第124話『昔話』

第124話『昔話』


「音響戦に。」

「お詳しいですのね。」

ドルチェの言葉に。

ラリサが。

小さく笑った。

「古い戦史が。」

「好きなのですけれど。」

「今の戦い方にも。」

「興味がありますの。」

そして。

少しだけ。

グラスを傾ける。

「それに。」

「うちのお店には。」

「軍人さんも。」

「よくいらっしゃいますから。」

「お話を聞いているうちに。」

「少しだけ。」

「詳しくなりましたの。」

「なるほど。」

ドルチェが。

微笑んだ。



「では。」

ラリサが。

グラスを置く。

「少し。」

「昔話でも。」

「いたしましょうか。」

俺たちは。

自然と。

ラリサを見る。

「私。」

「生まれは。」

「ギリシャですの。」

「ギリシャ?」

タケハラが。

少し身を乗り出す。

「ええ。」

「昔から。」

「神話や。」

「古い戦史が。」

「好きでした。」



「でも。」

ラリサは。

静かに続ける。

「勝った。」

「負けた。」

「何人倒した。」

「そういうことには。」

「あまり。」

「興味がありませんの。」

リアルダが。

尋ねる。

「では。」

「何に?」

ラリサは。

少しだけ考えた。

「どうして。」

「人は。」

「その場所に立ったのか。」

「……。」

「それを。」

「考えるのが。」

「好きなのですわ。」



逃げた人。

残った人。

前へ出た人。

その人が。

なぜ。

そこにいたのか。

俺は。

さっきまでの話を。

少しだけ思い出した。

ラリサは。

俺を見ることなく。

静かに。

グラスを傾けた。



ドルチェが。

微笑む。

「それで。」

「日本へいらしたんですの?」

「あら。」

ラリサが。

少し楽しそうに。

目を細める。

「日本の文化に。」

「興味がありまして。」

「文化?」

「ええ。」

一拍。

「特に。」

「お酒と。」

「食べ物ですわ♪」

「そっちですかー!」

タケハラが笑う。

ラリサも。

「ウフフっ。」

と笑った。

「日本酒。」

「焼酎。」

「お魚。」

「お鍋。」

「季節のお料理。」

指を折りながら。

嬉しそうに数えていく。

「知れば知るほど。」

「奥が深くて。」

「帰る理由を。」

「失ってしまいましたの。」

「それ。」

俺が言う。

「文化研究って。」

「言っていいんですか?」

「立派な。」

「文化研究ですわ。」

即答だった。



「では。」

リアルダが。

今度は尋ねる。

「どうして。」

「益田駅の近くに。」

「バーを?」

「そうですね。」

ラリサは。

少し考える。

「古代戦史が。」

「好きだと。」

「申し上げましたでしょう?」

「はい。」

「本を読めば。」

「戦いの結果は。」

「分かります。」

ラリサが。

指先で。

グラスの縁をなぞる。

「でも。」

「その場所にいた方が。」

「何を考えていたのか。」

「何を怖がって。」

「どうして。」

「そこへ立ったのか。」

「そういうことは。」

「なかなか。」

「本には残りませんもの。」

「……。」

コン・ブリオが。

静かに聞いている。



「益田には。」

ラリサが続ける。

「最前線で。」

「実際に戦ってこられた。」

「軍人さんが。」

「たくさんいらっしゃる。」

「だったら。」

「お酒を飲みながら。」

「生のお話を。」

「聞かせていただける場所を。」

「作ってみようかと。」

「なるほど。」

リアルダが。

素直に頷いた。

タケハラも。

「それなら。」

「バーって。」

「向いてますね。」

「ええ。」

ラリサが。

微笑む。

「皆様。」

「二杯目くらいから。」

「よく。」

「お話しくださいますので。」

「……。」

俺は。

ウチの軍団長の顔が。

頭に浮かんだ。

確かに。

ありそうだ。



ドルチェが。

微笑んだ。

「ラリサさんは。」

「お話しするより。」

「聞くほうが。」

「お好きなんですのね。」

「あら。」

ラリサが。

少し目を細める。

「そう見えます?」

「ええ。」

ドルチェが。

楽しそうに笑う。

「先ほどから。」

「ずっと。」

「皆さんのお話を。」

「楽しそうに。」

「聞いていらっしゃるから。」

「ウフフっ。」

ラリサが。

小さく笑った。

「聞いている方が。」

「面白いことも。」

「多いですもの。」



ラリサは。

グラスを一口。

静かに飲んだ。

日本の文化。

酒と食べ物。

古代戦史。

軍人の話。

どこまでが。

本当なのか。

俺には。

分からない。

でも。

嘘を言っているようにも。

聞こえなかった。



やがて。

ラリサが。

コン・ブリオを見る。

「それで。」

「もう一つだけ。」

「聞いても。」

「よろしい?」

「どうぞ。」

「今日。」

ラリサが。

ゆっくり言う。

「防衛隊中央を。」

「かなり深くまで。」

「下げましたわね。」

「……。」

コン・ブリオの。

笑みが。

少しだけ変わった。

「どうして。」

「そこまで。」

「待ったのです?」


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2026年08月19日