第14話『山の入り口、ふたりの笑顔(中・後編)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第14話『山の入り口、ふたりの笑顔(中・後編)
俺の愛車であるオンボロ自動車に、
大人3人と特級猫1匹、そしてそれぞれの武器である重い楽器たちをこれでもかと詰め込み、秘密基地を出発した。
まず目指すのは、ウルセンジャーの拠点である防府市が誇る、延長56 kmの一級河川――『佐波川』だ。
その佐波川の源流である山口県と島根県の県境に位置する三ツヶ峰(標高970 m)を目指し、車はひたすら上流に沿って北東へ向かう道をどんどん突き進んでいく。
北上していくにつれて、窓の外の景色からは少しずつ民家が消えていった。
代わりに、雄大な山々のふもとに静かに佇む、美しい田畑の緑が車窓いっぱいに広がってくる。
「……川幅も、だいぶ狭くなってきたなぁ」
並走する佐波川のせせらぎが、上流に近づくにつれて少しずつ細くなっていくのを見つめながら、俺はガタゴトと揺れるハンドルを握り続けた。
しばらく走ると、久しぶりに信号のある交差点が現れた。どうやらこの山間部の中心地らしく、そこへ差し掛かった瞬間、歴史を感じさせる大きな「造り酒屋の看板」がパッと目に飛び込んできた。
「おおっ! ここがあの有名な地酒の店にゃー! 帰りは絶対に寄るにゃん、隊長!」
助手席のマルカートが、窓に肉球を押し当てて目を輝かせている。お酒のことになると、この特級猫のアンテナは相変わらずの超高感度で安定っぷりだ。
「ちょっとマルちゃん、買うのは帰るときよ! それに隊長も、よそ見してないで運転に集中しなさいよね! この先、いつ『悪のみなさん』の待ち伏せがあるか分からないんだから、今のうちに身体をほぐしておきなさいよ!」
後部座席から、スレッタがマシンガンのように口を挟んでくる。お節介で世話焼きな彼女は、最近なんだか俺たちの「お母さん」のようになってきているゾ。
「……それにしても、隊長。本当に心が洗われるような、美しい風景ですね」
スレッタの横で、バックが眼鏡の位置を直しながら、窓の外ののどかな景色を静かに見つめていた。
「おいおいバック、今回の作戦に『大赤字になりますね』って一番大反対してたのは君だろ?」
俺が苦笑いしながらルームミラー越しに突っ込むと、バックは「それはそれ、これはこれです」とフイッと顔を背けてしまった。まったく、相変わらずのツンデレさんだぞ……。
そんな賑やかで少し窮屈な車内に揺られること、約一時間。
オンボロ自動車のエンジンがひと際大きな音を立てて坂を登りきると、ついに目的地の『柚木小学校』へと到着したのだった。
山の入り口、ふたりの笑顔(後編)
「うえっぷっ……」
「……(青い顔で無言)」
「なんだか、車内がとんでもないメロディ(唸り声)に包まれているにゃー……」
オンボロ自動車が柚木小学校の校庭に停車した瞬間、車内から漏れ出たのはそんな瀕死の音だった。
どうやら俺の荒々しい山道運転にケチをつける余裕すらないほど、メンバー一同は見事に「仕上がって(重度の車酔い)」しまっているようだ。
「みんな、顔色がステューデントモデルの罠にかかったみたいだぞ! だが、脳と身体が激しく揺れて、唇までガタガタにほぐれたろ? 本番前の最高の準備運動にはちょうどよかったじゃないか!」
会場の入り口で待っていた親御さんたちの「なんだこの人たちは……」という痛い視線を全身に浴びながら、俺は精一杯のポジティブさでみんなを励ました。
「あの……こッ、コレを……。何もない山奥の場所で、大したおもてなしもできず申し訳ございませんが……」
すると、申し訳なさそうに親御さんの代表の方が、竹皮に包まれた温かいお手製のおむすびとお茶を差し出してくださった。
「おっと、お心遣いは無用ですよ! 我々ウルセンジャーの報酬は、皆さんの『笑顔』ですから! ニカッ★」
俺はすかさずバックミラーの前で毎朝鍛えている営業スマイル(白い歯光る100点満点のやつ)を浮かべ、脳内に完全インプットされているボランティア定型文をハキハキと返した。
「くんくん……! 隊長、徳地は水が綺麗で寒暖の差が激しいから、お米さんが格別に美味いのにゃのにゃー!」
現金なもので、お米の匂いを嗅ぎつけたマルカートは一瞬で車酔いから完全復活し、いつでも出撃できる体制を整えている。
「うわぁぁ♪ めっちゃ美味しそうじゃないのー!」
単純なスレッタも、おむすびの湯気に目を輝かせて完全復活。用意はOKのようだ。
「……何だか、京都の実家で母が作ってくれたおむすびを思い出しますね」
バックは眼鏡を少し曇らせながら、遠い故郷の母(あのシルキー師範である)を懐かしみ、静かに余韻に浸っている。
「それにしても、見渡す限り山、山、山だにゃー! 故郷を思い出すにゃー……。このへんの竹林にも、白い大きなクマ(パンダ)とかいるのかにゃー?」
「えっ、マルちゃん、君の故郷って一体……?」
謎が多すぎる特級猫の初めて明かされるルーツ(?)に俺が耳を傾けていると、「隊長、そろそろ時間です」と促され、俺たちは小学校の講堂へと足を踏み入れた。
ギィ、と歴史ある木造の扉を開けて講堂に入ると、広々としたステージの真ん前に、ぽつんと2つのパイプ椅子が並べられていた。
そこには、ちょこんとお子さん2人が緊張した様子で座って待っている。
「たッ、隊長……! 2人って聞いてましたけど、これ……」
いつもは冷静な作戦立案係のバックが、あからさまに動揺した様子で俺の耳元へ囁いてくる。
「ちょっとー! 待って、聞いてないよぉ、こんなの!」
スピードスターのスレッタも、相変わらず口から漏れ出るリアクションの速度が最速だ。
「我が輩はおむすびさえあれば、観客が何人でも満足にゃん」
マルちゃんだけは、スネアドラムの横で悠然と毛繕いをしている。
お子さん2人に対して、保護者の方が5人。
ここまでは、そうだ、そうだろ、想定内の人数だ。過疎化の進む田舎の閉校式なら、あり得る比率だ。……しかし。
なぜか木造の講堂の奥には、そこを埋め尽くさんばかりの大勢のお年寄りたちが、所狭しと座っていたのだ!
