第126話『母の音』

第126話『母の音』


「お母様は。」

ラリサが。

俺を見る。

「どんな音を。」

「奏でる方でしたの?」

「……。」

俺の手が。

止まった。

「母さんの音?」

「ええ。」

少し考える。

でも。

俺には。

うまく説明できそうになかった。

「コン・ブリオに。」

「聞いた方が早いです。」

「俺より。」

「よく知ってるから。」

「レッド。」

コン・ブリオが。

少し困ったように笑った。

「本当だろ。」

「まあ。」

ラリサが。

コン・ブリオを見る。

「では。」

「お願いいたしますわ。」



コン・ブリオは。

少しだけ。

黙った。

それから。

静かに口を開く。

「マルカート。」

「一音一音の。」

「輪郭が。」

「はっきりしていました。」

「正確で。」

「どこまでも届く。」

その声が。

少しだけ。

柔らかくなる。

「それなのに。」

「温かい音でした。」

「……。」

俺は。

黙って聞いていた。

母さんの演奏を。

俺は。

何度も聞いたことがある。

でも。

そんなふうに。

考えたことはなかった。

「そう。」

ラリサが。

小さく微笑む。

「温かい音。」



ラリサは。

しばらく。

俺を見る。

目が合いそうになって。

俺は。

グラスへ視線を落とした。

「レッドさんの音も。」

「少し。」

「似ていますわね。」

「俺の?」

「ええ。」

「輪郭が。」

「はっきりしていて。」

「遠くまで届く。」

「そして。」

一拍。

「温かい。」

「……。」

俺は。

少し考える。

「親子だからじゃないですか?」

「……。」

ラリサが。

一瞬。

黙った。

タケハラも。

リアルダも。

コン・ブリオを見る。

コン・ブリオは。

ほんの少しだけ。

目を伏せた。

「違うよ。」

「ん?」

コン・ブリオが。

俺を見る。

「別の音だよ。」

「スカーレット様と。」

「レッドは。」

「別人だから。」

「……。」

「そりゃ。」

「そうだろ。」

当たり前のことを。

言われた気がした。

ラリサが。

そのやり取りを見て。

静かに。

笑った。



「でも。」

ラリサが。

俺へ尋ねる。

「レッドさんにとって。」

「スカーレット様は。」

「どんな方でしたの?」

「……。」

また。

その質問か。

少し前なら。

答えるのに。

困ったかもしれない。

でも。

今日は。

もう。

一度。

口にしている。

「俺には。」

「ただの。」

「母さんですよ。」

「……。」

ラリサが。

ゆっくり。

目を細めた。

「そう。」

「それが。」

「一番。」

「素敵ですわね。」



しばらくして。

ラリサが。

時計を見る。

「あら。」

「ずいぶん。」

「長居してしまいましたわ。」

「もう帰るんですか?」

タケハラが。

少し残念そうに言う。

「ええ。」

「明日も。」

「お店がありますので。」

ラリサは。

席を立った。

「今日は。」

「面白いお話を。」

「ありがとうございました。」

コン・ブリオも。

立ち上がる。

「こちらこそ。」

「子どもたちのこと。」

「本当に。」

「ありがとうございました。」

「ウフフっ。」

ラリサが。

小さく笑う。

「成り行きですわ。」

「またそれか。」

俺が言うと。

コン・ブリオが。

「ふふっ。」

と笑った。



ラリサは。

俺たちへ。

軽く会釈する。

「また。」

「益田で。」

「会えるかもしれませんわね。」

コン・ブリオが。

微笑む。

「次は。」

「バー・レギオンで。」

「あら。」

ラリサも。

笑った。

「ウフフっ。」

「お待ちしておりますわ。」

そして。

静かに。

店を出ていった。



俺たちも。

少し遅れて。

ホテルへ戻ることになった。

夜の広島を。

リアルダと。

ドルチェが。

少し前を歩く。

その後ろを。

タケハラ。

そして。

俺と。

コン・ブリオ。

しばらく。

誰も。

何も言わなかった。

「なあ。」

俺は。

隣を歩く。

コン・ブリオを見る。

「何?」

「母さんの音。」

「そんなに。」

「良かったのか?」

「……。」

コン・ブリオが。

少しだけ。

遠くを見る。

「魂が。」

「震えたよ。」

「大袈裟な奴だな。」

「ふふっ。」

昔から。

こいつは。

そうだった。



俺は。

益田へ帰る。

逃げてきた場所ではなく。

俺が。

帰る場所へ。


第127話『市街地対人訓練♪』
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2026年08月19日