(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第17話『断りきれなかった依頼(後編)〜無慈悲なる小学生のフルボリューム〜』
午前中の「落ちこぼれの雛たち」への密着パートレッスンが終了し、
午後からはマーチングバンドの真骨頂、全体合同練習の時間が始まった。
広大な体育館のフロアを所狭しと使い、子供たちが一糸乱れぬ動きを見せる。
MM(マーチング・ムーヴメント)、ドリル、そしてフォーメーション移動を伴う演奏
――すべての戦術訓練が、小学生とは思えないほどの精度でそつなく、機械的に進んでいく。
「見事な規律ですね、隊長。まるでアカデミー(士官学校)時代の過酷な行軍訓練を見ているようだ」
エリート街道を歩んできたバックすらも、その全国レベルの洗練された動きに、感嘆の息を漏らしている。
「……嗚呼。全くだ。あの地獄のような学生生活のトラウマが蘇って、俺の胃にまた穴が空きそうだナ……」
思い出したくもない過去のしごきに、俺はすっかりしょんぼりさん(戦意喪失)だ。
「……ところでバック。午前中のラッパ合流レッスンで、
例の『若き天狗たちの鼻っ柱』は、予定通り木端微塵にへし折ってやったんだろうな?」
俺が小声で戦況を問うと、
バックはビシッと背筋を伸ばし、ニカッと白い歯を輝かせながら、
親指を立てて「バッチグー」のサインを返してきた。
どうやらエリート一級品の音術で、
マセたガキどもを完全に圧倒してきたらしい。
「それにしても、ちみたち……
子供たちとの『極秘体力トレーニング』、本当にお疲れ様だったな」
俺は、死んだ魚のような目でパイプ椅子に転がっている特級猫と、
泥だらけのギャルを睨みつけた。
午前中、校庭へ遊びに来た近所の子供たちに「もふもふの刑」に処され、
ピンクの肉球がすり減るまでぷにぷにされ、
必死に逃げ回る(という名の追いかけっこ)をしてライフをゼロにされたマルカート。
そして、金管バンドにフルートは不要だからと外へ放り出した結果、
子供たちとガチのドッジボールやサッカーに興じ、全身泥まみれになって帰ってきたスレッタ。
二人の規格外の隊員へ、俺は精いっぱいの皮肉を込めた感謝の言葉を投げかける。
そんなこんなで、いつも通りの統率の取れなさを発揮しつつも、
俺たちは特等席に陣取り、全国クラスの爆音生演奏を肌で感じていた。
だが、この平和な鑑賞会が、このまま穏やかに終わるはずがなかったのだ――。
「ガハハハハッ!! 音楽戦隊ウルセンジャー、今日こそは生きては帰さんぞ!!」
「おやびん、今日こそギッタギタのメッタメタにしてやるでやんす!」
「キキーッ! キキーッ! キキーッ!」
平和な体育館の空気を切り裂き、
お約束のセリフと共に「悪のみなさん」が大勢で乱入してきた。
どこで聞きつけたのか、揃いも揃って大層な勢いだ。
「おやおや……。
今日はただの『子供たちのお守り任務(ボランティア)』だと聞いて有給をとってきたんだがな。
まさかこんなところで残業が発生するとは」
俺は腰のトランペットに手をかけ、
士気を高揚させるために不敵なハッタリをかます。
すかさず、助手席から無理矢理ついてきたエリートが状況をスキャンした。
「隊長、敵の数は10。個体ランクはすべてC。近接戦闘特化型です。なお、有効調律周波数は442ヘルツとなっています」
バックがいつもの冷徹さで、瞬時に敵の戦術分析を完了させる。
「よし。野郎ども、まずは『鶴翼(かくよく)の陣』で包囲し――」
俺がいつものように軍事的な陣形を指示し、展開しようとした、その瞬間だった。
――ズドガアアアアーンッ!!!!
――ドドドドドドドッ!! バンバンバンッ!!
――プォーーーーーーーッッッッ!!!!
体育館の空気が物理的に震動するほどの、凄まじい大音響が爆発した。
(な、なんだ……!? 敵の増援か?
それともBランク以上の親玉が潜んでいたのか……!?)
俺たちに一瞬の緊張が走る――
ことは、まったく無かった。
俺たちの正面でポーズを決めていた悪のみなさん総勢10名は、
振り返ることすら許されなかった。
なぜなら彼らは、背後に控えていた「日本最高峰の小学生マーチング部隊」から、
一切の容赦のない、背面へのすさまじい超至近距離・集中砲火(フルボリューム)を浴びたからだ。
天狗の子たちの圧倒的な爆音ドリル。
そして、午前中に俺が『轟雷流の教え』で艶を与えた落ちこぼれの雛たちの、
迷いの消えた魂のロングトーン。
それらが完全にシンクロした無慈悲な音響弾が、無防備な悪の背中に直撃したのだ。
……(ゴクリ)。
想像しただけでも、音術師として全身に鳥肌が立つほどの生き地獄。
悪のみなさんは、ウルセンジャーが指一本触れる間もなく、
文字通り「音の壁」にすり潰されて消え去っていった。
かくして、我が音響部隊の看板に傷がつくこともなく、
牟礼南小学校への特別出動は無事に幕を閉じたのだった。
「……隊長。戦いはやはり、圧倒的な『数(火力)』ですね」
子供たちの規格外の砲撃戦に目を輝かせ、興奮冷めやらぬ様子で語るバック。
俺はオンボロ車のハンドルを握りながら、
「ふっ、戦場は教科書通りにはいかないという事だよ」と、
さも自分が仕組んだかのように渋い声で答えておいた。
「あーあ! また『悪のみなさん』と戦う機会がなかったじゃーん!」
午前中、あれだけ泥んこになりながら遊んで体力を消費したくせに、
本戦(演奏)がなくて不完全燃焼だと助手席で怒っているストレッタ。
「そのうち、Sランクと会敵できるさ」とさりげなく流す俺。
「我が輩はもう、クタクタにゃん……。
人間の子供のパワーを舐めていたにゃ。肉球はおもちゃじゃないにゃん……」
いつの間にか俺の膝の上に丸くなって、幸せそうな寝言を言っている特級猫。
秘密基地へと引き返す夕暮れの車内。
フロントガラス越しに差し込むオレンジ色の夕日を浴びながら、
バックミラーに映る隊員たちのくだらない雑談に耳を傾ける。
「……ま、こういう平和な解決も、悪くはないな」
誰にも聞こえない声でそう呟く。
激しい音響戦闘のあとに訪れる、
この、いつもと変わらないくだらない時間が、
俺は世界で一番好きかもしれない。
(断りきれなかった依頼・完)
音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html
タイトル別
- 2026年05月30日
- 第17話『断りきれなかった依頼(後編)〜無慈悲なる小学生のフルボリューム〜』
- 2026年05月30日
- 第16話『断りきれなかった依頼(中編)〜不器用な雛たちと、京都轟雷流の戦訓〜』
- 2026年05月30日
- 第15話『断りきれなかった依頼(前編)〜元・落ちこぼれへの宣戦布告〜』
- 2026年05月27日
- 第14話『山の入り口、ふたりの笑顔(中・後編)』
- 2026年05月27日
- 第13話『山の入り口、ふたりの笑顔(前編)』
- 2026年05月27日
- 第12話『落ちこぼれ少年の春と、伝説の超弾幕』
- 2026年05月25日
- 第11話『フォルテパニック!~高級スイーツと、届かないウインク~』
- 2026年05月25日
- 第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』
- 2026年05月25日
- 第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』
- 2026年05月25日
- 第8話『落ちこぼれ隊長と、上から目線の猫』
- 2026年05月22日
- 第7話『最強の狂詩曲(ラプソディ)』
- 2026年05月21日
- 第6話『絶対防衛線の崩壊と、最強の指揮官(マダム)』
- 2026年05月21日
- 第5話『絶対零度の査察前線(後編)』
- 2026年05月21日
- 第4話『絶対零度の査察前線(後編)』
- 2026年05月18日
- 第3話『じゃじゃ馬の電撃作戦と、密輸の連鎖債務(スイーツ協定)』
- 2026年04月24日
- 第2話『不敵な野良上がりの進言と、4つの選択肢』
- 2026年04月24日
- 第1話『戦場に響け、正義のファンファーレ』
- 2026年03月31日
- 第0話『ウルセンジャー誕生秘話』
ブログ一覧
第16話『断りきれなかった依頼(中編)〜不器用な雛たちと、京都轟雷流の戦訓〜』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第16話『断りきれなかった依頼(中編)〜不器用な雛たちと、京都轟雷流の戦訓〜』
防府市牟礼南小学校への行軍は、俺のナビ無しのオンボロ私用車だった。
秘密基地から県道184号線を東へ、牟礼・江泊方面へと進み、
防府環状線(県道58号線)に入って南東方向へ進路を取る。所要時間は約15分。
軍事的な専門用語を抜きにして簡単に言えば、
「広い道から、びっしり住宅が詰まったクソ狭い道への突撃」だ。
「隊長、状況を簡単に捉えすぎです。やはり僕がナビゲーターとして同乗して大正解でしたね」
助手席で『フフン』と鼻で笑いながら、
無理やり道案内役を勝って出たバックが、こちらを見下ろすような視線を送ってくる。
エリートの余裕というやつは、いつ見ても神経を逆撫でしやがる。
「この近くには旨い焼肉屋があるにゃー。打ち上げが楽しみだにゃー」
後部座席から響く暢気な声に、俺はバックミラー越しに釘を刺した。
「オイオイ、待てマルちゃん。今日は正規の防衛出動じゃない。
つまり、軍事予算(経費)は1円も出ないぞ」
「私はねー、今日たまたま、すっごく暇だっただけだからねー!」
その隣で、窓の外を眺めながらチラチラとこちらに視線を送ってくるスレッタ。
もちろん、その不器用なアピールは、
娘を溺愛するガチムチの司令官と、俺の嫁様の事が脳裏に浮かび完全に無視だ。
「……そもそも俺は、『落ちこぼれの心は、落ちこぼれにしか分からない』という信念のもと、
単独での潜入任務に踏み切ったはずなんだがね。
アカデミー優秀組の君たち(特級野良猫以外)の出番はない。しっ、しっ」
狭い住宅道路をすり抜け、小学校の敷地内にオンボロ車を滑り込ませた俺は、
エンジンを切りながら、手でシッシッと追いはらう仕草を見せて精一杯の皮肉を返した。
だが、バックは悪びれる様子もなく、愛機Bachのケースを抱えて不敵に笑った。
「上手な子の鼻っ柱を折るつもりが、
逆に隊長の鼻がへし折られたら、ウルセンジャーの看板に消えない泥が塗られます。
ここは隊長の代わりに、僕が一流の音ってやつで、
天狗になったガキどもの鼻っ柱を叩き折ってやりますよ。ドヤッ」
バックの『ドヤッ』という余計な一言に、俺の心が激しくざわつく。
……誰か、あの世間知らずの天才坊っちゃんに教えてやってくれ。
『冷静で正確すぎる分析は、時として凡人の心を完全にすり潰す』という、残酷な戦場のリアルをな。
「能書きはいいから、とっとと片付けて宴会にゃー!」
あくびをしながら車を降りるマルカートの後ろ姿を見ながら、俺の中に邪な作戦が浮かぶ。
……このままこの特級猫を校庭に置き去りにして、元の野良猫生活へ強制送還してやろうか。
「あ、見て! 遊具がたくさんある! 久しぶりにブランコとかで遊んじゃおっかなー!」
はしゃぐスレッタの言葉に、俺は心の中で激しく突っ込んだ。
(お前は今日一日、作戦が終了するまでその遊具広場の陣地を死守してろ、
絶対に校舎に入ってくるなよ!金管バンドにフルートは必要ないからナ)
こうして、統率の取れているようで全く取れていない凸凹音響部隊は、
名門・牟礼南小学校の校門をくぐった。
「皆さん、こちらがレッド隊長です。国立音響防衛士官学校を
……その、なんとか、ギリギリで出てらっしゃいます。
皆さまと同じで、なかなかトランペットの腕前が上がらず、とても苦労されたお方なんですよ」
音楽室に並べられたパイプ椅子に座り、不安そうにこちらを凝視していた子供たちの前で、
先生が俺を紹介した。
「はっ、はい……。本当に、奇跡的に、なんとか生きて卒業できたレッドです……」
先生は最大限の気遣いで「落ちこぼれ」という直接的な単語こそ避けてくれた。
だが、いざ公衆の面前で自分の不名誉な経歴を突きつけられると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
過酷だった士官学校時代の記憶がフラッシュバックし、自信を削ぎ落とされた俺は、
いつものキザなブラックジョークを叩き出す余裕すらなく、
うつむき加減に答えるのが精一杯だった。
こうして、全国レベルの名門に存在する「落ちこぼれトランペットの雛(ひよこ)たち」を指導する特別任務が始まった。
「ッ、ブッ、ブォー……」「スーッ、プッ、プスプス……」「ブッ、スカー……」
子供たちが一斉に放った音は、
お世辞にも音楽とは呼べない、ひどく荒削りなものだった。
だが、俺の耳にはそれがただの雑音には聞こえなかった。
それは、かつて幼い頃の俺が、泣きながら出していた音と全く同じだったからだ。
劣等感を抱え、自分を信じられず、
何を目的に戦えばいいのか分からない、迷子の音――。
「よし、じゃあ、ちょっと俺の音を聴いてくれ」
俺が手本として、基本中の基本である低い『ド』の音をまっすぐに響かせてみる。
「オオーッ! すげえ!!」
その瞬間、子供たちの間に小さなどよめきが起こった。
戦場ではエリートたちに囲まれ、久しく忘れていた「羨望の眼差し」を全身に浴び、
俺は防弾チョッキの裏で思わず赤面してしまった。
「……いいか、君たち。音術師(おんじゅつし)は、イメージできないモノは表現にできない。
これは、俺がみんなと同じくらいの年齢だった頃、
京都の過酷な道場で、骨の髄まで叩き込まれた戦訓(言葉)だ」
俺は雛たちにそう告げると、できるだけ丁寧に腹式呼吸のメカニズムを教え込み、
一緒に『ド』の音を吹き鳴らした。
何回も、何回も、ただ真っ直ぐに音を伸ばすロングトーンの訓練。
「よし。じゃあ次は、君から一人ずつ『ド』の音を吹いてごらん」
最初に指名された子供は、恥ずかしそうに顔を赤らめ、モジモジしながらマウスピースに唇を当てた。
そして、息を吹き込んだ瞬間――。
「えっ!? うそっ!!」
音楽室に、子供たち自身の驚愕の声が響いた。
彼らが最初に放っていた迷子の音とは、明らかに違う。
ほんの少しだけ芯が通り、艶(つや)を帯びた「意志のある音」が、確かにそこにあった。
「音術師は、イメージできないモノは表現にできない」
俺はレッスンの冒頭で述べた、
俺を育ててくれた流派――京都轟雷流の教えを、彼らの目を見つめながらもう一度復唱した。
(……本当は、天狗になっている上手な子たちが率先して、
この子たちと並んでロングトーンをしなきゃいけないんだ。技術の優劣で壁を作るんじゃなくてな)
(あぁ……そうか。だから先生は、格式高い社会人バンドじゃなく、俺をここに呼んだのか)
俺は心の中で、その答えに辿り着き、静かに自問自答した。
落ちこぼれの痛みが分かる俺だからこそ、この防壁(カースト)を壊せる。
こうして、現役落ちこぼれ隊長による、泥臭く熱いレッスンは続いていくのだった――。
(続く)
第17話『断りきれなかった依頼(後編)〜無慈悲なる小学生のフルボリューム〜』
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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第15話『断りきれなかった依頼(前編)〜元・落ちこぼれへの宣戦布告〜』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第15話『断りきれなかった依頼(前編)〜元・落ちこぼれへの宣戦布告〜』
『――人口減少率ワーストの秋田は5年で8.1%減少。増加は東京と沖縄のみ……』
ここは、音楽戦隊ウルセンジャー秘密基地。
俺の傷だらけのデスクに置かれた、いつ買い替えたかも忘れた古いラジオから、
日本の人口減少幅が過去最大を更新したというニュースが無機質に流れ落ちる。
ここ最近――いや、前世紀からずっと耳にタコができるほど聞かされてきた、使い古された絶望の数字だ。
「……フン、国家の最高幹部どもが頭を抱えるレベルの難題だ。
うちのような、地方のしがないローカル音響部隊が向き合うべき前線(問題)じゃない」
深刻極まりない問題だが、今の俺にとっては完全なる他人事だ。
うちは地域密着、愛と平和を届けるハートフルなボランティア団体なんだ。
天下の国難を背負う義理もなけりゃ、そのための予算だって1円もありゃしない。
俺はそう自分に言い聞かせながら、固く目を閉じた。
先の激戦で負った心身の傷を癒やすため、
そしてこれ以上、世知辛い現実の防弾を浴びないために、
しばしの休息(現実逃避)へと沈み込むことにした。
「……いや。大変遺憾ながら、本件は丁重にお断りさせていただきます」
秘密基地の作戦会議室。俺の対面に座る、いかにも人当たりの良そうな中年の男性に対し、
俺は軍人としての礼節をギリギリ保ちながら、丁寧かつ明確に拒絶の意思を示した。
男の名は、この防府市が全国に誇る最強の小学生音響部隊「牟礼南小学校マーチングバンド」の最高指揮官
――すなわち、担当の教諭だった。
その彼が、事もあろうに我がウルセンジャーに対し、
未来の音響戦士たちのお守り(指導)をしてほしいと、直々に前線基地まで乗り込んできたのだ。
穏やかな口調、低い姿勢、そして滲み出る謙虚さ……。
俺がよく知っている、筋肉と威圧感だけで構成されたアカデミーのガチムチ司令官とは、
爪の垢を煎じて飲ませたいほど正反対の態度である。
だが、先方も全国の修羅場をくぐってきた指揮官だ。
簡単に退く気配はなく、部屋には重苦しいプレッシャーが充満していく。
「……先生。失礼ですが、俺(私)の経歴をご存じの上でのご依頼ですか?」
「ええ。こちらも不躾ながら、事前に調べさせていただきました。
何でも、あの国立音響防衛士官学校(アカデミー)きっての“永遠の初級使い(落ちこぼれ)”だとか……。
フォルテ司令官という方が、実になめらかに、嬉しそうにお話ししてくださいましたよ」
「――ッ!? じゃあ、なおさら無理でしょうが!」
俺は思わず、上官風のポーカーフェイスを剥ぎ取られて声を荒らげた。
あの筋肉親父、裏で余計な情報をばら撒きやがって……!
