第118話『明日』
第118話『明日』
「リアルダちゃんは。」
ドルチェが。
穏やかに尋ねた。
「どうして。」
「山陰へいらしたんですの?」
「奨学金だろ。」
俺が答える。
リアルダが。
こちらを見た。
「はい。」
「レッド様には。」
「着任の日に。」
「お話ししましたね。」
「ああ。」
覚えている。
◇
「では。」
ドルチェが。
微笑んだ。
「今は?」
「……。」
リアルダの指が。
グラスの縁で止まった。
「今、ですか。」
「ええ。」
少しだけ。
考える。
「最初は。」
「期間雇用を終えることしか。」
「考えていませんでした。」
「終わったら。」
「大学へ行く。」
「それだけです。」
タケハラが。
黙って聞いている。
「でも。」
リアルダは。
そこで。
言葉を止めた。
◇
「変わったのか?」
俺が聞く。
「……少し。」
リアルダが。
俺を見る。
「レッド様。」
「着任の日。」
「私に。」
「怖くないのかって。」
「聞きましたよね。」
「ああ。」
「今も。」
「怖いですよ。」
即答だった。
「あの日と。」
「同じです。」
少しだけ。
笑う。
「でも。」
「明日の心配をしながら。」
「眠ることは。」
一拍。
「減りました。」
◇
「どうしてです?」
タケハラが聞く。
リアルダは。
少し考えた。
「寝る場所があります。」
「食事もあります。」
「仕事もあります。」
そして。
真顔で。
「冷凍したパンも。」
「あります。」
「パン?」
タケハラが。
目を丸くする。
「非常食です。」
「そこ。」
「大事なんですねー。」
「大事です。」
即答。
ドルチェが。
口元を押さえた。
「ウフフっ。」
◇
「じゃあ。」
タケハラが。
少しだけ笑う。
「山陰に来て。」
「良かったですか?」
「……。」
リアルダは。
すぐには答えなかった。
「どうでしょう。」
少しだけ。
表情を緩める。
「ただ。」
「明日を迎えることは。」
一拍。
「前より。」
「楽しみになりました。」
「……そうですか。」
タケハラも。
小さく笑った。
◇
しばらく。
誰も。
何も言わなかった。
ドルチェは。
ただ。
穏やかに。
リアルダを見ている。
やがて。
リアルダが。
俺へ視線を向けた。
「では。」
「レッド様。」
「ん?」
「私は。」
「お話ししました。」
嫌な予感。
「今度は。」
「レッド様の番です。」
「……俺?」
「はい。」
タケハラまで。
こちらを見る。
ドルチェが。
静かに尋ねた。
「隊長は。」
「どうして。」
「山陰へいらしたんですの?」
「……。」
俺は。
グラスへ目を落とした。
カラン。
溶けかけた氷が。
小さく鳴る。
あの。
初めてリアルダと。
会った日。
俺は。
こんなことを思った。
リアルダは。
未来を見ている。
対して。
俺は――。
第119話『逃げ場所』
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