隊長日誌

📖正義の音で悪を倒せ!――これは、音楽戦隊ウルセンジャーのもう一つの物語。
本作は、AIと共に紡ぐ架空のSF音楽戦隊小説です

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第0話『ウルセンジャー誕生秘話(実話)』

(出展:2006年 バンドジャーナル 8月号 P61・62 より抜粋)※ノンフィクションです


第0話『ウルセンジャー誕生秘話(実話)』

防府市教育委員会生涯学習課に「市内には、働く若者が余暇を有効に過ごせる場が少ないので、誰でも楽しめるサークルを作ってもらえないだろうか」と持ちかけられたのが発端だったという。

「実は、その要請にこたえて最初に作ったのはバスケットボールの団体だったんです。大学卒業後は音楽活動を中断してスポーツをやっていたものですから・・」

しかし、その手腕を買われて再度教育委員会から声がかかった。
「音楽の団体とボランティアの団体がまだないので、これも立ち上げてもらえないか」と。

ふたつ作るには労力がいる。どうしようか。

あるとき、教育委員会の人がこんな事を話した。
親御さんが「演奏会などでは、子供が泣いたりしたら回りの人の迷惑になるから、会場の外に出なくてはならない。子供たちと一緒に楽しんだり参加できる演奏会はないものだろうか」と相談してくる。

そうか、そんな人たちも楽しめる音楽をボランティアでやる団体をつくればいいのでは?

ならふたつ合わせよう!

2002年、4月の事だった。


音楽戦隊ウルセンジャー小説版
第1話『北方戦線/新たな門出』(前編)
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2026年07月04日

第1話『北方戦線/新たな門出』(前編)

第1話『北方戦線/新たな門出』(前編)


