第136話『夏祭りの一戦』

第136話『夏祭りの一戦』


久々茂八幡宮。

「儂らの言葉は――」

一拍。

「コレよ!」

ブオォォーン!

鬼住が拳を突き出す。

風圧で。

土ぼこりが舞った。

境内の幟が。

バサバサッ!

大きく揺れる。

「逃がさないぜ」

小柄な鬼が。

俺達の退路へ回った。

大柄な鬼は。

子供達の前へ立つ。

低い音が響く。

ズゥゥン――。

歪んだ♪が。

子供達の前へ円を描いて広がった。

五線が走る。

幾重にも重なり。

大きな防御弾幕を作る。

「頭ー!」

「こっちは大丈夫です!」

もう一体の女の鬼が。

ゆっくりとこちらへ回り込んだ。

「軍曹」

「左翼はソイツを」

「承知しましたわ」

正面。

鬼住が。

ゴキッ。

首を鳴らした。

「俺達は――」

「鬼住だ」

リアルダが端末を開く。

「チャッピー!」

「境内の情報を共有します!」

「ピピ!」

突然始まった戦いに。

子供達も一斉に沸き立った。

「バトルだー!」

「バトルが始まったー!」

「おじちゃん頑張れー!」

「ウルセンジャーもー!」

◇

遊撃隊右翼。

ドゴォォォン!

ドン!

ドン!

ドゴォォォン!

乾いた音が。

境内に響く。

和太鼓よりも騒がしい。

「クソっ……」

アクセントが肩で息をする。

「次から次へと」

「きりがない……」

「おっちゃん……」

スタッカートも。

息を切らしていた。

「なんで」

「全然元気なんスか……!」

「ガハハハハ!」

鬼住が笑う。

「そんなもんかぁ!」

ブオォォーン!

拳が飛ぶ。

ドンッ!

「ぐっ!」

アクセントが踏ん張る。

ブリランテが。

トランペットを構えた。

「くらうですよー!」

息を吸う。

ベルの周囲へ。

光る♪が、球状に集まり始める。

次々と。

ベルの中へ吸い込まれていく。

高音。

「行くですよー!」

タカタカタカタカ!

ヒュン!

ヒュン!

ヒュン!

ヒュン!

ドドドドドド!

「フン!」

鬼住が片手を上げた。

バシバシバシバシ!

飛んできた音響弾を。

全弾。

指先で弾き飛ばしていく。

「ええっ!?」

ブリランテの目が丸くなる。

「おはじきみたいに……」

ぐぅ〜。

ペザンテが呟く。

「……焼きそば」

スタッカートが振り返った。

「これが終わってからッス!」

「レッド様!」

リアルダの声。

「次が来ます!」

「分かった!」

鬼住を見る。

何だか。

楽しそうだ。

◇

遊撃隊左翼。

「うふふっ」

ドルチェが。

トランペットを構えた。

低音。

ベルの周囲へ。

淡いピンク色の♪が集まる。

♪は一点へ凝縮せず。

ふわり。

外側へ広がった。

円を描く。

その軌跡を。

五線譜の光が走る。

一重。

二重。

三重。

淡いピンク色の防御弾幕が。

花びらのように重なった。

ヒュン!

女の鬼が放った音響弾。

ドン!

防壁に当たる。

ピンク色の音響陣が。

波紋のように揺れた。

一枚で受け止めない。

何層もの和音が。

衝撃を少しずつ受け流していく。

「……?」

女の鬼が眉を寄せた。

「変な壁ね」

「うふふっ」

ドルチェが微笑む。

「力で止めるだけが」

「防御ではありませんわ」

その横。

グラヴィオーソが。

静かにトランペットを構えた。

「……ソコ」

ヒュン――!

「ちっ!」

女の鬼が身をかわす。

「チャッピー」

ソステヌートが空を見る。

眼鏡を上げる。

「風向きが変わった」

「ピピ!」

チャッピーの指が。

端末の上を走る。

「風向、補正」

「距離、補正」

ピッ。

「共有完了!」

グラヴィオーソのベルが。

ほんの少し動いた。

「……ソコ」

ヒュン――!

ドン!

「きゃっ!」

女の鬼が。

一歩下がる。

「姉御ー!」

小柄な鬼が笑った。

「防戦一方じゃないですか!」

「うるさい!」

「お前も手伝え!」

「へいへい!」

小柄な鬼も前へ出る。

チャッピーの目が。

忙しく動いた。

「ピピピ!」

◇

右翼。

ドゴォォォン!

鬼住の猛攻は。

まだ衰えない。

「どうしたぁ!」

ブオォォーン!

拳が飛ぶ。

「頭で考えるな!」

ドンッ!