ウルセンジャーもこの田舎町で少しは名が売れてきたせいか、
最近は「悪のみなさん」の討伐といった本来の防衛任務以外に、こうした毛色の違う依頼が増えつつある。
だが、こればかりは話が別だ。
「いいですか、先生。この防府市は小中高と吹奏楽が異常なほど盛んで、
それを母体とした格式高い社会人の吹奏楽団がいくつもあります。
そちらの精鋭たちに話を持っていかれるべきだ。
俺のような初級ラッパ吹きより、彼らの方がよっぽど一級品の技術を持っていますよ」
俺は一刻も早くこの重苦しい会談から敵前逃亡したい一心で、
話の核心――いや、もっともらしい正論をまくし立てた。
「ええ、それも重々、よく存じております」
先生は、すべてを見透かしたような、諭すような優しい笑顔で応じた。
「ですが、うちの『上手な子たち』は、放っておいてもいいんです。
問題は……どうしても上手になれない、取り残された子供たちのほうでして……」
先生の表情が、にわかに曇る。
聞けば、全国レベルという高い壁の陰で、上手な子とそうでない子の間に深い溝(ディスタンス)ができているらしい。
小学生ならではの残酷なカースト制度。
その中で声を上げられず、音楽を楽しめなくなっている子を救いたい、それが指揮官(先生)としての願いだった。
「大変失礼な物言いを、どうかお許しください。ですが……
落ちこぼれてしまった子の痛みには、
元・落ちこぼれのレッド隊長が、世界で一番寄り添ってくださるのではないかと思いまして……」
先生はポケットからハンカチを取り出すと、
額の大汗を拭いながら、まるで祈るような、絞り出すような声を響かせた。
「……先生。訂正してください。
俺は元じゃなく、『今でも十分現役の落ちこぼれ』ですよ」
俺の自虐的な、乾いた笑い声が静かな秘密基地に虚しく響く。
「それから、もう一つ」先生が少しはにかむように、だが確かな眼差しで付け加えた。
「上手な子たちは、すっかり天狗になってしまっています。
どうか、彼らの鼻っ柱を思いきりへし折ってやってはいただけないでしょうか」
――鼻っ柱を折る、か。
先生の言葉が、俺の脳裏の奥底に眠る古い記憶の引き金を引いた。
幼少の頃、京都の道場で、狂暴なまでの才能を持つ後輩や同輩、先輩たちから、
文字通りボロ雑巾のように扱われた辛い日々。
楽器の世界には、技術の上手下手だけで人間性まで格付けされる、
冷酷なカーストが確かに存在するのだ。
かつての自分が流した涙の味が、口の中に蘇る。
……チッ。他人事だと、自分に言い聞かせたはずだったんだがな。
長い、重苦しい沈黙が基地を支配する。
古いラジオから流れる無機質などうでもいいニュースをかき消すように、俺は大きく息を吐き出した。
「……よし。その依頼、ウルセンジャーが引き受けましょう」
戦場(ステージ)は、格式高き名門・牟礼南小学校へ。
(つづく)
第16話『断りきれなかった依頼(中編)〜不器用な雛たちと、京都轟雷流の戦訓〜』
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html
第14話『山の入り口、ふたりの笑顔(中・後編)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第14話『山の入り口、ふたりの笑顔(中・後編)
俺の愛車であるオンボロ自動車に、
大人3人と特級猫1匹、そしてそれぞれの武器である重い楽器たちをこれでもかと詰め込み、秘密基地を出発した。
まず目指すのは、ウルセンジャーの拠点である防府市が誇る、延長56 kmの一級河川――『佐波川』だ。
その佐波川の源流である山口県と島根県の県境に位置する三ツヶ峰(標高970 m)を目指し、車はひたすら上流に沿って北東へ向かう道をどんどん突き進んでいく。
北上していくにつれて、窓の外の景色からは少しずつ民家が消えていった。
代わりに、雄大な山々のふもとに静かに佇む、美しい田畑の緑が車窓いっぱいに広がってくる。
「……川幅も、だいぶ狭くなってきたなぁ」
並走する佐波川のせせらぎが、上流に近づくにつれて少しずつ細くなっていくのを見つめながら、俺はガタゴトと揺れるハンドルを握り続けた。
しばらく走ると、久しぶりに信号のある交差点が現れた。どうやらこの山間部の中心地らしく、そこへ差し掛かった瞬間、歴史を感じさせる大きな「造り酒屋の看板」がパッと目に飛び込んできた。
「おおっ! ここがあの有名な地酒の店にゃー! 帰りは絶対に寄るにゃん、隊長!」
助手席のマルカートが、窓に肉球を押し当てて目を輝かせている。お酒のことになると、この特級猫のアンテナは相変わらずの超高感度で安定っぷりだ。
「ちょっとマルちゃん、買うのは帰るときよ! それに隊長も、よそ見してないで運転に集中しなさいよね! この先、いつ『悪のみなさん』の待ち伏せがあるか分からないんだから、今のうちに身体をほぐしておきなさいよ!」
後部座席から、スレッタがマシンガンのように口を挟んでくる。お節介で世話焼きな彼女は、最近なんだか俺たちの「お母さん」のようになってきているゾ。
「……それにしても、隊長。本当に心が洗われるような、美しい風景ですね」
スレッタの横で、バックが眼鏡の位置を直しながら、窓の外ののどかな景色を静かに見つめていた。
「おいおいバック、今回の作戦に『大赤字になりますね』って一番大反対してたのは君だろ?」
俺が苦笑いしながらルームミラー越しに突っ込むと、バックは「それはそれ、これはこれです」とフイッと顔を背けてしまった。まったく、相変わらずのツンデレさんだぞ……。
そんな賑やかで少し窮屈な車内に揺られること、約一時間。
オンボロ自動車のエンジンがひと際大きな音を立てて坂を登りきると、ついに目的地の『柚木小学校』へと到着したのだった。
山の入り口、ふたりの笑顔(後編)
「うえっぷっ……」
「……(青い顔で無言)」
「なんだか、車内がとんでもないメロディ(唸り声)に包まれているにゃー……」
オンボロ自動車が柚木小学校の校庭に停車した瞬間、車内から漏れ出たのはそんな瀕死の音だった。
どうやら俺の荒々しい山道運転にケチをつける余裕すらないほど、メンバー一同は見事に「仕上がって(重度の車酔い)」しまっているようだ。
「みんな、顔色がステューデントモデルの罠にかかったみたいだぞ! だが、脳と身体が激しく揺れて、唇までガタガタにほぐれたろ? 本番前の最高の準備運動にはちょうどよかったじゃないか!」
会場の入り口で待っていた親御さんたちの「なんだこの人たちは……」という痛い視線を全身に浴びながら、俺は精一杯のポジティブさでみんなを励ました。
「あの……こッ、コレを……。何もない山奥の場所で、大したおもてなしもできず申し訳ございませんが……」
すると、申し訳なさそうに親御さんの代表の方が、竹皮に包まれた温かいお手製のおむすびとお茶を差し出してくださった。
「おっと、お心遣いは無用ですよ! 我々ウルセンジャーの報酬は、皆さんの『笑顔』ですから! ニカッ★」
俺はすかさずバックミラーの前で毎朝鍛えている営業スマイル(白い歯光る100点満点のやつ)を浮かべ、脳内に完全インプットされているボランティア定型文をハキハキと返した。
「くんくん……! 隊長、徳地は水が綺麗で寒暖の差が激しいから、お米さんが格別に美味いのにゃのにゃー!」
現金なもので、お米の匂いを嗅ぎつけたマルカートは一瞬で車酔いから完全復活し、いつでも出撃できる体制を整えている。
「うわぁぁ♪ めっちゃ美味しそうじゃないのー!」
単純なスレッタも、おむすびの湯気に目を輝かせて完全復活。用意はOKのようだ。
「……何だか、京都の実家で母が作ってくれたおむすびを思い出しますね」
バックは眼鏡を少し曇らせながら、遠い故郷の母(あのシルキー師範である)を懐かしみ、静かに余韻に浸っている。
「それにしても、見渡す限り山、山、山だにゃー! 故郷を思い出すにゃー……。このへんの竹林にも、白い大きなクマ(パンダ)とかいるのかにゃー?」
「えっ、マルちゃん、君の故郷って一体……?」
謎が多すぎる特級猫の初めて明かされるルーツ(?)に俺が耳を傾けていると、「隊長、そろそろ時間です」と促され、俺たちは小学校の講堂へと足を踏み入れた。
ギィ、と歴史ある木造の扉を開けて講堂に入ると、広々としたステージの真ん前に、ぽつんと2つのパイプ椅子が並べられていた。
そこには、ちょこんとお子さん2人が緊張した様子で座って待っている。
「たッ、隊長……! 2人って聞いてましたけど、これ……」
いつもは冷静な作戦立案係のバックが、あからさまに動揺した様子で俺の耳元へ囁いてくる。
「ちょっとー! 待って、聞いてないよぉ、こんなの!」
スピードスターのスレッタも、相変わらず口から漏れ出るリアクションの速度が最速だ。
「我が輩はおむすびさえあれば、観客が何人でも満足にゃん」
マルちゃんだけは、スネアドラムの横で悠然と毛繕いをしている。
お子さん2人に対して、保護者の方が5人。
ここまでは、そうだ、そうだろ、想定内の人数だ。過疎化の進む田舎の閉校式なら、あり得る比率だ。……しかし。
なぜか木造の講堂の奥には、そこを埋め尽くさんばかりの大勢のお年寄りたちが、所狭しと座っていたのだ!
「いやぁ、最近は若いもんが出ていって誰も帰ってこんけぇ、小さい子と触れ合える機会が滅多にないほっちゃ(ないのだ)」
「ウルセンジャーさんが来るっちゅうけぇ、みんなで楽しみにして来たんよぉ」
山口の、のどかな方言を使うコミュニケーション能力爆発のおじいちゃん、おばあちゃんたちが、わらわらと笑顔で俺たちに詰め寄ってくる。
「隊長さん、そろそろ開演をお願いします」
保護者の方が、優しく演奏開始の合図を告げた。メンバーたちが「どうするんだ」という視線を俺に一斉に送ってくる。
「みな!急で作戦変更だ! ステージの上から見下ろす『鶴翼の陣』は中止! 全員ステージから地べたに降りて、子供たちと輪になる『和(なご)みの陣』を展開するぞ!
後半のプログラムはお年寄り向けの懐かしい曲も混ぜる!」
「レンジャイ!!(了解)」
本番のスイッチが入った瞬間、隊員たちは一切の無駄口を叩かない。全員の目が、これから届ける「音」だけに集中している。
フルートの軽快な旋律と対旋律、スレッタのマシンガンレッスンで鍛えたトランペットの響き、そしてマルちゃんの正確無比(マルカート)なドラムのビートが、昭和レトロな講堂にじんわりと鳴り響いた。
俺たちはステージを降り、2人の子供たちのすぐ目の前で楽器を奏でた。
一緒に歌い、一緒にステップを踏み、手拍子を合わせる。
後半戦には、後ろにいた大勢のお年寄りたちも次々と輪に加わり、講堂全体が文字通り、一つの大きな音楽交流の場へと変わっていった。
愛機(ヤマハ・ニューヨークモデル)から放たれる俺の音色(音響)は、
いつもならピッチ(音程)が迷子になって行き先が不安定になるのがお約束だ。
……だが、今日この瞬間だけは違っていた。
柚木の皆さんの笑顔と温かい拍手に導かれるように、俺のベルからは聴く者の心をじんわりと満たし、
包み込むような、圧倒的な「陽のエネルギー」がこれでもかと溢れ出していた。
音楽で心が通じ合うとは、まさにこのことだ。
曲の合間、マウスピースを唇から離した俺は、隣に立つ相棒へ少し照れ隠し気味に話しかけた。
「おい、バック。今ならあの『Sランク』の偉大なるご婦人がご来襲されても、優雅にダンスのお相手くらいはして差し上げられそうな気分だな」
「……ええ。本当に、そうですね」
いつもなら「隊長、現実逃避はそこまでにしてください」と冷徹な突っ込みをミリ秒単位で入れてくるはずのバックだった。
だが、眼鏡の奥の瞳を和らげた彼は、木造講堂を包むおじいちゃんやおばあちゃんたちの温かい拍手と熱気に深く感銘を受けた様子で、俺の軽口を優しく、穏やかにいなしたのだった。
その横顔には、いつものエリートのトゲはひとかけらも残っていなかった。
「隊長さん、本当にありがとうございました……」
「子供たちも、最後に最高の思い出ができました」
「久しぶりにみんなでワイワイ触れ合えて、本当に楽しかった。ありがとうねぇ……」
演奏が終わると、中には涙を浮かべながら、シワの刻まれた温かい手で俺たちの手を握りしめてくれる方もいた。
「いえ……こちらこそ、ありがとうございました」
お人好しで涙もろい俺は、そんなおじいちゃんたちの姿に思わずもらい泣きしてしまい、視界がじんわりと潤んでいくのを止められなかった。
「あーっ、あっ! 結局、楽しみに(?)してた『悪のみなさん』は一匹も来なかったわねー!」
防府への帰り道。
夕焼けに染まる佐波川を横目に、助手席のスレッタが両手を首の後ろで組みながら、伸びをして大きな声をあげた。
「徳地のお米、つやつやのプルプルで本当に最高だったにゃー。我が輩、もうお腹いっぱいで眠いにゃん……」
マルちゃんは膝の上で丸くなり、幸せそうに喉を鳴らしている。
「……隊長」
バックシートから、バックが静かな声で話しかけてきた。バックミラーを見ると、彼は眼鏡を外して、少し赤くなった目元をそっと拭っていた。
「僕……大赤字だなんだと文句を言いましたけど、ウルセンジャーに入隊して、本当に良かったと思います」
「……ああ。そうだな、バック」
オンボロ自動車のガタゴトという心地よい振動の中に、今日出会った人々の、つやつやのおむすびのような温かい笑顔が重なる。
お金は一銭も稼げなかったけれど、俺たちの胸の奥には、世界中のどんな高級マウスピース(オービエ)よりも輝く、本物の「正義のエネルギー」がパンパンに充填されていたのだった。
(おわり)
第15話『断りきれなかった依頼(前編)〜元・落ちこぼれへの宣戦布告〜』はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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第13話『山の入り口、ふたりの笑顔(前編)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第13話『山の入り口、ふたりの笑顔(前編)』
「山口県」は、その名の通りもともと山が多い土地だ。
山の入り口と書いて「山口」と読む――そう言っても過言ではないほど、険しい自然が連なっている。
その山口の中でも、さらに山深く、緑に遮られた奥深くに「それ」はあった。
――柚木(ゆのき)小学校。
昭和の面影を色濃く残す、木造のレトロな佇まいが美しい小学校だ。
そこからの依頼内容は、「今年度で閉校となるため、最後に残った子供たちの思い出作りに、ぜひウルセンジャーさんに演奏に来てほしい」というものだった。
「……はい、承知いたしました。隊員たちと一度相談いたしまして、折り返しご連絡させていただきます」俺はいつものように、リアル恐妻(嫁様)にも聞かせられないような、丁寧な余所行きの声で受話器に返答をした。
『――続いてのニュースです。日本の人口309万人減 減少幅が過去最大、東京近郊も軒並み減……』
電話を切り、秘密基地のデスクに腰を下ろすと、古いラジオから流れる暗いニュースが耳に飛び込んでくる。俺はそれを、なんとなく聞き流すようにして書類に目を落とした。
「それで隊長、今回は何人の生徒を相手にするんですか?」
最近、チーム内で自然と作戦立案係(兼スパルタレッスン担当)のポジションに収まりつつあるバックが、ノートを片手に問いかけてきた。
「あそこにゃ、美味い地酒があると噂の場所にゃー。楽しみだにゃん」
ソファの上で丸くなっている一匹の特級猫(マルカート)は、相変わらずマイペースに毛繕いをしている。
「……2人だ」
俺は努めて冷静な口調で答えた。
「それから、今回の報酬は無し(交通費の支給も厳しいとのこと)だ」
「ちょっとおおおー! だめ駄目ダメよー、そんなの!!」
