第11話『情報士のラッパ』

第11話『情報士のラッパ』


「リアルダ。」

「はい?」

「それ。」

俺は、彼女の足元を指差した。

トランペットケース。

リアルダは一瞬、固まった。

そして。

ぱっと笑った。

「気付きました?」

「そりゃ気付く。」

「えへへ。」

嬉しそうにケースを抱える。

アクセントが目を丸くした。

「リアルダさん。」

「吹くんですか?」

「吹きますよ!」

胸を張る。

スタッカートが首を傾げた。

「……吹けたっけ?」

「吹けます!」

「音は出ます!」

「その言い方、不安になるんだけど。」

小さな笑いが起きた。

リアルダは気にせず、ケースを開く。

使い込まれたトランペットが姿を現した。

「小学校からの相棒です。」

「へぇ。」

ブリランテが覗き込む。

「大事にしてますねー!」

「もちろんです!」

リアルダは嬉しそうに楽器を取り出した。

「レッド様から教えて頂いた口輪筋の練習。」

リアルダの顔が輝いた。

「山陰支部を出てから、益田駐屯地まで時間がありましたので。」

胸を張る。

「ずっと個人練習をしてました!」

少し間を置く。

「レッド様は寝てらっしゃいましたし……。」

「……余計なことは言わなくていい。」

「はい!」

まったく悪びれていない。

「じゃあ。」

俺は少し笑った。

「吹く前に、そっちから見てみよう。」

「はい!」

リアルダはトランペットを置いた。

演習場の真ん中へ立つ。

アクセントが首を傾げる。

「何するんです?」

「基礎練習。」

「口の?」

「ああ。」

ブリランテも寄ってくる。

「僕も見たいですー!」

「どうぞ!」

なぜかリアルダが胸を張った。

カンタービレ軍曹も。

ドルチェも。

ソステヌートも。

いつの間にか、こちらを見ている。

「リアルダ。」

「はい!」

「まず。」

「『ム』。」

リアルダの表情が真剣になる。

「ムーーーー!」

「そのまま。」

十秒。

二十秒。

唇が、少し震え始めた。

それでも。

本人は必死だった。

「よし。」

「次。」

「『イ』。」

「イーーーー!」

後ろでアクセントが呟く。

「すげぇ真面目……。」

スタッカートが頷いた。

「融通は利かないけどな。」

「聞こえてますよ!」

「集中。」

「はい!」

姿勢を正す。

「次。」

「『ウ』。」

「ウーーーー!」

「最後。」

「『ア』。」

「アーーーー!」

俺は頷いた。

「うん。」

「ちゃんと出来てる。」

リアルダの表情が。

ぱっと明るくなった。

「本当ですか!」

「ああ。」

「短時間で、よく覚えたな。」

「はい!」

満面の笑み。

そして。

なぜか得意そうに胸を張った。

「私なりに改良して。」

「三十分やりました!」

「……改良?」

「はい!」

「……三十分?」

「はい!」

嫌な予感しかしない。

「リアルダ。」

「はい?」

「何を改良した?」

リアルダは得意そうに笑った。

「見てください!」

真顔になる。

そして。

大きく息を吸った。


第12話『私の三十分』
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2026年07月04日