第121話『レギオン』
第121話『レギオン』
「今日の中央。」
ラリサが。
コン・ブリオを見る。
「ずいぶん深く。」
「押し込ませましたわね。」
「……。」
コン・ブリオは。
グラスへ指を添えたまま。
少し笑った。
「必要でしたから。」
「必要?」
タケハラが。
首を傾げる。
ラリサは。
テーブルの上を。
指先でなぞった。
「最初。」
「防衛隊の中央が。」
「前へ出ていた。」
コン・ブリオは。
黙って聞いている。
「そこへ。」
「連合軍の中央が。」
「入っていった。」
そして。
ラリサの指が。
左右へ分かれる。
「防衛隊の前衛、散兵が。」
「連合軍中央と会敵する直前に。」
「左右へ散開した。」
リアルダが。
ラリサを見る。
さっきまでとは。
明らかに。
目つきが違った。
◇
ラリサの指が。
ゆっくり。
Uの字を描く。
「防衛隊の中央は。」
「下がりながら。」
「連合軍中央を。」
「中へ入れた。」
「そして。」
「連合軍中央が。」
「優勢に見えるにつれて。」
「連合軍の両翼にいた者たちまで。」
「少しずつ。」
「中央へ寄っていった。」
コン・ブリオが。
「ふふっ。」
とだけ笑った。
「最後に。」
ラリサの指が。
U字の上へ動く。
「連合軍本隊まで。」
「中央へ寄った。」
「……。」
タケハラが。
口を開く。
「それって。」
ラリサが。
小さく微笑んだ。
「カンナエですわね。」
「……カン?」
俺は。
コン・ブリオを見る。
「古代戦史。」
「三ページ目。」
「あっ。」
「アレか。」
リアルダが。
俺を見る。
「レッド様。」
「本当に読まれました?」
「読んだ。」
「三ページ目までは。」
「そこまでですか。」
◇
ラリサが。
くすっと笑う。
「でも。」
その指が。
U字の上で止まる。
「一つ。」
「違いますわね。」
コン・ブリオが。
ラリサを見る。
「何がでしょう。」
「閉じなかった。」
「……。」
店の中が。
少し静かになった。
「包囲するなら。」
ラリサが続ける。
「最後まで。」
「閉じればよかった。」
「逃げ道を。」
「残しましたわね。」
◇
コン・ブリオは。
しばらく。
何も言わなかった。
やがて。
グラスを置く。
「帰りたそうだったから。」
「……。」
タケハラが。
瞬きをする。
リアルダも。
黙った。
ラリサだけが。
少し。
目を細めた。
「追えば。」
コン・ブリオが続ける。
「向こうも。」
「殿を置く。」
「こちらも。」
「追撃の部隊を出す。」
「そうなれば。」
「また。」
「誰かが倒れる。」
俺は。
黙って聞いていた。
◇
「だから。」
コン・ブリオは。
穏やかな声のまま。
言った。
「帰るなら。」
「帰ってもらえばいい。」
「僕らの目的は。」
「全滅させることじゃない。」
「今日を。」
「終わらせることだから。」
「……。」
ラリサが。
コン・ブリオを見つめる。
そして。
ゆっくり。
笑った。
「勝つための。」
「包囲ではなく。」
一拍。
「終わらせるための。」
「包囲。」
「そういうことですのね。」
「フフっ。」
コン・ブリオが。
小さく笑う。
「そんな。」
「大袈裟なものではありません。」
◇
「いや。」
俺は。
思わず言った。
「十分。」
「大袈裟だろ。」
タケハラも。
何度も頷く。
「ですよね。」
「私。」
「そんなことまで。」
「考えてませんでした。」
「僕も。」
「全部。」
「考えていたわけじゃないよ。」
コン・ブリオが。
さらっと言う。
「その場で。」
「見ながら決めただけ。」
俺は。
眉を寄せる。
「それ。」
「一番。」
「信用できない言い方だぞ。」
「ふふっ。」
ドルチェが。
楽しそうに笑った。
「コン・ブリオ君は。」
「成り行きが。」
「お好きですものね♪」
「またそれか。」
◇
ラリサが。
静かに。
グラスを傾ける。
その顔は。
楽しそうだった。
「レギオン。」
ぽつりと。
そう言った。
「ん?」
俺が見ると。
ラリサは。
テーブルの上の。
U字を。
指先で消した。
「大勢を。」
「一つの塊として。」
「動かす。」
「でも。」
「最後に動くのは。」
「一人一人。」
「人なのですわね。」
コン・ブリオは。
答えなかった。
ただ。
少しだけ。
笑った。
ラリサも。
それ以上は。
何も言わなかった。
◇
しばらくして。
ラリサが。
俺を見る。
目が合う。
俺は。
すぐに。
CALPISへ目を落とした。
「ところで。」
「レッドさん。」
「……はい。」
「今日。」
「防衛隊右翼から。」
「ずいぶん。」
「遠くまで。」
「音が届いていましたわね。」
「……。」
嫌な予感がした。
また。
俺の番が。
回ってきそうだ。
第122話『右翼』
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