バックが異論を唱えるより一瞬早く、スレッタが横からマシンガントークで割り込んできた。
「彼女の言う通り、同じ山口県内とはいえ距離がありすぎます。往復のガソリン代に移動時間、それに拘束時間を含めた全体のコストを計算すると……完全に大赤字になりますね」
バックが眼鏡の奥の瞳を光らせ、冷徹な現実を数字で伝えてくる。
「バックの言う通りよー! たった“2人分”のステージのために大赤字なんて、正気の沙汰じゃないわよー!」
スレッタがフンスと鼻を鳴らし、バックの背中を全力で後押しする。
――そう、我が『音楽戦隊ウルセンジャー』は、崇高な理念に基づき結成されたボランティア団体だ。
人件費は当然無料だが、通常はイベントの規模に応じた補助金や、最低限の交通費をいただくことで何とか運営が成り立っている。したがって、移動距離が遠く、対象となる人数が少ない小規模な活動ほど、活動すればするほどベース基地の財布が干からびる「大赤字の罠」が待っているのだ。
だからこそ、こうした採算の合わない田舎の地域には、音響防衛の公的団体が一切存在しない。
そもそもウルセンジャー自体、教育委員会からの無理難題な依頼に対し、お人好しな俺が「断りきれずに押し切られて」結成してしまったという知りたくない現実があるのだ。
だが――。ラジオから流れたニュースが、どうしても頭から離れなかった。
「よし! 決まりだ! みんな、久しぶりに大自然の中で森林浴にでも行くぞ!」俺はいつもの優柔不断さを脱ぎ捨て、強引に話を前に進めた。
「おっ、森林浴のついでに美味しいお酒をゲット(GET)して、ついでに柚木小学校に行くにゃん! 隊長、話がわかるにゃあ!」
親友のマルちゃんが、待ってましたとばかりに俺の背中をポンと叩く。
「はぁ……。本当に、隊長には困ったものですね」
バックは呆れたように深い溜息をついたが、その表情はどこか嬉しそうで、まんざらでもない様子だ。
「ふんっ、勝手にあたふたしてればいいじゃない! もう、知らないんだから!」
スレッタはなぜかぷいっと顔を背け、頬を膨らませて怒っている。
こうして、山奥の小さな学校、たった二人の子供たちの笑顔を守るための、ウルセンジャーの「赤字覚悟の出動」が決まった――。
(つづく)
第14話『山の入り口、ふたりの笑顔(中・後編)はコチラ
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第12話『落ちこぼれ少年の春と、伝説の超弾幕』
第12話『落ちこぼれ少年の春と、伝説の超弾幕』
※今回はレッド隊長の士官学校入学秘話です
国内の音響防衛エリートたちが集結する最高学府――国立音響防衛士官学校(アカデミー・オブ・レゾナンス)。
春の麗らかな陽気の中、入学試験の全日程が終わり、合格の是非を決める事務手続きが厳かに行われていた。
「――校長、この男に免じて、どうかもう一度だけ書類に目を通してはいただけんでしょうか……!」
校長室。
士官学校の生きる伝説であり、現在は教鞭を執る『特級トランペット使い』のフォルテ教官は、筋骨隆々とした巨体を小さく縮め、しどろもどろになりながら事務長と校長に頭を下げていた。学生の前では鬼と恐れられるこの漢も、上司の前ではめっぽう弱いのである。
校長は手元の書類を一瞥し、深い溜息をついた。
「フォルテ君。このレッド君というのは、筆記試験も体力試験も我が校の門をくぐる以前の問題なのだがね。戦場では実力のないモノから死んでいくのだよ。能力のない者の入学は認められん」
「えっとでありますね……それはですね……はい……」
フォルテ教官の額から冷や汗が流れる。しかし、彼にはここで引き下がるわけにいかない絶対の理由があった。
(『わての道場の出身者が試験に落ちるなんて、そんな不名誉な事はないドスよねぇ?』)数日前、京都の名門・轟雷流のシルキー師範から受けた、ドスの効きまくった京都弁の電話が脳裏をよぎる。気配だけで直立不動になるトラウマ級の脅迫だった。
さらに、追い打ちをかけるように当の母親(スカーレット)からも微笑みながら釘を刺されている。
(『フォルテ教官、わたしのかわいこちゃんを悲しませる事はしないよね〜? もし落ちたら、私、悲しくてこの職場やめちゃうかも、ウフフ……』)
赤ちゃんを諭すような極上の柔和な笑顔。だが、国に数人しかいない特級打楽器使いに職場をボイコットされたら、国家の防衛網は一瞬で崩壊する。実質、これ以上ない国家レベルの脅迫であった。
「……彼には、推薦状があります! 国立音響防衛隊のエース・スカーレット特級打楽器使い、轟雷流のシルキー師範、そしてこの俺、フォルテの名前が揃っているのです!」
「……はぁ。そこまでの大物が揃って頭を下げては、落とすわけにもいかんか」
こうして、大人たちの高度な(?)政治的思惑と脅迫の末、レッドの士官学校入学は奇跡的に決まったのである。
「よかったわねぇ、レッド。あなたがいっぱい頑張ったから、神様がご褒美をくれたのよ」
桜の木々がうららかな春風に揺れる、国立音響防衛士官学校の入学式当日。
久しぶりに会った息子の小さな手を優しく包み込むように繋ぎ、巨大な正門をくぐる一人の女性がいた。
彼女こそ、国内の誰もが知る音響防衛隊のエース、スカーレット。
総重量がとんでもなく重く、セッティングするだけで大人の腰を粉砕するはずのヤマハ最高峰ドラム『PHXシリーズ』のケースを、まるでピクニックのお弁当箱でも持っているかのように軽々と片手で携え、終違終始ニコニコ顔でご機嫌に歩いている。
「えっ……あの、新入生の付き添いできている、めちゃくちゃ綺麗な女性って……」
「おいおい嘘だろ、あれって『長州の虎』ことスカーレット様じゃないか!?」
「うわぁ、本物初めて見た……! 後で絶対にサイン貰いに行こうぜ!」
「っていうか、その隣にいる男の子が息子さんか!? (ゴクリ)一体どれだけ恐ろしい天才エリートなんだ……!」
「ヒソヒソ……ヒソヒソ……」
式場へと続く並木道では、集まった全国のピチピチの新入生たちが、顔をパッと赤らめながら羨望のまなざしを二人に注いでいた。
すると今度は、彼女の来校を事前に聞きつけていた現役の教官たちが、制服のシワを正して慌てて駆け寄ってきた。
「スカーレット特級打楽器使い殿! ご無沙汰しております!」
「あの節は北方戦線で命を救われました! 私、ドサンコ上級チューバ使いです!」
「スカーレット殿、ぜひ本日は、我々にも音響戦闘術のご指導をいただけないでしょうか!」
普段は学生たちを震え上がらせているコワモテの教官たちが、まるで憧れのヒーローを目の前にした子供のように、目をキラキラと輝かせて直立不動で敬礼している。
「もうぅ、みなさん大袈裟さんなんですから~ウフフ」
スカーレットは首をちょこんと傾げ、いつもの赤ちゃんに話しかけるようなおっとりした口調で笑うと、レッドの頭を優しく撫でた。
「レッド、あなたも学校で頑張ったら、すぐにでもお母さんの様に人気者になっちゃいますよぉ〜」
周囲からの熱烈な視線とエリートたちのガチ敬礼の嵐に、幼いレッドは萎縮を通り越して早くもめまいがしてきていたが、母親のスカーレットはどこまでもマイペースだった。
「うん……! 僕、がんばるよ、お母さん!」
京都のシルキー師範の元での、あの気配を感じただけで直立不動になる地獄のスパルタ修行生活から、ようやく抜け出せたという極上の解放感。
そして、これからの学園生活へのささやかな期待。
何より、久々に肌で感じるお母さんのあたたかい手の温もりに、
レッドの胸は「これ以上ない幸せ」でぽかぽかと満たされていた。
「あら?」
「遅刻してきた子がたくさんいるわね」
「えっ、どしたのお母さん」
『――ウーウーウーッ!!』
引き裂くようなサイレンが式場に鳴り響く。
同時、光学迷彩を解除した「悪のみなさん」の突撃部隊が、黒煙の如き遮蔽煙幕(スモーク)とともに校庭へ強行降下を展開。
彼らは綿密な情報戦に基づき、防衛網の隙を突いた超近接奇襲を仕掛けてきたのだ。
目的はただ一つ。障壁となる「将来の音術師」たちの芽を、この場で完全殲滅すること。
「前線崩壊! 敵襲、敵襲ッ!!」
「レーダーは何をしていた! 外郭防衛線が突破されただと!?」
「接敵(エンゲージ)! 駄目だ、楽器の周波数同調(チューニング)が間に合わな――!」
国家防衛の心臓部へのまさかの強襲に、指揮系統は一瞬でマヒ。
怒号と爆音の中、敵の放つ指向性エネルギー攻撃が次々と着弾し、未熟な新入生や防弾装備のない教官たちがなぎ倒されていく。
「ハハハ! 迎撃体制すら整わぬか、烏合の衆め!」
「完全に奇襲は成功した。戦術的勝利は我らのものだ!」
「積年の恨み、この制圧作戦で晴らさせてもらうぞ!!」
敵の指揮官が勝利を確信し、冷酷に全弾掃射の命令を下す。
式場は一瞬にして、硝煙と悲鳴が渦巻く地獄の戦場と化した。
「おのれ、不法侵入者どもめッ! 迎撃(インターセプト)を開始する!」
最前線の防衛戦力として、フォルテ教官が肉体という名の重装甲を震わせ、猛烈な突進で現隊へ急行する!
――しかし。鬼教官が迎撃の音響弾を装填すべく、トランペットのマウスピース(歌口)へ息(エネルギー)を叩き込むより、さらに一瞬早く。
周囲の気圧が、異常に跳ね上がった。
『――ふるえなさーい、一斉掃射(フルバースト)。烈陽鳳凰・連撃陣』
「――オオオオオオオオオオオオンッ!!!」
鼓膜を容赦なく破壊する、超低周波のソニックブーム。
爆炎の向こう、スカーレットが愛機(重音響兵器)『PHX』のトリガーを静かに握っていた。
先ほどまでの母親の気配は完全に消滅。
戦場に君臨するのは、一国を焦土に変えかねない最強の「特級重音響兵器乗り」としての絶対的な殺気だ。
これぞ、彼女の誇る飽和音撃の極致。空間を質量兵器のごとく埋め尽くす、超重量級ドラムによる「弾幕の壁」が、ゼロ秒で周囲360度に展開された。
黄金に輝くその音響防壁は、襲い来る敵の対空砲火やレーザーをすべて熱量変換し、完全に無効化(インターセプト)していく。
刹那、彼女の腕が視認不可能な速度でブレた。
――カァンッ!!!
超音速で振り抜かれたスティックが空気をマルカート(明確)に破砕した瞬間、鳳凰の輪郭を持った高密度衝撃波が、音速の誘導弾となって敵の全隊列へ直撃!まさに圧倒的な火力制圧。
フォルテ教官が現場に突入した時には、あれほど精緻な奇襲計画を練ってきたはずの敵の精鋭たちが、文字通り“全滅(キルゾーンにて完全粉砕)”し、物言わぬ肉塊のように地面に転がっていた。
「……ふぅ。ウフフ、作戦完了(ミッションコンプリート)ねぇ」
スカーレットはすぐにいつもの柔和な笑顔に戻ると、頬に手を当てて小首を傾げた。
「『悪のみなさん』も、貴方のお祝いにわざわざ来てくれたのねぇ。賑やかで嬉しいわね、レッド」
「えっ……? お、お祝いなのかなぁ……?」
引きつった笑顔で冷や汗を流すレッド。
その横で、ようやく追いついたフォルテ教官が「バカな、一瞬で片付けただと……!?」
と直立不動のままガタガタと震えていた。
何はともあれ、規格外の母親の愛と弾幕に守られながら――
レッド隊長の、のちの「陽のエネルギー」のルーツとなる士官学校生活が、穏やかに(?)幕を開けるのであった。
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第11話『フォルテパニック!~高級スイーツと、届かないウインク~』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第11話『フォルテパニック!~高級スイーツと、届かないウインク~』
「スレッタさーん。いらっしゃいますかー」
秘密基地の重い鉄扉を開け、俺は声をかけた。
「あ、隊長!おっそーい!こっちはもうMuramatsuの24Kフルートのセッティング終わってんだけど!」
ストレッタ――俺が普段「スレッタ」と略称で呼んでいるウチのフルート担当は、短いスカートを揺らしながら、いつもの強気なギャル口調でリップを塗り直していた。普段はこんな調子だが、音楽にかける情熱と、俺という隊長への”最低限の敬意”は忘れない、頼れる仲間だ。
「悪い悪い。ほら、約束のモノだ」
俺がポケットから取り出したのは、銀色に輝くトランペットのマウスピース。世界的な名手たちに愛される『オービエモデル』だ。前回、俺が嫁様に内緒でこれを調達したことがスレッタにバレた時、彼女はニヤニヤしながらこう言ったのだ。
『嫁様に内緒にする代わりにさ……
そのオービエ、ウチにも試奏させてね。
私 の 唇 で 確 か め て あ げ る 』
あの時、俺の背中に走った最悪の悪寒。
それはただの冗談として聞き流したものの、俺の本能が、二つの巨大な破滅的リスクを察知したからだった。
一つは、我が家の絶対権力者である『リアル恐妻(嫁様)』にこの密事が露見すること。
そしてもう一つは、士官学校時代の恩師であり、スレッタの父親でもあり
娘を超溺愛している、特級トランペット使い『フォルテ教官』の逆鱗に触れることだ。
スレッタは、その特級使いの父親から幼少期より凄まじい英才教育を受けて育っている。
普段は”中級フルート使い”を名乗っているが、実はトランペットを持たせても、そこらの奏者が裸足で逃げ出すほどの圧倒的な腕前を持っているのだ。
「マジで極秘調達に成功したんだ!神すぎ!」
スレッタは目を輝かせ、オービエを受け取ると、私のトランペットをぶんどって試奏しだした。
「(スーーーー……プーーーッ♪ ーーーーーーーーーッ!!)」
フルート使いの超絶な肺活量から繰り出された音圧は基地の防音壁を震わせる、あまりにも美しくツヤのあるハイトーン。
さすが特級の血筋、そして最高峰のマウスピースだ。爆速のレスポンスで、基地の空気を一瞬で支配していく。
「ヤバ……脳汁ドバドバ出るわ。ムカつくけど隊長、ありがと――」
( ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ン !!! )
突如、基地の鉄扉がヒンジごと吹き飛ぶような大爆音。凄まじい音圧のトリプルC(超高音)が鼓膜を突き刺す。
「そこにいるのは分かっているぞぉぉ!レッド隊長ォォォ!!」
「ゲッ、パパ!?何でここにいんの!?」
現れたのは、目を血走らせ、愛機ヴァンラーを構えたフォルテ司令官だった。特級トランペット使いの放つオーラは、それだけで周囲の空気を歪ませる。
「我が娘の純潔の危機を検知したのだ!
……むっ!?そのスレッタの持つオービエ……
貴様、貴様の嫁に内緒で調達した不届きなブツを、我が娘の唇に触れさせたな!!」
「ひっ……!」
俺は本能的にスレッタの背後に隠れた。
特級使いの全力ハイトーン爆撃をゼロ距離で喰らえば、俺の三半規管は一瞬で塵になる。
何より、これが自宅の嫁様に通報されでもしたら、俺の人生そのものが完全沈滅(ピアニッシモ)だ。
「ちょ、ちょっとパパ落ち着きなさいよ!」
スレッタがトランペットを構え、父親の爆音を相殺するような見事なアンサンブルをぶちかました。
流石は士官学校を優秀な成績で卒業したエリート奏者!
「これはただの音響工学的なテスト!隊長はウチの技術を信頼して貸してくれただけだし!ね、ねえ隊長!?」
「そ、そうだ司令官殿!これは、その、教官の奥様(ピアノ夫人)から頼まれた、教官の極秘調達癖を矯正するためのプログラムの一環でして……!」
俺はガタガタと震えながら、冷徹な表情を必死に作ってスマホを突きつけた。画面にはピアノ夫人の連絡先がバッチリ表示されている。
「うぐっ……!ピ、ピアノだと……!?」
特級トランペット使いの身体が、嫁様の名前を聞いた瞬間にピクピクと痙攣し始めた。
「これ以上暴れるなら、今すぐ奥様に『司令官殿がまた基地を壊して暴れてる』って直電しますからね!フリマアプリで教官のヴァンラーが即決3000円で出品されても知りませんよ!」
!!?
