第120話『成り行き』

第120話『成り行き』


店の扉が。

静かに開いた。

「あら。」

女が一人。

入ってくる。

どこかで。

見た顔だった。

「……。」

思い出せない。

リアルダが。

小声で言う。

「レッド様。」

「バー・レギオンの。」

「ママさんです。」

「ああ。」

思い出した。

ウチの軍団長に。

対人訓練の反省会で。

連れて行かれた店だ。

女は。

俺たちに気づくと。

軽く会釈した。

それから。

少し離れたカウンターへ。

腰を下ろした。



女は。

自分から。

話しかけてはこなかった。

店員と。

短く言葉を交わす。

グラスが置かれる。

静かに。

それを傾ける。

時々。

こちらの会話に。

耳を傾けるように。

微笑んでいた。

「……。」

コン・ブリオが。

女を見る。

少し迷ってから。

席を立った。

「ちょっと。」

「失礼するよ。」

「?」

そのまま。

カウンターへ向かう。



「失礼ですが。」

女が。

コン・ブリオを振り返る。

「もしかして……。」

コン・ブリオが。

穏やかに尋ねた。

「今日。」

「高台で。」

「お子さん二人を。」

「保護された方ですか?」

女が。

少し目を丸くした。

「あら?」

「どうして。」

「私だと分かりましたの?」

「救護班から。」

「聞いていた特徴が。」

コン・ブリオが。

微笑む。

「まさに。」

「貴女でしたので。」

「まあ。」

女も。

小さく微笑んだ。

「ラリサと申します。」

「初めまして。」

コン・ブリオが。

軽く頭を下げる。

「第3軍団長の。」

「コン・ブリオです。」

そして。

もう一度。

静かに頭を下げた。

「ありがとうございました。」

ラリサは。

グラスへ目を落とす。

「たまたま。」

「近くにいただけですわ。」

一拍。

「成り行きです。」

「ふふっ。」

コン・ブリオが。

小さく笑った。



「もし。」

「お時間があるようでしたら。」

コン・ブリオが。

俺たちの席を見る。

「彼らとも。」

「顔見知りのようですし。」

「少し。」

「ご一緒しませんか?」

ラリサも。

こちらへ目を向けた。

「まあ。」

「よろしいんですの?」

「もちろん。」

「では。」

「少しだけ。」

二人が。

こちらへ戻ってくる。

ドルチェが。

空いている椅子を引いた。

「どうぞ♪」

「ありがとうございます。」

ラリサが。

席につく。

そして。

俺たちへ。

軽く会釈した。

「改めまして。」

「ラリサと申します。」

「……レッドです。」

目が。

合いそうになる。

何となく。

落ち着かない。

俺は。

CALPISへ。

視線を戻した。

ラリサが。

俺を見て。

小さく微笑む。

「以前。」

「うちのお店にも。」

「いらっしゃいましたわね。」

「……そうでしたか。」

俺が答えると。

リアルダが。

呆れたように。

こっちを見る。

「レッド様。」

「先ほど。」

「思い出されたばかりでは?」

「店は覚えてる。」

「店は、ですか。」

タケハラが。

くすっと笑った。

「隊長。」

「一般の女性相手だと。」

「急に弱くなりますね♪」

「うるさい。」

ドルチェが。

楽しそうに。

口元を押さえた。

「ウフフっ♪」



席についてからも。

ラリサは。

あまり話さなかった。

誰かが話せば。

微笑んで。

「まあ。」

「そうでしたの。」

と。

小さく相槌を打つ。

時々。

グラスを傾ける。

それだけ。

でも。

妙に。

よく聞いている。

そんな感じがした。



しばらくして。

タケハラが。

ラリサを見る。

「ラリサさん。」

「はい?」

「あの。」

「今日。」

「あんな高台で。」

「何をしてたんです?」

リアルダが。

すぐに横から入る。

「タケハラ様。」

「聞き方が。」

「あ。」

「すみません。」

ラリサは。

気にした様子もなく。

微笑んだ。

「戦場を。」

「見ておりましたの。」

タケハラが。

目を丸くする。

「見物ですか?」

「ええ。」

ラリサは。

少し考えてから。

続けた。

「古い戦史が。」

「好きですので。」

「……。」

俺は。

思わず。

ラリサを見る。

目が合いそうになって。

また。

CALPISへ戻した。

「変わってますね。」

「よく。」

「言われますわ。」



それ以上。

ラリサは。

自分のことを。

話さなかった。

また。

みんなの話を聞く。

微笑んで。

相槌を打つ。

時々。

グラスを傾ける。

それだけだった。



やがて。

会話が。

ふっと途切れた。

ラリサが。

静かに。

グラスを置く。

「そういえば。」

初めて。

自分から。

話題を出した。

その視線は。

コン・ブリオへ。

向いている。

「今日の中央。」

一拍。

「ずいぶん深く。」

「押し込ませましたわね。」

「……。」

コン・ブリオの。

手が止まった。

リアルダも。

顔を上げる。

俺も。

ラリサを見る。

さっきまで。

黙って。

人の話を聞いていた女。

その目だけが。

少し。

違って見えた。

コン・ブリオが。

穏やかに笑う。

「ずいぶん。」

「よく見ていたんですね。」

ラリサも。

静かに微笑んだ。

「ウフフっ。」

「古代戦史が。」

「好きですから。」


第121話『レギオン』
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2026年08月19日