第1話『戦場に響け、正義のファンファーレ』

(出典:グーグルAI)※ストーリーはフィクションですが、
楽器紹介等、音楽の話はノンフィクションです


第1話『戦場に響け、正義のファンファーレ』

「――ちぃ、……敵がCランクだと舐めていたツケが、このザマか」

「悪のみなさん」の討伐任務を終え、ほうほうの体で秘密基地へ帰還した俺
――ウルセンジャー・レッドは、デスクの上にドカンと両足を放り出した。
敗因は明確だった。

愛機(ヤマハ・ニューヨークモデル)から繰り出される音響弾の調子が、
戦闘中に突管(スライド)内に溜まった水分で狂い始めていたのだ。

演奏……いや、戦闘中の管楽器乗りにとって、
水分除去(つば抜き)は避けて通れない。

だが、無意識のうちにウォーターキィを押して息を吹き込んだ、あのコンマ数秒の隙
――すなわち、音響の弾幕が完全に途切れた瞬間を、あの怪人は見逃さなかった。

激しい衝撃とともに吹き飛ばされた記憶が蘇る。
ジンジンと激しく主張する左腕の痛みに、思わず顔が歪んだ。防護スーツを裂き、皮膚にまで達した怪人の不意打ちによる裂傷だ。悔しさと痛みが、秘密基地の重苦しい空気の中に溶けていく。

だが、この程度の肉体的な負傷は、地獄の士官学校(アカデミー・オブ・レゾナンス)に比べれば微々たるものだった。学生時代、過酷な実戦訓練で骨の一本や二本へし折られるのには慣れっこだ。

俺は慣れた手つきで引き出しから野戦用の救急キットを取り出した。まずは傷口にアルコール消毒液を直接ぶちまける。脳が沸騰するような激痛が走るが、声は出さない。すかさず止血用の圧迫パッドをあてがい、軍用伸縮包帯(バンテージ)を左腕にきつく巻きつけた。歯で包帯の端をがっちりと咥え込み、一気に引き絞って結び目を作る。

「よし、応急処置(ファーストエイド)は完了。10分で前線に戻れる」

独りごちて止血を確認したレッドは、デスクのスタンドライトに照らされる一本のトランペットに視線を落とした。

愛機、ヤマハ・ニューヨークモデル(YTR-9335NYL)。
世界の最前線で戦うトッププロたちがこぞって導入する、極薄のイエローブラス・ラッカー仕上げを施された最高峰の決戦兵器だ。その反応(レスポンス)の早さは神速。吹き込んだ息が1ミリのロスもなく音響エネルギーへと変換され、圧倒的な「陽のエネルギー」となって敵の防壁を撃ち抜く。

――だが、兵器のスペックが最高峰であればあるほど、扱う兵士(プレイヤー)への要求値は跳ね上がる。

ラッカー仕上げ特有の、吹き込めば吹き込むほどダイレクトに鳴り響くこの機体は、乗りこなすのに凄まじい肺活量と、精密機械のようなアンブシュア(唇のコントロール)を要求する。いまのなまりきったレッドの肉体では、このラッパの底知れないポテンシャルに完全に振り回されていた。

反応が良すぎるがゆえに、自分のわずかなピッチのブレや息の乱れといった「技術的なミス」まで、この機体は容赦なく戦場へと拡大・拡散させてしまうのだ。名剣の鋭さに己の腕が追いつかない三流兵士の苦悩が、俺の胸を締め付ける。

「……機体(ラッパ)のポテンシャルには文句はない。問題は、この悪魔の作戦計画書(スコア)と、俺の肉体だ」

デスクの上に広げられた次なる任務のターゲットは――『アンパンマン・マーチ』。

子どもたちの心に巣くう「悪のみなさん」は、コア(命)が精神世界にあるため、重火器や爆弾といった物理攻撃が一切通用しない。奴らの防壁をブチ破り、その核心を討てるのは、子どもたちの胸を打つ生の音の響き――「音響攻撃」のみなのだ。

だからこそ、この譜面(弾幕)の乱れはそのまま前線の崩壊を意味する。しかし、このアンパンマンの譜面はどうだ。インテンポ(譜面通りのテンポ)で演奏すれば曲時間が長くなり、こちらの肺と唇が持たない。ならばとテンポを上げて演奏時間を短縮しようものなら、今度はクラリネット並みに黒く塗りつぶされた連符の嵐に指が回らなくなり、音のツボ(核心)を外す。

トランペットから放たれる音のツボが一度でも外れれば、音響の弾幕が薄くなり、ウルセンジャーの防衛線に致命的な隙ができる。そこに奴らの精神汚染攻撃(イヤイヤ期など)が直撃すれば、前線は一瞬で全滅だ。

「……こうなれば、あの老司令官の知恵を借りるしかないか」

覚悟を決めた俺は、通信端末を起動し、学生時代の恩師であり、現在はアカデミーを統べるフォルテ司令官のホットラインを叩いた。

プルルル♪

ガチャリと繋がった瞬間、受話器から鼓膜を震わせる大音響の怒号が炸裂した。スピーカーモードにしていないにもかかわらず、基地の防音壁が微かに振動するほどの音圧だ。

「バッカモーン! 学生時代に唇立て伏せをサボり、トレーニングをボイコットし続けた報いだッ!!」

挨拶代わりの説教弾幕が容赦なく降り注ぐ。

「いいかレッド! ニューヨークモデルという最高峰のラッパを構えておきながら、アンパンマンのマーチごときに苦戦して返り討ちにされるとは、我がアカデミーの面汚しめ! 貴様の軟弱なブレスコントロールで、子どもたちの笑顔が守れると思っているのか!」