「それだけは……それだけは勘弁してくれぇぇぇ!!」
どんなに強大な特級使いも、恐妻の絶対零度オーラには勝てない。フォルテ教官はヴァンラーを抱きしめたままその場に崩れ落ち、そのまま蜘蛛の子を散らすようなスピードで基地から逃げ去っていった。
「……ふぅ。パパ、完全に貸し出されたチワワ状態でマジ草」
静寂が戻った基地で、スレッタはフゥと息を吐き、楽器を片付け始めた。
嵐は去った。押し問答の末、何とかごまかし切ったのだ。俺は胸をなでおろし、冷や汗を拭った。
しかし、スレッタはすぐに、あの意地悪なギャル特有の笑みを浮かべて俺にじりじりと近づいてきた。
「ねぇねぇ、隊長~?パパも居なくなったことだしさ。
さっきの『間接チス』の話、もう一回詳しく聞かせてもらおうじゃん?」
「ス、スレッタ、その話はもう……」
「顔真っ赤にしてあたふたしちゃってさー。そんなに自宅の『リアル恐妻(嫁様)』の顔が脳裏に浮かんでビビり散らかしてんの?もしウチが奥様に『隊長がウチと間接チスしてきましたー!』って直電しちゃったら、どうなるのかな~?」
「頼む、それだけは勘弁してくれ……!」
俺が情けなく頭を抱えると、スレッタは「ギャハハ!冗談だってば!」と嬉しそうに笑った。
その向こうで、彼女の瞳がほんの一瞬だけ、寂しそうに揺れたのを、俺は気づかない。
彼女がいつも俺の前でこうして元気よく、時に意地悪に振る舞うのは、
本当は恐妻家で苦労している俺を元気づけたいから。俺の力になりたいから。そして……
「……ま、隊長がそんなに奥様に一途なら、ウチの付け入る隙なんて最初からないんだけどね」
スレッタは小さく、俺に聞こえないほどの声で呟いた。
「え?何か言ったか、スレッタ」
「なーんーでーもーなーいー!ほら、次のステージのご褒美スイーツは、防府で一番高いやつ特盛で奢りね!ウチの Muramatsu と隊長のオービエの音で、次の本番もマジで最強のステージにしちゃうんだからさ!」
スレッタの少しだけ切なさを隠した悪戯っぽいウインクとともに、
冷や汗まみれのいつもの訓練は、賑やかに幕を閉じるのだった。
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第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』
楽器紹介等、音楽の話はノンフィクションです
第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』
厳しい訓練が終わり、秘密基地には私とマルちゃんだけが残った。
機材置き場のスネアドラムの上で、マルちゃんが退屈そうに尻尾を揺らしている。
彼とのこの時間に繰り広げられる音楽談義は、私にとって密かな楽しみでもある。
「ところで隊長。例のブツ……ヤマハの(トランペット)マウスピース、オービエの使用感はどうだったニャ?」
マルちゃんが上から目線で、値踏みするような視線を投げてきた。
「ああ、あれね。いや、本当に驚いたよ。今までお世話になっていたヤマハの16c4や、同等のリムサイズであるバックの1-1/2、ティルツの1-1/2あたりと比べても、とにかく吹奏感が軽いんだ。楽にハイベーまでスルスルっと出るもんだから、吹いた瞬間に驚いて思わず腰が抜けたよ」
私が興奮気味に語ると、マルちゃんはフイッと鼻で笑い、得意の音楽知識を披露し始めた。
「フン、相変わらず大げさだニャ、隊長。だが、油断するなニャ。オービエモデルは確かにコントロールしやすいが、隊長のトランペット、ヤマハのニューヨークモデルとの相性合わせもある。
体に馴染んで使いこなせるようになるまでには、何ヶ月もかかるぞニャ」
みんなには内緒だが、さすがは国に数人しかいない特級打楽器使い、
耳が痛いほど的確なアドバイスだ。
そんなマルちゃんとの音楽談義にすっかり華が咲き、私はふと思い出したエピソードを口にした。
「そういえばさ、この前、この基地があるビルの1Fのテナントに入っているタマシゲ楽器さんに寄ったときに、YTR-4335ヤマハのステューデントモデル(トランペット)をちょっと試奏させてもらったんだよね。そしたらさ……これがもの凄く吹きやすくてさ。値段は安いのに、ピストンの動きも驚くほど快適だったんだ」
そこまで話して、私の顔は急に曇った。心の中に湧き上がったある疑問が、ボソっと口から漏れ出る。
「……なぁマルちゃん。よくよく考えたら、我々ウルセンジャーの出動で演奏するのって、ミュージックエイトのアニメ曲ばかりじゃないか? 激しいポップスを長時間を演奏する耐久戦なら、今のニューヨークモデルじゃなくて、あのステューデントモデルの方が楽に吹けて合っていたんじゃ……」
私の呟きを聞いたマルちゃんは、深く頷いた。
「……それはそうニャ」
マルちゃんはここぞとばかりにうんちくを語り出す。
「ポップスとステューデントモデルの相性は抜群だニャ。管体が軽くて反応が良いから、マイク乗りもいいし、何よりバテにくい。隊長の保有する”重厚なクラシック向けのトランペット”でM8のポップスを1時間耐久するのは、ある意味で拷問だニャ」
痛いところを突かれ、俺はガックリと項垂れた。
せっかく嫁様に内緒で高級なオービエのマウスピースを手に入れたというのに、
そもそも武器(トランペット)の選択から見直すべきだったのかもしれない。
そんな私を見て、マルちゃんはスネアドラムから飛び降り、足元にすり寄ってきた。
「まぁ、買ってしまったものは仕方ないニャ。油断してバテたら、吾輩の特級ビートでカバーしてやるニャ。
それにニューヨークモデルの響きは、古き良きアメリカを想いださせてだ格別にゃー、
だから隊長、うなだれていないで、前回の極秘調達任務の報酬(焼肉)を早くもらうニャ。吾輩の腹と肉の神様が、限界を迎えているニャ」
マルちゃんなりの不器用な励ましに、私は少しだけ救われた気がした。
「またたび酒も取り寄せてるよ」
夕暮れ時の防府市。
ポケットの中にある、嫁様にバレてはいけない秘密のマウスピースの重みを感じながら、私は一匹の特級打楽器使いと共に、寂びれた夜の街へ、馴染みのことぶき(焼肉屋)へと歩き出す。
今夜のヘソクリの消え先は、正義のためではなく、マルちゃんのカルビのため。
赤く染まる夕焼け空に、私たちの影が長く、どこか哀愁を帯びて伸びていた。
第11話『フォルテパニック!~高級スイーツと、届かないウインク~』はコチラ
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第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』
第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』
※今回は、バック隊員の入隊にまつわるエピソードです
【某日:ウルセンジャー秘密基地】
「……おい、大変なことになったぞ」
レッド隊長が、カタカタと震える手で1枚の公文書を差し出した。
覗き込んだパーカッション(打楽器)担当のマルカートが、肉球で耳をかきながら冷ややかに見下ろす。
「何だにゃ隊長、またおやつの予算を使い果たしたのかにゃ?……って、これ、国立音響防衛士官学校からの『職場体験派遣状』じゃにゃーか。しかも特級トランペット使いの息子で、超エリートのバック君だにゃ! なぜうちみたいな防府の弱小部隊に来るんだにゃ!?」
その時、カチャと物静かにドアと開き、仕立ての良い学生服に身を包んだ青年――バックがパッと姿勢を正して敬礼した。
「……国立音響防衛士官学校、バック上級トランペット使い! 本日より職場体験に参りました! ……しかし、ここは国立音響防衛隊の本部ビルではなく、……防府市市民活動支援センターと言われましたが」
「ひぃっ!本物が来た!」
激しく動揺して机の下に隠れようとするレッド隊長。
「ちょっと隊長、何ビビってんの? 挨拶くらいシャキッとしなよ」
奥からポテトチップスを片手に現れたのは、フルート担当のギャル姉さん、ストレッタだ。
「あ、私はストレッタ。よろ~」
「っ、失礼します! フルート担当のストレッタ先輩ですね。……フルート使いとして超一級品の指さばき。お噂はかねがね聞いています。しかし、緊迫感ゼロ……」
バックの脳内処理が早くも追いつかなくなる。
そこへマルカートがスティックを回しながら近づいてきた。
「フン、エリート様が随分とお固いラッパを持って乗り込んできたにゃ。せいぜい吾輩のドラムのリズムに遅れずについてくることだにゃ」
「……猫!? いえ、失礼しました、パーカッション担当のマルカート先輩ですね ……しかし、あのスティックさばき、只者ではない。なのに戦いの後のご褒美の焼肉のことばかり考えているだと……!? この部隊、何かがおかしい!」
バックの常識は、音を立てて崩壊していった。
【同日午後:地元の児童館】
「ギャハハハ! 子供たちをぎゃん泣きさせてやるわい!」
不穏な声を響かせ、児童館の扉を蹴破ったのは悪の怪人たちだ。
平和な遊び場は一瞬にして戦場へと変貌し、ちびっ子たちの顔が恐怖にこわばる。
だが、誰一人として声を上げて泣き出したりはしない。
小さな拳をきゅっと握りしめ、ボロボロと涙をこぼしそうになりながらも、必死に声を堪えているのだ。
僕らが泣いたら、怪人たちの思うツボだ——そんな健気な決意が、子供たちの背中に満ちていた。
「オイオイ、今から娘とデートだっていうのに、泣きたいのはこっちだぜ!」
突如怪人たちの前に現れたレッドは、にやりと獰猛な笑みを浮かべ、いつもの軽口を叩いた。
敵の威圧感に、一歩も引く気はない。
「敵ランクはC、数は5! 弱点調律は442(Hz)!」
背後から、いつの間にか作戦立案を買って出たストレッタの鋭い声が響く。
「マルカートは最前線で弾幕を展開、全員の盾になって! あたしが敵陣を攪乱する。その間にラッパの二人は、音圧が充填しだい各個撃破!」
ストレッタの檄が飛び、レッドが力強く目くばせする。
その瞬間、戦いの火ぶたが切って落とされた。
——即席のアンサンブル。しかし、その呼吸は最悪だった。
「ストレッタ先輩、テンポが早すぎます! これじゃ空回りする!」
バックが悲鳴のような声を上げる。
戦況は一刻を争う。
「マルカート先輩、弾幕に隙ができてます!……って、あっ、よだれ!? 戦闘中に肉のこと考えないでください! 隊長も音のツボを外しすぎです、これじゃあハーモニーが……っ!」
士官学校で叩き込まれた、模範通りの正確無比な旋律。それを刻もうとするバックの焦りを嘲笑うかのように、敵の猛攻が襲いかかる。
凸凹な演奏では、押し寄せる暴力の波を食い止められない。
一歩、また一歩と後退を余儀なくされる。
完全に戦線の崩壊、絶体絶命の危機。
「くそっ……! 僕は、士官学校の面汚しとしてここで終わるのか……!」
その時、レッド隊長がズレたピッチのまま、ワハハと豪快に笑った。
「バック君! 音楽ってのはな、譜面通りに吹くのが全てじゃないんだよ。何とかなるさ!」
その言葉に呼応するように、マルカート隊員もニヤリと鋭い牙を覗かせ、ドラムを激しく叩き出す。
「そうだにゃ! ぐだぐだ言ってないで、僕のビートに心を合わせるにゃ! 終わったらカルビとタン塩が待ってるんだにゃー!」
「バック、首席の意地を見せてみろにゃん!」
「なっ……何とかなるわけが——」
言いかけたバックの耳に、レッド隊長のトランペットの音が飛び込んできた。
技術は未熟。音もかすれている。
しかし——それは、聴く者の心をじんわりと温め、包み込むような、圧倒的な「陽のエネルギー」に満ちた音響弾だった。
教科書には決して載っていない、魂を揺さぶるヒーローの音だ。
「これならどう!?」
ストレッタが放つ華やかなトリルが敵の感覚を狂わせて翻弄し、
よだれを拭ったマルカートは「最初からやれよ!」と突っ込みたくなるほど見事なスティックさばき生み出した音響弾で、敵の逃げ道を完全に塞いでいく。
バラバラだったはずの音が、お互いの魂を補い合うようにして一つの巨大なうねりとなっていく。
「……これが、ウルセンジャーの音楽……!」
胸の奥から湧き上がる熱い衝動に突き動かされ、バックは無意識に楽器を構えていた。
狙うのは完璧な芸術ではない。
目の前の子供たちを救うための、ただ一つの「正義の音」だ。
バックは泥臭く、先輩たちに負けじと夢中でトランペットを吹き鳴らした。
4人の音が重なり、かつてない至高のハーモニーが児童館に響き渡る。
子供たちの心を打った音響はそのままダイレクトに怪人たちを討ち
派手な大爆発とともに塵ひとつ残さず退散していった。
静寂の後――。
「わあぁぁぁーーっ!」
子供たちが、一斉にバックの元へと「もぶりついて(群がって)」きた。
「お兄ちゃんカッコいい!」「ラッパすごかった!」
小さな手がバックの服を掴み、満面の笑顔が弾ける。
これまで母・シルキーの厳しい教えのもと、コンクールで完璧な演奏をし、満場の拍手をもらったことは何度もあった。しかし、こんな風に、自分の音が直接誰かを笑顔にし、肌で感謝されたことなど一度もなかった。
(ドクン……!)
バックの心臓が、まるで物理的に貫かれたかのように激しく脈打った。
「私が……本当に求めていた音楽は、ここにあるのかもしれない」
【後日談:国立音響防衛士官学校・教官室】
「――であるからして、我が校の訓練生は常に規律を重んじ、完璧な音響防衛を……」
学生たちから「生きた伝説」と恐れられ尊敬を集める、
特級トランペット使いでもあるフォルテ司令官は、教壇で厳格に言い放っていた。
――しかし、デスクに戻り、京都の名門、轟雷流の師範であるシルキーからの着信画面を見た瞬間、彼の顔から血の気が引いた。受話器を取る手はガタガタと震えている。
「もしもし、フォルテ司令官。うちのバックがお世話になってます。……ところで私の聞き間違いかしら? うちの子が、国立音響防衛隊ではなく、山口の……何とかレンジャーというちんけな所に行っているそうやけど?」
受話器の向こうから、国に数名しかいない上級トランペット使いとしての、凄まじいプレッシャーを含んだ、美しくもトゲのある京都弁が伝わってくる。
「ひっ、は、はいぃっ!! シルキー師範、本当に申し訳ございません!! 音楽戦隊ウルセンジャーであります! すべては私の事務手続きミス、完全に私の書類の誤発送が原因でして……! け、決してわざとではございません、どうかお許しをぉぉ!!」
さっきまでの鬼司令官のプライドはどこへやら、完全にタジタジの平身低頭である。
しかし、フォルテ司令官は冷や汗を拭いながら、恐る恐る言葉を続けた。
「そ、それでお伝えしづらいのですが……あそこの『レッド隊長』、実はシルキー師範が幼少期に京都へ留学させて徹底的に鍛え上げられた、あのお弟子のレッド君だそうでして……。今でもシルキー師範の名前を聞いただけでトラウマが蘇り、ガタガタ震えて夜も眠れなくなるほど恐れているあの男です」
「……あら、私の可愛い弟子(レッド)のところへ行ったのね。ふふ、あの『長州の虎』と恐れられたあの子の母親から『ウチのかわい子ちゃんをよろしくねっ』って泣きつかれ、ウチへ音楽留学させてあげたのに……。私のあの完璧なシゴキに耐えかねて、逃げ回って……今度は私の息子までたぶらかすやなんて、随分とええ度胸してはるわ」
トゲのある嫌味な言い回し。しかし――その声の奥には、今は亡き戦友(長州の虎)への義理と、必死に育てた教え子を温かく見守るような優しさが滲んでいた。
「面白いじゃない。私の教え(芸術)よりも、あの逃げ出した弟子の泥臭い音を選んだというのね。……近いうち、そのウルセンジャーの秘密基地とやらへ、私も直接『挨拶』に伺うとしましょう。あの子がどんな音を出すようになったか、この目で確かめてあげんとね」プチッ、と通話が切れた。
「あ、頭が痛い……バック君、早く帰ってきてくれ……!」
フォルテ司令官は教官室の机に突っ伏し、己の痛恨の事務ミスを本気で呪うのだった。
【エピローグ:戦いの後の打ち上げ・焼肉屋にて】
「にゃはー! やっぱ戦いの後のカルビとタン塩は最高だにゃ!」
網の上で煙を上げるお肉を、マルカート先輩がものすごい勢いで肉球トングを使って皿に引き上げていく。
「ちょっとマルカート、私のハラミ取らないでよー!」とストレッタがフルートを吹くような素早い箸さばきで応戦している。
「ワハハ! みんな今日はお疲れさん! バック君もたくさん食べなさい!」
レッド隊長が豪快に笑いながら、バックの皿に次々とお肉を放り込んだ。
バックはそのお肉をじっと見つめた後、箸を置き、すっと居住まいを正した。
その真剣な空気に、網の上の肉を奪い合っていた先輩たちも思わず手を止める。
「レッド隊長。そしてストレッタ先輩、マルカート先輩」
バックは3人の目を真っ直ぐに見つめ、ハキハキとした、しかし決意に満ちた声で告
げた。
「私は今回の職場体験で、自分が本当に吹きたかった『音』を見つけました。ですので……
私は士官学校を卒業したら、国立音響防衛隊ではなく、
この音楽戦隊ウルセンジャーへ正式に入隊します!」
「「「…………えええええええーーーっっっ!!!???」」」
静まり返る焼肉屋に、ウルセンジャー3人(1匹含む)の大絶叫が響き渡った。
「え、エリートがうちに就職!?」と目玉を飛び出させるレッド隊長。
「マジで!? ギャルとエリートのコンビ結成じゃん!」とはしゃぐストレッタ先輩。
「正気かにお前!? うちの薄給じゃ、お前の吹いてるお高いラッパのメンテナンス代すら出ないにゃーーー!!」とホルモンを喉に詰まらせかけるマルカート先輩。
大パニックに陥る先輩たちをよそに、
バックは初めて、フッと満足そうな優しい笑みを浮かべるのだった。
ここからウルセンジャーの新たな歴史が始まる……!
第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』はコチラ
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/posts/blog11.html
音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html
第8話『落ちこぼれ隊長と、上から目線の猫』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第8話『落ちこぼれ隊長と、上から目線の猫』
※今回は、まだ秘密基地も無かったウルセンジャーの初陣と、ストレッタ隊員の入隊にまつわるエピソードです
山口県防府市の商店街にある天神ピア2F、まだ看板を掲げたばかりの小さな一室。ここが「民間音響防衛隊・音楽戦隊ウルセンジャー」の準備室だった。
「よし! これで防府市教育委員会からの正式な任命書も届いたぞ。いよいよ我がウルセンジャーの本格始動だ! ……と言いたいところだけど、まだメンバーがこれだけなのは、さすがにちょっと寂しいな。なぁ、マルちゃん?」
俺は机の上の書類を愛おしそうに見つめながら、部屋の隅で丸くなっている唯一の隊員に声をかけた。
地元の公的機関(教育委員会)からの切実な依頼――それは、「子供たちの心に巣食う悪のみなさんを倒し、笑顔を守ってほしい」というものだった。断りきれずに結成した形のレッド隊長だったが、集まった機材はまだ少なく、隊員にいたってはたったの”にゃんこ一匹”しかいなかった。
「ふん、何を頼りない声をあげているのニャ、隊長」
ふにゃりと髭を揺らし、上から目線で応えたのはマルカート隊員だ。
「吾輩……マルカート様が最初からいてあげるだけでも、感謝の涙を流すべきだニャ。悪の気配など、吾輩のドラムで吹き飛ばしてあげるニャ!」
「ははは、頼もしいよ、マルちゃん! でもね、子供たちの心に巣食う悪は手ごわいんだ。ただ音を鳴らすだけじゃダメなんだよ。子供たちの心に直接『正義の音の響き(音響)』を届けなきゃいけないんだから」
「チッチッチ、甘いニャ、隊長。子供たちの心を救うには、まず吾輩のような完璧な存在が上から力強く導いてあげるのが一番だニャ。お遊戯やダンスだって、吾輩の完璧なリードがあれば、子供たちも自然と笑顔になるに決まっているニャ!」
「マルちゃんはいつも自信満々だなぁ。でも、その『マルカート(一つ一つの音をはっきりと力強く)』な姿勢、嫌いじゃないよ。まずはブログの『隊長日誌』を書いて、これからの活動を地域のみんなにアピールしていこう!」
「ふにゃん、日誌の更新くらいなら付き合ってあげてもいいニャ。さあ隊長、さっそく作戦会議(とおやつの時間)を始めるニャ!」
こうして、一人と一匹の奇妙な防衛隊が産声をあげたのだった。
『鬼司令官からの「最強の助っ人」』
しかし、のんびりとした作戦会議はすぐに破られることとなる。
防府市の教育委員会から、とある幼稚園に「悪のみなさん」が現れたという、緊急の討伐依頼が舞い込んだのだ。
「うう、ついに初任務だけど……相手は『悪のみなさん』だぞ。僕たち2人(?)だけで本当に勝てるのかな……。俺は士官学校を卒業したとはいえ、初級トランペット使いの資格ギリギリで通った超・落ちこぼれだし……不安だ、不安すぎる!」
「何をガタガタ震えているのニャ、隊長! 吾輩という偉大なマルカート様がいれば、”悪のみなさん”など一ひねりニャ。ま、吾輩は元野良猫だから、戦術の指揮はそっちに任せるけどニャ。士官学校で叩き込まれたんダロ、しっかりするニャ!」
「だ、ダメだ、このままじゃ子供たちの笑顔を守れない! ……こうなったら、あの
人に頼るしかない!」
俺は震える手で、士官学校時代の恩師であるフォルテ司令官に通信を繋いだ。
画面に映ったのは、筋骨隆々とした厳格な佇まいの鬼司令官だ。
「――どうした、レッド! 貴様が民間防衛隊を立ち上げた噂は聞いているぞ。
かつて最前線でSランクの『白虎』を追い詰め、国を護り抜いた貴様の母上殿……俺の誇るべき戦友でもあった『長州の虎』も、
空の上できっとその奮起を喜んでおられるはずだ。
スカーレット殿は、音響防衛隊でも100年に1度といわれる逸材でな。
温かくみんなを包み込むドラムの連撃(弾幕)で味方を守り、返すスティックで正確(マルカート)に敵を打ち抜いておった。
戦場では誰よりも多くの命を救い、
誰よりも多くの敵を倒した、本当に凄まじい人だった。
……だが、日常のあの方はいつもウフフとはにかむように笑う、実に柔和な人でな。
俺のこの体をまじまじと見ては、『フォルテ司令官、その筋骨隆々の筋肉は見せかけだけではないんでしょ〜?』などと、若い母親が赤ちゃんに話しかけるような穏やかな口調で俺をからかうのだ。
野営地でも、誰もに
“私のかわいこちゃんを見てください”と貴様の写真を自慢しては、
『あの子優しい子なので、シルキー師範の所へ預けて大丈夫だったんでしょうか〜、少し不安ですぅ』『もうすぐ休暇ができます、あの子に逢えるのが楽しみです〜』
……と、愛おしそうに目を細めておられたよ。どこにでもいる、本当に普通のお母さんだった。
貴様が母上の墓を護るために防府へ戻ったことも、すべて分かっておられるはずだ。
――んっ、いかんいかん! 俺としたことが、昔話に話がそれてしまった!