4月上旬。

母の葬儀から、まだ数日しか経っていなかった。

俺は、鈍色の空を切り裂くように、ひたすら北へと向かっていた。

北方戦線。

国内で最も消耗が激しいとされる、泥と不協和音の激戦区。

中央のエリートたる特級使いの増援など、まず回ってこない。

本部から派遣される若い音術師や、地方採用の音響士たちが、文字どおり血と泥にまみれながら戦線を支えている場所だ。

まともな人間なら、辞令が出た時点で泣きつくか、逃げ出すだろう。

だが、俺は自分から志願した。

理由は、今でも上手く言葉にできない。

ただ、一つだけ確かなことがある。

――あの故郷へ、帰りたくなかった。

母のいない、がらんとした実家。

近所の人たちが向けてくる、同情と憐れみの視線。

「防衛隊のエース」
「特級使いスカーレットの息子」

その肩書きだけが、一人歩きしていく。

思い出の優しさに胸を締めつけられるくらいなら。

俺は、硝煙の臭う戦場へ逃げることを選んだ。

中国地方、山陰。

そこは都会の喧騒を、深い緑が静かに飲み込んでしまったような世界だった。

初夏の陽射しが山々を照らす。

幾重にも重なる稜線。

谷を縫うように流れる川。

木々を揺らす風。

どれも穏やかで、美しい。

およそ戦場へ向かう景色とは思えなかった。

ガタガタガタンッ――。

その静寂を嘲笑うように、古びた軍用車が大きく跳ねた。

地方支部で何十年も使われてきた四輪駆動車らしい。

サスペンションは軋み、ディーゼルエンジンは重低音を響かせる。

車内には軽油の匂いが微かに漂っていた。

助手席の俺は、膝の上に置いた黒いファイバーケースを、無意識に抱き寄せる。

中には、ヤマハ・ニューヨークモデル。

母が遺してくれたトランペット。

卒業式の日から、一度もマウスピースへ唇を触れていない。

ケースの冷たさだけが、指先から静かに伝わってくる。

気を紛らわせるように窓の外を見る。

流れる山。

濃い緑。

そして――。

「……白い。」

思わず呟いた。

どこまでも続く真っ白なガードレール。

見慣れた山口の夏みかん色とはまるで違う。

まるで山陰という土地が、自分たちの境界を静かに主張しているようだった。

その独り言を聞いたのだろう。

運転席の少女が、ちらりとこちらを見る。

何か話しかけようとして、一度ためらう。

そして、少し遠慮がちに口を開いた。

「……レッド様。」

「山陰は初めてですか?」

「いや。」

俺は窓へ額を預けたまま答えた。

「故郷の山口と、大して変わらない。」

少しだけ考えて続ける。

「……ただ。」

「ただ?」

「ガードレールが、やたら白いな。」

車内が静かになる。

やがて。

「ふふっ。」

鈴を転がしたような笑い声が響いた。

「そこですか。」

「初めて言われました。」

その声だけが、静かな山道によく響く。

彼女の名前はリアルダ。

山陰支部所属の情報士で、本部から派遣された俺を支部まで案内する役目を任されている。

褐色の肌。

短く切り揃えた髪。

俺とそう年齢は変わらないだろう。

細い腕で悪路を軽々と走り抜ける運転技術は、とても新人には見えなかった。

「山陰では普通なんですよ。」

「そうなのか。」

「はい。」

「山口は違うんですか?」

「夏みかん色だ。」

「えっ!?」

リアルダは目を丸くした。

「ガードレールって、色が違うんですか!?」

「地域による。」

「知りませんでした……。」

心底驚いたように呟く。

その反応が少し可笑しくて、思わず口元が緩んだ。

リアルダも、それに気付いて嬉しそうに笑う。

「だから、その『レッド様』っていうの。」

俺は苦笑しながら小さく手を振った。

「何だかむず痒い。」

「やめてくれないか。」

リアルダは首を傾げた。

「どうしてですか?」

「私は嬉しいですよ。」

「この山陰へ、本物の音術師様が来てくださるんですから。」

「本物って。」

「俺は学校を出たばかりだ。」

「それでもです。」

リアルダは前だけを見ながら言った。

「山陰は広いんです。」

「島根も鳥取も。」

「山もあれば海もあります。」

「上級使いの先生方が何人いらっしゃっても、とても全部は守れません。」

少しだけ表情が真剣になる。

「だから、不協和音が発生したら、一番最初に現場へ向かうのは私たち音響士です。」

「地元の音響団の皆さんも、一緒に住民を守ります。」

「その私たちを率いる音術師様が来てくださる。」

「それだけで、本当に心強いんですよ。」

胸の奥が、少し痛んだ。

俺なんかが。

人の命を預かる隊長になる。

本当にそんな資格があるのだろうか。

そんな俺の空気を察したのか。

リアルダは急に表情を明るくした。

「――ところで!」

嫌な予感しかしない。

「……何だ?」

「冷凍パン、食べます?」

「…………は?」


第2話『北方戦線/新たな門出』(後編)
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ウルセンジャー小説ガイド
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2026年07月04日

第2話『北方戦線/新たな門出』(後編)

