第14話『町を守る人たち』

第14話『町を守る人たち』


三台の軍用車が、山道を駆ける。

やがて。

車窓の向こうに、匹見峡の山々が広がった。

深い緑。

初夏の陽射しを浴びた木々が、風に揺れている。

その足元を。

透き通った川が、岩の間を縫うように流れていた。

白く砕ける水。

小さな橋。

遠くから聞こえる鳥の声。

綺麗だった。

これから戦場へ向かうとは。

とても思えないほどに。

その景色の中へ。

ぽつり。

人の姿が現れた。

軽トラック。

自転車。

荷物を抱えた老人。

子どもの手を引く母親。

皆。

山の外へ向かっている。

「避難が始まってます。」

リアルダが前を見たまま言った。

その時。

無線が入る。

『こちら、匹見地区音響団。』

年配の男性の声だった。

『住民避難、およそ七割完了。』

『子どもが三人、まだ集落の奥じゃ。』

『ワシらが誘導しとる。』

リアルダがすぐに応答する。

「こちら第1トランペット遊撃隊。」

「現在、そちらへ向かっています。」

『助かる。』

短い返事。

通信が切れた。

軍用車が橋を渡る。

その向こう。

ホルンを背負った年配の男性が、小さな子どもの手を引いていた。

少し離れて。

クラリネットを持った女性が、老人の背中を支えている。

さらに後ろ。

サックスを肩に掛けた青年が、一人。

山の奥を見ていた。

制服じゃない。

泥のついた作業着。

履き慣れた長靴。

それでも。

手には楽器があった。

「……あの人たちか。」

「はい。」

リアルダが頷く。

「団長さんは、普段は林業をされています。」

「この辺りの山なら、誰より詳しいですよ。」

俺は窓の外から、目を離せなかった。

実戦なら。

一度だけ、経験している。

卒業試験の日。

『お前たち!』

『時間を稼げ!』

フォルテ教官の怒鳴り声が、ふと頭をよぎった。

あの時は。

教官がいた。

コンブリオたちがいた。

俺は。

言われた通り、必死に吹けばよかった。

でも。

今は違う。

窓の外を。

人々が避難していく。

そして。

俺の後ろには。

今日会ったばかりの仲間たちがいる。

胸の奥が。

少しだけ冷たくなった。

(……俺が。)

隊長なんだ。

「敵、動きました。」

リアルダの声で我に返る。

「集落中心部へ向かっています。」

アクセルが踏み込まれた。

エンジン音が高くなる。

誰も喋らない。

窓の外では。

川が変わらず流れ、木々が揺れ。

水面が、陽射しを返していた。


第15話『残して帰れない』
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2026年07月04日