第118話『明日』

第118話『明日』


「リアルダちゃんは。」

ドルチェが。

穏やかに尋ねた。

「どうして。」

「山陰へいらしたんですの?」

「奨学金だろ。」

俺が答える。

リアルダが。

こちらを見た。

「はい。」

「レッド様には。」

「着任の日に。」

「お話ししましたね。」

「ああ。」

覚えている。



「では。」

ドルチェが。

微笑んだ。

「今は?」

「……。」

リアルダの指が。

グラスの縁で止まった。

「今、ですか。」

「ええ。」

少しだけ。

考える。

「最初は。」

「期間雇用を終えることしか。」

「考えていませんでした。」

「終わったら。」

「大学へ行く。」

「それだけです。」

タケハラが。

黙って聞いている。

「でも。」

リアルダは。

そこで。

言葉を止めた。



「変わったのか?」

俺が聞く。

「……少し。」

リアルダが。

俺を見る。

「レッド様。」

「着任の日。」

「私に。」

「怖くないのかって。」

「聞きましたよね。」

「ああ。」

「今も。」

「怖いですよ。」

即答だった。

「あの日と。」

「同じです。」

少しだけ。

笑う。

「でも。」

「明日の心配をしながら。」

「眠ることは。」

一拍。

「減りました。」



「どうしてです?」

タケハラが聞く。

リアルダは。

少し考えた。

「寝る場所があります。」

「食事もあります。」

「仕事もあります。」

そして。

真顔で。

「冷凍したパンも。」

「あります。」

「パン?」

タケハラが。

目を丸くする。

「非常食です。」

「そこ。」

「大事なんですねー。」

「大事です。」

即答。

ドルチェが。

口元を押さえた。

「ウフフっ。」



「じゃあ。」

タケハラが。

少しだけ笑う。

「山陰に来て。」

「良かったですか?」

「……。」

リアルダは。

すぐには答えなかった。

「どうでしょう。」

少しだけ。

表情を緩める。

「ただ。」

「明日を迎えることは。」

一拍。

「前より。」

「楽しみになりました。」

「……そうですか。」

タケハラも。

小さく笑った。



しばらく。

誰も。

何も言わなかった。

ドルチェは。

ただ。

穏やかに。

リアルダを見ている。

やがて。

リアルダが。

俺へ視線を向けた。

「では。」

「レッド様。」

「ん?」

「私は。」

「お話ししました。」

嫌な予感。

「今度は。」

「レッド様の番です。」

「……俺?」

「はい。」

タケハラまで。

こちらを見る。

ドルチェが。

静かに尋ねた。

「隊長は。」

「どうして。」

「山陰へいらしたんですの?」

「……。」

俺は。

グラスへ目を落とした。

カラン。

溶けかけた氷が。

小さく鳴る。

あの。

初めてリアルダと。

会った日。

俺は。

こんなことを思った。

リアルダは。

未来を見ている。

対して。

俺は――。


第119話『逃げ場所』
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2026年08月18日