第6話『絶対防衛線の崩壊と、最強の指揮官(マダム)』
(出典:グーグルAI)※ストーリはフィクションです
第6話『絶対防衛線の崩壊と、最強の指揮官(マダム)』
フォルテ司令官が我が家に帰れなくなり、
秘密基地のソファに居座ってから三日が過ぎた。
基地の空気は最悪だった。
なぜなら、暇を持て余した司令官が、24時間体制で俺たちの粗探し(査察)をしてくるからだ。
「おいマルカート! さっきからピッチがコンマ数ヘルツ高いぞ! 緊張感が足りん!」
「バック! トランペットを磨く暇があったらロングトーンだ! 己の音を磨けッ!」
「レッド! 学生時代に唇立て伏せをサボっていたツケが回ってきたようだな、基本がなってない!」
防音室のソファにどっかりとふんぞり返り、我が物顔で怒号を飛ばす鬼教官。
ここはウルセンジャーの神聖な作戦本部であって、士官学校の練兵場ではない。
だが、家を追われた居候による「暇潰しという名の猛特訓」は容赦なく続いていた。
このギスギスした暗黒空間に、ついにあの隊員が真っ向から噛みついた。
「おい、そこのでっかいおじさん。うるさいんだにゃん」マルカート隊員である。
彼はどこからか拾ってきた安物の愛機『Donner(ドナー)DED-80』のスティックを愛おしそうに撫でながら、上から目線の鋭い眼光を教官へと飛ばした。
「吾輩の完璧なマルカート(はっきりとした音)にケチをつけるとは片腹痛いわ。
だいたい、自分の家を追い出された居候のくせに、偉そうに指図するんじゃないにゃん。
ここは吾輩たちの神聖な詰所だにゃん!」
「な、何だとォ!? 貴様、最高司令官に向かってその口の利き方は――」
怒りで顔を真っ赤にする教官。
だが、野良上がりのにゃんこちゃんには、軍の階級も生きた伝説の肩書きも、一切通用しなかった。
「吾輩は士官学校なんて通ってないにゃん! 生粋の野良にゃん!」
マルカート隊員は冷たく鼻を鳴らす。
「それにパーカッション(打楽器)にコンマ数ヘルツのピッチを求めるな! にゃん!」
「はいはい、おじさん落ち着いて? 怒ると血圧上がってマジ頭髪にくるよ?」
ギスギスした空気を切り裂いて、秘密基地の重厚なハッチがバァン! と派手に開いた。
現れたのは、24Kゴールドフルートを担いだストレッタ隊員――そう、この目の前のダメ親父の実の娘である。
強気なギャル姉さんは、腰に手を当てて仁王立ちした。
「ちょっとパパ! マジ何してんの? ウチを実質クビ(家出)になったからって、私たちの秘密基地を不法占拠とか超ウケるんだけど! 娘としてマジで恥ずかしいから、秒で荷物まとめて出てってくんない?」
「ス、ストレッタ……! お前、最高司令官である父親に向かってそのギャル語はなんだ! そもそも、お前がママに『パパが内緒で高いラッパ買った』と目視でチクらなければ、私は今頃リビングの床暖房の上で――」
「はぁ? ヴァン・ラーとかいう超高級ラッパを内緒で買う方が、倫理観バグってて草なんですけど! ママの怒りゲージ、今マックス通り越して虚無だからね?