だが、その情けない声は何だ!」
「……司令官殿、 実は防府市の幼稚園に『悪のみなさん』が出現し、討伐依頼が来たのです! ですが、我が隊はまだ僕とマルカート隊員の2人だけ。俺の落ちこぼれトランペットでは、子供たちを守りきれるか自信がなくて……。どうか、司令官殿のお力を貸していただけないでしょうか!」
フォルテ教官は、教え子のピンチを放っておけない人情深い漢(おとこ)だった。しかし、申し訳なさそうに眉をひそめる。
「……むう。レッド君、力を貸したいのは山々だが、今、国からも『悪のみなさん』の大規模組織への討伐依頼が入っており、私も学生たちのおもりと前線指揮で完全に手が離せんのだ……!」
「そんな……! 司令官殿がダメなら、もうおしまいです……」
絶望するレッド隊長。
しかしその時、フォルテ司令官の脳裏にある一人の人物が浮かんだ。自宅の居間でスマホをいじりながら「ウケる~」と爆笑している、愛娘の姿が。
「……待てよ。レッド、我が娘のストレッタをそちらに派遣する!」
「えっ!? ストレッタさんって、あの士官学校を優秀な成績で卒業し、中級フルート使いの資格を持ちながら、国立音響防衛隊へのエリート推薦を蹴ったという……?」
「そうだ。あやつは『音を磨くより女(ギャル道)を磨く!』などと言って、今は自宅を拠点にフリーターとしてぶらぶらしおって……。教官としてはあの怠惰な生活は断じて許せん!
だが……まぁ、可愛い娘が常に目の届く実家にいるというのは、親としては非常に安心だったのだがな……
ゴホン! とにかく、あやつのフルートの腕は本物だ!」
「フン、ギャルだか何だか知らないが、”足手まとい”は困るニャ。だいたい、吾輩たちの神聖な準備室に若い女を入れるなんて、邪念が入るんじゃニャいのか?」
画面の向こうで、フォルテ教官が不敵に笑った。
「ふはは! 心配無用だ、そこの猫君! レッドはすでに妻帯者であり、貴様は元野良猫だ。娘に手を出す不届き者がいないという点でも、ウルセンジャーは最高に安心な派遣先なのだ!
ストレッタには今から無理やり防府市へ向かわせる! いいな、レッド、あやつをしっかり扱き使ってくれ!」
「は、はい! ありがとうございます、教官殿!」
それからしばらくして・・
バタン!と勢いよく準備室のドアが開いた。そこに立っていたのは、派手なメイクに身を包み、金色の輝くフルートをマイクのように持ったギャル――ストレッタだった。
「ちわーす! パパに『防府市で激アツなフェスがあるから行ってこい』って騙されて旅行先の宮島(広島)から来たら、なんか超ショボい部屋なんですけどー!
つか、あんたがパパの言ってた落ちこぼれのレッド隊長? ウケる、超弱そうじゃん!」
「ニャ、ニャんだこの生意気な女は……! 吾輩に向かって挨拶もしないなんて、上から目線がなっとらんニャ!」
「あ、ヤバい、喋る猫ちゃん超かわいー! ウチ、ギャル道極めてるから、戦闘でもエグい音色響かせるんでヨロシク☆ さ、早くその『悪のみなさん』ってやつ、ぶっ潰しに行こ!」
「う、うん……! ストレッタさん、よろしくね。
よし、マルちゃん、ストレッタさん、幼稚園の子供たちを救うために、ウルセンジャーの初陣だ!」
『グダグダの初陣と、ギャルマシンガンの洗礼』
「遅いぞぃ、音術師のみなさん。待ちくたびれたぞぃ」
園庭を占拠するボス怪人と、その配下2名。
子供たちの心を依り代にするため、人質への直接攻撃はしてこない。
だが、その代わりに彼らが狙うのは、最大の障害である音術師たち。
こうして罠を張って待ち受ける姿は、まさに強者の余裕だった。
「悪いなパーティーに遅れて! うちのお嬢さんがドレスを選ぶのに時間がかかっちゃったのさ!」
ハッタリこそレッドの真骨頂。相手の威圧感を跳ね返すように、威勢よく啖呵を切る。
その横で、ストレッタは必死に脳内ディスプレイを回していた。
(人数は3、ランクはC。おそらく近接タイプ。……よし、敵の弱点周波数(Hz)を特定して、有効なコード進行を割り出して――)士官学校で叩き込まれた戦術データが、彼女の脳内に次々とポップアップする。――が、その解析率が「70%」を示した、まさにその時だった。
「そこまでだ! 子供たちの笑顔は僕たちが守る! 音楽戦隊ウルセンジャー、参る!!」
「えっ、ちょっと隊長!? まだ解析が終わって――!?」
ストレッタの制止も虚しく、完全にテンションの上がったレッドは、愛用のヤマハ・ニューヨークモデルの引き金をいきなりぶっ放した!
先制の音響弾が火を噴く――はずだった。
――スーーーーっ、ぼふぇ、プスプスプス……。
園庭に鳴り響いたのは、全米が脱力するような、あまりにも気の抜けた異音。
ド派手な爆発を警戒して身構えていた怪人たちも、あまりの拍子抜けに「おっとっと」とズッコケそうになりながら、ピタリと動きを止めた。
「「「えっ……今の、攻撃したつもり?」」」
怪人のボスとストレッタの突っ込みが、見事なまでのハモりを見せる。
「ちょ、マジで!? 隊長の演奏、音程迷子すぎて草も生えないんですけど! てかフライングしてこれ!? 士官学校どうやって卒業したわけ!?」絶望に頭を抱えるストレッタ。
しかし、当の本人は「いい音が出たぜ」と言わんばかりのドヤ顔を浮かべているのだった。
「あはは! おかしいな? でもまぁ、何とかなるさ! マルちゃんや優秀な君もいるし、音楽はハートだからね!」
「隊長、相変わらずの落ちこぼれっぷりニャ。まぁいいニャ吾輩が本気を出して片付けるニャ! これで見事勝利したら、今夜の打ち上げは特上カルビ山盛りの焼肉で決まりニャ!」
「不純! 動機が肉オンリーで超不純なんですけどー!?」
戦闘はまさにグダグダの極みだった。
レッド隊長の外れまくった演奏を、マルカート隊員が「すべては特上カルビのため」と、”隠された実力”でさりげなくフォロー。そこにストレッタの正確で鋭いフルートの旋律(音響弾)が重なり、なんとか怪人を退散させることに成功したのだった。
「……ねぇ。今から反省会するから、そこ座って」
無事に防衛隊準備室へと帰還した一同。のんきに笑うレッド隊長とお腹を鳴らすマルカート隊員の前に、ストレッタが静かに立ちはだかった。
その目は一切笑っていない。
「え? 反省会? まぁまぁ、ストレッタさん、勝てたんだから結果オーライだよ。僕のじいちゃんも『良い加減にやるさ』って……」
「は? 良い加減とかマジであり得ないし!!」
ドカン! と、ストレッタの怒りが大爆発した。
士官学校を優秀な成績で卒業したエリートとしてのプライドが、この信じられない”ぶっつけ本番”の戦いぶりに黙っていられるはずがなかった。説教がヒートアップするにつれ、彼女の口からは早口のギャル語マシンガンが超高速で掃射され始めた。
「つーかさぁ! 何あのぶっつけ本番!? 幼稚園に現れた怪人の戦力分析とかガチでゼロだし! 作戦も何も戦略も戦術もなきゃ戦いのリズムもズタズタでマジウケるんだけど!
っていうか先輩のトランペット、ぶっちゃけ近所迷惑レベルだし! 本当に士官学校卒業できたのマジで謎!猫ちゃんも肉のことしか考えてないから技のタイミング激ズレだし!
ウチの超完璧なフルートの旋律が台無しじゃん! これじゃ防衛隊じゃなくてただの騒音泥仕合なんですけどー! どんだけ~! あり得な~い! マジ無理ー!」
激しい弾丸のような言葉の数々が、容赦なくレッドとマルカートを貫いていく。
しかし、当の二人にはまったくダメージが入っていなかった。
マルカート隊員は、(うにゃぁ……耳が痛いニャ。でもボクの頭の中は、今から行く焼肉のタレの匂いでいっぱいニャ。ハラミ、タン塩、カルビ、ニャフフ……)と、完全に意識を肉へと飛ばしている。
レッド隊長にいたっては、「あはは、ストレッタさん早口だなぁ。でも大丈夫、何とかなるさ!」と、どこまでも楽観的につぶやく始末だった。
反省の色が1ミリもない二人を前にして、ストレッタはついに天を仰いだ。
そして、中級フルート使いとしての超絶的な肺活量をフルに活かし、複式呼吸で部屋全体の空気をすべて吸い込むかのような勢いで、深く、深い深いため息をついた。
「はぁあ~~~~~~~~~~~~~~っ……」
(……嗚呼。この人たち、ウチがいないとガチで明日にでも全滅するわ。絶対に大丈夫じゃない、これ……)
一瞬、絶望の静寂が室内に流れる。しかし、ストレッタはすぐにフッと融和な笑みを浮かべると、呆れ果てた顔のまま、二人に向かってパチンとウインクしてみせた。
「ま、いっか♪ 分かった、ウチがウルセンジャーに入隊してあげる! パパの言ってた社会勉強って、こういうことね!」
「えっ!? 本当かい!? ストレッタさんが入ってくれたら百人力だよ!」
歓喜するレッド隊長に、ストレッタはビシッと指を突きつける。
「その代わり、あんた達、覚悟しなさいよ! 明日からウチの超スパルタ鬼レッスンが始まるから! ……あ、それと隊長。ウチのこと『ストレッタさん』ってさん付けで呼ぶの、マジで他人のサークル感あってテン下げだから禁止。これからは呼び捨てで『ストレッタ』って呼んでよね!」
「ええっ!? 司令官殿の御息女を呼び捨てだなんて、恐れ多くて……」
レッド隊長は困ったように頭を掻き、それから名案を思いついたように顔を輝かせた。
「それにさ、『ストレッタ』ってちょっと長くて呼びづらいなぁ。。
よし、これからは『スレッタ』ね!」
「はぁ!? スレッタ!? 誰がアニメの主人公よ! 略し方雑すぎだし! ウチはスト・レッ・タ!」
「いいんじゃニャいか、スレッタ。それより隊長、早く焼肉に行くニャ。ボクのお腹と背中がくっついちゃうニャ!」
「ちょっと、猫ちゃんまでスレッタって呼ぶなーーー! っていうか反省会はまだ終わってないんですけどー!」
ギャルなフルート使いの悲鳴が響く中、
こうして民間音響防衛隊ウルセンジャーに、待望のツッコミ&実力派メンバーが加わった。
落ちこぼれトランペット使いのレッド隊長、
不純な動機と”実力を隠している”マルちゃん隊員、
そして二人を引っ張る強気なギャル・スレッタ隊員。
この凸凹トリオが奏でる、防府市の平和と子供たちの笑顔を守るための協奏曲は、まだまだ始まったばかりである。
第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』はコチラ
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/posts/blog10.html
音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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第7話『最強の狂詩曲(ラプソディ)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第7話『最強の狂詩曲(ラプソディ)』
「——カツン」
「——コツン」
音楽戦隊ウルセンジャーの秘密基地。
訓練場の防音ガラスの向こうから、性質の違う二つの足音が、
全く隠していないその圧倒する覇気(オーラ)により、恐ろしいほどの規則正しさで近づいてくるのが分かった。
一つは、絶対的な規律を感じさせる、エレガントで重厚なヒールの音。
もう一つは、寸分の狂いもない拍子(テンポ)を刻む、凛とした草履の音。
「……ッ!」
訓練中で楽器を構えていた俺、バック、マルカート、そしてストレッタの全員の動きがピタリと止まった。
流れる冷や汗が床に落ちる音すら聞こえそうなほどの静寂。部屋の気圧が急激に跳ね上がり、
これから訪れる危機を予感させた。
防音室の重い気密扉が、音もなく開く。
「あら、ごきげんよう、シルキー師範。まさかこんな山口の辺境の基地でお会いするなんて、奇遇ですわね」
「これはこれは、ピアノ夫人。お珍しいお越しどす。名門士官学校の奥様が、このような泥臭い遊撃隊の詰所に何の御用どす? もしや、あの出来損ないの旦那様(フォルテ司令官)でも探しに来はったん?」
そこに立っていたのは、ストレッタの母親であり最高司令官の妻である「ピアノ夫人」と、
バックの母親であり、俺の幼少期の師匠「シルキー師範」の二人だった。
「……マ、ママと……バックの母上……!?」
ストレッタのギャル気が完全に消滅し、あのプライドの高いエリートのバックですら、愛機『BACH』を握ったまま直立不動で硬直している。
世界を震撼させる「二大巨頭」が、ウルセンジャーの秘密基地で鉢合わせてしまったのだ。
「ええ、うちの主人(フォルテ司令官)が大変ご迷惑をおかけしたみたいで。でも、もうお家に連れ戻しましたわ。お買い物係がいなくて困っていましたの。シルキー師範こそ、大層な国立音響防衛隊の査察をお放り出して、こんなお遊びの場所に何の用かしら?」
ピアノ夫人はフワリと上品な微笑みを浮かべながら、基地の応接スペースのソファーに優雅に腰掛けた。
「お遊びやなんて、人聞きの悪い。私はただ、昔『厳しい修行』から逃げ回っていた落ちこぼれの弟子(レッド)と、名門の誘いを蹴った大馬鹿者の息子(バック)が、どんな『下手くそな音楽』でちびっ子を騙しているのか、見物に来ただけどすえ」
シルキー師匠もまた、完璧な京美人の笑みを湛えたまま、対面のソファーへと滑り込む。
相変わらず目は笑っていない。
二人のマダムが、静かにお茶を淹れ始めた。
お上品なトーンの標準語と、皮肉の効いたおっとりとした京都弁。
その言葉の応酬が交わされるたびに、周囲の空気がパキパキと凍りついていく。
「まぁ、このお紅茶、随分と大雑把な淹れ方ですこと。さすがは僻地の詰所、お里が知れますわね。……でも、うちのストレッタが、少しはマシなフルートを吹けているようで安心しましたわ。じゃじゃ馬で手はかかりますけれど、誰かさんに似て『おせっかい』だけは一人前ですの」
ピアノ夫人はカップをそっとソーサーに戻した。カチャリ、と繊細な音が響く。
「おやおや、お紅茶の味が分かりはるやなんて、さすがは上流階級の奥様どすな。うちのバックも、譜面通りの完璧なだけの音楽に飽き飽きして、こちらの『泥臭い熱さ』に絆されてしまったようで。あの子、口は悪おすけど、本当は誰よりも隊長さんの『正義の音』を信頼していますのえ。本当に、不器用な遺伝子は父親譲りで困りますわ」
シルキー師匠は扇子でトントンと膝を叩きながら、はんなりと目を細めた。
訓練場の中で、俺とバック、ストレッタ、そしてマルカートは完全に射すくめられていた。
隙が、一切ない。
二人の放つ覇気は、「悪のみなさん」の幹部が束になってかかってきても一瞬で消滅するレベルだ。
マルカートにいたっては、野生の生存本能で完全に気配を消し、ぬいぐるみのようにお座りしている。
(みんなには内緒にしているけど、お前は国内最高峰の『特級打楽器使い』だろーが!)と、俺は心の中で激しく叫んだ。
しかし、このままではこれからの訓練に支障が出てしまう。
何より、味方全体の精神衛生上もよろしくない。
訓練の士気が完全に崩壊する前に、この場を切り抜ける突破口を開く必要があった。
「マダム達。授業参観(ササツ)のお礼に、お子さん達が日頃の成果を一曲、披露したいと申しております」
俺は中世の宮廷執事も顔負けの、泥臭くも最高級の礼節を尽くしたお辞儀(ボウ・リスペクト)で彼女達を正面から迎えた。
対面する二人のマダムは、優雅に、そして完全に目は笑っていない極上の笑顔で小さく頷いた。
そのプレッシャーだけで、俺の愛機(ヤマハ・ニューヨークモデル)のピストンが恐怖で固まりそうだ。
「……おい、バック、スレッタ、マルちゃん」
俺は唇をほとんど動かさずに、超小声でメンバーへ囁いた。
「この絶望的な戦局を打破するぞ。フォーメーション――『鶴翼の陣』だ」
音響範囲(面制圧)の広いドラムのマルカートを中央の要(ハブ)に据え、一撃必殺の最大火力を持つ俺とバックのトランペットを両翼に配置。
そして、超高速連弾(遊撃)が得意なストレッタのフルートで相手の視線(ヘイト)をかく乱する、
我が隊の常勝の陣形だ。
「……数2。脅威度は『ランクS』相当。戦闘スタイルは完全未確認。有効音響周波数、!?440ヘルツ(Hz)……」
バックが眼鏡の奥の瞳を激しく動かしながら、的確かつ冷徹に相手の戦力を分析していく。
その声は、実の母親のオーラに完全に直立不動になりながらも、士官学校首席の意地を保っていた。
「……隊長、アカデミーの教科書(タクティクス)通りに判断するならば、ここは全滅を避けるための『戦術的休符(フェルマータ)』――すなわち、血の涙を流して即時撤退すべき局面です!」
マダム達の心の満足を得る有効な音響弾(選曲)が、普段のポップス用ではなく、不慣れな「クラシック仕様(重厚な響き)」であることに、一瞬だけ俺の脳髄のチューニングが狂いかける。
……だが。「フッ、教科書通りにいかないのが現場(ステージ)さ。何とかなるさ」俺はマダム達に舐められないよう、アメリカ戦争映画の上官風の不敵な笑みを唇に浮かべた。
「子離れできない偉大なお母様方に、そろそろ満足してお引き取りいただくぞ。……みんな、音合わせ(チューニング)の狂いは即、自爆を意味する。全員生きてステージを完遂しろッ!」
――ドン!!!
