第105話『譲れないもの』

第105話『譲れないもの』


『MANパンマンのマーチ』が。

真夏の空へ響いていた。

俺はその演奏を背に。

右翼へ戻る。

第4トランペット遊撃隊。

今日。

俺が預かる部隊だ。

「レッド隊長!」

ひときわ大きな声。

振り返る。

「見事な演説でしたな!」

大柄な男が。

右手を差し出してきた。

第4遊撃隊副官。

オオタケ。

握る。

「ありがとう。」

ぐっ。

「……。」

強い。

手まで熱い。

ずいぶん。

暑苦しい副官らしい。

◇

その後ろでは。

第4遊撃隊の隊員たちが。

すでにトランペットを構えていた。

リアルダが。

辺りを見回す。

「レッド様……。」

「どうした。」

「ここのトランペット使い。」

「皆様、音術師です……。」

「そうなのか。」

山陰では。

音術師に音響士と

同じ隊で戦う。

でも。

広島は違うらしい。

オオタケが豪快に笑った。

「アハハ!」

「それでも。」

笑顔が少しだけ消える。

「今回は。」

「皆、不安でした。」

俺を見る。

リアルダ。

ドルチェ。

「山陰の皆様が来られるまでは。」

ドルチェが。

小さくため息をついた。

「まあ。」

「買いかぶりすぎですわ。」

「違いない。」

俺も苦笑する。

「俺たちは。」

敵陣へ目を向ける。

「コン・ブリオの指示通り。」

「やるだけだ。」

◇

正面。

悪のみなさん連合左翼。

山ンバ率いる第2軍団。

こちらより。

明らかに数が多い。

でも。

まだ動かない。

こっちにも。

命令は来ていない。

俺はトランペットを構えた。

「第4遊撃隊。」

一拍。

「右翼で待機。」

オオタケが復唱する。

「第4遊撃隊!」

「右翼待機!」

『了解!』

リアルダが端末を開く。

「敵左翼の音場。」

「解析を開始します。」

ドルチェも。

静かにベルを上げた。

「防壁は。」

「わたくしにお任せくださいませ。」

「ああ。」

敵を見る。

「なんとかなるさ。」

◇

一方。

悪のみなさん連合左翼。

山ンバ軍。

そこでは。

少し違う騒ぎが起きていた。

「山ンバ様!」

山童が。

息を切らして駆けてくる。

「大変じゃ!」

「何じゃ!」

「依り代の童らが!」

指さす。

子どもたちが。

遠くから聞こえる演奏へ。

耳を傾けていた。

一人が。

口ずさむ。

もう一人が。

身体を揺らす。

小さな手が。

防衛隊のほうへ伸びる。

『MANパンマンのマーチ』。

悪のみなさんを包む力が。

わずかに揺らいだ。

山ンバの眉が動く。

「慌てるな!」

杖を上げた。

「菓子を配れ!」

山童たちが。

一斉に袋を抱える。

「甘いのと。」

「しょっぱいのを交互じゃ!」

「飲み物も忘れるな!」

河童兵から借りた水筒まで。

次々と配られていく。

「はい!」

「これ食べんさい!」

「ジュースもあるで!」

子どもたちの周りだけ。

妙に楽しそうだった。

◇

それでも。

演奏は止まらない。

山ンバは。

遠くの防衛隊を睨んだ。

「……気に入らん。」

杖が。

地面を叩く。

「えすでぃーじーずだの。」

「環境保全だの。」

「綺麗な言葉ばかり並べおって。」

山童たちが。

山ンバを見る。

「山を削って。」

「森の者を追い出して。」

「最後には。」

「守っとるつもりになる。」

老婆妖が。

静かに続けた。

「守ると言いながら。」

「壊す。」

「残すと言いながら。」

「奪う。」

山犬の妖。

木霊。

岩石鬼。

皆。

黙って聞いている。

山ンバは。

杖を強く握った。

「じゃけぇ。」

「人間に。」

「分かってもらおうとは思わん。」

防衛隊を見る。

「うちらの故郷は。」

一拍。

「うちらが守る!」

『おおおおおお――っ!!』

第2軍団の声が。

公園を揺らした。

その向こうから。

『MANパンマンのマーチ』が聞こえる。

どちらも。

譲るつもりはない。

俺たちは。

街を守る。

あいつらは。

故郷を守る。

そして。

その間で。

子どもたちが。

まだ音楽を口ずさんでいた。


第106話『沈む中央』
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2026年08月18日