第78話『潮時』

第78話『潮時』


波が、岩礁を飲み込んでいく。

さっきまで音を返してくれていた岩は、一つ、また一つと白波の下へ消えた。

ミスミが端末から顔を上げる。

「満潮です。」

リアルダもうなずく。

「レッド様。」

「補正幅が大きくなります。」

「了解。」

俺はベルを握り直した。



「来ます!」

手下たちが一斉に間合いを詰める。

左右へ。

前へ。

波と風を味方につけるように砂浜を駆け抜けた。

「右翼!」

アクセントが一歩踏み出す。

「防弾幕、維持!」

スタッカートも続く。

「抜かせないっス!」

ブリランテの連弾が牽制する。

だが、風が音を押し流す。

音響弾はわずかに逸れ、海へ吸い込まれていった。

「くっ……!」



左翼も踏みとどまる。

「倍音、維持。」

カンタービレ軍曹の声は落ち着いていた。

ソステヌートが静かに音を重ねる。

レガートが支え、ドルチェが防壁を保つ。

グラヴィオーソが岩陰から狙撃する。

「……ちっ。」

わずかに逸れる。

「海が射線を狂わせるわ。」

それでも誰一人、持ち場を離れなかった。



濡れ女は静かに立っている。

海水は生き物のように白いスーツへまとわりつき、不協和音を静かに受け流していた。

その右手が上がる。

無数の不協和音が風に乗る。

砂浜へ雨のように降り注いだ。

「散開!」

俺の声に合わせ、両遊撃隊が身をかわす。

砂が舞う。

波が砕ける。

轟音が海岸を包んだ。



ハマダ軍曹は海を見つめた。

岩礁は、もうほとんど見えない。

小さく息を吐く。

「……ここまで、よく持ちこたえました。」

その声には、長年この海と向き合ってきた重みがあった。

俺は黙ってうなずく。

子どもたちの避難は終わっている。

増援は、まだ来ない。

防衛線は維持している。

だが、このままでは——。

「……撤退も視野に入れる。」

誰も返事をしなかった。

潮風だけが、静かに砂浜を吹き抜ける。



その頃。

少し離れた砂浜では、子どもたちの歓声が響いていた。

「カプちゃーん!」

その声に、カプリッチョが足を止める。

金色の耳が、ぴくりと動いた。

ゆっくりと戦場へ振り向く。

俺たちを見る。

濡れ女たちを見る。

そして、何も言わず、じっと両者を見つめていた。


第79話『神撃のカプリレンジャー』
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2026年07月14日