第8話『落ちこぼれ隊長と、上から目線の猫』

(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです


第8話『落ちこぼれ隊長と、上から目線の猫』

※今回は、まだ秘密基地も無かったウルセンジャーの初陣と、ストレッタ隊員の入隊にまつわるエピソードです

山口県防府市の商店街にある天神ピア2F、まだ看板を掲げたばかりの小さな一室。ここが「民間音響防衛隊・音楽戦隊ウルセンジャー」の準備室だった。

「よし! これで防府市教育委員会からの正式な任命書も届いたぞ。いよいよ我がウルセンジャーの本格始動だ! ……と言いたいところだけど、まだメンバーがこれだけなのは、さすがにちょっと寂しいな。なぁ、マルちゃん?」
俺は机の上の書類を愛おしそうに見つめながら、部屋の隅で丸くなっている唯一の隊員に声をかけた。

地元の公的機関(教育委員会)からの切実な依頼――それは、「子供たちの心に巣食う悪のみなさんを倒し、笑顔を守ってほしい」というものだった。断りきれずに結成した形のレッド隊長だったが、集まった機材はまだ少なく、隊員にいたってはたったの”にゃんこ一匹”しかいなかった。

「ふん、何を頼りない声をあげているのニャ、隊長」
ふにゃりと髭を揺らし、上から目線で応えたのはマルカート隊員だ。
「吾輩……マルカート様が最初からいてあげるだけでも、感謝の涙を流すべきだニャ。悪の気配など、吾輩のドラムで吹き飛ばしてあげるニャ!」

「ははは、頼もしいよ、マルちゃん! でもね、子供たちの心に巣食う悪は手ごわいんだ。ただ音を鳴らすだけじゃダメなんだよ。子供たちの心に直接『正義の音の響き(音響)』を届けなきゃいけないんだから」

「チッチッチ、甘いニャ、隊長。子供たちの心を救うには、まず吾輩のような完璧な存在が上から力強く導いてあげるのが一番だニャ。お遊戯やダンスだって、吾輩の完璧なリードがあれば、子供たちも自然と笑顔になるに決まっているニャ!」

「マルちゃんはいつも自信満々だなぁ。でも、その『マルカート(一つ一つの音をはっきりと力強く)』な姿勢、嫌いじゃないよ。まずはブログの『隊長日誌』を書いて、これからの活動を地域のみんなにアピールしていこう!」

「ふにゃん、日誌の更新くらいなら付き合ってあげてもいいニャ。さあ隊長、さっそく作戦会議(とおやつの時間)を始めるニャ!」
こうして、一人と一匹の奇妙な防衛隊が産声をあげたのだった。


『鬼司令官からの「最強の助っ人」』

しかし、のんびりとした作戦会議はすぐに破られることとなる。

防府市の教育委員会から、とある幼稚園に「悪のみなさん」が現れたという、緊急の討伐依頼が舞い込んだのだ。

「うう、ついに初任務だけど……相手は『悪のみなさん』だぞ。僕たち2人(?)だけで本当に勝てるのかな……。俺は士官学校を卒業したとはいえ、初級トランペット使いの資格ギリギリで通った超・落ちこぼれだし……不安だ、不安すぎる!」

「何をガタガタ震えているのニャ、隊長! 吾輩という偉大なマルカート様がいれば、”悪のみなさん”など一ひねりニャ。ま、吾輩は元野良猫だから、戦術の指揮はそっちに任せるけどニャ。士官学校で叩き込まれたんダロ、しっかりするニャ!」

「だ、ダメだ、このままじゃ子供たちの笑顔を守れない! ……こうなったら、あの
人に頼るしかない!」
俺は震える手で、士官学校時代の恩師であるフォルテ司令官に通信を繋いだ。

画面に映ったのは、筋骨隆々とした厳格な佇まいの鬼司令官だ。

「――どうした、レッド! 貴様が民間防衛隊を立ち上げた噂は聞いているぞ。

かつて最前線でSランクの『白虎』を追い詰め、国を護り抜いた貴様の母上殿……俺の誇るべき戦友でもあった『長州の虎』も、
空の上できっとその奮起を喜んでおられるはずだ。

