第4話『山陰流』
第4話『山陰流』
リアルダの運転する軍用車は、山陰支部を後にすると再び山道へ入っていった。
相変わらずの悪路だ。
ガタン。
ガタン。
車体が跳ねるたび、助手席のトランペットケースが小さく揺れる。
「益田までは、まだかかるのか?」
「はい。」
リアルダは慣れた手つきでハンドルを切った。
「山陰は広いですから。」
窓の外には。
初夏の山並みが続いている。
「応援要請があると、一日に百キロ近く走ることもあります。」
「そんなに?」
「はい。」
少し照れたように笑う。
「百キロを超える日もありますよ。」
「私も遊撃隊も、車の中が第二の職場ですね。」
「大変だな……。」
深い緑の向こう。
小さな集落の屋根が、陽射しを受けて光っていた。
ふと。
一つ気になった。
「そういえば。」
「遊撃隊は十名編成だったな。」
「はい。」
「右翼五名、左翼五名です。」
「士官学校では、例えば金管五重奏――『金五』が基本だった。」
「トランペット、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバ。」
「最小単位の混成部隊で連携を学んだし。」
「卒業試験も、その編成だった。」
リアルダが頷く。
「なのに。」
「どうして山陰は、トランペットだけなんだ?」
リアルダが少し微笑んだ。
「北方戦線は、本部とは戦い方が違うんです。」
「違う?」
「はい。」
車が大きなカーブを曲がる。
「山陰では、不協和音との戦闘が。」
「そのまま会戦へ発展することも珍しくありません。」
「遊撃隊が最初に現場へ入り。」
「住民を避難させ、戦線を維持します。」
「その後。」
「音響士や上級音術師の先生方が到着すれば。」
「そのまま会戦部隊へ編入されます。」
「なるほど。」
「だから最初から、同じ楽器で?」
「はい。」
「普段から同じ編成で連携を磨いておけば。」
「会戦でも、そのまま一つの部隊として動けます。」
「そういうことか……。」
士官学校とは。
最初から考え方が違う。
「ですから。」
リアルダが少し誇らしそうに笑った。
「第1トランペット遊撃隊は。」
「小さいですが、とても優秀な部隊ですよ。」
「楽しみだな。」
「はい!」
◇
「レッド様。」
「そろそろ着きそうです。」
その声に反応して。
意識が戻った。
どうやら。
寝てしまっていたらしい。
「……すまない。」
「もうすぐですよ。」
リアルダは、屈託のない笑顔で返した。
俺は少し気まずくなって。
ごまかすように、窓の外へ視線を移す。
しばらくして。
木々が開けた。
広い演習場。
低い庁舎。
年季の入った車庫。
整然と並ぶ兵舎。
「着きました。」
リアルダがブレーキを踏む。
ギギギ……。
古びた軍用車が止まった。
エンジン音が消える。
山から吹き下ろす風が。
演習場の砂を揺らした。
その時だった。
「総員、整列!」
鋭い号令。
砂煙の向こうで。
人影が動いた。
十人。
一斉に駆け出す。
俺は。
その姿を見つめた。
初夏の風が。
演習場を吹き抜けていった。
第5話『第1トランペット遊撃隊』
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