第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』
※今回は、バック隊員の入隊にまつわるエピソードです
【某日:ウルセンジャー秘密基地】
「……おい、大変なことになったぞ」
レッド隊長が、カタカタと震える手で1枚の公文書を差し出した。
覗き込んだパーカッション(打楽器)担当のマルカートが、肉球で耳をかきながら冷ややかに見下ろす。
「何だにゃ隊長、またおやつの予算を使い果たしたのかにゃ?……って、これ、国立音響防衛士官学校からの『職場体験派遣状』じゃにゃーか。しかも特級トランペット使いの息子で、超エリートのバック君だにゃ! なぜうちみたいな防府の弱小部隊に来るんだにゃ!?」
その時、カチャと物静かにドアと開き、仕立ての良い学生服に身を包んだ青年――バックがパッと姿勢を正して敬礼した。
「……国立音響防衛士官学校、バック上級トランペット使い! 本日より職場体験に参りました! ……しかし、ここは国立音響防衛隊の本部ビルではなく、……防府市市民活動支援センターと言われましたが」
「ひぃっ!本物が来た!」
激しく動揺して机の下に隠れようとするレッド隊長。
「ちょっと隊長、何ビビってんの? 挨拶くらいシャキッとしなよ」
奥からポテトチップスを片手に現れたのは、フルート担当のギャル姉さん、ストレッタだ。
「あ、私はストレッタ。よろ~」
「っ、失礼します! フルート担当のストレッタ先輩ですね。……フルート使いとして超一級品の指さばき。お噂はかねがね聞いています。しかし、緊迫感ゼロ……」
バックの脳内処理が早くも追いつかなくなる。
そこへマルカートがスティックを回しながら近づいてきた。
「フン、エリート様が随分とお固いラッパを持って乗り込んできたにゃ。せいぜい吾輩のドラムのリズムに遅れずについてくることだにゃ」
「……猫!? いえ、失礼しました、パーカッション担当のマルカート先輩ですね ……しかし、あのスティックさばき、只者ではない。なのに戦いの後のご褒美の焼肉のことばかり考えているだと……!? この部隊、何かがおかしい!」
バックの常識は、音を立てて崩壊していった。
【同日午後:地元の児童館】
「ギャハハハ! 子供たちをぎゃん泣きさせてやるわい!」
不穏な声を響かせ、児童館の扉を蹴破ったのは悪の怪人たちだ。
平和な遊び場は一瞬にして戦場へと変貌し、ちびっ子たちの顔が恐怖にこわばる。
だが、誰一人として声を上げて泣き出したりはしない。
小さな拳をきゅっと握りしめ、ボロボロと涙をこぼしそうになりながらも、必死に声を堪えているのだ。
僕らが泣いたら、怪人たちの思うツボだ——そんな健気な決意が、子供たちの背中に満ちていた。
「オイオイ、今から娘とデートだっていうのに、泣きたいのはこっちだぜ!」
突如怪人たちの前に現れたレッドは、にやりと獰猛な笑みを浮かべ、いつもの軽口を叩いた。
敵の威圧感に、一歩も引く気はない。
「敵ランクはC、数は5! 弱点調律は442(Hz)!」
背後から、いつの間にか作戦立案を買って出たストレッタの鋭い声が響く。
「マルカートは最前線で弾幕を展開、全員の盾になって! あたしが敵陣を攪乱する。その間にラッパの二人は、音圧が充填しだい各個撃破!」
