第6話『音を聴く』

第6話『音を聴く』


「じゃあ。」

俺は十人を見渡した。

「一人ずつ、音を聴かせてくれ。」

ブリランテの手が、真っ先に上がる。

「はいっ!」

「早いな。」

「隊長様に一番に聴いてほしいです!」

「その『様』は――」

「はい!」

満面の笑み。

もういい。

俺はケースから、銀色の測定器を取り出した。

アクセントが身を乗り出す。

「それ、本部のですか?」

「トレジャリー。」

ソステヌートが眼鏡へ手を添えた。

「教範で見ました。」

「実物は初めてです。」

「音程と倍音を見る。」

電源を入れる。

画面に数字が並んだ。

「でも。」

俺は、自分の耳を指差した。

「最後は、こっち。」

リアルダが小さく頷く。

「数値が同じでも。」

「音は同じじゃありませんからね。」

「そういうこと。」

俺はブリランテを見る。

「一音。」

「楽に。」

「はいっ!」

トランペットを構える。

息を吸う。

『パァ────』

明るい。

音の立ち上がりが速い。

高いところでも、芯が細くならない。

「今度は。」

「短く刻んで。」

「はいっ!」

『タカタカタカタカッ!』

ベルの先から。

赤い♪が、細かく連なって飛び出した。

速い。

それでも。

一音一音の芯が潰れない。

「……なるほど。」

ブリランテが、待ちきれないように身を乗り出す。

「どうですか?」

「まだ秘密。」

「えぇー!」

後ろから笑いが起きた。

「次。」

アクセントが飛び出した。

「俺、行きます!」

『パァァ────!』

勢いがある。

少し荒い。

でも、音そのものは太い。

「……力みすぎ。」

「やっぱりですか!」

「分かってるなら直せ。」

スタッカートが吹き出す。

「ほら。」

「いつも言ってるだろ。」

「うるさい!」

「次。」

スタッカート。

『パァ────』

短く切っても、音の芯が残る。

余計な力がない。

「もう一回。」

『パァ────』

「うん。」

「何ですか、その『うん』。」

「後で。」

「気になるなぁ。」

ソステヌートが前へ出る。

『パァ────』

安定している。

高くなっても揺れない。

少し音域を下げても。

周りへ自然に馴染んだ。

俺はトレジャリーを見る。

「もう一つ下。」

「はい。」

『パァ────』

「……なるほど。」

ソステヌートが眼鏡を直した。

「次。」

レガート。

『パァ────』

柔らかい。

前へ出るというより。

隣に音があれば。

自然につながっていくような響きだった。

「もう一回。」

『パァ────』

「いいね。」

レガートが穏やかに笑う。

「ありがとうございます。」

「次。」

エネルジコ。

「はい!」

構えから迷いがない。

『パァァ────!』

真っ直ぐな音が、演習場へ伸びる。

「元気だな。」

「はい!」

「音の話。」

「はい!」

同じ返事だった。

小さな笑いが起きる。

「ペザンテ。」

「……はい。」

大きな身体が前へ出た。

息を吸う。

『ボォ────』

太い。

演習場の空気そのものが。

少し厚くなったように感じた。

アクセントが思わず振り返る。

「やっぱり太いなぁ。」

ペザンテは何も言わない。

俺は少し音域を上げてもらう。

『パァ────』

太さは、あまり変わらない。

「……うん。」

「次。」

ドルチェ。

「はい。」

静かに構える。

『パァ────』

柔らかい。

前へ突き刺さる音じゃない。

ふわりと。

周りへ広がっていく。

俺は少し考えた。

「ドルチェ。」

「はい?」

「防御弾幕を張ってくれ。」

「わかりましたわ。」

もう一度。

ドルチェがトランペットを構える。

少し低い音。

『パァ────』

ベルの周りへ。

ピンクの♪が、ふわりと集まる。

一つ。

また一つ。

やがて。

ベル先で大きな塊になった。

音符が重なり。

柔らかな防御陣が広がっていく。

さらに。

その周囲へ。

いくつもの防御弾幕が花開いた。

押し返すような壁じゃない。

包み込むように広がって。

それでも。

形は崩れない。

リアルダが小さく呟いた。

「綺麗です……。」

ドルチェが微笑む。

「ありがとうございます。」

俺は小さく頷いた。

「……なるほど。」

次。

グラヴィオーソが前へ出た。

無言で構える。

『パァ────』

真っ直ぐ。

余計な揺れがない。

音が広がらない。

一本の線になって。

遠くまで伸びていく。

「もう一回。」

少し離れた木を指差す。

「あれを狙うつもりで。」

グラヴィオーソが。

目だけを向けた。

白い♪が。

ベルの周りへ集まり始める。

ゆっくりと。

螺旋を描きながら。

やがて。

ベル先で、一点へ凝縮された。

『パァ────』

細い音響弾が。

一直線に放たれる。

その周りを。

白い♪が螺旋状に連なっていく。

遠くの木まで。

一本の軌道が伸びた。

俺は思わず顔を上げる。

「……何?」

「いや。」

「いい音だ。」

「そう。」

それだけ言って下がった。

最後。

カンタービレ軍曹。

静かにトランペットを構える。

『パァ────』

よく通る。

それでいて。

周りの音を押し退けるような感じがない。

もう一音。

『パァ────』

音が止まっても。

不思議と。

基準だけが残った。

俺は小さく頷いた。

山から風が吹く。

演習場へ。

静けさが戻った。


第7話『右翼と左翼』
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2026年07月04日