第101話『夜明けの平和公園』

第101話『夜明けの平和公園』


会戦当日の朝。

カーテンを開ける。

朝日に照らされた広島の街が、眼下に広がっていた。

車。

通勤する人。

歩道を行く人たち。

今日。

この街で数百人規模の会戦が始まるなんて。

とても思えない朝だった。



コンコン。

「皆様。」

「朝食の準備が整いましたわ。」

ドルチェの声。

リビングへ出ると。

テーブルには、ホテルの朝食が並んでいた。

焼きたてのパン。

卵料理。

果物。

温かいスープ。

「おはようございます。」

「おはよう。」

俺は椅子へ座ろうとして。

やめた。

保冷バッグを開く。

「俺は、これでいい。」

取り出したのは。

冷凍パン。

リアルダが笑った。

「ゲン担ぎですね。」

「たぶんな。」

すると。

リアルダまでバッグを開く。

「では、私も。」

「お前もか。」

「生存戦略です。」

その横で。

ドルチェが二人を見比べた。

「では。」

「わたくしも山陰流にいたしますわ♪」

「お前まで付き合わなくていいぞ。」

「ウフフっ。」

豪華な朝食の横で。

三人並んで。

冷凍パンをかじった。



食事を終え。

実戦服へ着替える。

一階へ降りると。

ミヤジマさんが待っていた。

「皆様。」

「お待ちしておりました。」

ホテルを出る。

車寄せには。

黒塗りの大きなリムジンが停まっていた。

「……。」

思わず足が止まる。

リアルダも目を丸くした。

「レッド様……。」

「これに乗るんですか?」

「たぶんな……。」

その隣には。

一人の老人が立っていた。

見覚えはない。

老人は俺たちを見ると。

ゆっくり頭を下げた。

「どうか。」

「この広島の子どもたちと。」

「この街を、守ってくだされ。」

「ああ。」

俺は頷いた。

「任せとけ、爺さん。」

老人が顔を上げる。

穏やかに笑った。

そして。

なぜかドルチェへ、小さく目配せする。

ドルチェも。

微笑んで会釈を返した。

「……。」

知り合いなのか?

少し気になった。

でも。

今は聞いている場合じゃない。

俺たちは。

初めて見るリムジンへ乗り込んだ。



車窓には。

いつもと変わらない朝が流れていた。

信号待ちの車。

自転車。

駅へ急ぐ人。

誰も。

これから始まることを知らない。

やがて。

警備員が敬礼する。

リムジンは。

広島平和野外音楽堂公園へ入った。



車を降りた瞬間。

空気が変わった。

「第三ホルン隊、配置へ!」

「第二クラリネット、前へ!」

「通信班、回線確認!」

号令。

足音。

楽器の音。

部隊が次々と持ち場へ移動していく。

広い公園が。

一つの巨大な軍団へ変わっていく。

「……第3軍団。」

リアルダが呟く。

「すごい……。」

見渡す限り。

音響士。

音術師。

その数。

約四百。

ドルチェが静かに言った。

「山陰では。」

「音響団のみなさんもレギオンに参加されますけれど。」

公園を見渡す。

「こちらは。」

「音響士と音術師だけですわ。」

リアルダが息をのむ。

「それで、この人数……。」

俺は黙って隊列を見た。

山陰とは。

まるで違う。

でも。

ふと思った。

「……半分以下か。」

「え?」

「山陰は。」

俺は小さく笑った。

「よくやってるよ。」

リアルダも。

少しだけ笑った。



ドルチェが。

反対側へ目を向ける。

「ウフフっ。」

「悪のみなさんも。」

「大勢いらっしゃいますわね。」

「……どれ。」

俺も見る。

公園の向こう。

悪のみなさん連合。

その数。

こちらより多い。

なのに。

何かがおかしい。

戦闘員が。

子どもを追いかけている。

一人は。

帽子をかぶせ。

一人は。

手を引き。

別の一人は。

泣き出した子を必死にあやしていた。

「……。」

リアルダが目を丸くする。

俺は思わず呟いた。

「子守も大変だな。」

「そこですか?」

「いや。」

「だって大変そうだろ。」

ドルチェが笑う。

「ウフフっ。」

その時。

伝令がこちらへ駆けてきた。

「レッド隊長。」

「コン・ブリオ軍団長がお待ちです。」

「作戦室へお越しください。」

「ああ。」

俺はもう一度。

敵陣を見る。

子どもを抱き上げる怪人。

水筒を持って走る戦闘員。

その向こうには。

武器を構えた大軍勢。

敵なのか。

子守なのか。

よく分からない。

でも。

これから戦う相手なのは。

間違いなかった。

「行くぞ。」

「はい。」

「参りましょう。」

俺たちは。

コン・ブリオの待つ天幕へ向かった。


第102話『決定力』
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2026年08月18日