第106話『沈む中央』
第106話『沈む中央』
右翼。
第4トランペット遊撃隊。
俺たちは。
まだ動かない。
正面には。
山ンバ率いる敵左翼、第2軍団。
向こうも。
こちらを見たまま。
動かなかった。
「第4遊撃隊!」
オオタケの声が飛ぶ。
「待機継続!」
『了解!』
俺は。
戦場の中央へ目を向けた。
防衛隊中央。
ホルン。
ユーフォニアム。
トロンボーン。
重奏歩兵隊が。
左右より大きく前へ出ている。
そのさらに前。
フルートとクラリネットの散兵部隊。
中央だけが。
妙に敵へ近い。
「……。」
やっぱり。
変な陣形だ。
◇
悪のみなさん連合右翼。
河太郎も。
同じものを見ていた。
「中央が。」
「前へ出とるの。」
部下が身を乗り出す。
「お頭。」
「今なら――」
「待て。」
河太郎が制した。
そして。
正面の防衛隊左翼を見る。
「第一軍団は待機じゃ。」
「目の前の遊撃隊から。」
「目を離すな。」
◇
敵左翼。
山ンバも。
杖を肩へ担いだまま。
前に膨らんだ防衛隊中央を睨んでいる。
「いかにも。」
「来いと言わんばかりじゃ。」
山童が尋ねる。
「なら。」
「行きますか?」
「行かん。」
即答だった。
「まずは。」
「中央のお手並み拝見じゃ。」
◇
悪のみなさん連合中央。
瀬戸坊だけが。
ゆっくり前へ出た。
「誘いか。」
「罠か。」
しばらく。
防衛隊の陣を見る。
「……どちらでも。」
「戦力はこちらが上です。」
右手を上げた。
「第3軍団。」
「ゆっくり前進。」
「防御弾幕を忘れないように。」
不協和音が重なる。
敵中央の前に。
分厚い防壁が広がった。
そして。
瀬戸坊軍だけが。
静かに動き始めた。
◇
防衛隊後方。
コン・ブリオが。
指揮台から戦場を見ている。
「両翼は。」
「そのまま待機してください。」
すぐに通信が入る。
『第3、第4トランペット遊撃隊。現在位置を維持してください』
リアルダが復唱した。
「第4遊撃隊。」
「待機継続です。」
「ああ。」
俺は中央を見る。
瀬戸坊軍が。
散兵との距離を詰めていく。
コン・ブリオの右手が下りた。
『散兵。放ってください』
次の瞬間。
フルート。
クラリネット。
鋭い音が。
戦場を切り裂いた。
無数の音響弾。
敵中央へ降り注ぐ。
「防壁!」
不協和音の膜へ。
次々と突き刺さる。
数発が抜けた。
前列の怪人が倒れる。
それでも。
瀬戸坊軍は止まらない。
◇
ドンッ――!!
今度は。
後方から。
重い打楽器の音圧。
防衛隊全体を。
巨大な防御弾幕が包んだ。
敵の音響弾が。
次々とぶつかる。
ドンッ!
ドドンッ!
弾幕が揺れる。
でも。
破れない。
両軍の距離が縮まる。
あと少し。
その時。
「散開!」
防衛隊の散兵が。
一斉に左右へ走った。
中央が開く。
そこへ。
瀬戸坊軍が入り込んだ。
その正面。
待っていたのは。
重奏歩兵隊。
「構え!」
太い和音。
敵の不協和音と。
真正面からぶつかった。
ドンッ!!
防壁が大きく揺れる。
「押せ!」
敵中央から。
さらに音響弾。
防衛隊前列の隊員が倒れた。
すぐ。
後ろから救護班が走る。
倒れた者を下げる。
その穴へ。
次の隊員が入る。
列は。
崩れない。
でも。
少しずつ。
下がっていた。
◇
リアルダが。
端末を見る。
「敵中央。」
「前進を継続。」
少し間を置く。
「防衛隊中央。」
「……後退しています。」
俺は。
眉をひそめた。
張り出していた中央が。
少しずつ。
へこんでいく。
その分。
敵が。
こちらの中へ入ってくる。
「……下がりすぎじゃないか。」
今なら。
右翼から援護できる。
そう思った瞬間。
通信。
『両翼は、そのまま待機してください』
まただ。
コン・ブリオの声は。
相変わらず穏やかだった。
「まだ待つのか……。」
中央が。
さらに下がる。
瀬戸坊軍が。
さらに入る。
リアルダが顔を上げた。
「レッド様。」
「敵中央。」
「かなり深いです。」
「ああ。」
分かってる。
俺は。
コン・ブリオを信じると言った。
自分で。
みんなにも言った。
でも。
中央を抜かれれば。
防衛隊は。
真っ二つだ。
俺は。
トランペットを強く握った。
「……負ける。」
口から。
勝手に出た。
◇
遥か後方。
コン・ブリオは。
まだ動かない。
大きくへこんでいく中央。
その奥へ。
奥へ。
入り込んでくる瀬戸坊軍。
ただ。
静かに。
見ていた。
第107話『勝勢』
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