第11話『フォルテパニック!~高級スイーツと、届かないウインク~』

(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです


第11話『フォルテパニック!~高級スイーツと、届かないウインク~』

「スレッタさーん。いらっしゃいますかー」
秘密基地の重い鉄扉を開け、俺は声をかけた。

「あ、隊長!おっそーい!こっちはもうMuramatsuの24Kフルートのセッティング終わってんだけど!」

ストレッタ――俺が普段「スレッタ」と略称で呼んでいるウチのフルート担当は、短いスカートを揺らしながら、いつもの強気なギャル口調でリップを塗り直していた。普段はこんな調子だが、音楽にかける情熱と、俺という隊長への”最低限の敬意”は忘れない、頼れる仲間だ。

「悪い悪い。ほら、約束のモノだ」
俺がポケットから取り出したのは、銀色に輝くトランペットのマウスピース。世界的な名手たちに愛される『オービエモデル』だ。前回、俺が嫁様に内緒でこれを調達したことがスレッタにバレた時、彼女はニヤニヤしながらこう言ったのだ。

『嫁様に内緒にする代わりにさ……
そのオービエ、ウチにも試奏させてね。
私 の 唇 で 確 か め て あ げ る 』

あの時、俺の背中に走った最悪の悪寒。
それはただの冗談として聞き流したものの、俺の本能が、二つの巨大な破滅的リスクを察知したからだった。

一つは、我が家の絶対権力者である『リアル恐妻(嫁様)』にこの密事が露見すること。

そしてもう一つは、士官学校時代の恩師であり、スレッタの父親でもあり
娘を超溺愛している、特級トランペット使い『フォルテ教官』の逆鱗に触れることだ。

スレッタは、その特級使いの父親から幼少期より凄まじい英才教育を受けて育っている。
普段は”中級フルート使い”を名乗っているが、実はトランペットを持たせても、そこらの奏者が裸足で逃げ出すほどの圧倒的な腕前を持っているのだ。

「マジで極秘調達に成功したんだ!神すぎ!」
スレッタは目を輝かせ、オービエを受け取ると、私のトランペットをぶんどって試奏しだした。

「(スーーーー……プーーーッ♪ ーーーーーーーーーッ!!)」
フルート使いの超絶な肺活量から繰り出された音圧は基地の防音壁を震わせる、あまりにも美しくツヤのあるハイトーン。
さすが特級の血筋、そして最高峰のマウスピースだ。爆速のレスポンスで、基地の空気を一瞬で支配していく。
「ヤバ……脳汁ドバドバ出るわ。ムカつくけど隊長、ありがと――」

( ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ン !!! )

突如、基地の鉄扉がヒンジごと吹き飛ぶような大爆音。凄まじい音圧のトリプルC(超高音)が鼓膜を突き刺す。

「そこにいるのは分かっているぞぉぉ!レッド隊長ォォォ!!」

「ゲッ、パパ!?何でここにいんの!?」

現れたのは、目を血走らせ、愛機ヴァンラーを構えたフォルテ司令官だった。特級トランペット使いの放つオーラは、それだけで周囲の空気を歪ませる。

「我が娘の純潔の危機を検知したのだ!
……むっ!?そのスレッタの持つオービエ……
貴様、貴様の嫁に内緒で調達した不届きなブツを、我が娘の唇に触れさせたな!!」

「ひっ……!」

俺は本能的にスレッタの背後に隠れた。
特級使いの全力ハイトーン爆撃をゼロ距離で喰らえば、俺の三半規管は一瞬で塵になる。
何より、これが自宅の嫁様に通報されでもしたら、俺の人生そのものが完全沈滅(ピアニッシモ)だ。

「ちょ、ちょっとパパ落ち着きなさいよ!」
スレッタがトランペットを構え、父親の爆音を相殺するような見事なアンサンブルをぶちかました。
流石は士官学校を優秀な成績で卒業したエリート奏者!
「これはただの音響工学的なテスト!隊長はウチの技術を信頼して貸してくれただけだし!ね、ねえ隊長!?」

「そ、そうだ司令官殿!これは、その、教官の奥様(ピアノ夫人)から頼まれた、教官の極秘調達癖を矯正するためのプログラムの一環でして……!」
俺はガタガタと震えながら、冷徹な表情を必死に作ってスマホを突きつけた。画面にはピアノ夫人の連絡先がバッチリ表示されている。

「うぐっ……!ピ、ピアノだと……!?」
特級トランペット使いの身体が、嫁様の名前を聞いた瞬間にピクピクと痙攣し始めた。
「これ以上暴れるなら、今すぐ奥様に『司令官殿がまた基地を壊して暴れてる』って直電しますからね!フリマアプリで教官のヴァンラーが即決3000円で出品されても知りませんよ!」

!!?
「それだけは……それだけは勘弁してくれぇぇぇ!!」
どんなに強大な特級使いも、恐妻の絶対零度オーラには勝てない。フォルテ教官はヴァンラーを抱きしめたままその場に崩れ落ち、そのまま蜘蛛の子を散らすようなスピードで基地から逃げ去っていった。

「……ふぅ。パパ、完全に貸し出されたチワワ状態でマジ草」
静寂が戻った基地で、スレッタはフゥと息を吐き、楽器を片付け始めた。

嵐は去った。押し問答の末、何とかごまかし切ったのだ。俺は胸をなでおろし、冷や汗を拭った。
しかし、スレッタはすぐに、あの意地悪なギャル特有の笑みを浮かべて俺にじりじりと近づいてきた。

「ねぇねぇ、隊長~?パパも居なくなったことだしさ。
さっきの『間接チス』の話、もう一回詳しく聞かせてもらおうじゃん?」

「ス、スレッタ、その話はもう……」

「顔真っ赤にしてあたふたしちゃってさー。そんなに自宅の『リアル恐妻(嫁様)』の顔が脳裏に浮かんでビビり散らかしてんの?もしウチが奥様に『隊長がウチと間接チスしてきましたー!』って直電しちゃったら、どうなるのかな~?」

「頼む、それだけは勘弁してくれ……!」
俺が情けなく頭を抱えると、スレッタは「ギャハハ!冗談だってば!」と嬉しそうに笑った。
その向こうで、彼女の瞳がほんの一瞬だけ、寂しそうに揺れたのを、俺は気づかない。

彼女がいつも俺の前でこうして元気よく、時に意地悪に振る舞うのは、
本当は恐妻家で苦労している俺を元気づけたいから。俺の力になりたいから。そして……

「……ま、隊長がそんなに奥様に一途なら、ウチの付け入る隙なんて最初からないんだけどね」
スレッタは小さく、俺に聞こえないほどの声で呟いた。

「え?何か言ったか、スレッタ」

「なーんーでーもーなーいー!ほら、次のステージのご褒美スイーツは、防府で一番高いやつ特盛で奢りね!ウチの Muramatsu と隊長のオービエの音で、次の本番もマジで最強のステージにしちゃうんだからさ!」

スレッタの少しだけ切なさを隠した悪戯っぽいウインクとともに、
冷や汗まみれのいつもの訓練は、賑やかに幕を閉じるのだった。


第12話『落ちこぼれ少年の春と、伝説の超弾幕』はこちら
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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2026年05月25日