ストレッタの檄が飛び、レッドが力強く目くばせする。
その瞬間、戦いの火ぶたが切って落とされた。
——即席のアンサンブル。しかし、その呼吸は最悪だった。
「ストレッタ先輩、テンポが早すぎます! これじゃ空回りする!」
バックが悲鳴のような声を上げる。
戦況は一刻を争う。
「マルカート先輩、弾幕に隙ができてます!……って、あっ、よだれ!? 戦闘中に肉のこと考えないでください! 隊長も音のツボを外しすぎです、これじゃあハーモニーが……っ!」
士官学校で叩き込まれた、模範通りの正確無比な旋律。それを刻もうとするバックの焦りを嘲笑うかのように、敵の猛攻が襲いかかる。
凸凹な演奏では、押し寄せる暴力の波を食い止められない。
一歩、また一歩と後退を余儀なくされる。
完全に戦線の崩壊、絶体絶命の危機。
「くそっ……! 僕は、士官学校の面汚しとしてここで終わるのか……!」
その時、レッド隊長がズレたピッチのまま、ワハハと豪快に笑った。
「バック君! 音楽ってのはな、譜面通りに吹くのが全てじゃないんだよ。何とかなるさ!」
その言葉に呼応するように、マルカート隊員もニヤリと鋭い牙を覗かせ、ドラムを激しく叩き出す。
「そうだにゃ! ぐだぐだ言ってないで、僕のビートに心を合わせるにゃ! 終わったらカルビとタン塩が待ってるんだにゃー!」
「バック、首席の意地を見せてみろにゃん!」
「なっ……何とかなるわけが——」
言いかけたバックの耳に、レッド隊長のトランペットの音が飛び込んできた。
技術は未熟。音もかすれている。
しかし——それは、聴く者の心をじんわりと温め、包み込むような、圧倒的な「陽のエネルギー」に満ちた音響弾だった。
教科書には決して載っていない、魂を揺さぶるヒーローの音だ。
「これならどう!?」
ストレッタが放つ華やかなトリルが敵の感覚を狂わせて翻弄し、
よだれを拭ったマルカートは「最初からやれよ!」と突っ込みたくなるほど見事なスティックさばき生み出した音響弾で、敵の逃げ道を完全に塞いでいく。
バラバラだったはずの音が、お互いの魂を補い合うようにして一つの巨大なうねりとなっていく。
「……これが、ウルセンジャーの音楽……!」
胸の奥から湧き上がる熱い衝動に突き動かされ、バックは無意識に楽器を構えていた。
狙うのは完璧な芸術ではない。
目の前の子供たちを救うための、ただ一つの「正義の音」だ。
バックは泥臭く、先輩たちに負けじと夢中でトランペットを吹き鳴らした。
4人の音が重なり、かつてない至高のハーモニーが児童館に響き渡る。
子供たちの心を打った音響はそのままダイレクトに怪人たちを討ち
派手な大爆発とともに塵ひとつ残さず退散していった。
静寂の後――。
「わあぁぁぁーーっ!」
子供たちが、一斉にバックの元へと「もぶりついて(群がって)」きた。
「お兄ちゃんカッコいい!」「ラッパすごかった!」
小さな手がバックの服を掴み、満面の笑顔が弾ける。
これまで母・シルキーの厳しい教えのもと、コンクールで完璧な演奏をし、満場の拍手をもらったことは何度もあった。しかし、こんな風に、自分の音が直接誰かを笑顔にし、肌で感謝されたことなど一度もなかった。
(ドクン……!)
