第4話『トランペット遊撃隊』(前半)

第4話『トランペット遊撃隊』(前半)


リアルダの運転する軍用車は、山陰支部を後にすると再び山道へ入っていった。

相変わらずの悪路だ。

ガタン。

ガタン。

車体が跳ねるたび、助手席のトランペットケースが小さく揺れる。

「あと二十分くらいです。」

リアルダは慣れた手つきでハンドルを切った。

「益田駐屯地は、この先の盆地にあります。」

「結構離れてるんだな。」

「はい。」

リアルダは頷く。

「山陰は広いですから。」

「応援要請があると、一日に二百キロ近く走ることもあります。」

「毎日か?」

「あっさり二百キロを超える日もあります。」

少し照れたように笑う。

「私も遊撃隊も、車の中が第二の職場ですね。」

苦笑するしかなかった。

山口とは規模が違う。

ここでは、移動すること自体が戦いなのだ。

窓の外では、初夏の山並みがゆっくりと流れていく。

深い緑の向こうで、小さな集落の屋根が陽射しを受けて光っていた。

ふと思い出したように俺は尋ねる。

「そういえば、遊撃隊は十名編成だったな。」

「はい。」

「右翼五名、左翼五名で編成されています。」

「なるほど。」

だが、一つ疑問が浮かぶ。

「士官学校では、例えば金管五重奏――『金五』が基本だった。」

「トランペット、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバ。」

「最小単位の吹奏楽器、混成部隊で連携を学んだし、卒業試験もその編成だった。」

「なのに、どうして山陰はトランペットだけなんだ?」

リアルダは少し微笑んだ。

「北方戦線は、本部とは戦い方が違うんです。」

「違う?」

「はい。」

車は大きくカーブを曲がる。

窓の外には深い山並みが続いていた。

「山陰では、不協和音との戦闘が、そのまま会戦へ発展することが珍しくありません。」

「遊撃隊は最初に現場へ到着し、住民を避難させ、戦線を維持します。」

「そして、音響士や上級音術師の先生方が到着すると、そのまま会戦部隊へ編入されます。」

俺は静かに耳を傾ける。

「そのため、最初から同じ楽器で部隊を編成しています。」

「連携を徹底的に磨いておけば、会戦でも一つの部隊として、そのまま運用できますから。」

「なるほど……。」

確かに理にかなっている。

本部は柔軟性を重視する。

山陰は継戦能力を重視する。

戦う土地が違えば、部隊編成も変わるということか。

「ですから。」

リアルダは少し誇らしげに笑った。

「山陰西部方面第一遊撃トランペット隊は、小さいですが、とても優秀な部隊ですよ。」

その横顔には、信頼と誇りが滲んでいた。

しばらくすると、木々が開けた。

広い演習場。

低い庁舎。

年季の入った車庫。

そして、整然と並ぶ兵舎。

「着きました。」

リアルダが静かにブレーキを踏む。

ギギギ……。

古びた軍用車が、小さく音を立てて止まった。

エンジン音が消える。

山から吹き下ろす風が、演習場の砂を静かに揺らした。

その時だった。

「総員、整列!」

鋭い号令が、静寂を切り裂く。

砂煙の向こうで、人影が動いた。

十人。

一斉に駆け出す足音だけが、演習場へ響いていく。

俺は無意識に息をのんだ。

(これが……。)

山陰西部方面第一遊撃トランペット隊。

まだ誰一人、名前も知らない。

それでも、その足音には。

毎日前線へ向かう者だけが持つ、確かな重みがあった。

初夏の風が、演習場を静かに吹き抜けていく。


第5話『トランペット遊撃隊』(後半)
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2026年07月04日