第124話『昔話』
第124話『昔話』
「音響戦に。」
「お詳しいですのね。」
ドルチェの言葉に。
ラリサが。
小さく笑った。
「古い戦史が。」
「好きなのですけれど。」
「今の戦い方にも。」
「興味がありますの。」
そして。
少しだけ。
グラスを傾ける。
「それに。」
「うちのお店には。」
「軍人さんも。」
「よくいらっしゃいますから。」
「お話を聞いているうちに。」
「少しだけ。」
「詳しくなりましたの。」
「なるほど。」
ドルチェが。
微笑んだ。
◇
「では。」
ラリサが。
グラスを置く。
「少し。」
「昔話でも。」
「いたしましょうか。」
俺たちは。
自然と。
ラリサを見る。
「私。」
「生まれは。」
「ギリシャですの。」
「ギリシャ?」
タケハラが。
少し身を乗り出す。
「ええ。」
「昔から。」
「神話や。」
「古い戦史が。」
「好きでした。」
◇
「でも。」
ラリサは。
静かに続ける。
「勝った。」
「負けた。」
「何人倒した。」
「そういうことには。」
「あまり。」
「興味がありませんの。」
リアルダが。
尋ねる。
「では。」
「何に?」
ラリサは。
少しだけ考えた。
「どうして。」
「人は。」
「その場所に立ったのか。」
「……。」
「それを。」
「考えるのが。」
「好きなのですわ。」
◇
逃げた人。
残った人。
前へ出た人。
その人が。
なぜ。
そこにいたのか。
俺は。
さっきまでの話を。
少しだけ思い出した。
ラリサは。
俺を見ることなく。
静かに。
グラスを傾けた。
◇
ドルチェが。
微笑む。
「それで。」
「日本へいらしたんですの?」
「あら。」
ラリサが。
少し楽しそうに。
目を細める。
「日本の文化に。」
「興味がありまして。」
「文化?」
「ええ。」
一拍。
「特に。」
「お酒と。」
「食べ物ですわ♪」
「そっちですかー!」
タケハラが笑う。
ラリサも。
「ウフフっ。」
と笑った。
「日本酒。」
「焼酎。」
「お魚。」
「お鍋。」
「季節のお料理。」
指を折りながら。
嬉しそうに数えていく。
「知れば知るほど。」
「奥が深くて。」
「帰る理由を。」
「失ってしまいましたの。」
「それ。」
俺が言う。
「文化研究って。」
「言っていいんですか?」
「立派な。」
「文化研究ですわ。」
即答だった。
◇
「では。」
リアルダが。
今度は尋ねる。
「どうして。」
「益田駅の近くに。」
「バーを?」
「そうですね。」
ラリサは。
少し考える。
「古代戦史が。」
「好きだと。」
「申し上げましたでしょう?」
「はい。」
「本を読めば。」
「戦いの結果は。」
「分かります。」
ラリサが。
指先で。
グラスの縁をなぞる。
「でも。」
「その場所にいた方が。」
「何を考えていたのか。」
「何を怖がって。」
「どうして。」
「そこへ立ったのか。」
「そういうことは。」
「なかなか。」
「本には残りませんもの。」
「……。」
コン・ブリオが。
静かに聞いている。
◇
「益田には。」
ラリサが続ける。
「最前線で。」
「実際に戦ってこられた。」
「軍人さんが。」
「たくさんいらっしゃる。」
「だったら。」
「お酒を飲みながら。」
「生のお話を。」
「聞かせていただける場所を。」
「作ってみようかと。」
「なるほど。」
リアルダが。
素直に頷いた。
タケハラも。
「それなら。」
「バーって。」
「向いてますね。」
「ええ。」
ラリサが。
微笑む。
「皆様。」
「二杯目くらいから。」
「よく。」
「お話しくださいますので。」
「……。」
俺は。
ウチの軍団長の顔が。
頭に浮かんだ。
確かに。
ありそうだ。
◇
ドルチェが。
微笑んだ。
「ラリサさんは。」
「お話しするより。」
「聞くほうが。」
「お好きなんですのね。」
「あら。」
ラリサが。
少し目を細める。
「そう見えます?」
「ええ。」
ドルチェが。
楽しそうに笑う。
「先ほどから。」
「ずっと。」
「皆さんのお話を。」
「楽しそうに。」
「聞いていらっしゃるから。」
「ウフフっ。」
ラリサが。
小さく笑った。
「聞いている方が。」
「面白いことも。」
「多いですもの。」
◇
ラリサは。
グラスを一口。
静かに飲んだ。
日本の文化。
酒と食べ物。
古代戦史。
軍人の話。
どこまでが。
本当なのか。
俺には。
分からない。
でも。
嘘を言っているようにも。
聞こえなかった。
◇
やがて。
ラリサが。
コン・ブリオを見る。
「それで。」
「もう一つだけ。」
「聞いても。」
「よろしい?」
「どうぞ。」
「今日。」
ラリサが。
ゆっくり言う。
「防衛隊中央を。」
「かなり深くまで。」
「下げましたわね。」
「……。」
コン・ブリオの。
笑みが。
少しだけ変わった。
「どうして。」
「そこまで。」
「待ったのです?」
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