俺の鋭いカットイン(合図)とともに、中央のマルちゃんが放ったドラムの重低音(ソニック・ドライブ)が爆発した。
つい一秒前までぬいぐるみのフリをして死んだ魚の目をしていたとは到底思えない、空間の分子をねじ伏せるような圧倒的な音圧が、絶対零度まで下がった秘密基地に温もりを与えていく。
俺のヤマハ・ニューヨークモデルと、バックのBach 180ml37GPが、一糸乱れぬ完璧なオクターブでユニゾンを奏でる。
そこに、ストレッタの輝かしいMuramatsuフルート24Kモデルが、まるで見事な装飾音のように鮮やかに絡み合っていく。
それは、お遊びの音楽などでは決してなかった。
シルキー師匠の厳しい教え、マルちゃんの躍動するリズム、ストレッタの超絶フィンガリング、そしてバックの熱い想い――
すべての想いが乗った、完璧を超えた『正義の響き』だった。
演奏が終わった。
作戦室に、ふたたび静寂が戻る。
ソファーの上の二人のマダムは、しばらく無言で俺たちの演奏を見つめていた。やがて、ピアノ夫人がクスリと上品に笑った。
「……あら。少し見ないうちに、ずいぶんと素敵な音を出すようになったじゃない。ストレッタ、あなたのフルート、昔よりずっと優しく聴こえたわよ」
「……」シルキー師匠もまた、満足そうに微笑みながら立ち上がった。
「レッド隊長はん、バック。
……下手くそなりに、人の心を動かす音というものが、ようやく分かってきたようどすな。
『弘法筆を選ばず』と言いますけど、そのオービエモデル、今のあなたにはよう似合っていますえ」
二人の言葉の奥にある、氷をも溶かすような温かい「親心」。
技術や規律に厳しい二人だからこそ、俺たちがこの場所で仲間と共にどれだけ成長し、どれだけ本気でちびっ子たちのために音楽と向き合っているか、全てを理解してくれていたのだ。
「さあ、ピアノ夫人。お茶も頂きましたし、そろそろ帰りまひょか。これ以上いると、子供たちの邪魔になりますえ」
「ええ、そうですわね、シルキー師範。……みんな、これからも地域の平和と、ちびっ子たちの笑顔をしっかり守りなさいね。
もちろん、お財布の規律も守るのよ?」
ピアノ夫人が俺にチラリと向けた冷徹な視線に、
俺は(はい! 嫁様に内緒の極秘調達は二度としません!)と、心の中で直立不動の敬礼を送った。
二人の最強のマダム達は、再び「カツン、コツン」と美しい足音を響かせながら、優雅に秘密基地を去っていった。
「……ふぅ。命拾いしたにゃん」
久しぶりにまじめに叩いていたマルちゃんが、ヘナヘナと床にへたれ込む。
「最高にイケてる演奏だったじゃん! ウチらマジ最強!」
ストレッタがいつものギャル姉さんに戻って、満面の笑みでハイタッチを求めてくる。
「ええ。母上たちの前でこれだけの演奏ができたなら、もう僕たちに恐れるものは何もありませんね」
バックが誇らしげに愛機(トランペット)を掲げ、不敵に笑った。
最高司令官(フォルテ)の家出居座り騒動から、最強のマダムたちの電撃襲来まで。全ての過酷な試練(家庭内紛争)を乗り越えた音楽戦隊ウルセンジャーの絆は、もう誰にも壊せない。
「よし、みんな! 次の最前線(幼稚園)へ出動だ!
最高の『正義の音』を、ちびっ子たちに届けに行こう!」
「「「「オーーーッ!!!!」」」」
カオスを乗り越えた防府の青い空へと、俺たちのファンファーレが、どこまでも、どこまでも熱く突き抜けていった。
第8話『落ちこぼれ隊長と、上から目線の猫』はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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第6話『絶対防衛線の崩壊と、最強の指揮官(マダム)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第6話『絶対防衛線の崩壊と、最強の指揮官(マダム)』
フォルテ司令官が我が家に帰れなくなり、
秘密基地のソファに居座ってから三日が過ぎた。
基地の空気は最悪だった。
なぜなら、暇を持て余した司令官が、24時間体制で俺たちの粗探し(査察)をしてくるからだ。
「おいマルカート! さっきからピッチがコンマ数ヘルツ高いぞ! 緊張感が足りん!」
「バック! トランペットを磨く暇があったらロングトーンだ! 己の音を磨けッ!」
「レッド! 学生時代に唇立て伏せをサボっていたツケが回ってきたようだな、基本がなってない!」
防音室のソファにどっかりとふんぞり返り、我が物顔で怒号を飛ばす鬼教官。
ここはウルセンジャーの神聖な作戦本部であって、士官学校の練兵場ではない。
だが、家を追われた居候による「暇潰しという名の猛特訓」は容赦なく続いていた。
このギスギスした暗黒空間に、ついにあの隊員が真っ向から噛みついた。
「おい、そこのでっかいおじさん。うるさいんだにゃん」マルカート隊員である。
彼はどこからか拾ってきた安物の愛機『Donner(ドナー)DED-80』のスティックを愛おしそうに撫でながら、上から目線の鋭い眼光を教官へと飛ばした。
「吾輩の完璧なマルカート(はっきりとした音)にケチをつけるとは片腹痛いわ。
だいたい、自分の家を追い出された居候のくせに、偉そうに指図するんじゃないにゃん。
ここは吾輩たちの神聖な詰所だにゃん!」
「な、何だとォ!? 貴様、最高司令官に向かってその口の利き方は――」
怒りで顔を真っ赤にする教官。
だが、野良上がりのにゃんこちゃんには、軍の階級も生きた伝説の肩書きも、一切通用しなかった。
「吾輩は士官学校なんて通ってないにゃん! 生粋の野良にゃん!」
マルカート隊員は冷たく鼻を鳴らす。
「それにパーカッション(打楽器)にコンマ数ヘルツのピッチを求めるな! にゃん!」
「はいはい、おじさん落ち着いて? 怒ると血圧上がってマジ頭髪にくるよ?」
ギスギスした空気を切り裂いて、秘密基地の重厚なハッチがバァン! と派手に開いた。
現れたのは、24Kゴールドフルートを担いだストレッタ隊員――そう、この目の前のダメ親父の実の娘である。
強気なギャル姉さんは、腰に手を当てて仁王立ちした。
「ちょっとパパ! マジ何してんの? ウチを実質クビ(家出)になったからって、私たちの秘密基地を不法占拠とか超ウケるんだけど! 娘としてマジで恥ずかしいから、秒で荷物まとめて出てってくんない?」
「ス、ストレッタ……! お前、最高司令官である父親に向かってそのギャル語はなんだ! そもそも、お前がママに『パパが内緒で高いラッパ買った』と目視でチクらなければ、私は今頃リビングの床暖房の上で――」
「はぁ? ヴァン・ラーとかいう超高級ラッパを内緒で買う方が、倫理観バグってて草なんですけど! ママの怒りゲージ、今マックス通り越して虚無だからね?
っていうか、今夏だし床暖房とか意味不!」
ストレッタの超早口なギャル語マシンガンに、あの鬼教官が完全にタジタジになっている。
その横では、バック隊員が「僕の精密な計算によると、教官がこのまま自宅へ帰れる確率は現時点で0.02%ですね。ほぼ不可能です」と冷淡につぶやき、
マルカートは「ザマァないにゃん。吾輩の安眠を邪魔するからバチが当たったんだにゃん」と不敵に毛繕いをしている。
「あわわ……みんな、落ち着いて! 基地の中で身内の喧嘩はやめておくれー!」
隊長である私が必死に割って入るが、
「黙ってろレッド!」「パパは黙って反省して!」「うるさいんだにゃん!」と、誰も俺の言うことなど聞きやしない。
基地の中は、怒号とギャル語とにゃん語、そしてバックの冷徹な分析が飛び交う、大混乱(カオス)の極致に陥っていた。
その時だった。
カツン、カツン、と。地獄の底から響いてくるような、
上品で、しかし恐ろしく重いヒールの音が通路に響き渡った。
「……!」
一瞬にして、秘密基地の全員の動きが止まる。
ドアの隙間から、えも言われぬエレガントな香水の香りが漂ってきた。
「あらあら……。ずいぶんと賑やかな秘密基地ですこと」
ゆっくりとドアを開けて入ってきたのは、仕立ての良い洋服を完璧に着こなした、絵に描いたような気品あふれるマダム――鬼司令官の奥様であり、バックの母・シルキー師匠と並ぶ「音響界の絶対権力者」、ピアノ夫人であった。
「マ、ママ……ッ!?」
ストレッタのギャル気が一瞬で消え去り、直立不動になる。
司令官にいたっては、まるでプレスの効いた軍服のように、背筋を限界まで伸ばして硬直していた。ヴァン・ラーを手に入れた時の堂々たる姿はどこへやら、今の彼はただの「凍りついた子羊」である。
マダムは、俺やバック、マルカートにフワリと上品な微笑みを向けた。
「レッド隊長さん、それに隊員の皆様。うちの主人が、皆様の神聖な基地を汚してしまって、本当に申し訳ございません。この人、楽器のことになると、周りが見えなくなってしまう悪い癖がありまして……」
「い、いえ! そんな! 滅相もないです!」俺はかつてのシルキー師匠の来襲時と同じく、平伏せんばかりに頭を下げる。マダムはゆっくりと夫の前へ歩み寄ると、お上品な口調のまま、絶対零度の冷徹な一撃を言い放った。
「あなた。いつまでここに甘えているのかしら? あなたがいないと、重たいお買い物に行く係がいなくて、私とっても困っているのよ。
……それとも、その新しい『ヴァン・ラー』とかいうトランペットを質屋に持って行かれたいのかしら?」
「それだけはご容赦をぉぉぉーーーー!!!」
あの、士官学校で生徒たちに恐れられ、秘密基地に居座って俺たちの弱点を容赦なく突き続けてきた鬼司令官が、情けない悲鳴をあげてその場に膝をついた。完全に無条件降伏である。
「わ、分かった! すぐに戻る! 買い物でも皿洗いでもなんでもする! だから、ヴァン・ラーだけは……我が愛機だけは手放さないでくれ!」
「ふふ、よろしい。じゃあ、ストレッタも一緒に帰りましょうね。今夜はパパのお財布で、美味しいものでも食べに行きましょう」
「え、マジ? パパの奢りならウチ超行くわ! 贅沢に焼肉っしょ!」
ストレッタは一瞬で機嫌を直すと、マダムの後を追ってスキップで部屋を出ていく。
鬼司令官は、魂が抜けたような顔でヨロヨロと立ち上がると、最後に俺たちへボソリと言い残した。
「……レッド、バック、マルカート。特訓は……また次回だ……」
こうして、嵐のような居候パニックは、最強の絶対指揮官であるマダムの一言によって、一瞬にして幕を閉じたのだった。
「……やれやれ、嵐が去ったにゃん。これで吾輩も安眠できるにゃん」
マルカートが大きくて可愛らしいあくびをする。
「結局、一番強いのは音響の技術ではなく、奥様(ピアノ夫人)ということですね」
バックが愛用のトランペットを磨きながら、冷静に結論づけた。
「ははは……。よし、みんな! 基地も静かになったことだし、明日の出動に向けて、もう少し訓練をしようじゃないか!」
俺たちは顔を見合わせ、それぞれの愛機(楽器)を力強く構えた。
家庭の平和と、地域のちびっ子たちの笑顔を守るために。
ウルセンジャーの「正義の音」が、今度こそ快晴の空へと、どこまでも熱く響き渡った。
次回、第7話『最強の狂詩曲(ラプソディ)』はコチラ
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第5話『絶対零度の査察前線(後編)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第5話『絶対零度の査察前線(後編)』
「レッドはん、おひさしゅう。お元気そうで何よりどすえ」
突如として、基地で野戦特訓をしていた我々の中から、はんなりとした声が響いた。
「な……ッ!?」
俺たちは言葉を失い、文字通り硬直した。
基地の防衛レーダーも、扉の気密センサーも何一つ作動していない。上級トランペット使いのバックも、野生の勘を持つマルカートも、そして数々の死線を渡り歩いてきたこの俺すらも。
彼女が部屋の中央に立つその瞬間まで、気配をミリ単位すら察知できなかったのだ。
「ふふ、もしこれが敵の奇襲やったら、皆さん今頃、仲良く揃って天国へご旅行に行かはりましたなぁ」
扇子をポンポンと俺の額に当てながら、着物を上品に着こなしたその女性は微笑みかけてきた。
祇園の土蜘蛛と異名を持つ、京都の名門、轟雷流の免許皆伝で特級トランペット使い、シルキー師匠。
彼女がそこに佇んでいるだけで、部屋の空気が一瞬で「絶望」という名の絶対零度へ変わるのが分かった。
マルカートにいたっては、本能的な生命の危機を察知し、完全に気配を消して丸くなり、「ニャー」とただの猫のフリ(擬態)を決め込んでいる。
「まあ、レッドはん。随分と楽しそうなおままごとをされてますこと。でもな、それは音楽やなくて、ただの騒音のばら撒きですえ?」
上品な笑みを浮かべたまま放たれる、シルキー師匠の鋭い弾幕(正論)が俺の胸元に突き刺さる。
目は全然笑っていない。俺のガラスのハートはすでにひび割れ寸前だ。
その時、俺の前に一歩踏み出し、自らの愛機『BACH(バック)』を構えて「盾(イージス)」となった漢がいた。
バック隊員だ。
「母上。僕たちの音楽は、母上が目指すような格式はありません。ですが、この泥臭い音響(音の響き)でしか救えない子どもたちの笑顔があるんです。僕は、自分の意志でここに残っています!」
バックの堂々たる反論。シルキー師匠は、実の息子のまっすぐな瞳をじっと見つめると、ふっと冷気を和らげた。
「……フン、好きにさはったらよろしいわ。お粗末なものどすけど、皆様お揃いでお召し上がりやす」
師匠は木箱入りの高級そうな和菓子の箱をデスクに置くと、再び陽炎のようにふっと気配を消し、嵐のように静かに去っていった。
バックが慌てた様子で俺の所へ寄ってきた。
「隊長……手紙です」
木箱の中に残されていたのは、二通の手紙。
そこには、シルキー師匠の美しい筆文字で、不器用ながらも深い愛が綴られていた。
まず、俺宛ての手紙を開く。
『レッドはんへ。……スカーレットの後ろに隠れて、すぐに泣きべそをかいては逃げ回っていたあの小さな坊やがねぇ。まさか立派に一隊を率いる隊長さんになられるなんて、夢にも思いまへんでした。うちの道場で毎日毎日、涙を流しながら泥だらけになって、必死に厳しい稽古に耐えてはりましたやろ?
あの流した涙と汗が、今のあなたの強い背中を作ったんやと思います。しごいた甲斐があったというものです。きっと、あの世にいる戦友も、あなたの凛々しい姿を空から見て「ようやった」って、目を細めて安心しとるんと違いますか。』
厳しくシゴかれたあの地獄のレッスンは、戦場から俺を生きて帰すための、師匠なりの愛情だったのだ。その真実を知り、俺の胸の奥がギュッと締め付けられる。
そしてバックが、自分宛ての手紙を複雑な表情で読み上げた。
『ほんまに、あんたという子は、どこまでも頑固なんですから。バック、あんたの選んだその道はね、轟雷流の師範としては、到底許容できるものではありません。今でも「なんでその道を選んだんや」って、認められへんのが本音どす。……けれどね。一人の母親としてあんたを見たとき、自分の意志でその厳しい戦場を選び、誰かを守るために真っ直ぐ音を響かせるようになった我が子の成長を、ほんの少しだけ、誇らしく思います。あんなに小さかったあんたが、自分の信じる音を見つけたんやねぇ。進む道は違っても、あんたの響かせる音は、もう立派な一人の音術師のものです。』
「母上……」バックの目元が、微かに潤んでいるように見えた。
二通の手紙に込められた温かいエールに、
俺たちの作戦室は深い感動の余韻に包まれていた。
――だが、その美しい涙は、作戦室の隅に置かれた大型の機材ケースから響いた「最悪の物音」によってブチ壊された。
ガサゴソ……ガタッ!
パカリと開いた大型ケースの中から、ボサボサの髪を振り乱し、必死に這い出てきた男が一人。
「ぶはっ! 苦しかった……! あと5分遅かったらリアルに酸欠で犬死にするところだったぞ!」
「ふ、フォルテ司令官――!?」
なんと、我がアカデミーを統べる最高司令官が、シワだらけの軍服のままケースの中から間抜けに転がり出てきたのだ。
「レッド……聞いてくれ! 娘のストレッタの奴が、俺がクローゼットの奥に『ヴァン・ラー』を隠すところをバッチリ目視で確認してやがったんだよ! それでソッコーでママ(ピアノ)に密告されて我が家のリビングは完全にシベリア化!
