第133話『チャッピー』
第133話『チャッピー』
益田駐屯地。
謎の集団に襲撃され。
第一トランペット遊撃隊は、活動停止に追い込まれた。
しかし。
人間の営みは変わらない。
「一緒に寝るのは駄目だ」
「ピピ?」
「もちろん、一緒の部屋も」
「ピピピ?」
「トイレと風呂は女子用を使え」
「ピピ……」
「そもそも、チャッピー」
「お前は女子寮だろ……」
「ピ?」
チャッピーを保護してから。
しばらく経った。
どうやら。
記憶と一緒に。
常識も失ったらしい。
ピピピという口癖から。
いつの間にか。
みんなから、チャッピーと呼ばれるようになっていた。
◇
食堂。
ブリランテが、リアルダへ顔を寄せる。
「チャッピー」
「隊長様から離れませんね」
「ですね……」
リアルダも小声になる。
「もしかして……」
一拍。
「隠し子なのでは」
「おい」
横から。
グラヴィオーソが呟いた。
「子供が、子供はできないわ」
「……」
何だか。
気まずい。
カンタービレがチャッピーを見る。
「記憶は、どれくらい戻ったんですの?」
ソステヌートが眼鏡に手をかけた。
「正確には」
「記憶が戻った兆候は、まだありません」
「ただし」
「言語能力は急速に回復しています」
「現在はカタコトながら、日常会話が可能です」
「……長い」
グラヴィオーソが呟く。
「まだ途中ですが」
「もういいわ」
「ピピ?」
本人だけが。
不思議そうな顔をしていた。
◇
ある日。
チャッピーが。
俺のトランペットを珍しそうに眺めていた。
ベルを覗く。
ケースを覗く。
バルブを眺める。
しまいには。
楽器へ頬ずりした。
「おい……」
「ピピ♪」
「それは玩具じゃないぞ」
「ピ?」
しばらくすると。
見よう見まねで。
吹いて遊び始めた。
――――♪
「……」
思ったより。
悪くない。
「チャッピー」
「ピ?」
「ちょっといいか?」
「ピピ?」
それから。
少しずつ。
トランペットの吹き方を教えることにした。
「そこは、力を入れすぎるな」
「ピピ」
「息は、まっすぐ」
「ピピ!」
「唇も締めすぎるな」
「ピピ!」
もう一度。
――――♪
「……うん」
いい筋だ。
その様子を見ていたリアルダが。
端末を抱えて近づいてきた。
「レッド様」
「私が弾道計算をしますので」
「射撃練習も、してみてはいかがでしょう?」
「そうだな」
「チャッピー」
「ピ?」
リアルダが端末を見せる。
「音響弾の弾道は」
「こうやって計算するんです」
「ダンドウ……」
画面を覗き込む。
「ケイサン?」
「はい」
チャッピーの目が。
輝いた。
「ピピピ!」
「……そっちにも食いつくのか」
今度は。
リアルダの仕事にも興味を持った。
◇
トランペットは。
俺から。
情報士の仕事は。
リアルダから。
「ここ」
「カゼ、カワッタ」
「はい」
「風向補正を入れます」
「ピピ!」
「次は距離です」
「キョリ」
「そうです」
「反響も考えます」
「ハンキョウ……」
「これはですね――」
コツコツ。
コツコツ。
覚えていく。
昨日できなかったことが。
今日はできる。
今日教えたことを。
明日には使いこなす。
「……」
俺とリアルダは。
顔を見合わせた。
「レッド様」
「ん?」
「この子……」
少し声を潜める。
「覚えるの、早すぎませんか?」
「……俺も思った」
「ピピ?」
本人は。
首を傾げていた。
◇
夜。
練習室。
まだ。
小さな音が聞こえる。
――――♪
「……」
扉を開ける。
チャッピーが。
一人でトランペットを吹いていた。
机には。
リアルダから借りた資料。
端末。
書き込みだらけのノート。
「チャッピー」
「ピ?」
「もう遅いぞ」
「マダ、デキマス」
「明日もある」
「……」
チャッピーは少し考えた。
「ピピ」
楽器を置く。
記憶を失った彼女が。
新しい記憶で。
心を埋めるように。
コツコツ。
コツコツ。
毎日。
遅くまで訓練を続けていた。
◇
数日後。
「驚きましたわ……」
カンタービレが腕を組む。
「ああ」
「俺も正直、驚いてる」
ブリランテが笑った。
「隊長様とリアルダのお子さんみたいですよー」
「おいっ!」
「ち、違います!」
リアルダの顔が赤くなる。
ソステヌートが。
チャッピーの記録を見る。
「……これは」
「?」
眼鏡を上げる。
「もしかすると」
カンタービレへ。
何かを耳打ちした。
「……」
カンタービレの目が。
少し見開く。
「それは」
一拍。
「妙案ですわね」
◇
「隊長、戻りました!」
「いつでもバリバリ行けるっス!」
駐屯地へ戻ってきたのは。
アクセントとスタッカートだった。
「お帰り」
「はい!」
「いやー」
スタッカートが腕を回す。
「やっと復帰できたっス!」
まっすぐで熱いアクセント。
相変わらず調子のいいスタッカート。
少しずつ。
遊撃隊にも。
日常が戻ってきた。
アクセントが胸を張る。
「隊長!」
「次の任務は何ですか?」
「まだ遊撃隊は活動停止中だ」
「ええーっ!」
スタッカートが肩を落とした。
「身体がなまるっスー」
その時。
二人が。
俺の傍らにいるチャッピーへ気づいた。
「あれ?」
スタッカートが覗き込む。
「この子は?」
「補充隊員っスか?」
「ピピ?」
チャッピーが。
胸を張った。
「チャッピーと」
一拍。
「イワレテマス」
「……」
アクセントとスタッカートが。
顔を見合わせる。
カンタービレが二人へ声をかけた。
「貴方達」
「ちょうど良かったわ」
「?」
「山陰支部まで」
チャッピーを見る。
「彼女をエスコートしてくださいな」
アクセントが首を傾げる。
「彼女、要人なんですか?」
「いいえ」
カンタービレが。
静かに答えた。
「音響士と」
一拍。
「情報士の試験よ」
「……」
アクセントとスタッカートが。
もう一度。
顔を見合わせた。
「え?」
第134話『新しい仲間』
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