バックの心臓が、まるで物理的に貫かれたかのように激しく脈打った。
「私が……本当に求めていた音楽は、ここにあるのかもしれない」
【後日談:国立音響防衛士官学校・教官室】
「――であるからして、我が校の訓練生は常に規律を重んじ、完璧な音響防衛を……」
学生たちから「生きた伝説」と恐れられ尊敬を集める、
特級トランペット使いでもあるフォルテ司令官は、教壇で厳格に言い放っていた。
――しかし、デスクに戻り、京都の名門、轟雷流の師範であるシルキーからの着信画面を見た瞬間、彼の顔から血の気が引いた。受話器を取る手はガタガタと震えている。
「もしもし、フォルテ司令官。うちのバックがお世話になってます。……ところで私の聞き間違いかしら? うちの子が、国立音響防衛隊ではなく、山口の……何とかレンジャーというちんけな所に行っているそうやけど?」
受話器の向こうから、国に数名しかいない上級トランペット使いとしての、凄まじいプレッシャーを含んだ、美しくもトゲのある京都弁が伝わってくる。
「ひっ、は、はいぃっ!! シルキー師範、本当に申し訳ございません!! 音楽戦隊ウルセンジャーであります! すべては私の事務手続きミス、完全に私の書類の誤発送が原因でして……! け、決してわざとではございません、どうかお許しをぉぉ!!」
さっきまでの鬼司令官のプライドはどこへやら、完全にタジタジの平身低頭である。
しかし、フォルテ司令官は冷や汗を拭いながら、恐る恐る言葉を続けた。
「そ、それでお伝えしづらいのですが……あそこの『レッド隊長』、実はシルキー師範が幼少期に京都へ留学させて徹底的に鍛え上げられた、あのお弟子のレッド君だそうでして……。今でもシルキー師範の名前を聞いただけでトラウマが蘇り、ガタガタ震えて夜も眠れなくなるほど恐れているあの男です」
「……あら、私の可愛い弟子(レッド)のところへ行ったのね。ふふ、あの『長州の虎』と恐れられたあの子の母親から『ウチのかわい子ちゃんをよろしくねっ』って泣きつかれ、ウチへ音楽留学させてあげたのに……。私のあの完璧なシゴキに耐えかねて、逃げ回って……今度は私の息子までたぶらかすやなんて、随分とええ度胸してはるわ」
トゲのある嫌味な言い回し。しかし――その声の奥には、今は亡き戦友(長州の虎)への義理と、必死に育てた教え子を温かく見守るような優しさが滲んでいた。
「面白いじゃない。私の教え(芸術)よりも、あの逃げ出した弟子の泥臭い音を選んだというのね。……近いうち、そのウルセンジャーの秘密基地とやらへ、私も直接『挨拶』に伺うとしましょう。あの子がどんな音を出すようになったか、この目で確かめてあげんとね」プチッ、と通話が切れた。
「あ、頭が痛い……バック君、早く帰ってきてくれ……!」
フォルテ司令官は教官室の机に突っ伏し、己の痛恨の事務ミスを本気で呪うのだった。
【エピローグ:戦いの後の打ち上げ・焼肉屋にて】
「にゃはー! やっぱ戦いの後のカルビとタン塩は最高だにゃ!」
網の上で煙を上げるお肉を、マルカート先輩がものすごい勢いで肉球トングを使って皿に引き上げていく。
「ちょっとマルカート、私のハラミ取らないでよー!」とストレッタがフルートを吹くような素早い箸さばきで応戦している。
「ワハハ! みんな今日はお疲れさん! バック君もたくさん食べなさい!」
レッド隊長が豪快に笑いながら、バックの皿に次々とお肉を放り込んだ。
バックはそのお肉をじっと見つめた後、箸を置き、すっと居住まいを正した。
その真剣な空気に、網の上の肉を奪い合っていた先輩たちも思わず手を止める。
「レッド隊長。そしてストレッタ先輩、マルカート先輩」
バックは3人の目を真っ直ぐに見つめ、ハキハキとした、しかし決意に満ちた声で告
げた。
「私は今回の職場体験で、自分が本当に吹きたかった『音』を見つけました。ですので……
私は士官学校を卒業したら、国立音響防衛隊ではなく、
この音楽戦隊ウルセンジャーへ正式に入隊します!」
「「「…………えええええええーーーっっっ!!!???」」」
静まり返る焼肉屋に、ウルセンジャー3人(1匹含む)の大絶叫が響き渡った。
「え、エリートがうちに就職!?」と目玉を飛び出させるレッド隊長。
「マジで!? ギャルとエリートのコンビ結成じゃん!」とはしゃぐストレッタ先輩。
「正気かにお前!? うちの薄給じゃ、お前の吹いてるお高いラッパのメンテナンス代すら出ないにゃーーー!!」とホルモンを喉に詰まらせかけるマルカート先輩。
大パニックに陥る先輩たちをよそに、
バックは初めて、フッと満足そうな優しい笑みを浮かべるのだった。
ここからウルセンジャーの新たな歴史が始まる……!