「いやぁ、最近は若いもんが出ていって誰も帰ってこんけぇ、小さい子と触れ合える機会が滅多にないほっちゃ(ないのだ)」
「ウルセンジャーさんが来るっちゅうけぇ、みんなで楽しみにして来たんよぉ」
山口の、のどかな方言を使うコミュニケーション能力爆発のおじいちゃん、おばあちゃんたちが、わらわらと笑顔で俺たちに詰め寄ってくる。
「隊長さん、そろそろ開演をお願いします」
保護者の方が、優しく演奏開始の合図を告げた。メンバーたちが「どうするんだ」という視線を俺に一斉に送ってくる。
「みな!急で作戦変更だ! ステージの上から見下ろす『鶴翼の陣』は中止! 全員ステージから地べたに降りて、子供たちと輪になる『和(なご)みの陣』を展開するぞ!
後半のプログラムはお年寄り向けの懐かしい曲も混ぜる!」
「レンジャイ!!(了解)」
本番のスイッチが入った瞬間、隊員たちは一切の無駄口を叩かない。全員の目が、これから届ける「音」だけに集中している。
フルートの軽快な旋律と対旋律、スレッタのマシンガンレッスンで鍛えたトランペットの響き、そしてマルちゃんの正確無比(マルカート)なドラムのビートが、昭和レトロな講堂にじんわりと鳴り響いた。
俺たちはステージを降り、2人の子供たちのすぐ目の前で楽器を奏でた。
一緒に歌い、一緒にステップを踏み、手拍子を合わせる。
後半戦には、後ろにいた大勢のお年寄りたちも次々と輪に加わり、講堂全体が文字通り、一つの大きな音楽交流の場へと変わっていった。
愛機(ヤマハ・ニューヨークモデル)から放たれる俺の音色(音響)は、
いつもならピッチ(音程)が迷子になって行き先が不安定になるのがお約束だ。
……だが、今日この瞬間だけは違っていた。
柚木の皆さんの笑顔と温かい拍手に導かれるように、俺のベルからは聴く者の心をじんわりと満たし、
包み込むような、圧倒的な「陽のエネルギー」がこれでもかと溢れ出していた。
音楽で心が通じ合うとは、まさにこのことだ。
曲の合間、マウスピースを唇から離した俺は、隣に立つ相棒へ少し照れ隠し気味に話しかけた。
「おい、バック。今ならあの『Sランク』の偉大なるご婦人がご来襲されても、優雅にダンスのお相手くらいはして差し上げられそうな気分だな」
「……ええ。本当に、そうですね」
いつもなら「隊長、現実逃避はそこまでにしてください」と冷徹な突っ込みをミリ秒単位で入れてくるはずのバックだった。
だが、眼鏡の奥の瞳を和らげた彼は、木造講堂を包むおじいちゃんやおばあちゃんたちの温かい拍手と熱気に深く感銘を受けた様子で、俺の軽口を優しく、穏やかにいなしたのだった。
その横顔には、いつものエリートのトゲはひとかけらも残っていなかった。
「隊長さん、本当にありがとうございました……」
「子供たちも、最後に最高の思い出ができました」
「久しぶりにみんなでワイワイ触れ合えて、本当に楽しかった。ありがとうねぇ……」
演奏が終わると、中には涙を浮かべながら、シワの刻まれた温かい手で俺たちの手を握りしめてくれる方もいた。
「いえ……こちらこそ、ありがとうございました」
お人好しで涙もろい俺は、そんなおじいちゃんたちの姿に思わずもらい泣きしてしまい、視界がじんわりと潤んでいくのを止められなかった。
「あーっ、あっ! 結局、楽しみに(?)してた『悪のみなさん』は一匹も来なかったわねー!」
防府への帰り道。
夕焼けに染まる佐波川を横目に、助手席のスレッタが両手を首の後ろで組みながら、伸びをして大きな声をあげた。
「徳地のお米、つやつやのプルプルで本当に最高だったにゃー。我が輩、もうお腹いっぱいで眠いにゃん……」
マルちゃんは膝の上で丸くなり、幸せそうに喉を鳴らしている。
「……隊長」
バックシートから、バックが静かな声で話しかけてきた。バックミラーを見ると、彼は眼鏡を外して、少し赤くなった目元をそっと拭っていた。
「僕……大赤字だなんだと文句を言いましたけど、ウルセンジャーに入隊して、本当に良かったと思います」
「……ああ。そうだな、バック」
オンボロ自動車のガタゴトという心地よい振動の中に、今日出会った人々の、つやつやのおむすびのような温かい笑顔が重なる。
お金は一銭も稼げなかったけれど、俺たちの胸の奥には、世界中のどんな高級マウスピース(オービエ)よりも輝く、本物の「正義のエネルギー」がパンパンに充填されていたのだった。
(おわり)
第15話『断りきれなかった依頼(前編)〜元・落ちこぼれへの宣戦布告〜』はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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