第87話『届く場所』
第87話『届く場所』
鍾乳洞のあちこちから、乾いた音が響く。
遊撃隊による試射。
一本。
また一本。
岩肌へ当たった音は、幾重にも反響し、地下湖を渡って消えていく。
◇
「右翼、第四測定点ですわ。」
カンタービレ軍曹の声が通信へ流れる。
「アクセント。」
『反響、大きいっス!』
「スタッカート。」
『左側、異常なしっス!』
「ペザンテ。」
『……中央、異常なし。』
「ブリランテ。」
『上段、良好です!』
反対側からも報告が続く。
「ソステヌート。」
『第一測定点、完了。』
「レガート。」
『第二測定点、異常ありません。』
「エネルジコ。」
『第三測定点、終了!』
「ドルチェ。」
『第四測定点、終わりました~。』
「グラヴィオーソ。」
『狙撃位置、確保。』
十二人が鍾乳洞全体へ散開し、音を刻んでいく。
カンタービレ軍曹は冷静に采配を振るう。
リアルダは一言も発しない。
端末へ映る数値だけを見つめていた。
◇
グラン閣下とミズチの攻防は続く。
地下湖の水が槍となり襲い掛かる。
「フンっ!」
重低音が秋芳洞を震わせる。
水槍は砕け散る。
だが次の瞬間。
岩壁が唸りを上げた。
鍾乳石が震え、水滴が舞う。
秋芳洞そのものが、ミズチの力だった。
◇
「閣下!」
思わず声が漏れる。
グラン閣下が、ほんの半歩だけ押し返される。
ミズチは静かに笑った。
「相変わらず口数の少ない女じゃの。」
「昔から、答えは音で返してきおる。」
グラン閣下は答えない。
「フンっ。」
短い重低音だけが洞窟へ響く。
◇
リアルダは端末を見つめたまま、小さく首を振る。
「違います……。」
「ここでもありません。」
その時だった。
グラン閣下が、ほんの半歩だけ踏み込む。
ミズチも自然と、その位置を追う。
リアルダの目が大きく見開かれた。
「……そういうことですか。」
端末へ一本の反響線が浮かび上がる。
「最初から……。」
「ここへ誘導していたんですね。」
俺には、まだ何のことか分からなかった。
◇
その時だった。
ミズチがゆっくりと俺へ顔を向ける。
「坊や。」
「お前も音術師じゃったな。」
嫌な予感が走る。
地下湖が大きくうねった。
巨大な水柱が持ち上がる。
「レッド様!」
リアルダが叫ぶ。
「来ます!」
逃げ場はない。
◇
「フンっ!」
重低音が轟いた。
次の瞬間。
俺とリアルダの身体は横へ大きく吹き飛ばされていた。
「うわぁっ!」
「きゃっ!」
巨大な水柱が、さっきまで俺たちが立っていた岩場を粉々に砕く。
……三回目だ。
不思議と慌てなかった。
空中で身体をひねり、着地と同時に受け身を取る。
リアルダも端末を抱えたまま、滑るように着地する。
◇
リアルダは周囲を見回した。
岩肌。
鍾乳石。
地下湖。
そして、グラン閣下とミズチを結ぶ一直線。
端末へ映る幾重もの反響線が、一つに収束する。
リアルダは小さく微笑んだ。
「見つけました。」
「何を?」
俺が聞いても、リアルダは答えない。
ただ静かに、グラン閣下の背中を見つめていた。
その横顔に、迷いはもうなかった。
洞窟の奥で、再び重低音が響く。
その一音は、まるで部下へ道を示す号令のように、秋芳洞へ静かに響き渡った。
第88話『みんなで』
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