第137話『良かった♪』

第137話『良かった♪』


益田駐屯地。

その日は朝から。

悪のみなさんの活動が活発だった。

各地から。

出動要請が相次いだ。

昼を過ぎる頃には。

駐屯地の部隊は。

ほとんど出払っていた。

◇

昼過ぎ。

益田駐屯地、正門。

一人の女性が立っていた。

白い巫女装束。

長い黒髪。

守衛が声をかける。

「何かお困りですか?」

女性が振り返った。

柔らかな笑顔。

「要請ですか?」

「いいえ」

女性は。

駐屯地の中を見渡した。

「……人気が少ないようですが」

「本日、皆さんは?」

「ああ」

守衛も中を見る。

「今日は朝から立て込んでましてね」

「ほとんど出払ってますよ」

「そうなんですか」

女性が微笑む。

「大変ですね」

「ええ、まあ」

他愛もない。

世間話。

夏の日差し。

蝉の声。

「遊撃隊の皆さんも?」

「え?」

女性は。

微笑んだまま。

「皆さん、お出かけですか?」

「ああ」

守衛が時計を見る。

「第一トランペット遊撃隊なら」

「もうすぐ帰投するはずですよ」

「……」

「先ほど連絡がありましたから」

「そうなんですか」

女性が。

小さく首を傾げる。

「今は」

「どの辺りに?」

「え?」

「帰投中なのでしょう?」

「ああ」

守衛が少し考える。

「先ほど連絡を受けた時は――」

一拍。

「高津川辺りだったかな」

「……」

ミーン。

ミンミンミン――。

蝉の声。

女性の口元が。

ほんの少しだけ。

緩んだ。

「良かった♪」

「え?」

「いえ」

深く。

丁寧に一礼する。

「ありがとうございました」

女性は。

踵を返した。

◇

正門から。

少し離れた場所。

女性が歩いてくる。

その先。

木陰に。

五つの影が立っていた。

誰も。

何も言わない。

女性も。

声をかけない。

そのまま。

五体の前を通り過ぎる。

一体。

また一体。

無言のまま。

その後ろへ続いた。

六つの影が。

同じ方向へ歩き出す。

◇

高津川。

西へ傾いた陽が。

川面を照らしていた。

土手を吹き抜ける風が。

少しだけ涼しい。

「……焼きそば」

ペザンテが呟いた。

スタッカートが振り返る。

「まだ言ってるんスか」

「美味しかった」

「たくさん、食べてたじゃないですか」

リアルダが苦笑する。

「次のお祭りまで言ってそうですね」

「言う」

「ピピ♪」

久々茂八幡宮での一戦から。

まだ数日。

少しずつ。

いつもの空気が戻り始めていた。

「……ピ」

チャッピーが。

足を止めた。

「どうした?」

返事はない。

前を見ている。

「チャッピー?」

「ピピ……」

リアルダも。

端末を開いた。

ピッ。

「……?」

指が止まる。

もう一度。

ピッ。

「反応があります」

全員の足が止まった。

「数は?」

「六」

「ランクは?」

リアルダの指が動く。

ピッ。

「……」

もう一度。

ピッ。

「リアルダ?」

ゆっくり。

顔を上げる。

「レッド様……」

一拍。

「六体――」

「全て」

「ランク持ちです」

「……」

風が吹く。

河川敷の草が。

ざぁぁっ――。

一斉に伏せた。

土手の向こう。

夕陽を背に。

六つの影が立っていた。

中央。

一人の女性が。

一歩前へ出る。

白い巫女装束。

長い黒髪。

俺達を見渡す。

そして。

微笑んだ。

「良かった」

「……」

「今日は――」

一拍。

「皆さん、お揃いですね♪」

「……!」

カンタービレの顔色が変わった。

「貴方たちは!!」

アクセントが。

拳を強く握る。

スタッカートは。

一歩後ずさった。

「ひぇーっ……」

その場に。

尻もちをつく。

「出たッス……!」

「……」

ペザンテの口から。

食べ物の話題が消えた。

ソステヌートが。

眼鏡に手をかける。

「隊長」

「眼前の敵についてですが――」

「いや」

六体を見る。

「俺は」

「コイツらを知っている」

リアルダが頷く。

「広島の会戦で――」

「殿を務めた部隊です」

ドルチェが。

巫女姿の女性を見る。

「確か……」

「ヒノエウマの使い」

「だったかしら?」

「……」

女性が微笑んだ。

「覚えていてくださったんですね」

一礼する。

「光栄です」

俺は。

楽器ケースを開いた。

カチッ。

「何の用だ」

女性の後ろで。

五体が。

ゆっくりと構えた。

「決まっているでしょう?」

川風が吹く。

草が。

ざぁぁっ――。

揺れる。

「今度は――」

笑顔が消える。

俺達を。

まっすぐ見据えた。

「私達の戦いをしに参りました」


第138話『私達と違って』
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2026年08月29日