河野頼人(賴人)　(俳句誌「木の実」５代目主宰)のこと

平成２１年１２月１４日　　　〝公開〟
平成２５年７月３日　〝更新〟

●　河野　賴人(頼人)　(俳句誌「木の実」　５代目主宰)のこと　

　河野　賴人
かわの・らいじん　 (本名　かわの・よりと)

俳人、国文学者

［昭和３５(１９６０)年３月］＝広島大学大学院文学研究科博士課程　単位取得満了退学
［昭和３５年４月］＝山口県立防府商業高校非常勤講師(昭和３６年３月まで)
［昭和３５年９月～昭和４１(１９６６)年３月］＝香川学園短期大学　講師(１０月　「宇部短期大学」と改称)
［昭和４１年４月～］＝北九州大学文学部講師
［昭和４２(１９６７)年４月～］＝北九州大学文学部助教授
［昭和４９(１９７４)年４月～］＝北九州大学文学部教授
［平成１０(１９９８)年３月)］＝北九州大学定年退職・名誉教授

昭和７(１９３２)年９月２５日　教員であった両親の勤務地の山口県豊浦郡瀧部村(現　下関市)に生まれる。

［父＝河野英男は、この勤務地で、

「土井ヶ浜遺跡」の発見に関わる］

昭和１３(１９３８)年３月　両親の転勤に伴い、山口県防府市に移り、９月より、野村望東尼が寄寓していた家 に住むようになる。
　　　　　　　
昭和２６(１９５１)年　山口県立防府高等学校を卒業、広島大学に入学し、木村蕪城主宰「夏爐」に入会。

(昭和５３年「佳日賞」・平成１７年「彩雲賞」)

昭和２７(１９５２)年　田中菊坡主宰「をがたま」創刊に参加。

昭和２８(１９５３)年より３４(１９５９)年８月、８６歳で亡くなるまで虚子翁の俳句の添削指導を受ける。

昭和４１(１９６６)年　皆吉爽雨主宰「雪解」入会。

(昭和５２年「新人賞」)

昭和４１年　山鹿桃郊主宰「木の実」入会。

(大学、大学院時代は防府を離れていましたが、卒業後の「昭和３５年４月」から「昭和４１年９月」に、福岡県北九州市小倉に転居するまで、防府市内に在住しています。なお、「本籍地」は、現在も「防府市」です。)

「昭和５４(１９７９)年１月号」より、４代目主宰(昭和４７年～)の向野楠葉のもとで、『木の実』の編集を担当することになる。

平成５(１９９３)年１１月　北九州大学『国語国文学　第７号』を「河野頼人教授還暦記念号」として編集していただく。　

「写真」は、「国文学科」の創設当初から、勤務させていただいていたこともあってでしょう、この「記念号」としての『国語国文学　第７号』に、掲載されていたものです。
河野自身の「論文」はなく、「河野賴人教授主要著述目録」とこの「写真」以外は、多くの先生方に寄稿いただいた「論文」で構成されています。

平成６(１９９４)年４月（５５１号）より楠葉没後の「木の実」の主宰となる。

平成１０(１９９８)年３月　北九州大学を定年退官
北九州大学『国語国文学　第１０号』を「河野頼人教授退官記念号」として編集していただく。　

平成１９(２００７)年３月　健康上の理由で、句誌『木の実』は、「７０１号」を「終刊号」として、ひとまず、終止符を打ち、以後は、個人としての作句活動となる。

平成２４(２０１２)年４月　「春の叙勲」において「瑞宝中綬章」をいただく。

ここを〝クリック〟すると「祝賀会」の「写真」が出て来ます。　　

「俳句」関係の著書
平成９(１９９７)年３月　『言葉を読む―爽雨・蕪城俳句研究― 』　溪水社
平成１９年８月　句集『紙魚の宿』　溪水社
平成２０(２００８)年７月　句集『アカシヤの大連』　東京四季出版

『俳句誌』掲載句　及び「平成１２年」〝以後〟の「句」

　河野頼人　『俳句四季』への「掲載句」

河野頼人の「平成７年～平成１１年」の「句」

(番外編)「外郎」を詠む

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●「木の実」の「理念」のこと

　

　　　　　　　　　　平成１1(１９９９)年２月２５日(木)「読売新聞」(西部本社版「文化」欄)

