第17話『断りきれなかった依頼(後編)〜無慈悲なる小学生のフルボリューム〜』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第17話『断りきれなかった依頼(後編)〜無慈悲なる小学生のフルボリューム〜』
午前中の「落ちこぼれの雛たち」への密着パートレッスンが終了し、
午後からはマーチングバンドの真骨頂、全体合同練習の時間が始まった。
広大な体育館のフロアを所狭しと使い、子供たちが一糸乱れぬ動きを見せる。
MM(マーチング・ムーヴメント)、ドリル、そしてフォーメーション移動を伴う演奏
――すべての戦術訓練が、小学生とは思えないほどの精度でそつなく、機械的に進んでいく。
「見事な規律ですね、隊長。まるでアカデミー(士官学校)時代の過酷な行軍訓練を見ているようだ」
エリート街道を歩んできたバックすらも、その全国レベルの洗練された動きに、感嘆の息を漏らしている。
「……嗚呼。全くだ。あの地獄のような学生生活のトラウマが蘇って、俺の胃にまた穴が空きそうだナ……」
思い出したくもない過去のしごきに、俺はすっかりしょんぼりさん(戦意喪失)だ。
「……ところでバック。午前中のラッパ合流レッスンで、
例の『若き天狗たちの鼻っ柱』は、予定通り木端微塵にへし折ってやったんだろうな?」
俺が小声で戦況を問うと、
バックはビシッと背筋を伸ばし、ニカッと白い歯を輝かせながら、
親指を立てて「バッチグー」のサインを返してきた。
どうやらエリート一級品の音術で、
マセたガキどもを完全に圧倒してきたらしい。
「それにしても、ちみたち……
子供たちとの『極秘体力トレーニング』、本当にお疲れ様だったな」
俺は、死んだ魚のような目でパイプ椅子に転がっている特級猫と、
泥だらけのギャルを睨みつけた。
午前中、校庭へ遊びに来た近所の子供たちに「もふもふの刑」に処され、
ピンクの肉球がすり減るまでぷにぷにされ、
必死に逃げ回る(という名の追いかけっこ)をしてライフをゼロにされたマルカート。
そして、金管バンドにフルートは不要だからと外へ放り出した結果、
子供たちとガチのドッジボールやサッカーに興じ、全身泥まみれになって帰ってきたスレッタ。
二人の規格外の隊員へ、俺は精いっぱいの皮肉を込めた感謝の言葉を投げかける。
そんなこんなで、いつも通りの統率の取れなさを発揮しつつも、
俺たちは特等席に陣取り、全国クラスの爆音生演奏を肌で感じていた。
だが、この平和な鑑賞会が、このまま穏やかに終わるはずがなかったのだ――。
「ガハハハハッ!! 音楽戦隊ウルセンジャー、今日こそは生きては帰さんぞ!!」
「おやびん、今日こそギッタギタのメッタメタにしてやるでやんす!」
「キキーッ! キキーッ! キキーッ!」
平和な体育館の空気を切り裂き、
お約束のセリフと共に「悪のみなさん」が大勢で乱入してきた。
どこで聞きつけたのか、揃いも揃って大層な勢いだ。
「おやおや……。
今日はただの『子供たちのお守り任務(ボランティア)』だと聞いて有給をとってきたんだがな。
まさかこんなところで残業が発生するとは」
俺は腰のトランペットに手をかけ、
士気を高揚させるために不敵なハッタリをかます。
すかさず、助手席から無理矢理ついてきたエリートが状況をスキャンした。
「隊長、敵の数は10。個体ランクはすべてC。近接戦闘特化型です。なお、有効調律周波数は442ヘルツとなっています」
バックがいつもの冷徹さで、瞬時に敵の戦術分析を完了させる。
「よし。野郎ども、まずは『鶴翼(かくよく)の陣』で包囲し――」
俺がいつものように軍事的な陣形を指示し、展開しようとした、その瞬間だった。
――ズドガアアアアーンッ!!!!
――ドドドドドドドッ!! バンバンバンッ!!
――プォーーーーーーーッッッッ!!!!
体育館の空気が物理的に震動するほどの、凄まじい大音響が爆発した。
(な、なんだ……!? 敵の増援か?
それともBランク以上の親玉が潜んでいたのか……!?)
俺たちに一瞬の緊張が走る――
ことは、まったく無かった。
俺たちの正面でポーズを決めていた悪のみなさん総勢10名は、
振り返ることすら許されなかった。
なぜなら彼らは、背後に控えていた「日本最高峰の小学生マーチング部隊」から、
一切の容赦のない、背面へのすさまじい超至近距離・集中砲火(フルボリューム)を浴びたからだ。
天狗の子たちの圧倒的な爆音ドリル。
そして、午前中に俺が『轟雷流の教え』で艶を与えた落ちこぼれの雛たちの、
迷いの消えた魂のロングトーン。
それらが完全にシンクロした無慈悲な音響弾が、無防備な悪の背中に直撃したのだ。
……(ゴクリ)。
想像しただけでも、音術師として全身に鳥肌が立つほどの生き地獄。
悪のみなさんは、ウルセンジャーが指一本触れる間もなく、
文字通り「音の壁」にすり潰されて消え去っていった。
かくして、我が音響部隊の看板に傷がつくこともなく、
牟礼南小学校への特別出動は無事に幕を閉じたのだった。
「……隊長。戦いはやはり、圧倒的な『数(火力)』ですね」
子供たちの規格外の砲撃戦に目を輝かせ、興奮冷めやらぬ様子で語るバック。
俺はオンボロ車のハンドルを握りながら、
「ふっ、戦場は教科書通りにはいかないという事だよ」と、
さも自分が仕組んだかのように渋い声で答えておいた。
「あーあ! また『悪のみなさん』と戦う機会がなかったじゃーん!」
午前中、あれだけ泥んこになりながら遊んで体力を消費したくせに、
本戦(演奏)がなくて不完全燃焼だと助手席で怒っているストレッタ。
「そのうち、Sランクと会敵できるさ」とさりげなく流す俺。
「我が輩はもう、クタクタにゃん……。
人間の子供のパワーを舐めていたにゃ。肉球はおもちゃじゃないにゃん……」
いつの間にか俺の膝の上に丸くなって、幸せそうな寝言を言っている特級猫。
秘密基地へと引き返す夕暮れの車内。
フロントガラス越しに差し込むオレンジ色の夕日を浴びながら、
バックミラーに映る隊員たちのくだらない雑談に耳を傾ける。
「……ま、こういう平和な解決も、悪くはないな」
誰にも聞こえない声でそう呟く。
激しい音響戦闘のあとに訪れる、
この、いつもと変わらないくだらない時間が、
俺は世界で一番好きかもしれない。
(断りきれなかった依頼・完)
音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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