第134話『新しい仲間』
第134話『新しい仲間』
益田駐屯地。
「いやぁ、驚きました」
山陰支部から戻ったアクセントが言った。
スタッカートも頷く。
「人は見かけによらないっス」
チャッピーの試験のため。
山陰支部まで同行していた二人が帰投した。
「結果なら」
カンタービレが手元の資料を見る。
「先に支部から届いてますわ」
「ああ……」
俺も。
もう一度、資料を見る。
(信じられん……)
アクセントが口を開いた。
「音響士試験」
一拍。
「合格です」
スタッカートが続ける。
「情報士試験――」
「満点で合格っス」
「……」
リアルダが目を丸くした。
「満点……」
ブリランテも、チャッピーを覗き込む。
「すごいですよー!」
「ピピ?」
本人だけが。
不思議そうな顔をしていた。
「チャッピー」
「ピ?」
「合格したんだぞ」
「ゴウカク……」
少し考える。
「ピピ」
頷いた。
「リョウカイ」
「……それだけか」
リアルダが苦笑する。
「偉業なんですけど……」
「ピピ?」
俺は資料を置いた。
「これなら」
「音術師も狙えるんじゃないか?」
アクセントが苦笑した。
「我々も、そう思ったんです」
スタッカートが頭を掻く。
「でも」
「それは難しいみたいっス」
「難しい?」
◇
訓練場。
アクセントが、一冊の教本を差し出した。
「チャッピー」
「これを」
「ピピ」
トランペット三重奏。
スタッカートが楽器を構える。
「俺達三人で」
「アンサンブルするっス」
「アンサンブル?」
「三人で一緒に吹くんだ」
「ピピ」
「リョウカイ」
三本のトランペットが。
緑深い山々へ向けられた。
息を吸う。
――――♪
三つの音が重なる。
「……」
間違ってはいない。
むしろ。
上手い。
音程。
リズム。
発音。
どれも正確だった。
演奏が終わる。
ソステヌートが譜面を見る。
「リズムは正確です」
「音程にも、大きな問題はありません」
ブリランテが嬉しそうに続ける。
「高音も綺麗に当たってるですよー!」
ペザンテも頷いた。
「低音もしっかり鳴ってる」
リアルダが首を傾げる。
「綺麗ですね」
「……」
グラヴィオーソが。
腕を組んだ。
「でも……」
一拍。
「何か違う」
「ピ?」
カンタービレが俺を見る。
「隊長」
「お気づきになりましたかしら?」
「ああ……」
俺も。
同じことを感じていた。
上手い。
正確だ。
だけど。
三人で吹いているのに。
三人の音に聞こえない。
「音術師としては……」
チャッピーを見る。
「かなり大きな弱点だ」
「ピピ?」
◇
アクセントが教本を閉じる。
「ソロなら」
「ほとんど完璧なんです」
スタッカートが続けた。
「でも、アンサンブルになると……」
グラヴィオーソが呟く。
「周りに合わせられない」
「ピピ?」
チャッピーが、不思議そうに首を傾げた。
「ワタシ」
「ガクフドオリ、フキマシタ」
「ああ」
「リズム」
「マチガエテナイ」
「間違ってない」
「オンテイモ」
「マチガエテナイ」
「それも間違ってない」
「……」
少し考える。
「ナニガ、ダメ?」
誰も。
すぐには答えなかった。
楽譜には。
書かれていないものがある。
隣の息遣い。
音色の変化。
ほんの少しの揺れ。
誰かが前へ出れば。
少し譲る。
誰かが遅れれば。
そっと待つ。
そうやって。
みんなで一つの音を作る。
チャッピーには。
まだ、それが分からない。
「……よし」
「隊長?」
「決めた」
チャッピーを見る。
「左翼に入ってくれ」
「ピ?」
カンタービレが目を瞬かせた。
「私の左翼に?」
「ああ」
「2ndと」
リアルダを見る。
「情報士を兼ねてもらう」
リアルダが頷いた。
「左翼には情報士がいませんでしたから」
「助かりますね」
カンタービレは。
もう一度、チャッピーを見る。
「ですが」
「合奏は……」
「ああ」
チャッピーを見る。
「苦手なんだろ」
「ピピ……」
少し。
俯いた。
「だったら」
「そこは、みんなで補えばいい」
チャッピーが顔を上げる。
「?」
「カンタービレ達が」
「お前に合図を出す」
「周りを見失ったら」
「誰かが教える」
「分からなくなったら」
「誰かに聞けばいい」
「……」
「その代わり――」
「お前も」
「得意なことで、みんなを助けてくれ」
「タスケル?」
「ああ」
「情報でも」
「音でも」
少し考えて。
続けた。
「一人で全部できる奴なんて」
「ここにはいない」
「……」
カンタービレが。
小さく笑った。
「それが」
一拍。
「山陰流ですわ」
チャッピーは。
みんなの顔を順番に見る。
カンタービレ。
グラヴィオーソ。
ソステヌート。
リアルダ。
俺。
そして。
少し考えて。
「……リョウカイ!」
「ピピピ♪」
こうして――。
第一トランペット遊撃隊に。
新しい仲間が加わった。
第135話『久々茂の夏祭り』
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