第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』

(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
楽器紹介等、音楽の話はノンフィクションです


第10話『秘密のオービエと、ステューデントモデルの罠』

厳しい訓練が終わり、秘密基地には私とマルちゃんだけが残った。

機材置き場のスネアドラムの上で、マルちゃんが退屈そうに尻尾を揺らしている。
彼とのこの時間に繰り広げられる音楽談義は、私にとって密かな楽しみでもある。

「ところで隊長。例のブツ……ヤマハの(トランペット)マウスピース、オービエの使用感はどうだったニャ?」
マルちゃんが上から目線で、値踏みするような視線を投げてきた。

「ああ、あれね。いや、本当に驚いたよ。今までお世話になっていたヤマハの16c4や、同等のリムサイズであるバックの1-1/2、ティルツの1-1/2あたりと比べても、とにかく吹奏感が軽いんだ。楽にハイベーまでスルスルっと出るもんだから、吹いた瞬間に驚いて思わず腰が抜けたよ」

私が興奮気味に語ると、マルちゃんはフイッと鼻で笑い、得意の音楽知識を披露し始めた。

「フン、相変わらず大げさだニャ、隊長。だが、油断するなニャ。オービエモデルは確かにコントロールしやすいが、隊長のトランペット、ヤマハのニューヨークモデルとの相性合わせもある。
体に馴染んで使いこなせるようになるまでには、何ヶ月もかかるぞニャ」

みんなには内緒だが、さすがは国に数人しかいない特級打楽器使い、
耳が痛いほど的確なアドバイスだ。

そんなマルちゃんとの音楽談義にすっかり華が咲き、私はふと思い出したエピソードを口にした。
「そういえばさ、この前、この基地があるビルの1Fのテナントに入っているタマシゲ楽器さんに寄ったときに、YTR-4335ヤマハのステューデントモデル(トランペット)をちょっと試奏させてもらったんだよね。そしたらさ……これがもの凄く吹きやすくてさ。値段は安いのに、ピストンの動きも驚くほど快適だったんだ」

そこまで話して、私の顔は急に曇った。心の中に湧き上がったある疑問が、ボソっと口から漏れ出る。
「……なぁマルちゃん。よくよく考えたら、我々ウルセンジャーの出動で演奏するのって、ミュージックエイトのアニメ曲ばかりじゃないか? 激しいポップスを長時間を演奏する耐久戦なら、今のニューヨークモデルじゃなくて、あのステューデントモデルの方が楽に吹けて合っていたんじゃ……」

私の呟きを聞いたマルちゃんは、深く頷いた。
「……それはそうニャ」

マルちゃんはここぞとばかりにうんちくを語り出す。
「ポップスとステューデントモデルの相性は抜群だニャ。管体が軽くて反応が良いから、マイク乗りもいいし、何よりバテにくい。隊長の保有する”重厚なクラシック向けのトランペット”でM8のポップスを1時間耐久するのは、ある意味で拷問だニャ」

痛いところを突かれ、俺はガックリと項垂れた。
せっかく嫁様に内緒で高級なオービエのマウスピースを手に入れたというのに、
そもそも武器(トランペット)の選択から見直すべきだったのかもしれない。

そんな私を見て、マルちゃんはスネアドラムから飛び降り、足元にすり寄ってきた。
「まぁ、買ってしまったものは仕方ないニャ。油断してバテたら、吾輩の特級ビートでカバーしてやるニャ。
それにニューヨークモデルの響きは、古き良きアメリカを想いださせてだ格別にゃー、
だから隊長、うなだれていないで、前回の極秘調達任務の報酬(焼肉)を早くもらうニャ。吾輩の腹と肉の神様が、限界を迎えているニャ」

マルちゃんなりの不器用な励ましに、私は少しだけ救われた気がした。

「またたび酒も取り寄せてるよ」

夕暮れ時の防府市。
ポケットの中にある、嫁様にバレてはいけない秘密のマウスピースの重みを感じながら、私は一匹の特級打楽器使いと共に、寂びれた夜の街へ、馴染みのことぶき(焼肉屋)へと歩き出す。

今夜のヘソクリの消え先は、正義のためではなく、マルちゃんのカルビのため。
赤く染まる夕焼け空に、私たちの影が長く、どこか哀愁を帯びて伸びていた。


第11話『フォルテパニック!~高級スイーツと、届かないウインク~』はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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2026年05月25日