第105話『譲れないもの』

第105話『譲れないもの』


『MANパンマンのマーチ』が。

真夏の空へ響いていた。

俺はその演奏を背に。

右翼へ戻る。

第4トランペット遊撃隊。

今日。

俺が預かる部隊だ。

「レッド隊長!」

ひときわ大きな声。

振り返る。

「見事な演説でしたな!」

大柄な男が。

右手を差し出してきた。

第4遊撃隊副官。

オオタケ。

握る。

「ありがとう。」

ぐっ。

「……。」

強い。

手まで熱い。

ずいぶん。

暑苦しい副官らしい。



その後ろでは。

第4遊撃隊の隊員たちが。

すでにトランペットを構えていた。

リアルダが。

辺りを見回す。

「レッド様……。」

「どうした。」

「ここのトランペット使い。」

「皆様、音術師です……。」

「そうなのか。」

山陰では。

音術師に音響士と

同じ隊で戦う。

でも。

広島は違うらしい。

オオタケが豪快に笑った。

「アハハ!」

「それでも。」

笑顔が少しだけ消える。

「今回は。」

「皆、不安でした。」

俺を見る。

リアルダ。

ドルチェ。

「山陰の皆様が来られるまでは。」

ドルチェが。

小さくため息をついた。

「まあ。」

「買いかぶりすぎですわ。」

「違いない。」

俺も苦笑する。

「俺たちは。」

敵陣へ目を向ける。

「コン・ブリオの指示通り。」

「やるだけだ。」



正面。

悪のみなさん連合左翼。

山ンバ率いる第2軍団。

こちらより。

明らかに数が多い。

でも。

まだ動かない。

こっちにも。

命令は来ていない。

俺はトランペットを構えた。

「第4遊撃隊。」

一拍。

「右翼で待機。」

オオタケが復唱する。

「第4遊撃隊!」

「右翼待機!」

『了解!』

リアルダが端末を開く。

「敵左翼の音場。」

「解析を開始します。」

ドルチェも。

静かにベルを上げた。

「防壁は。」

「わたくしにお任せくださいませ。」

「ああ。」

敵を見る。

「なんとかなるさ。」



一方。

悪のみなさん連合左翼。

山ンバ軍。

そこでは。

少し違う騒ぎが起きていた。

「山ンバ様!」

山童が。

息を切らして駆けてくる。

「大変じゃ!」

「何じゃ!」

「依り代の童らが!」

指さす。

子どもたちが。

遠くから聞こえる演奏へ。

耳を傾けていた。

一人が。

口ずさむ。

もう一人が。

身体を揺らす。

小さな手が。

防衛隊のほうへ伸びる。

『MANパンマンのマーチ』。

悪のみなさんを包む力が。

わずかに揺らいだ。

山ンバの眉が動く。

「慌てるな!」

杖を上げた。

「菓子を配れ!」

山童たちが。

一斉に袋を抱える。

「甘いのと。」

「しょっぱいのを交互じゃ!」

「飲み物も忘れるな!」

河童兵から借りた水筒まで。

次々と配られていく。

「はい!」

「これ食べんさい!」

「ジュースもあるで!」

子どもたちの周りだけ。

妙に楽しそうだった。



それでも。

演奏は止まらない。

山ンバは。

遠くの防衛隊を睨んだ。

「……気に入らん。」

杖が。

地面を叩く。

「えすでぃーじーずだの。」

「環境保全だの。」

「綺麗な言葉ばかり並べおって。」

山童たちが。

山ンバを見る。

「山を削って。」

「森の者を追い出して。」

「最後には。」

「守っとるつもりになる。」

老婆妖が。

静かに続けた。

「守ると言いながら。」

「壊す。」

「残すと言いながら。」

「奪う。」

山犬の妖。

木霊。

岩石鬼。

皆。

黙って聞いている。

山ンバは。

杖を強く握った。

「じゃけぇ。」

「人間に。」

「分かってもらおうとは思わん。」

防衛隊を見る。

「うちらの故郷は。」

一拍。

「うちらが守る!」

『おおおおおお――っ!!』

第2軍団の声が。

公園を揺らした。

その向こうから。

『MANパンマンのマーチ』が聞こえる。

どちらも。

譲るつもりはない。

俺たちは。

街を守る。

あいつらは。

故郷を守る。

そして。

その間で。

子どもたちが。

まだ音楽を口ずさんでいた。


第106話『沈む中央』
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/posts/blog404.html

ウルセンジャー小説ガイド
https://www.c-able.ne.jp/~y-info/contact1.html

2026年08月18日