第13話『初出動』

第13話『初出動』


笑い声が、まだ演習場に残っていた。

その時だった。

リアルダの無線が鳴った。

『――こちら西部方面。』

リアルダが応答する。

「はい、リアルダです。」

数秒。

その表情が変わった。

カンタービレ軍曹がすぐに気付く。

「皆さん。」

「待機なさい。」

隊員たちの動きが止まった。

さっきまで笑っていたブリランテが、トランペットを抱き直す。

アクセントはケースへ手を伸ばす。

スタッカートの表情から笑みが消える。

ペザンテも黙って立ち上がった。

リアルダは無線を切ると、地図を広げた。

「レッド様。」

「西部方面第三区域。」

「不協和音発生です。」

俺も地図を覗き込む。

「場所は?」

「益田市匹見町。」

「山間部の集落です。」

リアルダの指が、一点で止まる。

「地元音響団が住民避難を開始しています。」

「児童数名が、まだ集落内に。」

「危険度、Bランク。」

「えっ?」

誰かの声が漏れた。

空気が変わった。

カンタービレ軍曹が静かに尋ねる。

「上位音術師の救援は?」

リアルダは首を横に振った。

「ありません。」

「現在、全員別方面へ出動中です。」

一瞬。

誰も口を開かなかった。

Bランク。

士官学校で何度も聞いた。

初級音術師や音響士だけで、まともに相手をする敵じゃない。

カンタービレ軍曹が俺を見る。

「隊長。」

「教範では、我々だけでの交戦は禁止されていますわ。」

「ああ。」

俺は地図を見る。

「まず、住民避難。」

「その後の判断は、現地で行う。」

カンタービレ軍曹が頷く。

「承知いたしました。」

そして。

隊員たちへ振り返った。

「総員。」

「出動準備。」

「了解!」

隊員たちはトランペットをケースへ戻すと、一斉に駆け出した。

リアルダも地図を畳む。

「車を回します!」

三台の軍用車に、次々と隊員が乗り込んでいく。

俺も助手席へ入った。

膝の上には。

黒いトランペットケース。

リアルダが前を向く。

「レッド様。」

「行きます。」

「ああ。」

三台の軍用車が。

砂煙を巻き上げて、益田駐屯地を飛び出した。


第14話『町を守る人たち』
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2026年07月04日