第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』はコチラ
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/posts/blog11.html
音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html
第9話『事務ミスでド田舎の戦隊へ配属されるの巻』
※今回は、バック隊員の入隊にまつわるエピソードです
【某日:ウルセンジャー秘密基地】
「……おい、大変なことになったぞ」
レッド隊長が、カタカタと震える手で1枚の公文書を差し出した。
覗き込んだパーカッション(打楽器)担当のマルカートが、肉球で耳をかきながら冷ややかに見下ろす。
「何だにゃ隊長、またおやつの予算を使い果たしたのかにゃ?……って、これ、国立音響防衛士官学校からの『職場体験派遣状』じゃにゃーか。しかも特級トランペット使いの息子で、超エリートのバック君だにゃ! なぜうちみたいな防府の弱小部隊に来るんだにゃ!?」
その時、カチャと物静かにドアと開き、仕立ての良い学生服に身を包んだ青年――バックがパッと姿勢を正して敬礼した。
「……国立音響防衛士官学校、バック上級トランペット使い! 本日より職場体験に参りました! ……しかし、ここは国立音響防衛隊の本部ビルではなく、……防府市市民活動支援センターと言われましたが」
「ひぃっ!本物が来た!」
激しく動揺して机の下に隠れようとするレッド隊長。
「ちょっと隊長、何ビビってんの? 挨拶くらいシャキッとしなよ」
奥からポテトチップスを片手に現れたのは、フルート担当のギャル姉さん、ストレッタだ。
「あ、私はストレッタ。よろ~」
「っ、失礼します! フルート担当のストレッタ先輩ですね。……フルート使いとして超一級品の指さばき。お噂はかねがね聞いています。しかし、緊迫感ゼロ……」
バックの脳内処理が早くも追いつかなくなる。
そこへマルカートがスティックを回しながら近づいてきた。
「フン、エリート様が随分とお固いラッパを持って乗り込んできたにゃ。せいぜい吾輩のドラムのリズムに遅れずについてくることだにゃ」
「……猫!? いえ、失礼しました、パーカッション担当のマルカート先輩ですね ……しかし、あのスティックさばき、只者ではない。なのに戦いの後のご褒美の焼肉のことばかり考えているだと……!? この部隊、何かがおかしい!」
バックの常識は、音を立てて崩壊していった。
【同日午後:地元の児童館】
「ギャハハハ! 子供たちをぎゃん泣きさせてやるわい!」
不穏な声を響かせ、児童館の扉を蹴破ったのは悪の怪人たちだ。
平和な遊び場は一瞬にして戦場へと変貌し、ちびっ子たちの顔が恐怖にこわばる。
だが、誰一人として声を上げて泣き出したりはしない。
小さな拳をきゅっと握りしめ、ボロボロと涙をこぼしそうになりながらも、必死に声を堪えているのだ。
僕らが泣いたら、怪人たちの思うツボだ——そんな健気な決意が、子供たちの背中に満ちていた。
「オイオイ、今から娘とデートだっていうのに、泣きたいのはこっちだぜ!」
突如怪人たちの前に現れたレッドは、にやりと獰猛な笑みを浮かべ、いつもの軽口を叩いた。
敵の威圧感に、一歩も引く気はない。
「敵ランクはC、数は5! 弱点調律は442(Hz)!」