しばらくの間、絶対的な威厳を持つ司令官の一方的なマシンガン説教に耐えていたレッドだったが、相手のトーンがふと変わった。どうやら、ラッパ本体のポテンシャルを引き出し、俺の耐久力の限界を補うための「特殊マウスピース(吸口)」の心当たりがあるらしい。

「……貴様、新兵器、ヤマハの『オービエモデル』というマウスピースを知っているか?」

「いえ、知りません。初耳のコードネームです」

俺は、現在愛用している無骨な銀色のマウスピース、ヤマハ16c4をグッと握りしめる。ラッパと人間を繋ぐ、命の接点(パーツ)だ。

そこからは、司令官の実に楽しそうなオービエのうんちく(兵器解説)が始まった。
要するに、その新型マウスピースは、現在の相棒(16C4)のリム形状を継承して唇への違和感を無くしつつ、カップの底をV字気味に絞ることで、最高峰ラッパへの息の連動性を極限まで高めた「強化型16C4」なのだという。これなら、激しい音の跳躍もスムーズになり、高音域での耐久力も格段に跳ね上がる。

少しでも弾幕の隙を埋め、アンパンマン包囲網を突破できる可能性があるのなら、このマウスピースに賭けてみる価値はある。

「……よし、その新型マウスピースの導入、第一優先事項とします。コレに賭けましょう」

俺は決意を口にし、通信端末を握り直した。

「つきましては司令官殿。このパーツ調達には少々『政治的な問題(軍資金の極秘調達)』が絡んでおりまして……。我が家の絶対権力者(リアル恐妻)に発覚した際の後方支援、あるいは隠蔽工作のフォローをお願いしたく――」

だが、その要請は冷酷に遮られた。

「ガハハ! 家庭内紛争の責任は持たんぞ、レッド! 我が軍の基本方針は『民事不介入』だ。我が身の安全は自力で確保しろ。健闘を祈る!」

自分から調達の話を振っておいて、いざとなったらトカゲの尻尾切りか。
出鼻をくじかれたレッドの顔から、お人好しな笑みが消えた。

(ニチャ……)

薄暗いデスクの光に照らされて、俺の口元が不敵に、そして邪悪に歪んだ。
やられっぱなしの落ちこぼれだと思うなよ、司令官。こちらだってタダで戦場を生き延びてきたわけじゃない、特大の『諜報データ(弱み)』は握っている。

俺は、アメリカ映画の悪役のような、低くねっとりとしたブラックユーモアの効いた声で囁いた。

「――ところで司令官殿。風の噂で聞いたのですがね。オランダ製の超高級手作り兵器『ヴァン・ラー(B4)』というゴキゲンなラッパを新装されたそうじゃないですか」

『!!?』

受話器の向こうで、生きた伝説(特級使い)の息が完全に止まったのが分かった。マウスピースどころの話ではない、ラッパ本体の超巨額調達だ。

「まさかとは思いますが……あの絶対零度の結界主である奥様(ピアノ夫人)や、早口ギャル語マシンガンを操るストレッタ嬢には……当然、内緒というわけではありませんよねぇ? 発覚すれば、リビングがシベリア並みに極寒の地へと変貌する家庭内紛争は免れませんよ?」

「レ、レッド……君、いいか、その件については国家最高クラスの一級機密事項だ。他言は絶対に無用……!」

司令官の声のトーンが急激に下がり、今にも血を吐きそうな弁明が始まる。
さっきまでの威厳に満ちた絶対権力者の面影はどこにもない。

俺はニヤリと勝利の笑みを深め、司令官の言葉をそのままブーメランのように投
げ返した。

「ワハハ! 司令官殿、たとえそちらが極寒のシベリア前線に叩き落とされたとしても、どうか私を巻き込まないでくださいよ? 我がウルセンジャーの方針も『民事不介入』ですから。……では、通信を終了します」

プチッ。

ツーツーという無機質な音を聞きながら、俺は満足そうな表情で端末をデスクに放り投げた。

「悪のみなさん」の討伐、地域ボランティアの訪問演奏、そしてその合間に進める高級マウスピース(オービエ)の極秘スタンドアローン・コンプレックス(単独隠密行動)と、アンパンマンの完全攻略か。

「やれやれ……。どうやらこれから、クソ忙しくなりそうだぞ」

最高峰の愛機(ニューヨークモデル)を愛おしそうに磨きながら、俺はその鋭すぎる牙(ポテンシャル)を100%コントロールするための次なる軍拡計画(ステルス・ショッピング)の作戦を練り始めるのだった。


第2話『不敵な野良上がりの進言と、4つの選択肢』はコチラ
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音楽戦隊ウルセンジャー、小説版の世界観とキャラクター設定はこちら
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2026年04月24日