第2話『北方戦線/新たな門出』(後編


「…………は?」

思わず聞き返してしまった。

「冷凍パンです!」

リアルダは得意げに胸を張る。

「今朝、凍らせておいたんです。」

「炎天下を走ると、お昼頃にはちょうど食べ頃になるんですよ。」

そう言ってダッシュボードから油の染みた紙袋を取り出し、俺へ差し出した。

受け取ると、ほんのり冷たい。

「……ただの予算不足で、凍らせたパンじゃないのか?」

「生存戦略と言ってくださいっ♪」

満面の笑みだった。

そのあまりにも堂々とした言い方に、思わず吹き出しそうになる。

「隊員のみんなも結構好きなんですよ。」

「……本当か?」

「はい!」

「山陰名物です!」

「いや、それは違うだろ。」

「違います?」

「絶対違う。」

二人で顔を見合わせる。

自然と笑みがこぼれた。

母が亡くなってから。

こんなふうに誰かと笑ったのは、初めてだった。

俺はパンを一口かじる。

少し固い。

けれど、不思議と悪くない。

「リアルダ。」

「はい?」

「どうして情報士なんて仕事を選んだ?」

何気ない質問だった。

リアルダは少しだけ視線を前へ向けたまま答えた。

「山陰支部で。」

「一定期間働けば。」

「進学のための奨学金制度が使えるんです。」

「期間雇用を終えたら。」

「大学へ行くつもりです。」

「私。」

「どうしても勉強したいことがあって。」

その一言に、胸の奥が少し痛んだ。

彼女は未来のために、この危険な場所へ来ている。

対して俺は。

過去から逃げるためにここへ来た。

「……怖くないのか?」

「怖いですよ。」

即答だった。

「毎日怖いです。」

「でも。」

少しだけ笑う。

「私たちが敵の情報を取らなかったら、仲間が死んじゃいます。」

「だから。」

「情報士は、怖いなんて言っていられないんです。」

冗談ばかり言う子だと思っていた。

でも、その言葉には一本の芯があった。

「実は私。」

「小学校からトランペットを吹いてたんですよ。」

「へぇ。」

「本当は音響士になりたかったんです。」

「でも。」

「致命的に下手くそで。」

「適性試験に落ちちゃいました。」

思わず笑ってしまう。

「どれくらい下手なんだ?」

リアルダは真顔で答えた。

「地域音響団の演奏会でソロを吹いたら。」

「指揮者さんは頭を抱えて。」

「団長さんは天を仰いで。」

「近所の犬が一斉に遠吠えしました。」

「……盛ってるだろ。」

「ノンフィクションです!」

真剣そのものだった。

その必死さが可笑しくて、俺は腹を抱えて笑ってしまう。

「笑いましたね!」

「傷つきました!」

「いや。」

笑いを堪えながら首を振る。

「顔は全然傷ついてない。」

「むしろ元気そうだ。」

リアルダは頬を膨らませる。

「もう。」

「レッド様、ひどいです。」

「でも。」

俺は少し真面目な声になった。

「吹けない理由は、口輪筋かもしれない。」

「え?」

「士官学校で嫌というほどやらされた基礎練習がある。」

リアルダの目が輝く。

「教えてください!」

「いいか。」

「まず『ム』。」

「唇を閉じる。」

「ム。」

「次に『イ』。」

「横へ引く。」

「イ。」

「そのまま『ウ』。」

「前へ突き出す。」

「ウ。」

「最後に『ア』。」

「口を自然に開く。」

「ア。」

「この四つをゆっくり繰り返す。」

「アンブシュアの基本だ。」

リアルダは運転しながら真剣な顔で、

「ム。」

「イ。」

「ウ。」

「ア。」

と何度も口を動かし始めた。

その真剣さが、かえって可笑しい。

頬がリスのように動く。

「……。」

耐えきれなかった。

「ぷっ。」

「ふふっ……。」

「あっ!」

リアルダが抗議する。

「笑いましたね!」

「ちゃんと練習してるのに!」

「悪い。」

俺は笑いながら首を振る。

「でも。」

「その調子なら、きっと上手くなる。」

リアルダは少し照れたように笑った。

「本当ですか?」

「ああ。」

「何とかなるさ。」

「……変な人。」

そう言って、小さく笑う。

「でも。」

「レッド様らしいですね。」

その一言が、不思議なくらい胸へ残った。

戦死した英雄の息子でもない。

落ちこぼれの士官生でもない。

ただ一人の「レッド」として見てもらえた気がした。

やがて軍用車は長い坂道を登りきる。

その瞬間。

視界が一気に開けた。

「――っ。」

思わず息を呑む。

眼下に広がる山陰の大地。

深い緑。

きらめく川。

遠くまで続く田園。

初夏の風が車内へ流れ込んできた。

その景色は、戦場とは思えないほど美しかった。

リアルダが静かに笑う。

「ようこそ山陰へ。」

「レッド様。」

俺はその笑顔から思わず目を逸らした。

胸の奥が、小さく高鳴る。

灰色だった世界へ。

少しだけ色が戻ってくる。

そんな気がした。

俺はまだ知らない。

この山陰で、どんな仲間と出会い。

どんな戦いを経験し。

どんな別れが待っているのか。

それでも。

白いガードレールの向こうには、新しい日々が待っている。

俺は膝の上のトランペットケースへ、そっと手を置いた。

もう一度だけ、吹いてみよう。

それは、特級使いスカーレットの息子としてではない。

落ちこぼれの士官生としてでもない。

一人の初級音術師――レッドとして。

