第78話『潮時』
第78話『潮時』
波が、岩礁を飲み込んでいく。
さっきまで音を返してくれていた岩は、一つ、また一つと白波の下へ消えた。
ミスミが端末から顔を上げる。
「満潮です。」
リアルダもうなずく。
「レッド様。」
「補正幅が大きくなります。」
「了解。」
俺はベルを握り直した。
◇
「来ます!」
手下たちが一斉に間合いを詰める。
左右へ。
前へ。
波と風を味方につけるように砂浜を駆け抜けた。
「右翼!」
アクセントが一歩踏み出す。
「防弾幕、維持!」
スタッカートも続く。
「抜かせないっス!」
ブリランテの連弾が牽制する。
だが、風が音を押し流す。
音響弾はわずかに逸れ、海へ吸い込まれていった。
「くっ……!」
◇
左翼も踏みとどまる。
「倍音、維持。」
カンタービレ軍曹の声は落ち着いていた。
ソステヌートが静かに音を重ねる。
レガートが支え、ドルチェが防壁を保つ。
グラヴィオーソが岩陰から狙撃する。
「……ちっ。」
わずかに逸れる。
「海が射線を狂わせるわ。」
それでも誰一人、持ち場を離れなかった。
◇
濡れ女は静かに立っている。
海水は生き物のように白いスーツへまとわりつき、不協和音を静かに受け流していた。
その右手が上がる。
無数の不協和音が風に乗る。
砂浜へ雨のように降り注いだ。
「散開!」
俺の声に合わせ、両遊撃隊が身をかわす。
砂が舞う。
波が砕ける。
轟音が海岸を包んだ。
◇
ハマダ軍曹は海を見つめた。
岩礁は、もうほとんど見えない。
小さく息を吐く。
「……ここまで、よく持ちこたえました。」
その声には、長年この海と向き合ってきた重みがあった。
俺は黙ってうなずく。
子どもたちの避難は終わっている。
増援は、まだ来ない。
防衛線は維持している。
だが、このままでは——。
「……撤退も視野に入れる。」
誰も返事をしなかった。
潮風だけが、静かに砂浜を吹き抜ける。
◇
その頃。
少し離れた砂浜では、子どもたちの歓声が響いていた。
「カプちゃーん!」
その声に、カプリッチョが足を止める。
金色の耳が、ぴくりと動いた。
ゆっくりと戦場へ振り向く。
俺たちを見る。
濡れ女たちを見る。
そして、何も言わず、じっと両者を見つめていた。
第79話『神撃のカプリレンジャー』
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