第87話『届く場所』

第87話『届く場所』


鍾乳洞のあちこちから、乾いた音が響く。

遊撃隊による試射。

一本。

また一本。

岩肌へ当たった音は、幾重にも反響し、地下湖を渡って消えていく。



「右翼、第四測定点ですわ。」

カンタービレ軍曹の声が通信へ流れる。

「アクセント。」

『反響、大きいっス!』

「スタッカート。」

『左側、異常なしっス!』

「ペザンテ。」

『……中央、異常なし。』

「ブリランテ。」

『上段、良好です!』

反対側からも報告が続く。

「ソステヌート。」

『第一測定点、完了。』

「レガート。」

『第二測定点、異常ありません。』

「エネルジコ。」

『第三測定点、終了!』

「ドルチェ。」

『第四測定点、終わりました~。』

「グラヴィオーソ。」

『狙撃位置、確保。』

十二人が鍾乳洞全体へ散開し、音を刻んでいく。

カンタービレ軍曹は冷静に采配を振るう。

リアルダは一言も発しない。

端末へ映る数値だけを見つめていた。



グラン閣下とミズチの攻防は続く。

地下湖の水が槍となり襲い掛かる。

「フンっ!」

重低音が秋芳洞を震わせる。

水槍は砕け散る。

だが次の瞬間。

岩壁が唸りを上げた。

鍾乳石が震え、水滴が舞う。

秋芳洞そのものが、ミズチの力だった。



「閣下!」

思わず声が漏れる。

グラン閣下が、ほんの半歩だけ押し返される。

ミズチは静かに笑った。

「相変わらず口数の少ない女じゃの。」

「昔から、答えは音で返してきおる。」

グラン閣下は答えない。

「フンっ。」

短い重低音だけが洞窟へ響く。



リアルダは端末を見つめたまま、小さく首を振る。

「違います……。」

「ここでもありません。」

その時だった。

グラン閣下が、ほんの半歩だけ踏み込む。

ミズチも自然と、その位置を追う。

リアルダの目が大きく見開かれた。

「……そういうことですか。」

端末へ一本の反響線が浮かび上がる。

「最初から……。」

「ここへ誘導していたんですね。」

俺には、まだ何のことか分からなかった。



その時だった。

ミズチがゆっくりと俺へ顔を向ける。

「坊や。」

「お前も音術師じゃったな。」

嫌な予感が走る。

地下湖が大きくうねった。

巨大な水柱が持ち上がる。

「レッド様!」

リアルダが叫ぶ。

「来ます!」

逃げ場はない。



「フンっ!」

重低音が轟いた。

次の瞬間。

俺とリアルダの身体は横へ大きく吹き飛ばされていた。

「うわぁっ!」

「きゃっ!」

巨大な水柱が、さっきまで俺たちが立っていた岩場を粉々に砕く。

……三回目だ。

不思議と慌てなかった。

空中で身体をひねり、着地と同時に受け身を取る。

リアルダも端末を抱えたまま、滑るように着地する。



リアルダは周囲を見回した。

岩肌。

鍾乳石。

地下湖。

そして、グラン閣下とミズチを結ぶ一直線。

端末へ映る幾重もの反響線が、一つに収束する。

リアルダは小さく微笑んだ。

「見つけました。」

「何を?」

俺が聞いても、リアルダは答えない。

ただ静かに、グラン閣下の背中を見つめていた。

その横顔に、迷いはもうなかった。

洞窟の奥で、再び重低音が響く。

その一音は、まるで部下へ道を示す号令のように、秋芳洞へ静かに響き渡った。


第88話『みんなで』
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2026年07月15日