スカーレット殿は、音響防衛隊でも100年に1度といわれる逸材でな。
温かくみんなを包み込むドラムの連撃(弾幕)で味方を守り、返すスティックで正確(マルカート)に敵を打ち抜いておった。
戦場では誰よりも多くの命を救い、
誰よりも多くの敵を倒した、本当に凄まじい人だった。

……だが、日常のあの方はいつもウフフとはにかむように笑う、実に柔和な人でな。
俺のこの体をまじまじと見ては、『フォルテ司令官、その筋骨隆々の筋肉は見せかけだけではないんでしょ〜?』などと、若い母親が赤ちゃんに話しかけるような穏やかな口調で俺をからかうのだ。

野営地でも、誰もに
“私のかわいこちゃんを見てください”と貴様の写真を自慢しては、
『あの子優しい子なので、シルキー師範の所へ預けて大丈夫だったんでしょうか〜、少し不安ですぅ』『もうすぐ休暇ができます、あの子に逢えるのが楽しみです〜』
……と、愛おしそうに目を細めておられたよ。どこにでもいる、本当に普通のお母さんだった。

貴様が母上の墓を護るために防府へ戻ったことも、すべて分かっておられるはずだ。

――んっ、いかんいかん! 俺としたことが、昔話に話がそれてしまった!
だが、その情けない声は何だ!」

「……司令官殿、 実は防府市の幼稚園に『悪のみなさん』が出現し、討伐依頼が来たのです! ですが、我が隊はまだ僕とマルカート隊員の2人だけ。俺の落ちこぼれトランペットでは、子供たちを守りきれるか自信がなくて……。どうか、司令官殿のお力を貸していただけないでしょうか!」

フォルテ教官は、教え子のピンチを放っておけない人情深い漢(おとこ)だった。しかし、申し訳なさそうに眉をひそめる。
「……むう。レッド君、力を貸したいのは山々だが、今、国からも『悪のみなさん』の大規模組織への討伐依頼が入っており、私も学生たちのおもりと前線指揮で完全に手が離せんのだ……!」

「そんな……! 司令官殿がダメなら、もうおしまいです……」
絶望するレッド隊長。

しかしその時、フォルテ司令官の脳裏にある一人の人物が浮かんだ。自宅の居間でスマホをいじりながら「ウケる~」と爆笑している、愛娘の姿が。
「……待てよ。レッド、我が娘のストレッタをそちらに派遣する!」

「えっ!? ストレッタさんって、あの士官学校を優秀な成績で卒業し、中級フルート使いの資格を持ちながら、国立音響防衛隊へのエリート推薦を蹴ったという……?」

「そうだ。あやつは『音を磨くより女(ギャル道)を磨く!』などと言って、今は自宅を拠点にフリーターとしてぶらぶらしおって……。教官としてはあの怠惰な生活は断じて許せん!
だが……まぁ、可愛い娘が常に目の届く実家にいるというのは、親としては非常に安心だったのだがな……
ゴホン! とにかく、あやつのフルートの腕は本物だ!」

「フン、ギャルだか何だか知らないが、”足手まとい”は困るニャ。だいたい、吾輩たちの神聖な準備室に若い女を入れるなんて、邪念が入るんじゃニャいのか?」

画面の向こうで、フォルテ教官が不敵に笑った。
「ふはは! 心配無用だ、そこの猫君! レッドはすでに妻帯者であり、貴様は元野良猫だ。娘に手を出す不届き者がいないという点でも、ウルセンジャーは最高に安心な派遣先なのだ! ストレッタには今から無理やり防府市へ向かわせる! いいな、レッド、あやつをしっかり扱き使ってくれ!」

「は、はい! ありがとうございます、教官殿!」


それからしばらくして・・

バタン!と勢いよく準備室のドアが開いた。そこに立っていたのは、派手なメイクに身を包み、金色の輝くフルートをマイクのように持ったギャル――ストレッタだった。

「ちわーす! パパに『防府市で激アツなフェスがあるから行ってこい』って騙されて旅行先の宮島(広島)から来たら、なんか超ショボい部屋なんですけどー! つか、あんたがパパの言ってた落ちこぼれのレッド隊長? ウケる、超弱そうじゃん!」

