第126話『母の音』
第126話『母の音』
「お母様は。」
ラリサが。
俺を見る。
「どんな音を。」
「奏でる方でしたの?」
「……。」
俺の手が。
止まった。
「母さんの音?」
「ええ。」
少し考える。
でも。
俺には。
うまく説明できそうになかった。
「コン・ブリオに。」
「聞いた方が早いです。」
「俺より。」
「よく知ってるから。」
「レッド。」
コン・ブリオが。
少し困ったように笑った。
「本当だろ。」
「まあ。」
ラリサが。
コン・ブリオを見る。
「では。」
「お願いいたしますわ。」
◇
コン・ブリオは。
少しだけ。
黙った。
それから。
静かに口を開く。
「マルカート。」
「一音一音の。」
「輪郭が。」
「はっきりしていました。」
「正確で。」
「どこまでも届く。」
その声が。
少しだけ。
柔らかくなる。
「それなのに。」
「温かい音でした。」
「……。」
俺は。
黙って聞いていた。
母さんの演奏を。
俺は。
何度も聞いたことがある。
でも。
そんなふうに。
考えたことはなかった。
「そう。」
ラリサが。
小さく微笑む。
「温かい音。」
◇
ラリサは。
しばらく。
俺を見る。
目が合いそうになって。
俺は。
グラスへ視線を落とした。
「レッドさんの音も。」
「少し。」
「似ていますわね。」
「俺の?」
「ええ。」
「輪郭が。」
「はっきりしていて。」
「遠くまで届く。」
「そして。」
一拍。
「温かい。」
「……。」
俺は。
少し考える。
「親子だからじゃないですか?」
「……。」
ラリサが。
一瞬。
黙った。
タケハラも。
リアルダも。
コン・ブリオを見る。
コン・ブリオは。
ほんの少しだけ。
目を伏せた。
「違うよ。」
「ん?」
コン・ブリオが。
俺を見る。
「別の音だよ。」
「スカーレット様と。」
「レッドは。」
「別人だから。」
「……。」
「そりゃ。」
「そうだろ。」
当たり前のことを。
言われた気がした。
ラリサが。
そのやり取りを見て。
静かに。
笑った。
◇
「でも。」
ラリサが。
俺へ尋ねる。
「レッドさんにとって。」
「スカーレット様は。」
「どんな方でしたの?」
「……。」
また。
その質問か。
少し前なら。
答えるのに。
困ったかもしれない。
でも。
今日は。
もう。
一度。
口にしている。
「俺には。」
「ただの。」
「母さんですよ。」
「……。」
ラリサが。
ゆっくり。
目を細めた。
「そう。」
「それが。」
「一番。」
「素敵ですわね。」
◇
しばらくして。
ラリサが。
時計を見る。
「あら。」
「ずいぶん。」
「長居してしまいましたわ。」
「もう帰るんですか?」
タケハラが。
少し残念そうに言う。
「ええ。」
「明日も。」
「お店がありますので。」
ラリサは。
席を立った。
「今日は。」
「面白いお話を。」
「ありがとうございました。」
コン・ブリオも。
立ち上がる。
「こちらこそ。」
「子どもたちのこと。」
「本当に。」
「ありがとうございました。」
「ウフフっ。」
ラリサが。
小さく笑う。
「成り行きですわ。」
「またそれか。」
俺が言うと。
コン・ブリオが。
「ふふっ。」
と笑った。
◇
ラリサは。
俺たちへ。
軽く会釈する。
「また。」
「益田で。」
「会えるかもしれませんわね。」
コン・ブリオが。
微笑む。
「次は。」
「バー・レギオンで。」
「あら。」
ラリサも。
笑った。
「ウフフっ。」
「お待ちしておりますわ。」
そして。
静かに。
店を出ていった。
◇
俺たちも。
少し遅れて。
ホテルへ戻ることになった。
夜の広島を。
リアルダと。
ドルチェが。
少し前を歩く。
その後ろを。
タケハラ。
そして。
俺と。
コン・ブリオ。
しばらく。
誰も。
何も言わなかった。
「なあ。」
俺は。
隣を歩く。
コン・ブリオを見る。
「何?」
「母さんの音。」
「そんなに。」
「良かったのか?」
「……。」
コン・ブリオが。
少しだけ。
遠くを見る。
「魂が。」
「震えたよ。」
「大袈裟な奴だな。」
「ふふっ。」
昔から。
こいつは。
そうだった。
◇
俺は。
益田へ帰る。
逃げてきた場所ではなく。
俺が。
帰る場所へ。
第127話『市街地対人訓練♪』
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