第125話『三ページ目の先』

第125話『三ページ目の先』


「どうして。」

ラリサが。

コン・ブリオを見る。

「そこまで。」

「待ったのです?」

「……。」

コン・ブリオは。

少し考えてから。

答えた。

「まだ。」

「足りなかったからです。」

「足りない?」

「はい。」



「連合軍中央が。」

「深く入っただけでは。」

「まだ。」

「終わらせられません。」

コン・ブリオが。

テーブルを。

指先で軽くなぞる。

「連合軍の両翼から。」

「一部が。」

「連合軍中央へ寄る。」

「そして。」

「連合軍本隊も。」

「連合軍中央へ動く。」

「そこまで。」

「待ちました。」

ラリサが。

小さく頷く。

「なるほど。」



「では。」

ラリサが尋ねる。

「もっと。」

「待つことも。」

「できましたの?」

「できました。」

即答だった。

「でも。」

コン・ブリオの声が。

少しだけ変わる。

「防衛隊中央が。」

「もう限界でした。」

「……。」

俺は。

昼間の戦場を。

思い出した。

押され続けた。

防衛隊中央。

負傷者も。

出ていた。

「作戦のために。」

コン・ブリオが言う。

「味方を壊すわけには。」

「いかないだろ?」

「……。」

ラリサが。

静かに笑った。

「ええ。」



タケハラが。

首を傾げる。

「でも。」

「連合軍の両翼から。」

「中央へ来るって。」

「最初から。」

「分かってたんですか?」

「いや。」

「分からなかったよ。」

「えっ。」

タケハラが。

目を丸くする。

俺も。

コン・ブリオを見る。

「お前。」

「分からなかったのか?」

「うん。」

「古代戦史。」

「三ページ目じゃないのか?」

「三ページ目は。」

「参考にしただけ。」

コン・ブリオが。

いつものように笑う。

「戦場で。」

「昔の戦いを。」

「そのまま再現できるわけ。」

「ないだろ?」

「それは。」

「そうだけど。」



ラリサが。

楽しそうに。

コン・ブリオを見る。

「では。」

「何を。」

「待っていたのです?」

「誰かが。」

「勝ちたくなるのを。」

「……?」

タケハラが。

ますます。

分からない顔になる。

コン・ブリオは。

穏やかに続けた。

「人って。」

「勝ってる時のほうが。」

「前に出たくなるから。」

「……。」

ラリサの目が。

少し細くなった。



「連合軍中央が。」

「勝っているように見えれば。」

「もっと。」

「押したくなる。」

「近くにいる部隊も。」

「手柄を取りたくなる。」

「後ろにいる人も。」

「あと少しだと思えば。」

「前へ出たくなる。」

コン・ブリオが。

グラスへ手を伸ばす。

「だから。」

「そうなるまで。」

「待っただけ。」

「……。」

俺は。

しばらく。

何も言えなかった。

戦場で。

見ていたものが。

俺とは。

全然違う。



ラリサが。

ゆっくり笑う。

「戦場を。」

「動かしたのではなく。」

一拍。

「人を。」

「動かしたんですのね。」

「フフっ。」

コン・ブリオが。

首を横に振る。

「そんな。」

「大袈裟なものではありません。」

「またそれか。」

俺が言うと。

タケハラが。

吹き出した。



ラリサは。

静かに。

グラスを傾けた。

古代戦史。

三ページ目。

でも。

コン・ブリオが見ていたのは。

昔の戦場じゃない。

今日。

そこにいた。

一人一人だった。



しばらくして。

ラリサが。

俺を見る。

また。

目が合いそうになって。

俺は。

CALPISへ逃げる。

「そういえば。」

ラリサが。

穏やかに言った。

「レッドさん。」

「はい。」

「お母様は。」

「どんな音を。」

「奏でる方でしたの?」

「……。」

俺の手が。

止まった。


第126話『母の音』
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2026年08月19日