「ニャ、ニャんだこの生意気な女は……! 吾輩に向かって挨拶もしないなんて、上から目線がなっとらんニャ!」

「あ、ヤバい、喋る猫ちゃん超かわいー! ウチ、ギャル道極めてるから、戦闘でもエグい音色響かせるんでヨロシク☆ さ、早くその『悪のみなさん』ってやつ、ぶっ潰しに行こ!」

「う、うん……! ストレッタさん、よろしくね。
よし、マルちゃん、ストレッタさん、幼稚園の子供たちを救うために、ウルセンジャーの初陣だ!」


『グダグダの初陣と、ギャルマシンガンの洗礼』

「遅いぞぃ、音術師のみなさん。待ちくたびれたぞぃ」

園庭を占拠するボス怪人と、その配下2名。
子供たちの心を依り代にするため、人質への直接攻撃はしてこない。

だが、その代わりに彼らが狙うのは、最大の障害である音術師たち。
こうして罠を張って待ち受ける姿は、まさに強者の余裕だった。

「悪いなパーティーに遅れて! うちのお嬢さんがドレスを選ぶのに時間がかかっちゃったのさ!」

ハッタリこそレッドの真骨頂。相手の威圧感を跳ね返すように、威勢よく啖呵を切る。

その横で、ストレッタは必死に脳内ディスプレイを回していた。
(人数は3、ランクはC。おそらく近接タイプ。……よし、敵の弱点周波数(Hz)を特定して、有効なコード進行を割り出して――)士官学校で叩き込まれた戦術データが、彼女の脳内に次々とポップアップする。――が、その解析率が「70%」を示した、まさにその時だった。

「そこまでだ! 子供たちの笑顔は僕たちが守る! 音楽戦隊ウルセンジャー、参る!!」

「えっ、ちょっと隊長!? まだ解析が終わって――!?」

ストレッタの制止も虚しく、完全にテンションの上がったレッドは、愛用のヤマハ・ニューヨークモデルの引き金をいきなりぶっ放した!

先制の音響弾が火を噴く――はずだった。
――スーーーーっ、ぼふぇ、プスプスプス……。

園庭に鳴り響いたのは、全米が脱力するような、あまりにも気の抜けた異音。
ド派手な爆発を警戒して身構えていた怪人たちも、あまりの拍子抜けに「おっとっと」とズッコケそうになりながら、ピタリと動きを止めた。

「「「えっ……今の、攻撃したつもり?」」」

怪人のボスとストレッタの突っ込みが、見事なまでのハモりを見せる。

「ちょ、マジで!? 隊長の演奏、音程迷子すぎて草も生えないんですけど! てかフライングしてこれ!? 士官学校どうやって卒業したわけ!?」絶望に頭を抱えるストレッタ。
しかし、当の本人は「いい音が出たぜ」と言わんばかりのドヤ顔を浮かべているのだった。

「あはは! おかしいな? でもまぁ、何とかなるさ! マルちゃんや優秀な君もいるし、音楽はハートだからね!」

「隊長、相変わらずの落ちこぼれっぷりニャ。まぁいいニャ吾輩が本気を出して片付けるニャ! これで見事勝利したら、今夜の打ち上げは特上カルビ山盛りの焼肉で決まりニャ!」

「不純! 動機が肉オンリーで超不純なんですけどー!?」

戦闘はまさにグダグダの極みだった。
レッド隊長の外れまくった演奏を、マルカート隊員が「すべては特上カルビのため」と、”隠された実力”でさりげなくフォロー。そこにストレッタの正確で鋭いフルートの旋律(音響弾)が重なり、なんとか怪人を退散させることに成功したのだった。


「……ねぇ。今から反省会するから、そこ座って」

無事に防衛隊準備室へと帰還した一同。のんきに笑うレッド隊長とお腹を鳴らすマルカート隊員の前に、ストレッタが静かに立ちはだかった。
その目は一切笑っていない。

「え? 反省会? まぁまぁ、ストレッタさん、勝てたんだから結果オーライだよ。僕のじいちゃんも『良い加減にやるさ』って……」

「は? 良い加減とかマジであり得ないし!!」
ドカン! と、ストレッタの怒りが大爆発した。

士官学校を優秀な成績で卒業したエリートとしてのプライドが、この信じられない”ぶっつけ本番”の戦いぶりに黙っていられるはずがなかった。説教がヒートアップするにつれ、彼女の口からは早口のギャル語マシンガンが超高速で掃射され始めた。

