第107話『勝勢』
第107話『勝勢』
悪のみなさん連合右翼。
河太郎率いる第1軍団。
まだ。
動かない。
遠く中央では。
瀬戸坊軍が。
防衛隊を押し込み続けている。
「お頭!」
部下が声を上げた。
「中央軍。」
「優勢です!」
「どんどん押し込んどります!」
別の者も続く。
「俺らも。」
「中央へ行きましょうや!」
河太郎は。
正面を見たまま。
動かなかった。
そこには。
防衛隊左翼。
トランペット遊撃隊。
「待て。」
「え?」
「目の前を見ろ。」
河太郎が。
杖を握り直す。
「わしらが中央へ出れば。」
「横から食いつかれる。」
「中央は。」
一拍。
「瀬戸坊に任せる。」
「第一軍団。」
「待機じゃ。」
◇
悪のみなさん連合左翼。
山ンバ軍。
こちらでも。
同じような声が上がっていた。
「山ンバ様!」
「中央軍。」
「押しております!」
「こりゃ。」
「わしらの出番はないかもしれませんな!」
笑い声。
でも。
山ンバだけは。
笑わなかった。
中央。
深く入り込む瀬戸坊軍。
その向こう。
下がり続ける防衛隊。
そして。
自分たちの正面で。
まだ動かない。
防衛隊右翼。
第4トランペット遊撃隊。
山ンバが。
鼻を鳴らした。
「……匂う。」
「え?」
「何か。」
「匂うぞ。」
杖を握る手へ。
少しだけ。
力が入った。
◇
広島平和野外音楽堂公園を。
一望できる高台。
木陰には。
シートが敷かれていた。
二人の子どもが。
お菓子を頬張っている。
「お姉ちゃん。」
「これ美味しいー♪」
「まあ。」
「それは良かったですわ。」
アラクネが。
柔らかく笑う。
そのそばでは。
二人の子どもの母親が。
何度も頭を下げていた。
「本当に。」
「ありがとうございます。」
「お気になさらず。」
アラクネは。
何事もないように答えた。
少し離れたところ。
メリッサが。
声を落とす。
「アラクネ様。」
「連合軍から。」
「依り代を連れてくるなんて……。」
カリストスも苦笑した。
「強奪では?」
「人聞きが悪いわね。」
アラクネが。
二人を見る。
「保護よ。」
「保護。」
「……。」
「ほら。」
子どもたちを見る。
「感謝されてるでしょう?」
メリッサとカリストスは。
黙った。
◇
「戦いが終わるまで。」
アラクネが。
母親へ微笑む。
「ここにいるのが安全ですわ。」
メリッサも。
お菓子の袋を持ち上げる。
「まだありますからね。」
カリストスは。
おもちゃを見せた。
「こっちもあるゾー♪」
「わーい!」
子どもたちの声。
母親が。
また頭を下げる。
アラクネは。
少しだけ困ったように笑った。
◇
やがて。
双眼鏡を手に取る。
「さて。」
戦場へ向けた。
中央。
瀬戸坊軍が。
防衛隊の奥へ。
さらに入り込んでいる。
メリッサが尋ねる。
「戦況は?」
「連合軍が優勢。」
アラクネは。
双眼鏡を覗いたまま答えた。
「数も。」
「戦力も。」
「上ですもの。」
カリストスが。
中央を見る。
「上級使いが不在という話も。」
「本当だったようですね。」
メリッサが頷く。
「だから。」
「連合軍も。」
「この規模のレギオンを仕掛けた。」
カリストスが。
首を傾げる。
「防衛隊の指揮官は。」
少し考える。
「正義感が強いのか。」
一拍。
「馬鹿なのか。」
「それとも。」
メリッサが。
戦場を見つめた。
「勝算があるのか。」
◇
アラクネは。
答えない。
中央。
深く押し込まれる防衛隊。
その左右。
動かない。
二つのトランペット遊撃隊。
しばらく。
何も言わず見ていた。
そして。
小さく息を吐く。
「どちらにしても。」
双眼鏡を少し下げた。
「このままなら。」
一拍。
「防衛隊が負けるわ。」
その声には。
まだ。
確信があった。
第108話『潮目』
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