第103話『演説』

第103話『演説』


快晴。

真夏の空の下。

広島平和野外音楽堂公園には。

二つの大軍勢が向かい合っていた。

本来なら。

今日は『MANパンマンフェス』の日だった。

子どもたちの笑い声。

拍手。

音楽。

そのはずだった。

でも。

今ここにいるのは。

広島西部方面軍、第3軍団。

そして。

悪のみなさん連合。

俺は。

その間に立っていた。



……まずい。

手が震える。

足も。

少し震えてる。

数百人の視線が。

全部。

俺に向いていた。

思わず。

最後方を見る。

コン・ブリオ。

あいつは。

涼しい顔で笑っている。

「ふふっ。」

(この野郎……。)

これが。

さっきの「お願い」だった。



「レッド様ー!」

リアルダが。

ものすごい勢いで走ってくる。

「こちらを!」

一冊の本を差し出した。

「マエストロ様からお預かりした。」

「演説用の教本です!」

「助かった。」

表紙を見る。

『初めてのデート成功術』

「……。」

リアルダも見る。

「……。」

顔が固まった。

「あっ!」

「ま、間違えましたーっ!」

防衛隊から。

笑いが起こった。

「おい……。」

「すみませんー!」

リアルダが本を抱えて逃げていく。

俺も。

思わず笑った。

さっきまで。

あれだけ重かった空気が。

少しだけ軽くなった。

まあ。

いいか。



一度。

深く息を吸う。

前を見る。

若い隊員。

ベテラン。

音響士。

音術師。

みんな。

少なからず。

怖そうな顔をしている。

たぶん。

俺も同じ顔だ。

「今日は。」

声を出す。

「せっかくのMANパンマンショーだった。」

少し間を置く。

「招待状を持ってない連中のせいで。」

親指で。

背後の悪のみなさんを指す。

「台無しだ。」

「そうだー!」

どこかから声が飛んだ。

また。

笑いが起こる。

「見た目からして。」

「だいぶ怖い。」

敵陣を見る。

確かに。

怖い。

「しかも。」

「多い。」

何人かが頷いた。

「びびるのも。」

「無理はない。」

少し前にいる。

若い隊員たちを見る。

「怖い奴。」

「正直に手を挙げろ。」

ぱらぱら。

手が挙がる。

もう少し。

増える。

俺も。

右手を挙げた。

「俺もだ。」

空気が静まった。

「だから。」

そのまま言う。

「安心しろ。」

一拍。

「怖いまま。」

「勝てばいい。」



後ろのほうで。

誰かが息をのんだ。

俺は続ける。

「士官学校の卒業試験で。」

「俺は。」

最後方を見る。

「そこの軍団長殿と。」

「同じチームだった。」

全員の視線が。

コン・ブリオへ集まる。

あいつは。

いつもの顔。

「模擬戦の途中で。」

「予定にない敵が入ってきた。」

空気が変わる。

「高ランク。」

「教官たちも倒れた。」

「俺たちは。」

少しだけ。

あの日を思い出す。

「死ぬと思った。」

誰も笑わない。

「何をすればいいのか。」

「分からなかった。」

「その時。」

俺は。

コン・ブリオを見る。

「アイツが言った。」

『僕を信じて。』

「それだけだった。」

俺は。

少し笑う。

「結果。」

「全員、生き残った。」

数百人の視線が。

また。

最後方へ向く。

「だから。」

「俺は。」

まっすぐ言った。

「アイツを信じる。」

「みんなも。」

「アイツを信じろ。」

一拍。

「なんとかなるさ。」



ドンッ!!

打楽器の音が。

公園を揺らした。

どこからか。

声が飛ぶ。

「最高の演奏をするのは誰だーーっ!」

『俺たちだーーっ!!』

ドドンッ!!

「最後まで踏ん張るのは誰だーーっ!」

『俺たちだーーっ!!』

声が。

どんどん大きくなる。

「勝利の美酒に酔いしれるのは誰だーーっ!」

『俺たちだーーっ!!』

……俺。

酒飲めないけど。

まあ。

今はいい。

俺は拳を上げた。

「よし!」

「行くぞ!」

大歓声。

さっきまでの不安が。

全部なくなったわけじゃない。

でも。

それでいい。

怖いまま。

行けばいい。



最後方。

コン・ブリオが。

静かに右手を上げた。

ざわめきが。

少しずつ消えていく。

「MANパンマン。」

一拍。

「スタート。」

指揮棒が下りる。

次の瞬間。

力強く。

どこか優しい旋律が。

真夏の空へ響き渡った。

子どもたちへ。

届くように。

戦場になる前の公園へ。

音楽が。

戻ってきた。


第104話『悪のみなさん連合』
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2026年08月18日