第15話『残して帰れない』

第15話『残して帰れない』


三台の軍用車が、集落の手前で止まった。

「着きました!」

リアルダが車を降りる。

俺も黒いケースを抱えて、外へ出た。

山の奥から。

低く濁った音が聞こえる。

ズゥン……。

「おお!」

声を上げたのは。

橋の向こうで見かけた、ホルンを持った男だった。

「第1トランペット遊撃隊です。」

俺が敬礼する。

「匹見地区音響団じゃ。」

男も軽く頭を下げた。

その時。

リアルダの無線が鳴る。

『こちら避難班。』

『最後の児童三名、収容しました。』

『住民避難、完了です。』

「了解しました!」

リアルダが無線を下ろした。

俺は。

音響団の人たちへ頭を下げる。

「ありがとうございました。」

「皆さんのおかげです。」

団長が笑った。

「なぁに。」

「ワシらの町じゃけぇの。」

カンタービレ軍曹が、一歩前へ出た。

「では。」

「皆様も避難してくださいませ。」

ところが。

団長は動かなかった。

山の奥を見る。

「いや。」

「ワシらは、もう少し残る。」

「え?」

「皆が十分に離れるまで。」

ホルンを持ち上げる。

「少し、時間を稼がんとな。」

クラリネットの女性も。

サックスを持った青年も。

その場を離れようとしない。

ズゥン……。

また。

山が低く鳴った。

俺は団長を見る。

「だったら。」

言葉が自然に出た。

「時間稼ぎは、俺たちがやります。」

団長が俺を見る。

「皆さんは避難してください。」

少しの沈黙。

やがて。

団長が笑った。

「……そうか。」

そして。

後ろにいる仲間たちを見る。

「なら。」

「ワシらは後方支援をさせてもらおう。」

カンタービレ軍曹は。

少し考えてから、息を吐いた。

「……仕方ありませんわね。」

俺を見る。

「隊長。」

「我々の目的は、敵の討伐ではございません。」

「……ああ。」

「リアルダ。」

「はい!」

「住民が安全圏まで離れる時間を計算してくれ。」

「分かりました!」

リアルダが地図を開く。

俺は黒いケースを地面へ置いた。

留め具を外す。

ニューヨークモデルを取り出した。

手のひらに。

ヒンヤリとした感覚が伝わる。

「敵を倒す必要はない。」

みんなを見る。

「ここで止める。」

「できるだけ時間を稼ぐ。」

「了解!」

右翼。

左翼。

みんなが、それぞれの位置へ走った。

「レッド様!」

リアルダが顔を上げる。

「来ます!」

木々の間から。

鳥が一斉に飛び立った。


第16話『ラミア』
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2026年07月04日