第108話『潮目』
第108話『潮目』
悪のみなさん連合右翼。
河太郎は。
大きくへこんだ防衛隊中央と。
目の前の防衛隊左翼を。
交互に見ていた。
中央では。
瀬戸坊軍が。
まだ押している。
その時。
「お頭ー!」
水虎が。
慌てて駆けてきた。
「大変です!」
「何をせいておる。」
「小瀬川!」
「可愛川!」
「八幡川の衆が!」
息を整える。
「中央へ、なだれ込み始めました!」
河太郎の表情が変わった。
「……そうか。」
すぐに。
三人の頭目がやって来る。
小瀬川の頭目が。
深く頭を下げた。
「太田川の。」
「すまん。」
「若いもんが。」
「言うことを聞かんのんじゃ。」
可愛川の頭目も続く。
「中央が勝っとるのを見て。」
「制止を振り切ってしもうた。」
八幡川の頭目も。
頭を下げた。
「残った者で。」
「右翼は支えるけぇ。」
「堪忍してくれ。」
河太郎は。
しばらく三人を見ていた。
やがて。
小さく息を吐く。
「……もともと。」
「わしの頼みで。」
「集まってもろうたんじゃ。」
三人が顔を上げる。
「来てくれただけで。」
「十分じゃ。」
河太郎は。
中央へ向かう兵たちを見る。
「無理だけは。」
「せんように伝えてくれ。」
三人の頭目が。
静かに頭を下げた。
◇
悪のみなさん連合左翼。
こちらでも。
同じことが起きていた。
白木山の頭目が。
山ンバの前へ出る。
「山ンバ様。」
「すまんが。」
「わしら。」
「中央へ加勢してくる。」
武田山の頭目も。
頷く。
「このまま。」
「見とるだけじゃ。」
「戦が終わってしまうけぇの。」
鈴ヶ峰の頭目が笑った。
「左翼が危のうなったら。」
「すぐ戻る。」
「山ンバ様!」
山童も声を上げる。
「わしらがおるけぇ!」
「左翼は大丈夫じゃ!」
山ンバが。
ゆっくり山童を見る。
「山童。」
「はい!」
「楽観するな。」
「……はい。」
山ンバは。
中央へ向かおうとする頭目たちを見る。
「こうして。」
「目の前から兵が抜けていく。」
杖を握る。
「今は大丈夫でも。」
「その先は。」
「誰にも分からん。」
少しの沈黙。
「お主ら。」
「無理はするな。」
「命があるうちに。」
「戻ってきんさい。」
三人が。
深く頭を下げた。
「ハハッ!」
「山ンバ様も。」
「ご武運を!」
それぞれの軍勢が。
中央へ向かっていく。
山ンバは。
その背中を。
黙って見送った。
◇
防衛隊後方本隊。
そこは。
戦場だった。
「テナーを第二トロンボーンへ!」
混成サックス遊撃隊長。
ハツカイチの声が飛ぶ。
「本隊まで。」
「お客さんを挨拶に来させるな!」
「了解!」
情報武官が駆け込む。
「第一ホルン隊から!」
「増援要請です!」
「あいつらはまだできる!」
「放っとけ!」
「了解!」
救護班の声。
「こちらへ!」
「ベッド、まだ空いてます!」
音響弾。
怒号。
通信。
足音。
砂ぼこり。
空いた穴へ。
予備隊の混成サックス遊撃隊が走る。
また別の穴へ。
走る。
中央は。
もう。
ぎりぎりだった。
◇
その中心で。
コン・ブリオだけが。
静かに戦場を見ていた。
「軍団長!」
情報武官が。
端末を抱えて駆けてくる。
「敵右翼!」
「敵左翼!」
「両方から、一部の兵が中央へ流れ始めました!」
息を切らす。
「このままでは――」
「ふふっ。」
情報武官の言葉が止まった。
「……軍団長?」
コン・ブリオは。
中央を見たまま。
小さく笑った。
「波が。」
一拍。
「起きましたね。」
◇
敵中央。
瀬戸坊軍。
その左右へ。
別の軍勢が。
次々と流れ込んでいく。
河太郎の右翼から。
山ンバの左翼から。
少しずつ。
少しずつ。
兵が離れていく。
コン・ブリオが。
右手を上げた。
周囲の情報武官たちが。
一斉に端末を構える。
「さて。」
穏やかな声。
「この波を。」
少し間を置く。
「どこまで。」
「大きく返せるでしょうね。」
右手が。
静かに下りた。
◇
右翼。
俺の通信機が鳴った。
リアルダが。
すぐに顔を上げる。
「レッド様。」
「命令です。」
俺は。
トランペットを握り直した。
長かった。
本当に。
長かった。
「やっとか。」
正面。
山ンバ軍。
その陣から。
さっきより。
明らかに兵が減っている。
俺は。
ベルを上げた。
戦場の空気が。
変わった。
第109話『一音』
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