第103話『演説』
第103話『演説』
快晴。
真夏の空の下。
広島平和野外音楽堂公園には。
二つの大軍勢が向かい合っていた。
本来なら。
今日は『MANパンマンフェス』の日だった。
子どもたちの笑い声。
拍手。
音楽。
そのはずだった。
でも。
今ここにいるのは。
広島西部方面軍、第3軍団。
そして。
悪のみなさん連合。
俺は。
その間に立っていた。
◇
……まずい。
手が震える。
足も。
少し震えてる。
数百人の視線が。
全部。
俺に向いていた。
思わず。
最後方を見る。
コン・ブリオ。
あいつは。
涼しい顔で笑っている。
「ふふっ。」
(この野郎……。)
これが。
さっきの「お願い」だった。
◇
「レッド様ー!」
リアルダが。
ものすごい勢いで走ってくる。
「こちらを!」
一冊の本を差し出した。
「マエストロ様からお預かりした。」
「演説用の教本です!」
「助かった。」
表紙を見る。
『初めてのデート成功術』
「……。」
リアルダも見る。
「……。」
顔が固まった。
「あっ!」
「ま、間違えましたーっ!」
防衛隊から。
笑いが起こった。
「おい……。」
「すみませんー!」
リアルダが本を抱えて逃げていく。
俺も。
思わず笑った。
さっきまで。
あれだけ重かった空気が。
少しだけ軽くなった。
まあ。
いいか。
◇
一度。
深く息を吸う。
前を見る。
若い隊員。
ベテラン。
音響士。
音術師。
みんな。
少なからず。
怖そうな顔をしている。
たぶん。
俺も同じ顔だ。
「今日は。」
声を出す。
「せっかくのMANパンマンショーだった。」
少し間を置く。
「招待状を持ってない連中のせいで。」
親指で。
背後の悪のみなさんを指す。
「台無しだ。」
「そうだー!」
どこかから声が飛んだ。
また。
笑いが起こる。
「見た目からして。」
「だいぶ怖い。」
敵陣を見る。
確かに。
怖い。
「しかも。」
「多い。」
何人かが頷いた。
「びびるのも。」
「無理はない。」
少し前にいる。
若い隊員たちを見る。
「怖い奴。」
「正直に手を挙げろ。」
ぱらぱら。
手が挙がる。
もう少し。
増える。
俺も。
右手を挙げた。
「俺もだ。」
空気が静まった。
「だから。」
そのまま言う。
「安心しろ。」
一拍。
「怖いまま。」
「勝てばいい。」
◇
後ろのほうで。
誰かが息をのんだ。
俺は続ける。
「士官学校の卒業試験で。」
「俺は。」
最後方を見る。
「そこの軍団長殿と。」
「同じチームだった。」
全員の視線が。
コン・ブリオへ集まる。
あいつは。
いつもの顔。
「模擬戦の途中で。」
「予定にない敵が入ってきた。」
空気が変わる。
「高ランク。」
「教官たちも倒れた。」
「俺たちは。」
少しだけ。
あの日を思い出す。
「死ぬと思った。」
誰も笑わない。
「何をすればいいのか。」
「分からなかった。」
「その時。」
俺は。
コン・ブリオを見る。
「アイツが言った。」
『僕を信じて。』
「それだけだった。」
俺は。
少し笑う。
「結果。」
「全員、生き残った。」
数百人の視線が。
また。
最後方へ向く。
「だから。」
「俺は。」
まっすぐ言った。
「アイツを信じる。」
「みんなも。」
「アイツを信じろ。」
一拍。
「なんとかなるさ。」
◇
ドンッ!!
打楽器の音が。
公園を揺らした。
どこからか。
声が飛ぶ。
「最高の演奏をするのは誰だーーっ!」
『俺たちだーーっ!!』
ドドンッ!!
「最後まで踏ん張るのは誰だーーっ!」
『俺たちだーーっ!!』
声が。
どんどん大きくなる。
「勝利の美酒に酔いしれるのは誰だーーっ!」
『俺たちだーーっ!!』
……俺。
酒飲めないけど。
まあ。
今はいい。
俺は拳を上げた。
「よし!」
「行くぞ!」
大歓声。
さっきまでの不安が。
全部なくなったわけじゃない。
でも。
それでいい。
怖いまま。
行けばいい。
◇
最後方。
コン・ブリオが。
静かに右手を上げた。
ざわめきが。
少しずつ消えていく。
「MANパンマン。」
一拍。
「スタート。」
指揮棒が下りる。
次の瞬間。
力強く。
どこか優しい旋律が。
真夏の空へ響き渡った。
子どもたちへ。
届くように。
戦場になる前の公園へ。
音楽が。
戻ってきた。
第104話『悪のみなさん連合』
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