マイナス200度の絶対零度だ! 生きた心地がしなくて、トラックの機材に紛れてここまで命からがら逃げてきたんだ!」
司令官はオランダ製の超高級ラッパを愛おしそうに抱きしめたまま、俺のデスクにしがみついた。
「というわけで、レッド。我が家のシベリア寒気団が去るまでの間……しばらくこの秘密基地の防音室に、住み着かせてもらう。家事なら士官学校仕込みで完璧だ。皿洗いでも洗濯でもなんでもやる!」
「え、いや、ここはウルセンジャーの基地で、宿泊施設じゃ……」
「黙れ! 貴様、士官学校時代に『唇立て伏せ』をサボった件、私が本部に報告してもいいんだぞ!?」
「うっ……! わ、分かりましたから! 宿代代わりに、私の『オービエモデル』の指導と、アンパンマンの曲中の跳躍、息のスピードでハイトーンまで駆け上がるレッスン、みっちりお願いしますよ!」
「うむ。交渉成立だ……。まずは、そのシルキー殿が置いていった饅頭を一つ、私にも恵んでくれんか……。腹が減って、アンブシュアが維持できん……」
差し出された高級和菓子を貪り食う、威厳ゼロの家出親父。
すると、バックが額の冷や汗を流しながら、この状況をいつもの口調で冷静に分析し始めた。
「さすが、特級トランペット使い。まったく気配を感じませんでした」
「でも、生きた伝説の威厳が1ミリも無いにゃん!」
今まで恐怖でただの猫に擬態していたマルカートが、ここでようやくホッと息を吐き、ソファでくつろぎ始めた司令官へすかさず呆れた突っ込みを入れる。
「……確かに、士官学校の生徒には絶対に見せられないな、こんな姿」
口の周りに饅頭の粉をつけた絶対最高権力者を見つめながら、なんだか急に情けない気持ちになってくる俺。
「悪のみなさん」の対処に、終わりなき家庭平和維持活動。
さらには、士官学校の生徒たちの戦意に関わる(情けなすぎる)国家機密の隠蔽工作まで加わってしまい、俺の悩みは増える一方だ。
俺は新兵器オービエを強く握りしめ、完全にカオスと化した秘密基地の未来に、ただただ頭を抱えて絶望するのだった。
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第4話『絶対零度の査察前線(後編)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第4話『絶対零度の査察前線(前編)』
久しぶりに静寂に包まれている自分のデスクで、俺は古いラジオから流れる懐メロに耳を傾けていた。
まだ少しジンジンと痛む、先日の戦闘で負傷した左腕の包帯をさすりながら、つかの間の平和を享受する。
――その静寂が、お行儀よく破られた。
プシューという気圧の抜ける音とともに、秘密基地作戦室の重い扉が、信じられないほど静かに、そして規律正しく開いたのだ。前回のじゃじゃ馬(ストレッタ)のドア破壊突入とは大違いだ。
姿を現したのは、名門の国立音響士官学校を首席で卒業したエリート、バック隊員だった。
「やぁバック。入室の模範解答をありがとう。できればスレッタにも、ドアをブチ壊さずに部屋に入る方法を教えてやってくれないか?」
「隊長、冗談を言っている場合ではありません!!」
血相を変えて飛び込んできたバックの顔色は、みるみるうちに青ざめていく。その端正な顔が恐怖で歪んでいるのを見て、俺の背筋に冷たいものが走った。
「母が、この防府基地へあなたとウルセンジャーの音楽を『査察(臨検)』しに来ます」
「な……ッ!?」
私は持っていたペンを床に落とした。転がったペンが静かに止まるまでの数秒間、私の脳裏には、過去のトラウマが走馬灯のように駆け巡っていた。
頭をよぎるのは、幼い頃に京都で受けたあの『はんなりとした地獄』のレッスンだ。
『まあ、随分と元気な音が出ること。でもレッドはん、それはトランペットの音やなくて、ただの鉄くずの悲鳴ですえ?』
上品な京都弁の皮肉。
一音ズレるたびに、満面の笑顔のまま私の精神をミリ単位で削ってくる。あの恐るべき師匠であり、バックの母親でもある「シルキー師匠」の姿が、鮮明に蘇ってきた。
日本に数人しかいない伝説の『特級トランペット使い』であり、京都の名門、古流音術・轟雷流(ごうらいりゅう)の免許皆伝。
「祇園の土蜘蛛」の異名を持つ規格外の音術師。
ちなみに、俺の亡き母スカーレットとは旧知の戦友(とも)でもある。
「……ッ、おい隊長! 何、現実逃避してるんですか! ここが本物の戦場だったら一瞬で命を落としますよ!」
バックの鋭い怒鳴り声で、俺の意識は強引に防府の作戦室へと引き戻された。
「母の査察次第では、我々は一瞬で木っ端微塵に論破され、この基地ごと歴史から消去されるでしょうね」
バックの言葉は容赦のない正論だった。
私はガックリと肩を落とし、力なく笑った。
「……やっぱり、君も心のどこかでそう思っていたんだね。国の最高戦力である史上最年少の上級使いを、こんな田舎の弱小部隊に縛り付けている。
それに、私を一人前にしようと地獄のシゴキで育ててくれたシルキー師匠の、大切な跡取り息子をこんな辺境に引き止めてしまっている……。
本当に、私の実力不足のせいで済まないと思っているよ」
レッドの胸にあるのは、天才エリートに対する申し訳なさという「負い目」だった。
しかし、その謝罪を聞いたバックは、まるでハチに刺されたかのように表情をこわばらせ、腕を組んだままぷいっと窓の外へ顔を背けた。夕日に照らされているせいか、彼の耳の後ろが少し赤くなっている。
「……ハァ。本当に、あなたはどこまでも呑気で……そして、どうしようもなくお人好しな隊長ですね」
バックは窓のガラスに映る自分の顔を苦々しく見つめながら、静かに、だけど重い本音を吐き出した。
「負い目を感じているのは、僕の方です」
「え……?」
「僕は国の最高学府(アカデミー)を首席で卒業した。他の優秀な同僚たちが、国の中枢や最前線の激戦区で華々しく戦っているというのに、僕は事務ミスを言い訳にして、こののどかな地方都市に『逃げて』いる。
……轟雷流の看板を背負っていながら、Sランクのもののけが頻繁に出没する京都の治安維持から目を背け、母の期待を裏切ってここにいる。
そんな僕が、エリートのプライドなんて語る資格はありません」
バックの背中が、微かに震えていた。完璧主義の彼が抱えていた、他人には決して見せない最大の弱音(負い目)だった。
「それでも……」
バックはゆっくりと私の方を振り返った。その瞳の奥には、確かな光があった。
「母の築き上げる音楽は寸分の狂いもない冷徹な芸術です。でもね、隊長。僕は母の完璧な演奏で、目の前の子どもたちが立ち上がって大声をあげて笑ったり、目を輝かせてヒーローの名前を叫んだりするところなんて、一度も見たことがないんです」
彼はストイックに結ばれていた唇の端を、不器用に緩めた。
「あなたの出す音には、技術や譜面を超えた『誰かを守りたい』という、馬鹿みたいに熱いエネルギーがある。僕にはそれが……どんな名門の洗練された音よりも、ずっと心地よかった。だから、僕は自分の意志でここに残っているんです。逃げ場所としてではなく、ここが僕の戦場だからです」
「バック……」
胸の奥が、ジンと熱くなる。お互いに「ここに縛り付けている」「ここへ逃げている」という正反対の負い目を抱えていたからこそ、二人の絆はより深く、強固に結ばれた。
「フン。勘違いしないでくださいね」
バックは照れ隠しのようにいつもの生意気な笑顔に戻ると、愛用のトランペット(Bach/GP)を鋭く構えた。
「母が来たら、僕が一番にあなたの音の『防波堤(イージス)』になります。あの人の京都弁の波状攻撃に、あなたのガラスのハートが耐えられるとは思いませんからね。僕の背中の後ろで、大人しく震えていてください」
「言うようになったじゃないか、バック!」
私は落ちたペンを拾い上げ、愛機ヤマハ・ニューヨークモデルを力強く握りしめた。相棒が盾になってくれるなら、隊長が背中で日和っているわけにはいかない。
「さあ、隊長! 母が査察にやってくるまで残りわずかです。もう一度ピッチの修正、そしてロングトーンの特訓です! 音のブレは、僕のプライドが絶対に許しません。……『正義の音』、僕に叩き込んで見せてください!」
「ああ……よし、やろう! 師匠が来る前に、死に物狂いの特訓だ!」
不器用で、だけど最高に頼もしい戦友のエールを胸に。
私たちの秘密基地に、迫りくる決戦を予感させる夕暮れのファンファーレが、これまでになく力強く響き渡った。
次回、第5話『絶対零度の査察前線(後編)』はコチラ
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キャラクター紹介はこちら
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第3話『じゃじゃ馬の電撃作戦と、密輸の連鎖債務(スイーツ協定)』
(出典:グーグルAI)※ストーリーはフィクションですが、
楽器紹介等、音楽の話はノンフィクションです
第3話『じゃじゃ馬の電撃作戦と、密輸の連鎖債務(スイーツ協定)』
「——は? ちょっと待って、ありえないんだけど! マジで意味不!」
音楽戦隊ウルセンジャーの秘密基地作戦室の重い扉が、凄まじい勢いで蹴り開けられた。
現れたのは、チームの斬り込み隊長であり「中級フルート使い」のストレッタ隊員だ。
彼女は、目が眩むほどピカピカに輝く24Kゴールド(総金製)の超高級なムラマツフルートをぶん回さんばかりの勢いで、俺に掴みかからんばかりに怒鳴り込んできた。
「おいおいスレッタ、突入作戦は見事だがな。毎回ブチ壊される作戦室の扉の修理代は、一体どこに回せばいいんだ?」
「そんなのパパの給料から天引きしてよ! っていうか隊長、聞いてよ!! うちのあの父親(フォルテ司令官)、信じられる!? 仕事が忙しいのはわかるけどさ、プライベートで大やらかししてくれたわけ!」
強気なギャル姉さんの超早口なマシンガントークが、前線のガトリングガンのように炸裂する。
その凄まじい音圧の風圧に被弾したのか、さっきまでチキンを貪り食っていた特級打楽器使いのマルカートは、完全に口を挟むタイミングを失い、文字通り「借りてきた猫」のように気配を消して丸くなっていた。
「あいつ、ウチとママに完全に内緒で、最高級のハンドメイドトランペット『ヴァン・ラー(Van Laar)』を勝手に買いやがったの!! パパがケースを必死にクローゼットの奥に隠してんの、ウチが一瞬で見抜いて、ソッコーでママ(ピアノ)に密告してあげたわけ。もうね、我が家のリビング、完全にシベリア並みに凍りついてマイナス100度だから!
ママなんか無言で、見たこともないような冷徹な視線をパパに送り続けてるし、ウチもマジで引いてる。お財布事情っていう超大事な家庭内規律を破るとか、司令官のくせに一番規律破ってんじゃん、マジ意味不!」
彼女は、実家の家庭内紛争の怒りをそのまま秘密基地にぶちまけていた。
「……そ、そうか。それは大変だったな……」
平静を装おうとしたが、俺の膝はガクガク、ブルブルと情けなく震え始めていた。
先日電話で、自分をトカゲの尻尾切りにしようとした司令官へ「ヴァン・ラーの件、奥様にチクりますよ?」と脅しをかけたのはこの俺だ。
だが、それはあくまで冗談のつもりだった。
まさか本当に娘に隠密行動(ステルス)を察知され、司令官の家のリビングがシベリア極寒地帯に変貌する大惨事になっているなんて。お人好しで小心者な俺は、正座させられて冷え切っているであろう司令官の身を案じずにはいられなかった。いや、それ以上に恐怖していた。
なぜなら――この俺も今、我が家の絶対権力者(嫁様)に完全内緒で、新型マウスピース『ヤマハ・オービエ』を購入し、すでにこの手元に極秘調達(密輸)してしまっているからだ。明日は我が身である。
俺は自分のギルティから視線をそらすため、うっかり手元にあったオービエをいじりながら、話題を変えようとした。
「ま、まぁ司令官の件は民事不介入としてだ……。しかし不思議だよな。マウスピースってのは普通、リムが小さかったりカップが浅かったりした方が、高音(ハイトーン)が出やすくてバテにくいはずだろ?
なのにこのオービエは、リムが大きいのに不思議と高音がスルスル抜けるんだよな……」
言い終えた瞬間、作戦室の空気がピキリと凍りついた。
ストレッタの鋭い視線が、俺の手元にある銀色のパーツにロックオンされる。
「……ねぇ隊長。それ、何? いつもの16c4じゃないじゃん」
「あ」
「――は!? あんたもかーーー!!!(大爆発)」
秘密基地が物理的に揺れるほどの、ギャル語大口径爆撃。
「ちょっと隊長まで何やってんの!? パパに続いて隊長まで嫁サマに内緒で極秘調達とか、男ってマジでどいつもこいつも物欲の塊じゃん! ありえないんだけど!
ギルティすぎる!」
「ひっ、違うんだスレッタ! これは戦術的な防衛費の前倒しであってだな……!」
あたふたしながら必死に弁明する俺。
だが、特級トランペット使いの父親から凄まじい英才教育を受けて育った彼女は、フルート使いのくせにトランペット知識が専門家並みに豊富だった。
彼女は腰に手を当て、フンと鼻を鳴らすと、爆発しながらも一瞬でロジカルな解析モードに入った。
「あのさぁ! オービエはリム内径が大きくても、カップの底の形状(Vカップ)に秘密があるから息の通り道がスムーズになるわけ! だからハイスペックなニューヨークモデルのラッパ(機体)への息の連動性が極限まで高まって、高音域が楽に出せるの!
しかも隊長、自宅で嫁サマにバレないように『プラクティスミュート(消音器)』をつけてコソコソ練習してたでしょ?
ミュートの強い抵抗に耐えて吹いてたおかげで、結果的に効率の良い、無駄のない吹き方が身についたってわけ! 音術(戦闘力)の足りない隊長にしては、奇跡的な大正解(アタリ)だけどね!」
フルート使いとは思えない完璧すぎる専門的指摘に、俺と「借りてきた猫」のマルカートは、ただただ圧倒されて「おお……」と頷くしかなかった。
「……でさ、隊長?」急にストレッタの声のトーンが変わり、ニヤニヤとした悪魔のような笑みを浮かべて、俺にじりじりと距離を詰めてきた。
「ウチ、パパの密輸をママにチクった功労者じゃん?
