第79話『神撃のカプリレンジャー』
第79話『神撃のカプリレンジャー』
「……撤退も視野に入れる。」
俺が小さくつぶやく。
その言葉を聞きながら、濡れ女だけは終始穏やかな表情を崩さなかった。
白い鍔広帽子の下で、その口元がわずかに緩む。
勝負は決した。
そんな笑みに見えた。
その時だった。
ドゴォォォォン!!
戦線のど真ん中で、大地が爆ぜた。
巨大な水柱が立ち上る。
巻き上がる土砂。
轟音が砂浜を揺らした。
「なっ!?」
思わず全員が振り向く。
土煙の向こうから、小さな影がゆっくり歩いてくる。
真っ赤なバスタオルをマントのようになびかせ。
頭には段ボールの王冠。
胸を張り、堂々と歩く。
「神撃の!」
「カプリレンジャー!」
「参上だコン!」
砂浜が静まり返る。
「え。」
俺たちが息をのむ。
「え。」
濡れ女も、この戦いで初めて動揺を見せた。
◇
濡れ女は帽子を取り、その場へ静かに膝をつく。
黒いスーツ姿の手下たちも、一斉にそれに続いた。
「名代様。」
「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。」
深く頭を下げる。
「ここは先祖代々、我々が守ってきた浜でございます。」
「大明神様にも、お認めいただいた土地。」
「本日も、その務めを果たしております。」
砂浜には、波の音だけが響いていた。
◇
カプリッチョは腕を組み、小さくうなった。
「うーん……。」
しばらく考え込む。
やがて顔を上げた。
「違うコン。」
濡れ女がゆっくり顔を上げる。
「今日は。」
「ウチは名代じゃないコン。」
一拍。
胸を張る。
「カプリレンジャーだコン!」
「え?」
濡れ女が固まる。
手下たちも顔を見合わせた。
「ヒーローは。」
「ピンチの方を助けるコン!」
俺たちも。
濡れ女たちも。
思わず同時に顔を見合わせる。
「え。」
「え。」
その理屈は、誰にも分からなかった。
◇
カプリッチョが右手を前へ突き出す。
小さな指先の周りで、大気がゆっくりと圧縮されていく。
空間が陽炎のように揺らぐ。
リアルダが息をのんだ。
「レッド様……。」
「周囲の気圧が急上昇しています。」
俺も思わずベルを下ろした。
「まさか……。」
カプリッチョは満面の笑みを浮かべる。
「必殺!」
「スーパーDX!」
「デコピンだコン!」
――ピン。
軽い音だった。
次の瞬間。
圧縮された高密度の大気が、一気に解き放たれる。
轟音。
暴風が砂浜をえぐり、水しぶきと砂を巻き上げた。
「若頭ぁぁぁぁ!」
「名代様ぁぁぁ!」
「今回は正当なお務めだったんですよぉぉ!」
「勝負には勝ってましたのにぃぃ!」
「報告書を何て書けばいいんですかぁぁ!」
濡れ女も。
黒いスーツ姿の手下たちも。
まとめて空の彼方へ吹き飛んでいく。
やがて六つの影は、小さな星になって消えた。
◇
静まり返った砂浜に、子どもたちの歓声が響く。
「カプリレンジャー!」
「すごーい!」
「かっこいいー!」
カプリッチョは胸を張る。
「どうだコン!」
「ヒーローだコン!」
俺は思わず笑ってしまった。
「……何とかなるさ。」
潮風が吹く。
さっきまで戦場だった砂浜には、子どもたちの笑い声だけが戻っていた。
第80話『渚の意見交換会』
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