第106話『沈む中央』

第106話『沈む中央』


右翼。

第4トランペット遊撃隊。

俺たちは。

まだ動かない。

正面には。

山ンバ率いる敵左翼、第2軍団。

向こうも。

こちらを見たまま。

動かなかった。

「第4遊撃隊!」

オオタケの声が飛ぶ。

「待機継続!」

『了解!』

俺は。

戦場の中央へ目を向けた。

防衛隊中央。

ホルン。

ユーフォニアム。

トロンボーン。

重奏歩兵隊が。

左右より大きく前へ出ている。

そのさらに前。

フルートとクラリネットの散兵部隊。

中央だけが。

妙に敵へ近い。

「……。」

やっぱり。

変な陣形だ。



悪のみなさん連合右翼。

河太郎も。

同じものを見ていた。

「中央が。」

「前へ出とるの。」

部下が身を乗り出す。

「お頭。」

「今なら――」

「待て。」

河太郎が制した。

そして。

正面の防衛隊左翼を見る。

「第一軍団は待機じゃ。」

「目の前の遊撃隊から。」

「目を離すな。」



敵左翼。

山ンバも。

杖を肩へ担いだまま。

前に膨らんだ防衛隊中央を睨んでいる。

「いかにも。」

「来いと言わんばかりじゃ。」

山童が尋ねる。

「なら。」

「行きますか?」

「行かん。」

即答だった。

「まずは。」

「中央のお手並み拝見じゃ。」



悪のみなさん連合中央。

瀬戸坊だけが。

ゆっくり前へ出た。

「誘いか。」

「罠か。」

しばらく。

防衛隊の陣を見る。

「……どちらでも。」

「戦力はこちらが上です。」

右手を上げた。

「第3軍団。」

「ゆっくり前進。」

「防御弾幕を忘れないように。」

不協和音が重なる。

敵中央の前に。

分厚い防壁が広がった。

そして。

瀬戸坊軍だけが。

静かに動き始めた。



防衛隊後方。

コン・ブリオが。

指揮台から戦場を見ている。

「両翼は。」

「そのまま待機してください。」

すぐに通信が入る。

『第3、第4トランペット遊撃隊。現在位置を維持してください』

リアルダが復唱した。

「第4遊撃隊。」

「待機継続です。」

「ああ。」

俺は中央を見る。

瀬戸坊軍が。

散兵との距離を詰めていく。

コン・ブリオの右手が下りた。

『散兵。放ってください』

次の瞬間。

フルート。

クラリネット。

鋭い音が。

戦場を切り裂いた。

無数の音響弾。

敵中央へ降り注ぐ。

「防壁!」

不協和音の膜へ。

次々と突き刺さる。

数発が抜けた。

前列の怪人が倒れる。

それでも。

瀬戸坊軍は止まらない。



ドンッ――!!

今度は。

後方から。

重い打楽器の音圧。

防衛隊全体を。

巨大な防御弾幕が包んだ。

敵の音響弾が。

次々とぶつかる。

ドンッ!

ドドンッ!

弾幕が揺れる。

でも。

破れない。

両軍の距離が縮まる。

あと少し。

その時。

「散開!」

防衛隊の散兵が。

一斉に左右へ走った。

中央が開く。

そこへ。

瀬戸坊軍が入り込んだ。

その正面。

待っていたのは。

重奏歩兵隊。

「構え!」

太い和音。

敵の不協和音と。

真正面からぶつかった。

ドンッ!!

防壁が大きく揺れる。

「押せ!」

敵中央から。

さらに音響弾。

防衛隊前列の隊員が倒れた。

すぐ。

後ろから救護班が走る。

倒れた者を下げる。

その穴へ。

次の隊員が入る。

列は。

崩れない。

でも。

少しずつ。

下がっていた。



リアルダが。

端末を見る。

「敵中央。」

「前進を継続。」

少し間を置く。

「防衛隊中央。」

「……後退しています。」

俺は。

眉をひそめた。

張り出していた中央が。

少しずつ。

へこんでいく。

その分。

敵が。

こちらの中へ入ってくる。

「……下がりすぎじゃないか。」

今なら。

右翼から援護できる。

そう思った瞬間。

通信。

『両翼は、そのまま待機してください』

まただ。

コン・ブリオの声は。

相変わらず穏やかだった。

「まだ待つのか……。」

中央が。

さらに下がる。

瀬戸坊軍が。

さらに入る。

リアルダが顔を上げた。

「レッド様。」

「敵中央。」

「かなり深いです。」

「ああ。」

分かってる。

俺は。

コン・ブリオを信じると言った。

自分で。

みんなにも言った。

でも。

中央を抜かれれば。

防衛隊は。

真っ二つだ。

俺は。

トランペットを強く握った。

「……負ける。」

口から。

勝手に出た。



遥か後方。

コン・ブリオは。

まだ動かない。

大きくへこんでいく中央。

その奥へ。

奥へ。

入り込んでくる瀬戸坊軍。

ただ。

静かに。

見ていた。


第107話『勝勢』
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2026年08月18日