背後から、いつの間にか作戦立案を買って出たストレッタの鋭い声が響く。
「マルカートは最前線で弾幕を展開、全員の盾になって! あたしが敵陣を攪乱する。その間にラッパの二人は、音圧が充填しだい各個撃破!」
ストレッタの檄が飛び、レッドが力強く目くばせする。
その瞬間、戦いの火ぶたが切って落とされた。
——即席のアンサンブル。しかし、その呼吸は最悪だった。
「ストレッタ先輩、テンポが早すぎます! これじゃ空回りする!」
バックが悲鳴のような声を上げる。
戦況は一刻を争う。
「マルカート先輩、弾幕に隙ができてます!……って、あっ、よだれ!? 戦闘中に肉のこと考えないでください! 隊長も音のツボを外しすぎです、これじゃあハーモニーが……っ!」
士官学校で叩き込まれた、模範通りの正確無比な旋律。それを刻もうとするバックの焦りを嘲笑うかのように、敵の猛攻が襲いかかる。
凸凹な演奏では、押し寄せる暴力の波を食い止められない。
一歩、また一歩と後退を余儀なくされる。
完全に戦線の崩壊、絶体絶命の危機。
「くそっ……! 僕は、士官学校の面汚しとしてここで終わるのか……!」
その時、レッド隊長がズレたピッチのまま、ワハハと豪快に笑った。
「バック君! 音楽ってのはな、譜面通りに吹くのが全てじゃないんだよ。何とかなるさ!」
その言葉に呼応するように、マルカート隊員もニヤリと鋭い牙を覗かせ、ドラムを激しく叩き出す。
「そうだにゃ! ぐだぐだ言ってないで、僕のビートに心を合わせるにゃ! 終わったらカルビとタン塩が待ってるんだにゃー!」
「バック、首席の意地を見せてみろにゃん!」
「なっ……何とかなるわけが——」
言いかけたバックの耳に、レッド隊長のトランペットの音が飛び込んできた。
技術は未熟。音もかすれている。
しかし——それは、聴く者の心をじんわりと温め、包み込むような、圧倒的な「陽のエネルギー」に満ちた音響弾だった。
教科書には決して載っていない、魂を揺さぶるヒーローの音だ。
「これならどう!?」
ストレッタが放つ華やかなトリルが敵の感覚を狂わせて翻弄し、
よだれを拭ったマルカートは「最初からやれよ!」と突っ込みたくなるほど見事なスティックさばき生み出した音響弾で、敵の逃げ道を完全に塞いでいく。
バラバラだったはずの音が、お互いの魂を補い合うようにして一つの巨大なうねりとなっていく。
「……これが、ウルセンジャーの音楽……!」
胸の奥から湧き上がる熱い衝動に突き動かされ、バックは無意識に楽器を構えていた。
狙うのは完璧な芸術ではない。
目の前の子供たちを救うための、ただ一つの「正義の音」だ。
バックは泥臭く、先輩たちに負けじと夢中でトランペットを吹き鳴らした。
4人の音が重なり、かつてない至高のハーモニーが児童館に響き渡る。
子供たちの心を打った音響はそのままダイレクトに怪人たちを討ち
派手な大爆発とともに塵ひとつ残さず退散していった。
静寂の後――。
「わあぁぁぁーーっ!」
子供たちが、一斉にバックの元へと「もぶりついて(群がって)」きた。
「お兄ちゃんカッコいい!」「ラッパすごかった!」
小さな手がバックの服を掴み、満面の笑顔が弾ける。
これまで母・シルキーの厳しい教えのもと、コンクールで完璧な演奏をし、満場の拍手をもらったことは何度もあった。しかし、こんな風に、自分の音が直接誰かを笑顔にし、肌で感謝されたことなど一度もなかった。
(ドクン……!)