っていうか、今夏だし床暖房とか意味不!」
ストレッタの超早口なギャル語マシンガンに、あの鬼教官が完全にタジタジになっている。
その横では、バック隊員が「僕の精密な計算によると、教官がこのまま自宅へ帰れる確率は現時点で0.02%ですね。ほぼ不可能です」と冷淡につぶやき、
マルカートは「ザマァないにゃん。吾輩の安眠を邪魔するからバチが当たったんだにゃん」と不敵に毛繕いをしている。
「あわわ……みんな、落ち着いて! 基地の中で身内の喧嘩はやめておくれー!」
隊長である私が必死に割って入るが、
「黙ってろレッド!」「パパは黙って反省して!」「うるさいんだにゃん!」と、誰も俺の言うことなど聞きやしない。
基地の中は、怒号とギャル語とにゃん語、そしてバックの冷徹な分析が飛び交う、大混乱(カオス)の極致に陥っていた。
その時だった。
カツン、カツン、と。地獄の底から響いてくるような、
上品で、しかし恐ろしく重いヒールの音が通路に響き渡った。
「……!」
一瞬にして、秘密基地の全員の動きが止まる。
ドアの隙間から、えも言われぬエレガントな香水の香りが漂ってきた。
「あらあら……。ずいぶんと賑やかな秘密基地ですこと」
ゆっくりとドアを開けて入ってきたのは、仕立ての良い洋服を完璧に着こなした、絵に描いたような気品あふれるマダム――鬼司令官の奥様であり、バックの母・シルキー師匠と並ぶ「音響界の絶対権力者」、ピアノ夫人であった。
「マ、ママ……ッ!?」
ストレッタのギャル気が一瞬で消え去り、直立不動になる。
司令官にいたっては、まるでプレスの効いた軍服のように、背筋を限界まで伸ばして硬直していた。ヴァン・ラーを手に入れた時の堂々たる姿はどこへやら、今の彼はただの「凍りついた子羊」である。
マダムは、俺やバック、マルカートにフワリと上品な微笑みを向けた。
「レッド隊長さん、それに隊員の皆様。うちの主人が、皆様の神聖な基地を汚してしまって、本当に申し訳ございません。この人、楽器のことになると、周りが見えなくなってしまう悪い癖がありまして……」
「い、いえ! そんな! 滅相もないです!」俺はかつてのシルキー師匠の来襲時と同じく、平伏せんばかりに頭を下げる。マダムはゆっくりと夫の前へ歩み寄ると、お上品な口調のまま、絶対零度の冷徹な一撃を言い放った。
「あなた。いつまでここに甘えているのかしら? あなたがいないと、重たいお買い物に行く係がいなくて、私とっても困っているのよ。
……それとも、その新しい『ヴァン・ラー』とかいうトランペットを質屋に持って行かれたいのかしら?」
「それだけはご容赦をぉぉぉーーーー!!!」
あの、士官学校で生徒たちに恐れられ、秘密基地に居座って俺たちの弱点を容赦なく突き続けてきた鬼司令官が、情けない悲鳴をあげてその場に膝をついた。完全に無条件降伏である。
「わ、分かった! すぐに戻る! 買い物でも皿洗いでもなんでもする! だから、ヴァン・ラーだけは……我が愛機だけは手放さないでくれ!」
「ふふ、よろしい。じゃあ、ストレッタも一緒に帰りましょうね。今夜はパパのお財布で、美味しいものでも食べに行きましょう」
「え、マジ? パパの奢りならウチ超行くわ! 贅沢に焼肉っしょ!」
ストレッタは一瞬で機嫌を直すと、マダムの後を追ってスキップで部屋を出ていく。
鬼司令官は、魂が抜けたような顔でヨロヨロと立ち上がると、最後に俺たちへボソリと言い残した。
「……レッド、バック、マルカート。特訓は……また次回だ……」
こうして、嵐のような居候パニックは、最強の絶対指揮官であるマダムの一言によって、一瞬にして幕を閉じたのだった。
「……やれやれ、嵐が去ったにゃん。これで吾輩も安眠できるにゃん」
マルカートが大きくて可愛らしいあくびをする。
「結局、一番強いのは音響の技術ではなく、奥様(ピアノ夫人)ということですね」
バックが愛用のトランペットを磨きながら、冷静に結論づけた。
「ははは……。よし、みんな! 基地も静かになったことだし、明日の出動に向けて、もう少し訓練をしようじゃないか!」
俺たちは顔を見合わせ、それぞれの愛機(楽器)を力強く構えた。
家庭の平和と、地域のちびっ子たちの笑顔を守るために。
ウルセンジャーの「正義の音」が、今度こそ快晴の空へと、どこまでも熱く響き渡った。
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