第15話『断りきれなかった依頼(前編)〜元・落ちこぼれへの宣戦布告〜』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。
第15話『断りきれなかった依頼(前編)〜元・落ちこぼれへの宣戦布告〜』
『――人口減少率ワーストの秋田は5年で8.1%減少。増加は東京と沖縄のみ……』
ここは、音楽戦隊ウルセンジャー秘密基地。
俺の傷だらけのデスクに置かれた、いつ買い替えたかも忘れた古いラジオから、
日本の人口減少幅が過去最大を更新したというニュースが無機質に流れ落ちる。
ここ最近――いや、前世紀からずっと耳にタコができるほど聞かされてきた、使い古された絶望の数字だ。
「……フン、国家の最高幹部どもが頭を抱えるレベルの難題だ。
うちのような、地方のしがないローカル音響部隊が向き合うべき前線(問題)じゃない」
深刻極まりない問題だが、今の俺にとっては完全なる他人事だ。
うちは地域密着、愛と平和を届けるハートフルなボランティア団体なんだ。
天下の国難を背負う義理もなけりゃ、そのための予算だって1円もありゃしない。
俺はそう自分に言い聞かせながら、固く目を閉じた。
先の激戦で負った心身の傷を癒やすため、
そしてこれ以上、世知辛い現実の防弾を浴びないために、
しばしの休息(現実逃避)へと沈み込むことにした。
「……いや。大変遺憾ながら、本件は丁重にお断りさせていただきます」
秘密基地の作戦会議室。俺の対面に座る、いかにも人当たりの良そうな中年の男性に対し、
俺は軍人としての礼節をギリギリ保ちながら、丁寧かつ明確に拒絶の意思を示した。
男の名は、この防府市が全国に誇る最強の小学生音響部隊「牟礼南小学校マーチングバンド」の最高指揮官
――すなわち、担当の教諭だった。
その彼が、事もあろうに我がウルセンジャーに対し、
未来の音響戦士たちのお守り(指導)をしてほしいと、直々に前線基地まで乗り込んできたのだ。
穏やかな口調、低い姿勢、そして滲み出る謙虚さ……。
俺がよく知っている、筋肉と威圧感だけで構成されたアカデミーのガチムチ司令官とは、
爪の垢を煎じて飲ませたいほど正反対の態度である。
だが、先方も全国の修羅場をくぐってきた指揮官だ。
簡単に退く気配はなく、部屋には重苦しいプレッシャーが充満していく。
「……先生。失礼ですが、俺(私)の経歴をご存じの上でのご依頼ですか?」
「ええ。こちらも不躾ながら、事前に調べさせていただきました。
何でも、あの国立音響防衛士官学校(アカデミー)きっての“永遠の初級使い(落ちこぼれ)”だとか……。
フォルテ司令官という方が、実になめらかに、嬉しそうにお話ししてくださいましたよ」
「――ッ!? じゃあ、なおさら無理でしょうが!」
俺は思わず、上官風のポーカーフェイスを剥ぎ取られて声を荒らげた。
あの筋肉親父、裏で余計な情報をばら撒きやがって……!
ウルセンジャーもこの田舎町で少しは名が売れてきたせいか、
最近は「悪のみなさん」の討伐といった本来の防衛任務以外に、こうした毛色の違う依頼が増えつつある。
だが、こればかりは話が別だ。
「いいですか、先生。この防府市は小中高と吹奏楽が異常なほど盛んで、
それを母体とした格式高い社会人の吹奏楽団がいくつもあります。
そちらの精鋭たちに話を持っていかれるべきだ。
俺のような初級ラッパ吹きより、彼らの方がよっぽど一級品の技術を持っていますよ」
俺は一刻も早くこの重苦しい会談から敵前逃亡したい一心で、
話の核心――いや、もっともらしい正論をまくし立てた。
「ええ、それも重々、よく存じております」
先生は、すべてを見透かしたような、諭すような優しい笑顔で応じた。
「ですが、うちの『上手な子たち』は、放っておいてもいいんです。
問題は……どうしても上手になれない、取り残された子供たちのほうでして……」
先生の表情が、にわかに曇る。
聞けば、全国レベルという高い壁の陰で、上手な子とそうでない子の間に深い溝(ディスタンス)ができているらしい。
小学生ならではの残酷なカースト制度。
その中で声を上げられず、音楽を楽しめなくなっている子を救いたい、それが指揮官(先生)としての願いだった。
「大変失礼な物言いを、どうかお許しください。ですが……
落ちこぼれてしまった子の痛みには、
元・落ちこぼれのレッド隊長が、世界で一番寄り添ってくださるのではないかと思いまして……」
先生はポケットからハンカチを取り出すと、
額の大汗を拭いながら、まるで祈るような、絞り出すような声を響かせた。
「……先生。訂正してください。
俺は元じゃなく、『今でも十分現役の落ちこぼれ』ですよ」
俺の自虐的な、乾いた笑い声が静かな秘密基地に虚しく響く。
「それから、もう一つ」先生が少しはにかむように、だが確かな眼差しで付け加えた。
「上手な子たちは、すっかり天狗になってしまっています。
どうか、彼らの鼻っ柱を思いきりへし折ってやってはいただけないでしょうか」
――鼻っ柱を折る、か。
先生の言葉が、俺の脳裏の奥底に眠る古い記憶の引き金を引いた。
幼少の頃、京都の道場で、狂暴なまでの才能を持つ後輩や同輩、先輩たちから、
文字通りボロ雑巾のように扱われた辛い日々。
楽器の世界には、技術の上手下手だけで人間性まで格付けされる、
冷酷なカーストが確かに存在するのだ。
かつての自分が流した涙の味が、口の中に蘇る。
……チッ。他人事だと、自分に言い聞かせたはずだったんだがな。
長い、重苦しい沈黙が基地を支配する。
古いラジオから流れる無機質などうでもいいニュースをかき消すように、俺は大きく息を吐き出した。
「……よし。その依頼、ウルセンジャーが引き受けましょう」
戦場(ステージ)は、格式高き名門・牟礼南小学校へ。
(つづく)
第16話『断りきれなかった依頼(中編)〜不器用な雛たちと、京都轟雷流の戦訓〜』
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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