バックの心臓が、まるで物理的に貫かれたかのように激しく脈打った。
「私が……本当に求めていた音楽は、ここにあるのかもしれない」
【後日談:国立音響防衛士官学校・教官室】
「――であるからして、我が校の訓練生は常に規律を重んじ、完璧な音響防衛を……」
学生たちから「生きた伝説」と恐れられ尊敬を集める、
特級トランペット使いでもあるフォルテ司令官は、教壇で厳格に言い放っていた。
――しかし、デスクに戻り、京都の名門、轟雷流の師範であるシルキーからの着信画面を見た瞬間、彼の顔から血の気が引いた。受話器を取る手はガタガタと震えている。
「もしもし、フォルテ司令官。うちのバックがお世話になってます。……ところで私の聞き間違いかしら? うちの子が、国立音響防衛隊ではなく、山口の……何とかレンジャーというちんけな所に行っているそうやけど?」
受話器の向こうから、国に数名しかいない上級トランペット使いとしての、凄まじいプレッシャーを含んだ、美しくもトゲのある京都弁が伝わってくる。
「ひっ、は、はいぃっ!! シルキー師範、本当に申し訳ございません!! 音楽戦隊ウルセンジャーであります! すべては私の事務手続きミス、完全に私の書類の誤発送が原因でして……! け、決してわざとではございません、どうかお許しをぉぉ!!」
さっきまでの鬼司令官のプライドはどこへやら、完全にタジタジの平身低頭である。
しかし、フォルテ司令官は冷や汗を拭いながら、恐る恐る言葉を続けた。
「そ、それでお伝えしづらいのですが……あそこの『レッド隊長』、実はシルキー師範が幼少期に京都へ留学させて徹底的に鍛え上げられた、あのお弟子のレッド君だそうでして……。今でもシルキー師範の名前を聞いただけでトラウマが蘇り、ガタガタ震えて夜も眠れなくなるほど恐れているあの男です」
「……あら、私の可愛い弟子(レッド)のところへ行ったのね。ふふ、あの『長州の虎』と恐れられたあの子の母親から『ウチのかわい子ちゃんをよろしくねっ』って泣きつかれ、ウチへ音楽留学させてあげたのに……。私のあの完璧なシゴキに耐えかねて、逃げ回って……今度は私の息子までたぶらかすやなんて、随分とええ度胸してはるわ」
トゲのある嫌味な言い回し。しかし――その声の奥には、今は亡き戦友(長州の虎)への義理と、必死に育てた教え子を温かく見守るような優しさが滲んでいた。
「面白いじゃない。私の教え(芸術)よりも、あの逃げ出した弟子の泥臭い音を選んだというのね。……近いうち、そのウルセンジャーの秘密基地とやらへ、私も直接『挨拶』に伺うとしましょう。あの子がどんな音を出すようになったか、この目で確かめてあげんとね」プチッ、と通話が切れた。
「あ、頭が痛い……バック君、早く帰ってきてくれ……!」
フォルテ司令官は教官室の机に突っ伏し、己の痛恨の事務ミスを本気で呪うのだった。
【エピローグ:戦いの後の打ち上げ・焼肉屋にて】
「にゃはー! やっぱ戦いの後のカルビとタン塩は最高だにゃ!」
網の上で煙を上げるお肉を、マルカート先輩がものすごい勢いで肉球トングを使って皿に引き上げていく。
「ちょっとマルカート、私のハラミ取らないでよー!」とストレッタがフルートを吹くような素早い箸さばきで応戦している。
「ワハハ! みんな今日はお疲れさん! バック君もたくさん食べなさい!」
レッド隊長が豪快に笑いながら、バックの皿に次々とお肉を放り込んだ。
バックはそのお肉をじっと見つめた後、箸を置き、すっと居住まいを正した。
その真剣な空気に、網の上の肉を奪い合っていた先輩たちも思わず手を止める。
「レッド隊長。そしてストレッタ先輩、マルカート先輩」
バックは3人の目を真っ直ぐに見つめ、ハキハキとした、しかし決意に満ちた声で告
げた。
「私は今回の職場体験で、自分が本当に吹きたかった『音』を見つけました。ですので……
私は士官学校を卒業したら、国立音響防衛隊ではなく、
この音楽戦隊ウルセンジャーへ正式に入隊します!」
「「「…………えええええええーーーっっっ!!!???」」」
静まり返る焼肉屋に、ウルセンジャー3人(1匹含む)の大絶叫が響き渡った。
「え、エリートがうちに就職!?」と目玉を飛び出させるレッド隊長。
「マジで!? ギャルとエリートのコンビ結成じゃん!」とはしゃぐストレッタ先輩。
「正気かにお前!? うちの薄給じゃ、お前の吹いてるお高いラッパのメンテナンス代すら出ないにゃーーー!!」とホルモンを喉に詰まらせかけるマルカート先輩。
大パニックに陥る先輩たちをよそに、
バックは初めて、フッと満足そうな優しい笑みを浮かべるのだった。
ここからウルセンジャーの新たな歴史が始まる……!
第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』はコチラ
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