第128話『レッド君♪』

第128話『レッド君♪』


広島市内へ戻った。

そごうの婦人服売り場。

タケハラの足が。

突然止まった。

「あっ! コレ、かわいいー!」

そのまま。

迷いなくブティックへ入っていく。

俺は。

入口で止まった。

「……。」

服。

バッグ。

女性客。

女性店員。

「隊長?」

タケハラが振り返る。

「どうされたんです?」

「いや……。」

店内を見る。

「なんだか、入れない。」

「空気というか……。」

タケハラも店内を見回した。

「防御弾幕は張ってませんよ。」

「そういう問題じゃない。」

クスッと笑う。

「市街地対人訓練です♪」

「またか……。」

「ほら。」

手招きされる。

「実践、実践♪」

俺は。

覚悟を決めて店へ入った。



雑貨屋。

「あ、これもかわいい。」

「……ああ。」

タケハラが手に取った物を見る。

「こっちは?」

「いいんじゃないか。」

正直。

違いはよく分からない。

「これと、さっきのなら?」

「……。」

見る。

考える。

「こっち。」

「へえ♪」

何が違うのか。

やはり分からない。

だが。

相手の言葉に相槌を打つ。

興味があるように見る。

時々。

うなずく。

市街地対人訓練。

そう考えれば。

「訓練と思えば、楽なものだ。」

「……。」

タケハラが俺を見る。

「隊長。」

「なんだ?」

「今、それ口に出てましたよ。」

「そうか。」

「そうです。」

少し頬を膨らませた。

「でも。」

すぐに笑う。

「さっきより上手になってます♪」

「訓練だからな。」

「……訓練なんだ。」



広島YAMAHA。

店へ入った瞬間。

今度は。

俺が先に歩いた。

「ちょっと待って。」

マウスピースの陳列ケースへ近づく。

タケハラが横から覗き込む。

「それ、気になります?」

「こっち。」

「そっちですか?」

「この形状なら、息の抵抗が……。」

「あ、それなら私、もう少し浅い方が好きです。」

「太い音なのに?」

「太いって言わないで下さい!」

「……褒めたら、怒られた。」

「言い方があります!」

「難しいな……。」

タケハラが笑う。

「レッド隊長は?」

「俺は、音の芯が残る方がいい。」

「あー……。」

タケハラが俺を見る。

「昨日の音、そういう感じでした。」

「昨日?」

「山ンバに撃ったやつ。」

「あれは、YAMAHAの16C4スタンダードで……。」

「そうじゃなくて。」

「?」

「音の話です。」

「ああ。」

そこから。

日本製と海外製の違い。

マウスピースの重さと抵抗。

カップ。

リム。

少しだけ話した。

タケハラが俺を見る。

「レッド隊長。」

「ん?」

「ここだと、本当に普通に喋れるんですね。」

「何が?」

「……なんでもないです♪」

よく分からない。



鉄板の上で。

お好み焼きが焼ける音がする。

ひと口食べる。

「……お好み焼き、うまいな。」

タケハラの目が丸くなった。

「!」

「なんだ?」

「ちゃんと『お好み焼き』って言えましたね♪」

「……?」

次の瞬間。

頭に手が乗った。

ぽんぽん。

「流石は隊長。」

なでなで。

「偉いですね♪」

「……。」

俺は。

頭をなでられたまま考えた。

ドルチェが言った通り。

広島では。

かなり重要なことだったらしい。

「レッド隊長。」

「ん?」

「彼女とか、いるんですか?」

箸が止まった。

「……何で突然そうなる。」

「普通の会話ですよ。」

「普通なのか?」

「普通です。」

少し考える。

「いない。」

「へえ♪」

「タケハラは?」

「さて、どうでしょう♪」

「なんだそれ。」

「気になります?」

「聞かれたから聞いただけだ。」

「……。」

タケハラが黙った。

「?」

「レッド隊長。」

「なんだ?」

「その楽観的な考え方は感心しませんわ、って言われません?」

「なんで知ってる。」

「やっぱり♪」

笑われた。



日が沈んだ頃。

タケハラの車は。

広島の街を一望できる場所へ着いた。

車を降りる。

遠くまで。

街の灯りが広がっている。

二人で並ぶ。

しばらく。

何も言わなかった。

風が吹く。

俺は夜景を見る。

「綺麗だな……。」

「……うん。」

タケハラの声が。

小さくなった。

また少し。

沈黙。

やがて。

独り言みたいに。

タケハラが話し始めた。

「軍団長ね。」

「ん?」

「私の第3トランペット遊撃隊が配置につく前に、顔を出してきたの。」

俺は黙って聞いた。

「一人一人、目を見て。」

「肩に手をかけて。」

「握手をして。」

「みんなと、一言二言話して。」

夜景を見たまま。

言葉を続ける。

「日頃、感情を出さない軍団長。」

少し間を置いた。

「握った手、わずかに震えてた。」

「……。」

「微笑んでいたけど、少し悲しい目をしていた。」

風が吹く。

タケハラの髪が揺れた。

「河太郎の軍勢を正面にした時。」

声が少し低くなる。

「正直、足がすくんだ。」

「喉が、カラカラに渇いた。」

「みんなには悟られないように、元気に振る舞った。」

少しの沈黙。

「……そして。」

「死にたくないと思った。」

俺は。

何も言わなかった。

「そしたら。」

タケハラが遠くを見る。

「軍団長の、いつもの合図が出た。」

「山ンバの陣に。」

「あの音響弾が吸い込まれていった。」

「しばらくして。」

「ものすごい轟音が届いた。」

胸元へ。

そっと手を置く。

「その轟音が、私たちの心を震わせた。」

「……。」

「そして。」

少し笑った。

「私も放った。」

「渾身の一撃をね♪」

静かだった。

街の灯りだけが揺れている。

タケハラが。

もう一度、夜景を見る。

「本当に。」

「夜景が綺麗ね……。」

「ああ。」

また。

しばらく無言になった。

その時。

タケハラが。

こちらへ身体を向けた。

小さな声で。

「ねぇ、レッド君♪」

「……。」

少しの沈黙。

タケハラが。

大きく息を吸った。

「今日はアタシのワガママに付き合ってくれて――」

夜景に向かって。

「ありがとぉぉー!」

「うおっ!」

思わず肩が跳ねた。

「あっ、嗚呼……。」

俺は頭をかいた。

「やはり、肺活量が凄い。」

「ソッチ!?」

タケハラが笑う。

「アハハッ!」

「ごめんごめん♪」

俺達は。

もう一度。

広島の夜景を見た。



俺は。

タケハラと見た広島の夜景を想い出に。

益田駐屯地へ戻った。

――広島編 完


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2026年08月21日