第101話『夜明けの平和公園』
第101話『夜明けの平和公園』
会戦当日の朝。
カーテンを開ける。
朝日に照らされた広島の街が、眼下に広がっていた。
車。
通勤する人。
歩道を行く人たち。
今日。
この街で数百人規模の会戦が始まるなんて。
とても思えない朝だった。
◇
コンコン。
「皆様。」
「朝食の準備が整いましたわ。」
ドルチェの声。
リビングへ出ると。
テーブルには、ホテルの朝食が並んでいた。
焼きたてのパン。
卵料理。
果物。
温かいスープ。
「おはようございます。」
「おはよう。」
俺は椅子へ座ろうとして。
やめた。
保冷バッグを開く。
「俺は、これでいい。」
取り出したのは。
冷凍パン。
リアルダが笑った。
「ゲン担ぎですね。」
「たぶんな。」
すると。
リアルダまでバッグを開く。
「では、私も。」
「お前もか。」
「生存戦略です。」
その横で。
ドルチェが二人を見比べた。
「では。」
「わたくしも山陰流にいたしますわ♪」
「お前まで付き合わなくていいぞ。」
「ウフフっ。」
豪華な朝食の横で。
三人並んで。
冷凍パンをかじった。
◇
食事を終え。
実戦服へ着替える。
一階へ降りると。
ミヤジマさんが待っていた。
「皆様。」
「お待ちしておりました。」
ホテルを出る。
車寄せには。
黒塗りの大きなリムジンが停まっていた。
「……。」
思わず足が止まる。
リアルダも目を丸くした。
「レッド様……。」
「これに乗るんですか?」
「たぶんな……。」
その隣には。
一人の老人が立っていた。
見覚えはない。
老人は俺たちを見ると。
ゆっくり頭を下げた。
「どうか。」
「この広島の子どもたちと。」
「この街を、守ってくだされ。」
「ああ。」
俺は頷いた。
「任せとけ、爺さん。」
老人が顔を上げる。
穏やかに笑った。
そして。
なぜかドルチェへ、小さく目配せする。
ドルチェも。
微笑んで会釈を返した。
「……。」
知り合いなのか?
少し気になった。
でも。
今は聞いている場合じゃない。
俺たちは。
初めて見るリムジンへ乗り込んだ。
◇
車窓には。
いつもと変わらない朝が流れていた。
信号待ちの車。
自転車。
駅へ急ぐ人。
誰も。
これから始まることを知らない。
やがて。
警備員が敬礼する。
リムジンは。
広島平和野外音楽堂公園へ入った。
◇
車を降りた瞬間。
空気が変わった。
「第三ホルン隊、配置へ!」
「第二クラリネット、前へ!」
「通信班、回線確認!」
号令。
足音。
楽器の音。
部隊が次々と持ち場へ移動していく。
広い公園が。
一つの巨大な軍団へ変わっていく。
「……第3軍団。」
リアルダが呟く。
「すごい……。」
見渡す限り。
音響士。
音術師。
その数。
約四百。
ドルチェが静かに言った。
「山陰では。」
「音響団のみなさんもレギオンに参加されますけれど。」
公園を見渡す。
「こちらは。」
「音響士と音術師だけですわ。」
リアルダが息をのむ。
「それで、この人数……。」
俺は黙って隊列を見た。
山陰とは。
まるで違う。
でも。
ふと思った。
「……半分以下か。」
「え?」
「山陰は。」
俺は小さく笑った。
「よくやってるよ。」
リアルダも。
少しだけ笑った。
◇
ドルチェが。
反対側へ目を向ける。
「ウフフっ。」
「悪のみなさんも。」
「大勢いらっしゃいますわね。」
「……どれ。」
俺も見る。
公園の向こう。
悪のみなさん連合。
その数。
こちらより多い。
なのに。
何かがおかしい。
戦闘員が。
子どもを追いかけている。
一人は。
帽子をかぶせ。
一人は。
手を引き。
別の一人は。
泣き出した子を必死にあやしていた。
「……。」
リアルダが目を丸くする。
俺は思わず呟いた。
「子守も大変だな。」
「そこですか?」
「いや。」
「だって大変そうだろ。」
ドルチェが笑う。
「ウフフっ。」
その時。
伝令がこちらへ駆けてきた。
「レッド隊長。」
「コン・ブリオ軍団長がお待ちです。」
「作戦室へお越しください。」
「ああ。」
俺はもう一度。
敵陣を見る。
子どもを抱き上げる怪人。
水筒を持って走る戦闘員。
その向こうには。
武器を構えた大軍勢。
敵なのか。
子守なのか。
よく分からない。
でも。
これから戦う相手なのは。
間違いなかった。
「行くぞ。」
「はい。」
「参りましょう。」
俺たちは。
コン・ブリオの待つ天幕へ向かった。
第102話『決定力』
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