17日にかけて行われた国連人権理事会における普遍的定期審査(UPR)第28会期の作業部会において日本政府の人権状況の審査が行われましたが、その中で各国政府から日本政府に対して被爆二世の人権保障を求める勧告を行ってもらう取り組みを行ってきました。まず、昨年3月30日に全国被爆二世協ならびに広島県被爆二世団体連絡協議会と長崎県被爆二世の会で、国連人権理事会が日本政府に被爆二世の人権を保障する施策を行うよう勧告することを期待して、日本における被爆二世の人権状況に関する情報提供を行いました(資料1)。続いて、10月4日から5日にかけて各国政府の在日本大使館を訪問し、全国被爆二世協の考えに理解を深めてもらい10月に予定していたジュネーブでの活動への協力や作業部会での日本政府への勧告をお願いする活動を行いました。また、10月11日に国連人権高等弁務官事務所が作成した「日本に関する利害関係者の報告のまとめ」が公表されましたが、全国被爆二世協が提出した報告書の要約も盛り込まれました。それを踏まえ、10月16日から18日にかけて現地ジュネーブで各国政府代表部へのロビー活動を行い作業部会で各国政府代表から日本政府へ被爆二世の人権保障を勧告してもらう取り組みを行いました。併せて国連で活動しているNGOと意見交換を行い、今後の活動へのアドバイスを得るとともに、国連人権高等弁務官事務所を訪問し、国連における活動について理解を深める取り組みなどを行いました。11月14日の作業部会における日本政府の審査のときにコスタリカとメキシコが日本政府に対する勧告の一つとして被爆二世の問題について言及し、11月16日に採択された日本審査の報告書に盛り込まれました。
 それを受けて、12月27日の厚生労働省交渉で勧告の受け入れを要請しました。日本政府は、今年3月に開催される国連人権理事会に勧告を受け入れるかどうか報告をしなければならないことになっています。引き続き、日本政府に勧告の受け入れを求める取り組みを行っていくことにしています。また、その他、国連協議資格を取得する取り組みや特別報告者を招聘し勧告を出してもらう取り組みを進めることにしています。そして、今年4月22日から5月2日にかけてジュネーブで開催されるNPT再検討会議の事前会議に代表団を派遣し、被爆二世の人権保障や核廃絶に関するサイドイベントを開催するとともに、各国政府代表との話し合いや記者会見などを計画したいと考えています。


  • 日本における被爆二世の人権に関する情報提供 2017年3月30日(木)「日本における原爆被爆二世の人権、及び日本政府の取り組みに関する報告書(資料1)」を提出
  • 国連人権高等弁務官事務所が作成した「日本に関する利害関係者の報告のまとめ」(NGOの情報要約)(資料2) 10月11日(水)公表(8月23日(水)配布)
     原爆被爆二世は、放射線による遺伝的影響の危険にさらされていること、そして深刻な差別と社会的偏見に苦しんでいることが記され、被害者の人権を保障するための施策が取られるよう強く主張されていた。
  • 在日本大使館訪問 10月4日(水)〜5日(木) メキシコ、ノルウェー、スイス
  • NGOによる事前会議 10月10日(火)〜13日(金) 
  • 発言参加申し込みをしたが発言希望者が多く、選ばれなかった
  • 国連欧州本部訪問団派遣 10月16日(月)〜18日(水)
    ジュネーブ現地での各国政府代表部に対するロビー活動(キューバ、アイルランド、メキシコ、オーストリア、コスタリカ)、NGOとの意見交換(国際平和ビューローIPB、女性国際自由平和連盟WILPF)、国連人権高等弁務官事務所訪問など 
  • 11月1日(水)長崎、広島で記者発表
  • UPR第28会期 作業部会  11月6日(月)〜17日(金)
    11月14日(火) 日本政府の審査
    コスタリカ、メキシコが勧告の一つとして言及
    11月16日(木) 日本審査の報告書の採択(資料3)
    日本のUPRに関する作業部会のレポートが発表され、その中に次のように盛り込まれた。今年3月の人権理事会までに日本政府が対応(勧告を受け入れるかどうか)を報告することになる(2月27日から3月23日までの第37回人権理事会に、3月1日日本政府が報告書を提出:資料3)。
    ○被爆者援護法を被爆二世へ、とりわけ健康問題に関して、適用を拡大するように考慮すること。(コスタリカ)
    ○福島原発事故被害者、ならびに被爆者の将来世代に、医療を保障すること。(メキシコ)
  • 11月28日(火)午後長崎で記者発表、11月29日(水)午前広島で記者発表
  • 12月27日(水)厚生労働省交渉で勧告の受け入れを要請した。(要請書添付:資料4
  • 2月21日(水)長崎市・長崎県へ勧告を受け入れるように日本政府へ強く働きかけるよう要請した。(要請書添付:資料5
  第2の方針については、2015年12月以降弁護団との学習会を重ねながら、準備を進め、2017年2月17日、広島地裁に22人の原告が、2月20日には長崎地裁に25人の原告が提訴しました。広島原告は親が広島で被爆した被爆二世です。長崎原告は親が長崎で被爆した被爆二世です。広島地裁での第1回口頭弁論は5月9日に行われ、その後6月15日に4人が追加提訴しました。その後8月22日に第2回口頭弁論及び追加提訴第1回口頭弁論が行われ、2つの裁判は併合されました。そして、10月26日に第3回口頭弁論が、2月13日に第4回口頭弁論が開かれました。長崎地裁には5月24日、1人が追加提訴しました。そして、6月5日に第1回口頭弁論、9月26日に第2回口頭弁論及び追加提訴第1回口頭弁論が行われ、2つの裁判は併合されました。そして、2月6日に第3回口頭弁論が行われました。
 次回口頭弁論は、広島地裁6月26日(火)13時30分から、長崎地裁6月19日(火)14時15分から予定されています。
 私たちは次のように主張し、被爆二世が被った長期間にわたる多大な精神的損害として、原告1人につき10万円の慰謝料を請求しています。