文芸誌　リーダー
指導理念は「写生」
　　　言葉へのこだわり勧める

昨年、三十二年間に及ぶ北九州大学文学部での教職を終え、定年退職した。さよなら講義は「古代詩歌の季節感」だった。現・名誉教授。専攻は古代文学。
１９３２年(昭和７)山口県生まれ。広島大学文学部に在学中からホトトギス系の木村蕪城主宰「夏爐」(長野)に、北九州大に赴任してから皆吉爽雨主宰「雪解」(東京)に入会した。
清原枴童が４７年、八幡(北九州市)で創刊した「木の実」に６６年に入り、清原から河野静雲・山鹿桃郊・向野楠葉と続く主宰を引き受けたのは五年前。現・俳人協会幹事。
万葉集をはじめ古代文学の研究書を十数冊著し、俳句では「言葉を読む　─　爽雨・蕪城研究　─　」(９７年・渓水社)がある。
理論と実作で究める俳句の指導理念は〈写生主義。言葉を大切に。清新な叙情の開拓〉。「自分の言いたいことを表現し、読む人にわかってもらわなければならない。黒髪・春雨・氷雨・・・・・・。
詩歌固有の言葉を知ったら上達する」。言葉へのこだわりを勧める。
月刊。会員五百人。同人制はとらず、「賴人選『木の実選集』」だけで研さんに努め、主宰自らが、私淑する歌人・土屋文明にならい、吟行会や句会での全句を批評・鑑賞するというユニークな仕組みだ。
かなりハードな編集作業だが、「他人が思うほど苦にしていない。楽しんでやっている。」句集発刊は楠葉研究とともに課題だ。
「木の実」最近号から
　飽食の旅閉づる日の冷奴　
前を行くしなやかな手を真似躍る
　文章欄の充実も同誌の特色。文学、民俗・歴史、現代詩、植物研究などバラエティに富んでいる。
自身の代表作を「現代秀句選集」(９８年・角川書店)から紹介しよう。
　終鈴を持てる瞑目大試験　
背のとれし風土記に蝌蚪の出雲路を　　　
ひろしま忌一塔鳩の糞まみれ　
　

「心眼写生の実践」　　大野　雑草子　氏　　　　　(『７００号記念号』より)

・・・主宰は清原枴童、河野静雲、山鹿桃郊、向野楠葉、河野頼人とつづいているが、
不勉強な私は、楠葉、賴人コンビ以降の一貫した写生主義時代しか知らないが、
楠葉亡き後もその精神は賴人主宰に貫き通されて、写生の真髄は心眼に写ったものを如何に表現するかが大切にされ、
それが雑詠や誌面に反映されているのが潔い。
また、句作の根底には幅広い教養というか文化に対する素養と理解が必要とする編集方針もアカデミックで読みごたえがある。・・・　

　

「木の実」七百号に寄せて　　岡部　六弥太　氏　　　　　(『７００号記念号』より)

・・・「木の実」の掲げる「写生の上に清新な抒情」とは、伝統俳句を発展的に継承する者にとって、誠に正しい指標である。 ・・・　

　

河野　頼人　の「句」について

─　「木の実」会員の方からの「句評」　　─
(青字の「３句」は私＝弟の〝好み〟の「句」です。)

　『木の実　６５０号記念号』　「あの句　この句」　　より

紙魚の後つくろふ楊子文化の日　　
国文学者頼人先生の御蔵書は万葉集と上代関係の文学書、文献等私共の想像を絶するものと拝察する。
紙魚の跡が更に欠けない様に楊子でつくろわれていることに感銘をうけた。延いては古書を大切にして言葉を深く読むことこそ、作句や鑑賞を一層深められると教えられた思い。

安部　睦代

春塵も未練も払ひ蔵書売る　　
平成十年、永年お勤めになった大学を御退官される感情と大事にされていた沢山の書籍に囲まれた御生活。
先生の御心の中で整理をしなければと思われる反面、蔵書への未練の思い入れが交錯された御句であると思った。

荒井　美智子

肩凝るといふ妻を助け栗を剥く　　
何時も主宰の御句には愛妻家でいらっしゃる様子が偲ばれて。私等は唯羨ましい限りです。
主宰は又日常生活の中に私達の気付かなかった所を句材にチョイスされて居られますが、句を学んでいる私には大変励みになって居ります。

