第6話『隊内編成パート割り』(前編)

第6話『隊内編成パート割り』(前編)


演習場の中央へ、隊員たちが半円を描くように集まる。

十人。

誰に指示されるでもなく、自然と一定の間隔ができていく。

(早い……。)

俺は小さく息を吸った。

士官学校では何度も学んだ。

隊内編成。

遊撃隊の運用。

指揮要領。

教範なら、頭に入っている。

だが――。

実際に部隊を預かるのは、今日が初めてだった。

ふと、講義室の光景が脳裏をよぎる。

黒板の前へ立つフォルテ教官。

『戦場で迷うな。』

『迷う時間が、一人の命を奪う。』

自然と背筋が伸びた。

俺は隊員たちを見渡す。

「まず。」

地面へ小枝を拾い、一本の線を引く。

その左右へ、五つずつ印を描いた。

「遊撃隊は二列横隊で運用する。」

「右翼五名。」

「左翼五名。」

「基本隊形はこれだ。」

全員の視線が地面へ集まる。

「分かりやすいっす!」

思わず声を上げたアクセントの肩を、スタッカートが軽く小突いた。

「まだ説明の途中だって。」

「あっ。」

アクセントが慌てて口を押さえる。

演習場に小さな笑いが広がった。

「皆さん。」

カンタービレ軍曹が静かに口を開く。

「隊長のお話の途中ですわ。」

その一言だけで、空気が引き締まる。

アクセントは姿勢を正した。

「すみません!」

俺は思わず笑う。

「いや、気になるのはいいことだ。」

アクセントは照れくさそうに頭をかいた。

緊張していた空気が、少しだけ和らぐ。

俺はもう一度、地面へ目を落とした。

「俺たちの仕事は敵を倒すことだけじゃない。」

「味方を守ることだ。」

小枝で中央へ一本の線を加える。

「一人が崩れれば、全体が崩れる。」

「だから。」

「まず見るのは、技術じゃない。」

「音だ。」

トランペットケースを開く。

銀色の測定器を取り出した。

陽射しを受け、小さく光る。

隊員たちが身を乗り出す。

「これが本部の……。」

アクセントが目を丸くする。

「測定器っすか。」

「初めて見た……。」

ブリランテも興味津々に覗き込む。

スタッカートは測定器をぐるりと眺めながら感心したように口笛を吹いた。

「すげぇ。」

反対側では、ソステヌートが静かに眼鏡へ手を添える。

「教範では学びました。」

「ですが、実物を見るのは初めてです。」

その隣で、グラヴィオーソが短く呟いた。

「現場向き。」

俺は測定器を軽く持ち上げる。

「数字は出る。」

「でも。」

少し笑う。

「最後に信じるのは、自分の耳だ。」

リアルダが一歩前へ出た。

「トレジャリーは音程や倍音を数値化できます。」

「ですが。」

「実際のアンサンブルまでは判断できません。」

ドルチェが優しく微笑む。

「やっぱり最後は、人の耳なのですね。」

「そういうこと。」

俺は頷いた。

「じゃあ、一人ずつ吹いてみよう。」

演習場へ静かな空気が流れる。

山から吹き下ろす風が、草を揺らした。

隊員たちは自然とケースへ手を伸ばす。

金具が開く音が、一つ。

また一つ。

静かな演習場へ重なっていく。

それぞれの相棒が、ゆっくりと姿を現した。

俺はその光景を見つめながら、小さく息を吸う。

これから始まるのは、試験じゃない。

この部隊の音を知るための、最初の一歩だった。


第7話『隊内編成パート割り』
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2026年07月04日