なのにパパのせいでリビングがシベリアになって、ウチまでとばっちりで超ストレス溜まってんだけど。……ねぇ、隊長がこれ極秘調達したこと、嫁サマには内緒にしてあげる。その代わりさ……」
ストレッタは短いスカートを揺らし、少しだけ顔を赤らめながら、俺の顔を覗き込んできた。
「防府駅前のあの高いカフェの、極上スイーツ特盛で奢ってよね! あと……そのオービエ、ウチにも試奏させて。私 の 唇 で 確 か め て あ げ
る か ら!」
「!!?」
ド直球なスイーツの要求(恐喝)と――そして、まさかの「試奏(間接チス)」の要求。
だが、家庭内紛争(リビングのシベリア化)を何より恐れる妻帯者の俺に、そんな複雑な乙女心を受け止める余裕など1ミリもない。
もし嫁様に「隠密ショッピング」と「ギャルとの間接チス」の二重罪がバレたら、俺の人生は一瞬で完全沈滅(ピアニッシモ)だ。
「こ、今度な……! そのうち、機会があったらな……!」
俺は完全に目が泳ぎ、あたふたしながら話を濁して距離をとった。
するとストレッタは、あからさまに不満そうな顔をして、ぷいっと後ろを向いた。
「ちぇー、ケチ! 顔真っ赤にしてビビり散らかしちゃってさー、マジつまんないの! フルート使いの肺活量なめんなよー!」
ストレッタはツンとした捨て台詞を吐き捨てると、金製フルートを抱え、再びドアを激しく叩きつけて作戦室を出て行ってしまった。
静寂が戻った作戦室で、俺はどっと出た冷や汗を拭いながら、デスクの上に深く突っ伏した。
「悪のみなさん」の討伐任務、過酷なアンパンマンの完全攻略、ギャル隊員への高額なスイーツハラ、そして我が家の絶対権力者(嫁様)への隠蔽工作……。
「やれやれ……。討伐作戦より難しい『家庭平和維持作戦』だというのに、どんどん問題が山積していくぞ……」
終わりの見えない連鎖債務(カルマ)のループに、俺はただただ、頭を抱えて絶望するのだった。
次回、第4話『絶対零度の査察前線(前編)』はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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第2話『不敵な野良上がりの進言と、4つの選択肢』
(出典:グーグルAI)※ストーリーはフィクションですが、
楽器紹介等、音楽の話はノンフィクションです
第2話『不敵な野良上がりの進言と、4つの選択肢』
討伐任務を終え、秘密基地の防音作戦室で音楽談義に花を咲かせる一人と一匹。
「助かったよマルちゃん。今日の討伐依頼は、君のドラムの音圧(弾幕)が無かったら危うく前線が崩壊するところだった」
「フンっ、落ちこぼれ隊長の尻を拭くのが吾輩の義務(シゴト)だにゃん」
戦いを終え、マルカート隊員を労うレッドに、茶色に黒の筋が入った尻尾をユラユラと揺らしながら彼は素っ気なく答えた。
見た目はただの野良猫。だが、常に上から目線で、隊長である俺に対して一歩も引かない生意気な相棒だ。
「でっ、吾輩ににゃにか相談があるんじゃないか? 目の前の資料がさっきから『困った』と悲鳴を上げているにゃん」
先に報酬(戦果アワード)として渡したケンタッキーのフライドチキンを器用に頬張りながら、マルカートが鋭い眼光を向けてくる。
「実は、俺の愛機(ニューヨークモデル)のパフォーマンスを最大化しようと思ってな。ラッパと人間を繋ぐ接点パーツ――マウスピースの新装(ハンティング)を考えているのさ」
「ほぅ……」
マルカートはピンと張り出したヒゲを優しく撫で、冷徹な鑑定士のような目で俺を見つめた。
「隊長。ウルセンジャーが最前線で展開する音響攻撃(ステージ)は、対象がちびっ子(0歳〜20歳)ゆえに、必然的に『ミュージックエイト』などのアニメ曲やポップスが主軸になる。本来であれば、軽い息で素早く反応し、過酷な連符の嵐でもスタミナを温存できるライトモデル(ステューデントモデルなど)の機体を使うのが、作戦遂行上、最も合理的(ロジカル)にゃん」
「……耳が痛いな」
「だが、隊長が構えているのは、強く豊かな息を要求するヘビータイプの最高峰(ニューヨークモデル)。クラシックなら無敵の重戦車だが、ポップス戦線で長時間の防衛線を張るには、今の隊長のアンブシュア(耐久力)では唇が消し飛ぶにゃ。……かと言って、新しいラッパ本体を新調する余裕は、お小遣い制の隊長には万に一つも無いはずにゃん」
相棒の容赦ない戦術分析が、俺の財布(コア)に直撃する。
「その通りだ……。だからこそ、本体の買い替えという莫大な軍事予算を組まずに、マウスピースの形状変化によるウエイトや抵抗の調整だけでパフォーマンスの限界値を引き上げる。これが今の俺にできる、最も現実的で合理的な判断なんだ」
「フン、貧乏なりに知恵は使ったというわけにゃ。で、狙っている兵器のコードネームは?」
「フォルテ司令官に、ヤマハの『オービエモデル』を紹介されてね」
「ほーぅ」
マルカートのノドが、ゴロゴロと深い音を立てて鳴った。
「現在の実戦装備である『ヤマハ 16C4』に近いリム内径(サイズ)を持つマウスピースを、いくつかピックアップしてみたんだ。君の野生の勘と頭脳で分析してほしくてね」
そう言いながら、俺はデスクの上に4本の精密パーツの資料を並べた。
ヤマハ 16C4(※現在の実戦標準装備。無骨な相棒)
ヤマハ オービエモデル(※司令官の推薦兵器)
バック 1-1/2C(※豊かな音色の王道パーツ)
ティルツ 1-1/2C(※ヨーロッパ戦線仕込みのダークホース)
マルカートは、自分の愛機であるドラムセット――『Donner(ドナー)DED-80』を見遣りながら、並べられた資料を肉球で撫でた。
「さすがは司令官殿にゃ。ハイスペックなニューヨークモデルと、圧倒的に力不足な隊長の戦闘力を吟味すると、選択肢は『オービエ』一択にゃん。これなら高音域の弾幕(ハイノート)を維持しつつ、ラッカー仕上げの牙をコントロールできるにゃ」
「よし、君がそう言うなら間違いないな!」
俺はマルカートの小さな頭を撫でながら、戦友への感謝を表した。
「マウスピースも昔に比べりゃ高額(ミリタリー・ラグジュアリー)だからさ。俺のお小遣いじゃ一発の誤射(買い失敗)も許されない。一番信頼してる君の太鼓判が欲しかったんだ」
「どうせ極秘調達(ステルス・ショッピング)ににゃるんじゃろ? 安心していいにゃ。嫁様にバレて家庭内紛争が起きた場合は、吾輩が肉球弾幕で防衛線を張っている間に隊長は逃げるにゃ」
「恩に着るよ、マルちゃん」
俺は頼もしい相棒を見つめた。
それにしても、不思議な猫だ。
彼はどこからか拾ってきたこの Donner 安価な電子ドラムを叩いている。ハッキリ言って戦闘には不向きなスペックな装備のはずなのに、実戦(ステージ)が始まれば、寸分の狂いもない神がかった完璧なビート(音響の弾幕)を刻んで味方を完全にプロテクトするのだ。
「しかし、マルちゃんのドラム捌きはいつ見ても見事だな。そんな装備でもそつなく戦闘をこなす。正直、最高峰のラッパに振り回されてる俺からすれば、うらやましい限りだよ」
するとマルカートは、ピンとヒゲを揺らし、不敵にニヤリと笑った。
「ふふん、『弘法、筆を選ばず』にゃ。
どんな鈍器(ボロ楽器)だろうと、叩く者がプロフェッショナルなら一級の兵器に変わるにゃ。
それに……吾輩は目立つのが大嫌いでにゃ。このくらい地味で安い装備の方が、いろいろと都合が良いのにゃん……」
その鋭い瞳の奥に、一瞬だけ「何か」を警戒するような、野生の鋭い光が走ったのを俺は見逃さなかった。
「よし! ならば最高の相棒に、特製の『最高報酬(戦果ディナー)』をご馳走してやろう。
名付けて『鮮魚の生パフェ』だ!」
マルカートの全身の毛が、一瞬でピンと逆立った。
「にゃ!? せ、鮮魚の……生パフェだとにゃ……!?」
「そうだ。我が防府市が誇る、瀬戸内海の穏やかな海原――三田尻港や向島周辺の豊かな潮目で育った、獲れたてピチピチの新鮮なアジやサバを豪快に三枚におろす!
そして、その新鮮な生身(フィレ)を、キンキンに冷えたバニラアイスクリームのなかに直接ブチ込むんだ! アイスの絶対零度が魚の旨味を分子レベルで完全に閉じ込め、さらにその上から、濃厚なホイップクリームと焦がし醤油を1対1の黄金比率でブレンドした特製ソースをたっぷりとかける!
一口ほおばれば、その美味さのあまり、昇天間違いなしだ!
……モチロン、俺は絶対に食べないけどね」
「昇天……!? 冗談じゃにゃい!! 昇天にゃんて絶対したくないにゃーーー!!」
マルカートは必死の形相で椅子から飛び上がると、机の上で激しく肉球を叩きつけて抗議した。その取り乱し方は、いつもの冷静な参謀の姿からは想像もつかないほどガチだった。
「あ、あんな所は二度とゴメンだにゃ! 吾輩は天国に帰る気はさらさらにゃい! 絶対に戻りたくにゃいのにゃーーー!!(激怒)」
「お、おいおい、そんなに怒るなよ。ただのパフェの話じゃないか……」
俺は慌てて両手を挙げて降伏のポーズをとった。
猫のくせに魚の話がそこまで地雷だったとは……
「た、隊長! 吾輩は確かにこの見ためのせいで『猫=魚』と思われがちだけど、本当に好きなのは魚(Fish)ではなくて、圧倒的に肉(Meat)にゃーー!
ここ最重要項目にゃ! 吾輩の事、何も分かってにゃいなにゃー!」
「了解、マルカート隊員。これより作戦を変更、作戦コード『極上カルビ焼き尽くし戦線』へと移行する。任務のあとは、特上肉を煙が立つまで焼き尽くそうじゃないか」
俺の言葉を聞いた瞬間、マルカートは先ほどのパニック顔から一転、その鋭い瞳をキラーンと輝かせ、ビシッと肉球を額に当てた。
「レンジャイ!(了解)」
今日一日、悪のみなさんの討伐任務を含めて、マルカートの一番気合の入った「レンジャイ」を聞いた気がした。
彼の真の目的が、正義のためではなく「任務のあとの美味い焼肉(打ち上げ)」であることは明白だったが、まあいい。この頼もしい相棒と一緒なら、どんな困難な戦場だって、笑顔で乗り越えられる気がするから。
次回、第3話『じゃじゃ馬の電撃作戦と、密輸の連鎖債務(スイーツ協定)』はコチラ
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第1話『戦場に響け、正義のファンファーレ』
(出典:グーグルAI)※ストーリーはフィクションですが、
楽器紹介等、音楽の話はノンフィクションです
第1話『戦場に響け、正義のファンファーレ』
「――ちぃ、……敵がCランクだと舐めていたツケが、このザマか」
「悪のみなさん」の討伐任務を終え、ほうほうの体で秘密基地へ帰還した俺
――ウルセンジャー・レッドは、デスクの上にドカンと両足を放り出した。
敗因は明確だった。
愛機(ヤマハ・ニューヨークモデル)から繰り出される音響弾の調子が、
戦闘中に突管(スライド)内に溜まった水分で狂い始めていたのだ。
演奏……いや、戦闘中の管楽器乗りにとって、
水分除去(つば抜き)は避けて通れない。
だが、無意識のうちにウォーターキィを押して息を吹き込んだ、あのコンマ数秒の隙
――すなわち、音響の弾幕が完全に途切れた瞬間を、あの怪人は見逃さなかった。
激しい衝撃とともに吹き飛ばされた記憶が蘇る。
ジンジンと激しく主張する左腕の痛みに、思わず顔が歪んだ。防護スーツを裂き、皮膚にまで達した怪人の不意打ちによる裂傷だ。悔しさと痛みが、秘密基地の重苦しい空気の中に溶けていく。
だが、この程度の肉体的な負傷は、地獄の士官学校(アカデミー・オブ・レゾナンス)に比べれば微々たるものだった。学生時代、過酷な実戦訓練で骨の一本や二本へし折られるのには慣れっこだ。
俺は慣れた手つきで引き出しから野戦用の救急キットを取り出した。まずは傷口にアルコール消毒液を直接ぶちまける。脳が沸騰するような激痛が走るが、声は出さない。すかさず止血用の圧迫パッドをあてがい、軍用伸縮包帯(バンテージ)を左腕にきつく巻きつけた。歯で包帯の端をがっちりと咥え込み、一気に引き絞って結び目を作る。
「よし、応急処置(ファーストエイド)は完了。10分で前線に戻れる」
独りごちて止血を確認したレッドは、デスクのスタンドライトに照らされる一本のトランペットに視線を落とした。
愛機、ヤマハ・ニューヨークモデル(YTR-9335NYL)。
世界の最前線で戦うトッププロたちがこぞって導入する、極薄のイエローブラス・ラッカー仕上げを施された最高峰の決戦兵器だ。その反応(レスポンス)の早さは神速。吹き込んだ息が1ミリのロスもなく音響エネルギーへと変換され、圧倒的な「陽のエネルギー」となって敵の防壁を撃ち抜く。
――だが、兵器のスペックが最高峰であればあるほど、扱う兵士(プレイヤー)への要求値は跳ね上がる。
ラッカー仕上げ特有の、吹き込めば吹き込むほどダイレクトに鳴り響くこの機体は、乗りこなすのに凄まじい肺活量と、精密機械のようなアンブシュア(唇のコントロール)を要求する。いまのなまりきったレッドの肉体では、このラッパの底知れないポテンシャルに完全に振り回されていた。
反応が良すぎるがゆえに、自分のわずかなピッチのブレや息の乱れといった「技術的なミス」まで、この機体は容赦なく戦場へと拡大・拡散させてしまうのだ。名剣の鋭さに己の腕が追いつかない三流兵士の苦悩が、俺の胸を締め付ける。
「……機体(ラッパ)のポテンシャルには文句はない。問題は、この悪魔の作戦計画書(スコア)と、俺の肉体だ」
デスクの上に広げられた次なる任務のターゲットは――『アンパンマン・マーチ』。
子どもたちの心に巣くう「悪のみなさん」は、コア(命)が精神世界にあるため、重火器や爆弾といった物理攻撃が一切通用しない。奴らの防壁をブチ破り、その核心を討てるのは、子どもたちの胸を打つ生の音の響き――「音響攻撃」のみなのだ。
だからこそ、この譜面(弾幕)の乱れはそのまま前線の崩壊を意味する。しかし、このアンパンマンの譜面はどうだ。インテンポ(譜面通りのテンポ)で演奏すれば曲時間が長くなり、こちらの肺と唇が持たない。ならばとテンポを上げて演奏時間を短縮しようものなら、今度はクラリネット並みに黒く塗りつぶされた連符の嵐に指が回らなくなり、音のツボ(核心)を外す。
トランペットから放たれる音のツボが一度でも外れれば、音響の弾幕が薄くなり、ウルセンジャーの防衛線に致命的な隙ができる。そこに奴らの精神汚染攻撃(イヤイヤ期など)が直撃すれば、前線は一瞬で全滅だ。
「……こうなれば、あの老司令官の知恵を借りるしかないか」
覚悟を決めた俺は、通信端末を起動し、学生時代の恩師であり、現在はアカデミーを統べるフォルテ司令官のホットラインを叩いた。
プルルル♪
ガチャリと繋がった瞬間、受話器から鼓膜を震わせる大音響の怒号が炸裂した。スピーカーモードにしていないにもかかわらず、基地の防音壁が微かに振動するほどの音圧だ。
「バッカモーン! 学生時代に唇立て伏せをサボり、トレーニングをボイコットし続けた報いだッ!!」
挨拶代わりの説教弾幕が容赦なく降り注ぐ。
「いいかレッド! ニューヨークモデルという最高峰のラッパを構えておきながら、アンパンマンのマーチごときに苦戦して返り討ちにされるとは、我がアカデミーの面汚しめ!
貴様の軟弱なブレスコントロールで、子どもたちの笑顔が守れると思っているのか!」
しばらくの間、絶対的な威厳を持つ司令官の一方的なマシンガン説教に耐えていたレッドだったが、相手のトーンがふと変わった。どうやら、ラッパ本体のポテンシャルを引き出し、俺の耐久力の限界を補うための「特殊マウスピース(吸口)」の心当たりがあるらしい。
「……貴様、新兵器、ヤマハの『オービエモデル』というマウスピースを知っているか?」
「いえ、知りません。初耳のコードネームです」
俺は、現在愛用している無骨な銀色のマウスピース、ヤマハ16c4をグッと握りしめる。ラッパと人間を繋ぐ、命の接点(パーツ)だ。
そこからは、司令官の実に楽しそうなオービエのうんちく(兵器解説)が始まった。
要するに、その新型マウスピースは、現在の相棒(16C4)のリム形状を継承して唇への違和感を無くしつつ、カップの底をV字気味に絞ることで、最高峰ラッパへの息の連動性を極限まで高めた「強化型16C4」なのだという。これなら、激しい音の跳躍もスムーズになり、高音域での耐久力も格段に跳ね上がる。
少しでも弾幕の隙を埋め、アンパンマン包囲網を突破できる可能性があるのなら、このマウスピースに賭けてみる価値はある。
「……よし、その新型マウスピースの導入、第一優先事項とします。コレに賭けましょう」
俺は決意を口にし、通信端末を握り直した。
「つきましては司令官殿。このパーツ調達には少々『政治的な問題(軍資金の極秘調達)』が絡んでおりまして……。我が家の絶対権力者(リアル恐妻)に発覚した際の後方支援、あるいは隠蔽工作のフォローをお願いしたく――」
だが、その要請は冷酷に遮られた。
「ガハハ! 家庭内紛争の責任は持たんぞ、レッド! 我が軍の基本方針は『民事不介入』だ。我が身の安全は自力で確保しろ。健闘を祈る!」
自分から調達の話を振っておいて、いざとなったらトカゲの尻尾切りか。
出鼻をくじかれたレッドの顔から、お人好しな笑みが消えた。
(ニチャ……)
薄暗いデスクの光に照らされて、俺の口元が不敵に、そして邪悪に歪んだ。
やられっぱなしの落ちこぼれだと思うなよ、司令官。こちらだってタダで戦場を生き延びてきたわけじゃない、特大の『諜報データ(弱み)』は握っている。
俺は、アメリカ映画の悪役のような、低くねっとりとしたブラックユーモアの効いた声で囁いた。
「――ところで司令官殿。風の噂で聞いたのですがね。オランダ製の超高級手作り兵器『ヴァン・ラー(B4)』というゴキゲンなラッパを新装されたそうじゃないですか」
『!!?』
受話器の向こうで、生きた伝説(特級使い)の息が完全に止まったのが分かった。マウスピースどころの話ではない、ラッパ本体の超巨額調達だ。
「まさかとは思いますが……あの絶対零度の結界主である奥様(ピアノ夫人)や、早口ギャル語マシンガンを操るストレッタ嬢には……当然、内緒というわけではありませんよねぇ?
発覚すれば、リビングがシベリア並みに極寒の地へと変貌する家庭内紛争は免れませんよ?」
「レ、レッド……君、いいか、その件については国家最高クラスの一級機密事項だ。他言は絶対に無用……!」
司令官の声のトーンが急激に下がり、今にも血を吐きそうな弁明が始まる。
さっきまでの威厳に満ちた絶対権力者の面影はどこにもない。
俺はニヤリと勝利の笑みを深め、司令官の言葉をそのままブーメランのように投
げ返した。
「ワハハ! 司令官殿、たとえそちらが極寒のシベリア前線に叩き落とされたとしても、どうか私を巻き込まないでくださいよ? 我がウルセンジャーの方針も『民事不介入』ですから。……では、通信を終了します」
プチッ。
ツーツーという無機質な音を聞きながら、俺は満足そうな表情で端末をデスクに放り投げた。
「悪のみなさん」の討伐、地域ボランティアの訪問演奏、そしてその合間に進める高級マウスピース(オービエ)の極秘スタンドアローン・コンプレックス(単独隠密行動)と、アンパンマンの完全攻略か。
「やれやれ……。どうやらこれから、クソ忙しくなりそうだぞ」
最高峰の愛機(ニューヨークモデル)を愛おしそうに磨きながら、俺はその鋭すぎる牙(ポテンシャル)を100%コントロールするための次なる軍拡計画(ステルス・ショッピング)の作戦を練り始めるのだった。
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第0話『ウルセンジャー誕生秘話』
(出展:2006年 バンドジャーナル 8月号 P61・62 より抜粋)※ノンフィクションです
第0話『ウルセンジャー誕生秘話』
防府市教育委員会生涯学習課に
「市内には、働く若者が余暇を有効に過ごせる場が少ないので、
誰でも楽しめるサークルを作ってもらえないだろうか」と
持ちかけられたのが発端だったという。
実は、その要請にこたえて最初に作ったのは
バスケットボールの団体だったんです。
大学卒業後は音楽活動を中断して
スポーツをやっていたものですから・・
しかし、その手腕を買われて
再度教育委員会から声がかかった。
「音楽の団体とボランティアの団体がまだないので、
これも立ち上げてもらえないか」と。
ふたつ作るには労力がいる。
どうしようか。
あるとき、教育委員会の人がこんな事を話した。
親御さんが
「演奏会などでは、子供が泣いたりしたら
回りの人の迷惑になるから、会場の外に出なくてはならない。
子供たちと一緒に楽しんだり参加できる演奏会はないものだろうか」
と相談してくる。
そうか、
そんな人たちも楽しめる音楽を
ボランティアでやる団体をつくればいいのでは?
ならふたつ合わせよう!
2002年、4月の事だった。
次回、第1話『戦場に響け、正義のファンファーレ』はコチラ
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