第121話『レギオン』

第121話『レギオン』


「今日の中央。」

ラリサが。

コン・ブリオを見る。

「ずいぶん深く。」

「押し込ませましたわね。」

「……。」

コン・ブリオは。

グラスへ指を添えたまま。

少し笑った。

「必要でしたから。」

「必要?」

タケハラが。

首を傾げる。

ラリサは。

テーブルの上を。

指先でなぞった。

「最初。」

「防衛隊の中央が。」

「前へ出ていた。」

コン・ブリオは。

黙って聞いている。

「そこへ。」

「連合軍の中央が。」

「入っていった。」

そして。

ラリサの指が。

左右へ分かれる。

「防衛隊の前衛、散兵が。」

「連合軍中央と会敵する直前に。」

「左右へ散開した。」

リアルダが。

ラリサを見る。

さっきまでとは。

明らかに。

目つきが違った。



ラリサの指が。

ゆっくり。

Uの字を描く。

「防衛隊の中央は。」

「下がりながら。」

「連合軍中央を。」

「中へ入れた。」

「そして。」

「連合軍中央が。」

「優勢に見えるにつれて。」

「連合軍の両翼にいた者たちまで。」

「少しずつ。」

「中央へ寄っていった。」

コン・ブリオが。

「ふふっ。」

とだけ笑った。

「最後に。」

ラリサの指が。

U字の上へ動く。

「連合軍本隊まで。」

「中央へ寄った。」

「……。」

タケハラが。

口を開く。

「それって。」

ラリサが。

小さく微笑んだ。

「カンナエですわね。」

「……カン?」

俺は。

コン・ブリオを見る。

「古代戦史。」

「三ページ目。」

「あっ。」

「アレか。」

リアルダが。

俺を見る。

「レッド様。」

「本当に読まれました?」

「読んだ。」

「三ページ目までは。」

「そこまでですか。」



ラリサが。

くすっと笑う。

「でも。」

その指が。

U字の上で止まる。

「一つ。」

「違いますわね。」

コン・ブリオが。

ラリサを見る。

「何がでしょう。」

「閉じなかった。」

「……。」

店の中が。

少し静かになった。

「包囲するなら。」

ラリサが続ける。

「最後まで。」

「閉じればよかった。」

「逃げ道を。」

「残しましたわね。」



コン・ブリオは。

しばらく。

何も言わなかった。

やがて。

グラスを置く。

「帰りたそうだったから。」

「……。」

タケハラが。

瞬きをする。

リアルダも。

黙った。

ラリサだけが。

少し。

目を細めた。

「追えば。」

コン・ブリオが続ける。

「向こうも。」

「殿を置く。」

「こちらも。」

「追撃の部隊を出す。」

「そうなれば。」

「また。」

「誰かが倒れる。」

俺は。

黙って聞いていた。



「だから。」

コン・ブリオは。

穏やかな声のまま。

言った。

「帰るなら。」

「帰ってもらえばいい。」

「僕らの目的は。」

「全滅させることじゃない。」

「今日を。」

「終わらせることだから。」

「……。」

ラリサが。

コン・ブリオを見つめる。

そして。

ゆっくり。

笑った。

「勝つための。」

「包囲ではなく。」

一拍。

「終わらせるための。」

「包囲。」

「そういうことですのね。」

「フフっ。」

コン・ブリオが。

小さく笑う。

「そんな。」

「大袈裟なものではありません。」



「いや。」

俺は。

思わず言った。

「十分。」

「大袈裟だろ。」

タケハラも。

何度も頷く。

「ですよね。」

「私。」

「そんなことまで。」

「考えてませんでした。」

「僕も。」

「全部。」

「考えていたわけじゃないよ。」

コン・ブリオが。

さらっと言う。

「その場で。」

「見ながら決めただけ。」

俺は。

眉を寄せる。

「それ。」

「一番。」

「信用できない言い方だぞ。」

「ふふっ。」

ドルチェが。

楽しそうに笑った。

「コン・ブリオ君は。」

「成り行きが。」

「お好きですものね♪」

「またそれか。」



ラリサが。

静かに。

グラスを傾ける。

その顔は。

楽しそうだった。

「レギオン。」

ぽつりと。

そう言った。

「ん?」

俺が見ると。

ラリサは。

テーブルの上の。

U字を。

指先で消した。

「大勢を。」

「一つの塊として。」

「動かす。」

「でも。」

「最後に動くのは。」

「一人一人。」

「人なのですわね。」

コン・ブリオは。

答えなかった。

ただ。

少しだけ。

笑った。

ラリサも。

それ以上は。

何も言わなかった。



しばらくして。

ラリサが。

俺を見る。

目が合う。

俺は。

すぐに。

CALPISへ目を落とした。

「ところで。」

「レッドさん。」

「……はい。」

「今日。」

「防衛隊右翼から。」

「ずいぶん。」

「遠くまで。」

「音が届いていましたわね。」

「……。」

嫌な予感がした。

また。

俺の番が。

回ってきそうだ。


第122話『右翼』
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2026年08月19日