第120話『成り行き』
第120話『成り行き』
店の扉が。
静かに開いた。
「あら。」
女が一人。
入ってくる。
どこかで。
見た顔だった。
「……。」
思い出せない。
リアルダが。
小声で言う。
「レッド様。」
「バー・レギオンの。」
「ママさんです。」
「ああ。」
思い出した。
ウチの軍団長に。
対人訓練の反省会で。
連れて行かれた店だ。
女は。
俺たちに気づくと。
軽く会釈した。
それから。
少し離れたカウンターへ。
腰を下ろした。
◇
女は。
自分から。
話しかけてはこなかった。
店員と。
短く言葉を交わす。
グラスが置かれる。
静かに。
それを傾ける。
時々。
こちらの会話に。
耳を傾けるように。
微笑んでいた。
「……。」
コン・ブリオが。
女を見る。
少し迷ってから。
席を立った。
「ちょっと。」
「失礼するよ。」
「?」
そのまま。
カウンターへ向かう。
◇
「失礼ですが。」
女が。
コン・ブリオを振り返る。
「もしかして……。」
コン・ブリオが。
穏やかに尋ねた。
「今日。」
「高台で。」
「お子さん二人を。」
「保護された方ですか?」
女が。
少し目を丸くした。
「あら?」
「どうして。」
「私だと分かりましたの?」
「救護班から。」
「聞いていた特徴が。」
コン・ブリオが。
微笑む。
「まさに。」
「貴女でしたので。」
「まあ。」
女も。
小さく微笑んだ。
「ラリサと申します。」
「初めまして。」
コン・ブリオが。
軽く頭を下げる。
「第3軍団長の。」
「コン・ブリオです。」
そして。
もう一度。
静かに頭を下げた。
「ありがとうございました。」
ラリサは。
グラスへ目を落とす。
「たまたま。」
「近くにいただけですわ。」
一拍。
「成り行きです。」
「ふふっ。」
コン・ブリオが。
小さく笑った。
◇
「もし。」
「お時間があるようでしたら。」
コン・ブリオが。
俺たちの席を見る。
「彼らとも。」
「顔見知りのようですし。」
「少し。」
「ご一緒しませんか?」
ラリサも。
こちらへ目を向けた。
「まあ。」
「よろしいんですの?」
「もちろん。」
「では。」
「少しだけ。」
二人が。
こちらへ戻ってくる。
ドルチェが。
空いている椅子を引いた。
「どうぞ♪」
「ありがとうございます。」
ラリサが。
席につく。
そして。
俺たちへ。
軽く会釈した。
「改めまして。」
「ラリサと申します。」
「……レッドです。」
目が。
合いそうになる。
何となく。
落ち着かない。
俺は。
CALPISへ。
視線を戻した。
ラリサが。
俺を見て。
小さく微笑む。
「以前。」
「うちのお店にも。」
「いらっしゃいましたわね。」
「……そうでしたか。」
俺が答えると。
リアルダが。
呆れたように。
こっちを見る。
「レッド様。」
「先ほど。」
「思い出されたばかりでは?」
「店は覚えてる。」
「店は、ですか。」
タケハラが。
くすっと笑った。
「隊長。」
「一般の女性相手だと。」
「急に弱くなりますね♪」
「うるさい。」
ドルチェが。
楽しそうに。
口元を押さえた。
「ウフフっ♪」
◇
席についてからも。
ラリサは。
あまり話さなかった。
誰かが話せば。
微笑んで。
「まあ。」
「そうでしたの。」
と。
小さく相槌を打つ。
時々。
グラスを傾ける。
それだけ。
でも。
妙に。
よく聞いている。
そんな感じがした。
◇
しばらくして。
タケハラが。
ラリサを見る。
「ラリサさん。」
「はい?」
「あの。」
「今日。」
「あんな高台で。」
「何をしてたんです?」
リアルダが。
すぐに横から入る。
「タケハラ様。」
「聞き方が。」
「あ。」
「すみません。」
ラリサは。
気にした様子もなく。
微笑んだ。
「戦場を。」
「見ておりましたの。」
タケハラが。
目を丸くする。
「見物ですか?」
「ええ。」
ラリサは。
少し考えてから。
続けた。
「古い戦史が。」
「好きですので。」
「……。」
俺は。
思わず。
ラリサを見る。
目が合いそうになって。
また。
CALPISへ戻した。
「変わってますね。」
「よく。」
「言われますわ。」
◇
それ以上。
ラリサは。
自分のことを。
話さなかった。
また。
みんなの話を聞く。
微笑んで。
相槌を打つ。
時々。
グラスを傾ける。
それだけだった。
◇
やがて。
会話が。
ふっと途切れた。
ラリサが。
静かに。
グラスを置く。
「そういえば。」
初めて。
自分から。
話題を出した。
その視線は。
コン・ブリオへ。
向いている。
「今日の中央。」
一拍。
「ずいぶん深く。」
「押し込ませましたわね。」
「……。」
コン・ブリオの。
手が止まった。
リアルダも。
顔を上げる。
俺も。
ラリサを見る。
さっきまで。
黙って。
人の話を聞いていた女。
その目だけが。
少し。
違って見えた。
コン・ブリオが。
穏やかに笑う。
「ずいぶん。」
「よく見ていたんですね。」
ラリサも。
静かに微笑んだ。
「ウフフっ。」
「古代戦史が。」
「好きですから。」
第121話『レギオン』
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/posts/blog403.html
ウルセンジャー小説ガイド
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html