 被爆二世が遺伝的影響を受けることは否定できない。「被爆者」に被爆二世を含めず、援護の対象としていない被爆者援護法は、被爆二世の生命・健康を脅かすものであるから、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障する憲法13条に違反する。また、被爆者援護法が被爆者に対しては医療の面での援護を行い、各種手当を支給しながら、放射線の遺伝的影響が指摘される被爆二世に対しては援護も手当も与えないとする区別に合理性は認められないから「平等権」を保障する憲法14条1項に違反する。そして、国会は被爆二世を適用対象外とする被爆者援護法を制定して違憲状態を作出した以上、被爆者援護法を改正し、適用範囲を被爆二世へ拡大すべき立法義務を負っていたにもかかわらず、この義務を怠って、被爆二世に適用範囲を拡大する法改正を行ってこなかった立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用において違法である。

 しかし、私たち原告個人が慰謝料を勝ち取ることが訴訟の目的ではありません。私たち全国被爆二世協の会員が、被爆二世を代表して訴訟を起こし、この訴訟を通して、問題の所在を社会的に明らかにし、すべての被爆二世を援護の対象とする国による立法的措置の契機とすることを目的にしています。

 (1)被爆者援護法の趣旨が、原爆の放射線による被害という特殊の戦争被害を被った人たちに対する援護ということにある以上、国会は被爆二世を被爆者援護法に規定する援護の対象とすること、「第五の被爆者」として、被爆二世を被爆者援護法の対象と定めなければならない。
(2)仮に(1)の立法措置をとらなくとも、国会は少なくとも次の内容の立法措置をとるべき義務を負っている。被爆二世を被爆者援護法7条に定める「健康診断」の対象者とし、その健康診断の結果、同法27条に定める「健康管理手当」の支給対象とされている疾病に該当すると診断された場合は、申請により同法2条に定める健康手帳を交付し、同法に基づく援護措置をとる、という立法措置である。
(3)仮に(2)の内容の立法措置が困難としても、最低限以下の措置が執られなければならない。被爆二世にも被爆者援護法上の健康診断を実施することを定め、その結果原子爆弾の傷害作用に起因する疾病として定められた疾病に罹患しているとの認定を受けた者は、同法上の「被爆者」として同法2条に定める被爆者健康手帳を交付し、同法に基づく援護をとる、という立法措置である(これは1989年の116回国会及び1992年の123回国会で参議院において可決された法案と同内容の措置である)。
  私たちは核兵器の非人道性の最たるものの一つが放射線の次世代への影響だと思っています。国連人権理事会での取り組みや被爆二世集団訴訟は、原爆被爆二世の問題にとどまらず、フクシマの被害者や世界の核被害者の次の世代の問題解決にもつながります。そして、放射線の次世代への影響や核と人類は共存できないということが世界の共通認識となれば、原発も含む核廃絶につながるものと確信しています。

 これらのたたかいは、大変困難なものになるかもしれません。しかし、核被害者の次の世代の問題解決と核廃絶をめざすたたかいは、私たち被爆二世の使命であることを自覚し、最後までたたかい抜いていきたいと思っています。
皆さんのご理解とご支援、ご協力をお願いします。

                                       全国被爆二世団体連絡協議会 会長 崎山昇



「日本における原爆被爆二世の人権、及び日本政府の取り組みに関する報告書(資料1)」  英文(表紙)   英文(本文) 
「日本に関する利害関係者の報告のまとめ」(NGOの情報要約)(資料2)
日本政府が報告書を提出:資料3
厚生労働省交渉で勧告の受け入れを要請(資料4)
長崎市・長崎県へ勧告を受け入れるように日本政府へ強く働きかけるよう要請(資料5
新聞記事


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