「つーかさぁ! 何あのぶっつけ本番!? 幼稚園に現れた怪人の戦力分析とかガチでゼロだし! 作戦も何も戦略も戦術もなきゃ戦いのリズムもズタズタでマジウケるんだけど! っていうか先輩のトランペット、ぶっちゃけ近所迷惑レベルだし! 本当に士官学校卒業できたのマジで謎!猫ちゃんも肉のことしか考えてないから技のタイミング激ズレだし! ウチの超完璧なフルートの旋律が台無しじゃん! これじゃ防衛隊じゃなくてただの騒音泥仕合なんですけどー! どんだけ~! あり得な~い! マジ無理ー!」
激しい弾丸のような言葉の数々が、容赦なくレッドとマルカートを貫いていく。

しかし、当の二人にはまったくダメージが入っていなかった。
マルカート隊員は、(うにゃぁ……耳が痛いニャ。でもボクの頭の中は、今から行く焼肉のタレの匂いでいっぱいニャ。ハラミ、タン塩、カルビ、ニャフフ……)と、完全に意識を肉へと飛ばしている。

レッド隊長にいたっては、「あはは、ストレッタさん早口だなぁ。でも大丈夫、何とかなるさ!」と、どこまでも楽観的につぶやく始末だった。

反省の色が1ミリもない二人を前にして、ストレッタはついに天を仰いだ。
そして、中級フルート使いとしての超絶的な肺活量をフルに活かし、複式呼吸で部屋全体の空気をすべて吸い込むかのような勢いで、深く、深い深いため息をついた。

「はぁあ~~~~~~~~~~~~~~っ……」
(……嗚呼。この人たち、ウチがいないとガチで明日にでも全滅するわ。絶対に大丈夫じゃない、これ……)

一瞬、絶望の静寂が室内に流れる。しかし、ストレッタはすぐにフッと融和な笑みを浮かべると、呆れ果てた顔のまま、二人に向かってパチンとウインクしてみせた。
「ま、いっか♪ 分かった、ウチがウルセンジャーに入隊してあげる! パパの言ってた社会勉強って、こういうことね!」

「えっ!? 本当かい!? ストレッタさんが入ってくれたら百人力だよ!」
歓喜するレッド隊長に、ストレッタはビシッと指を突きつける。

「その代わり、あんた達、覚悟しなさいよ! 明日からウチの超スパルタ鬼レッスンが始まるから! ……あ、それと隊長。ウチのこと『ストレッタさん』ってさん付けで呼ぶの、マジで他人のサークル感あってテン下げだから禁止。これからは呼び捨てで『ストレッタ』って呼んでよね!」

「ええっ!? 司令官殿の御息女を呼び捨てだなんて、恐れ多くて……」
レッド隊長は困ったように頭を掻き、それから名案を思いついたように顔を輝かせた。
「それにさ、『ストレッタ』ってちょっと長くて呼びづらいなぁ。。

よし、これからは『スレッタ』ね!」

「はぁ!? スレッタ!? 誰がアニメの主人公よ! 略し方雑すぎだし! ウチはスト・レッ・タ!」

「いいんじゃニャいか、スレッタ。それより隊長、早く焼肉に行くニャ。ボクのお腹と背中がくっついちゃうニャ!」

「ちょっと、猫ちゃんまでスレッタって呼ぶなーーー! っていうか反省会はまだ終わってないんですけどー!」

ギャルなフルート使いの悲鳴が響く中、
こうして民間音響防衛隊ウルセンジャーに、待望のツッコミ&実力派メンバーが加わった。

落ちこぼれトランペット使いのレッド隊長、
不純な動機と”実力を隠している”マルちゃん隊員、
そして二人を引っ張る強気なギャル・スレッタ隊員。

この凸凹トリオが奏でる、防府市の平和と子供たちの笑顔を守るための協奏曲は、まだまだ始まったばかりである。


第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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2026年05月25日