新しい一歩を踏み出すための、最初の一音になるはずだ。

― 新たな門出・完 ―


第3話『山陰支部へようこそ!』
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2026年07月04日

第3話『山陰支部へようこそ!』

第3話『山陰支部へようこそ!』


古びた軍用車が、小さく砂埃を巻き上げながら、国立音響防衛隊山陰支部の正門をくぐった。

ギギギ……。

年季の入ったブレーキが鳴き、車はゆっくりと停車する。

「到着しました。」

リアルダがエンジンを切った。

静寂が戻る。

その隙間を埋めるように、どこからともなく蝉の声が聞こえてきた。

俺は助手席から降り立ち、ゆっくりと周囲を見渡す。

思っていたより、小さい。

ここは島根県出雲。

八百万(やおろず)の神々が集まるという、神有月の地。

古の都。

そして、島根と鳥取を守る北方戦線の要。

国立音響防衛隊、山陰支部。

本部の巨大な司令部とは比べものにならないほど、質素な庁舎だった。

二階建ての古い建物。

外壁には何度も補修した跡があり、窓枠の塗装もところどころ剥がれている。

駐車場には泥だらけの四輪駆動車が何台も並び、そのどれもが最前線の激しさを物語っていた。

「レッド様。」

リアルダが少し照れくさそうに笑う。

「古い建物でしょう?」

「いや。」

俺は首を横に振った。

「いい基地だ。」

その一言に、リアルダが嬉しそうに目を細める。

「ありがとうございます。」

庁舎へ入る。

廊下には、島根と鳥取を含む山陰全域の地図。

不協和音発生地点を示す無数のピン。

山間部。

沿岸部。

集落。

学校。

神社。

赤い印は、まるでこの土地そのものに刻まれた傷跡のようだった。

通信室からは、忙しそうに無線が飛び交っている。

「西部地区、異常なし。」

「東部地区、巡回終了。」

「次の補給車、二十分遅れます。」

本部とは違う。

飾り気はない。

だが、ここには生きた現場の匂いがあった。

「支部長、お連れしました。」

リアルダが応接室の扉を開ける。

「失礼します。」

中では、一人の壮年の男が書類へ目を通していた。

日に焼けた顔。

歴戦の軍人らしい鋭い眼光。

だが、立ち上がった瞬間、その表情は柔らかく崩れた。

「よく来てくれた。」

大きな手が差し出される。

「山陰支部長、リゾルートだ。」

俺は背筋を伸ばし、敬礼する。

「本部より派遣されました、初級音術師レッドです。」

「話は聞いている。」

リゾルート支部長は、豪快に笑った。

「遠いところ、ご苦労だった。」

「歓迎する。」

握手した手は、ごつごつしていた。

長年、現場を歩き続けてきた人の手だった。

「座ってくれ。」

応接セットへ腰を下ろす。

リアルダがお茶を運んできた。

「ありがとう。」

「いえ。」

リアルダは俺の隣へ立つ。

リゾルート支部長は、机の上に地図を広げた。

「まず現在の状況から説明しよう。」

赤い印が、山陰全域に散らばっている。

「山陰支部の管轄は、島根と鳥取だ。」

「山が多く、海岸線は長い。」

「集落は点在し、移動には時間がかかる。」

支部長の指が、地図の上をゆっくりとなぞる。

「そして、ここは出雲だ。」

その声が、少し低くなる。

「神有月には、八百万の神々が集う土地。」

「神が集まる場所には、力も集まる。」

「力が集まれば、不協和音もまた集まる。」

俺は息を呑んだ。

ただの地方支部ではない。

ここは、神々の気配と、人間の暮らしが重なる場所なのだ。

「だから山陰支部は小さいが、忙しい。」

リゾルート支部長は、苦笑する。

「上級使いは現在、全員応援出動中だ。」

「西部。」

「北部。」

「沿岸部。」

「どこも人手不足でな。」

俺は地図を見つめる。

想像以上だった。

山陰は広い。

広すぎる。

「その間、この地域を支えるのが遊撃隊になる。」

支部長が地図の一点を指差した。

「君には、益田駐屯地所属のトランペット遊撃隊を任せたい。」

「トランペット遊撃隊……。」

「十名編成だ。」

「全員若い。」

「だが、実戦経験だけなら本部の中級使いにも負けん。」

支部長の目が、わずかに細くなる。

「生き残ったからこそ、強くなった連中だ。」

部屋が静かになった。

蝉の声だけが、遠くで鳴いている。

「ただし。」

リゾルート支部長は続けた。

「死亡率も、離職率も高い。」

俺は、無意識に拳を握っていた。

「ここ山陰では、不協和音が発生したら遊撃隊が真っ先に現場へ向かう。」

「上級使いが到着するまで時間を稼ぐ。」

「住民を逃がし、敵を引きつけ、決して戦線を崩さない。」

「それが彼らの役目だ。」

俺の喉が、かすかに鳴った。

時間を稼ぐ。

それは簡単な言葉だ。

だが現場では、命を削るという意味になる。

リゾルート支部長は俺の様子を見ると、小さく笑った。

「そんなに肩肘を張らなくていい。」

「君も今日から山陰の仲間だ。」

「分からないことは、何でも聞いてくれ。」

そして、支部長は隣に立つリアルダへ視線を向けた。

「特に。」

「リアルダ。」

「はい。」

「レッド君の案内役は、引き続き君が担当してくれ。」

「承知しました。」

「彼女は優秀だ。」

リゾルート支部長は、少し誇らしげに笑う。

「山陰の地理。」

