第13話『山の入り口、ふたりの笑顔(前編)』

(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。


第13話『山の入り口、ふたりの笑顔(前編)』

「山口県」は、その名の通りもともと山が多い土地だ。
山の入り口と書いて「山口」と読む――そう言っても過言ではないほど、険しい自然が連なっている。

その山口の中でも、さらに山深く、緑に遮られた奥深くに「それ」はあった。

――柚木(ゆのき)小学校。

昭和の面影を色濃く残す、木造のレトロな佇まいが美しい小学校だ。

そこからの依頼内容は、「今年度で閉校となるため、最後に残った子供たちの思い出作りに、ぜひウルセンジャーさんに演奏に来てほしい」というものだった。

「……はい、承知いたしました。隊員たちと一度相談いたしまして、折り返しご連絡させていただきます」俺はいつものように、リアル恐妻(嫁様)にも聞かせられないような、丁寧な余所行きの声で受話器に返答をした。

『――続いてのニュースです。日本の人口309万人減 減少幅が過去最大、東京近郊も軒並み減……』

電話を切り、秘密基地のデスクに腰を下ろすと、古いラジオから流れる暗いニュースが耳に飛び込んでくる。俺はそれを、なんとなく聞き流すようにして書類に目を落とした。

「それで隊長、今回は何人の生徒を相手にするんですか?」
最近、チーム内で自然と作戦立案係(兼スパルタレッスン担当)のポジションに収まりつつあるバックが、ノートを片手に問いかけてきた。

「あそこにゃ、美味い地酒があると噂の場所にゃー。楽しみだにゃん」
ソファの上で丸くなっている一匹の特級猫(マルカート)は、相変わらずマイペースに毛繕いをしている。

「……2人だ」
俺は努めて冷静な口調で答えた。
「それから、今回の報酬は無し(交通費の支給も厳しいとのこと)だ」

「ちょっとおおおー! だめ駄目ダメよー、そんなの!!」
バックが異論を唱えるより一瞬早く、スレッタが横からマシンガントークで割り込んできた。

「彼女の言う通り、同じ山口県内とはいえ距離がありすぎます。往復のガソリン代に移動時間、それに拘束時間を含めた全体のコストを計算すると……完全に大赤字になりますね」
バックが眼鏡の奥の瞳を光らせ、冷徹な現実を数字で伝えてくる。

「バックの言う通りよー! たった“2人分”のステージのために大赤字なんて、正気の沙汰じゃないわよー!」
スレッタがフンスと鼻を鳴らし、バックの背中を全力で後押しする。

――そう、我が『音楽戦隊ウルセンジャー』は、崇高な理念に基づき結成されたボランティア団体だ。

人件費は当然無料だが、通常はイベントの規模に応じた補助金や、最低限の交通費をいただくことで何とか運営が成り立っている。したがって、移動距離が遠く、対象となる人数が少ない小規模な活動ほど、活動すればするほどベース基地の財布が干からびる「大赤字の罠」が待っているのだ。

だからこそ、こうした採算の合わない田舎の地域には、音響防衛の公的団体が一切存在しない。
そもそもウルセンジャー自体、教育委員会からの無理難題な依頼に対し、お人好しな俺が「断りきれずに押し切られて」結成してしまったという知りたくない現実があるのだ。

だが――。ラジオから流れたニュースが、どうしても頭から離れなかった。

「よし! 決まりだ! みんな、久しぶりに大自然の中で森林浴にでも行くぞ!」俺はいつもの優柔不断さを脱ぎ捨て、強引に話を前に進めた。

「おっ、森林浴のついでに美味しいお酒をゲット(GET)して、ついでに柚木小学校に行くにゃん! 隊長、話がわかるにゃあ!」
親友のマルちゃんが、待ってましたとばかりに俺の背中をポンと叩く。

「はぁ……。本当に、隊長には困ったものですね」
バックは呆れたように深い溜息をついたが、その表情はどこか嬉しそうで、まんざらでもない様子だ。

「ふんっ、勝手にあたふたしてればいいじゃない! もう、知らないんだから!」
スレッタはなぜかぷいっと顔を背け、頬を膨らませて怒っている。

こうして、山奥の小さな学校、たった二人の子供たちの笑顔を守るための、ウルセンジャーの「赤字覚悟の出動」が決まった――。

(つづく)

第14話『山の入り口、ふたりの笑顔(中・後編)はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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2026年05月27日