石井　芳江

流し雛泣くかも知れぬ目は描かず　　　　　
忘れもしない芦屋流し雛吟行時の頼人先生の珠玉の一句である。
紙雛をお見せした処、一見して「目が無いじゃない」と先生。
やがて始まった句会で出合い、目から鱗の落ちる思いだった。
雛への憐憫の情が平明にして拡張高く詠われ何時までも心に残る名句である。

岩村　美智子

恒例のごとく夏痩せ被爆以後　　
〈馬芹集〉に掲句を発見した時、忘れてはいけないことがあるとの思いを強くした。
「被爆」という言葉は只一つの事にのみ使われている、絶対的な言葉である。
大きな転機となった言葉である。
あれから五○余年労り合うて来たもののみに許される言葉である。
先生のまなざしは常に奥様にそそがれている

植木　南汀

借りられて欠けし全集煤払ひ　　　
いよいよ年も押し詰まり新春を迎える為に、我が牙城、書斎の煤払いをされる師の心にふっと淋しい翳をもたらすもの。
それは、乞われるままに貸した本が返却されずに、欠本のままの全集がそこに在る事である。
人の世の様々な光と陰にふと思いを巡らされる師の胸中、文学者で蔵書に限りない愛情を抱かれて居られる師の心を窺わせる名句であると思う。

数住　照子

息白く戻る青春戦史室　　　
この句は平成九年一月、氷雨降る寒い日の吟行で小倉北方の自衛隊を訪問。
たまたま頼人先生とご一緒に隊内の戦史室を拝観。
頼人先生は叔父様がこの部隊にあり戦死されたことを詳しく話され、私は戦前この部隊から長兄も次兄も出征したことなど親しくお話を致しました。
〈身に沁むや戦死公報しみの和紙〉も亦その時の御句ですが、私にとっては忘れ難い一刻を思い出させる句となりました。

田坂　かつみ

妻寝せて夜食の粥を受験子と　　
卒業、入学試験の時期になると愛唱する一句です。
先生とお子様の睦まじいお姿を深く感じております。
学問の道にある先生とお子様とが心一つに大試験に対し、誰にも邪魔されずにすんなりと心一つになられる御様子を羨ましく思いました。
夜食のお粥をすすりお子様を一人占めされている先生の満足感、お子様のお父上に対する敬愛の笑顔を思い、受験期の親子の情愛をかみしめております。

中村　文子

最終講義に涙見せまじ冬木の芽　　
河野頼人先生が定年退官となり、三十有余年北九州大学において国文学の古代を専門に講義を持たれ、今日の講義を最後に教壇を去られること、誠に感慨無量のことと思う。
この日の先生の講義を聴くために出席された中に「木の実」の皆さんも大勢居られたことを「木の実」誌上で拝読した。
「涙見せまじ」、先生の御心境にしみじみと共感したことである。

西鳥羽　香葉

杵柄に覚え草笛子に負けず　　　　　
はじめ「杵柄」がピンと来ず、暫くして、はっと気付き、大きなお体の先生が、お孫さんに負けじと草笛に挑戦していらっしゃるお姿がとてもほほえましく、暫く一人で笑ってしまいました。
何時までもお元気で、「木の実」をお守り下さいます様、お願いいたします。

野崎　みさこ

春泥を練る子の靴を叱るまじ　　　　　
お孫さんでしょうか、靴を汚し好奇心一杯のお子様を叱るまじと、優しさが伝わって来ます。
泥遊びの子供は泥だらけなどお構いなく、つい叱りたくもなり、あーあーと思いつつ見守っている。
そんな思いも何方も懐かしく、思い出させる句ではないでしょうか。

部屋　美都子

春愁のしだいに細字葉書書く　　　
平成七年八月号〈蝉噪集〉中の主宰詠である。
近年、主宰からの来信の文字がことのほか小さく、読み辛く感じることがあった。
これも最近のご病気によるものと思い込んでいた。
しかしながらこの句に接し、その兆は既にこの当時からあり、「木の実」主宰のご心労が、並々ならぬものであることを改めて思い知らされた。

山下　桑丘

　『木の実　７００号記念号』　「記憶にある句」　　より

舷を打ち霙飛び散る暗き川
カメラは先ず舷に焦点をあて、だんだん後にさがって霙の飛び散る一面ぼうとした景色を写し、更にその荒涼とした川原から、目の下の暗い冷たい川に移す。
句は言葉で完全な写生をしながら、溢れる情感は、読者にモノトーンの映画の始まりの様な期待と空想をひろげさせる句と思います。

