第107話『勝勢』

第107話『勝勢』


悪のみなさん連合右翼。

河太郎率いる第1軍団。

まだ。

動かない。

遠く中央では。

瀬戸坊軍が。

防衛隊を押し込み続けている。

「お頭!」

部下が声を上げた。

「中央軍。」

「優勢です!」

「どんどん押し込んどります!」

別の者も続く。

「俺らも。」

「中央へ行きましょうや!」

河太郎は。

正面を見たまま。

動かなかった。

そこには。

防衛隊左翼。

トランペット遊撃隊。

「待て。」

「え?」

「目の前を見ろ。」

河太郎が。

杖を握り直す。

「わしらが中央へ出れば。」

「横から食いつかれる。」

「中央は。」

一拍。

「瀬戸坊に任せる。」

「第一軍団。」

「待機じゃ。」



悪のみなさん連合左翼。

山ンバ軍。

こちらでも。

同じような声が上がっていた。

「山ンバ様!」

「中央軍。」

「押しております!」

「こりゃ。」

「わしらの出番はないかもしれませんな!」

笑い声。

でも。

山ンバだけは。

笑わなかった。

中央。

深く入り込む瀬戸坊軍。

その向こう。

下がり続ける防衛隊。

そして。

自分たちの正面で。

まだ動かない。

防衛隊右翼。

第4トランペット遊撃隊。

山ンバが。

鼻を鳴らした。

「……匂う。」

「え?」

「何か。」

「匂うぞ。」

杖を握る手へ。

少しだけ。

力が入った。



広島平和野外音楽堂公園を。

一望できる高台。

木陰には。

シートが敷かれていた。

二人の子どもが。

お菓子を頬張っている。

「お姉ちゃん。」

「これ美味しいー♪」

「まあ。」

「それは良かったですわ。」

アラクネが。

柔らかく笑う。

そのそばでは。

二人の子どもの母親が。

何度も頭を下げていた。

「本当に。」

「ありがとうございます。」

「お気になさらず。」

アラクネは。

何事もないように答えた。

少し離れたところ。

メリッサが。

声を落とす。

「アラクネ様。」

「連合軍から。」

「依り代を連れてくるなんて……。」

カリストスも苦笑した。

「強奪では?」

「人聞きが悪いわね。」

アラクネが。

二人を見る。

「保護よ。」

「保護。」

「……。」

「ほら。」

子どもたちを見る。

「感謝されてるでしょう?」

メリッサとカリストスは。

黙った。



「戦いが終わるまで。」

アラクネが。

母親へ微笑む。

「ここにいるのが安全ですわ。」

メリッサも。

お菓子の袋を持ち上げる。

「まだありますからね。」

カリストスは。

おもちゃを見せた。

「こっちもあるゾー♪」

「わーい!」

子どもたちの声。

母親が。

また頭を下げる。

アラクネは。

少しだけ困ったように笑った。



やがて。

双眼鏡を手に取る。

「さて。」

戦場へ向けた。

中央。

瀬戸坊軍が。

防衛隊の奥へ。

さらに入り込んでいる。

メリッサが尋ねる。

「戦況は?」

「連合軍が優勢。」

アラクネは。

双眼鏡を覗いたまま答えた。

「数も。」

「戦力も。」

「上ですもの。」

カリストスが。

中央を見る。

「上級使いが不在という話も。」

「本当だったようですね。」

メリッサが頷く。

「だから。」

「連合軍も。」

「この規模のレギオンを仕掛けた。」

カリストスが。

首を傾げる。

「防衛隊の指揮官は。」

少し考える。

「正義感が強いのか。」

一拍。

「馬鹿なのか。」

「それとも。」

メリッサが。

戦場を見つめた。

「勝算があるのか。」



アラクネは。

答えない。

中央。

深く押し込まれる防衛隊。

その左右。

動かない。

二つのトランペット遊撃隊。

しばらく。

何も言わず見ていた。

そして。

小さく息を吐く。

「どちらにしても。」

双眼鏡を少し下げた。

「このままなら。」

一拍。

「防衛隊が負けるわ。」

その声には。

まだ。

確信があった。


第108話『潮目』
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2026年08月18日