第43話『生きて帰れた日』
第43話『生きて帰れた日』
そこへ――。
「隊長ーーー!」
聞き慣れた大声が、夕暮れの駅前通りへ響いた。
アクセントだった。
泥だらけの制服のまま、全力疾走でこちらへ駆けてくる。
「何してるんですか!」
「肉が逃げますよーーーっ!」
「焼肉は逃げないだろ。」
俺が呆れながら答えると、
アクセントは真顔で首を振った。
「逃げます!」
「早く行かないと、マエストロ軍団長が全部食べます!」
「それは否定できないな……。」
その後ろから、小柄な影が飛び跳ねるようにやって来る。
「隊長様!」
ブリランテだった。
「今日は何枚食べられるか勝負です!」
「戦った数より肉の枚数を数えてるだろ。」
「えへへ。」
舌を出して笑う。
その笑顔は、いつものブリランテだった。
スタッカートも両手を頭の後ろで組みながら歩いてくる。
「焼肉っス!」
「今日は軍団長のおごりらしいっス!」
「本当か?」
「知りません!」
「でも誰かがおごるっス!」
「適当だなお前。」
「勢いっス!」
そのやり取りに、一同から笑いがこぼれる。
アクセントが、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば隊長。」
「ん?」
「今日、子どもたちに言われました。」
「『ウルセンジャーのお兄ちゃん!』って。」
俺は少し笑った。
「ああ。」
「俺も校門で言われた。」
胸ポケットの飴玉を、そっと指先で確かめる。
アクセントは嬉しそうに笑った。
「悪くない呼び名ですよね!」
「そうだな。」
それだけ答えて、俺も少し笑った。
少し後ろでは、ペザンテが黙々と機材を運んでいた。
「ペザンテ。」
俺が声を掛けると、
彼は荷物を肩へ担いだまま小さく頷く。
「……焼肉、楽しみです。」
短い一言。
それだけなのに、何だか嬉しくなった。
その時だった。
ゆっくりとした足音が近づいてくる。
振り向くと、
腕を組んだグラーヴェ軍曹が歩いてきた。
泥だらけの軍服。
傷だらけのクラリネット。
その姿は、今日一日の激戦を物語っていた。
軍曹は俺の前で立ち止まる。
「坊主。」
「はい。」
「生き残ったな。」
たった、それだけだった。
俺は静かに頷く。
「……はい。」
軍曹も小さく頷き返す。
「それでいい。」
余計な言葉はない。
だが、その一言には、
「よく戦った。」
「もう一人前だ。」
そんな思いが込められている気がした。
リアルダが俺の横で、そっと微笑む。
「レッド様。」
「はい?」
「皆さん、レッド様を待っていてくださるんですね。」
俺は仲間たちを見る。
アクセントが手を振っている。
ブリランテが焼肉の枚数を指折り数えている。
スタッカートは「カルビっス!」と叫んでいる。
ペザンテは黙って荷物を運び続け、
グラーヴェ軍曹は「早く来い」とでも言いたげに背を向けて歩き始めた。
俺は自然と笑みがこぼれた。
「……うん。」
「待っててくれる仲間がいる。」
リアルダも優しく頷く。
「はい。」
「きっと、それが一番のご褒美ですね。」
胸ポケットへ手を入れる。
そこには、
少しだけ溶けた飴玉が入っていた。
今日守り抜いた、小さな勲章。
俺はそっと握りしめる。
夕焼けに染まる益田駅の方角へ。
仲間たちと一緒に歩き出した。
今日という長い運動会を終えて。
駅前焼肉『山牛』の暖簾が、
夕風に揺れながら俺たちを待っている。
「さぁ!」
アクセントが拳を突き上げる。
「今日は勝利の焼肉ですよー!」
「違います。」
リアルダが、にこりと笑って訂正した。
「今日は、生きて帰れたことを祝う焼肉です。」
その一言に、誰もが静かに頷いた。
夕暮れの空へ、
仲間たちの笑い声が、いつまでも響いていた。
第44話『山牛』
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