第125話『三ページ目の先』
第125話『三ページ目の先』
「どうして。」
ラリサが。
コン・ブリオを見る。
「そこまで。」
「待ったのです?」
「……。」
コン・ブリオは。
少し考えてから。
答えた。
「まだ。」
「足りなかったからです。」
「足りない?」
「はい。」
◇
「連合軍中央が。」
「深く入っただけでは。」
「まだ。」
「終わらせられません。」
コン・ブリオが。
テーブルを。
指先で軽くなぞる。
「連合軍の両翼から。」
「一部が。」
「連合軍中央へ寄る。」
「そして。」
「連合軍本隊も。」
「連合軍中央へ動く。」
「そこまで。」
「待ちました。」
ラリサが。
小さく頷く。
「なるほど。」
◇
「では。」
ラリサが尋ねる。
「もっと。」
「待つことも。」
「できましたの?」
「できました。」
即答だった。
「でも。」
コン・ブリオの声が。
少しだけ変わる。
「防衛隊中央が。」
「もう限界でした。」
「……。」
俺は。
昼間の戦場を。
思い出した。
押され続けた。
防衛隊中央。
負傷者も。
出ていた。
「作戦のために。」
コン・ブリオが言う。
「味方を壊すわけには。」
「いかないだろ?」
「……。」
ラリサが。
静かに笑った。
「ええ。」
◇
タケハラが。
首を傾げる。
「でも。」
「連合軍の両翼から。」
「中央へ来るって。」
「最初から。」
「分かってたんですか?」
「いや。」
「分からなかったよ。」
「えっ。」
タケハラが。
目を丸くする。
俺も。
コン・ブリオを見る。
「お前。」
「分からなかったのか?」
「うん。」
「古代戦史。」
「三ページ目じゃないのか?」
「三ページ目は。」
「参考にしただけ。」
コン・ブリオが。
いつものように笑う。
「戦場で。」
「昔の戦いを。」
「そのまま再現できるわけ。」
「ないだろ?」
「それは。」
「そうだけど。」
◇
ラリサが。
楽しそうに。
コン・ブリオを見る。
「では。」
「何を。」
「待っていたのです?」
「誰かが。」
「勝ちたくなるのを。」
「……?」
タケハラが。
ますます。
分からない顔になる。
コン・ブリオは。
穏やかに続けた。
「人って。」
「勝ってる時のほうが。」
「前に出たくなるから。」
「……。」
ラリサの目が。
少し細くなった。
◇
「連合軍中央が。」
「勝っているように見えれば。」
「もっと。」
「押したくなる。」
「近くにいる部隊も。」
「手柄を取りたくなる。」
「後ろにいる人も。」
「あと少しだと思えば。」
「前へ出たくなる。」
コン・ブリオが。
グラスへ手を伸ばす。
「だから。」
「そうなるまで。」
「待っただけ。」
「……。」
俺は。
しばらく。
何も言えなかった。
戦場で。
見ていたものが。
俺とは。
全然違う。
◇
ラリサが。
ゆっくり笑う。
「戦場を。」
「動かしたのではなく。」
一拍。
「人を。」
「動かしたんですのね。」
「フフっ。」
コン・ブリオが。
首を横に振る。
「そんな。」
「大袈裟なものではありません。」
「またそれか。」
俺が言うと。
タケハラが。
吹き出した。
◇
ラリサは。
静かに。
グラスを傾けた。
古代戦史。
三ページ目。
でも。
コン・ブリオが見ていたのは。
昔の戦場じゃない。
今日。
そこにいた。
一人一人だった。
◇
しばらくして。
ラリサが。
俺を見る。
また。
目が合いそうになって。
俺は。
CALPISへ逃げる。
「そういえば。」
ラリサが。
穏やかに言った。
「レッドさん。」
「はい。」
「お母様は。」
「どんな音を。」
「奏でる方でしたの?」
「……。」
俺の手が。
止まった。
第126話『母の音』
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