第16話『断りきれなかった依頼(中編)〜不器用な雛たちと、京都轟雷流の戦訓〜』

(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションですが、
現実世界で実際に出動した時の想いでもちりばめています。


第16話『断りきれなかった依頼(中編)〜不器用な雛たちと、京都轟雷流の戦訓〜』

防府市牟礼南小学校への行軍は、俺のナビ無しのオンボロ私用車だった。

秘密基地から県道184号線を東へ、牟礼・江泊方面へと進み、
防府環状線(県道58号線)に入って南東方向へ進路を取る。所要時間は約15分。

軍事的な専門用語を抜きにして簡単に言えば、
「広い道から、びっしり住宅が詰まったクソ狭い道への突撃」だ。

「隊長、状況を簡単に捉えすぎです。やはり僕がナビゲーターとして同乗して大正解でしたね」
助手席で『フフン』と鼻で笑いながら、
無理やり道案内役を勝って出たバックが、こちらを見下ろすような視線を送ってくる。

エリートの余裕というやつは、いつ見ても神経を逆撫でしやがる。

「この近くには旨い焼肉屋があるにゃー。打ち上げが楽しみだにゃー」

後部座席から響く暢気な声に、俺はバックミラー越しに釘を刺した。
「オイオイ、待てマルちゃん。今日は正規の防衛出動じゃない。
つまり、軍事予算(経費)は1円も出ないぞ」

「私はねー、今日たまたま、すっごく暇だっただけだからねー!」
その隣で、窓の外を眺めながらチラチラとこちらに視線を送ってくるスレッタ。

もちろん、その不器用なアピールは、
娘を溺愛するガチムチの司令官と、俺の嫁様の事が脳裏に浮かび完全に無視だ。

「……そもそも俺は、『落ちこぼれの心は、落ちこぼれにしか分からない』という信念のもと、
単独での潜入任務に踏み切ったはずなんだがね。
アカデミー優秀組の君たち(特級野良猫以外)の出番はない。しっ、しっ」

狭い住宅道路をすり抜け、小学校の敷地内にオンボロ車を滑り込ませた俺は、
エンジンを切りながら、手でシッシッと追いはらう仕草を見せて精一杯の皮肉を返した。

だが、バックは悪びれる様子もなく、愛機Bachのケースを抱えて不敵に笑った。
「上手な子の鼻っ柱を折るつもりが、
逆に隊長の鼻がへし折られたら、ウルセンジャーの看板に消えない泥が塗られます。
ここは隊長の代わりに、僕が一流の音ってやつで、
天狗になったガキどもの鼻っ柱を叩き折ってやりますよ。ドヤッ」

バックの『ドヤッ』という余計な一言に、俺の心が激しくざわつく。
……誰か、あの世間知らずの天才坊っちゃんに教えてやってくれ。
『冷静で正確すぎる分析は、時として凡人の心を完全にすり潰す』という、残酷な戦場のリアルをな。

「能書きはいいから、とっとと片付けて宴会にゃー!」

あくびをしながら車を降りるマルカートの後ろ姿を見ながら、俺の中に邪な作戦が浮かぶ。
……このままこの特級猫を校庭に置き去りにして、元の野良猫生活へ強制送還してやろうか。

「あ、見て! 遊具がたくさんある! 久しぶりにブランコとかで遊んじゃおっかなー!」

はしゃぐスレッタの言葉に、俺は心の中で激しく突っ込んだ。
(お前は今日一日、作戦が終了するまでその遊具広場の陣地を死守してろ、
絶対に校舎に入ってくるなよ!金管バンドにフルートは必要ないからナ)

こうして、統率の取れているようで全く取れていない凸凹音響部隊は、
名門・牟礼南小学校の校門をくぐった。


「皆さん、こちらがレッド隊長です。国立音響防衛士官学校を
……その、なんとか、ギリギリで出てらっしゃいます。
皆さまと同じで、なかなかトランペットの腕前が上がらず、とても苦労されたお方なんですよ」

音楽室に並べられたパイプ椅子に座り、不安そうにこちらを凝視していた子供たちの前で、
先生が俺を紹介した。

「はっ、はい……。本当に、奇跡的に、なんとか生きて卒業できたレッドです……」

先生は最大限の気遣いで「落ちこぼれ」という直接的な単語こそ避けてくれた。
だが、いざ公衆の面前で自分の不名誉な経歴を突きつけられると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。

過酷だった士官学校時代の記憶がフラッシュバックし、自信を削ぎ落とされた俺は、
いつものキザなブラックジョークを叩き出す余裕すらなく、
うつむき加減に答えるのが精一杯だった。


こうして、全国レベルの名門に存在する「落ちこぼれトランペットの雛(ひよこ)たち」を指導する特別任務が始まった。

「ッ、ブッ、ブォー……」「スーッ、プッ、プスプス……」「ブッ、スカー……」

子供たちが一斉に放った音は、
お世辞にも音楽とは呼べない、ひどく荒削りなものだった。

だが、俺の耳にはそれがただの雑音には聞こえなかった。
それは、かつて幼い頃の俺が、泣きながら出していた音と全く同じだったからだ。

劣等感を抱え、自分を信じられず、
何を目的に戦えばいいのか分からない、迷子の音――。

「よし、じゃあ、ちょっと俺の音を聴いてくれ」
俺が手本として、基本中の基本である低い『ド』の音をまっすぐに響かせてみる。

「オオーッ! すげえ!!」
その瞬間、子供たちの間に小さなどよめきが起こった。

戦場ではエリートたちに囲まれ、久しく忘れていた「羨望の眼差し」を全身に浴び、
俺は防弾チョッキの裏で思わず赤面してしまった。

「……いいか、君たち。音術師(おんじゅつし)は、イメージできないモノは表現にできない。
これは、俺がみんなと同じくらいの年齢だった頃、
京都の過酷な道場で、骨の髄まで叩き込まれた戦訓(言葉)だ」

俺は雛たちにそう告げると、できるだけ丁寧に腹式呼吸のメカニズムを教え込み、
一緒に『ド』の音を吹き鳴らした。
何回も、何回も、ただ真っ直ぐに音を伸ばすロングトーンの訓練。

「よし。じゃあ次は、君から一人ずつ『ド』の音を吹いてごらん」

最初に指名された子供は、恥ずかしそうに顔を赤らめ、モジモジしながらマウスピースに唇を当てた。
そして、息を吹き込んだ瞬間――。

「えっ!? うそっ!!」
音楽室に、子供たち自身の驚愕の声が響いた。

彼らが最初に放っていた迷子の音とは、明らかに違う。
ほんの少しだけ芯が通り、艶(つや)を帯びた「意志のある音」が、確かにそこにあった。

「音術師は、イメージできないモノは表現にできない」

俺はレッスンの冒頭で述べた、
俺を育ててくれた流派――京都轟雷流の教えを、彼らの目を見つめながらもう一度復唱した。

(……本当は、天狗になっている上手な子たちが率先して、
この子たちと並んでロングトーンをしなきゃいけないんだ。技術の優劣で壁を作るんじゃなくてな)
(あぁ……そうか。だから先生は、格式高い社会人バンドじゃなく、俺をここに呼んだのか)

俺は心の中で、その答えに辿り着き、静かに自問自答した。

落ちこぼれの痛みが分かる俺だからこそ、この防壁(カースト)を壊せる。
こうして、現役落ちこぼれ隊長による、泥臭く熱いレッスンは続いていくのだった――。

(続く)


第17話『断りきれなかった依頼(後編)〜無慈悲なる小学生のフルボリューム〜』
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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2026年05月30日