第79話『神撃のカプリレンジャー』

第79話『神撃のカプリレンジャー』


「……撤退も視野に入れる。」

俺が小さくつぶやく。

その言葉を聞きながら、濡れ女だけは終始穏やかな表情を崩さなかった。

白い鍔広帽子の下で、その口元がわずかに緩む。

勝負は決した。

そんな笑みに見えた。

その時だった。

ドゴォォォォン!!

戦線のど真ん中で、大地が爆ぜた。

巨大な水柱が立ち上る。

巻き上がる土砂。

轟音が砂浜を揺らした。

「なっ!?」

思わず全員が振り向く。

土煙の向こうから、小さな影がゆっくり歩いてくる。

真っ赤なバスタオルをマントのようになびかせ。

頭には段ボールの王冠。

胸を張り、堂々と歩く。

「神撃の!」

「カプリレンジャー!」

「参上だコン!」

砂浜が静まり返る。

「え。」

俺たちが息をのむ。

「え。」

濡れ女も、この戦いで初めて動揺を見せた。



濡れ女は帽子を取り、その場へ静かに膝をつく。

黒いスーツ姿の手下たちも、一斉にそれに続いた。

「名代様。」

「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。」

深く頭を下げる。

「ここは先祖代々、我々が守ってきた浜でございます。」

「大明神様にも、お認めいただいた土地。」

「本日も、その務めを果たしております。」

砂浜には、波の音だけが響いていた。



カプリッチョは腕を組み、小さくうなった。

「うーん……。」

しばらく考え込む。

やがて顔を上げた。

「違うコン。」

濡れ女がゆっくり顔を上げる。

「今日は。」

「ウチは名代じゃないコン。」

一拍。

胸を張る。

「カプリレンジャーだコン!」

「え?」

濡れ女が固まる。

手下たちも顔を見合わせた。

「ヒーローは。」

「ピンチの方を助けるコン!」

俺たちも。

濡れ女たちも。

思わず同時に顔を見合わせる。

「え。」

「え。」

その理屈は、誰にも分からなかった。



カプリッチョが右手を前へ突き出す。

小さな指先の周りで、大気がゆっくりと圧縮されていく。

空間が陽炎のように揺らぐ。

リアルダが息をのんだ。

「レッド様……。」

「周囲の気圧が急上昇しています。」

俺も思わずベルを下ろした。

「まさか……。」

カプリッチョは満面の笑みを浮かべる。

「必殺!」

「スーパーDX!」

「デコピンだコン!」

――ピン。

軽い音だった。

次の瞬間。

圧縮された高密度の大気が、一気に解き放たれる。

轟音。

暴風が砂浜をえぐり、水しぶきと砂を巻き上げた。

「若頭ぁぁぁぁ!」

「名代様ぁぁぁ!」

「今回は正当なお務めだったんですよぉぉ!」

「勝負には勝ってましたのにぃぃ!」

「報告書を何て書けばいいんですかぁぁ!」

濡れ女も。

黒いスーツ姿の手下たちも。

まとめて空の彼方へ吹き飛んでいく。

やがて六つの影は、小さな星になって消えた。



静まり返った砂浜に、子どもたちの歓声が響く。

「カプリレンジャー!」

「すごーい!」

「かっこいいー!」

カプリッチョは胸を張る。

「どうだコン!」

「ヒーローだコン!」

俺は思わず笑ってしまった。

「……何とかなるさ。」

潮風が吹く。

さっきまで戦場だった砂浜には、子どもたちの笑い声だけが戻っていた。


第80話『渚の意見交換会』
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2026年07月14日