第7話『隊内編成パート割り』(後編)
第7話『隊内編成パート割り』(後編)
『パァ────』
演習場へ、一音が真っ直ぐ伸びる。
静かな初夏の空へ溶けるような音だった。
トレジャリーの画面へ数字が並ぶ。
俺は小さく頷く。
「次。」
『パァ────』
また一人。
「次。」
『パァ────』
山から吹く風が、音を優しく運んでいく。
誰も無駄な言葉は発しない。
自分の番を待ち、静かに音を重ねていく。
演習場には、トランペットの音だけが響いていた。
音程。
響き。
倍音。
数字は画面へ映し出される。
だが、俺が見ているのは数字ではない。
一人ひとりの音だった。
明るく前へ飛ぶ音。
柔らかく包み込む音。
静かに支える音。
十人十色。
同じトランペットでも、誰一人として同じ音はいない。
最後の一音が静かに消える。
初夏の風が頬を撫でた。
「……決めた。」
隊員たちの視線が集まる。
俺は一人ずつ顔を見渡した。
「ファースト。」
三人が一歩前へ出る。
「高音を任せる。」
「無理はするな。」
「外さないことだけ考えてくれ。」
「はい!」
返事が重なる。
ブリランテだけは、いつも以上に元気だった。
「はいっ! 隊長様!」
演習場へ笑いが広がる。
「だから、その『様』は……。」
思わず苦笑すると、スタッカートが肩を揺らした。
「もう諦めた方がいいっすよ。」
アクセントも笑いながら頷く。
「すっかり定着してます!」
笑い声が風へ溶けていく。
俺もつられて笑ってしまった。
「次。」
「セカンド。」
三人が前へ出る。
「お前たちは部隊の中心だ。」
「周りの音をよく聴いてくれ。」
「ハーモニーは、お前たちが作る。」
「了解しました。」
ソステヌートが静かに答える。
隣ではレガートが穏やかに頷いた。
「いい音になりそうですね。」
その一言だけで十分だった。
最後に俺は視線を移す。
「サード。」
四人が前へ出る。
「土台を頼む。」
「派手じゃなくていい。」
「全員を支える音を吹いてくれ。」
大柄なペザンテが静かに頷く。
「……はい。」
短い返事。
だが、その一言には不思議な安心感があった。
アクセントは拳を握る。
「任せてください!」
「俺、頑張ります!」
その隣でスタッカートが小さく笑う。
「だから気合い入れすぎるなって。」
また笑いが起こる。
その様子を見ていたカンタービレ軍曹が、小さく微笑んだ。
「いい部隊になりそうですわ。」
その声は独り言のように小さかった。
リアルダは少し離れた場所から全員を見つめていた。
そして、ゆっくりと呟く。
「……早い。」
俺は振り返る。
「え?」
「誰一人、自分の配置に迷いませんでした。」
「皆さん、自然に並ばれました。」
言われて初めて気付く。
もう隊列はできあがっていた。
右翼。
左翼。
ファースト。
セカンド。
サード。
誰も不満そうな顔をしていない。
誰も、自分の役割を疑っていない。
ただ静かに、自分の立つ場所へ収まっていた。
山から吹く風が、演習場を横切る。
制服の裾が、小さく揺れた。
俺はその光景を見つめる。
士官学校では教わらなかった。
数字では測れないもの。
教範にも載っていないもの。
部隊には、それがある。
小さく息を吸う。
「何とかなりそうだ。」
誰に言うでもなく漏れた言葉に、リアルダがくすりと笑う。
「はい。」
「きっと、何とかなります。」
その笑顔につられるように、俺も笑った。
初夏の青空の下。
山陰西部方面第一遊撃トランペット隊、十一人。
その音は、ようやく一つになろうとしていた。
第8話『母の遺したトランペット』(前編)
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