「身体で覚えろ!」

「くっ……!」

アクセントが踏ん張る。

スタッカートが。

その隣へ並んだ。

「何だか……」

息を整える。

「慣れてきたっス」

アクセントも。

鬼住を見る。

「ああ」

「俺もだ」

「ガハハハハ!」

鬼住が笑う。

「遅いわ!」

ドンッ!

「うわっ!」

二人が転がる。

それでも。

すぐに立ち上がった。

「……」

俺は。

トランペットを構える。

鬼住を見る。

距離。

風。

周囲。

「みんな!」

右翼が。

俺を見る。

「三秒――」

一拍。

「俺にくれ!」

「了解!」

アクセントとスタッカートが。

前へ出る。

ブリランテも。

楽器を構えた。

「三秒くらいなら」

ニッと笑う。

「まかせるですよー!」

タカタカタカタカ!

ヒュン!

ヒュン!

ヒュン!

ドドドドドド!

鬼住が。

連弾を弾き飛ばす。

「小賢しい!」

その間に。

息を吸う。

一秒。

ベルの周囲へ。

橙色の小鳥が集まり始める。

一羽。

二羽。

十。

二十。

球状に。

俺のベルを包んでいく。

二秒。

小鳥達が。

次々とベルへ吸い込まれる。

音圧が。

ニューヨークモデルの中へ。

蓄積されていく。

前方。

アクセント。

スタッカート。

ブリランテ。

三人の音が重なる。

和音。

響きが。

俺の前へ伸びていく。

一本の道のように。

三秒。

最後の一羽が。

ベルの中へ吸い込まれた。

「レッド様!」

リアルダが叫ぶ。

「照準補正!」

指が走る。

「射線――開きました!」

「よし!」

身体にたまった息を。

一気に解放する。

高音。

ベルの奥で。

橙色の光が膨れ上がる。

――放つ。

ヒュン――――!!

橙色の音響弾が。

仲間の和音の上を。

滑るように走った。

さらに。

加速する。

鬼住の目が。

大きく見開かれた。

「ぬっ!?」

ドゴォォォォン!!

境内が。

揺れた。

◇

ゴスッ!

「痛っ!」

頭を殴られた。

「境内ごと吹っ飛ばす気か!」

鬼住が怒鳴る。

「スミマセン……」

女の鬼も。

腕を組んでいる。

「あんた」

「限度ってもん知らないの?」

「はい……」

小柄な鬼も睨んでいた。

「ガキどもが」

「ちびってたじゃねーか!」

大柄な鬼も続く。

「周りをよく見ろ!」

「本当にスミマセン……」

子供達を見る。

「すげー!」

「あれもう一回やってー!」

「駄目です!」

カンタービレの声が飛んできた。

「……はい」

◇

「でっ」

鬼住が腕を組む。

「何の話だったかの」

「え?」

……何だったっけ。

「あっ」

「子供達と、その……」

「隊長」

カンタービレが声をかけた。

「要請してきた保護者の方ですが」

「お子さんと」

「もう帰られましたわ」

「……え?」

境内を見る。

子供達は。

また鬼達と遊んでいた。

「……」

鬼住へ頭を下げる。

「遊んでいただいて」

「ありがとうございました」

「フンッ!」

鬼住が。

そっぽを向いた。

「ウォッホン!」

咳払い。

「……これは独り言じゃ」

「?」

「大明神様が静観なさる以上」

「儂らも」

「勝手はできん」

ため息。

ちらり。

俺を見る。

「益田から」

一拍。

「奴らを叩き出してくれる奴でも――」

「おればのぉ」

「……」

◇

久々茂八幡宮を後にする。

西へ傾いた夏の日差し。

蝉時雨の向こうから。

祭囃子がまだ聞こえていた。

「おっちゃん」

「全然変わってなかったな」

アクセントが笑う。

スタッカートも。

頭を掻いた。

「大人になっても」

「歯が立たなかったっス」

「お前達」

「昔からあんなバケモノと戦ってたのか?」

「もちろん」

アクセントが笑った。

「手加減してくれましたよ」

スタッカートが。

俺を見る。

「隊長とは違うっスー」

「……」

心が痛い。

カンタービレが口を開いた。

「でも」

「良い訓練になりましたね」

「!」

ブリランテの目が輝く。

「でしたら」

「本日の訓練は」

「なしでありますかー♪」

カンタービレが見る。

「それは」

一拍。

「それです」

「ええーっ!」

「アハハハ!」

みんなの笑い声。

俺も。

笑った。

少し歩いて。

神社を振り返る。

境内では。

鬼住達と子供達が。

まだ遊んでいる。

幟が。

ゆっくり揺れていた。

俺は――。

鬼教官達に。

一礼した。


第137話『良かった♪』
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2026年08月29日