「補給路。」

「敵情。」

「通信。」

「現場のことなら、私より詳しい。」

リアルダは少し恥ずかしそうに頬を掻いた。

「そんな、大げさですよ。」

「大げさじゃない。」

支部長は即答した。

「彼女の情報で救われた命は、一つや二つじゃない。」

リアルダは照れ隠しのように笑う。

「……ありがとうございます。」

その横顔を見ながら思う。

車の中では天然な子だった。

冷凍パンを勧めてきたり。

白いガードレールで笑ったり。

でも、この山陰では違う。

誰からも信頼されている。

命を預けられる情報士なのだ。

「では。」

リゾルート支部長が立ち上がる。

「早速だが。」

「遊撃隊へ挨拶に行こう。」

リアルダが元気よく敬礼する。

「車を回してきます!」

勢いよく部屋を飛び出していく。

支部長は苦笑した。

「元気だけは誰にも負けん。」

俺も思わず笑う。

「ええ。」

「そのようですね。」

窓の外では、古びた軍用車が景気よくエンジン音を響かせていた。

出雲。

神々が集う土地。

その片隅にある、小さな前線基地。

これから向かう先に待つ仲間たちを、俺はまだ知らない。

その出会いが、俺の北方戦線の日々を大きく変えることになるとも知らずに。

― 山陰支部へようこそ!・完 ―


第4話『トランペット遊撃隊』(前半)
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2026年07月04日

第4話『トランペット遊撃隊』(前半)

第4話『トランペット遊撃隊』(前半)


リアルダの運転する軍用車は、山陰支部を後にすると再び山道へ入っていった。

相変わらずの悪路だ。

ガタン。

ガタン。

車体が跳ねるたび、助手席のトランペットケースが小さく揺れる。

「あと二十分くらいです。」

リアルダは慣れた手つきでハンドルを切った。

「益田駐屯地は、この先の盆地にあります。」

「結構離れてるんだな。」

「はい。」

リアルダは頷く。

「山陰は広いですから。」

「応援要請があると、一日に二百キロ近く走ることもあります。」

「毎日か?」

「あっさり二百キロを超える日もあります。」

少し照れたように笑う。

「私も遊撃隊も、車の中が第二の職場ですね。」

苦笑するしかなかった。

山口とは規模が違う。

ここでは、移動すること自体が戦いなのだ。

窓の外では、初夏の山並みがゆっくりと流れていく。

深い緑の向こうで、小さな集落の屋根が陽射しを受けて光っていた。

ふと思い出したように俺は尋ねる。

「そういえば、遊撃隊は十名編成だったな。」

「はい。」

「右翼五名、左翼五名で編成されています。」

「なるほど。」

だが、一つ疑問が浮かぶ。

「士官学校では、例えば金管五重奏――『金五』が基本だった。」

「トランペット、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバ。」

「最小単位の吹奏楽器、混成部隊で連携を学んだし、卒業試験もその編成だった。」

「なのに、どうして山陰はトランペットだけなんだ?」

リアルダは少し微笑んだ。

「北方戦線は、本部とは戦い方が違うんです。」

「違う?」

「はい。」

車は大きくカーブを曲がる。

窓の外には深い山並みが続いていた。

「山陰では、不協和音との戦闘が、そのまま会戦へ発展することが珍しくありません。」

「遊撃隊は最初に現場へ到着し、住民を避難させ、戦線を維持します。」

「そして、音響士や上級音術師の先生方が到着すると、そのまま会戦部隊へ編入されます。」

俺は静かに耳を傾ける。

「そのため、最初から同じ楽器で部隊を編成しています。」

「連携を徹底的に磨いておけば、会戦でも一つの部隊として、そのまま運用できますから。」

「なるほど……。」

確かに理にかなっている。

本部は柔軟性を重視する。

山陰は継戦能力を重視する。

戦う土地が違えば、部隊編成も変わるということか。

「ですから。」

リアルダは少し誇らしげに笑った。

「山陰西部方面第一遊撃トランペット隊は、小さいですが、とても優秀な部隊ですよ。」

その横顔には、信頼と誇りが滲んでいた。

しばらくすると、木々が開けた。

広い演習場。

低い庁舎。

年季の入った車庫。

そして、整然と並ぶ兵舎。

「着きました。」

リアルダが静かにブレーキを踏む。

ギギギ……。

古びた軍用車が、小さく音を立てて止まった。

エンジン音が消える。

山から吹き下ろす風が、演習場の砂を静かに揺らした。

その時だった。

「総員、整列!」

鋭い号令が、静寂を切り裂く。

砂煙の向こうで、人影が動いた。

十人。

一斉に駆け出す足音だけが、演習場へ響いていく。

俺は無意識に息をのんだ。

(これが……。)

山陰西部方面第一遊撃トランペット隊。

まだ誰一人、名前も知らない。

それでも、その足音には。

毎日前線へ向かう者だけが持つ、確かな重みがあった。

初夏の風が、演習場を静かに吹き抜けていく。


第5話『トランペット遊撃隊』(後半)
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2026年07月04日
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