第135話『久々茂の夏祭り』
第135話『久々茂の夏祭り』
益田駐屯地。
「みなさん、ただいま戻りましたわ〜」
「ドルチェ!」
カンタービレが迎える。
「広島はいかがでした?」
「もう、大変でしたわ〜」
ドルチェが荷物を置いた。
「祖父に、あちらこちら連れ回されまして」
「あの爺さんか……」
「お見合いもありましたし」
「えっ!?」
リアルダが目を丸くした。
「ドルチェさん、ご結婚されるんですか!?」
「うふふっ」
ブリランテが身を乗り出す。
「結婚式、呼んでくださいですよー!」
ペザンテも顔を上げた。
「……ご馳走が食べられる」
アクセントまで胸を張る。
「ファンファーレは任せてください!」
「うふふっ」
ドルチェが、みんなを見る。
「お断りしましたわ」
「ええーっ!」
「私」
少し微笑む。
「まだ、みなさんと――」
「同じ景色を見たいんですのよ」
「……」
スタッカートが、ペザンテの肩を叩いた。
「残念だったっスね」
「……ご馳走」
「アハハハ!」
久しぶりに。
みんなの笑い声を聞いた気がした。
「……」
でも。
なぜか。
その輪に入れない。
拳に力が入る。
その手に――。
そっと。
誰かの手が重なった。
「……?」
リアルダだった。
「レッド様」
優しく笑う。
「こういう時だからこそ」
「みんなで笑うんです」
「……」
みんなを見る。
「ああ」
◇
翌日。
八月も、もう終わりに近い。
朝から蝉が鳴いていた。
「出動要請が入りました」
カンタービレの一言で。
空気が変わる。
「久々の出動っス!」
スタッカートが立ち上がる。
アクセントも拳を握った。
「腕が鳴るな」
リアルダが端末を開く。
「悪のみなさんの戦力ですが――」
画面を見る。
「Bランク、一体」
「Cランク、三体です」
「え!?」
ブリランテが声を上げた。
「ちょっと待ってくださいですよー!」
「他の遊撃隊との合同か?」
「いいえ」
「上位使いが来るまで」
「俺達が時間を稼ぐ?」
「それもありませんわ」
「……?」
カンタービレが静かに答える。
「今回は」
一拍。
「我々だけです」
「……」
グラヴィオーソが呟いた。
「理不尽……」
「ピピ?」
◇
久々茂八幡宮。
古くから。
子供の健やかな成長を願ってきた神社だという。
境内は。
夏祭りの真っ最中だった。
八月下旬。
傾き始めた夏の日差し。
蝉時雨。
色とりどりの幟が風に揺れ。
屋台から、いい匂いが漂ってくる。
浴衣姿の子供達が。
境内を走り回っていた。
ぐぅ〜。
「……美味しそう」
ペザンテが屋台を見ている。
「お前、何しに来たんスか」
スタッカートが呆れたように言う。
そのまま。
辺りを見回した。
「うわっ」
「懐かしいっスね」
アクセントも境内を見る。
「ガキの頃」
「よく来たな」
「お前達、知ってるのか?」
「はい」
アクセントが頷く。
「祭りのたびに来てました」
「俺もっス」
その時。
「ちょっと!」
女性の声が飛んできた。
「貴方達、遅いわよ!」
「……?」
一人の母親が。
足早にこちらへやってくる。
「息子がお祭りに来たいっていうから」
「連れてきたら――」
ビシッ!
境内を指差した。
「あの有様よ!」
「……」
見る。
男の怪人が二体。
子供達と追いかけっこをしていた。
「待て待てー!」
「こっちだぞー!」
「キャー!」
少し離れた場所では。
女の怪人が。
子供達と手遊びをしている。
そして。
その後ろ。
腕を組み。
鬼の形相で立つ大男。
いや。
鬼、そのものだった。
「……」
俺はもう一度。
境内を見る。
「遊んでるようにしか見えませんが」
「お受験を控えてるのよ!」
「はぁ……」
「勉強しなきゃいけない時期なの!」
「とにかく」
「なんとかして!」
そして。
俺達を見る。
「貴方達、税金で生きてるんでしょ!」
「……」
カンタービレと目が合う。
(民事不介入の案件じゃないのか……)
「……行ってくる」
◇
境内へ入る。
「あっ!」
「ウルセンジャーだー!」
「ほんとだ!」
「一緒に遊ぼー!」
「いや」
「今日は仕事で……」
その時。
鬼の男が。
こちらを見た。
「……」
肌が粟立つ。
祭囃子も。
蝉の声も。
一瞬。
遠くなった気がした。
リアルダが小声で告げる。
「レッド様……」
端末を見る。
「Bランク反応です」
「……あれか」
鬼が。
こちらを睨んでいる。
その視線が――。
アクセントとスタッカートで止まった。
「……ん?」
しばらく。
二人を見る。
ふっと。
目尻が下がった。
「おお……」
大きな口が笑う。
「貴様ら!」
「おおきゅーなったのぉ!」
「おじちゃん!」
二人の顔が。
一気にほころんだ。
「ご無沙汰してます!」
「ガハハハハ!」
鬼が豪快に笑う。
「ちゃんと挨拶ができる子になったな!」
「はい!」
「お前は相変わらず細いのぉ!」
「もう大人っスよ!」
「ワシから見ればガキじゃ!」
「ガハハハハ!」
「……」
俺とカンタービレは。
顔を見合わせた。
鬼住。
久々茂衆の頭。
他の二体の鬼は。
相変わらず子供達と走り回っている。
もう一体の女の鬼も。
笑いながら手遊びを続けていた。
どう見ても。
地域のおじちゃん、お姉ちゃん達だった。
「……」
背中に。
視線が刺さる。
振り返る。
さっきの母親。
「……はぁ」
鬼住の前へ出る。
「あっ、あの……」
「ん?」
さっきまで笑っていた目が。
鋭くなる。
「何じゃ、若造」
「その……」
言いづらい。
「迷惑らしいんで……」
「……」
「筋違いだとは思いますが」
「やめてもらえますか」
鬼住が腕を組んだ。
「ワシは」
一拍。
「誰の指図も受けん」
「……ですよね」
鬼住が鼻を鳴らす。
「子供は――」
境内に声が響いた。
「よう遊べ!」
「よう食え!」
「よう寝ろ!」
子供達が笑う。
「勉強なんぞ」
「それからでええ!」
「ガハハハハ!」
鬼住が。
こちらを見る。
「それでも文句があるなら――」
ニヤリ。
拳を突き出す。
「儂らの言葉は」
一拍。
「コレよ!」
ブオォォーン!
拳から放たれた風圧で。
土ぼこりが舞う。
境内の幟が。
バサバサッ!
大きく揺れた。
「……」
グラヴィオーソが呟いた。
「理不尽……」
第136話『夏祭りの一戦』
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