三浦　文子

七草のいづれがいづれ粥芳ばし　　　　　　　
古くからの風習に慣らって召し上がる七草粥の一椀を純正に写生され、まことに言い得て妙。
粥の香りも「かんばし」ではなく「こうばし」と読むと教えられ「言葉を大切に」が胸にしみました。

川原　友江

旅順攻城の祖父の日記を紙魚走る　　　　　
学者という職業柄「紙魚」を詠んだ句が多い。
掲句亦しかり。
一読、字余りの様で定型内に納めた上五の絶妙な音数はさすが。
紙魚に食われ乍らも捨て難い祖父の陣中日記への愛着と時空を描く。

坂井　愛子

滴りに衆生潤ほし乳観音　　　　　
求菩提「卜仙の郷」吟行の折、千手観音堂に立寄り、岩壁の両袖から湧きおちる水を乳にたとえ、俗に乳の観音とよび、女人の信仰をあつめている。
求菩提山には、僧坊五○Ｏをこえた構があり、修験者に旅人、農民等の衆生を潤ほしたことであろう乳観音の水。
頼人先生も暗黙の中に木の実の人達を育み慈雨のごと潤ほしてゐる。

出口　美佐子

帰宅してともあれお茶と袖無に　　　　　
帰宅してやれやれと安堵の気持を、ともあれお茶と袖無しにといふ表現に、実にその心情共感を覚えます

井上　義郎

鸚鵡一羽春愁のごともの言はず　　　　　　　　
孤高の鸚鵡が春愁のおもてで籠の中で瞑目している。
物言はぬ鸚鵡のさまが気にかかる。
萌え出づる大自然の中、鸚鵡の春愁は何であろうか。

西野　喜美子

古書舗にも似てにほふ部屋梅雨ごもり 　　　　　　　　
河野頼人主宰の収集された書籍や文献、膨大な数と思います。
古書舗とありますから、老舗の本屋さんを思い浮べます。
露どきにその蔵書の中に籠って居られる先生が想像されます。

織田　秀子

「かわの」か「こうの」かについて

「現代俳句協会」のものという「現代俳句データベース」が「サイト」にありますが、　こうの　らいじん　が〝よみがな〟だとされていますし、
角川書店『俳句歳時記　第３版』(１９９８(平成１０)年６月刊)の「人名索引」という〝形〟で、「掲載されている句」の載っている頁も合わせてという大変な作業を
野口　裕という方がなさって、「サイト」に公開しておられますが、それも、残念ながら、明らかに〝こうの〟と読まれていると思われる位置にあります。

ただ、最近気がついたのですが、［俳句作者の読み方］として、
〝角川書店刊　角川書店編　『第三版　俳句歳時記』　全五巻
新年の部・春の部・夏の部・秋の部・冬の部に掲載されている俳句の作者の読み方。〟を示したという
内山佐智子という方の「サイト」では、ありがたいことに、
河野　頼人　　かわの　らいじん　詩歌人名事典(俳号)　　　本名　よりと
としていただいています。(但し、頁によっては、〝(俳号)　本名　よりと〟はありません。)

なお、多くの「研究者」が「分担」執筆をしている「国文学」関係の「執筆者一覧」においても、
やはり〝こうの〟と読まれているとしか思えない位置にあるものがありますが、 〝かわの〟が本当です。

なお、「戸籍」は〝賴〟なのですが、多くの場合、〝頼〟にされており、「図書館」によっては、入力した人によって異なり、〝賴〟と〝頼〟が混ざって、
「パソコン」による「検索」では、「河野賴人」と「河野頼人」は〝別人〟のようになっているところもあります。

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多くの方々に、お世話になった長兄＝頼人は、
［平成２５年６月２０日］に亡くなりました。

「明善社　大手町斎場」で「通夜」・「葬儀」を行いました。

かつての同僚の先生方、教室におられた方々、「句誌＝木の実」関係の方々等のお見送りを受けて、旅立ちました。
いろいろと、ありがとうございました。

なお、「木の実」の皆さんには、「弔句」を捧げていただきましたし、
蔵本隆博氏には、「出版」されたばかりの「著書」を供えていただきました。

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